モーベルムの一画に、よく秘密会議に使われる酒場がある。
元はかつてロンギット海が武装商船団一強だった時代から、彼らが後ろ暗い会話をするのによく使われていた酒場であるが、今では色々拡大して普通に質のいい酒と料理を提供するレストランとなっている。
これはロンギット通商連合が出来てから新規参入も増え、情報も増え、接待も増えた市場に合わせて酒場側がいろいろ拡大した結果だった。
秘密厳守、客の詮索はせず、高級な酒と料理と個室を提供する。
なんなら意図しない客同士での顔合わせを避けるため出入り口すら複数用意され、完璧に管理された高級店である。
商談などでここに連れて行くと結構ステータスにされる、そんな店。
――とはいえ、流石に250万クラウンを前にしたらはした金も良い所ではあるが。
「ふむ……100万クラウンもあれば十分かな?」
「桁一つ下げてください。どんなぼったくりですか」
この会のスポンサーは、ドヤ顔で
ひどく場違いなところに連れて来られた感のあるとある有翼人の少女は、思いっきりそわそわしながら「右がないふ、左がふぉーく、音は立てずに静かに食べる……」と上の空になりながら居心地悪そうに身じろぎしている。
その装いは流石に配慮されたのか、質の良さそうなオーダーメイドの黒いスーツだった。
翼の部分もちゃんと空いていて、なんだかフォーマルさの中におしゃれが見える。
ちなみに、この店のドレスコードはスマートカジュアル*1である。
多少緩めの店とは言え、本来の羽毛ビキニは以ての外であった*2。
そしてまた一組。
同じくとても居心地が悪そうに肩を縮めながらそわそわ歩く小物と、いつも通り道服然*3とした格好の男が入室してくるのだ。
少女はぱっと顔を明るくして声を上げた。
「――クジンシーさん!本当に無事だったんですね!!」
「あ、はい、その……ボロ出そうなんでジークでお願いします」
居心地悪そうな彼の隣でコウメイが苦笑していた。
左手の籠手は白く長い手袋が被せられ、左目の仮面はもうどうしようもないのでそのまま。
紺系のスーツと白いシャツだがネクタイは締めていない。
いつもとは違った印象を受ける装いではあるが、いかんせん雰囲気がいつも通りだった。
それと、道服を着ているコウメイと並ぶととても違和感が強い。
「言っただろう?ちゃんと脱出していたと。
改めて、久しいなクジンシー……いや、ジークの方が良いか。レースは残念だったが」
「あ、うん、久しぶりワグナス。レースではマジでびっくりしたよ……」
「出来るなら、お前たちと第9STAGEを競い合いたかったよ。GOALまでは私たちの独走状態だったのでな」
とはいえ、タイムボーナスの大半を取られていたから計算上は結構接戦だったがと肩を竦めるワグナス。
「ワグナス様ったら吹っ飛んで行く車を見て、レースに戻る事を即座に選んだんですよ?
冷静って言うか冷たいって言うか、らしくないなぁーって思ってたんですけど……脱出してたし助けも来てる、って言って」
「え……
「
手放しで称賛するワグナスの言葉に、居心地悪く口をむにむにする当人である。
――第6STAGEモーベルムへの道中。
どこかの誰かのやらかしにより空に登る流星と化したナハトズィーガーの中から、クジンシーはコウメイを守るため躊躇いなく開放体の札を切ったのだ。
コウメイを潰さないように空間を作りながら、開放体の巨体で強引に運転席を破壊しドアをこじ開け、せめて周りからは見られないように『霧隠れ』を掛けつつコウメイを抱えて海に脱出したのである。
ワグナスが見たのはその脱出によって不自然に上がった……かつ『霧隠れ』でぼやけた水柱と、そしてそこに向かって移動していた
「……スービエは来てないのか?」
その助けただろう当人の姿が見えないのを訝しむワグナス。
今度はクジンシーが肩を竦めた。
「呼んだんだけどさ。レースに関係ないからって笑って辞退された。
なんか、他におもしれーもん見つけつつあるって言ってて、そっちに夢中みたくて*4。
ジャストタイミングで助けてくれたのも、たまたま近海にいたからだったみたいで。
いやー運が良かったわ」
「何?……それはしまった。私の方は
やっちゃった、みたいな顔をしたワグナスだったが、その言葉の意味する所が解らなかった。
多少話が途切れたのを見計らって、コウメイが温和に歩み出る。
「――改めまして、コウメイと申します。お噂はかねがね。
……しかしジークさんを見て『そう』なるだろうとは分かっていましたが、実際は男性の方だったとは」
人間形態への変体の事を指している。
……が、姿形に見る影もないモンスター然としていたクジンシーはともかく、ワグナスの場合はちゃんと人の上半身をしていたのだ。
人間形態もそれに準拠するものだと思っていたが。
「ははは、無理もない。なにを隠そう、最初
そりゃそーだろうよ、とクジンシーが呟いた。
主張の控えめなストライプの入ったおしゃれなスーツを着こなして、ボクオーンが口を開く。
「あなたの事はジークから手紙で伺っていました。あいにく返す暇がありませんでしたが……テミウスと申します、どうぞよろしく。
腐らず、長く発展していく理想的な『国』のデザイン……あなたの研究テーマに非常に興味があります」
「いやあ、ハハハ。お恥ずかしい……未だ資料を集めている段階で、方向性もまだ霧の中なのです」
今を邁進中のリーブラのトップが自分の研究テーマに注目しているとあって、コウメイは少し気恥ずかしくなりながら謙遜する。
「今は『共和制』に可能性を見出しているとか……?」
「いえ、可能性があるか探っている段階です……ちょっと見切り掛けてはいますがね。あれは多数決を大義に使った劇薬ですよ。劇薬なりに使えるかどうか探ってはいますが、いやはや何とも……」
「やはり、そう簡単には行きませんか」
「残念ながら。……世の中皆、ジークさんみたいな人だけだったらずいぶん簡単だったのでしょうけどねえ……」
「それは全くその通りで」
「あの、いきなり人をダシにしないでくれますか……」
なんだか、とても意気投合していた。
「―― しかし、少し早く揃い過ぎてしまったでしょうか?残り二人が間に合ってませんね」
「えあ?他にも来るのか?……ああ、リーブラの主要陣とかそう言う感じ?」
人数揃ってるよな、と指差し数えながらクジンシーが言う。
「いえ、そうではなく……」
『噂をすれば影』とは良く言ったもので、ちょうどその時だった。
「……おお、もう揃って……居るのか?メンツが二人足りないようだが」
「代わりに知らない顔が二人いるわね……まさかのメンバー交代??
対象があの二人だと普通にあり得そうで怖いのだけど」
「やめてあげような?」
細マッチョな体をスーツに押し込んでネクタイを締めた偉丈夫と、ウェーブの掛かった髪をなびかせブルーのワンピースドレスを纏った美女のコンビがウェイターに案内されて入って来た。
クジンシーが声を裏返すぐらいビックリして叫ぶ。
「ノッ……―――~~~~ッッッ、なんでここに居んの!?!?*5」
@ @ @
―― 相棒のジークは、七英雄のクジンシーであり、モンスターに変身できる。
……突拍子のない真実群をいきなり怒涛の如くぶち込まれたコウメイはしかし、ジークが七
ちょっと庶民が過ぎる部分はあれど、驕らず、腐らず、威張らず、飾らず、そして『人間』として誇り高い。
そんな人を隣で見て来たのであれば、納得のひとつもすると云うものだ。
―― あの時。
ナハトズィーガーが吹っ飛んだあの時。
自分は、何一つ反応できなかったのだ。
防御術で身を守る事も、攻撃術で脱出経路を作る事も、何一つ出来なかったのだ。
気が付けば術法の霧によって屈折した視界の中で、人の姿でなくなった彼に身を預けながら、ロンギット海に浮かんでいた。
……いや、そのまま沈み始めてもいた。
霧がじわじわとほどけて行き、彼の体も沈んで行き、そんな状態で寄ってくる、大きな触手を携えた男の姿を見た。
「―― ほう」
「意識が切れかけても。正体がバレてしまっても」
「なお、助ける事を選ぶのか」
「……相変わらずだよ、お前は」
のちにそれが七英雄の一人に名を連ねる『スービエ』だと判ったから良かったものの、その時の状況から鑑みれば、それは最大に警戒すべきモンスターであるはずだった。
しかし、混乱状態で状況の把握も困難だったとはいえ、今まさに力尽きようとしているジークを脇に、自分は彼を守るような動きを何一つ取れなかったのである。
そのジークはまさに今、自分の為に沈みゆこうとしている最中にあってなお、だ。
ジークの、七英雄の本性がモンスターかどうかなんて言うのは全く些細な事だ。
ただ一つ、自分を助けてくれたジークの為に自分は動けなかったというその一点のみがずっと心に刺さり続けているトゲだ。
「―― では、全員揃ったようですのでボチボチ始めましょうか。
チーム『チカパの風』優勝と、全員ではありませんが我々の再会を祝して」
「「「「「「「乾杯」」」」」」
―― 壮観だった。
皆、明らかに面構えが違う。
きっと誰もが、同じ状況になった時に何の抵抗もなく『動ける』人たちなのだろう。
このトゲの事は、せめて表に出してはいけないと強く思う。
特に……ジークに知られるのだけは。
「ええと……一応確認するまでも無いとは思うけれど。この二人は『知っている』人と見て良いのよね?」
「はい、普通に話して頂いて問題ありませんよ」
「―― 改めまして、コウメイと申します。ジークさん……クジンシーさんとは仲良くさせて頂いています。今回の事も含め、彼には何度か命を救われておりますれば……彼を裏切るつもりはありませんので、この場の事は墓まで持って行かせて頂きます」
東の作法ではあるものの、理解はなくともこう云うものは『礼』をしていると伝わるものだ。
……と、思っていたが。
「ふうん……それ、東の方にあった装いね。仕草も確かそうだったはず。あっちの方は独特の雰囲気を持った文化が多いのよね」
ロックブーケと紹介されたその女性から、既知とも取れるような発言が飛び出して少し驚いた。
「―― ロックブーケたちは、東に居たのか?」
「ええ、サラマットやメルー砂漠辺りの調査が中心だったかしら。だからワグナス様とはたまに連絡は取っていたの。まあ、基本的にはノエルお兄様と行動する事が多かったかしらね」
「レースの存在は知っていたが、活動圏から微妙に離れていたのもあってあまり興味は無かったんだ。武術大会とかだったらまだ違ったんだが。
……後でお前とワグナスが参加してたと知った時の衝撃わかるか?しかも開放体でコンテナ運んで優勝したって??」
「たぶん、その種の衝撃一番強かったの、破産覚悟で開催したら何故かメンバー二人釣れたのを目の当たりにしたテミウスだと思う」
「良く分かってるじゃないですか」
『自分の隣にいた人が七英雄でした』と『おっぱい人面鳥も七英雄でした』が教授のやらかしの後にズドンされた自分の衝撃も絶対負けてないだろうなとは思ったのだが、そこは口をつぐんで置く事にする。
「……と言うか、今回一番期待していた最先端の輸送技術。その一つの解をあなたが持ってきたことも衝撃の一要因でしたね。あの車はまさかあなた方が開発したのですか?
……そう言えば、『大大大天才教授』はメンバー3人でしたか。残りの一人が教授?」
「ええ、まあ……根幹は教授が温めていた技術です」
「いいや、コウメイの設計も入ってもはや別物だねアレは!!
魔導エンジンのリミッター、クラッチシステムに安全フレーム、天術ライト!枚挙に暇がないぞマジで!コウメイが居なかったら一体俺は何回死んでいたのか分からないぞ!?」
「いやー、私の命も掛かってましたから……人間必死になれば畑違いの場所でもなんとかなる物ですねぇ……」
思わず遠い目をした先で繰り返される、数々の走馬灯。
大抵はジークの隣で出力暴走を起こすエンジンの様相に悲鳴をあげ、泣きながら防御術を編んでいた記憶ばかりではあったが。
ホント、なぜ今生きて居られているのか不思議で仕方ない。
隣を見れば、ジークも同じく目のハイライトを消して
「あの車は、リーブラと比べてさえなお次元が違うレベルで図抜けていました。
私たちの事をカミングアウトするかはともかく、技術的な部分についてはぜひともその教授さんともお話してみたい所ではあるんですよね」
「早まるな!?なんでそんな死に急ぐようなマネをするんだ!?」
「落ち着いて考え直しましょう。あなたには、リーブラには、まだ未来とそれを担う責任がある。
……そうでしょう?」
「ええ……?なんなんですかその反応は」
好奇心で押されようとした自爆スイッチはインターセプトしなければならない。
それが『まともな人』ならば必死になって当然だった。
―― 本当に、今日の事は墓まで持って行かなくてはと強く思う。
技術力も金もある彼とのパイプが教授に知られたら、なにが起こるか分かった物では無かった。
スゲエや、全然書けなくなってる……
しばらくは話としてのまとまりがぽろぽろ崩れるかも。
ホントはコチコチになったウィンディが必死になりながら高級飯を食べるけど、気疲れするとこも多くてあまり好きになれなかったり、そんな中事前に好物と聞いていたボクオーンの計らいでカミキリムシの幼虫がおしゃれなバターソテーみたいな感じで出てきてあまりのおいしさにドハマリしたり、それ見て他のメンツがなんかほっこりしたりと言ったシーンが浮かんでたんだけど、なんか書けなかったよ……各位脳内補完しといてください。
後々必要な情報の共有もこの場で行われるんだけど、会話の流れ作るのツラかったのでそれは回想で対応するか。
ちなみにこのレストランの前身は、原作にて武装商船団が皇帝陛下に踏み込まれたあそこをイメージしてます。
SFCだとどっかの倉庫にテーブル置いて使ってたみたいな場所だったけど、リベサガだと結構整ってたよね、確か。
ニコニコ常連のおやつさんの動画で、人間形態ワグナスがクリムゾンフレア使えた事を知る。
コウメイのフラッシュファイアやクリムゾンフレアを見て「現代の術は進化してるんだな」みたいなシチュを書きたかったが無理があるか……?