傭兵ダンターグ。
信じられないが、ノエルと同等以上の実力を持つ流れの傭兵だと言う。
騎兵用の、つまり騎馬に乗って使う用の武器であるハズの
いかつい顔の大男。常に戦いに身を置き、強さを得るのを至高とする。
法律家ボクオーン。
ワグナスの知人であり、軍事計略のアドバイザーとして敏腕を振るっているそうな。
……法律家? 軍師じゃなくて??
術法にも明るいらしい。こっちも意味の解らない奴だ。
しかも理屈捏ねるポジションの割には随分若く見える男である。すでに同化の法を使ってたりするのだろうか。
彼らも『吸収の法』に手を出す、言うならばお仲間であるそうな。
「あなたが、自ら『吸収の法』の検体を名乗り出たという平民ですか」
「……クジンシーだ」
上流階級特有の上から目線。
初対面ながら値踏みしてくるようなそれは当然ながらあまり気持ちの良いものではないが。
「実戦の経験は?」
「……まだだよ」
「ならば、タームを見た事も無いという訳ですか」
「いや……討伐隊に入る前に一度襲われて。運もあったけど、岩で殴り殺した」
そう言えば、「ほう」と目を見開いて感嘆を漏らした。
ワグナスやノエルも、驚いたようにこっちを見てくる……そう言えば、言ったこと無かったんだっけ?
ダンターグが俺を三度見してる。
「――それが本当なら、立ち竦んで使えないなどと、目を覆うような無様を晒す事は無さそうですね。ちなみにタームの牙は持ち帰りましたか?」
なぜかいきなり素材的な話を振られたので、思わず「えっ」と声を上げてしまった。
「いや……アイツら死体残るのか? なんか……なんと言うか……紫で、消えちまったけど。ああいや、なんて言えば良いんだアレは?」
「いえ結構、どうやら本当に嘘を言っていないようだ。後は実際の働きを見せて貰いますよ」
どうやら引っかけられていたらしい。
この時のやり取りが一つの指針になったのだろうか。
ボクオーンもダンターグも、とりあえず俺がここにいる事に文句はないようだった。
王城の奴らのように陰湿な真似はしてこない。
ボクオーンは嫌味で嫌な奴で、ダンターグは話してると暴力ですべてを解決しそうなゴリラだったけど、少なくとも王城のあいつらの様に会話する度にマウント取られて嘲笑してくるような事はしなかった。
だから、普通に会話はあったりする。
「――再確認です。今回の目標は地形把握でも、クイーン討伐でもありません。前線に立つタームそのものです。
判明しているタームの巣穴を一か所除いて瓦礫ですべて塞ぎ、逃げ道を一つに限定します。我々は残る巣穴に突入し、縦列で出てこざるを得ないタームを順に討滅していきます。これにより敵の数を消耗させ、さらに巣全体の戦力規模を推し量る訳です。さすればクイーンに近づくための糸口も見えてくるでしょう」
「……わかるけど、僅か6人でこれをやるのホント狂ってるよな。……どうしたって消耗戦になると思うんだけど、ヒーラー大丈夫なのか?」
「クジンシー。お前とダンターグ以外、全員回復術持ちだ」
「ええっ、スービエもか!?」
「なんだ、文句でもあるのか。回復してやらんぞ?」
「回復術なぞ別に要らんだろう。みんなおやつにしちまえば良いじゃねえか。力も上がって一石二鳥だ」
「……ダンターグ、『吸収の法』はもっと慎重に用いるべきです。パカパカ無策で使おうとしているのを見ると本当に頭が痛くなってくる。……いったい誰ですか、おやつなどという単語を使い始めた莫迦は!?」
「お、俺のせいか!? いや、そもそも俺ノエルとワグナス以外とはあまり絡んでないんだぞ!? 俺が最初だとしても、そんなに広まる訳ないだろ!?」
「……。ああたしかにそうだな、ふしぎだな」
「そうだな、ほんとそれな」
「――おい待てよ、マヌケが見つかってないか!?」
タームの巣穴に向かう道中だった。
初陣にしてはずいぶんヘビーな作戦だったけれど、そのあたりはもうどうしようもないし文句も無い。
そして楽観かも知れないけれど、あまり不安も無かった。それだけの人間が今ここに集まっているのだから。
作戦からズレる事はあっても、このメンツで歯が立たないような状況になるならもうどこで何やっても終わりだろう。
「――お兄様!」
……まさか、作戦が始まる前にズレる事態になるとは全然考えていなかったけども。
@ @ @
抜き身の剣を抱えて飛び出して来たのは、10代後半と思えるようなロングヘア―の女の子だった。
ロックブーケ。ノエルの妹。
そんなのがいるって言うのは初めて聞いた。
王城の連中からも聞いたことは無かった気がするから、たぶん役職を持って王城で働いてる訳じゃないと思う。
……てことはマジで見た目通りの子供か?
役に立って見せる、自分も連れて行って欲しいと懇願するロックブーケにノエルは狼狽していた。
ボクオーンが焦ったように日の傾きを確認する。
作戦予定時刻が迫ってた。
この作戦は他の巣穴の封鎖と連携して行われる。その関係上、主要となる俺たちが遅れる訳にはいかない。
タイミングがズレてタームに時間を与えれば、埋めた筈の瓦礫を撤去されて作戦がパアだ。
「……お前を連れて行く事は出来ない」
「お兄様!?」
「話したはずだ。我らは『同化の法』を超えた、禁忌の呪法を用いた。
……今はまだ、肉体に変化は現れていない。だがいずれ、吸収したモンスターの影響は現れる。我らは皆、異形の姿に変わる。姿だけではない……おそらく、心も蝕まれて行く筈だ。その先に何が待ち受けているのかは誰にもわからない。
妹であるお前を……道ならぬ道に連れて行く事はできない」
そこらへんを開き直ってタームをおやつと呼んでいた辺りは当然話さない。
ただ……結構話してたんだなノエル。
まあ、当たり前か。
自分が心まで異形に変わるかもしれない訳で。妹さんを大事に思うなら、遠ざけたいと思うのは理解できる。
私は邪魔なのかと縋りつく姿を俯瞰して眺めながら、しかしこの兄妹ホント顔整ってるよなと場違いに思ったりする。
俺達についてくるという事は、『吸収の法』を使うと言う事だ。
吸収の法を使うという事は、ノエルの言う通りそのうち異形になるリスクを孕むという事だ。
……こんな女の子が異形に変わってしまう可能性を思えば、兄でなくともそりゃあ止めるだろうなあとしげしげ顔を眺める。
その視線に気付いたのか、ロックブーケと目が合った。そしてたちまちその表情が怒りに染まり、剣を振りかぶって俺に襲い掛かって来る。
「、ハ!? ちょっっ、ハアッッ!!?」
咄嗟に剣で受け止める。
細腕の癖に鍛錬はしていたのか、その剣筋は意外なほど膂力があった。
「私の力をお疑いなら! 今この場で示して見せますっ!!」
「フッッッザケんなお前、そういう話じゃなかっただろうが!! ノエルはアンタの身を案じて、」
「黙れ!!! 俗物がお兄様を語るな!!!」
「う、ゲッ」
腹に強烈な蹴りを受けて、俺は数歩後ずさる。
――なんだコイツ、頭おかしいのか!?
ホントのホンキに俺を斬る気で仕掛けて来てやがる。
ガキの癇癪だってもうちょっとマシだぞ!?
「ロックブーケ!!」
「お兄様!! 私はこの俗物よりも使えるのだと証明いたします!! そうしたら、私を連れて行ってください!!」
「通るワケねえだろうがフザケんなあああああ!!! そもそもお前、既に重大な作戦妨害やってんだぞ!!?」
「口を閉じろ!! 私はお兄様と話をしてるのよ!!」
――こいつ、ダメだ。
ノエルの妹だけど、ノエルとは違って『人間じゃない』側のやつだ。
自分の我儘を通すこと以外の選択肢を排除してる奴だ。
「……ワグナス。クジンシーの言う通りです。これ以上はもう本当にまずい」
「俺はどっちでも良い。やる事は変わらんからな……先行くぜ」
ボクオーンとダンターグは強引にでも切り上げる事を選んだ。
「……ワグナス。俺は、彼女の覚悟も捨てた物ではないと思うがな」
歩を進め始める二人にスービエが続く。
「ノエル……私は君の意見を尊重する」
ワグナスとしても、方針はもう決まっていたようだ。
俺は努めて腹の中にあるイライラした物を鎮めると、スービエの後を追うように足を向けた。
「ノエル。俺も、あんたの決断に従うよ。そもそもメンバーに口出せる立場じゃないのは自覚してるしな。
ただ、個人的な事を言わせて貰えるなら――
――おれはその女、嫌いだ」
怒りの声を上げるロックブーケに背を向けて、3人の後を追う。
これで斬りかかってくるようならもう、好きにすれば良いと思う。
――しばらく後、駆け足で合流してくる彼らの中にはロックブーケの姿が含まれていた。
舌打ちは、ちゃんと我慢できた筈だ。
リベンジオブザセブンの七英雄の記憶を辿ると、ターム討滅作戦道中のロックブーケ合流からターム戦、そしてワグナスによるクイーン討伐決断とクジンシーの合流、その後のクイーン討伐完遂はすべて、同じ日に行われた可能性がある事に気付きます。
→参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=2WedN-ja20Y
ロックブーケ合流が昼、クイーン討伐を決断するのがその日の夜、凱旋が次の日の朝って見れるんですよね。
ロックブーケとクジンシーは合流時点ではまだ普通の人間だった筈で、その後速攻で『吸収の法』を行う事になったとすれば、二人は作戦中にタームを吸収してそのままクイーンと戦闘し生き残ったと解釈できます。
昼の合流で相手がタームのみを想定していたロックブーケだけならばともかく、夜のクイーン突入直前の合流であるクジンシーに関しては、リソースもろもろの問題でまともなサポートすらなかった筈です。
もしこの解釈が合ってたとしたら、いくら何でも強行軍に過ぎる。そりゃあボクオーンも止めますわ。
しかもこの時のラスボスは脱皮前クイーンやリアルクイーンではなく、全盛期のドレッドクイーンになる筈で。
長大な体と言う枷の無い、クイックタイムを返して見せる正真正銘の裏ボスです。
準備も整ってない強行軍でお荷物二人抱えてしかも内一人は連携も出来ない、関係も険悪なんてメンバーで全員生存して勝てる相手じゃない筈です。
いったいどんな魔法を使ったんだよワグナス。
この時点でクジンシーがソウルスティールを使える状態にでもなってないと勝ち筋が全然見えないよ。
よもやクイーンまでの道中になんか異界の死神がいて、クジンシーがその吸収に成功しちゃったのか??
この小説では、さすがにロックブーケの合流とクイーン討伐の間はワンクッション挟んでる事にします。