新宿はがんばる   作:のーばでぃ

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 筆がじぇんじぇん進まなくなりもした。。。
無理くり、のたのた進めてこれでございます。


新宿と諸葛亮の勉強生活

 アバロン帝国大学。

新鋭ながらも中々の蔵書量と学生数を誇るこの大学には、皇帝ジェラールが在籍している事は結構有名である。

と言うか、当初はジェラール帝人気で入学希望者を呼び込んでいるようなところもあった。

 

 で、そのジェラール帝人気で入学希望者を呼び寄せていた以上、そのジェラール帝が姿を現さなければ半ば詐欺なワケで。

それ故に、公務に余裕が出来た時なんか、突発的に大学に通うジェラール帝の姿が見えたりする。

ちなみにジェラール帝は単位が足りていないので留年扱いとなっているらしい。

 

 入学当初からそうなる事が判り切っていたため、退学して聴講生扱いにするのはどうかと言う話も出たのだが、本人としては処理がめんどそうだし別にこのままで良いと伝聞の悪い『留年生』としての扱いに甘んじている。

 

 時々大学に顔を出すジェラール帝の顔は大体ニコニコしている。

本人としても、公務を考えずに学ぶ事が出来るこの時間はある種のリフレッシュにもなっているのだろう。

 

 そして今日は、特にニコニコしていた。

―― あの『影の盾(シャドウガード)』と時間割を被せていた為である。

既にキャンパス内では「今日の講義はジェラール帝が聴講しに来てるぞ」と中々の噂となっていた。

 

 父レオンからは「貴人に対してトラウマがあるらしいから、会うのは控えるべし」と言われていたが、これは大学生が普通に大学の講義を聞きに来ているだけなのでノーカン。うん、ノーカン。

 

 別に皇帝の身分でガッツリ面通りする訳じゃないし。

なんかこう、横目でチラッとするだけだし。

大丈夫そうだったらあわよくば話しかけてみたりなんかして。

 

 ―― ジェラール帝、普段ストレス溜めている分だけ中々はっちゃけていたりした。

まあこの程度の茶目っ気、まだカワイイものであるが。

 

 そしてこのアバロン大学では必修科目となっている地政学の講義にて、『彼』は居た。

 

 

 

 ―― なぜか、目に穴を空けた紙袋を頭にかぶっていた。

 

 

 

(……)

 

 

 

(……)

 

 

 

……んんんんんん??????

 

 

 

 《黄金の籠手は正義のあかし、仮面の左目なにを見る》

そんな風に唄われている詩はもちろん履修済みである。

その左目の仮面部分の先っちょが紙袋を少し突き破っている辺りがとってもシュール。

 

 後、非常に挙動不審だった。

まるでからくり人形の如くカクカクと動いていた。

あんまり異様な物だから、その周りにいる人たちがみんな揃って閉口している。

 

 

 ―― ガララッ

 

 

「はい皆さんお揃いでしょうか、では今日も地政学の講義始めて行きますけども、今日はなんとあのジェラール皇帝陛下が……」

 

 紙袋ヘッドに視線が吸い寄せられ、入って来た教授の挙動がピシリと固まった。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……では、始めて行きたいと思いまーす」

 

 

((((見なかったことにするんだ……)))

 

 

 地政学の教授は、どちらかと言うと事なかれ主義なタイプの人だった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 歓迎はされていないんだろうなとは思ってはいたのだが、コレはどう解釈するべきか真剣に迷った。

 

 だって、紙袋である。

会いたくないなら逃げれば良いのに。単位が足りていない訳でもあるまいに。

 

 流石に流石すぎて、ためらいながら声を掛けてみるのである。

 

 

「ええー、っとぉ……ジークさん、で、良いんだよね……?初めまして」

 

「ソウダヨッ!(裏声)」

 

 

 こ れ は ひ ど い。

 

 

 隣にいる、東の装いをした男が遠い目をして天を見上げている。

 

「私はジェラール。バレンヌの当代皇帝ではあるけれど、今日は学生として、そしてあなたのいちファンとしてあなたに会って見たくてね」

 

「ヨロシクネッ!(裏声)」

 

「……コウメイと申します。彼については、まあ、うん……あまり気にしないで頂けると」

 

「ハ、ハハ……」

 

 こんな時、どういう顔をしたら良いのかわからない。マジでわからない。

とりあえず笑っとけば良いのだろうか。

 

「ユルシテ……(裏声)」ガタガタガタガタガタ

 

 ……こんな特殊例の捌き方、伝承法でも受け継いでないよ。

途方に暮れつつガリガリ後頭部を掻いた。

 

「貴人が苦手とは聞いていたけれど……私の想定がずいぶん甘かった様だねコレは」

 

「コレを『苦手』で括れるあたり、皇帝陛下の度量が見て取れますね」

 

「いやあ、度量と言われても困るのだけれど……」

 

 苦笑した。

 

「父上……先々帝の、レオンの時から。あなたには、ずっとずっとお礼を言いたかったんだ。

……と言うと、皇帝として会ってる事になっちゃうかな?

バレンヌが北方を固められたのも、それによりヴィクトール運河を奪還できたのも、あなたの働きがあってこそだったから」

 

「……」

 

「ファンと言うのも本当なんだ。ヘクターとは懇意でね……あなたの事を人づてに聞くたびに、ずっと会いたいと思ってた。あわよくば気の置けない仲になりたい、なんてね。

あげく、我慢できずにこんな手段を取ってしまったけれど……どうやら私は、あなたに相当な負担をかけてしまったらしい」

 

 本当に申し訳ない、と頭を下げた。

恐縮してるのか、彼のガタガタがさらに増えたような気さえする。

 

 ……嫌われている、という訳でないのは解かる。彼が、努力しようとしているのも。

しかし、本当にトラウマになっているのだろう。

 

「……ただただ、あなたを排斥したと言う貴人に憤りを覚えるばかりだね。

せめて私は、あなたに見限られないような、そしてあなたに胸を張れるような皇帝であろうと強く思ったよ。

……いつか、私がかつての貴人らと違うのだと思えるようになったなら。また、お話させてほしい。

私は、いつまでも待っているから」

 

 戸惑いながら、震えながら。

それでも彼は、小さくコクコクコクと頷いてくれた。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 それでは、と軽く挨拶して講堂を去って行くジェラール帝を見送りながら、コウメイは軽く嘆息した。

 

 アレが、当代のバレンヌ帝国皇帝陛下。

何ともカリスマの溢れている、さわやかな御仁だった。

 

 そして、真摯で誠実な人だ。

ともすれば打ち首獄門とか言われてもおかしくないような対応だったろうに。

なんだ紙袋に裏声って。

 

 横を見ると、当の本人が紙袋を外しながら、まるで困難かつ大きな山場をみごと乗り切ってみせたかのように満足げに息をついた。

 

 

 

―― よし、楽しく話せたな

 

 

どなたか頭のお医者様はおられますか!?

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― 七英雄の伝説

数多くの悪しき魔物を倒し世界を救い、その後いずこかへ消えた

クジンシー、スービエ、ダンターグ、ノエル、ボクオーン、ロックブーケ、ワグナス

いつの日か、彼らは戻ってきて再び世界を救うのだという

 

 ―― 何度か耳にしたこの詩は、最もポピュラーな形で伝わっている物だ。

逆に言えば、この唄以外で七英雄の事を唄っている物はあまり聞いた事がない。

特に、彼らが一体どんな人物だったのか……そこに触れている詩は皆無と言って良い。

 

 考古学の中で、民俗学にまたがって七英雄の話題が出た事があった。

各々の人物を深掘りするために詩を集め、資料を集め挑戦した人も少なからずいた事はあったらしいが、彼らについて名前以外の情報を得る事が出来た人はほぼ皆無であったと言う。

 

 調べてみたら、大体七英雄にあやかって名付けられた別人の記録が出てきたりするから、精査するだけで心が折れるのだそうだ。

 

 ―― この状況についての見解を、七英雄本人に対して聞いてみた。

 

「いや、知らね。っつか、俺の名前が伝わってる現状がすでにビックリだ。

だっておまえ、俺はアレだぞ?ターム討伐隊に加わった名もなき金魚のフンAでしか無かったんだぞ?」

 

「そうでしょうか?先日他のお歴々にまみえた際には、そんな印象は全く受けなかったんですが」

 

「……いや、まあ、今でこそ結構付き合いも長いから良いけどさ。当時、俺は本当にただただ背伸びした一般人でしかなかったから。

討伐隊に加われたのもカラクリはあったんだよ。この辺りはボカさせて貰うけど」

 

「うーん、イマイチ信じられませんね……あなた普段が普段だけに」

 

「ほっとけ。……ああ、でも、情報が消えてる心当たりは少しあるかなあ……」

 

「ほう?」

 

 ペンのお尻で頭をカリコリ搔きながら、思い出そうとうんうん唸りつつジークが言う。

 

「ンン~~~……具体的な日程は思い出せないんだけど……うん、たぶん2週間無かったと思う。たぶん……確か……いや、もしかして実は15~6日くらいはあったかもだけど。

いや、アレ含めたらもう3日くらい伸びるのか……?」

 

「何が?」

 

「俺達が『七英雄』と呼ばれた期間かな」

 

 ―― 何気に言われた衝撃の事実に、思わず目を見開いてしまった。

 

「だいたい、クィーン倒してからそのぐらいの時間でスピード追放受けたかなぁ……そも、俺らを七英雄と言い始めた奴らってただの一般市民だったし。

よく考えてみると、アイツらが俺らの名前知ってるのちょっとおかしいぞ……?別に広告打ってた訳じゃないよな……?

当時から名前が売れてたワグナスとノエルはまだ解るけど、完全外様っつかワグナス達のつながりでしかないボクオーンやロックブーケとかどうやって名前知ったんだ……?

俺だって……いや、逆に俺の名前知ってる奴は居たのか。クソ上司共とか」

 

 考察の結果、更につじつまが合わなくなって、ジークが本当に不思議そうに首をかしげる。

 

「あの……世界の危機を救った英雄たちを、わずか2週間で追放したんですかその国……?

普通に考えれば、随分利益に繋がりそうな使()()()だってあるでしょうに。

諸外国に対してだってかなり大きなカードになりそうなものですが」

 

 貴人を忌諱する事から敢えて非人道な方向で王城の思考を考察してみたのだが、やった事が意味不明に過ぎた。

あっけらかんと彼が言う。

 

「そう言うのすら無かったよねぜんぜん。むしろ、大神官の王殺しの罪擦り付けて来たよね。

 

……いや待って、諸外国へのカード?マジでそんなそぶりカケラも……いやでも、超術学研究所のプランって確か、世界各国から有識者集めてたって聞いたぞ……?

 

……え、つまり()()()()()()

諸外国からも力を借りてたくせに、その辺りガン無視して自分らだけ脱出したのかアイツら!?技術共有も無しで!?

 

うわあ……最低の更に下ってあったんだな。

クソがさらにクソをひりだしてもまだ足りないんじゃねえかコレ……」

 

 思わず顔を覆って天を仰ぐジークであった。

詳細は分からないが言の端から聞こえてくる最低ぶりに、コレは貴人をなべて嫌いになるわと納得しか出てこない。

 

「そんな有様であるならば、王城の人間すべてがその『脱出』とやらにありつけた訳でもありますまい。ならば伝説を残したのは、そう言った側に居た人達だったと言うのはどうでしょう……?」

 

「ええ、どうだろう……?

むしろ、英雄の名前に自分の名前追加するか入れ替えて流布しそうな奴ばっか浮かぶんだけど。

つか、そもそもアイツ等が俺の名前を憶えてるとは思えないんだよな。俺、王城では全方向敵だらけだったもん。

マトモなのはワグナスとノエルだけだったし」

 

「闇が……!闇が深すぎる……ッ!?!?」

 

「まあ、アバロンに慣れてたらそう言う反応になるよね。それの逆は俺もやったわ」

 

 これは紙袋裏声になってしまっても仕方が無いのだろうかと、思わず頭を押さえてしまった。

なんだ、英雄の名前を自分の名前に書き替えそうって。

彼の目から見て、そこがどれだけ終わってたように感じたのかが良く分かる。

 

「……取り残された者たちが、王城は駄目だから七英雄に縋ろうと必死に探したんでしょうかねえ?

それで何とか名前は集められはしましたが、結局どこに消えたかも含め情報は出てこなかった、と」

 

「あー、それありそーだ……そう言う経緯ならすごくナットクできる。はあー、なるほどなあ……」

 

 とても得心が言ったようで、ジークが仕切りに頷いていた。

 

 ―― しかし。

もしそうだったとしたら、それはそれでとても悲しい事だと思う。

 

「……誰が言ってたんでしたか。『憧れは理解とは最も遠い感情である』そうです」

 

「うん?」

 

「……七英雄に憧れ、あるいは縋ろうとした人達は。結局、七英雄のことを名前ぐらいしか知らなかったって事なんですね……自分たちを助けてくれた恩人であるにも関わらず、その程度の関心しか持てなかったのだと」

 

「そんなモンだろ」

 

 当事者であるはずの本人が、一番関心が無いとでも言わんばかりに軽く言い切った。

 

「むしろ知られてた方が困る。関わんなくちゃいけなくなるじゃん」

 

「……王城でなくとも、お嫌いですか」

 

「二度とゴメンだね。

……言っとくけど俺、こっちに来てからやっとだからな?

 

――『ああ、人間生活送ってるな』って思えてるのは

 

 その言葉に潜むあまりの闇に眩暈を覚えて、思わず歪む表情をそっと羽扇で隠した。

 

 

 民俗学のレポートは、遅々として進まない。

―― 結局、ここで話した事を書ける訳も無いのだけれど。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― 戯れに、『テミウス』とは七英雄でいう所の誰になるのかを考えてみた。

 

 ジークはあくまで彼の事を『テミウス』と紹介した。

別に他意があった訳ではなく、単純にテミウスに気を使っただけと言うのは解かる。そしてテミウスもそれに乗っただけと言う事も。

 

 後から来たノエル・ロックブーケが、『二人足りない』と言っていた。

まさかのメンバー交代かと疑われる『二人』についても興味はそそられるがそれは置いといて。

 

 あの時いたメンバーで七英雄確定しているのはジーク……ではなくクジンシー、ワグナス、ノエル、ロックブーケの4人。

自分とウィンディは除外して、残りはテミウス。

テミウスがもし七英雄でなかったのなら足りないのは3人になるので、彼が七英雄ではない協力者だった、と言う事は無いだろう。

 

 そして自分は、あのメンバー以外にも七英雄とあっている。

ロンギット海に沈みゆく自分たちを助けてくれた、触手を携える青白い美丈夫『スービエ』だ。

 

 ならば残りの七英雄はダンターグとボクオーン。

そしてワグナスは『ダンターグだけ居場所が分からない』と言っていたから、消去法でテミウスとはボクオーンであると考えられる。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ……ボクオーン?

 

 

 

 ―― その名は、バレンヌから見たら非常に特殊な名であった。

自分がアバロンに訪れる前の騒動。人伝に、しかも断片的にしか聞いた事のない事件だ。

 

 かつてヴィクトール運河は封鎖され、そこに要塞を築かれ、しかして今は皇帝陛下の奮闘により解放されたそうな。

その封鎖した下手人が、ボクオーンと言われている。

 

 バレンヌはこれによりレオン帝とヴィクトール帝の2名と、優秀な戦闘人員を多数失ったと聞く。

ゆえにバレンヌは、その名を許しはしないのだ。

 

 ……バレンヌには、アバロンには自分も恩を感じている。

だがこの事を話すつもりはない。

それよりも考えたのは、もっと別の事だった。

 

 

 『―― 何のために?』

 

 

 自分の研究テーマに強い関心を見せた、テミウスの事を想い出す。

 

 野望や覇道とは縁遠き人物に見えた。

今という時代を邁進するリーブラのトップにしてロンギット通商連合の立役者。

より高い技術と流通に苦心する商人。

しかし、その先には何か大きい目的があるように見受けられた。

 

 その目的は、私利私欲が絡むような如何にといったモノではなく……何かもっと、世の中の流れに関わるような。

 

 

《腐らず、長く発展していく理想的な『国』のデザイン……あなたの研究テーマに非常に興味があります》

 

 

 彼のセリフが、リフレインした。

ヴィクトール運河を抑えるのはつまり、()()が目的だったのだろうか。

今の流れはもしや、()()に向かっているのだろうか……?

 

 しかし、どういう意味があるのだろう。

ヴィクトール運河解放前と後で変わった事?

自分はそもそも、この件の情報を集めていない。

ただ、ロンギット通商連合という大きな流れがロンギット海に生まれた事は解かる。

 

 なんとなく、教科書に載っている簡易的な世界図を眺めた。

ヴィクトール運河を封鎖するように指を置いて、ぼうっと周りを俯瞰してみる。

 

 ……ある事に気付く。

 

 

「……『国』が、締め出されている……?」

 

 

 ふとした呟きを、隣でジークが拾っていた。

彼の視線が、ヴィクトール運河を抑える指に落ちた。

 

「コウメイさ」

 

「はい?」

 

 見上げた彼の口角が、意味ありげに持ち上がっていた。

 

「今考えてること纏まったら、論文にしたためてみてよ。

……俺が責任もって、テミウスに届けるからさ」

 

 きっとあいつ、話をしたがると思うから。

ジークが確信したようにそう言った。

 




 冷凍真カジキでは13分切りは無理だったよ……
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