新宿はがんばる   作:のーばでぃ

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 少しばかりノエルに厳しい話かもしれない。
しかも原作のノエルに対する厳しさじゃなく、拙作設定のノエルに対する厳しさだからなぁ……
アンチに感じる人が居たらカンベンな!別にタグつけるつもりはないけどな!!



上野は苦悩する(中)

 メルー中ほど東寄りにある大きなオアシスに、テレルテバと言う都市が広がっている。

 

 メルー地方の交易の中心と言えば間違いなくここで、さらに海を挟んだ東のヤウダ王国へ連絡できる交易ルートも持っているため*1、なかなか人で賑わっている町だ。

この地方で産出する良質な砂岩を用いた岩造りの建物は文化的にも珍しく、東からの観光地ともなっている。

少し東へ行けば海に着くと言うのも強かった。

 

 かつてこの地方には王国が栄えており、この町はその名残なのだと言う。

デザートガードと呼ばれる独特な曲刀を扱う戦士もいて、彼らのもとはその王国を守護する騎士だったのだとか。*2

 

 この地には聖地と呼ばれる4つの塔が建っている。

高度な技術で建てられたその塔は術力の走る文様や構造が所々にあり、現在でも再現できない建造物として人々の心を掴んで離さない。

テレルテバが観光名所になっている理由のひとつでもあり、信心深い人はこの塔に登り巡礼をしていると云う。

 

「これは……当たりを引いたか!」

 

「外見にも、超術学研究所の意匠が見えますわねお兄様」

 

 当たり外れで考えるなら、テレルテバは大当たりであった。

 

 古代から今に至るまで、聖地として人の出入りを多く受けてなお劣化が乏しい保存性。

そして明らかに超術学の片鱗が見える全貌。

なんの為のシステムかは詳しく見てみないと判らないが、例の研究とは完全無関係だったと言う事は無い筈である。

 

 ―― そして、大当たりを通り越して『当たり過ぎ』ていた。

この地方、世にも不思議な『移動湖』なんてモノも存在するらしいのだ。

 

 なんでも、出現する場所については大体の法則性があると云う。

清らかなオアシスを蓄える古代の建物で、その水を飲めば不老不死の力を手に入れられるとか。

見た人間が大勢いて、そのロマンを求め旅だったものも大勢いた。

……しかし、帰って来たものは居ないと云う。

 

 そこだけ聞くなら、非常に眉唾なロマンあふれる都市伝説で終わる。

男の子のワクワクがとても搔き立てられるので探してみたい気は随分するが、それにしたって『飲めば不老不死になる水』である。ありきたり過ぎてもう少し捻ろうぜと評価が飛んでくるレベルだ。

 

 ―― が。

 

 確かに『帰って来たものは』居ないが、『指を掛けたもの』はかなり多くいた。

彼らにその様相をスケッチさせると得てして同じものを描き、中にはそこに生えている植物を持ち帰ったなんて者も。

 

 何より、ロックブーケが目撃していたのだ。

 

 ノエルと合流する道を行く傍ら。

そんな代物とは知らなかったため、移動湖を追うより合流を優先した事で記憶にしか残らなかった伝説のオアシス。

 

 ―― 見えた場所は覚えているから、覚えているうちに確認しておきたい、となるのは至極自然な流れである。

しかし向かうのは過酷な砂漠。

ここで必要なのは力よりも『どう生きるか』というサバイバル術だ。

例えばよそからドラゴンを連れて来たとして、彼は砂漠で生きて行けるのかというとまた違う話になる。

 

 河馬人間は、連れて行けなかった。

 

 だから彼には、出来る範囲での塔の調査を頼んだのだ。

専門的な知識はなくとも、術法を扱い始めた彼であれば、おおざっぱな所感ぐらいは持てるだろう事を考えて。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― 人間の社会性は理解できる。

しかしそれは、「社会性にのっとった行動を行える」という意味ではない。

社会性を理解できても、自らをその社会の中に浸透させて生きて行くには考え方を同化させる必要がある。

それを行うためには、2つの条件が要るのだ。

 

 ひとつ、自分から同化する意思がある事。

 

 ふたつ、周りに同化させる意思がある事。

 

 ちなみに片方だけだと、大抵悲惨な事になったりする。

今回の場合、『ノエルが希望する範囲においては』という枕が付くが、それでもひとつめは多少存在した。

 

 ふたつめは……まあ、お察しである。

これで亜人並みに人に近ければまだ印象も違っていたのかもしれないが、何と言ったって河馬の口の中に人の顔である。

不気味の谷どころの話では無い。

テレルテバの民は当然、聖地に居つこうとしたモンスターを排斥に掛かった訳だ。

 

 さて、この時の河馬人間の思考はとてもシンプルだった。

 

 

「―― なるほど、ここには『敵』が居るのだな」

 

 

 その認識には、嫌悪も怒りも侮辱もなかった。

ただただ、『納得』で動いただけだった。

 

 とりあえず、ノエル様は人を殺すのは忌諱されるからそこは最低ラインにしよう。

調査を行うにはこの地の『縄張り』を奪う必要があるな。

ふむ、手が足りないな。その辺の奴らにも声を掛けてみるか。

 

 ―― つまりはそう言う事である。

 

 『縄張りの確保』、『力の示威』、『群れの形成』……すべて野生が生きるための、ごくごく基本的かつ普遍的な理なのだコレは。

 

 というかこの件については、テレルテバ側の対応が脳無しと言い切れるレベルでマズかった。

感情は解かるが、まともに頭を動かしていれば誰だって想像ついたはずなのだ。

『力を使えば力で反撃される』という事実に。

 

 『郷に入ってるんだから郷に従え』は人間相手の理屈であり、彼らは河馬人間を人間では無いとしたのだから、その望み通りに彼は野生で反撃しただけなのである。

 

 彼が人間ではないと信じるならば、自らが河馬人間より力が上だと確信していない限り、うかつに手を出すべきではなかった。

極端な話、これは例えるならスズメバチの巣の駆除を業者に任すのではなく自分でやろうとして、メチャクチャ痛い目にあって事態を悪化させたアホの図式なのである。

そうなった事を受け止めた上で、むしろスズメバチ側に特異な感情を持たれていない事に感謝するべきだ。

もしなんらかの怒りを買っていたならば、ラインを無視して普通に殺されている。

 

 

 

 「―― テレルテバの聖なる塔が、モンスターに占拠されました!」

 

 

 

 ……しかし住人としては、そう言う認識になる訳である。

 

 そして河馬人間と言えば、()()()()()()()()()()モンスター相手に、隷属を促し続ける訳である。

しかも力による屈服だけではない。メリットもちゃんと提示した上で。

 

 

 

「―― ノエル様は凄いぞ。従っていれば次々と新しい身体をくれるぞ。それで永遠に生きられるのだ。な、いいだろう。お前もノエルさまの部下になれ」

 

 

 

 モンスターの世界は力の世界だ。やり方が分かっているだけ、とてもやり易かった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― 「結局、誰が悪い」か??

 

 今回の件においてのみ語るなら、ほぼノエルに決まっている。

どんな思惑があろうと、どんな立場の上であろうと、今回の件は完全に完璧にノエルの監督不行き届きである。

責任が発生するとしたらまずここなのである。

 

 河馬人間一人置いて、しかも人の領域で調査させるなら、少なくともノエルは河馬人間に()()人間を傍に置いてやるべきだった。

つまりは「モンスターだけど人は襲わないのでよろしくしてやってください」と、出発前に一緒に頭を下げながらあいさつ回りのひとつでもやってればまだ違っていたのである。

そうすれば住民の心情は多少河馬人間に()()なって、いきなり『排斥』などという選択からではなく、多少『様子見』する方向に倒れていただろう。

 

 あるいは、モンスターの視点に立ったうえでの『調査方法』を指導するべきだった。

そうすれば最低限、何をすべきか、何をやったらいけないかを伝える事だって出来た筈だ。

 

 言い方が非常に悪いが、ロックブーケが指したような『ペットに責任を持つ』行動を、その努力を、ノエルが放棄していたのが根本原因である。

 

 

 

 ―― しかしそれはあくまでノエルの意識を指した上での話。

そもそもの悪意は、誰にも無かったのだ。

 

 この話には、教訓がある。

 

 

『悪意はなくとも、取り返しのつかない結果を生むことはある』

 

 

 あるいは、ノエルがもっと開き直った責任感のないクズであったならば、また違ったのかもしれないが。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― 最終的に、戻ってきたノエルは河馬人間を切らざるを得なかった。

 

 物理的に斬ったのではない。頭を下げて、河馬人間がやった事がどれだけマズかったのかを伝えて、やはり人とモンスターの常識は相いれないのだと理解して。

 

 そして、河馬人間と別れる選択をしたのだ。

 

 力は残す。河馬人間の事を制限したりはしない。

これからは自由であり、別に人間を襲うのもお前の裁量で行えばいい。

 

 ―― ただし。自分はもう守ってやれないし、最終的にそれらの行動が自分を敵に回す可能性も考慮してくれ。

つまりは、かつての通り『力の理』で生きれば良いのだ。

 

 何を敵として、何を敵としてはいけないか。

その感覚は、ずっとお前が自然で生きていた頃から、ずっと持っていた物であろうはずだから。

 

 ……あるいはその姿は、かつてクジンシーと王城の兵たちがいざこざを起こしていた時代に、クジンシーに頭を下げたその姿と同じものだったのかもしれない。

 

 河馬人間は眉をひそめ、寂しそうに河馬の声帯で少し鳴くと……ノエルが言っている事も理解できたのか、『人間の様に』深く頭を下げて踵を返した。

 

 本人としても、やはり人とモンスターは相いれないのだろうという事を、一緒に居た時間とこの結果から理解していたから。

 

 

 ―― 以降、彼らが顔を再び合わせる事は無かった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―― そう。ちゃんと苦しませず、なにが起こったかも解らせずに始末できたのね。良い子よ」

 

 傍らに侍る高次の精霊に、そう小声で労った。

嬉しそうにしながら、じゃあまたねバイバイと無邪気に消えるそれを見送って、彼女はため息をつく。

 

「……命に責任を取るって、こう言う事なんですのよ?お兄様……。

まあとは言え、お気持ちはとても分かるから、私も責められないのだけれど」

 

 

 ―― 呟いたその言葉は、誰にも聞かれずに夜のサラマットに消えて行った。

 

*1
拙作ではヤウダは半ば鎖国してる設定だけど、長崎みたいなポジと考えて頂ければ

*2
独自設定。だけどデザートガードがいる以上、そう言う逸話は普通にありそう。ロマサガ3のゲッシア王朝みたいなのがあったんだよきっと。で、10年ぐらい前に宗教戦争で滅んだんだよきっと





 昔は3人称で書いてた筈なのに、凄い書きにくくなったなぁ……
1人称じゃないと筆が進まないのすごく不思議。
そしてこの小説、最初の方は凄くライトに書いてたはずなのに同じことやろうとしても全然うまく行かないの更に不思議。

 ……たぶんどっかで練習がてら、すごく話し飛ばしたり短く書いたりしてみると思います。
それが出来てるかどうかはまた別の話だけど (´・ω・`)

 ちなみに、タイトルの(中)見ても分かるように、話としてはまだ続くんじゃよ。
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