新宿はがんばる   作:のーばでぃ

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 かつては、この小説にもな。1日1回投稿していた時代があったんじゃよ……
見ませい……今はもう、見る影もない。

 そう、人が大地を汚したからじゃ(責任転嫁)


上野は苦悩する(後)

 ―― 幻体の木剣を見つめる。

かつての誓いはもはや遠く、しかし確かに刻み付けられたままだ。

あの時の思いはまだ、自分の中で芯を保っている。

 

 この剣は、もとより『守るための剣』だった。

尊いと感じていた、かつての場所を守るための剣だった。

友であるサグザーを、オアイーブを……そして家族であるロックブーケを守るための剣だった。

 

 アリに蹂躙され、人類の生存圏が後退していく中で、それでも今いる場所を守り切ってみせると強く強く誓ったのだ。

あの時の想いは断じて嘘じゃない。

 

 王城の兵として力をつけ、隊の長に抜擢されていく中で、守りたいと思うものが増えた。

悪意が跳梁跋扈するような蟲毒に等しい場所ではあったものの、そこに馴染めない気の良い奴らだって確かにいた。

ただ純粋に、家族を守りたいと、民を守りたいと剣を掲げるものだって沢山いたのだ。

そういったものが集まって、蟲毒に身を浸してなお自分の想いと共に剣を振る、赤竜隊という仲間ができた。

 

 確たる意思を示し、方向を同じくするなら、それはもう自分の仲間だ。

その想いが間違っているとも思っていない。

 

 ……そう、思っていなかったのだ。

 

 それが少し、揺らいできていた。

想い自体は間違っていなくても、それを守るためにしてきた事は、何か間違っていたのではないかと。

 

 あの誓いから永い、本当に永い時が流れた。

蟲毒の王城からはついに追われ、親友の作った装置を以って異世界に追放され、かつての守りたかったものは大半が手から零れ落ちた。

 

 モンスターとはいえ新たにできた仲間も、やはり手から零れてしまった。

 

 いつも思うのだ。

一体、どうすればよかったのだろうか……と。

 

 

 

 そんな中、思いがけない形で他の仲間の居場所を知る機会が訪れた。

久々に会ったクジンシーは、アバロンで学生をしていると云う。

 

 ……あるいは、彼なら答えを出せるのだろうか。

確たる意思を持って這い上がり、七英雄と呼ばれるまでに至った彼ならば。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

「……ノエルお前さ。疲れてるんだって。ロックブーケさ、もっと色々連れまわしてやれよ。

なんかこう……バカンスを超えたバカンス的な奴が必要だよ。

ノエルがこうなるって相当だぞホントに」

 

「だからこうやって連れまわしてるんじゃない。

何よバカンスを超えたバカンスって。何かアイデアある?」

 

「え、いや、なんだろ……ごめんテキトー言った。放蕩海人に教えを乞うとか?」

 

それお兄様がダメになるやつじゃない!?

イヤよお兄様がアレになるの!!」

 

「ですよね」

 

 

 

 昼下がりのアバロンの酒場だった。

ノエルもロックブーケも偽名使わないままだったのでひと悶着普通にあった。

……とはいえ今の時代、名前に七英雄のそれを使っている人間が割といたりするので、その例に漏れない兄妹で通しているが。

 

 もう一つの情報がなかなか刺激的だった。

『昔、影の盾(ジーク)が剣を師事していた時がある』のだと。

 

 

 

「あーね、会いにきてくれたのは嬉しいよホントに。歓迎だってするけどさ。

タイミングっつーか場所は悪かったんだよなぁ‥‥…特にアイツが

 

 吐き捨てると同時に親指で指し示す先には、お決まりのハオラーンである。お約束のハオラーンである。今こそ東に旅立っていて欲しかったハオラーンである。

 

 

「ほうほう、ほうほうほうほう!!ジークさんの剣の師匠!良いですねえ良いですねえしかもそれが七英雄の名を冠した美丈夫!!すごくすごく良いですねえホント良いですねえ!!

おやおやおやおやてことは?もしかしてもしかして??ジークさんが追われた国にもなんか関係があったりとか???

たとえばノエルさんも国を追われた一人とか!民を守るために立ち上がった現代の七英雄を蔑んだ貴族の暴挙とか!!

どうですか他に七英雄的な立場のお仲間いませんか?いるんじゃないですか??放蕩海人って誰の事ですかねえねえねえねえおーしーえーて!?

 

 

 絶好調である。

 

「ええぇ……何このクソウザイ生き物。あなた、友達は選んだ方が良いと思うわよ?」

 

これを友達にカウントしないでくれない???

 

「つれないなぁージークさんは!ほんとのほんとにつれないなぁー!」

 

 なんていうか、あれだ。

無敵の吟遊詩人だ。

何を言われようと堪える様子が1ミリもない。

 

 マスターが両手にジョッキを持ちながら苦笑した。

 

「しかし、ジーク君の剣の師かぁ……そのフレーズだけでアバロンへの士官通っちゃいそうだよね。きっと引く手あまただよ。

ちなみにバカンスするとして、路銀は足りてるかい?……あ、これは私からのおごりね、『スーパージーク割り』」

 

マスターには人の心とか無いのか!?

こんなになってるノエル相手に仕事を斡旋するなんて!!

ノエルあれだぞ!?路銀が無いなら俺が何とか工面するぞ!?」

 

「いや路銀はあるからさすがにそれはやめてくれ、情けなくなる……

『スーパージーク割り』?ははは、なんだコレ結構いけるな。ありがとう、マスター」

 

「俺はその名前認めてないからな」

 

「そう言ったまま何年たったかなぁ?」

 

 既成事実と真実はちがう。

固くそう思っているのである。

絶対認めないもん。

 

 それに軽く口をつけながら、ロックブーケが「あら、おいしいわねコレ飲みやすいわ」と息をついた。

 

「別に工面頂かなくて結構!お金なんてね、稼ごうと思えば稼げるものですもの。

……そうね、コウメイといったかしら?その帽子、ちょっとお借りしても?」

 

「はい?……ええ、かまいませんが……??」

 

 いきなり振られた話に目をぱちぱちさせながら、コウメイはかぶっていた綸巾(かんきん)を手渡した。

ロックブーケはそれ軽く掲げて衆目を集めるとひっくり返し、とんとテーブルに置くと、比較的広いスペースに立って軽くポーズをとる。

 

 ハオラーンを流し見た。

 

 

「―― 吟遊詩人なんでしょ?曲はお任せしますわ」

 

 

 それだけで、何が始まるか誰もが悟った。

ハオラーンも、それを拒否する選択肢などなかった。

 

 ―― ギターがかき鳴らされる。

情熱的なリズムのルンバだった。

それに合わせて、ロックブーケの華麗なステップが始まる。

もはや、彼女の独壇場だった。

 

 フラメンコのように優雅に、キレのある動きが酒場の空気を支配する。

どこからともなく手拍子が始まる。

くるくると舞い、ヒールが鳴らすリズムが皆の意識をひとつにする。

 

 打ち合わせなどしていないはずなのに、曲の盛り上がりにピタリと合わせたロックブーケのパフォーマンスが光る。

あるいはハオラーンがこれに合わせているのか。

ひとつの芸術が目の前に広がっていた。

 

 長くも短い、短くも長いひと時がギターの最後の和音でピタリと止まり、同じくピタリとポーズを決めるロックブーケと共に酒場が歓声と拍手の渦に包まれた。

その中には、もちろん俺も含まれていた。

スタンディングオベーションという言葉そのままの光景だった。

 

 ひっくり返した綸巾(かんきん)の中に、クラウンが次々詰め込まれていく。

……こういうのはどうなんだろう、100クラウンくらいでええんやろか?

 

 髪をかき上げてロックブーケが言った。

 

「―― いい腕ね、詩人さん」

 

「いやはや、これほどとは……私も素晴らしいものを見せて頂きました」

 

 思わずハオラーンがウザさゼロで素直な賞賛を口にした。

気持ちはわかる。すごいわかる。

それぐらい凄かった。

 

「ロックブーケ……こんなんできたんだな!?めっちゃめちゃ凄いじゃんか!?」

 

 もう拍手しすぎて手が痛い。

 

「うむ。注目を浴びるのは兄として不安はあるがな。凄いんだぞ俺の妹は」

 

 うむうむ頷きながらも、ノエルも拍手が止まらなかった。

 

 ちなみに、これにロックブーケ十八番の『術』は一切使用されていない。

いや、もしかして全身から図らずとも滲み出てたりするのだろうか?

いやいや美しさだけではない、『技』が光っているのである。人を魅了する『技』が。

 

 これはもうアレだ。

テンプテーションではなく、テンプテーション(物理)だ。

 

 そしてドヤ顔を決めながら、ロックブーケが席に戻ってくるのである。

 

「わかったかしら?あんたにお金を恵んで貰うなんて状況、私たちにはありえないの」

 

 クラウンの入った綸巾(かんきん)を振って勝ち誇ったように言うのである。

ここまでくると、もはや賞賛しかない。

 

「いやあ凄かった……これはドヤ顔許されるわ……」

 

「ええ、まったく。舞で感動したのは私も初めてです」

 

 ちなみに、コウメイも100クラウン入れていた。

 

「ま、そういうわけなので……路銀の心配は不要よ。

―― お兄様は私が養うんだから!!

 

その結論はちょっと待て!?!?

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ……そして今、アバロンの郊外でノエルと二人立っている。

体を撫でていく潮風が心地よかった。

 

 しかし、その手にあるものは物騒だ。

ひとつは木剣。ひとつはドクロをあしらう長剣。

互いに、幻体で作った剣だった。

 

「すまないな……わがままを言ってしまって」

 

「いやそんなこと、」

 

「―― 自覚はしてるんだ」

 

 ノエルが雲を見上げながら言った。

 

「ロックブーケもお前も、俺のことを気遣ってバカンスだなんだと言ってくれるが……結局、それが終わればここに帰ってくるものだ。

自分の行いからは逃げられない。いつか必ず、それに追いつかれるものだ」

 

「……別に、追いつかれるまで逃げたって良いじゃないか。俺はノエルに逃げてほしいよ」

 

「それをやってると、俺の『誇り』が死ぬ」

 

 強く言い切るのだ。

 

「ずっと考えている……どうすれば良かったのだろうと。俺のやったことは間違いだったのだろうかと。俺の想いは、間違っていたのだろうかと」

 

「……」

 

「逃げてしまったら……零れて行ってしまったものに、二度と顔向けできなくなる気がしてな」

 

 零れてしまったけれど。

 

 零してしまったけれど。

 

 ―― 俺は、それが確かに大切で、大好きだったから。

 

 そう語るノエルに、俺は静かに瞠目する。

 

「……わかったよ」

 

BGM:七英雄バトル

https://www.youtube.com/watch?v=OzWs8hmykd4

 

 呼吸を整え、剣を構えた。

 

 左手を前に、剣を引いて、半身になった構え。

ノエルに学んだ王城剣術。

 

 すべての始まり。

『吸収の法』の鉄砲玉として名乗りを上げた自分に、それでもノエルが与えてくれた技術。

 

「俺の()()()は、間違いなくノエルだ。

 

だから ――

 

だから今の俺を見せて、証明してやるッッッ!!

 

 叫んだその言葉に、ノエルが救われたような笑みを浮かべる。

左手を前に、剣を引いて、半身になった構え。

俺が学んだ構え。俺が学んだ剣術が、鏡合わせのように目の前に立つ。

 

―― 感謝する!!

 

 咆哮と共に地を蹴ったのは、同時だった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 コウメイとロックブーケが、始まった剣戟を遠巻きに見つめていた。

他にもちらちら一般のやじ馬がいるが、自分たちより前に出ないようにけん制しつつ。

 

「しかし大丈夫なのですか、アレは……ノエルさんの得物が違いすぎますが」

 

 コウメイからしてみれば、実剣と木剣で戦っているようにしか見えない。

普通に考えれば、木剣が切り落とされて終わる凄まじいハンデのついた戦いだが。

 

「得物は互いに幻体よ。そうそう簡単に壊れるものではないわ。

ましてお兄様のあの木剣を切り落とすなんて、何者にも出来る筈がない」

 

 何せ、灯火(トーチ)なのだ。

思い入れが違う。幻体の練度が違う。

『吸収の法』で引き継いだあのドクロ剣とは格が違う。

 

 ロックブーケから見れば、剣の腕も得物も何一つ届かない、格下と格上の試合の筈ではあったのだが。

 

 片手剣が織りなす、次々に入れ替わる攻防の剣戟。

フェイントからの切り払い。それを打ち払ってからの2段斬り。躱して逆袈裟。それをさらに跳ね上げて切り落とし。

前に後ろにと目まぐるしく変わる戦況に、コウメイ含めやじ馬は感嘆するしかできない。

 

「……なによ、戦えてるじゃない……」

 

 ぽつりと漏らしたロックブーケの言もまた、感嘆からくるものだった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 剣術において、ノエルより上を見たことがない。

ワグナスだってノエル相手じゃ分が悪いんじゃないか?

こと『技』という分野においては、ノエルが間違いなく七英雄の頭を張る。

次点でスービエか。

 

 ノエルの王城剣術は実は、純粋な王城剣術ではない。

赤竜隊式とでも言おうか……本来、人間相手の剣である王城剣術に、対タームの、対モンスターの要素を加えたノエル独自のものだ。

その戦法はノエル率いる赤竜隊を『対タームの精鋭部隊』として押し上げた実績を持っている。

 

 最大の違いは『崩し』と『重心』だ。

人間相手なら痛みで怯ませるなり予想外の攻撃なりで『崩し』て止めを入れる戦術で十分だったりするのだが、モンスター相手だと足が4つあったり手が複数あったりで十分に崩せなかったり、相手の手数に負けて押し切られるケースが多分にある。

ので、『崩し』にあまり重きを置かず、一撃に体重は乗せつつもその後すぐに動けるような動き方を常とする。

そしてなお本格的に崩す場合は、必ず自分の体を逃げやすい位置、攻撃しやすい位置に滑り込ませるのだ。

 

 結局体力消費が激しい剣になるから、たくさん走り込みしたっけな。

ノエルの『無月散水』なんてその極地だ。未だにできる気がしない。

 

 

 ―― ダダッガンッ!ギンッ!ガガガッ!!!ダンッ!!

 

 

 木と鉄がぶつかった音にあるまじき、硬質の音が響く。

この剣術同士がぶつかると、両者互いによく動くものだから、剣のぶつかる音と一緒に激しい足音もついてくる。

剣をぶつける時もなるべく切っ先ではなく根元に近い部分に当てて軌道をそらすように受け流す。

剣が曲がらないように。そのあとすぐに反撃に移れるように。

 

 ―― 俺の中にある、ノエルの教えが体を動かす。

 

「ははっ、腕を上げたな……!」

 

「おかげさまでな!」

 

 いまだノエルは様子見だ。

だからこそ戦えているのもある、が……()()()()()()()()()()

俺の中にある物は、決して()()()()()()()()()()

 

 ―― 脳裏に()()()の影がフラッシュバックした。

 

「往くぞ……ッッ!!」

 

 ―― そうだ、俺は、証明する。

 

 ノエルの想いや、手を伸ばした事実が間違いなんじゃない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、間違っているのだということを……!!

 

「ム……!?」

 

 ―― 最短、最速。

さらにギアを上げて、俺は吠えた。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― 動きが変わった。

 

 ノエルから授かったその剣は、その術理をそのままに、剣質がより攻撃的なものにシフトした。

急所に向けた最短の攻撃。

それを受ければ受けた先へ、それを避けたら避けた先へ。

まるで流れるかのように攻撃的な剣閃が奔る。

 

「お兄様の防戦が増えてる……!?」

 

 対タームの王城剣術ではない。

別の何かが混じった動きだった。

 

 ロックブーケの眉が怪訝に歪む。

 

「あの剣……自分の防御リソースを潰す代わりに、相手の対応リソースも潰してるの……?

対応しなければ討てる攻撃に限定する事で?

相手がお兄様だから、まともにやれば勝てないって焦ってるのかしら……?」

 

「いや、違う……あれはまさか……!」

 

 いつの間にか、隣に男が一人並んでいた。

茶色の髪に赤毛が混じる、バンダナを巻いた男だった。

コウメイも初めて見る男だ。

 

 半信半疑に見開いた眼で、その剣戟を見つめている。

 

 ノエルの対応に、体術が混じり始める。

対応リソースを潰される前に、手数を増やして逆にクジンシーのリソースを潰すやり方にシフトし始めているのだ。

 

 しかし巧みに対応しながら……ノエルの足払いを踏み飛んで、クジンシーが一回転。

渾身の力と共に強撃を振り下ろした。

 

 隣の男が叫ぶ。

 

やっぱりそうだ!!あれはヘクターの……ヘクターの剣だ!!

 

 かつてのアバロン最強の剣。

音に聞こえたそれが、影の盾(シャドウガード)の中で確かに息づいている様を見て、

男は、スパローは、感極まった声で叫んだ。

 

「ヘクター……?」

 

「ジークさんの友達です。

もう、亡くなってしまった……ジークさんの……!」

 

 カウンター気味に飛来した渾身の一撃を、ノエルは何とか弾いて見せた。

しかし牽制の足払いを踏まれた上で打ち出されたそれに、体勢を崩し地に転がる。

 

「崩したぞ!?」

 

「お兄様ッ!?」

 

 歓声と悲鳴の奥でクジンシーが追撃に入る。

 

 しかしノエルは冷静だった。

大地に上半身を固定させ、振り下ろされる剣に対して変則的な蹴りを撃ち放ち、その勢いを生かしてすぐさま立ち上がってみせるのだ。

 

 クジンシーは、剣を取り落とさないようにするのが精いっぱいだった。

図らず休止した剣戟に一呼吸して苦笑する。

 

「……ちぇっ、行けると思ったんだけどな。カポエラキックってやつか……なんで今のを正確に蹴り合わせられるんだよ」

 

 ノエルの顔は、驚愕に染まった状態だった。

 

「ヘクターの剣……とは……?」

 

 スパローの叫びが、聞こえていたのだ。

クジンシーがさみしそうに苦笑する。

 

「友達さ。もう死んでしまったけどな。剣がとても……とても強い奴だった」

 

 ゆるりと切っ先を構えなおす。

 

「ノエル。俺、剣が一番強い奴はノエルしか知らなかったんだけどさ……

だから初めてだったんだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉に、ノエルの口角が嬉しそうに緩む。

 

「……なるほど。俺の剣に対応できたのは、別の戦い方をする、同じレベルの人間を知っていたからか」

 

「―― ノエル。確かに俺は、俺の()()()()、ノエルだったよ。

でもさ。俺を形作ってるのはノエルだけじゃない……いろんなものが俺を形作ってるんだ。

それは俺だけじゃない。……ノエルだって、その筈だろ?」

 

 

 

「だから……だからさ、」

 

 

 

ノエルが全部背負わなきゃいけない事なんてこと、無いんだぞ……?

 

 

 

 ―― 言葉が、ノエルにしみ込んだ。

今まで歩んできた事が、ノエルの中でフラッシュバックする。

 

 そうだ、あの誓いの時だけじゃない。

赤竜隊の時だけじゃない。

まして七英雄という仲間だけでもない。

それ以外にも、たくさんの事柄が。想いが。喜びが。悔いが。

 

 自分を形作っている筈ではなかったか。

 

 その一部を担ったからと、すべて背負おうとするのは傲慢以外の何物でもない。

……少なくとも、自分がやられたらそう思ってしまうんじゃないのか。

 

 瞠目する。

 

「……ああ、そうだな」

 

 目を見開いたノエルの顔は、(つか)えていたものが一つ、取れたような表情になっていた。

 

「ありがとう、クジンシー」

 

 やじ馬には聞こえない声量で、そっと呟く。

構えなおした木剣に剣気が漲った。

 

 努めて笑顔を作りながら、それでも引き攣った部分があるのは否めない。

次に来る攻撃に備えて剣を握る手に力がこもる。

 

 ―― もはや、何をやってくるのか解りきっていたが。

しかしそれを解っていながら攻撃発動前に差し込まず防戦を選んだのが、そもそもの敗因だった。

 

 

 

―― はあああああああッッッ!!!

 

 

 

 奥義、無月散水。

 

 

 消えるかのごとき踏み込みと、死角から連発される無数の剣閃。

ノエルの開眼したまさしく必殺の猛攻は、全力で防御に回ったクジンシーをなお圧倒し、その体を大地に叩きつけた。

 

 防げたのなんて、最初の数撃程度。

流石にこれは無理だよ……だってクィーンだって防げなかったんだぞ。

そんなことを考えながら、変な声と共に倒れるクジンシーに木剣がピタリと付きつけられる。

 

 意識が飛びそうになりながら、切っ先を見上げて苦笑した。

 

「……まいった」

 

「ああ。すばらしい戦いだった」

 

 ―― 外野がその決着に、歓声を上げた。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

「……やっぱ地力が違うよなぁ……届かなかったか」

 

「届いたさ。本当に腕を上げたな。……いや、それ以上に、良い出会いに恵まれたんだな」

 

「勝てなかったけどね」

 

「そりゃあそうさ。……俺だって、沢山いい出会いをしてきたんだからな!」

 

「……なるほど。そりゃあつらいわ」

 

 

 

 その後、ノエルは考えることをやめたでも、責任から逃げたでも無かった訳だが……一段、思いつめるのは辞めたように見えた。

別れ際は随分と、すっきりしていたようだった。

 

 ―― その点については、ロックブーケとしては結構もやもやとしていたりする。

 

 そしてこの一件、影の盾(シャドウガード)の敗北という結果に終わった一戦だったが、これが悪評になることはなく、ノエルのあまりの強さが逆に影の盾(シャドウガード)の強さの源であったと、この出来事は新たな語り草となった。

 

 ……正確には、語り草にしていた。お約束のアイツが。

しばらくは本当、そればかり擦っていた。

 

 素人目に見たら「なんか二人ともスゲエ」で終わっていた筈なのに、なまじ半端に解説してしまったロックブーケとスパローに全責任があるとクジンシーは理解している。

ヘクターの剣とか言い出しちゃったから余計に美談になって擦られ続け、一時期影の盾(シャドウガード)がアバロンから逃げ出す事態にもなったりした。

 

 以降アバロンは、七英雄の名を冠した兄妹の再びの来訪を心待ちにしている。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

な・ん・で!!

影の盾(シャドウガード)は僕が遠征してる時に限ってそう言うイベント起こしやがるのかなあ!?

スパローきみズル過ぎるだろう!?!?

見たかった!!僕もその戦い見たかったあっ!!」

 

「いやあアレは凄かったわ。ホント凄かったわ。

『大剣のヘクター』の剣も訓練所で見たことがあったけど、影の盾(シャドウガード)がそれと同じ技使った時は思わずほろっと来ちゃったしさあ。

かといって師の剣が消えている訳でもなくて……受け継がれるものっていうか、そういうのも感じられる一戦だった」

 

「とどめさしてるわよスパロー」

 

「……スパローさ、ちょっと皇帝やってみない?」

 

「ヤダ。ってか、俺に伝承してもアンタが見たことにはならねーだろ」

 

「ずぅううううううるぅうううううういぃぃいいいいいいいッッッ!!!!!」

 

「あららららら」

 

「……皇帝陛下、ここにいる時はもうあんま繕わなくなったよな」

 

「ま、こっちはあれを肴に酒飲めるんだから文句はねーわ」

 

「これでキレーなちゃんねーが酌してくれりゃあなあ……キャットさあ、こっちにも酒ついでくんね?」

 

打ち首にするぞ貴様

 

「あらこわい」

 

「おいおいおい死んだわ俺。ガード完璧すぎてウケる」

 




 これで「アバロン帝国大学物語編」は終了になります。
何とか7英雄の現状、全員分書ききれました。

 あとはもう、すごい時間が飛んで……いろいろ「終わっていく」話になるかな。たぶん。
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