新宿はがんばる   作:のーばでぃ

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 クソ長いです。覚悟の準備をしておいてください。
ちなみに副題は『ミッション:インポッシブル・ザ・ビーバー』

 つまり位置づけとしては劇場版です。
そのぶん独自設定マシマシだけどスルーして読んでね!



交錯:ロックブーケ

 ボクオーン、スービエ……おとぎ話に語られる七英雄の一角。

その巨大な力は『偽物』という発想をそもそもさせないほどの域に達していた。

バレンヌと衝突した際の被害は大きく、だからこそバレンヌは国防上、これに対抗する必要があった。

 

 ――『七英雄対策室』の発足である。

 

 世が乱れる時、七英雄は再び舞い戻り、助けを求める声に応えると言う。

確かに戻ってきたが、そんな()()()()()()()()()()()()ではなかった。

 

 当然だ。人間なのだから。

立場が違えば、巡り会わせが悪ければ、衝突もするのである。

そして七英雄の二人と衝突したのなら、国防上他の5人とも衝突する事を考えなければならない。

何よりこちらは仲間を二人殺したのだ。衝突する理由は十分だろう。

 

 術力で励起された映像の中で、スパローが老いを感じさせない眼光を向けながら語る。

 

《―― ゆえにビーバー。君の次の任務は、残る5人の七英雄の情報を集めることだ。

……特にワグナス、ノエル、ロックブーケ。この3人については既存の情報が存在するため、これらの確認から入って貰いたい。

チームの選抜、および必要なツールについては君に一任する。

例によって、君もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。

なお、このメッセージは自動的に消滅する。成功を祈る》

 

 ―― そこまでメッセージが再生されると、その映像を映していた宝玉にビシリとヒビが入り、沈黙が訪れた。

 

「……」

 

 ビーバーが、頬杖を突きながら視線を横に滑らせる。

今しがた映像に出ていたスパローが、親指を立てながらドヤ顔していた。

 

「どうかな?」

 

「どうかなて。……何がしたいのよ?いやまあ、技術は凄いけど」

 

「おう、術研の開発した記録システムだ。そこまでコストも大きく無くてな……極秘指令とか出すのにちょうど良いだろう?今後極秘指令出すときは、こういう感じにしてみようかなと」

 

「……指令を受け取った事の確認はどうするわけ?あるいはメッセージ再生中にトラブルがあった場合は?」

 

「笑ってごまかす」

 

 アホか、と口に出すのは勘弁してやったが、さすがに呆れは顔に出た。

 

「……極秘指令に使うのはともかくとして、民生需要はあるんじゃないかしら。生活の1シーンを記録して後で見返すとか、そういうの人気出そうじゃない」

 

「それがコレ、まだ特殊な部屋の中でしか撮影できなくてな。1回再生したら壊れちまうし、課題が多いんだな」

 

「……今後の発展をお祈りするわ」

 

 ヒビの入った宝玉を拾って、スパローに放り投げてやる。

 

「そも、願ったりではあるけれど……実際どうなのよ?私が捕まったり死んだりしたら、一切関知せずに居られるワケ?」

 

「無理っスね。約一名、権限無視して大暴れするだろうなきっと」

 

「誰かもう、パパに『お前は老害だ』ってビシッと突き付けてやりなさいよ」

 

「家族のこと以外に関してはマトモかつ優秀なんで……(震え声)」

 

 だからって公私混合全力は如何なものかと思うのだが。

 

「メンバーはこっちで決めて良いとして……連絡系統はどうするの?私、七英雄対策室の話、今初めて聞いたんだけど」

 

あ、お前室長

 

……は?

 

 寝耳に水だった。

 

「実際、こういうのやろうとしたら、ビーバー以外に室長務められそうなの居ないだろ?」

 

「私に管理職やらせる気!?

……あ、私、本日付けで退職する事に致しました。今までお世話になりました。辞表は追って弁護士を経由して提出いたしますので」

 

「待て待て待て待て待て逆だ逆ッッッ!!

お前が!!

選ぶの!!

管理職やるやつを!!」

 

「……はあ?」

 

 ごほんとスパローが軽く咳払いする。

 

「つまりだな。現場の判断を優先する仕組みを作るわけだよ。

管理職から命令を降ろすと、どうしたってラグが出るし適切な判断が出来なかったり現場にそぐわなかったりするだろ。

だからあくまで全体を管理するやつを別に用意して、お前は現場に出ながら指令を出すわけだ……まあ、実際はチームごと現場に行く事になるだろうが。

つまりあれだな、秘書役みたいなポジションを選ぶ感じかな」

 

「……組織として破綻しない?それ」

 

「破綻しないようなチームをお前が選べ。それが『七英雄対策室』だ。

―― そのぐらいの権限を持てる能力は十分にあると認識している」

 

「責任重大ね」

 

「あと、その秘書役ポジだけど先帝殿がやりたがってたぞ」

 

 ビーバーが頭を抑える。

流石に、ため息のひとつくらいは許されるだろう。

 

「そんな気はしてたわ……メンバーは私が決めて良いのよね?」

 

 そして、さらさらとメモ用紙に役柄や名前を書いていくと、雑にスパローに放り投げた。

 

「ツールはメンバー集まってから相談するわ。これでよろしく」

 

 こつこつドアに向かって歩いて行くビーバーを呼び止める。

 

「……おいちょっと待て、何故管理役に俺の名前がある?」

 

「適任でしょ?パパの干渉は一生懸命抑えて頂戴な。ス・パ・ロー・副・長・官?」

 

 そして手をひらひらさせながら、ビーバーは部屋を後にした。

 

 ……絶対嫌がらせである。

ジェラールがギャーギャーいうのが分かってて、それが面白くてこの役柄に指定しやがったのだ。

 

 スパローは溜息をついてメモを見下ろした。

そしておもむろにペンを取り出す。

 

「バッカでー。確かに決めて良いとは言ったけど……結局承認するの俺なのにな?

 

 ―― 管理役のみ却下、と。

メモにはその一文のみ追加された。

 

BGM: Mission Impossible (スパイ大作戦のテーマ)

https://www.youtube.com/watch?v=uKhKq8BDq2g

OPムービーは各位脳内でよろしく

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 七英雄の名前を持つものは数多いる。

特に混乱期においては、親が強く育って欲しいとその名をつけるケースが多い。

ゆえに名前から七英雄を探すのは徒労になるのが解りきっているが……そこにさらに条件を付け加える。

 

 ――『力』だ。

七英雄なら、共通して持つであろう物。

特にモンスターの威容をしたものであれば、最大限に警戒すべきだ。

 

 第1回SBRレースの覇者『チカパの風』。

わずか二人で構成されたそのチームの片割れは、『ワグナス』という名のモンスターであったと言う。

目下、最重要警戒対象である。

 

 そしてもう二人。

こちらはモンスターではないが、ノエルとロックブーケの名を持つ兄妹。

特にノエルは、相当に卓越した剣技を持つそうだ。

 

「幻体で作った木刀を武器とする戦士、か。

……幻体の武器?随分でたらめで効率の悪いやり方をするのね。

その弟子も幻体で武器を作っていたから、そういう流派である可能性がある、と。

……流派として敷居が高すぎやしないかしら」

 

 ビーバーはなんとなく、右手に術力を励起させてみた。

……術は結構得意分野だが、それでも幻体を作れるほどには至っていない。

ましてやそこに、物理的な威力を持たせるなどと。

 

 ビーバーの身体能力は両親のものを受け継いでいたが、それでも速さという点で母にはかなわなかった*1

老いてなお、ごく短時間であれば自分と張れる母は十分化け物の領域である。

 

 代わりにビーバーは、術周りなら母に勝てた。

というか身体能力では負けるので、術などの手数と応用力に重きを寄せて磨き続けたと言うべきか。

それを指して、機転や判断力は父親譲りと言われる事もある。

 

 ……何をしても両親の評価が被ってくる。

尊敬はしていた。しかし面白くはないのだ。

一時はそれをどこまでも疎ましく思って裏の世界に飛び込みもしたが。

 

 ―― とっくに折り合いのついた過去の自分を想いながら、隣でニコニコしながら資料を確認する父親を見る。

正確には、その失われた左腕を。

 

「……ねえパパ」

 

「うん?」

 

「ボクオーンは、強かった?」

 

 過去に何度か聞いたその類の話を、こんどはまた別の視点で父にねだった。

……物語のように話をなぞるのではなく、自分が戦うべき敵として。

 

「……そうだな……」

 

 ジェラールもそれを感じ取っていたから、かつて話した時とは全く違う切り口で話した。

 

「強かったが、それ以上にまともに戦わせてくれなかった。

自分の姿を隠し、居場所を隠し、直接攻撃を極力避け、それでも戦う場合は確実に勝てる方法を選択する……そういう相手だった。

地力だけ取れば、油断ならずとも後れを取るほどのものではなかったが……強力な初見殺しが酷かった」

 

「……『マリオネット』ね」

 

「魔力の糸を見切れずに2人死んで、見切った後はそれを囮にされて2人死んで、さらにそのあとは二者一択を押し付けられて1人死んだ。

僕は、その一人の命を使って相打ちに持ち込んだようなモノだった。

対策が出来た今となっても、二度とやりたくない相手だ。絶対用意した対策を抜いて、さらに何人か()られるだろうね」

 

「……」

 

 身体能力、魔力。そういった『地力』はイコール『強さ』ではない。

解ってはいるが、改めてそれを聞かされているような気分になる。

 

「一番嫌だったのはね、レオナ。ボクオーンを倒しても『何も変わらなかったこと』だ。

経済圏がバレンヌに傾いたわけもなければ、各地の対応が容易になった訳でも鈍化した訳でもない。

ロンギット通商連合の技術革新が()()()()()になりはしたものの、それはバレンヌにとって多大なプラスになった訳じゃない。

トコトン割に合わなかった。あの時の戦いは何の為にあったんだと未だに自問するほどに。

そしてそうなる状況を、()()()()()()()()()()()()()()。それが一番厄介だった」

 

 コードネームではなく本名を呼んだジェラールを咎める気も失せるほどに、その言葉には冷たいものが漂っていた。

周りのチームメンバーも、真剣な顔をしながらその話を聞いていた。

 

「……スービエもある意味でそうだったわね。

対策しなければ何らかの形で被害が出て、しかしなまなかな方法では予防もできず、防衛戦はその力の為に被害が大きい為こちらから打って出るしかなく、そして被害を出して打倒できてもこちらが得るものは少ない。

……「やってらんねー」ッて感じだわ」

 

「地力の面で七英雄最強が誰だかは知らないけどね。僕は最強にボクオーンを推すよ……

現状、世の中にそのレベルの影響を与えてるのがボクオーンだけのように見えるってのもあるけど……あれ以上があるとしたら、まったくもって「やってらんねー」ッて感じだ」

 

 アガタが確認するように口を開く。

 

「ビーバー、私たちの任務なんだけど……七英雄の打倒ではなく、取引などの懐柔も視野に入れた情報収集。()()()()()()?」

 

()()()()。どう付き合うかは結局陛下が決めるべきだけど、状況によって戦闘か交渉、それらのオプションを行使する判断ができる権限を委ねられてるわ」

 

「つまり、逆を言えば……」

 

 ジョンが引き継ぐ。

 

「……このメンバーで、七英雄と戦闘する可能性もあるという訳だな」

 

 ビーバーの目線がメンバーを見渡す。

 

 室長 ビーバー(シティーシーフ 女)

 護衛・遊撃戦力 ジョン(帝国軽装歩兵 男)

 補給・交渉調整 アガタ(ホーリーオーダー 女)

 特殊工作・狙撃 レギン(帝国鍛冶職人 女)

 技術工作・解析 リリィ(フリーメイジ 女)

 任務総括管理 ジェラール(バカ親)

 

「……足りないかしら?」

 

「少なくとも、これ以上は無いとは思うよ」

 

 ジェラールがこの面子を指してそう評した。

 

「あー、すごい今更だが一つだけ良いか?」

 

 手を挙げたジョンに視線が集まる。

 

「このメンバー……女性率高くないか?」

 

「そうね。で?」

 

 ことも何気に応えたビーバーに、ジョンは口をもにょもにょさせながら「いえ、何でも無いです」と引き下がるしかない。

ちなみに、ビーバーに他意はない。

過去の任務で有能かつ交流があった者を積極的に拾った結果だったりする。

 

 大丈夫、お前の言いたいことは解ってるよという顔でジェラールがジョンの肩を叩きながら、

 

―― お前、ウチの娘にコナ掛けたら解ってるよな?

 

「ぴ」

 

「そこパワハラしない!メンバーから外すわよ!?」

 

「大変申し訳ございませんでした!」

 

 ―― 少なくとも、アクの濃さには困らない面子だった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 うっそうとしたジャングルが広がるサラマットに、まったく似つかわしくない神殿が建っている。

これはサラマット各地にある『術塔』と呼ばれる施設に連動する、古代の施設だった。

超術学において『塔』はそれ自体『破壊』や『再構築』、『力の開放』のシンボルとして機能し、さらに術力の経路となる接続点としても重要な役割を果たす。

外部から励起されている術力が流入している以上、この神殿は『塔』が構成する回路の一部であるはずである。

 

 ―― ロックブーケにわかるのは、そこまでだった。

 

 超術学は術と工学の融合から発展してきた技術だ。

術を専門とするロックブーケとはまた分野が違い、そしてこの分野に明るい人間はメンバーの中にいない。

……いや、ワグナスとボクオーンが多少抜きんでている程度か。

 

 兄ノエルは、この分野はサグザーの管轄だと、こう言った事柄については常にサグザーを頼っていた。故に聞きかじった程度なら理解できるが、所詮はそこ止まり。

 

 しかしこの地に使われている技術は、そんな齧った程度の知識ではどうにもならないほど高度なものなのが見て取れる。

 

「……解析するのに、何年かかるかしらね……」

 

 思わず口元が引き攣っている。

独学で超術学を習得発展させて初めてここの技術解析に取り掛かって、10年20年じゃすまないだろうなという見積もりは軽く出せる。

そもそも絶対モチベーションが続かない確信があった。

時間はいくらでもあるなどと、楽観的に捉えるほどぬるい話じゃないのである。

未来永劫わけわからない学問に従事し続けろと言われたら、人はきっとどこかで自分の頸動脈の強度を確かめたくなる筈だ。

 

 しかもさらに気が滅入ることに、内部へ続く階段の先で石像が仁王立ちしている。

……こんな施設を守るように立っている石像が、ただの石像であるわけがない。

もちろん動く。戦闘する。何ならめっちゃ強い。

 

 なお、ロックブーケのメイン火力は水と風の術、最大火力はそれらを融合した『召雷』である。

……水と風は主に防御回復に使うのが良いとされ、あまり威力の高い術はない。

そして、当然ながら石に電気は通らない。

物理超火力を持っている人間でないと突破するのは難しいだろう。

 

「つらいわぁ……」

 

 例えば『霧がくれ』で身を隠して侵入、あるいは風術で移動速度を底上げして強行突破?

内部構造が分かっているならワンチャンあるが、内部の仕掛けがこの石像と連動してたら死亡フラグ一直線である。

開かない扉をガチャガチャしている後ろで石像が棍棒を振り被ってた的な。

 

 ……というかそれ以前、非常に気に食わない。

これでも七英雄と言われた身。そんな自分を攻めあぐねさせるほどの戦力を作れるのならば、あの時とっとと量産してアリに突っ込ませていればずいぶん話が早かったんじゃないのか。

 

「……まずは、とにかく中に入る方法を探すところからよね……」

 

 倦怠感を覚えながらため息をつく。

……ダンターグ、呼べるものかしら。

真っ先に思い付いた突破法がそれだったのも、倦怠感の理由だった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― え?居場所?さあ……東って言ってたし、つまり東じゃね?

 

 ……というふわっふわな証言をもとに、とりあえずサラマットにやってきたわけであるが。

ちなみに証言はかなり前のものであり、なんならその証言主は5~6年ほど前に詩人さんから逃げ出して行方不明、そして今に至ると聞く。

 

 ちなみにあったことある人、とジェラールが聞くとリリィだけ手を上げた。

ビーバー含め、他の人間は近づくと王城の匂いで逃げてしまうのだそうな。なんだよ王城の匂いて。

 

 まあそこは置いといて。

諜報拠点を築こうと地形把握に乗り出したら、七英雄並みにヤベーもんを発見してしまったのである。リリィが。

 

 ――『塔』である。

 

「テレルテバになぁ……古代から残ってると言われる『塔』があるのやけど。

住民にとっては『聖地』で終わってるこの塔、技術者の視点で見るとアレ、何らかの『術装置』なんやねえ。しかも未だに稼働するフシがあるの、もう脱帽なんよ。

……それと同じ類のシロモノやねえコレ」

 

 心なしか、リリィの目がずいぶん遠いものになっているのが印象深かった。

彼女が古代技術の研究を行っているのは、ここにいるメンバー全員承知している事柄である。

 

「……わかるの?」

 

「この塔のおおざっぱな役目だけならなぁ。たぶんテレルテバのやつ巻き込んだ、ずいぶん大掛かりなひとつの魔導装置やないかと見ててな。

……この塔は多分、術力精製・供給装置だと思うんよ。こんだけの術力が励起したまま内部循環してるんやから、それ以外はあまり考えられへんっちゅうか……」

 

「どういう装置なんだ?」

 

「それはわからん。わからへんけど、何に使うんだみたいな量の燃料がぎょうさんここに積んであるいうたら、ニュアンス伝わるかなあ?

……しかも励起ルート見るに、これと同じやつが多分、他にあと二つ三つあるで……?

単純な予備ってわけやないなら……少なく見積もって、これだけの『力』を使う装置やろ?

何に使うか知らんけど、国ひとつ程度、余裕で吹き飛ばせるのと違うん?これ……

 

 ―― 対国戦略兵器。

 

 リリィが遠い目をしている理由を全員が理解して、そのまま頭を抱えてしまった。

犬も歩けば棒に当たるというが、同じノリで厄ネタに躓くのは心底ご勘弁願いたい。

 

「……壊せる?」

 

「パンパンってわけやないと思うけどな?膨らんだ風船にハサミ入れたいなら、私のいない所でお願いしますわ」

 

「とても分かりやすい例えをありがとうねチクショウ」

 

 これぞまさしく、「やってらんねー」ッて感じである。

まさか七英雄がこれに関わってたりしないだろうなと冷や汗しきりだ。

 

 ……もっとも世の中、何故か知らないがそう言う考えをすると()()()()()()()()ような理不尽にあふれているのだが。

誰が言ったか、『運命とは訪れるものではなく牙を剥くもの』なのだそうな。

 

「大がかりな魔導装置のうちの一つって言った……?一応、他のも探しましょうか。おおざっぱにでも把握して、アバロンに技術者出して貰わなきゃだわ」

 

「地元の人なら、こういう遺跡色々知ってるかなあ……?」

 

 

 

@ @ @

 

 

 

「……どーなってんのよこの状況」

 

 思わず、悪態をつきたくなる。

あの石像のいる遺跡で……帝国と、エンカウントするなどと。

 

 

「―― 男ってさ。大概もってスケベよね」

 

 

 ビーバーがいきなり始めた切り口に、意図が分からず眉を顰めるしかできない。

構わずビーバーは後を続ける。

 

「例えば、音に聞くジークさんの人相を指した証言は大体見た目じゃなく持ち物に寄っちゃってて、ぶっちゃけ人相書き描いても曖昧なのよ。左目の仮面とか左手の小手とか。そういうのだけしかわからないの。かろうじて髪の色が黒、くらいかしら?

酷いのなんて『特徴がない顔してる』とか『性格が丁稚』とか『無駄に要領が良い雑用係』とか『全然強そうに見えないんだけどこれを影の盾(シャドウガード)と呼んでるヤツがいるってマ?』とか言われてるわ。

 

―― 対してあなた、すごいわよ?

ウェーブが掛かった腰ほどまである水色のつやのある髪の毛、きめ細やかな白い肌、ヘーゼルの瞳、整ったまつ毛、後は足だのダンスがうまいだの推定身長にスリーサイズとかもうドン引きよ。

集まった証言のうち、胸とおしりと顔の情報が大体トップ3だわ。

 

ねえ……ロックブーケさん?」

 

 ほぼ確信したビーバーのセリフではあったが、それ以上に述べられた内容がオゾまし過ぎて、ロックブーケは思わず体を庇い慄いた。

 

「……それ、証言した奴全員殺しといてくれる?」

 

「残念ながら、うちの現行法では死刑に持っていける罪状じゃないのよセクハラは」

 

「これだから国ってやつはキライなのよ!貴族だったら人のお尻撫でて良いと誰も彼もが思ってる」

 

「貴族として大変申し訳ないとは思うが、それでも僕が撫でたいお尻は世界にひとつだけだと声を大にして言わせて頂こう!!」

 

ちょっと黙っとけそこの老害!

 

 ジェラール、愛娘に老害呼ばわりされてぐずつきながら地面にのの字を書き始めた。

信じられるか?50超えてるんだぜこれ……

 

「……今、アバロンで流行ってるのよね。術力循環による活性法*2。若さの秘訣を詰められたジークさんが漏らしたって奴。

パパと同じぐらい歳行ってる筈なのにともすれば20台に見えるほど若々しいのは、ジークさんに教えたのがロックブーケさんだからかしら?

 

―― それとも……本当に七英雄だから?」

 

「さてね。ご想像にお任せするわ。

……でもそう、出来るようになってたのねアイツ。まあ、そのぐらいは普通にやるか。

若さの秘訣を詰められて技法を漏らすあたりが実にアイツらしいけど」

 

 遺跡を一瞥してロックブーケは目を細めた。

 

「……で、私も聞くんだけど。バレンヌ帝国ご一行がこのジャングルに何の用かしら?」

 

 ビーバーは逡巡した。

当然ながら、設立された『七英雄対策室』については口にするべきではない。向こうがこっちにどういう感情を持っているかわからないのだ。

 

 ……それに、彼女が『本物』だった場合。

自分たちはそのまま敵に見えるだろう。

実際にここには、ボクオーンを倒したジェラールと、()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「……十分ご存じのようだけど。このジャングルには、強烈な爆弾が眠ってる。

古代文明の遺産とも呼ぶべき、超科学の産物が」

 

 実は、これも危険度が高い開示だ。

彼女の目的は、明らかにあの遺跡に見える。

その理由如何によっては衝突もやむを得なくなってしまうのだが。

しかしそれしか説明できる理由がなかった。

 

「ただの生活圏の遺跡だったらまだ良かった。けど、うちの技術者は非常に危険な施設である可能性を提示したわ。

……国ひとつ消し飛ばすのに十分すぎるほどのエネルギーを取り扱っていて、かつそのエネルギーが今もなお蓄積されているそうよ。

凶悪な戦略兵器の線を想定しなければならなくなった……放ってはおけないのよ」

 

「凶悪な戦略兵器ィ?」

 

 彼女の中では随分的外れな想定だったのだろう。

怪訝そうにオウム返ししたのち、しかし次の瞬間ハッとしてみせる。

 

「……いや、あるか。確かに十分あり得るわね。

あいつらの事だから、サグザーに秘密にしたまま子飼いの研究者使って、エネルギーをバイパスする仕組みこっそり作って超術学兵器作るくらいは普通にやりそうだわ。だってあいつらだもの。

追及されても「アリに対抗するため」っていう名目も一応作れるし、リソースがあれば絶対そういう事するっていう嫌な確信がある……!」

 

 漏れ出るセリフにはあまりにもあんまり感が漂っていたが。

ビーバーの首筋につつっと嫌な冷や汗が伝った。

 

 明らかに、遺跡作成当時の事をよく知っていなければ出てこないセリフである。

そしてそれは古代人以外にあり得ず、故にこそ……ロックブーケは、本物ということになる。

そしておそらく、ノエルもだ。

 

「……ずいぶん事情に詳しいのね」

 

「そうね。……それで、帝国はその凶悪な戦略兵器使って何しようっていう訳?武力による覇権でも握ってみる?」

 

「……あいにく、管理できるほど大人しい物には見えないというのが個人的見解ね。今の人類には早すぎる代物だわ。

―― 人が近寄れないように封印するか、破壊するか。その手段を探す必要がある」

 

「ふうん?」

 

 ロックブーケの目が細まった。

 

「なら……相容れないわね。タダでさえ解析に難儀しそうなのに、その上変な工作までされるとか溜まったモンじゃないわ」

 

「……使う気なの?」

 

「そうね、そうなると思う」

 

「武力による覇権を握ってみたいって?」

 

「まさかでしょ。空に浮かぶ星の数を数えるぐらい意味のない事だわ。

……そうね、こっちの事情にズカズカ踏み入られるのも癪だけど、一つだけ教えてあげるわ。

あれは次元転移装置。国ひとつカバーできるほどの範囲を別の世界に送り込める代物よ。まだ解析できてないけど、その筈だわ。

……なるほど、本来の使い方をしても一応戦略兵器にはなりうるわね」

 

「別の世界……?なんだってそんな……」

 

「さてね、別の世界に行きたくなったからでしょ。教えるのは一つだけよ。

……いや、あいつらなら別の世界含めて武力で覇権握るとかガチで考えそうではあるけど。

これはね、私たちの目的にも関わる事なの。

無視しといてあげるから、遺跡の事は忘れて回り右して帰りなさい」

 

「……それで、いつ誰に向けられるかわからない爆弾を放置しておびえて生きろと?

せめて情報がないと対策もできないわ」

 

「知った事じゃないのよ。これが最後に使われて何年経った?私も正確な所は知らないけれど、100年1000年じゃ効かないでしょ。でも、それだけの間、これが再び使われる事は無かったはずよ。

そういう心配をするなら、せめてこの遺跡を理解できるほどに超術学の下地を作ってからするべきだわ」

 

「今まではそうだったかもしれないけど、もうそうでは無くなってしまったわ」

 

「……なに?」

 

()()()()使()()()()()()()()()()()()()

 

 今まで見向きもされなかったから、使われなかったのだと。

もっともなその論に、ロックブーケは面白くなさそうな顔で肯定した。

 

「……そうね、一理あるわ。

それで?結局、互いに衝突するしかないという点が明確になった訳だけど……()()()()()()()()()()()?」

 

 右手に幻体の剣を呼び出す。

明らかな戦闘態勢に、他の5人がとっさに身構える。

―― ビーバーだけ、涼しい顔で立ったまま。

 

「提案があるわ」

 

 にっこりと笑いながら、のたまって見せる。

 

 

―― 協力しない?遺跡の解析

 

「「「「「「はあ!?!?!?」」」」」」

 

 

 あまりにもあんまりなその提案は、その場にいた全員が聞き間違いを疑うものだった。

唯一、ジェラールだけがその後「……なるほど、アリっちゃアリか」と納得の姿勢を見せていたが。

 

「裏切る事が分かってる奴と手を組めって?アホなの?」

 

「そうよ。抜け駆け前提で手を組もうって言ってるの。

……時計の針は間違いなく早くなると思うわよ?あなた、まだ解析できてないのでしょう?

こっちもね。こんな案件後世に残されるの溜まったモンじゃないのよ。だったらそう言う体制が取れる内にパッパと処理しちゃいたいの。ある意味リスクを取ってもね。

―― もっとも?この件に私たちの寿命が切れるほど時間を掛けたいって言うのであれば話は別だけども?」

 

「お、おいビーバー!さすがにそれはリスクが高すぎないか!?」

 

「それだけの権限は任されている筈よ。問題ないわ」

 

 涼しげに仲間の制止をいなして見せるその姿に、ロックブーケは苦虫を嚙み潰したように顔を歪めた。

 

「抜け駆け前提の協力、ね……あんた、ボクオーンとは別の方向でタヌキだわ」

 

「あら失礼ね、女の子にタヌキだなんて。キツネの方が私好みだわ」

 

「そこはビーバーにしときなさいよ」

 

 諦めたように溜息をつく。

そして、クイッと親指で遺跡の方を促した。

 

「……ま、いいでしょう。アンタたちがどこまでやるか知らないけれど、自信があるなら当たってみたら?」

 

 すぐに知ることになるだろう。

階段の上で待ち構える、堅牢な守護者の存在に。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― エイルネップ神殿。

この先の神殿は、そう呼ばれているらしい。

神殿ではあるが誰もその中を見たことがない。

荘厳な階段を上った先に神殿内部への入り口がある構造なのだが……その入り口の前に、巨大な石像が立ちはだかって居るのである。

 

 ジョンが、見上げて言った。

 

「スゴイな……あれ、一目で「あ、これ動くな」って解るわ。そんな見た目してるわ」

 

「めっちゃ頭の悪い感想やねんけど、なんかウン……わかるわぁ」

 

 アホなことを言っている二人を置いて、会話が進む。

 

「見た目通りの防御力と、駆動性能があったとして……レギン、爆破できそう?」

 

 今まで寡黙だったレギンが、しかし鋭い目つきをそのままに静かに所感を述べた。

 

「……動かなければ。あれに取り付いて爆薬を仕掛けるのは難しそうだ。故に、()()()()やり方が良いだろう」

 

「了解、ポイント選定は任せるわ。……ロックブーケあなた、さっき剣出してたわね。前衛で動き回れる?」

 

「……私もやるの?」

 

「『協力』でしょう?こっちは軽装系前衛2枚だからもう一人居てくれた方が安定するのよ。

……もう少し具体的に言うと、もう1枚ないとここに50超えた片腕のおっさんが年甲斐なく入ってこようとするわ」

 

 視線を滑らせた先では、なんかスゴいやる気になっているジェラールがストレッチなんか始めている。

 

「ねえ、思い出したんだけど……こいつもしかして皇帝やってなかった?どっかで肖像画見たことある気がするのだけれど」

 

「不肖の親よ。不肖というのは、『愚かな』という意味よ」

 

いいわよ説明しなくて

 

 頭痛を覚えながらロックブーケは指を鳴らした。

励起された術力が風を呼び、その場にいた7人全員の体を駆けて膜を張る。

 

BGM: 熱情の律動

https://www.youtube.com/watch?v=sNvWC_lTP38

 

「んな……まさか『エアスクリーン』!?7人同時に!?!?」

 

 その壮絶たる難易度を思いアガタが上げた声を、鼻を鳴らして一蹴。

 

「―― もともと後衛の人間に前衛張らせるのだから、ちゃんと成功させなさいよ!!」

 

「ええ、段取りはつけるわ。適当に合わせて頂戴 ――

 

―― 行くわよッッッ!!!

 

 

 ビーバーとジョンが駆けていく。

アバロンメンバーの前衛2枚とはこいつらか、と納得しながらロックブーケはウィンドカッターを放った。

眼前に風の刃を受けてしかし、その石像は何の痛痒も見せなかったがそれでいい。気を向けさせるだけを目的とした攻撃だ。術力だってそんなに注ぎ込んじゃいない。

 

 ロックブーケにその剣を振り上げる隙を狙い、ジョンとビーバーが両サイドから猛連撃を叩き込む。

片や短剣(ダガー)、片や片手剣による連撃はしかし、石像に傷を入れる程度に終わった。

 

「見た目通り固いわね!!」

 

「継ぎ目が見当たらないんだが、どうやって動いてるんだこいつ!?」

 

 振り払うような石像の攻撃を危なげなく回避しつつ、さらに余裕が見て取れる。

確かに石像の挙動は遅い方ではあるが、それでもこの捌き方を見るだけで二人の実力が知れるというものだ。

 

 ―― 特に、ジョン。

その剣技は長く研鑽している自分よりも上を行っているように見えて、正直ロックブーケの内心を苛立たせた。

 

 そのジョンが、その卓越した剣技に似合わない軽さで悪態をつく。

 

「ええい、せっかく新開発された良いやつ譲って貰えたのにテンション下がるお肌しやがって!俺の給料じゃ買えないんだぞこの剣!?*3

 

「備品よね??ジョンのじゃないわよね??譲られてないわよね???」

 

「『ライトボール』行くよーっ!」

 

 ところどころ緩いのは元からなのか、それとも相手が不足しているのか。

しかし仕事はしっかりこなして見せるのである。

 

「視界塞いでも目に攻撃しても動きに変化なし……こいつ、顔に感覚器があるワケじゃなさそうやで!!」

 

「なかなか良い体幹してやがる!適当に足を攻撃するだけじゃ崩れないぞこいつは!」

 

「術もあんまり効果なし。……まあ半ばわかってたけど、やはり物理高火力ね」

 

「了解、予定の変更はなさそうだわ。フェーズ2に移るわよ!」

 

 術や技による遠距離攻撃に切り替え、少しずつ下がっていく。

この石像の行動範囲に限界があったらどうするかという賭けの部分もあったが、どしどしと階段を下ってくる様子を見ると、そのあたりは杞憂のようだった。

当然か。あるラインから超えられないとなれば、そのラインの外からしつこく遠距離攻撃をしてれば倒せることになる。

 

 ―― しかし、今回はその仕様が仇となった。

石像は自分たちを追いかけ、しかしレギンの仕掛けたキルゾーンに気付かない。

 

 レギンが棍棒を取り出した。

……いや、果たしてそれは本当に棍棒なのか。

まるでそれは厚さのある、長い鉄の筒のようだった。

その一方には木製の持ち手のようなものがついている。

そしてもう一方の筒の先を仕掛けた爆薬に向けると、完璧なタイミングでつぶやいた。

 

「―― Fire」

 

 ―― 術力の励起。

それが筒を伝うと、筒の先が爆発したように火を噴いた。

そして果たしてボルトか術か、目に見えないほどの速度で撃ち出された何かの礫が仕掛けた爆薬に着弾する。

 

 

 ―― ドゴガガンッ!!!

 

 

 事前に張られた『エアスクリーン』の膜の上からでも響く強烈な衝撃。

3か所ほどに仕掛けられた爆薬が、石像を巻き込んで一斉に誘爆した。

瓦礫や土煙と共に石像が倒れ、ズズンと重厚な地響きを立てる。

 

「う、っくう……!?ちょっとあんた達、こんな物騒なモンいつも持ち歩いてるわけ!?!?

っていうか今『銃』使った!?異世界の技術よそれ!?!?」

 

 ロックブーケの叫びにしかし、レギンは眉一つ動かさない。

 

「――『見たまま』だ。それが全てだ。それよりも追撃に入るぞ」

 

 リリィが飛び出していた。

改造されているタンブラーロッドを振り被り、「どっせえええいッッッ!!」と叩きつける。

『フルフラット』と呼ばれるそれは、前衛ではないリリィであってもなかなかの威力を叩き出した。

 

 石像の表皮に、ヒビが入る。

 

 必要なのは斬撃でも術でもなく、質量攻撃。

後衛2番手でアガタが飛び出す。

こちらの得物はやはり改造されたリバティスタッフ。

 

「よいっ、しょおおおっっっ!!」

 

 爆破個所に続く『フルフラット』の2連撃。

ヒビの入っていた表皮がついに剥がれ落ち、内部が露出する。

 

 そこから垣間見えたのは、一般的なからくりにあるワイヤーや歯車などではなく、術力が奔る回路や脈動する繊維、血管のように這わされたパイプのようなものだった。

つくづく、理解できない超技術で作られているのだろう。

 

「―― よくやったわ!!後は任せなさい!!」

 

 ジョンとビーバーがさらに追撃しようと駆けるのを止めて、ロックブーケが術力を励起させる。

 

 風と水の合成術の極致。

もはや代名詞ともなったロックブーケの召雷が、露出された部分を通して石像の内部を破壊的に搔き毟った。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

「……厄介なんてレベルじゃなかったわね」

 

 ロックブーケのことを思い返し、ビーバーは小さくため息をついた。

あれが本物の七英雄かと、正直感嘆しか出てこない。

 

「卓越した術者……しかも剣も使える、と。といっても、剣技は見れなかったわね。かなり動けてたから、付け焼刃ってわけじゃないんでしょうけど。

囮に徹してくれたから随分戦いやすかったわ。視野が広いタイプね。もともと後衛と言ってたのは本当なのでしょう」

 

「『エアスクリーン』7人同時掛けよ?私も術の天才なんて持て囃されたりしたけれど、ほんと上には上がいるわね。あんな神業、見たことないわ……」

 

「さすがのアガタも脱帽、か。ちなみに最後の雷はなんだったのかしら?似たような事はできる?」

 

「風……と、水かしら……?多分合成術の一種だと思うけど。励起がなめらかすぎて見て取れなかったのよ。今の術理解じゃ、あそこに達するのは随分難しいわ」

 

「あれ合成術だったのか?天術だと思ってた」

 

「天術単体じゃ、あれと同じ現象を起こすのは難しいかなぁ」

 

 『七英雄対策室』

頭が痛いのは、ゆくゆくはあのロックブーケをどうにかしないといけない事だった。

 

「……レギンはなんかある?」

 

「……」

 

 沈黙したままタバコを吸っていたレギンが、促されたことでタバコの火を携帯灰皿に押し付ける。

 

「私の マギアショットver16(M16) を『ジュウ』と呼んでいたな。異世界の技術だと。古代の装置も『次元転移装置』だという話だった。

……この辺りに、奴ら古代人の秘密や目的の一端を垣間見た気がしている」

 

「なるほど、そういう切り口……」

 

M16(これ)は家が独自開発したものだから、異世界の技術云々は関係ない。だが、奴らを探る上で、『異世界』という単語は重要なファクターのひとつになる可能性がある……」

 

「ふむ……リリィはそのあたり抑えてるんだっけ?」

 

「いやあ、専門外ですわ。ウチの古代技術研究のアプローチは、決まってゲンブツの解析が7、その周辺の考古学的な調査が3やからねぇ。

なんなら『異世界』なんてファクター、今回初めて知ったようなもんやで?」

 

 フーム、とジョンが思案して顔を上げた。

 

「……ジェラールさん。追加情報突っ込みますけど、構いませんよね?」

 

「ああもちろん。この面子は『七英雄対策室』だ……知って置く義務がある」

 

「……うん?」

 

 皆の視線が集まる中で、コホンと軽く咳払い。

 

「―― これはバレンヌの最重要機密事項だ。言うまでもなく、今から聞くことは全部墓の中まで持ってくようにしてくれ。

 

……かつてアバロンに、「オアイーブ」と名乗る古代人が接触してきた事がある。

そいつが言うには、七英雄はかつて古代人が追放したのだそうだ。

しかし七英雄は戻ってきて、古代人と敵対しているのだと。

それに現代人が巻き込まれる事になるから、オアイーブはそれに対抗する武器として、アバロンに『伝承法』という術を残し去っていった」

 

 反応を示したのは、アガタ、リリィ、レギンの3人だ。

 

「『伝承法』……?」

 

「簡単に言えば、『記憶』と『技術』、そして『力』を受け継がせる事ができる術だ。受け継ぐ方と受け継がれる方に強い意志があれば、それは成る。

しかもトンでもない事に継承元が死んでいても有効でね。31代目以降の皇帝陛下は全員、この『伝承法』で先帝の力を継承してきている」

 

「なにその反則術!?代を重ねるごとに超人になってくやん!?他国が存在知ったらトンでもない事になるで!?……いや待って、トーマ帝は確か……!?」

 

「だから、内緒だ。最重要国家機密な。これ以上の情報は基本、遮断する方向で扱っていくから承知しておいてくれ」

 

 口元に指を当てるジョンだがしかし、レギンはさらに追及する。

 

「……ジェラールとビーバーがそれを知っていたのは解る。当事者の上に皇家だからな。

だがジョン、いかなトーマ帝に見いだされた『切り札』だからとて、お前がそれを知っていたのは解せない。

……ならば、そこに理由があるということだ。

 

―― つまり、お前か。当代の『伝承者』は

 

 核心を突くその言葉に、ジョンは冷や汗を流しながらジェラールを見た。

どうしようもないね、とばかりに肩をすくめる。

 

「『伝承法』は生きている時にも伝承させる事ができるし、伝承したからと言って『技術』と『記憶』が消えるわけじゃあないんだ。『力』もある程度は残る。

ならばってことで、トーマの発案でね。

当時必要とされた対スービエ用の戦力、皇帝以外の絶対戦力を増やす運用のテストケースとして見出されたのがジョンだったという訳さ。

……なのでジョンは、トーマに何かあった時の次の皇帝として内定してたりします」

 

「……まあそんな訳だビーバー。皇帝やりたかったらいつでも言ってくれ。了承はしたし覚悟もあるが、正直皇帝はガラじゃない」

 

「おあいにくだけど私、影の組織(シャドウワーカー)の現場しかやりたくないの。ガンバってね、次期皇帝さん?」

 

「……Story of my life(泣けるぜ)

 

 ジェラールが苦笑しながら後を続ける。

 

「―― さて、これで君たちは『伝承法』について知った事になる。このズル技だけど、一つ弱点がある。継承先となる人間が『伝承法』を知っていなければならない点だ。

極端な話、『伝承法』を知る人間がいなくなった場合、アバロンから『伝承法』が消えてなくなることになる。

 

―― 故に必然的に、『伝承法』の存在を知った君たちは、次の『伝承先候補』になりうる。心して置いてくれ」

 

 ジェラールが3人を見回す。

……誰も、不満の声は挙げなかった。

 

「……話がそれたな。オアイーブの話だが、七英雄はその強さに秘密があるらしい。

『吸収の法』とかいう秘術でモンスターの力を吸収しているのだそうだ。

だから本来、人のままでは太刀打ちできない……オアイーブが『伝承法』を渡してきた理由なわけだが。

思い返してみればボクオーンにスービエ……確かにモンスターを吸収したに相応しい、人とは異なる形をしていた。

でもロックブーケはそんなことはなかった。ノエルもそうだと聞く。

……もっとも、この論法だと吸収した後の姿は既知のモンスターに近くなければならない気もするが……とにかく、二人は見た目からして完全に人間だ。

―― 俺としては、この辺りが気になっている」

 

「つまり、私たちに見せていない奥の手があると。……まあ、そうでしょうね」

 

「……それでも物理高火力はないと思って良いだろう。奴は最初、石像をほうって遺跡から出てきた……つまりアレを相手に攻めあぐねていたという事だ。

ならば奥の手があるとして、それは術か状態異常に寄っていると推測できる」

 

「もっともな話ね。状態異常か……毒とか麻痺とか、後衛ポジションでのサポート手段としてはオーソドックスな方か。

アガタ、そのあたりの対策とれるかしら?」

 

「手配してみるけど……さすがに限界あるわよ?」

 

「ええ、出来る限りで構わない」

 

 あの遺跡を攻略して結果できた()()()()()()

それを使って、出来ることは全力でやるしかない。

それはこの場にいる、全員の共通認識だった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ロンギット通商連合のおかげで、海に面してさえいれば物資はもとより連絡も取りやすくなった。秘匿性の高い文書を扱う会社も現れて、影の組織(シャドウワーカー)もそう言ったシステムを使い始めている。

 

 ……本音を言えば、そう言ったシステムも自前で用意してリスクを低減したいところではあるのだが。今から用意するのは色々とコストや運用がきつい。

ロンギットが絡むと色々後手に回っている現状が悩みどころである。

 

 ―― そして今、さらなる悩みどころが追加される。

 

「サラマットの次元転移装置……か」

 

「対策室発足1ヶ月もせずに、ノエルとロックブーケが『本物』であると確認し、そのうえロックブーケの能力をある程度引き出して対策まで挙げてみせるのは、流石の仕事と絶賛したいところではあるんですがね。

まあ、世の中そこまで都合よくできちゃいませんでした」

 

 平文化された方の報告書から顔を上げて、トーマは思わずぽかんとする。

 

「……並べてみたら本当に凄まじい功績だなビーバーは。それは親バカ通り越してバカ親にもなりたくなるか」

 

「キャットは数えんでやってください。あれは一生懸命自制してます」

 

「くく……旦那が吹っ飛び過ぎてるからとプラマイゼロにするのはキャットがあんまり過ぎるな」

 

 ―― まあ、こちらの話題は最終的に苦笑しか出てこないのは解っている。

 

「すまんな、話を戻そう。

エイルネップ神殿におけるロックブーケの述べた所感は非常に興味深い。

『次元転移装置のプレゼンの為に意味わからないコストと技術をつぎ込んだ、無駄と虚栄心をべき乗したこの世で最も要らない施設の極致。何かに転用してあげた方がむしろ設計者も浮かばれる』とまで言わしめたと。

むしろ現物をこの目で見たくなるな。ここまで言われると逆に興味が湧いてくるではないか」

 

 なんでも、調べるなら勝手にしろ、欲しいなら(自分のではないが)くれてやると非常にげんなりした様子だったとか。

 

「次元転移装置のコントロールシステムどころか、次元転移装置の一部ですらなかったそうですからね。一応メインシステムらしき映像が確認できたそうですが……それはあくまで建造当時の映像であり、現代での場所は解らないとか*4

 

「結局のところ、勝負はメインシステムをどちらが先に見つけるか……か。よもや七英雄を相手にする中でかような事態になるとは。

サラマットは広い以前に、同じようなジャングルが続き方向すら見失いがちだと聞く。

現地に明るい増員がいるな……手配することは可能か?スパロー」

 

「現地協力者レベルであればなんとか……さすがに影の組織(シャドウワーカー)はあそこまで浸透していないんですよ」

 

 バックアップするにしてもリソースや経路に限界はある。

エイルネップは、アバロンからは流石に遠すぎるのだ。

 

 トーマは思案した。

 

「ふ、む……宰相、帝国の予算枠にまだ余裕はあるか?私の記憶では、開発に回す対象を決めようとしていた気がしたが」

 

「はい、ご認識の通りです。……如何なさるおつもりで?」

 

「対ロックブーケに間に合うかは流石に微妙過ぎるが……エイルネップ神殿を経済進出・バックアップ拠点として利用できないだろうか?転用した方が設計者も喜ぶのであろう?

……地元民との摩擦が不安ではあるが、確かあそこはそこまで交易が盛んではなく人の往来も少なかったはずだ。しかし観光地としてのポテンシャルはある……十分利益を提供できるのではないかと思う」

 

 宰相が逡巡した。

頭の中で、これによって発生する利益も概算されていく。

ただ消費するだけの予算ではなく、経済的な利益につながる余地があり、かつ『七英雄対策室』のバックアップも見える。

しかもロンギット通商連合は、まだエイルネップに手を入れられていないのだ。

 

「……なるほど。良い手かもしれません。

ネックとなる交通面はこちらで開発する認識でよろしいですかな?」

 

「ああ。確か空路キャラバンが発足し始めていたな。

ルートや輸送量はかなり限定的であったが……専属契約、またはパトロンをやっても良い。エイルネップへの交易ルートの共同開発を呼び掛けてみてくれ。

あるいはこれが成れば、ワグナスへの足掛かりの一助にもなろう?

スパロー、この計画に影の組織(シャドウワーカー)の人員を嚙ませてくれ。バックアップをスムーズに行える基盤を作っておきたい。選定と計画は任せる」

 

「こりゃまたデカい話を……了解、まあ何とかしてみますよ。

まずはエイルネップとの交渉かな……」

 

「よろしく頼む。拙速で構わんから急いでみてくれ。おそらくあるだろう対ロックブーケに間に合わせたい」

 

「え、いやそれは無理でしょ常識的に考えて」

 

「……いやまあ、私もそうは思うんだがその、気持ち的にはな……?」

 

 

 

 そんな話がアバロンで決議されることになった。

話がかなり大掛かりだった為に結局ロックブーケ戦には間に合わなかったが、この時の決定は経済的な成功と共に、のちの『七英雄対策室』の活動に大きな貢献を齎す事となる。

 

 ―― しかし一方でこれは、次元転移装置を封印・排除したいバレンヌと、解析・利用したい七英雄という決定的な図式を作る一助にもなってしまうのである。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

「あ」

 

「お」

 

 道すがら、ロックブーケは思ってもなかった顔に出会った。

測量装備と思えるものを抱えながら、手元の紙に色々書き込みつつ慎重に歩いていた見知った顔。

 

「クジンシー!あんた、こっちに来ていたの?」

 

「おー、久々じゃん。そっか、ロックブーケもやっぱこのあたりのもろもろ調べてたのか」

 

 はるか西の地で酒場の丁稚をやっていると思っていたクジンシーだった。

 

「なに、アバロンはどうしたのよ?」

 

「ロックブーケ、俺決めたんだ……この先の人生、詩人のいない世界で生きて行こうって

 

 脳裏に浮かぶのは、いつぞやのすごいウザい生き物である。

 

「………………。

 

………………そう、叶うと良いわね」

 

「ありがとう」

 

 さすがのロックブーケにも、あれくらい許容しろと言わないだけの情けは存在していた。

 

「……で、何?アレがいないであろうこのジャングルでこれから生きて行こうって?」

 

「いやそう言う訳じゃないんだけどさ。古代の遺跡がこっちにかなりあったって聞いたから、来てみたんだよ俺も。

そしたら『術塔』だっけ?普通にあるしジャングルにも沈んでるし。

俺、技術的なとこはあんまり良く分からないけど、だったらせめてそういう遺跡が残ってる場所とか地形とか全部記録して地図に起こせば、みんな助かるかなって思って」

 

「マメねアンタ……年単位の作業になるわよ?」

 

「うん、2年目。どのぐらい進んでるのかも良く分からないんだけど、とりあえず続けられるだけ続けてみるつもりで」

 

「なに去年からこっち居たの!?……スゴいわね、今心の底からアンタの事尊敬したわ」

 

 恥ずかしそうに、控えめにドヤ顔ダブルピースしてみるクジンシーである。

 

「でも丁度良かったわ……ヒド過ぎるハズレ引いて、ちょっとどうしようか悩んでいたのよ。アンタが抑えてる古代遺跡、現時点でどのぐらいわかってる?私の知らない遺跡あるかしら?」

 

「うええ?地図としてはまだ書き込みだらけで、これの上でさらに清書する予定だったんだけど……わかるモノかなあコレ?こことここと……」

 

 未だぐだぐだな地図を見ながらすり合わせた。

ロックブーケも伊達に長くこちらでの捜索を行ってはいない。地元民と言えるほどの土地勘はすでに身についており、方角とおおざっぱな地形さえわかれば「ああ、このあたりか」と何となくアタリをつけられる程度はできるのである。

 

 そして。

 

「ここは……知らないやつね」

 

 ロックブーケが指を置いたのは、クジンシーが『ジャングルにも沈んでるし』と表現した術塔だった。

 

 今までロックブーケが見つけてきたのは、いずれも術力の経路や貯蔵に使われるような役割のものばかりで、メインシステムと呼べるような物にはぶつかっていなかった。

逆に言えば……ここがメインシステムの可能性がかなり高いと言う事になる。

 

「本当に助かったわクジンシー。歩いて探すのが頭打ちになり始めてたのよ……アンタみたいに『しらみつぶし』やるには、相当な覚悟が必要だったものだから」

 

「わかる。ここ、ちゃんとした目印があるわけじゃないからマッピングものすごいやりづらいもんな……」

 

 クジンシー、もはやマッピングをやり過ぎてマッピングには一家言あったりするらしい。

そのマッピングのプロを以てしても、やはりジャングルは厳しいと言う。

というか、マッピングなんて普通歩ける所しかやらないと。

地形しらみつぶしという今回の案件が外れすぎているとか。

 

「……というか、あんたの現状のと、私の知ってるやつ合わせて全遺跡網羅してたら、この地図無駄になるわけ?もう1年注ぎ込んでんのよねコレ??」

 

「いやまあ……うん。どこかに売れそうな気はしてるけど……こんな時、一番買ってくれそうなヤツは、今はいないからさ」

 

「……」

 

 ボクオーンの事を想う。

幻体である自分たちは、死んでもいずれ復活する。

しかしそれは数百年の眠りの後だ。

その時にはもう、この世の中がどうなっているかはわからない。

 

 アビスリーグという、ボクオーンの後を継いだという者たちがいるのは知っていた。

ボクオーンは確かに種を()いていたのである。種を()けていたのである。

 

 ならばその種がどうなるのか、自分は外から見守ろう。

その種の行く末を見守って、いつか復活したボクオーンにそれを教えてやろう。

―― クジンシーはそう考えて納得したのだ。

 

「……案外、やり残したことは有り余っていても。

悔いその物は無かったのかもね、ボクオーンも」

 

 ロックブーケもそう納得している。

恨みだの悔いだのを残して沈むほど、要領が悪い仲間には見えなかった。

 

 ……それは決して、『自分もそうだ』と言う話ではないわけだが。

 

「……伝えておくわクジンシー。このジャングルに、アバロンの連中が来てるわよ」

 

!!!????!?!?!?!?!?!??!?(声なき声)」

 

「……いや、別にあのウザい詩人は来てないわよ」

 

 あんまりオーバーなアクションをするもんだから、もう引き攣るしかない。

クジンシーが親の後ろに隠れる幼児みたいな目でぷるぷる目に涙を溜めながら、

 

「ほ、ホント……?ホントに来てない……?

俺の『死神の目』を模したグッズ作って安価で売りさばいて、それ使ってヒーローごっこするキッズたちによる包囲網作ったりしない……?」

 

 そら逃げるわ。

 

 こいつ、サラマットの次元転移装置云々が手早く片付いても、なんだかんだ理由をつけてジャングルにいそうな気がする*5

 

 ため息を付きつつロックブーケは警告する。

 

「……気をつけなさいよクジンシー。来てるのは先帝を含んだアバロンの精鋭部隊。

未だ稼働する古代遺跡の危険性を察知して、何らかの対策をするつもりだと言っていたわ。

……まあ多分、それだけじゃないんだろうけど。

ずいぶん戦力として整ってたから、私たち『七英雄』の対策チームでも組んだんじゃないかしら」

 

 それだけの理由になる事件が起こってることぐらいは、ロックブーケも把握していた。

 

「結局あいつらは遺跡を使わせたくない。私たちは使いたい。

ボクオーンとスービエの事が無くったって、この点において衝突は確定しているのよ」

 

「……戦ったのか?」

 

「共闘する機会があったわ。ずいぶん特殊なチームだった……もしかしたら、私も危ないかもね」

 

 物理高火力。

それが必要な場面において、個の地力ではなくメンバーの総合力とツールで何とかして見せた。

大抵の相手はゴリ押しできる実力を持ちながら、その実絡め手を得手とするタイプである。それによりあらゆる状況に対応する、そう感じたチームだった。

 

 こちらの手札はそこまで見せていないが、いったいどう分析されているのやら。

 

「ノエルは?」

 

「移動湖に再挑戦中よ」

 

「……一人で?」

 

「ええ。心境の変化というのかしら……私たちの目的の先に移動湖があるんじゃなくて、ロマンとして移動湖を追い求めてる部分が出てきたみたいでね。

……そんなお兄様の邪魔はしたくなかったから、時々合流する形にシフトしたの」

 

 ロックブーケの表情に柔らかい笑みが浮かんでいた。

以前のようなどこか危うげなノエルの姿は、もう無くなったらしい。

 

「尽くしてるなぁ、ロックブーケ……」

 

 ふんす、とドヤ顔するロックブーケである。

 

「でもさ……そういう話なら、しばらくノエルと合流しといた方が良いんじゃないか?」

 

「……その点については口出し無用よクジンシー。

臆病なだけでは何も進めないし、今から合流してもバレンヌに時間を与えるだけだわ。

私は私で考えてるの」

 

「お……おう。ロックブーケがそう言うのなら……」

 

 きっぱり言い切るその姿にあっさり引き下がるクジンシー。

この辺りはやはり、性格が小市民という事なのだろう。

 

「―― なら、俺に何かできることあるか?」

 

 それでもそう申し出るクジンシーにロックブーケは小さく苦笑した。

 

「そうね……アンタが作ってる地図、私もマジで欲しいから完成したら売ってちょうだい。遺跡だけじゃなく地形情報も集落情報もモンスター情報も入ってるんでしょそれ?」

 

「わかった。……ってーか、別に金は要らないのに」

 

「そんな貴重すぎる情報の塊を仲間内相手とはいえ大安売りするんじゃない!!

ボクオーンだってしっかり払っていたのでしょう?何?私はアイツ以下なワケ!?」

 

「ぴ。……わ、わかったよう」

 

 なぜ金を払おうとした方がこじれるのか、これが分からなかった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

「……恨みも悔いもなく、か。私にはきっと、無理ね」

 

 ロックブーケのつぶやきが、虚空に溶けていく。

 

「お兄様……ワグナス様……

私は……ロックブーケは……

ちゃんとお力に、なれていますか……?」

 

 灯火(トーチ)の剣。それを握るたびに思い出す。

かつての想いを。自分の原点を。

 

 そして、討伐隊に強引に入ってしまったことも。

 

 クジンシーは低能力者だった。

しかしその身で『吸収の法』の先駆けとなり、『そうあれかし』という法則を見つけ、灯火(トーチ)というシステムの原型を見出して見せた。

『功績』という点では自分よりも先を行っている。ロックブーケはそう感じていたのだ。

 

 ノエルもワグナスも、そんなことを望んでいないことは解っている。解っているのである。

しかし自分の中から湧き上がる思いは止まらない。灯火(トーチ)を握っていると特にだ。

 

―― お兄様の、ワグナス様のお役に立ちたい。

 

 それが原点であったからこそ、ロックブーケは自らに『功績』を求めてしまう。

クジンシーよりも大きな『功績』を。

 

「……嘘つきね、ロックブーケ」

 

 私は私で考えてる、なんて。

そこにあるのは『考え』なんて高尚なものではなく、ただの『意地』であるくせに ――

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 異常気象により土中に沈んだその塔は、その有様がゆえに機能を停止していた。

術力の経路が完全に切断されてしまっているのだ。何らかの方法で術力経路を引き直してやらないと動かす事は出来ないだろう。

 

 だが、記録(ログ)はちゃんと残っていた。

コントロールシステムではなかったが、メインシステムという『当たり』を引けたのだ。

 

 ―― という事は、ここから逆に辿ってやればコントロールシステムに行きつく筈だし、そうでなくてもここを解析すれば奴らの『行き先』も辿る事ができる……!

 

 今までにない、大きな大きな一歩を踏み出せた感触。

―― しかし、障害もまたそれに合わせてやってきた。

 

「……あなたたちも見つけたのね、ここを。

こんな直ぐ辿り着かれちゃ、私の立つ瀬が無いじゃない……これは単純に、私の『引き』が悪すぎたのかしら。

『お祓い』なんてガラじゃないけど、ちょっと行ってみたくなってきたわ」

 

 右手に握る灯火(トーチ)の剣。

振り返った先にいたのは、いつかの6人だ。

 

「……徹底解析するなら、近くに拠点を構えられる場所があるか、最低限補給場所は確保することになるわ。

そしてジャングルの中において、あなたのような人は目立つ。ずいぶん目立つのよ。

……私たちが探したのはこの沈んだ塔じゃない。あなたよ、ロックブーケ」

 

「なるほどね……ハエのようにうるさい連中だわ」

 

BGM:七英雄バトル

https://www.youtube.com/watch?v=OzWs8hmykd4

 

「ねえロックブーケ……私たちは最低限の保証が出来ればそれでいいの。

国として、戦略兵器が向けられない『安心』があれば。

……互いに歩み寄る事は出来ないの?」

 

「―― その保証のひとつに、私に対する『対応』もあるのでしょう?

あなた達、ちょっと有能すぎるのよ。

また会話に転んで能力裸にされるのは溜まったモンじゃないわ。

 

ぶつかる事が解りきっているのに、先延ばしにし過ぎた。

これ以上情報も与えないし対策もさせない。

取り返しがつかなくなる前に ――

 

 

―― 今!この場で消えなさいっっ!!

 

 

 


 

 

 

 開幕は容赦も何もないレギンによる速射の一撃だった。

今まさに攻撃を振るわんとするロックブーケの枕を抑えて、その頭蓋めがけて弾丸が飛来する……が、それはロックブーケに辿り着く事なく、あらぬ方向へそれて行く。

 

(『ミサイルガード』……いつ唱えた!?)

 

見てるのよそれはっ!!

 

 情報収集と対策をしていたのはそちらだけではない。

そう言わんばかりにロックブーケの嵐のようなウインドカッターがレギンに殺到する。

 

 ビーバーばかりに目が行きがちだが、実行力として爆薬を用意していたのはレギン、徹底して『仕事の完遂』を優先して動いていたのもレギン、そして唯一異世界の技術『銃』を扱っていたのもレギン。

そして今の、戦うとなれば即座に躊躇も情もない必殺を仕掛けてきたのもレギンだった。

ゆえに、こいつが一番動かしてはいけない駒。

 

 ロックブーケはそう判断して真っ先に落とそうとしたが。

 

 ―― 殺到した風の刃は、レギンに浅い切り傷を付ける程度で終わった。

そのレギンを覆うように、風の膜が渦巻いている。

 

「『エアスクリーン』!?」

 

「大急ぎで覚えたわよ!!つたない術でごめんあそばせッ!!*6

 

 吠えるアガタの両脇から、ビーバーとジョンが飛び出してくる。

このチームの近接二枚。しかしその性格は普通のパーティーと違っている。

 

 剣に卓越したジョンが真正面から翻弄させ、そして出来た要所の隙に ――

 

「くうっ!?!?」

 

 ジョンとロックブーケの剣戟の最中、ビーバーのダガーがロックブーケの背後を滑っていく。

油断していた訳でも意識していなかった訳でもなかった。

しかし、それ以上にビーバーの『気配を殺し隙をつく』攻撃が完璧すぎたのだ。

 

 そしてビーバーが使うダガーが、何の変哲もない()()()()ダガーであるはずがない。

 

(毒 ――ッッ!!)

 

 傷の深さよりも明らかにじくじくと疼くその感覚が、ナイフに何かが仕込まれていたことを如実に教えてくれていた。

もっともそれが無くとも、ビーバーのダガーという時点で絶対何かあると確信してはいたが。

 

 『元気の水』で治療したい。

が、目の前のジョンの猛攻がそれを許さない。

 

 

 ―― ガガガガガガガガッッッッ!!

 

 

 威力より手数を重視した乱撃だった。

それはつまり、ダメージを与えるよりもこちらの手を塞ぐことを重視したもの。

対応リソースがことごとく潰され続ける。

 

「く、うう……っ!!」

 

 対応、しきれない ――!!

飽和攻撃に押されそうになったそのとき、不意にジョンが大きく飛びずさった。

 

(……え?)

 

 その横では、ジェラールとリリィがそれぞれ天と火の術力を励起させている。

 

―― あ、合わせ掛けによる合成術ッッ!?!?*7

 

 何が起こっているか気づいたときには、すでにロックブーケの周りは高熱を伴う光球で包囲されていた。

 

 ―― ドガガガガガガンッッッ!!!

 

 包囲させた光球の一斉破裂による強烈な爆炎と閃光。

『フラッシュファイア』と呼ばれるそれは、炎熱によるダメージはもとより、その過剰な光と大音量によりめまいやショック状態を誘発させ、その行動を封じ込める。

 

 ―― そう、封じ込めるのだ。

そして封じ込めるなら、それに乗じて行うのはさらなる攻撃である。

 

 レギンが手榴弾の導火線に火を入れた。

魔石を砕いて粉にし、術力を吸収させて励起寸前で安定化したものを火薬と混合した、アバロンで開発された危なすぎる最新爆薬。

 

 その原理は雷管の役目も担う火薬の爆発により、連鎖的に魔石の粉が励起して疑似的な『シャッタースタッフ』を引き起こす。

術力増幅に使えない、術杖にならないクズ魔石ならそのまま爆薬にしちゃえばイイじゃないと言うトンでもない一品である。

 

―― ドゴオォォォンンッッッ!!!

 

 エイルネップを守っていた石像すら砕いて見せた爆発がロックブーケを襲う。

迸った爆音は先の『フラッシュファイア』よりもおとなしめではあったが、しかし威力は明らかにそれよりも上回っていた。

 

 白煙が視界を真っ白に染め上げる。

あまりの有様に、収まるまで追撃が出来ない状況になった。

しかし全員、欠片の油断もなく白煙の奥を睨みつける。

 

 これで終わっただろうだのと、都合の良い事は誰も考えていなかった。

 

 ……煙の奥から、バキンッと硬質なものが砕けたような音が聞こえた。

 

 

――本性開放(リバース)

 

 

 膨れ上がる風の乱流が漂う白煙を吹き飛ばす。

―― 同時に、飛来する雷の洗礼。

 

「ぐ、ううっ!?」

 

 本来ならこの一撃で全滅も見える危険な攻撃ではあったが、ここでもやはり事前準備が生きていた。全員、対雷用に絶縁体を含む防護装備で固めているのだ。

 

「わかっていた事だけど……つくづくメタ張ってくれるわね……!」

 

 晴れた煙の中にいたロックブーケは、黒い大きな翼を携えていた。

帯電によるものか長い髪の毛がふわりと逆立ち、死霊にも見えるオーラが漂っている。

ヘーゼルの瞳がルビーの色に怪しく輝き、モンスター然とした恐怖よりもどこか妖艶な美しさを思わせる姿だ。

 

 ……しかしそれ以上に厄介なのが、ダメージの片鱗が見えなかったこと。

 

「まさか……今ので仕切りなおされた?」

 

「畳みかけるタイミングを間違えたか」

 

 右手に持っていた剣がいつの間にか消えてなくなっている。

獲物の破壊には成功した……と、思いたいが。

あれが幻体による剣であるなら、きっと壊れようと何回でも出せるものだろう。

油断はできない。

 

 しかし。

ロックブーケが戦意が挫かれそうなほど妖艶な瞳で睨んだことで、事態が最悪の方向に転がった。

 

「―― 天術使いならとりあえず『ライトボール』は使えるでしょ。ジェラール、あなたはデバフサポート、ジョンは私の盾になりなさい」

 

「「おおせのままに」」

 

 ライトボール。

味方から飛来したそれに反応できたのは、ビーバーとレギンの二人のみだった。

 

「ああああああっ!?!?」

 

 視界を不意の閃光で焼かれたアガタとリリィが苦悶の声を上げる。

ビーバーはその下手人を呆然と見ることしかできない。

 

「は……パ、パ……?」

 

 

 

「ごめんねビーバー。こういう真似はしたくないのだけれど……ロックブーケ様の仰せだからねぇ。まあ、仕方ないんだ」

 

 

 

 いつも通りの笑顔で、しかし決定的にズレてしまった価値観でジェラールが歪んだ認識を口にする。そしてロックブーケを庇うように立つジョンを見て、何が起こっているか悟るのだ。

 

「―― 男性特攻の強制隷属ッッ!?ウソでしょパパ!?ねえ正気に戻って!敵なのよロックブーケは!?」

 

「そこがまず間違っているよビーバー。なんで()()()()()()()()()()にまで発展したのかは僕としても疑問ではあったけど……ここに明確な殺意を持ち込むのならビーバー、僕は君たちをこそ裁かなければならなくなるんだ」

 

 ジェラールは諭すように口にした。

家族への愛は消えていない。ジェラールがジェラールなのも変わっていない。

しかし『ロックブーケ上位』の価値観が差し込まれ、それが揺るぎの無い物になってしまっている。

あまりにも自然に。あまりにも当然のように、だ。

 

「ジョン……アンタもなの!?」

 

 見えない目で暗闇を探すように必死に声を上げたアガタのセリフはしかし。

 

「アガタ……いや、質問の意味が分からないのだが。そもそもなんだってお前たちは、そんないきり立ってロックブーケ様に仇なそうとしてるんだ」

 

 あたかも「自分は正気だ」と言わんばかりのセリフに打ちのめされる事になる。

 

ロックブーケーーーッッッ!!

 

 いきり立ったビーバーがロックブーケに殺到するが、難なくジョンに止められる。

構わずビーバーが吼える。

 

「随分と残酷な手札使うじゃない……返してよ!!私のパパを返してよッッ!!」

 

「そうね、残酷な手札だわ。私もあまりやりたくはないもの……

 

―― 何せ、一度やったら戻らなくなる*8

 

 空気が、凍る。

 

「う、うそ……」

 

「―― この場で、共に永遠に眠りなさい。しっかり後は追わせてあげるわ」

 

 翻ったロックブーケの翼が、真空波の乱流を造り出す。

器用にジョンを避けてビーバーに殺到したそれは、『エアスクリーン』を施されていたレギンと違い、ビーバーの体中を引き裂いてその血で染め上げた。

 

「あ、ぐっ……」

 

 吹き飛ばされたビーバーの行き先は、ジェラールの足元。

悲しそうな顔をしながらジェラールはハルモニアの剣を振り下ろす。

 

 

 ―― ガキンッ!!

 

 

「パ……パ……ッ!」

 

 辛うじて、ビーバーがその軌道にダガーを滑り込ませることに成功したが、ジェラールはそれでもなお力を緩めない。

 

「ビーバー……悲しいけれど、君の起こした行動の結果だ。大人しく刃を受け入れなさい。

大丈夫……ロックブーケ様は、後を追う事をお許しになった。

僕も一緒に逝くよ。ビーバーを一人にはさせないから」

 

 悲しそうに笑うジェラールは、しかしそれでも、どこまでも自分の父親だったのだ。

それがどこまでも悲しくてビーバーの目に涙がたまる。

 

 ―― 《決断》しなければ、ならなかった。

 

 目が見えないままに、アガタとリリィがそれぞれ『ライトボール』と『ファイアボール』を乱射する。

低級術の乱射であれば二人ともできる実力は十分にあった。

当たってどうにかなるものではなく、しかし当たりたいと思えるものでもないのでジョンが前に出てロックブーケに当たるものを切り払う。

 

 ロックブーケは油断なく、目が自由なままのビーバーとレギンの動向を警戒していた。

特にレギン。『ミサイルガード』は張っているが、あの手榴弾を再び受けるのはマズい。そうなったとき、即座に風で押し返してやると右手に術力を励起させた状況を保つ。

 

 ―― 警戒は正しかったが、しかしチームはその上を行った。

 

「―― 今だッッ!!」

 

 レギンが()()()()()()()叫ぶ。

その声に合わせて、リリィとアガタが術を放っていたその手を握った。

瞬間、ばらまかれていた『ライトボール』と『ファイアボール』が破裂し、爆音と閃光を迸らせる。

 

「にゅっ!?」

 

 威力皆無だが即席の『フラッシュファイア』である。

怯みつつもロックブーケは自身に『エアスクリーン』と『ミサイルガード』をかけなおし……

 

 

 ―― ドゥンッッ!!

 

 

レギンの抜き撃ちが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……え?」

 

 あまりに情け容赦のない一撃だった。

即死であった。ロックブーケはその位置取りから、飛散するジョンの脳漿を間近で直視した。

突然すぎて呆然とするしかできなかった。

 

 レギンの表情は、相変わらず変わらなかった。

 

 ドカリ、とビーバーが鍔迫るジェラールを蹴り倒す。

そしてその動きは淀みなく、ジェラールの振るう剣の内側に滑り込むと肋骨の隙間を縫ってそのダガーを突き立てた。

 

 毒の塗ってある、そのダガーを。

 

「ふ……ふぐっ……ふ、ぐぅ゛……ッッ」

 

 その手は震え、顔はぐしゃぐしゃに涙で濡れていた。

それでもビーバーはやり遂げる。やり遂げて見せるのだ。

 

 ジェラールは毒の激痛に蝕まれてなお、その表情は穏やかだった。

その右手がビーバーの顔を撫でる。

 

「……よく頑張ったね、レオナ……立派、になってくれて誇らし、いよ」

 

「ふぐっ……ぐっ……パ、パ……っっ!!」

 

 

アバロンと、お母さん、を……たの、んだ……よ……

 

 

 笑顔のまま、ジェラールの体から力が抜けた。

 

 

「う…………あ…………っ、

 

 

あ゛ああああ゛あ゛ああああああ゛あ゛あ゛ああ゛っっっっ!!!

 

 

 慟哭と共にビーバーが大地を蹴った。

その姿は血だらけで、そのダガーは自らの父親の血に塗れ、涙で視界を曇らせながらなお、ビーバーは慟哭と共にロックブーケへと向かっていった。

 

 その迫力に、ロックブーケが口の中で小さく「ひっ」と悲鳴を上げた。

 

 幻体の剣を取り出して迎撃する。

しかし気圧されているからか、それともビーバーが強いのか。

リーチが違い過ぎる筈のダガー相手にロックブーケは突き放せない。

 

 ―― ギガガガガギギッッ!!

 

 剣戟が続く。

ビーバーも満身創痍の筈だ。

ウィンドカッターの乱流を受けてまともに動くのも辛いハズだ。

 

 ―― しかし、突き放せない。

突き放せないのだ。

 

 ドゥッ!!

 

(え……?)

 

 『ミサイルガード』も『エアスクリーン』も解けてはいない。

それを分かっている筈なのに、レギンの弾丸がロックブーケの顔面目掛けて飛来する。

 

 当然、その弾丸は『ミサイルガード』に弾かれて明後日の方向へ飛んでいく。

 

 しかし。

 

 ドゥッ!!ドゥッ!!ドゥッ!!

 

(な、なんなの……ッ!?)

 

 レギンはそれて行く弾丸などお構いなしに、その顔面に向けて弾丸を撃ち込んでくる。

弾丸がロックブーケに当たる事は決してなかった。

しかしレギンの目線はまっすぐにロックブーケを見つめている。

 

 ―― ひたすらに、殺意の乗った目で

 

 

ドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッ!!!!

 

 

「ひ、あ……っ!?」

 

 

 ―― ドガッ!!

 

 

 あまりの迫力に気圧されてついに弾丸から顔を庇おうとしたとき、その隙をついてビーバーのダガーがロックブーケの首に突き刺さった。

 

「が、ぼ……ッ」

 

 血に塗れた毒の刃。

致命的なその一撃で、ロックブーケは己の敗北を悟る。

 

 戦いでは気圧された方が負ける……そんな事、わかっていた筈なのに。

 

 勝てない相手ではなかったのだ。

しかし目の前で、自分の仲間を撃ち殺す様を見て。

涙ながらに自分の父親を殺す様を見て。

その殺意を全部自分に向けられて。

 

(結局……なにも出来ずに倒れるのね、私は……)

 

 今一歩まで来ていた塔のシステムに震える手を伸ばすが、何も掴めはしなかった。

 

 

「お゛にい゛、さま゛……ワグ、ナ゛ス゛、さま……も゛うし、わ、け……」

 

 

 ―― そしてロックブーケの意識は、どことも知れない闇の中へと溶けて行った。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 アバロン『七英雄対策室』チーム。

次元転移装置の情報取得と共に、七英雄が一人ロックブーケを撃破。

 

 しかしその代償は、あまりにも大きく ――

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 元来、皇帝を退位し大臣職となっていたジェラールは国葬を受ける対象外となっていたが。

その大きな功績と死により、多くの民に望まれて国葬が執り行われる運びとなった。

当代のトーマ帝も国葬を強く望んだ一人だった。

 

 誰しもがその死を嘆き悲しみ、そして悼んだ。

皇帝として振舞わなければならないトーマ帝はしかしそれを無視し、涙ながらに嗚咽を漏らしながらジュラールの遺体に向かって深々と頭を下げたと言う。

しかしそれを咎められるものは、誰一人いなかった。

 

ごめ……な、さぃ……ッ、わだし…………私っ……!!

 

 ビーバーは、母キャットに縋りつき、泣いた。

その手の中に、父に突き立てたダガーの感触が残っていた。

消えゆく命のぬくもりが残っていた。

 

 キャットが涙と共に娘を抱きしめる。

 

「……あの人は、笑って逝ったわレオナ。表情はとても穏やかだった……

あなたを誇って、安心して逝ったのよ。

 

ごめんねレオナ……一緒にいてあげられなくて、ごめんね……ッ」

 

「うアアア……あアアアあアあアアアああああっっ!!!!」

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ジョンの墓の前で、アガタがうなだれていた。

目を焼かれていた時の事を思い出す。

そのせいで、ジョンの死に様すら見れなかった己が無力を。

 

「……私を、責めないのか」

 

 右手に火のついたタバコを燻らせながら、レギンが言った。

 

 ……あの時、「一度やったら戻らなくなる」というロックブーケの言がハッタリの可能性はまだ十分にあった。

それでなくても、ロックブーケを倒せさえすれば隷属する相手がいなくなり、殺さずとも済んだ可能性だってあった。

 

 速攻で割り切ったジョンのあの射殺さえなければ、ビーバーだって自分の父親に毒の刃を突き立てるのを躊躇していたかもしれない。

 

 ―― アガタは、答えなかった。

その代わりに、零れる涙を隠すために膝に顔を埋めた。

 

「知ってたの……?私たちが付き合ってたの……」

 

「……」

 

「……そう」

 

 レギンは、きっと殴られに来たのだと。

それがあまりにもいつも見るレギンと違っていて、アガタは小さく首を振る。

 

「あなたは完璧な仕事をしたわレギン。あなたが()()()()()なのは、私も知ってる。

これであなたを責めたら、私がジョンに怒られるわよ」

 

「……」

 

「だから、ごめん……責めてあげれない」

 

「……」

 

 レギンは少しだけ目線を落とすと、瞠目してたばこを携帯灰皿に押し付けた。

そしてそのまま踵を返す。

その少し寂しそうな背中に、アガタは背を向けたまま声を掛けた。

 

 

「私……『継承』することにしたわ」

 

 

 足が止まる。

……少しだけアガタの方を振り向いて、レギンは「そうか」と返した。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― 思いは受け継がれていく。

喜びも悲しみも、そこに一切の区別なく。

 

「……ロックブーケ?」

 

 太陽の照り付ける砂漠の空に、不安げな言の葉がひとつ飛んで消えていった。

 

 

*1
キャットの素早さ22はシティーシーフ最速。ビーバーは素早さ19でシティーシーフの中では第4位、実は後ろから数えた方が早い……とはいえ、シティーシーフは基本素早いクラスなので、それはオリンピックの金を見て銅を嘆くようなレベルの話なのだが。

ちなみに、実はコウメイはゲーム中最大最速の素早さ25を誇る。しかしシャドウワーカーの立つ瀬がないので比べない事とする。ちなみにジェラールは素早さ20である。

*2
拙作クィーン戦帰路の折、ボクオーンとロックブーケがやってたやつ。

ともすれば波紋法と同じぐらいの効果がある設定。

*3
ハルモニアの剣。SFCではパッとしない子だったが、リベサガでは上方修正されたと聞きます

*4
SFC原作と明確に区別した部分。

ゲームではRPG的なストーリーの演出と次の目的地の提示という重要な意味を持っていたが、現実的に考えるならここで見れる映像は『当時の』ものでなければならない筈で、『現代の』沈んだ塔が映るのは明らかにおかしいしその意味も見出せない。

そして『当時』と『現代』では地形が異なっている筈なので、これをフラグに次の目的地を特定するのは少し弱いように思える。仕方ない部分はあるが。

また宝箱を除けばこの神殿には映像記録ぐらいしかなく、建てられた意味が『部外者貴族や民へ次元転移装置のスゴさをプレゼンする為のただの会場』以上の考察が自分には出来ない。

つまり、大神官がとっても大神官した施設だと解釈する

*5
実はハオラーンの企みは未遂というかドッキリ的なノリで終わっているのだが、それは逃亡しない理由にはならなかったりする。

*6
アガタの初期属性は天と水。風術はこの短い間に形にした付け焼刃であったが、防御術としてはしっかり完成させていた。エアスクリーンは風属性の攻撃を大幅に減衰させることができる。

*7
3ならともかく、ロマサガ2でそんなマネは出来ないけどこのアバロンなら開発してそう

*8
『テンプテーション』は男皇帝が魅了された場合その時点で全滅扱い、しかも伝承先の男皇帝まで魅了状態となる演出があるほど強力なもの。

ちなみに本作、現在の伝承者はジョンである。非常にヤバい。




 長かった……3万文字超えてます。一話一殺と決めていたが故の弊害。
大人しく分けろよバカ。

 こんだけ書くと編集画面が作業に支障をきたすレベルで重くなるんですね、初めて知りました。

 まあなんだかんだで劇中ロックブーケを深堀りする機会あまりなかったし。
こんだけ書けばロックブーケも浮かばれてくれるでしょう。きっと。たぶん。
深掘りしたのどちらかってーとビーバーな気がするけど。

 以下、設定。

> ジョン
キャラモデルはレオン・S・ケネディだけど、たぶんその要素全然書けなかったよね。ある意味ワザとだけど。
対スービエ専用に用意された切り札であり、皇帝と切り離した伝承法のテスト運用として見出された人物。ゆえにスービエ戦においては、伝承法先代のトーマ帝と当代ジョンで戦力をブーストして挑むと言う反則をかましていた。
継承前は行く先々でゾンビに追い掛け回されたりしたわけではないが、ワリと修羅場はくぐっており剣の腕は自前の部分が大きかったりする。
ロックブーケに魅入られた上で死亡したが、とりあえず隷属対象がいなくなったので伝承法はまだ運用可能である。
案外、次代アガタが伝承法の記録からテンプテーションを見切ってくれるかもしれない。思い入れ強いだろうし。

> アガタ
ジョンとデキてたチームの補給担当。
術の天才と言われるほどの才女だが、それ以上にカンバーランドの政策の影響で流通や経済に強く、ビーバーから声が掛からなければまったく別の道を歩んでいたかもしれない。
次代の伝承者となり、歴代皇帝と共にジョンの想いも受け継ぐ道を選ぶ。
最終的にトーマ帝の次の皇帝を務めることとなったが、シャドウワーカーとしての任務は勤め続けた。

> リリィ
実はアラフィフの見た目20代後半お姉さん。アバロンに術力活性法の話が出る以前からこれを行っていた、関西弁の古代技術研究の専門家。
帝国大学の教授と面識はないが、もしあったら……どうなってたかな。逃げたかもしれない。
「さすがにここまで吹っ飛んでないやろ私は!?」みたいな感じで。
この事件以降、異世界の存在にも多少手を伸ばし始め、技術的な知恵袋として重宝されて行く事になる。

> レギン
キャラモデルはゴルゴ13。M16とか使ってたし普通に連想されてた人いるのではなかろうか。
ちなみに普通に女だし、容姿はちゃんと帝国鍛冶職人です。
別に讃美歌13番を流さずとも任務ならちゃんと動いてくれるし、そもそもアレよりはまだ情はある方。
テロリストの子飼いから鍛冶師を経てシャドウワーカーに入り対策室メンバーとなった異例過ぎる経歴の持ち主。
工作・狙撃担当ではあるが、その自分すら客観視できる冷静なプロの目から、チームを俯瞰する役割も担っていた。

> ビーバー
本作のイーサン=ハント。シャドウワーカーという名のMI6で働く凄腕工作員。
バカ親化したジェラールの事はうっとおしいと思いつつも、普通に大好きだった。
本名レオナ。祖父であるレオン帝から取られた模様。
いつか誰かと恋して結婚して子供を産んだら、その子に『ジェラールJr(2世)』と名前つけそうな気がする。
現在アラサー。ワリと危険域に突入しているが浮いた話はまだない模様。
今回の件でずいぶんなトラウマを刻まれたが、それでも涙を拭いて立ち上がっていくだろう。

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