新宿はがんばる   作:のーばでぃ

73 / 74
 地の文においてジェラールを指す時、例えば『ジェラール2世』と書かなきゃいけないのかもしれませんが、なんかシックリこないので『2世』は省き。
正式な時にしか口語でも『2世』ってつけないでしょうし、考えてみたら『ルパン3世』も『ルパン』って皆呼びますものね。

 え、ロードエルメロイ2世……?



終焉:クジンシー

 

 

 ―― 何度でも言おう。

 

 

 ダンターグは、確かに戦士だったのかもしれない。

 

 しかしその暴威を以て進軍し、祭りと称して殺戮し、破壊しかもたらさず消滅した。

 

 それは紛れもなく恐怖であり、脅威であったのだ。

 

 

 

 ―― しかるに最後の七英雄、クジンシーは如何なりや?

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― それは、女魔導士と呼ぶには随分と若々しい、奇妙な装いをした女だった。

薄手の赤い布を被り、口元にもフェイスベールを当て、金の首輪をいくつか嵌めている。

 

 レオン帝の頃より、寸分も違わない姿だった。

 

「解ってはいたが……古代人と言う物は、本当に老けないのだな。

不老不死なのか?それとも特殊な術を用いているのか?」

 

「……長い寿命の上で、特殊な術を用いております」

 

「……ほう」

 

 ジェラールとしてはマトモな返答を期待していなかったのだが、普通に答えが返って来たので多少驚いた事による「ほう」だった。

この女、レオン帝の記憶の時には既に覇気が無かったが、今回においてはそれにも増して覇気が無い。

 

 ―― オアイーブ殿におかれましては、七英雄が残り一人にまで減った現状、すべて思惑通りに進んで誠に喜ばしい事態ですかな?

 

 皮肉たっぷりにそう言いたくなってしまうのは歴々の伝承者……取り分け母ビーバーの気持ちが良く分かっているからだった訳だが。

言ってやる気も失せるほどの沈降さだ。まるで幽鬼の類と言われても納得できる顔色である。

 

「して……本日はどういったご用で?」

 

「……伝えなければならない情報を、お伝えにまいりました」

 

 ―― 例えば死刑囚が、自らの罪状と沙汰を読み上げる時は、こんな声色をするものなのかもしれない。

ジェラールはそう感じた。

 

 

 

 そこから語られたのは、懺悔だった。

古代人の魂がとても長い事による『死』への忌諱。

自分の魂を他者の体に馴染ませる事によって寿命を延ばす『同化の法』。

 

……力あるものが永遠に幅を利かせ続ける事を『繁栄』と呼ぶなら、古代人のそれも確かに『繁栄』で括れるのだろう。

王城は君臨し、神官は増長し、そしてそれ故に腐りきっていった政治。

どれほど醜悪なものだったかは現物を見ずとも容易に想像できる。

 

 そんな中、古代人達に仇なそうとしたものが二つあった。

一つが天変地異。そしてもう一つが『ターム』と呼ばれるモンスター。

 

 天変地異については、別の次元に逃げる事を解決手段とした。

世界各国の英知が集まり次元転移装置を造り出した。

 

 そしてタームについては。

 

「七英雄は本当の英雄でした。民を生贄に籠城し、そのまま別次元へ脱出する事を画策する評議会の決定に背を向けて、無法者のそしりを受けてなおわずか7人でタームに立ち向かいました。

そして、やり遂げて見せたのです。人々は彼らを七英雄と讃えました。

―― しかし王城は、その状況を許しませんでした」

 

 これが王や神官であればいざ知らず、それ以外で人心を惹き寄せる存在など不要。

それが貴族達の答えだった。

 

「ワグナスとノエルは同化の法を強める研究をしていました。そして、『吸収の法』と言う新たな力を得たのです。モンスターの力を吸収し、己がモノとする秘法。七英雄の強さの秘密……これについてはレオン帝にお話ししていましたが。

―― これが、排斥の口実に使われました。

七英雄はモンスターを吸収したことにより心までもモンスターとなった。故に追放する……と」

 

 そして、英雄たちの追放に、開発中だった次元転移装置が使われた。

 

「……それはひどいな。七英雄が腹を立てるのも無理はない」

 

「私もつらかったのです。七英雄のノエルは私の幼馴染でした……しかし、追放の決定を下したのは、私の父であった大神官でした。

……私は責任を感じて、この世界に残りました。きっと彼らは帰ってくる……そう信じて待つ事にしたんです」

 

「大神官は?」

 

「……」

 

「……まあ、そうだろうな」

 

 母ビーバーがワグナスに聞いた話によれば、次元転移装置は逃げる際に持ち去られたそうだ。

もう、逃げた者たちを追う手段はない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ならば、大神官であるその男が娘に持っていた愛とは。

 

 ……ヘドが出そうな話だ。

 

「七英雄は帰ってきました。私は彼らを探しました。

見極めなければなりませんでした……だって、数千年です。

人々を守り、モンスターの力を吸収し人を辞め、それでも守った人間に騙され排斥され、そして数千年です。英雄の心を奪うには余りある所業です。

彼らが私たちを殺そうとするなら良い。……しかし、今を生きる人たちに対して、私たちの罪を問おうとするのであれば。

―― 七英雄に対抗できる術を渡すのは、私の責務だと。そう思ったのです」

 

 ジェラールは、『伝承』の中にあるレオンとオアイーブのやり取りを思い返した。

 

 

 

《……七英雄を排除するために我がバレンヌをぶつけたいと。そう聞こえるが》

 

《……そのように聞こえる事。結果的にそう言っているのと同じである事。

そして既に、運河要塞の件で衝突が必至であること……重々承知しております》

 

 

 

 きっとオアイーブは、数千年の永い時を経て変節したのだろうなと思う。

七英雄を追放した事でこの世界に残った『責任感』から。

この世界の人々と過ごして、七英雄からこの世界の人々を守らなければならないと言う『責任感』へと。

 

 それがたとえ、自分たちが排斥した七英雄の死を望む行為だったとしても。

 

「七英雄たちには、会えませんでした……考えてみれば当たり前かもしれません。この広い世界から、たった7人を探すなどと。

モンスターが活発になり始めてきた時代です。もし彼らが帰ってきてまだ英雄だったのなら、『きっと人々を守る為に立っている筈だ』、なんて……私はどこまで愚かで、自分勝手なんでしょうね。

―― 最初に聞こえてきた七英雄の名は、そんな希望とは正反対でした」

 

「……ボクオーンによるヴィクトール運河の占拠か」

 

 オアイーブは悲しそうに頷いた。

自嘲により、その表情は虚しく歪んでいた。

 

()()()()()。……そう思いました。

だから私は、レオン帝に『伝承法』をお伝えする事にしたのです。

 

……時が流れました。私たちにとっては一瞬でも、あなた方にとっては随分長かったのでしょう。特に近頃は、本当に時が流れるのが早い……まるで加速していく世界に取り残されてしまったかのよう。

 

私はその間も七英雄を探し続けましたが、見つかるのは同じ名前の誰かばかりでした。

こんな時代ですから、彼らの名前にあやかりたいという方も多かったのでしょうね。大規模レースの一位になった調伏モンスターに『ワグナス』なんて名前が付いていて、思わず笑ってしまったのを覚えています。

なるほど、『ワグナス』は女の名でも通じるなと*1

 

 同じ出来事でも随分受け取った印象が違うのだなとジェラールは思う。

バレンヌはアレがきっかけで、『七英雄はモンスター然としているのではないか?』という発想に行きついたのだ。

実際のワグナスは別にいて、癖毛を長髪にした端正な男ではあったが、しかしあの発想が無ければバレンヌは、キャットは、ボクオーンに辿り着けなかっただろう。

 

「その考えがズレていたと気付いたのは、スービエによる船団壊滅の報を知った時です。

青白く、触手を生やした下半身。

『モンスターの力を取り込んでいるのならば、その姿もモンスターと化しているのではないか』……私が探すべきは、七英雄の名をした人間ではなく、七英雄の名をしたモンスターだったのではないかと。もっとも、後にその考えも正しくないとわかりましたけれどね。

 

……そこから先はことごとくバレンヌに先を越され続けました。

今にして思えば、たとえ門前払いされたとしてもバレンヌに依頼しておけば良かったとさえ思います。

たとえ報酬がなにも思いつかなくても、あなた方の手を借りるのがどれだけ筋違いで恥知らずなのかを自覚していたとしても!

 

―― そしてその後に来たのが、バレンヌによる『既存の七英雄の情報及び戦闘内容の公開』とその発端となる『ダンターグ祭り』です」

 

 オアイーブが、震える手でその両目を覆った。

 

「白状します陛下。私は居たのです……あの戦場に居たのです!!

『魔術師歓迎』の知らせを見て!!募っていた有志に名乗りを上げて!!

ダンターグに向かって必死になって砲を撃ちました!!9発も!!

 

……ダンターグを間近に見て、『説得』なんて消し飛びました!『争いを止められるかも』なんてどれだけ愚かな考えでいたのだと……っ!!

震える私を見て水筒の水を分けてくれた方が、次の瞬間には投げられた槍に轢き潰されて膝から上が血煙になって消えました!!

死ぬべきは私の方だったのにッッッ!!!

 

「……」

 

「……今の世が、『クジンシー殺すべし』に偏っている理由が私には良くわかります。

クジンシーはダンターグじゃない。ノエルも、ワグナスも、みんなダンターグじゃない……わかってる。わかってるんです。

でも、ムリなんです。

 

ダンターグは恐ろし過ぎた……

ダンターグは、強すぎた……ッッ!!」

 

 ―― ああ、そうだ。

 

 あのダンターグ祭りから、世は最後の七英雄であるクジンシーの討伐を求め始めた。

民が皆、七英雄の排斥を求め始めてしまったのだ。

どこかの新聞社は共同して賞金までかけ始める始末である。どこにいるかも、どんな姿なのかもわからないのにだ。

下手したら偽のクジンシーを用意される状況にもなりかねなかったのに、ダンターグの威容さがそこに踏み切るものを許さなかった。

 

 つまりこういう事だ。

偽クジンシーを立てて『クジンシー討伐完了』の報が無くなったら、世界はもう警戒しなくなる。

……それこそクジンシーの思うつぼである、と。

そしてそうなった時、槍玉に立たされるのは偽クジンシーを立てた下手人である。

誰もそこまで踏み切れなかったのだ。

 

 それに区別もつけやすかった。

七英雄は殺せばいずれも、煙のように溶けて消えたのだから。

死体が残ればつまり偽物である。

そしてその事実が、『七英雄は人間ではない』と言う論調に拍車をかけた。

 

 ……おかげで、バレンヌも座して見ている訳にはいかなくなったのだ。

なにせ七英雄に対抗し続けたのはバレンヌで、実績も積みあがってる。人々がバレンヌに期待しているのは当然の事だったから。

 

「……今までバレンヌが倒してきた七英雄。それらが本物であると判断したのは、その『力』が七英雄に足るものであったからだ。有無を言わせないほどの『力』であったからだ。

今となっては『倒せば消える』点も判断材料となってはいるが。

……不思議なのは、モンスター然としたものとそうでないものが混じっていた点。

何か心当たりはないか?」

 

 オアイーブは首を横に振る。

 

「『吸収の法』は『同化の法』を発展させた物です。しかしその仔細は誰も知りません。

ターム討伐後、評議会は『吸収の法』を異端術法認定し、その研究を固く禁じました。

……彼らが異世界に逃げた後も、私は『吸収の法』には手を出していませんでした。故に、使えばどうなるのかは想像する事しかできません」

 

「モンスターを取り込めばその力を得ると同時に、心や体もモンスターに変じていく……?」

 

「単純に考えるなら、人の姿を保っていたワグナス、ノエル、ロックブーケはそうなるほどモンスターを取り込んでいなかった……と取れるかもしれませんが」

 

「ワグナスがそうだったとは思いたくないな……ノエルと一騎討ちしたトーマ帝よりも、さらに歴々の経験を受け継いでいたアガタ帝が全力で殿(しんがり)に回ってなお、ワグナスに瞬殺された。パーティごとな」

 

 アガタ帝は、その死を以て伝承した皇帝の一人である。

故に思い出せる。とっさの『水舞い』すら軽々貫いて行った業火の乱流。

今のジェラールの数倍はあろうと思えるような天術の威力。

そして対応すら許されぬ速力で振り下ろされる葬送の剣。

 

 アレを人の括りに入れられたら、溜まったものではない。

メタを張って、張って張って張って、やっと同等になれるのである。

 

「――『吸収の法』はワグナスとノエルの共同開発です。

それゆえ人から外れずに済む方法を編み出せており、ノエルの妹であるロックブーケにだけはそれを伝えていた……そう考えれば筋は通りますが、個人的には無いのではと思っています。

ワグナスは仲間を大切にしていました。それを蔑ろにするような選択を取るとは考えられません」

 

「モンスターの体と人の体を切り替えられるとしたら、どうだ?」

 

「……『同化の法』は、一度同化したら別れる術はありません。非可逆なのです。

ゆえに『吸収の法』がそこから外れられるとは、私には思えません……*2

 

「ふむ……」

 

 道理が通っているように思えた。

アバロンでも『伝承法』が極秘裏に研究されているが、()()()()()()()()()()、分離が出来るようなものだとは考えられていない。

 

「……クジンシーの風貌は知っているか?」

 

「いいえ、申し訳ありません。

私が七英雄の中で面識があるのはワグナス、ノエル、ロックブーケ、スービエの4人のみです。

他の3人は……王城の中で噂程度に聞いた事はありますが、その……」

 

「良い、話してみてくれ」

 

「……『嫌われ者のクジンシー』、『ずる賢いボクオーン』、『暴れ者のダンターグ』だそうです。王城でもこの3人は外様扱いでして、内部の人間からはあまり良く思われていませんでした。

特にクジンシーは兵とのイザコザも絶えず、疎外されて居たと聞きます」

 

「ふむ……?」

 

 聞く限りは腐りきっていた王城の評価だ。

それらが悪しざまに言うのであれば、実際の評価はその逆とも取れそうだが。

『ずる賢い』ボクオーンは経済戦で大幅に先を行かれ、『暴れ者』ダンターグはバレンヌ一国では対応できないほどの力を示した。

 

 しかしさて、『嫌われ者』とは何だろうか……?

 

「クジンシーの居場所に心当たりは……すまん、あるわけないな。そうであれば会っているか」

 

「……今回に限り、一つだけ手掛かりがあるのです。そしてそれが、私が謁見に望ませて頂いた最大の理由でもあります」

 

「なに……?」

 

 オアイーブの表情は、苦渋に満ちていた。

 

「……七英雄は死んでいません。本体を隠し、みな幻体で活動していたのです。故に、時間が経てばまた復活してしまうと……!」

 

 ―― そしてそれは、オアイーブをさらに絶望させた理由でもあったのだ。

 

 復活した七英雄はバレンヌを狙うだろう。

身を守る為にと、七英雄に対抗できるようにと渡した『伝承法』が、七英雄を倒したことで逆に七英雄にマークされる理由を作ってしまっていたのだ。

オアイーブの想いと行動は、すべて裏目に作用してしまっていたのだ。

 

 ジェラールは静かに瞑目する。

 

「……驚かない、のですか……?」

 

「いや、驚いている。しかしどこかで気付きもしていたかな……確かにそう考えれば色々得心が行く。違和感もあったしな。……しかしどうやって確信した?」

 

「……サグザーと言う男がいます。私とノエルの幼馴染で、超術学研究の第一人者……次元移動装置の開発を指揮した一人でもありました。

七英雄追放の件で自分の作った装置が幼馴染の追放に使われ絶望し、私と同じくこの世界に残っていたのです。

その男がメルーの地で、ワグナスと会っていました。その折に、聞いたそうです。

七英雄は幻体で活動しており、いずれ復活する事。そして……ナゼールの向こう側に、安定領域を持った半天然のワームホールが存在する事を」

 

 ジェラールの呼吸が止まる。

おそらくそのワームホールがクジンシーの手掛かりだと言いたいのだろうが……彼にとって重要な情報はそこではなかった。

 

「それは……話して欲しかったな。そのサグザーと接触できていれば、少なくともロックブーケ、ノエル、ワグナスの3人と衝突する事は避けれた筈だ。今となってはもうどうしようもないが」

 

 オアイーブは沈黙し、俯く事しかできない。

 

「そのサグザーとは、会えるか?」

 

 オアイーブはフルフルと首を横に振った。

 

「……彼もまた、旅に出てしまいました。

七英雄の件で酷いトラウマを刻まれてしまい、まともに光を浴びる事が出来なかった彼は、ワグナスと会って七英雄が帰って来ていた事、そしてとっくにノエルが倒されてしまった事を知り激しく後悔したそうです。

しかし彼らが復活できる事を教えてもらい、ワグナスに発破をかけられました。

『ノエルに謝るチャンスはまだあるから、その時までに焦燥しきった今の様を何とかして、今の世界をちゃんと知れ』と。だから何とか頑張ってみると。

 

……彼が希望として口にした情報を使って、私はその逆をしようとしている……

私はひどい裏切り者に見えるでしょうね」

 

 その自嘲は鼻声になり、目からは涙が流れていた。

オアイーブも、自分を『ひどい裏切り者』としか見えなかったのだ。

 

「現世で活動する七英雄はクジンシー1人になりました。そして世の中は『クジンシー殺すべし』の波が広がっている。

……なら例えば、彼は本体を守る為に動いてるかもしれません」

 

「本体は人の目に触れぬよう隠す必要があり、そしてその場所として、ナゼールの向こう側にあると言うワームホールはうってつけだと。

……そこにクジンシーが居なくとも、本体を見つける事が出来れば七英雄の復活も阻止できるし、クジンシーも戦う事なく殺せるわけだな」

 

 オアイーブは、鼻をすすりながら頷いた。

 

「もうひとつ……お伝えしなければなりません。『伝承法』の限界についてです。

元々これは、寿命の長い種である私が、寿命が短い種であるあなた達の為に調整した『同化の法』の亜種ゆえに、調整に限界があるのは解っていました。

その限界が、もう訪れているように思えます。本来もっと持つ筈なのですが……随分ピーキーな使い方をなされたようで」

 

「ああ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。他にも心当たりは色々ある」

 

 『伝承法』の根幹を分かっていなければ出てこないセリフだった。

バレンヌはバレンヌで、ずっとこの秘法を研究していたのである。

オアイーブはそれを聞いて、「ああ、もはや手を離れたのだな」と納得した。

 

「……ならばもはや忠告するまでも無いと思いますが、伝承は陛下を最後とされた方が良いでしょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうだろうな。まあ、この件についてはこちらの責任だ。そなたがどうこう気を揉む話ではないさ」

 

「……気づいた事があります。

私たちは長い寿命を持ちますが、それゆえか発展性に乏しく、進歩に時間が掛かる。

しかしあなた方は、切っ掛けがあったとはいえ僅か100年足らずで世の中を大きく変えてきました。

私たちは結局、時代に置いて行かれた老害なのです。今の事は、今を生きるあなた方が決めた方がよほどうまく行く……こんな事に気付くのにさえ、いったい何世紀を費やしたのかわかりません。

 

だから陛下……あなた方に託します。七英雄も、伝承法も、()()()()()()

()()()()()()()()()()()()

きっと私よりも、あなた方の方がうまく扱える」

 

 涙をぬぐって、問う。

 

「……無責任だと、責めますか?」

 

 ジェラールは苦笑を返した。

 

「いいや……そなたの想いも理解はできる。受け取って置こう」

 

 遅きに失した……とは、言わないでおいた。

彼女もまた人間であり、そしてそれ故に苦しみ続けていたのは解ったから。

 

 しかし一つだけ、小さな指摘ぐらいは許されるだろうと悪戯心が顔を出す。

 

「今の話……ひとつ解せない所があったな」

 

「はい?」

 

「ワグナスだ。スービエの時に、モンスターである可能性に気付いたのだろう?

しかしチカパ山に行ったような話しぶりには見えなかった気がしたが……険しい山脈に臆したかな?」

 

 オアイーブは、軽く笑みを作って答えた。

 

「ああ……それは単純な話です、陛下。

第2回SBRレースに噂のモンスターの姿が無かったものですから。

……私は私なりに、七英雄の見つけ方を一つだけ心得ていまして」

 

「ほう?」

 

「『100年たっても噂が消えなかったらアタリ』です。ハズレだったら寿命で消えています*3

 

「……御長寿ならではの発想だな。そりゃあアバロンが先に見つける訳だ」

 

 悠長なことこの上なかった。

しかしまあ、数千年の時を過ごすとなってはこういう構え方になるものなのだろう。

 

「それに……旅をするには、お金が掛かりますので。まずお金を貯めなくてはならず……しかし溜まるのは、なかなか時間がかかるもので……」

 

 ツイ、と視線を明後日の方向に向けるオアイーブに、ジェラールは「今回の情報代と足代と宿代は、ひとまず出そうではないか」と引き攣りながら添えてやった。

 

 ちなみに占い師は、あまり、儲からないらしい。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 『探す』のであれば、それは『七英雄対策室』の本領である。

情報を集め、精査し、割り出す。

キャットの頃より整備され続けたドクトリンは今なお有効だ。

 

 場所がナゼールであるならば、人が少ないために聞き込みは効果が無いのでは……とも思うが。

逆に痕跡があれば、人が少ない故に特定するのがかなり楽になるのはありがたい。

 

 しかし今回残っていた痕跡は何というか、ドキツかった。

歯に布着せぬ率直な言い方をするならこうだ。

 

 頭にターバンまいて上半身裸に毛皮を纏った変態である。

 

「旅の人が教えてくれたんだよな。なんでも熱い渇いた地域で使っている物だが、寒い地域でも効果的に使える事を発見したんだと。確かに妙に温かくてなあ……随分不思議な気分になるんで、なんかこっちを選んじまうんだよ」

 

「そうなのか……いや、そこは理解するとして……なんで上半身裸に毛皮?

 

「そりゃあこっちが聞きたい話だ。なんで服着てるんだ??

 

「ええ……?」

 

 そんなカルチャーショックがあったりはしたが。

ターバンに眼帯をした防寒装備の男が、さらに人のいない方向へ向かって行った事がわかった。

 

「身長は170程度だと思う。男性の歩き方だな。体重は……すまん、雪だからどうも解りにくい。ただ、従軍経験者のようだ」

 

 サバンナのハンターであるヴァイは、優秀な追跡者(トレーサー)だ。足跡を見てそれを残した者の様相をある程度当てる事が出来る。とても特殊な才能を持っている。

 

 ジェラールが彼と同じ足跡を覗き込んだ。

 

「身長だの男性だのは足の大きさとかつま先の向きで想像は付くが……従軍経験者なんて分かるものなのか?」

 

「歩幅の乱れ方や体重の掛け方、歩く場所の選択なんかに特徴が出る。……しかし雪と言うのは良いな。足跡がくっきりだ」

 

 ビーバーが首を振る。

 

「まだ吹雪いてないからよ。この辺りの天候で晴れているのは比較的珍しい方……じきに足跡では追えなくなるわ」

 

「ならば急ぐべきか?」

 

「自分のペースを選択した方が賢明ね。ここから先は『環境が襲ってくる』という認識を持ってないと容易に絡め捕られるわよ」

 

「ルドンも大概だったからな……蘊蓄のある意見に任せよう。しかしそうなるとこの先、役に立てるかな……?」

 

「心配しなくても戦闘には参加させないし、役割は山と出てくるはずよ。具体的には、雪でもトレースできるようになってちょうだい。

 

「うひい、スパルタだ」

 

 生き物である以上、生きるには必ず痕跡が残る。

そして、クジンシーが『ナゼールの向こう側のワームホール』とやらにいる可能性は高くなった。

おそらくは、この足跡の主が……

 

「……ターバンに眼帯の男、か」

 

 ジェラールが行く末を眺める。

広がっていたのは、雪と氷の険しい世界だった。

メンバーを見回す。

 

 皇帝であり戦力である自分、ジェラール2世を筆頭に、

総括 ビーバー(シティーシーフ 女)※もうすぐ60歳

追跡 ヴァイ(ハンター 男)※寒冷地は初めて、狩りはともかく戦闘は苦手

分析 ガーネット(宮廷魔術師 女)※術研から引っ張ってきた非戦闘員

補給・工作 ブロック(帝国鍛冶職人 女)※ゴルゴと言うよりファネット

護衛・軍師 ハンニバル(インペリアルガード 男)※まだボケてないきいちごじいちゃん

 

 完全に捜索・追跡メンバーだった。

大型モンスター程度であれば対抗できるが、七英雄相手となると戦闘は厳しいだろう。

いざとなったら自分とハンニバルで殿(しんがり)して他は逃がす、そういう布陣である。*4

ただし『伝承法』はもう使えないが。

 

(……『伝承法』に頼り過ぎたな。本来の姿がコレであった筈なんだが)

 

 つくづく、レオン帝以前の歴々が自ら遠征していたのに感心するばかりだ。

仲間を死なせてはならず、自らも勿論死んではならず。

……その重責が、この地の雪のように降り積もってるようにも感じた。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 クジンシーは、バレンヌが過去の対七英雄戦情報を公開してから考える事が増えた。

 

 だって、絶対おかしいのである。

バレンヌの公開している情報に、ボクオーンの『マリオネット』とワグナスの『ファイアストーム』が入っていたからだ。

クジンシーはてっきり、バレンヌはこれらを使われる前に物量で轢殺したのだとばかり考えていた。

だが情報があるという事は、使われたという事である。それがおかしい。

 

 これらを見たものは、悉く死んでなければならない筈なのだ。

 

 ワグナスとボクオーンが仕損じるのはあり得ない。

……つまりワザと見逃した?

 

 ワグナスはよほどの理由が重なればありうるかもしれないが、ボクオーンは戦闘に入った(イコール)殺す確定の筈である。少なくとも敵にマリオネットを見られてボクオーンが生存を許すというのは考えられない。

 

 ならありうるのは、内部による裏切りだが……ヴァイカーとかウィンディが裏切った??なおさらありえなくないか??

と言うか、例えばあの二人以外の、俺の知らない奴だったとして、裏切りをあの二人に感付かせずに行うのか?特にワグナス相手に??

『裏切り』と『切り捨て』に関しては秒でキレるワグナスを相手に??

 

 それらが考えられないとするなら、前提が違うんじゃないかと思った。

つまり……バレンヌは『マリオネット』も『ファイアストーム』も受け、全滅した上でその情報を持ち帰ったとしたら。

 

 ―― そしてそれが出来る手段を、自分たちは知っている。

 

(『同化』の法……いや、『吸収の法』になるのか?

これを、情報の取得方法として使っているとしたらありうる……の、か……?)

 

 秘術を使って、死体から情報を得る。

 

 例えばそれは、ミステリー小説において密室を「犯人は『さいごのかぎ』を手に入れて、それを使って密室を作り上げたんだ!」と推理するような暴挙であった訳なのだが。

なにせクジンシーはそれに類する手段を持っているのである。

 

 そしてそうであるならば。

バレンヌは古代人と接触している可能性が高いという事になる。

 

 ……そしてそうだとするならば。

数十年間城下町でくだぐだしていた訳だが。

やっぱり手掛かりはアバロンにあったという事になる。

そしてそれに気づかず、自分はその隣で『スーパージーク割り』の別の名前を浸透させる方法に頭を悩ませていたことになる。

 

王城入っておけば良かった……!!

 

 クジンシーは両手で顔を覆った。

 

 

 

 別に、世界が『クジンシー殺すべし』に偏っていても構わないのだ。

民衆なんてそんなモンだろうし、不特定多数が起こす手のひらくるくるスプラッシュはもはや風物詩とすら思ってる。

自分に実害が来なければ別に好きに言ってて良いんじゃないかとすら思う。

そう言って欲しくなかった人達はもうみんな死んじゃったし。

 

 それに、そんな世の中にあってなお、リーブラでは普通に海産物買えたし顔見知りとあいさつしたし、サイゴ族のおっちゃんにターバン教えたら喜ばれたりもした。

誰一人、『クジンシー』が目の前にいる事に気付かないのである。そりゃあ風貌が出回ってるわけじゃないので当然である。

 

 なんなら、当代の皇帝に『ジーク』である事がばれてサインを強請られたまである。ソッコーで逃げたけど。なんでバレたんだろう。紙袋もかつてとは違うヤツにしてた筈なのに。*5

 

 ……それに実質、風貌が出回って自分が『クジンシー』であることがバレたとしても、今となってはあまり関係のない話だ。

他のみんなが復活するまで、自分はこの最後の要塞(ラストダンジョン)を動く事はそうそうないのだろうから。

こんな所に人は、文明は、存在しないのである。

 

 『血の誓い』が始まって、考える事がさらに増えた。

 

 ダンターグが言っていたけど、今更ながらこの誓約ってあまり意味無いよなあとか。

そもそもなんで血液要素何もないのに『血の誓い』なんてネーミングなんだろうとか。

他六人の幻体が消える事前提の護りを仕方なしに置くぐらいなら、なんで結界とかでここを堅牢にする方向に行かなかったんだろうとか。

他の皆はこの辺り気付いてたりしたのかなあとか。

そんでもってその答えを持っていたりとかするのかなあとか。

大抵は考えても答えが出ないような事ばかりではあったけれど。

 

 ―― 後は、自分の人生を振り返ったりだ。

 

 小物っぽい小物っぽいと、色んな人に言われ続けた人生だった気がする。

小物の自覚はあるし小物なりに頑張ってはみたけれど、果たして結果は伴っていたのかどうなのか。

 

 そもそもやること為すこと大体空回ってなかったか?マッピング以外は。

アバロンのアリ問題とか悪化の兆しは見えないけど未だ解決策ないし、ティファールの件だって俺が余計な事をしたせいで人死に出たし、必死こいて勉強して大学入ったけど教授に目を付けられたし、卒業しても結局その技能生かせなかったし、古代人の痕跡全然見つけられてないし、かと言ったらやっぱりアバロンに接触していた可能性が今更になって出て来たし。

 

 ……『ダンターグ祭り』も、半ば俺が起こしたようなものだ。

ダンターグは満足して逝ったけれど、そもそも俺がダンターグに情報を届けなければああはならなかった。

世間の『クジンシー殺すべし』も妥当な評価と言える。

 

 だって俺、止めなかったもの。

『ソウルスティール』でダンターグ止めなかったもの。

どうなるか解ってたのに、止めれたのに、止めなかったもの。

この時点で責任は発生してる。

 

 ……一番初めは、サンドバックしか許されない社会の歯車だった。

良かれと思ってやったことも主張もすべて否定され続けた。

やがて人間が人間に見えなくなり、自身も人間に見えなくなり、だからせめて人間になりたいと思った。

 

 討伐隊に入って少しずつ、人間になって行けたような気がした。

モンスターを吸収しまくって初めて『人間になれる』なんて皮肉過ぎではあるものの。

仲間の皆はこれ以上ないほど人間に見えたから。

その中にいる自分も人間になれていってる気がしたのだ。

 

 やれることも増えた。

サンドバックにも手足が出来て殴り返して来ると解れば相手は殴ってこなくなる。

それどころかサンドバックに使っていた自分の行いを『なかったこと』にしようとする。

クィーン倒して戻った時の手のひらの返しっぷりには吐き気が止まらなかったっけ。

 

 だから追放されて、アレらと離れられた点についてだけは素直に感謝してる。皆には言えないけれど。特にワグナスに話したら、「落とし前が足りていないだろう」とか言うかもしれないけど。

だって戻ってきてまでアレら相手にしなきゃいけないなんて、控えめに言ってクソ過ぎると思うんだ。

 

 戻ってきて、みんなで別行動するようになってからは……正直、期待はしていなかった。

王城も王都のやつも市民街のやつもみんな大嫌いだったから。ああいうのを相手にするぐらいなら人と接触するのは最低限に、とか考えてたりもした。

 

 でも、友達が出来て。色々お世話になって。

だから色々、力になれればなって。

 

 ――『人間』って、こういうのを言うのかなって。

 

 思えば色々旅したなあ。

あの狭い世界しか知らなかった俺がだ。南に東にと随分色々見て回ったもんだ。

別の世界で彷徨っていた時間よりも『旅をした!』って感覚が強い。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 ……そして、その挙句に板挟み、か。

 

 

 

 みんな、嫌な奴じゃなかった。悪い奴じゃなかった。死んでほしい奴じゃなかった。

ソーモンやティファールの連中だって、気の良い奴らだったんだ。

今は、現在(いま)だ。古代(かつて)じゃない。

アバロンだって。

王城だって。

 

 

 けれど。

 

 

 ボクオーンの事を想う。

仕事に金にと、随分世話を掛けてしまった。

完全律の手伝いらしい手伝いもついに出来なかった。

ボクオーンのおかげで学校に行けたような物なのに。

 

 スービエの事を想う。

どこまでも自由な風来坊だったけど、助けに来てほしい時は必ず助けに来てくれた。

海の幸とか海底の宝とか、ロマンの詰まった物を沢山教えて貰った。

俺は、それに見合うだけのものを返せなかった。

 

 ロックブーケの事を想う。

俺の水術はロックブーケに貰ったものだと言っても過言じゃないと思う。

ライフスティールだってロックブーケがいなきゃ辿り着けなかった。

いつも言い方キツイけど、出来の悪い俺にため息つきながら、それでも見捨てずに居てくれたんだ。

……なのに。

 

 ノエルの事を想う。

もはやノエルには感謝しかない。赤竜隊流王城剣術、モンスターとの戦い方、人との接し方、その他にも沢山の物をノエルから貰ってきた。

王城の頃から忙殺されてたノエルに対して、俺はどんなに甘えたマネをしてきてしまったのだろう。

俺がノエルに返せた物なんて、きっと片手の指で足りてしまうのに。

クラウンだって受け取ってはくれなかった。

 

 ワグナスの事を想う。

ワグナスが居たから、俺は変われた。討伐隊に入ることが出来た。

俺が強引に売り込んだ『鉄砲玉』の役目だって全く必要なかった物なのに、それでも受け入れてくれた。

いつも世話をかけっぱなしだった。

王城の時も、異世界の時も……現代(いま)の地図についてだってそうだ。

いつも俺の事を、俺たちの事を、想って動いてくれていた。

 

 ダンターグの事を想う。

俺と言う『足手まとい』が近くにいる事を良く許してくれていたと思う。クィーンの一件以降は多少評価も得られたけれど、それでもダンターグが望む水準にはついぞ届かなかった筈だ。

そりゃあ『死神の目』を得てこっちに来てからは、何度か貢献できた感触はした。

でもダンターグはきっと、もっと力と力がぶつかり合う様な……そういう戦いがしたかった筈だ。つるはしで抉って毒を流すなんて、ダンターグの理想とはまるで真逆だった筈だ。

 

 みんな、俺の事を気にかけてくれた。

気にかけてくれていたんだ。

でも俺は、その背中を追いかけてばかりで未だ辿り着く事が出来なかった。

 

 ―― 例えばそれは、俺が変節してしまったからだろうか。

アバロンとの板挟みになって、どっちつかずな考えをしてしまっていたからだろうか。

 

 皇帝はきっと、やってくるのだろうと思う。

ダンターグ祭りの時に見たあの太陽のごとき戦士は、人々の声に応え、きっとここにやって来るのだろう。

 

 ならば。ならば、せめて。

この『血の誓い』は。

この『血の誓い』くらいは、何としてでも果たして見せなきゃいけないのだと思う。

 

 

 俺も、みんなの仲間だって……『七英雄』の一人なんだって、胸を張って言えるように。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 かくしてクジンシーは本体に戻り、6人の血を取り込むのだ。

自分に残った『血の誓い』と言う、最後の役目を完遂するために。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 砕けた大地が宙に浮く、明らかに『(ことわり)』から外れた世界。

ところどころに朽ちた人工物のようなものが見えた。

例えばこれは、古代の技術の産物なのだろうか……?

 

 『安定した領域を持つワームホール』と言う単語しか聞いていなかった一行は、ここが本当に()()なのか全く自信が無かった。

しかしクジンシー云々を別にしても、ここは調査したい場所だろう。

術研から引っ張ってきたガーネットがとってもそわそわしている。

何ならふらふらパーティーから外れそうになっているのを呆れた顔したハンニバルに引き戻されているのを何度か見るレベルである。

 

「あんまりお手を煩わせるモンじゃあねえよお嬢ちゃん。そこらフラついてる角生えた奴が見えんかな?」

 

「術式刻印……あそこに術式刻印がですね?」

 

「やれやれ……おい、実際どこまで連れてくつもりだい()()()()

まさかこのパーティーでドンパチやるつもりじゃあないだろう?

……『匂って』来たぜ、そろそろ」

 

「……やっぱじーちゃんもそう思う?流石に引き返すのを考え始めた方が良いかねえ……」

 

つまり合意と見てよろしいですねッッ!?

 

「誰も解散して好き勝手散策してイイなんて話してねえんだわおちつけ??」

 

 ガーネットは周りをうろついて居るモンスターが見えていない。

一方同じ非戦闘員のヴァイは冷静なもので、石畳に付着した靴跡の小さな痕跡をなぞって、それがいつの物かを確かめている。

 

「陛下。ここはビンゴとみて良いと思う……この足跡は明らかに最近の物だ」

 

「そうか……じゃあ、この辺りを区切りにしておくべきかもしれないね。

ブロック、結界石を。この近辺に簡易拠点張って一度引き返すよ」

 

 工兵としてついてきたブロックが戸惑ったように言った。

 

「引き返す……ん、ですか……?」

 

「このメンバーで戦闘は出来ないからね。情報を持ち帰って次の遠征に回すんだよ、その準備と次回の布石を打って置こうという話さ。

―― 設営頼んだよ。その間、僕はちょっと周りの様子を窺ってくる。ついでに()()()もね」

 

「ちょっと!?ここにきて一人で行動するつもり!?」

 

 咎めるようなビーバーの言葉に、バツが悪そうに「あー……」と頬を掻いて、

 

「じゃあじーちゃん、供を頼むよ……母さんは、ここで総督お願いね?くれぐれも……あー、目を離さない感じで、ヨロシク」

 

「オウ、じゃあ行こうか」

 

「え……え!?」

 

 まるで水が流れていくようにするすると去っていく二人を見て、そしてこの場に残された3人を見て、ビーバーは体よく()()()()()()()ことを悟った。

 

 ともすれば、声を上げなければその負担はハンニバルと折半だったのだろうが。

しかし配役としては適切だから、なんかムカつくのである。

 

 頭痛を耐えるように眉間を揉むビーバーを見て、おずおずと申し訳なさそうにブロックが声を掛けた。

 

「あの……ごめんなさい。なるべく早く済ませますので……」

 

「え?……ああ、違うのよ。少なくともあなたじゃないの。そこは気にしないで」

 

 それを横目で見ていたガーネットが元気良く、

 

「じゃあ私も周り見てきますね!」

 

あんたなのよ頭痛の種は!!いいから黙ってブロックの補佐!!

 

 

 

@ @ @

 

 

 

「……あの、伺っても良いですか?」

 

「うん?どうしたの?」

 

 作業の最中、ブロックが問う。

 

「陛下とビーバーさんが親子なのは存じています。しかしハンニバルさんは……?もしかして、先帝のご賢父様とか?口調もたまに崩れてましたし……」

 

 ジェラールが気軽に「じーちゃん」と呼んでいたあたり、先帝ロビンの父親なのかなとも思ったのだが。

 

「ああ、アレはただの愛称で血縁じゃないわ。

ハンニバルはね、ジェラールの師匠と言った所かしら。軍学、帝王学、経済学、あと武技も幾らか教えてたのよね。元は他所から流れて来た傭兵だったけど、教育係を経て今じゃインペリアルガードに収まってる。

……なんと言うか、並べてみると無茶苦茶な縁ね」

 

「外様の教育係って……さすがにノーガードが過ぎませんか」

 

「優れた人材はたとえ敵をも取り込んで見せてこそのバレンヌ、らしいわよ。

……七英雄相手の現状を見て何を言ってるんだ、と思うかもしれないけどね」

 

 その件についてはもはや自嘲しか出てこないビーバーだった。

 

 二人が去っていった方角に視線を投げる。

ハンニバルがついて行ったからこそ大丈夫だとは思うが……

 

 ―― それでも何か、妙な胸騒ぎを感じる。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

「……小僧、おぬし、何をするつもりだ?」

 

 奇襲により悪魔モンスターの首を一撃で貫き、絶命を確認してハンニバルが言う。

何をするつもりだと聞いたが、あらかた何をするつもりかは感付いていた。

 

「……じーちゃんはさ。クジンシーってどんな人だと思う?」

 

「ふん……『嫌われ者のクジンシー』ってアレかい。腐った場所で嫌われるなら、さぞかし()()()な事を口にする奴だったんだろうよ。そういうやつは煙たがられるモンだ」

 

「だけどきっと、ボクオーンのような知恵やダンターグのような武は無かったのかもしれない。あるいは()()()()()()()()()、それを下に見れなかったか。

……だから『嫌われ者』としか伝わらなかった」

 

「まあ……ありうるかもしれんなあ」

 

「僕はね……もしかしたら、ごく普通の人間だったんじゃないかと思ってるんだ。

腐敗と理不尽に憤って足掻く、ごく普通の人間だったんじゃないかって」

 

「だから一人でも勝てると?」

 

「違う。……確かめたいんだ。本当に()()なのか」

 

 そこには何の根拠もなかった。あるいは、願望に近い物だったのかもしれない。

しかしすでにジェラールの脳裏に、一人の人物が浮き上がっていた。

どこまでも平凡で、そしてどこまでも強い英雄の姿が。

 

「……かつて、教えたことがあったな。王は誰しも心の中に一匹の魔を飼う。飼わねばならんと」

 

「そうでなければ隣人を楽観に見て、いずれ臓腑を食い破られる……覚えてるよじーちゃん。アバロンの、バレンヌの在り方を例に出して反発したっけね」

 

「ふん……まあ話に聞くその七英雄は、魔を飼っていなかった故の典型だな。少なくとも、人は獣にはならんとタカを括っておったんだろう。

 

―― ()()()()

 

小僧、お前の言う通りなら、最後に残ったその英雄は、腐敗と理不尽に憤って足掻きなお力が足りず、悪意に追放され人の心にモンスターのそれを吸収し、やっと帰って来てみれば次々仲間が消えていった、最後に残った凡人だ。

 

()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ハンニバルの狂笑と共に浴びせられる問いに、しかしジェラールは微笑を以て返した。

 

「さてね。ただ……僕としてはどちらでも良い。

クジンシーの選択と向き合ってみたい……向き合わなきゃいけない。そう思ってる。

皇帝として。そして、アバロンの人間として」

 

 ジェラールは涼やかだった。ただ、二本の足で立っていた。

良いように受け流されたように思えて、ハンニバルはフンと鼻白む。

 

「よくもまあワシに師事して置いてこんな『狂』の無い奴に育ったもんだ。

斬れる刃なのかナマクラなのかもよう解らん」

 

「『見るからに斬れればみんな警戒する。斬れないと思わせとけばマヌケに思ってみんな寄ってくる』……おかしいな、じーちゃんの教えを忠実に実践しているつもりなのだけれど?」

 

「師にまで見せん奴があるか、可愛げのない弟子(ガキ)め。

 

―― よし死ね。死んで来い。

師よりも、母親よりも先に死んで来い」

 

 皇帝に対しあまりにも酷い言い草だったがしかし、ジェラールの笑みは変わらなかった。

 

「じーちゃんならそう言ってくれると信じてたよ……これが母さんだとこうは行かないからね」

 

「ふん、タチの悪い確信犯め。暴走車の()()()か、方々からガナられる役か、ロクな選択肢を寄こさん。てかなんなんだあの娘は。遺跡見た瞬間にフルスロットルしおったぞ!?」

 

()()()()()は術研に貰ってたんだけど。ワームホール探すのに必要かなって引っ張ったんだけど。裏目だったよねえ……」

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ―― 男が一人、立っていた。

 

 ターバンも眼帯もしていない。

しかし、境界の曖昧な、白い不気味な仮面を被っていた。*6

仮面を通したからか、それとも他の要因か。

重く、くぐもった声が響く。

 

 

 

「……来たか、皇帝」

 

 

 

 黒髪に、禍々しい藍色の外套。

しゃれこうべの人魂のような、死霊のごときオーラがその体の周りを漂っている。

手には同じく、ドクロをあしらった剣が握られていた。

 

「あなたが……最後の英雄、クジンシー」

 

「違うな」

 

 男がジェラールに向き直り、言った。

 

 

「―― お前たちが『七英雄』と呼んでいた物がすべて、俺だっただけだ」

 

 


 

 

 ―― その姿はすでに、戦う事が決まりきっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、ジークさんですよね?」

 

「えっ」

 

 

 

*1
奇麗なおっぱいしてるだろ?

本人なんだぜ、それ……

*2
はい、ここガバ

*3
つまり大会に出なかったので件のモンスターは死んだと判断していたらしい。特大級のガバ。何より救えないのは、誰もおっぱいがワグナスとは認識していないので「正解だったでしょう?」とドヤ顔出来ている点。

*4
ビーバーがそれに応じるかは別問題とする

*5
だからオメーは新宿なんだよ

*6
アストラルゲートで出てくるアレ





 一話一殺。
リアル時間1年弱に渡る、1話からのクジンシーの思惑……無事死亡
いやもう無理でしょ。こうなる未来しか見えなかったもん。感想でめっちゃ突っ込まれてたもん。

 ―― でも、結局戦うんだよね。
多分次で最終回に……なると良いなって思う。


>オアイーブ
七英雄を待つ意味が少し変節した人。責任感が人一倍にあったばかりに行動し、しかし結果的に空回ってしまいました。
ジェラールに言った「あなた方に託します」発言ですが、現代に残った古代人はオアイーブとサグザーだけではないため、他の面々からしたら噴飯物の暴言だったりします。そもそもオアイーブがリーダーやってるわけじゃないし。
ここは何というか、大神官の娘的なもの出ちゃったよね。
しかしオアイーブから見た古代人の面々はまさしく停滞と自己保守に凝り固まってるようにしか見えず、彼女なりのケジメと世界の行く末とを考えた上での発言でした。
その為に自分の命が必要なら進んで投げ出す覚悟です。
こういう所はパパ見習ってほら。

>ロビン(先帝:シティシーフ 男)
置いて行かれた。
戦力外通知ではなく、アバロンの護りと公務代行で。
妻と息子が七英雄捜索に向かってしかも場所がナゼールの奥とかなってるので、一番胃に来てたと思う。

>ビーバー
まさかの続投。
フェードアウトすると思ってたけどしっかり最後まで仕事をこなしていました。
現在、かつてのジェラール1世がやってた総括のポジションに収まってます。

>ヴァイ
ハンター 男。
追跡技能を買われて同行を依頼された非戦闘員。
実は正式な『七英雄対策室』のメンバーでもなければ影の組織(シャドウワーカー)のメンバーでもありません。後者の方はスカウト来てそうだけど。
初めての寒冷地でも、優れた洞察力でメンバーを最後の要塞(ラストダンジョン)に導き切って見せたMVP。

>ガーネット
宮廷魔術師 女。
ヒロアカの発目ちゃんとかスイッチ入ったデク君とかと同じ部類の人種。
サグザーとエンカウントしたらきっととてもハッスルするだろう術研からの出向メンバー。
だから能力は優秀なの。能力はね。
立場的にはヴァイと同じく、対策室メンバーでもなんでもなかったりする。

>ブロック
帝国鍛冶職人 女。
レギンの後釜。血縁的にはたぶん姪とかそんな立ち位置なんじゃないすかね。流石に娘はあり得ない。
キャライメージはもちろんファネット・ゴベール。誰も知らないんじゃないかこんなキャラ……?
元ネタ同様非常に優秀。ビーバーもジェラールも彼女を戦闘に出させるつもりはなかったが、出ざるを得なくなった場合は凄い活躍をしてくれてそう。

>ハンニバル
インペリアルガード 男。
インペリアルガードのラインナップに実際にこの名前のキャラがいるのが悪い。
まさかのボケてないバージョンのきいちごじーちゃんがエントリーだ!!
ジェラールの教育係の一人。その関係で「じーちゃん」と呼ばれ親しまれてる模様。
軍略もそうだけど経済学とかもジェラールに叩き込んだ。
ハンニバルが経済って……?バカ言っちゃいけません、雑に史実調べただけでも対ローマ戦でスピキオに戦術返しされてボロボロにされた状態でなお政治家に転向して賠償金を前倒しできるレベルでカルタゴ発展させてみせたバグキャラだからねこの人。そらローマも恐れるわよ。





>ジェラール二世
『選択』の時は、近い。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。