新宿はがんばる   作:のーばでぃ

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誤字指摘受けるまで、ダンターグの事をダンター「ク」だとずっと素で思っていました。
いままでずっとごめんね五反田くん。
所で、五反田の事もいつも「ごはんだ」って読んじゃうんだ。。。


池袋はゆるせない

ロックブーケは、精鋭のみで固めている筈の討伐隊に、クジンシーが入っているのが納得できない。

 

平民の俗物。

 

他の連中と同じだ。

初対面で顔をじろじろ見てきて、『見目の良い女』だと侮るか低俗な妄想に耽るかするだけの、能力も無い身の程知らず。

案の定、ターム戦で見せた剣の技は自分よりも(つたな)く、兄のサポートがあったからこそ生き延びてる、そんな立ち回りしか出来ない男だった。

 

何より許せないのが、そんな男が自分を差し置いて兄やワグナスの隣にいると言う事だ。

 

小さな頃からそうだった。

兄の隣りはサグザーで、ワグナスだった。

自分には彼らほどの力は無く、けれども置いて行かれるのが嫌で、必死になって着いていけるように努力した。

それでも望んだ位置に収まることはできなかった。

彼らの輪に入ることはできる。

しかし、彼らの相棒になることは叶わなかったのだ。

 

それをなんだ。

横から来たあんな俗物が、簡単に入り込もうとしている。

ダンターグやボクオーンのように尖ったものがあればまだ許せた。まだ自分を納得させられた。仕方ないのだと自分を騙すことができたのだ。

 

それなのに、なんであんな奴が。

しかもあいつ、能力も無いくせに私の事を見下した目で……ッ!

 

 

「……あなた、討伐隊から抜けなさい。迷惑なのよ」

 

 

ターム戦から戻った後、ロックブーケがクジンシーに突っかかったのは、ほぼ予定調和だった。

クジンシーは酷く酷く面倒くさそうな目でロックブーケを一瞥すると、

 

「お断りします。それでは」

「っ、待ちなさい!!」

 

ワザとらしく敬語を使って壁を作り、早々に踵を返そうとするクジンシーの態度に沸騰する。

 

「ねえ、自分で気づいてないの!?貴方だけあのメンツから浮いてたじゃ無い!!お兄様やワグナス様の手を煩わせて足引っ張って、なんで図々しく居座れるのよ!!『吸収の法』で力を得て調子に乗らないでくれる!?」

 

クジンシーが振り返る。

 

「――その『吸収の法』だよ」

「は?」

 

クジンシーの口調は淡々としていた。

 

「俺は、あの中で、自分で役目をつくりました。だからあそこにいられてる。

確かに求められた物では無く、自分から無理矢理入った場所だ――場所です。だから別に、俺がいなくとも討伐隊は回るし俺は必須では無い自覚もあります」

「なら――」

「でもその点では、あんたも同じでしょ?あんたに何か言われる筋合いないですよ」

 

凍った言葉の刃が突き付けられる。

 

「俺の役目は、『吸収の法』の鉄砲玉です。誰よりも真っ先に吸収を行う事で、その影響をテストする事です。心の変質も体の変質も、俺から始まるようにする事です。俺がいるから、どの程度までは安心して吸収出来るかワグナス達は知る事が出来る。俺がいなくてもワグナスたちはやるだろうけど、とにかくそう言う仕組みを俺は自分から願い出た。

……ワグナス達は、同じ役目をあんたに求めることは絶対にない」

 

じゃあ、あんたの役目はなんだ?俺のような役目の無いあんたは?

そんなクジンシーの言葉が、じくじくとロックブーケの心臓を抉って広げている。

 

ああ……そうだ。

自分は……自分は、まだ。

 

――『吸収の法』を、許されていないのだ。

 

ターム戦でも、ロックブーケは同行こそ許されたが、『吸収の法』は施されなかった。

曰く「それをやらずとも戦えている」から。

実際、陣形に組み込まれたロックブーケは『吸収の法』が無くともそのポジションを全うしてみせた。

 

しかしそれが逆に、ロックブーケの琴線を抉った。

仲間外れにされた気がしたのだ。

お前はいらないのだと、邪魔なのだと、言われた気がしたのだ。

幼かったあの日から、実はずっと暗に言われ続けていた気がしたのだ。

 

そして今、望んだ場所に平民の俗物が収まっている。

 

「なんで、アンタなのよ……!」

 

その眼には涙が溜まり始めていた。

クジンシーがそれを見て、露骨に嫌そうな顔をした。

 

「私、がんばったわ……がんばったわよ!勉強も成績を褒めて貰えるくらい努力したし、剣の稽古だって続けてる!術法だって、そこらの魔導士に負ける気はないわ!

――なのに!!

なんでお兄様もワグナス様も、私を傍に置いてくれないの!?

なんで私より大きく劣ったアンタを選ぶのよ!?

王城の中でだって私は腫物扱い!お仕事を手伝いたいのに、私をお傍には置いてくれない!!」

 

……知るか。本人に言えよ。

クジンシーは反射的にそう吐き捨てそうになったが、何とかその言葉はもにゅもにゅと口の中で留めた。

ロックブーケが本気で泣いていたからだ。

嫌いな女だが、死体蹴りをする人間に堕ちたくは無かった。

王城のような奴らと同じように見ていたクジンシーの目線が、泣く子供を見るそれにシフトする。

 

「――あんたが、ノエルやワグナスを大好きなのはわかったよ。アンタみたいに見た目が良くて、勉強も剣もなんでも優秀な子がいるなら、そりゃあ彼らだって自慢だろうさ。しかもそれが、『自分たちの隣にいるためにがんばってる』なんて理由なら、まあ可愛くもなるだろうよ」

 

気付けば言葉を敬語で飾るのは忘れていた。

 

「ノエルは兵隊長でワグナスは軍部総司令官だろ。ノエルは世襲もあるんだろうけど、でも嫌々やってるようには見えなかったよ。きっとワグナスもそうだ。二人は望んで、王国の盾となる場所で敏腕を振るってる。……ああ、二人にはその身を賭してでも守るものがあるんだなって、隣にいて感じてるよ。

……俺にはとても出来ねえよ。王城に入ったなら特にだ。

あそこには唾棄するようなモノばっかりで、まともな感性持ってるなら、守りたいと思えるような、大切に思えるような何かなんて全然見つからないし見つかる気もしねえよ。王城の端っこでたった数日剣振っただけでそれ悟るくらいにはひでえ場所だよ」

「……お兄様たちとアンタは、天と地ほども違うわよ」

「そーだろうな。俺にはアンタみたいな自分の事を想ってくれる家族とかも、いなかったしな。でもノエルたちは違う。それが、お前だったんだろ」

 

ロックブーケが沈黙する。

それは自分でも分かっている、気づいている事だった。

 

「王城の連中なんてモノじゃなく。何よりお前を守りたかったからこそ、あの位置で必死になって剣を振ってたんじゃないのか。何よりお前がいるからこそ、例えその身が、その心が侵食されるような危険な術法を使ってでもギリギリ踏ん張れるんじゃないのか。

……そんなモチベーションの大元がさ。今まで必死に必死に守って来た大切な宝物がさ。自分から王城みてーな肥溜めにドボンして殺人鬼になるかもしれないクスリ静注してお願いお傍に置いてくださいとか言い出すんだぞ、もう勘弁してやれよ。

ある日突然あんたの頭がタームのそれに変わってそこらに居る奴をグサグサ刺して回るようになったらさ、ノエルたちもう絶望して自殺するしかなくなるじゃん。あんたにそんな嗜好無いのはわかるけど、もはや二人を曇らせるフラグをせっせと立ててるようにしか見えねえよ俺は」

「……。好き勝手言ってくれるわね。

宝物じゃあ……遠いのよ……!大切にしまわれるだけなんて、そんなの……無視されてるのと、同じじゃない……ッ!遠ざけられてるのと一緒じゃない……ッ!!そんなの、ひど過ぎるじゃない……!!!」

 

ノエルの愛を。ワグナスの愛を。

疑っている訳じゃなかった。

ただそれらを受ければ受けるほど、彼らが遠くなってしまう。届かなくなってしまう。

 

そして彼らの愛をただ受け続け、ある日彼らが消えてしまったら、残された宝物はどうしたら良いのだろう?

その上『吸収の法』なんてモノに手を出されたら、もう会えなくなってしまうのと同義ではないのか?

 

自分の想いはどうすれば良いの……?

 

スカートをぎゅっと握りしめ、肩を震わせるロックブーケを見てしかし、クジンシーはどうすれば良いのかわからずガリガリと頭を掻きむしった。

 

「良いだろ別に……結局、討伐隊には参加できたんだろうが」

「でも、お兄様は私に『吸収の法』を授けては下さらなかったわ」

「無理して使わんでも、討伐隊に居る時点で大切にしまわれる状況は抜けただろ」

「それで納得出来るわけないじゃない!」

「そんなに頭タームが良いのかよあんたは……もーいいだろ、根気よく突撃してればどうせ折れるよ結局アレは」

「面倒臭くなって適当に応えてんじゃないわよ!!!」

「俺にどうしろって言うんだよ!?そんな機微が俺にわかる訳ないだろうが!!?」

 

意外に話せていたのに、やはりこいつは駄目だとロックブーケは歯噛みした。

所詮、平民の俗物だ。成り行きとは言えこいつに弱音を漏らしたのがそもそもの間違いだったのだ。

 

こうなれば別の人間に相談するしかないと、ロックブーケは討伐隊のメンバーを思い浮かべる。

 

ダンターグ……論外である。ともすれば暴力を用いて勝ち取れとか言い出すかもしれない。

ボクオーン……なんか冷たくあしらわれそう。何なら、理詰めで心折るような事をボコボコ言いそう。

スービエ……まだ話せるほうではあるが、そもそもあれは討伐隊参加を『異常気象でフィーバーしているリアルビックウェーブに乗れるかどうか』で決めたファンキーヘッドだ。まともな答えが返って来るかどうか。

ロックブーケは、叫んだ。

 

「――討伐隊、お兄様とワグナス様以外まともな人間居ないじゃない!!やっぱりアンタがなんとかしなさいよ!!」

「アア嗚呼ああがんばって相手したのに何なんだよあんたはホントによおおおおおおッッ!!やっぱあんた大嫌いだよクソがあぁッッッ!!」

 

両者のキレた叫びが木霊する。

 

 

@ @ @

 

 

結局、この場の出来事はロックブーケにとって『イヤな奴に心の内を吐露する破目になって何も解決せずに終わった』という、思い返すだけでイライラする結果になった。

 

……なったのだが。

 

多少は心の整理になったのだろうか。

その後、ロックブーケはノエルと何回か話す事になる。

 

宝物のようにしまわれるのは残酷で、耐えられないのだと伝えた。

道の無い道を行くからこそ、お前には普通の幸せをつかんで欲しかったのだと伝えられた。

思い出話もした。

今の道に進む時にあった、小さな出来事や覚悟を聞いた。

遠くなってしまった二人に置いて行かれる恐怖を口にした。

 

……交わした言葉がどんどん積もって、胸の中に溢れていた物が全て出て行ってほどけた頃、ノエルはついに、ロックブーケに『吸収の法』を教える事になる。

 

討伐隊に参加した時のように目に涙を溜めて見つめれば、ノエルは何時だって折れてくれていたが。

今回、ノエルと話すロックブーケの目には、そう言った涙は無かった。

 

目に涙を溜めてお願いするよりも少しノエルに近づけたと、少し成長できたと、そんな風にロックブーケは感じた。

 




ロックブーケ → クジンシー
初対面で顔をじろじろ見て来た俗物平民。どうせ頭ン中では低俗な事を考えてると決めつけている。

クジンシー → ロックブーケ
ブリっこして自分の為に回りを振り回す自己中お嬢。どうせ頭ン中では他人なんていいように搾取する道具なんだろと決めつけている。

つまり、第一印象はどっちもどっち。
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