新宿はがんばる   作:のーばでぃ

9 / 74
なんとなくさ、山手線の路線図(真円のやつ)上で七英雄の駅に印を置いてみたんです。
するとね。
スービエ、ダンターグ、ワグナスが適度に固まってて、少し離れてクジンシーとボクオーン。さらに少し離れてロックブーケがいて。
そこからずいぶん孤立した場所にノエルがいたんです。
これ、意図的なのかなあ……クジンシーとノエルが逆だったら「おおお」とか思ってたんだけど、よく考えるとノエルって結構特別視されていて、グラフィックからもこいつだけモンスターの要素が見られないよう配慮されてるんですよね。
やっぱり意図的なのかなあ……?実際の地図上で見たらまたなんか変わるのかしら。

ちなみにサグザー(浅草)は山手線ではなく、しかし山手線の最寄りは上野と言われてるらしいですね。
これは意図的っぽい。

……まあ、私が雑に調べたら最寄りは神田って出たんだけど。電車はちょっとよくわがんね。



新宿はかんがえた

気付けば十数体はモンスターを吸収してると思う。

人造悪魔とか使い魔みたいな意思が希薄っぽい奴を優先に、動物系とか植物系みたいに知能無さそうな、本能だけで動いてそうなモンスターもいくつか。

後はタームか。これについては情報集めのために一通り食ったんじゃないか?

 

今のところ、意識が侵食されているような自覚は無いし、体に変化も現れていない。

我が強そうなのを避けている成果が表れているのかもしれない。

身体能力が上がって少し冥術を覚えた程度だ。

……と言っても、術法の「じ」の字も知らなかった俺が術法を使えるようになったというのは凄い成果だ。

ブレスだの邪視だのって言う如何にもなスキルが付かない事については多分、そういう事が出来るような器官が前提なんじゃないかと考察している。

極端な話、人間の肺から炎が噴き出る訳がない。

火が吹きたかったらそう言う体の構造になれ、という事だろう。

 

……さて、自ら鉄砲玉として志願したは良いが、俺とて積極的に人間から外れたい訳じゃない。

そう言うのに対する恐怖は持っているので、いつも「変わらなければ良いな」とドキドキしながら吸収している。そういう恐怖心の影響は出てるんじゃないかと思ってる。

自ら体の変化を受け入れれば、案外サクッと変わるんじゃないか。

 

でももしそうなら、『吸収の法』って結構制御が効くのかもしれない。

 

「なるほどな。心を人間に保てば人でいられると。しかし、その分伸び率は低い……」

 

――力を望んで『吸収の法』を求めた我々だが、変化を恐れて人のままでいようとすれば力は遠ざかってしまう訳か。

ノエルが複雑そうにため息をついた。

 

「……ノエルは俺に、モンスターに近くなる変化を望むか?」

「やめてくれ。今それ深掘りされるのは辛いんだ……結局『吸収の法』を教えてしまったからな。たとえ心が人間のままでも、明日ロックブーケの頭がタームになったら俺はきっと即死する」

 

頭を押さえて項垂れるノエルにはありありと後悔が見える。

 

「……結局、わがままで押し切られたのか」

「いいや」

 

そこだけは違うと言い切った。

 

「あいつの苦悩も理解したよ。俺がどんなに酷い事をしていたのかもわからされた。宝物のように接する事は、今のこの国の情勢ではよほど残酷な事なんだと……

結局のところ俺の独りよがりで、ロックブーケの事を理解しようとして無かったんだ、俺は。逆の立場だったら俺も同じ選択をする筈だと、道なき道を歩んで離れてしまうならせめて同じ道に居たいというロックブーケの言葉は、ひどく胸に来たよ。泣かれてしまうのも当然だ。

だから俺も覚悟したし、納得もした。だから『吸収の法』を教えたんだ。

 

――けどな、それと感情は別なんだよ!後悔はしてないけど後悔はしてるんだよ!!

いくら納得済みでも明日この肝おいしいですわお兄様もいかが?とかやられたら俺もう死ぬしかないだろ!!?納得できるわけ無いだろ!!?」

 

うーん、とんらんしてるなこれわ。

 

「……普通に妹の事大切なんだな。あいつの顔見るまで、ノエルの口から名前が出て来たこと無かったから、そういうの居ないんだと思ってた」

「俺を何だと思っている……王城に居るという事は公務中という事だぞ。プライベートな話を積極的にする訳がないだろう。……まあ、ロックブーケを出来るだけ関わらせたくなかったからと言うのはあるが」

 

それでも、自分の執務室に写真立てのひとつは用意していたのか。

ノエルが引き出しの中から取り出したそれには、ノエルとロックブーケ、そしてもう一人知らない男が映っていた。

みんな今よりずっと幼く見える。彼が17~8歳ぐらいのものだろうか?ノエルの手には手彫りと思しき木剣が握られ、自慢そうに掲げられていた。

懐かしそうに写真を撫でる。

 

「一緒に写っているのはサグザーと言う親友でな。今は超術学研究所の開発主任をやっている。

俺は剣で、サグザーは学問でこの国を支えようと共に誓った。あいつはただでさえ寝食を忘れて学問に打ち込むような奴だったから、その気がなくともどんどん先に行ってしまってな。追いかける為に俺も随分気張った物だ。

木剣を持っているだろう?ロックブーケが俺の為にと作ってくれたものでな。青春時代の俺の訓練の友だったよ」

 

訓練で折れてしまった時、3日ぐらい立ち直れなくてロックブーケを呆れさせた事もあったとノエルは苦笑する。

 

「この写真を見てると初志を思い出す。サグザーと誓ったあの時を。俺と共にあったあの木剣の感触を。俺が守ろうと誓ったこの国にある宝物を。

……嫌なモノも多く目にしてきた道のりだったが……この誓いは色褪せない。色褪せさせやしないと踏ん張ってきた」

 

――それは、この肥溜めのような王城の中で、ノエルが『人間』であり続けている理由なんだろうなと思った。

彼の思い出はきっと、とても素晴らしかったのだろうと思う。

そして、とても輝いていたのだろうと思う。

 

「色々なモノが変わっても、志だけはあの頃のままに。……そう、思っていたのだがなあ……」

 

その指が切なそうに、写真の中のロックブーケをなぞっていた。

 

「……プライベートな話をしてしまったな、すまない。

クジンシー、お前がロックブーケを苦手に思っている事はわかっているが……いや、これは身内のわがままだな。すまん、忘れてくれ」

 

言いかけた願いを口に出さず、ノエルはそうっと大切そうな手つきで写真立てを戻した。

……気付けば、自然に口を開いていた。

 

「……あんたが、見ててやれよ」

「うん?」

「『吸収の法』の方向性が、心のありようによって決まるならさ。ロックブーケもその写真に写った時間を宝物にしてたんならさ。その宝物が心の中にある限り、きっと何を吸収したって、あんたらはその宝物からズレるような事はないよ。

二人で宝物を共有して、胸張って生きれば良いさ。どっちかがどっちかに依存するような関係よりも、その方がずっと健全だ」

 

ノエルはしばし、ポカンと口を開けてクジンシーを見ていた。

そして目じりを落とすと、「そうだな……ありがとう」と嬉しそうに言った。

 

 

――ロックブーケを苦手に思っている事はわかっているが、気に掛けてやってくれないか。

 

ノエルが胸中に仕舞ったであろう言葉を反芻する。

高飛車で攻撃的でごめんなさいも言えない大嫌いな女だが、ノエルがそう言うのであればほんの少し――そう、ほんの少しぐらいは気にかけてやっても良いかもしれない。

きっとそれで嫌な気分になるんだろうなあとありあり想像できる未来を想いながらも、不思議とそんな気持ちになった。

 

 

@ @ @

 

 

つまりは、『オリジン』という奴なのだろう。

ノエルにもロックブーケにも、譲れない『オリジン』があった。

戦い続けられる『オリジン』があった。

 

……自分はどうだろうか。

 

まじまじと右手を見つめてみる。

そこにはまだ変化が見られない。しかし剣を振って少しゴツくなって来たような気はしている。

気がしているだけかも知れないが。

 

自分は変われているのだろうか。

便器の中で怒鳴られながらタームに食われるのを待っていたあの頃から、ゴツくなった手の変化分くらいは変わる事が出来ているのだろうか。

 

自分が戦う理由なんて、きっと他の奴らからしてみれば「ただ逃げているだけだ」と笑うだろう。

その通りだと思う。

少なくとも、『オリジン』などと御大層に名付けられるようなものでない事は確かだと、自分でも思う。

 

それでも、俺は『人間』になりたいのだ。

この嫌悪しか出来ないシステムから抜け出して、ただただ『人間』になりたいのだ。

 

『吸収の法』を繰り返し、人から外れて行ってしまうのは、その思いからも遠くなって行く事なのだろうか。

それともただ想い続けて『吸収の法』を使っていけば、あるいはこの邪法が俺を『人間』に導いてくれるのだろうか。

 

――何もビジョンが見えない。

『人間』になった後はどうするのだ、と言う事すらもわからない。

そもそも『人間』になった自分を想像できない。

がむしゃらに動き、きっと何かが変わりつつはあるのかもしれないが、それでも目の前は暗雲に閉ざされ行先は(よう)として知れない。

 

灯火(ともしび)が欲しい、と思った。

暗い海の中、その行き先を示してくれる灯台のような()が欲しい。

あるいはワグナスが、ノエルが、討伐隊が。その()が延ばし照らす道であったならば。

 

――見つめた右手に術力を通す。

薄ぼんやりと、暗い光を放つ靄がそこに揺らめいた。

吸収の法で『冥』に寄って来た自分の体。

 

――少なくとも、このまま無為に吸収を繰り返したとして。

その先で、『人間』になる事は無いだろうなと思う。

 




Q. この世界に写真なんてあるんですか?
A. 別世界に王城ごと転移するような技術がある世界やぞ。iPhone16の3D写真だって敵じゃねえわ。

そう言う事にしてます。

『吸収の法』に新説を唱えたい。
化け物の力を求めて化け物を取り込むから化け物になるのであって、きっと人の心を持ち続けたまま使えば人のままで居られるんじゃないかなって。
『吸収の法』の原型が『同化の法』であるなら、そう言う部分があってもおかしくないんじゃないかなって。

だっておかしいじゃないですか。
『同化の法』は、自分の体が朽ちる前に他者に乗り移るんですよ?
その仕組みから考えれば、同化後の体は生贄のそれになってなきゃおかしい。理屈的に考えたらメロンパンのそれと同じでしょう?
それでも自分の体を保ち続けてるのは、術者が「そうあれかし」と考えてるからなんじゃないかって。
七英雄が帰ってきた時に化け物となり果ててしまっていたのは、『吸収の法』を繰り返した事もそうだけど、何よりウン千年という時間が彼らの『人間』を希釈してしまった結果だったんじゃないのかと。

……だからこそ、必要なんだと思う訳です。
『オリジン』から変わらずに導き続けてくれる『灯火』が。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。