私は宇宙人   作:蒲鉾三田

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アニメ見て漫画全巻買いました。


第一話 惑星ライムズ

 

 やあ! 私の名前は『ヒ・ロネクォリィミ』。

 無理やり翻訳するなら “ヒ・ロネクォリィミ” 辺りが妥当かな?

 

 我々の意志伝達はコアより発生させる “念” により行うため、単一の構音器官では再現不可能でしょう。

 

 おっと、失礼。今のは堅苦しかった。

 要するに、私たちの言語は(コア)にテレパシーを飛ばして使うから、声帯で出せる音向けじゃないってことだ。うむ!

 

 私の同胞は皆こんな感じだから、言語形態がすっかり癖になってるんだよね。

 同胞だのテレパシーだの、何言ってんだコイツと思うだろうが。

 

 何を隠そう、私は宇宙人だ。

 元は地球生まれの日本人。

 今は惑星ライムズに転生した “ライムズ星人” です。イェイ。

 

 説明しよう!

 ライムズ星人とは、ゼリーの様なゲル状の体に青いコアを持つ、巨大なクリオネ型の宇宙人である!

 

 ちなみに体内に浮いてるピーナッツ形の青いコアは、脳とか心臓、あと消化器官。それら全てをひっくるめた内臓全部盛りセットだ。

 ゲル体が半透明のスケルトンボディなので、俗に言う弱点丸出し造形なのだが。まあ人間の片方だって内臓が外に出てるんだし、一緒一緒。

 

 クリオネの外見を思い浮かべれば分かる通り、ライムズ星人に目鼻なんかの部位はない。

 代わりに “念” と呼ぶ超能力を使ってコアで()て、()いて、()ぐ知覚能力持ちだ。

 

 この力で液体操作もできちゃうので、我々は自分のゲル体を操り、空中をふんわり移動するのである。

 ゲル体の色や形なんかを変えて別の物に “擬態” できたり、他にも色々。

 

 人間とは見た目も生態もかけ離れた、まさに宇宙人。

 そんなライムズ星人として、私は生まれ変わったわけだ。

 

 元人間として他の異星人と比較するが、ライムズ星人はもれなく全員好奇心が強い。

 他の惑星を調査し、新技術や未知の情報を同胞に広める生態をしているのだけれども。

 良く言えば研究者気質。俗に言えばミーハーで、知らないことや最新情報に飛びついてしまう好奇心旺盛な種族だ。

 

 転生したばかりの頃は宇宙人の実在やら、地球より高度な文明があることに驚いたが、住めば都。

 むしろ宇宙旅行だの、宇宙生物の調査だの、人間の時じゃ絶対できないことだらけ! 私も同胞の例に漏れず、好奇心が擽られて仕方ない。宇宙はとびきり広いからね!

 

 あと説明しておきたいライムズ星人の特徴と言えば。我々はなんと、自分と全く同じコピーが分裂、できます!

 アメーバとかゾウリムシが大体近い。…そう言うとなんかショボく感じるか?

 

 いやしかし! 自分をコピーした分体と頭の中を共有しているので、遊びながら勉強、みたいなことが同時にできるとびきり便利な生態だ。

 分裂すると縮むが、栄養さえ取ればそのうち元に戻るので作業効率は倍! リアル影分身ができる。忍法使う指はないが。

 

 まあ個々のキャパで分裂数やコアが耐えられる情報量が違うから、流石に無限に増えたりしないけども。それでも自分が何人もいるだけで超便利ってわけ。

 ただ、1体だけでも分裂した体(バックアップ)が残っていれば記憶を引き継げるせいで、代わりに警戒心がザルなのがライムズ星人の悪いところか。

 

 同胞には『ヒ・ロネクォリィミは警戒レベルが高い』やら『ヒ・ロネクォリィミは消極的な傾向にある』と不思議がられるが、自制してるだけでこれでも人間の頃よりよっぽど積極的なんですけど!

 同胞が赤ちゃん並の好奇心で未知に首を突っ込む姿は未だにハラハラする。

 分体もコアの情報を共有している本人だからバッチリ痛い目をみてるのに、残機があるせいで好奇心優先の同胞しかいない。

 調査隊に志願して宇宙に飛び出す奴らは特にね!

 

 他の宇宙人と違い、ライムズ星人は情報を同胞に “共有” することに積極的で、どんな秘密でも知りたがるところがある。

 

 そして今。

 

 惑星ライムズはその知識欲が仇となり、滅亡の危機に晒されているのであった───!

 やべーよやべーよ。

 

 

 

 □

 

 

 

『3割だ』

 

 無機質で、無感情な念話が響く。

 

『同胞の3割が既に()()した』

 

 平坦な音の羅列に、同じく抑揚のない機械的な念話が応えた。

 

『それ程までに進行したのですね』

『分体も1体残らず、同時刻に同様の死を迎えている』

 

 ライムズ星人は分裂する種族である。

 分裂した個体は同じ情報を共有し、同じ人格として活動する。1体でも生き残れば再び分裂して増える為、本体という概念すらない。

 調査し得た情報を母星の分体に送り、コアを通じて同胞へ共有する。こうして惑星を発展させた種族であった。

 

 だがその習性が、惑星ライムズの滅亡を招く()()()()を媒介させる原因となったのだ。

 

『まさかコアを通じ、侵入するウイルスが存在するとは』

『惑星ライムズに待機していた調査隊、その分体が全て狂死。死因調査のため破損したコアを取り込んだ個体も、分体ごと狂死した。その後も同様の報告が相次ぎ、ウイルスの存在が判明』

 

『そして警告のため惑星全土に呼び掛けた “念話” を通じ、感染拡大が確認された。惑星ライムズに未感染の個体は、もはや存在しない』

 

 無機質で抑揚のない念話。しかし(おも)いを読み取るライムズ星人にとって、音の強弱という概念は不要だ。

 傍らに浮かぶ同胞には、悲痛な感情が痛いほど念話から伝わっていた。

 

 この星にやって来たウイルス、それはライムズ星人を狂死させた。

 このウイルスに感染した者は、コアに蓄積された情報を整理するためスリープ状態になったものから、みな不可解な死を迎えた。

 コアが裂けた者、細切れになった者。死に方は様々だが、どれも凄惨なものだった。

 眠り落ちたまま身悶え、突如コアとゲル体がバラバラになり死ぬ。そんなウイルスが惑星ライムズに蔓延り、滅亡への秒針を刻々と進めていた。

 

 スリープ状態を避ければ死を免れるが、いずれコアにも限界は訪れる。

 いつしか終点はやって来て、蓄積された情報量でコアが狂い、衰弱の果てにやがて死ぬのだ。

 種の存続の危機であり、絶望的な状況だった。

 

『スリープ状態へ移行時、ステージ( 病期 )が進行するのだろう。感染後2度目のスリープで死亡したと情報を受け取っている』

『いいえ。その情報は古いかと。ウイルスはより凶悪に進化を遂げ、我々に巣食っています。現時点ではスリープ状態へ移行次第、死を迎えるはず。でなければ、この速度で大勢の個体が死亡するのは不自然です』

 

『恐らく、()()ことがトリガーになるウイルスでした』

『そうか』

 

 周囲に恒星のない惑星ライムズには、光も熱も届かない。

 星々の煌めく暗い宙を()上げ、光に頼らない視覚を持つライムズ星人の1人は、凍てつく大地の上でコアを揺らめかせた。

 どの個体も恐怖に念を抑え込み、住処に閉じこもっている。

 何一つ動くものがない。まるで死んだ星のようだった。

 

『ですので。我々のコアよりウイルスの記憶を抜き取れば、一時的に滅亡は免れるかと。幸いなことに、我々は記憶を取り出し別のコアとして凝固することが可能です』

 

 淡々とした念話を送るライムズ星人。しかし念話を送られた個体はその内容と、強い決意の思念を受けてたじろいだ。

 

『しかし、記憶を抜き取っただけでは根本的な解決になりません。対抗できる何かを発見する必要があります。ウイルスは()()()いる。あれは明確に、我々に害意を持っています』

 

『実験時に記憶を切除しましたが。摘出した記憶を視認した直後、再びウイルスに()()()感染しました』

『再感染。記憶抽出に除去効果有り。念視遮断の感染妨害は』

『はい。念視及び分体との記憶共有を遮断し検証。結果、感染を防ぐことは可能です』

 

 感染が防げる。滅亡の危機から脱する望みはある。

 だがその場には、重い静寂が横たわっていた。

 

『私が全てのウイルス( 記憶 )を集めたコアを受け取り、バックアップごと惑星ライムズを離れます』

『──しかし、それは』

『感染源は絶たねばならない。母星に残したバックアップに感染済の記憶が共有されては、元も子もありませんので』

 

 母星にバックアップを置かず、宇宙に飛び立つ。

 それはライムズ星人にとっての死の宣告だった。後のない恐怖は酷く耐え難く、誰もそんなことをしようとはしない。

 だが、この個体だけがそれを自ら志願した。救いがそれしかないと分かっていても、誰もできないことを、この個体だけが。

 

『治療法がある筈です。このウイルスがあった惑星が滅んでいないのは、何か…対抗策があるはず』

 

 祈るような、縋るような(おも)いの込められた念話は、同時に強い覚悟を宿していた。

 

『私が “地球” へ向かいます』

 

『…すまない』

『いいえ、地球にはいつか来訪したいと思っていました。良い機会ですね。ウイルスには感謝します。そして死滅してもらいましょう』

『報告が来る事を願っている』

『はい』

 

ヒ・ロネクォリィミへ命ずる。惑星 “地球” へ全分体を率いて直ちに向かい、ウイルス “モンスタートレイン” をこの惑星より完全駆逐せよ』

『オーダーを承りました。任務を遂行します』

 

 

 

『…モンスタートレイン』

 

『ウイルスとは言い得て妙ですね』

『宇宙には存在しないものです。あくまで地球で発生するものなのでしょう』

 

 これ、()()だよなぁ。

 

 自分の分体と共に宇宙船に乗り、地球を目指す。

 元日本人である私は、惑星ライムズを滅亡させかけたウイルスの正体が何なのか。凡そ、察しがついていた。

 

 惑星ライムズに住む全ての同胞から、ウイルスに関する記憶を抽出したコア。

 その5cmほどの球体を視認すれば、それは禍々しい(オーラ)を纏い、変わらず鎮座してる。特級呪物すぎるだろ。

 

『 “都市伝説” が現実になった地球、ですか』

 

『発祥元の()()に向かうのが確実でしょう。調査隊もそこで感染しました』

『私が死に、長らくの時が流れましたが。インターネットはまだ地球に存在する様です。任務遂行後には日本の素晴らしい娯楽文化に触れる機会があるでしょう』

 

『睡眠が取れない状態で、娯楽にも触れられない耐久戦ですか』

 

 淡々とした、棒読みじみた念話の中には、でっかいため息の感情が込められていた。

 コアの負担を考えて今は共有を切り、独立して動く私の分体2人と肩(そんなものは無い)をすくめる。やれやれだぜ。

 ふざけてないと命かかってるからやってられんのだ。

 

 ホラー、あんまり得意じゃないんだけどなぁ。

 ま、地球にこの都市伝説と対抗できる勢力がいなくても、これで母星は救えるかもだし。いっちょ生き残るために頑張りますか〜!




◎ライムズtips

念:ライムズ星人が使うスピリチュアルな力。生命エネルギー。地球における “氣” や “(オーラ)” とほぼ同等の意味合いを持つ。
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