「オカルン!!」
オカルンが猿夢に別車両にまで殴り飛ばされ、クリオネ星人と繋がっていた視界が途切れる。
咄嗟に桃は
「ヒヒヒ、ヒ!?」
「猿が物騒なもん振り回してんじゃねえぞ、こらあ!!」
視界を封じたと思い込み襲いかかってきた小猿に、桃は床に落ちた窓ガラスの破片を超能力で掴み、振り回す。
浮き上がった大量のガラスで小さく切られ、驚いた小猿が立ち止まるが──それだけだ。毛皮を持つ猿には虚仮威しでしかない。
「そうだ、吊り革!」
包丁やハサミに切りつけられながら桃は機転を利かせ、愛羅の真似をして吊り革を超能力で掴もうとした。
「うわ、超能力があんま伸びなくなってんじゃん!」
だが猿夢にバリアを破壊されたせいか、超能力の手が思うように届かない。
桃は小猿から逃げ惑い、座席やポールを経由しつつ「おらあああ!」と勇ましく叫んで跳躍。超能力で吊り革へと掴まった。
息を整える間もなくターザンのように吊り革を次々と変え、桃は車内を移動しながら反撃の術を探した。
傷口の血がパジャマを濡らしていく中、猿夢がマイクを取り出し、あの野郎! と桃は歯噛みする。
小猿の数は減らず、猿夢のアナウンスも止められない。そんな中、視界の端で愛羅が立ち上がった。
猿夢に殴り飛ばされ、倒れた愛羅だったが。
視界の途切れた彼女は、壊れた破片と残骸の散らばるへこんだ座席の中で、固く閉じていた瞼を憤怒の表情で見開く。
ピンクの髪が迫りくる小猿からの
猿夢の背中だけを睨み、アスリートのように腕を振って、愛羅はガラスの破片や小猿の群れを飛び越える。その最中、座席に刺さった包丁を髪の先で掠め取った。
「次は八つ裂きぃ 八つ裂きで──ウギッ!?」
「おてめえは! おいい加減、お黙りあそばせ!!」
猿夢の顔に髪を巻き付け、その邪悪な口と目を封じ込めた愛羅が、猿夢の手からアナウンスマイクを力強く蹴り上げた。
愛羅がマイクを蹴りつけた瞬間、刃物を持った小猿たちが愛羅に追いつき四方八方から目玉をギョロつかせ殺到する。
邪眼を直視できない愛羅は恐怖に侵され動けなくなる前に、再び瞼を閉ざし鋭い舌打ちをした。
猿夢が目と口を塞いでいたピンクの髪を鷲掴み、力任せに引く。
しかしそれを予測していた愛羅の伸縮自在な髪が溢れ出るように伸び、猿夢の手を縛りあげ翻弄する。猿夢は小猿を巻き込み、ドスンと勢いよく尻もちをついた。
その隙に愛羅は包丁で髪を切り落とす。
「よくやったアイラァ!!」
「リーダーなんだからお当たり前よ!! それよりおマイク! どこに行ったか分からないわ!!」
小猿たちが愛羅を捕まえようと飛びかかるも。
その指先が触れる直前。彼女は荷物棚へ髪を伸ばし、間一髪で
「それならウチが見える! 2度とクソガビアナウンスができないようにしてやらあ!!」
「てめえらそのマイクに触れさせんなぁ!!」
猿夢は絡みついた髪を引きちぎり、床に投げ捨てながら小猿へ怒鳴りつける。
桃が
先ほど猿夢が暴れ破壊した車内の長い
桃は前転して着地しつつ、マイクを上に放り投げ、ポールを思い切り振りかぶって。
「っしゃ! ホームランじゃボケェ!!」
マイクを取り返そうと飛びかかる小猿ごと、桃は歪んで変形したポールをバットのように思い切り振り抜いてやった。
スイングに当たったもの全てを割れた窓ガラスに叩き付け、マイクと小猿が紙吹雪のように吹き飛んでいく。
トンネルの壁にまで突きぬけ、ガシャンと音を立てたマイクが、車両から置き去りにされていった。
「ふはは、どんなもんじゃい!」
「やったの!?」
「やったったわい!!」
「よくやったと褒めてあげるわ!!」
「ざあけんじゃねぇぞクソアマ共…!!」
怒気を帯びた猿夢の声がビリビリと列車を震わせる。
その恐ろしい怒声に小猿たちが「ヒィ」と瞠目し、そして恐慌にも近い状態でなりふり構わず襲いかかってきた。
荷物棚の上で愛羅は髪を静電気を帯びたかのように全方位に広げ、そして髪に当たったものを感知する即席の物理センサーで、やって来る小猿を絡め取り片っ端から蹴り飛ばす。
オカルンたちが飛ばされた車両の端まで駆けつけた桃が、大きな車両を隔てる貫通扉のドアノブを超能力で引く。しかし扉に鍵がかけられたのかドアはビクともしない。
ガンガンと拳でドアを叩き呼びかけても、向こうの車両から返事はなかった。
「オカルン! くそ、取っ手引いても開かねー!! おいクリオネ! 視界消えたぞ!! 死んだか!?」
「ねえ! お願いだから何か言ってちょうだい!! 聞こえてるんでしょ、高倉様もご無事なの!?」
学校で地獄耳じみたことをしていたクリオネ星人が、どこかからテレパシーで反応し、オカルンも含めた無事を伝えると信じて、桃と愛羅の2人が声を張り上げる。
しかし聞こえるのは耳障りな猿たちの笑い声と、電車がレールを走る音ばかりだった。
「ヒヒヒ」
「ひゃひゃひゃ」
「アイラ!! 包丁投げられてる!!」
「キャ! いったいわね!!」
小猿が手すりを登り、吊り革を足場に刃物を投げつけながら愛羅を追う。
桃は背後から襲われぬよう扉を背にパイプを振り回して応戦するも、長すぎて取り回しが効かず、小猿をノックアウトできるほどの威力もない。
猿夢からマイクを取り上げたまでは良かったが、着実に2人は追い詰められていた。
「申すか? 申さぬか? 不安と恐怖が芽生えておるなぁ。分かる、分かるぞぉ」
猿夢は怒りに毛を逆立てながらも狡猾に、膨れた黒い目玉をギョロリと動かして先に狙うべき獲物を見定めた。
そして、機動力と攻撃ができるが目の見えない愛羅の元へ身を翻し、猿夢が猛然と迫り来る。
通路をナックルウォークで進む猿夢は速く、荷物棚を走る愛羅に瞬く間に追いつくと、小猿と挟み撃つように荷物棚を掴んで飛び乗り先回った。
「そっちに猿夢行ったぞ!!」
「もう! 見えないのに来るんじゃないわよ!!」
応戦しようとした愛羅だったが、盲目のまま感覚を頼りに己より素早い猿夢と戦うのはあまりにも無謀だ。
長い腕から拳が振るわれ愛羅が髪を盾に受けるも、防御ごと通路に吹き飛んだ。
猿夢が荷物棚から飛び降り床に倒れる愛羅の腹へ、頭上から組んだ両手を振り下ろす。
ダブルスレッジハンマーをモロに食らった彼女は、ガフ、と血を吐き出した。
ピンクの髪がうねり動き出す前に、ワンツーパンチで拳が落ちる。愛羅の食いしばる口から苦痛の声が漏れた。
動けない愛羅へ床がへこむほどの猿夢の拳が次々と降り注ぎ、拳と床に挟まれたガンガンと叩き付けられた愛羅が「あ゙あ゙あ゙っ!」と苦悶の悲鳴を上げる。
小猿共が上からそれを見て手を叩き、刃物を打ち鳴らしてはやし立てた。
「アイラ!!」
「ひひひ…若い女は大好きだ。他の客より
血反吐を吐き、ボロボロになった愛羅の頭と足を掴んで持ち上げ、猿夢はしわくちゃの顔で歯茎を剥き出して厭らしく笑った。
「コイツが頑丈なのは霊力に溢れてるしョぉうこ、ひもじい腹には格別だぁ。霊力の強い
「う、あ゙あ゙っ!!」
「やめろテメェ!! その手離せやクソったれが!」
桃が悲痛に裏返る声で叫ぼうと、猿夢は怪力で愛羅を上下に引っ張ることをやめない。引っ張られる愛羅からメキメキと嫌な音が鳴る。
愛羅は髪を猿夢の握り込む腕に絡めどうにか抵抗しようと足掻くも、猿夢の指はビクともしない。
愛羅は今にも首と胴体がもげそうになる痛みに、猿夢の指に爪を立てた。
「長ったらすィ髪が邪魔だからなぁ、
「その次はおまぇだアバズレ。最初にアナウンスした活け造りでどうだぁ? 顔は残してやって、ババアに綺麗に刺身にした肉と内臓をな、見せてやろうな」
「がっ!」
「モ…モ…!!」
「少々お待ちくださぁい」
愛羅がやられたことに動揺した桃へ、勢いの鈍ったポールに曲芸のように乗った小猿が桃へ飛びかかり、ヘッドバットで襲いかかる。
小猿の頭突きで脳を揺らされ、後頭部を扉で強かに打った桃が、超能力を維持できずポールを取り落とした。
あっという間に桃は腕を拘束され、力任せに背を床に押し倒される。
わらわらと集まった小猿たちが桃の顔を囲んで覗き込み、ケタケタと笑った。
桃の押し倒されはだけたパジャマの腹に乗り上げた小猿が、ギラつくハサミを突きつける。
鋭い刃に晒された皮膚が薄く切れて、血が腹をつたい、ゆっくりと流れ落ちた。
──万事、休す。
迫る命の危機に桃が、せめて超能力で大暴れして愛羅だけでも猿夢から救い出せたら、と決死の覚悟を決めようとした時。
ハッと桃が何かに気が付く。
「あ?」
桃と愛羅の恐怖すら楽しんでいた猿夢が、唐突にふと恐怖の感情が消えた桃の方を見遣り訝しんだ。
捕まったままの愛羅は未だ心乱れているというのに。小猿の群れに囲まれた桃はむしろ、勝ち誇ったように口角を持ち上げていたのだ。
「何がおかしぃい」
どう足掻こうと詰みであり、今から惨殺されるしかないというのに。
ふざけた虚勢と一蹴するには、猿夢の妖怪としての能力が桃の態度が嘘ではないと見抜く。
人の夢に憑き悪夢を見せる猿夢の、心を読み取るその力は、桃の恐怖が消えたことを明確にしていた。
「電車ごっこするなら、客に優しくした方が良かったなぁ。お猿さんよお」
「なんだァ? てめェ……」
小猿の群れが刃を閃かせ、トンネルの紫色の暗い輝きが怪しく光って、桃に逃げ場などないと見せつけるも。桃の口上は止まらない。
「確かに車両の数も、死んだ奴の数もパネェ。でもてめえはそれだけの怨みを買ったんだぜ」
腹に乗った小猿がハサミを振り上げるのを、桃が超能力で掴み止める。周囲の群れが刃物を振りかざし、一斉に桃へ襲いかかろうとして───動けない。
小猿が下を見れば、足元に散らばっていた半透明のゲル体がいつの間にか小猿に絡みつき、群れの動きを封じていた。
「この電車に乗った客は、みんなてめえの敵になる。
『はい。命の重みに触れる
「なにぃ!?」
『 “
突如。頭に響く無機質な声と共に、天井から大量の液体が滝のような勢いで押し寄せる。
上にいた小猿たちが激しい水流に巻き込まれ、床へ叩き落とされた。
その液体は意志を持って桃の周りから小猿を激流で押し流して遠ざけ、その水の質量に顔を庇う猿夢の手から愛羅を救い出す。
天井は大きく穴を開け、列車内の照明は文字通り消えた。トンネル内の生温い風が轟々と車内に吹きつけ、紫の灯りが水に反射する。
弾力のある水が桃と愛羅の体を水の中から押し上げ、2人は「ぷは!」と顔を出した。
「生きてた…! よかったぁ…!!」
「やべー、天井ガッツリとけてんじゃん! このゼリー全部クリオネか!?」
「全部クリオネちゃんの体だぜぇ」
「高倉様!」
思わず目を開けた桃が、穴の開いた天井越しにトンネルを見上げ、屋根の上に張りついているオカルンへ声をかけた。
桃は
「クリオネちゃんが電車の中に散らばってる仲間の体を集めてくれって言ったからよお。走り回って回収したのをクリオネちゃんにくっつけたら、こんなに大きくなったぜえ…!」
「うぉい! その怪我で走ったのかよ!?」
「すげえ痛い」
「そりゃそうだ!!」「高倉様、なんて無茶を…!」
オカルンが格好つかない腹ばいのまま親指を立てる。
それもそのはず。熱傷を押して走った彼の足は、もはや筆舌に尽くし難い状態だった。
分断された後、オカルンは傷ついた足で車両から車両へ駆け回り、襲い来る小猿をかわしながら電車内に散らばる青いコアを集めた。
その奮闘でクリオネ星人は瀕死の重体から回復。仲間のコアとゲル体を取り込み、力を増幅させていく。
そして、列車内に散らばった残骸を吸収し、クリオネ星人は巨体へと変貌を遂げたのだ。
オカルンを体内に呑み込み、増幅した力で鉄砲水の如く移動しながら、列車の外から敵の位置を把握し反撃の手筈を整えた。
その結果がこれだ。
車両中の小猿が水に呑まれ、渦巻く水の塊が外部へ逃さない。
巨体ゆえに猿夢は押し流されずその場に踏みとどまったが。愛羅を救い出す時に水圧でへし折られた指を抑え、猿夢はキレた。
「なんだ、なんだ、なんなんだコレは!!」
『心より嬉しく思います。あなたの成した多くの事が実を結びましたね』
柔らかな言葉とは裏腹に、殺意の劇毒を含んだ冷え冷えとした声が響く。
電車内の足元を満たす水が巻き上がり、形を成す。クリオネ星人たちの残骸が、ゲル体の波に溶け込み1つになっていく。
波打つ液体が一箇所に雪崩込み、大質量の水流を固形へと変えた。
猿夢よりも巨大で、なだらかなシルエットが半透明のゲル体で形成される。
半身を床に浸けるように固定したクリオネ星人は、ヒレを車両の両壁に預け、半透明な体に浮かぶコアを青く煌めかせた。
『こんなにも沢山の同胞と体をひとつにするなど、初めての経験です』
天井と明かりが消えた車内に、トンネルの紫の薄ボンヤリした灯りを凌駕して鮮烈な青の色がこの場に溢れ
『あなたのおかげでここまで大きくなれました。ですので。同胞にしたことの責任を、その身で償ってもらいましょう』
「シャビシャビのところてんがァ! ナマ言ってんじゃねえぞお…!!」
『 “
念を込めた言霊が響くと、ゲル体に呑まれた小猿の群れが酸に投げ込まれたかのように為す術なく溶け、消えていく。
もがく小猿が溶けゆく様子に、猿夢はコアを光らせるクリオネ星人を忌々しそうに睨みつけた。
「消化してやがる…! 天井に風穴開けやがったのもこういうことか!!」
『確かに本来の用途は消化液ですが、感染対策に消化はしません。我々の体に入る余地もありません、穢れます。ですので運用の呼称上、正しくは溶解液です。
「キンキン喚くなじゃかあしい。その見え透いた弱点、抉り出して引き裂いてやらあ!!」
猿夢はそれを見て即座に脇を固め一気に踏み込むと、コア目掛けてガトリングのように拳を撃ち放った。
その猿夢の拳をクリオネ星人は壁状にしたゲル体を前に押し出し、コアを別のゲル体と共に切り離し後ろへ引かせて、拳の威力を流動するゲル体の表面で逸らした。
しかし壁状のゲル体は、拳の弾丸を撃ち込まれる度に大きく抉れて弾け、あちこちに飛び散っていく。
「いや押し負けてんじゃん!」
「いくら量があっても脆いんだわ…! 私に視界をお共有してちょうだい!」
桃が愛羅に肩を貸しながら、猿夢の猛攻に眉をつり上げる。
小猿がいなくなったことで目を開けた愛羅が、喉の血に噎せつつ身構えた。
『問題ありません。了承済です』
しかし焦る様子もなく、クリオネ星人はコアの光を海面の光のように煌めかせた。途端に猿夢の拳を逸らしきれず威力に押され飛び散っていたゲル体が、蛇のように壁を伝い床を這って猿夢の足に背後から絡みつく。ゲル体は千切れながらも、猿夢の進行を僅かに妨害した。
徐々に後退するクリオネ星人を追って踏み込もうとした猿夢は、不意の足止めでたたらを踏んだ。
「っんだこのキメェ粘っこいのは!?」
「モモちゃん! ジブンと
「トンネル…!? そっか! ターボババアの時の
「一体何の話!?」
猿夢の動きが止まったその瞬間、猿夢の前に壁を成していたゲル体が形を変える。
クリオネ星人が凝縮していた体を再び大質量の水へと変え、津波のように猿夢に押し寄せた。
荒れ狂う嵐の海の如き波に襲われ、体に触れれば拘束し、水に浸からない部位へ這い上がろうとするソレに、猿夢は抵抗しながら顔を歪める。
「クソがぁ! 面倒くせえ力持ちやがってぇ!」
『あなたほどではありません』
「先頭車両に戻れば据え置きのマイクはあるんだ、てめえらなんざ! ──あ゙!? か、体が…!! 何故だ、体から、出られねえ!!」
猿夢が霊体となり、体を捨ててこの場を飛び去ろうとしたその時。
体の中に押し潰されるかのような感覚に囚われ、猿夢は苦しさに身を捩らせた。
「ウチらの目の前に現れた時点で、逃しゃしねえんだよこのマヌケ」
「猿夢がおチビに…!」
「モモちゃんの超能力は、体に入った霊体だろうが
猿夢が苦しみ霊力で形作られた肉体が元の小猿へ縮み行く中で、桃がその両手を猿夢へと向け、超能力で猿夢の霊体を握り潰していく。
オカルンは呪いの力をその身に宿し、ターボババア本体にも取り憑かれた事がある。その時に桃が超能力で、霊体化して乗り移ってきたターボババアをオカルンの体の中に抑え込んだことがあった。その経験からオカルンは、猿夢が霊体になっても桃が逃がさないと確信していたのだ。
「てめえの電車ごっこも、もうお終いだ」
猿夢は超能力の手から逃げ出そうと暴れるも、逃れるより先に煌々と青い光を発しながら、クリオネ星人が猿夢の手足を容赦なく溶かした。
──瞬間。
暗いトンネルが、ガラスが一斉に割れるかのような崩壊の音を響かせ、裂け目を作る。
悪夢の異界を構築していた真っ黒な力がぶわりと火葬の煙のように舞い上がり、灰が虚空へ消えていく。
「キャア! トンネルが…!?」
「マズイぜえ」
電車の上にしがみついていたオカルンがいち早く外の異変に気が付き、列車内にいる桃たちへ声を上げた。
「トンネルの下までヒビが入った。レールまで消えたら列車が事故っちまう!」
『それは困ります』
「今ので猿夢のオーラが削られたからか!? 事故ったらウチも超能力で抑えてらんねーぞ。クリオネ! 仇討つならさっさとしろ! そいつ全部溶かせぇ!!」
『承知しました』
猿夢が溶解液と化したゲル体に沈みながら、血走った目玉をギョロつかせキィキィと叫ぶ。
「俺を見たやつはみんな死ぬ!! そこの女も、きさまらも、外のババアもだ!! 許さねえ、許さねエ、許さねえぞ!! 呪ってやる!! 呪ってやるぅゔゔ!!」
『はい。我々を呪い、招いたのはあなたです』
「この、化け物がァアアア!!」
『最上の賛辞をどうも』
波がドプリと頭だけになった猿夢を呑み込んだ。
猿夢 SARUYUME
分類 妖怪
生息地 夢の中 インターネット
体長 7尺8寸
轢死の姿を貶められた怨念の集合体や、歳を経た猿が轢かれ化けた等と推測されるも、その詳細は定かではない。
見たものを殺すことに執着していたことから、それが未練だったとも考えられる。
悪霊は生前の記憶を亡くし、後悔を断ち切れぬ憎しみで動く。
執着は怨念に成り果て、末路は人を殺す化け物である。
2chオカルト板スレッド「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?」こと、通称 “洒落怖” が初出。
「ヒサルキ」「狒々」の要素が混入している。