私は宇宙人   作:蒲鉾三田

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ダンダダン名物、章区切りの飯回


第十四話 良き隣人になりましょう

 

 いっけなーい☆ 隠蔽隠蔽!

 私、ライムズ星人。

 好奇心旺盛で新しい情報が大好き!

 でもある日地球にいた教え子たちを経由して、情報汚染で殺しにくる呪いが母星にばら撒かれちゃってもう大変!

 手段を問わず猿夢をブッ殺したけど、種族倫理的にまずい方法を取っちゃって帰ったら死刑確定かも!

 一体私、これからどうなっちゃうの〜!?

 

 次回 「記憶消去はお手の物」お楽しみに!

 

 というわけで、おはようございます。お楽しみの時間です(楽しくはない)。

 

 時刻は日が昇る前。

 締め切られた暗い居間では、寝相が悪いらしい桃の足がオカルンを壁際に追いやっている。

 私は桃が蹴飛ばしたであろう掛布団に埋もれながら、誰も起きていないことを確認した。

 

 休眠して多少なりともコアの回復ができたので、みんなが寝てる隙に記憶の抽出をしていこうと思います。

 今回用意するのはこちら! 同胞の死体と合体してキングライムズになった時の記憶ちゃんです! わ〜、最悪!

 種族的なタブーってやつで、情報調査で死体を取り込むのは良くても、延命目的でドッキングするのはまずいんですね〜。

 我々にも色々あるんです。

 

 さて、記憶を抽出すると言っても大袈裟な機械なんかは必要ない。これはあくまで技能的なものなので。

 ちょっと自分の記憶中枢を弄って、コアから切除するだけ! ね、簡単でしょ?

 消しゴムマジックで消してやるのさ。

 

 という事で。

 猿夢にオカルンと共に別車両へ吹き飛ばされた際、私は “気を失った” ことにしよう。

 そして桃たちとの合流後。意識を取り戻した直後に “視界を失ったまま” の私が、桃の指示で周囲のゲル体を収集し、咄嗟に猿夢を溶かした流れにすれば…記憶に()()()されない限り、問題ない。

 

 ま、されないという確信はある。

 ウイルスに罹患した記憶はなくとも、惑星全体を巻き込み記憶を消した激ヤバプロジェクトだ。態々掘り返そうとはしないだろう。

 我々が()()()()()というのは相当なことなのでね。

 後は記憶の齟齬がでないように違和感のある部分もちょちょっと除去してだな。

 

 私はゲル体を操作し、精密にコアの記憶部分を細胞分裂させるように選り分けていった。

 自分で手術するブラックジャックみたいじゃな〜い? もしくはセルフ脳クチュ。

 視覚情報をカットする時には更に慎重に抜き取り、本当に小さな一欠片になったコアの一部を、ゲル体から除去する。

 

 後は記憶の詰まったコアが空気中に溶け、布団の上から自然消滅するのを確認。これで隠蔽工作は完了だ。

 同胞に島流しならぬ星流しにされることもなくなったな! ヨシ!

 

 呪い玉の時は、我々の脆いコアで出来てるくせに消えてくれなかったんだよね。呪いの塊になってたせいか?

 隣部屋に置いてあった玉に関しては、奴の死亡直後に万が一がないよう起床し確認済だ。ちゃんと消滅してくれました、やったぜ。

 

 確認してすぐは分体に数ヶ月ぶりのスリープモード解禁だけを告げ、再度寝た。

 気分の高揚だとか、勝鬨を上げるより夢の中で無理をしすぎて、コアがもうゲージミリ耐え状態だったからである。眠気より先に重力の圧に負ける…!

 めっちゃ分体に念話で鬼電されまくったが着拒して寝た。ぽやしみ〜…。

 

 こうしてコアを回復させた後、話は冒頭へ戻るのである。

 

 記憶を抽出後、再度休眠した私は桃たちが起きるまでぐっすり寝た。

 ライムズ星人は分割睡眠が主流です。

 

 

 

 そして、夜が明けた!

 

 洗面所で桃と愛羅が鏡の争奪戦を繰り広げ、オカルンが寝ぼけ眼でトイレに追いやられているが。清々しい早朝である。

 

 私はその間に、宇宙船で休眠し回復していた分体と久方ぶりの完全同期をした。

 バックアップとして待機してた分体の焦燥や退屈さが、私から同期されたスペクタクルの興奮で塗りつぶされていく。

 

 会話しなくとも通じ合う一心同体、これぞ本来のライムズ星人!

 コアの容量に怯えず、スリープモードにも安心してなれる素晴らしさときたら…夢だけど、夢じゃなかった!

 

 お祖母様改め星子さんに呼ばれ、我々は畳の荒れた居間で机を囲んだ。

 今日の朝食は食パンにマヨネーズで囲いを作り、その中に卵を割入れた目玉焼きトースト!

 

「ワシの卵が!」

「だから半熟はムズいって言ったろうが」

『私が焼きましょうか。内部を観察し、適切に調理します』

「お前今言ったなコラ。吐いた言葉飲み込むなよお前!」

 

「んおー」

「だらしがないわね、朝なんだからシャキッとしなさいよ!」

 

 黄身が生焼けで流れ出たことにショックを受けるターボババアと、トーストの上から目玉焼きだけを器用に食べる星子さん。

 桃はぐでたま状態で目玉焼きトーストに齧り付き、朝からキチンと身嗜みを整えた愛羅が桃へ顔を顰めて注意する。

 そしてオカルンはと言うと。

 

「あの、気になってたんスけど! クリオネさんって普段どんなものを食べているんですか!?」

 

 私の正面で眼鏡をカチャカチャさせながら、興奮でレンズを白光りさせていた。

 探究心の強い子は好きだぞ。

 

『地球でいうところの栄養補給ゼリーです。消化のエネルギーを最小に抑え、必要な栄養素を1度で確保します』

 

 分体が今まさに宇宙船の中でゼリー吸収してるよ、ぼっち飯なう。

 

「効率重視なんですね! ライムズ星人の主食は聞いても!?」

トロコフォアグロキディウム の他、ノープリウスネクトンの卵など、消化にエネルギーを使用しない物が好まれますが食せる時期が限られています。栄養補給が可能であれば、基本は雑食です』

「ほおおおー!!」

「うるせーぞメガネ! 飯を食え飯を!」

 

 メモ帳を取り出しオタク全開といった風体でペンを走らせるオカルンに、星子さんから叱責が飛んだ。

 

「身体中が筋肉痛だー。クソ猿め、ウチの体で暴れやがって」

「運動不足が解消されてよかったじゃない」

 

 牛乳で口ひげをつけながら、桃は口を尖らせブーブーと文句を言う。そんな桃に憎まれ口を叩く愛羅は相変わらずだ。

 

 現実で猿夢に乗っ取られた桃は体に痛みを訴えているが、オカルンや愛羅は若干の寝不足こそあれど怪我一つない。

 星子さんの手腕がなければ今頃オカルンは立って歩けていないだろうし、桃も愛羅もズタボロだっただろう。

 

『お祖母様、皆様。モンスタートレイン駆逐にご協力下さり誠に感謝致します』

「よかったねー、呪いが解けて」

 

 私は消化したトーストを吸収し終えてから、深々と頭部を下げた。

 猿夢を倒す協力までしてくれた桃たちには本当に頭が上がらない。正真正銘の救星主だ。

 

『つきましては、あなた方には此度の仕事で得た情報を秘匿して頂きます。厳密的には、情報汚染の呪いの存在とライムズ星人への実害の件です』

「客の情報は漏らさねえから安心しろ。お前えらも勝手に喋るんじゃねえぜ」

「守秘義務、ってやつね」

 

 それはそれとして秘密にしてもらいたいこともある。とても大事な事だ。

 皿とパンに流れ出た黄身を念で戻し、私は机の上のオーブントースターにトーストを入れ直した。

 

『異星人に情報が渡りますと、妖怪の呪いを意図的に敵対勢力へ感染させ滅ぼすような、バイオテロと同等の事が行われるでしょう』

「それ以前に呪いを利用しようとした星が滅びそうですね」

 

 オカルンが目玉焼きトーストを片手に眼鏡を持ち上げる。

 

 そうなんだよ、そうなっても非常に困るんだわ。

 惑星調査中に呪いに感染した異星人を経由し、今回のような呪いを媒介するかもしれない。

 妖怪はその場でぶち殺してくるからまだいいが、呪いのビデオなんかの物品系は最悪の場合回収され、星まで持っていかれる可能性があった。

 

『存在することを秘匿するのも、地球のためになります。危険性を理解しないまま不用意に刺激されますので』

「猿夢みたいに見たらアウトとか最初っから分かんねえしな。おっけー、黙っとく」

 

「シャコも知ってるけどいいの?」

『はい。彼はアウトローですが、情報の価値を理解しています。問題ありません』

 

 @#/&は我々の人口減少や脆弱性に対する情報を持ち帰ったが、それを言いふらすようであればこちらが黙っていないのも分かっている。

 彼しか異星人に漏洩できない現状では、()を脅しに使われるか明白だ。

 

 ライムズ星人は戦闘には向かない種族である。確かに@#/&には敵わない。

 しかし、それは真っ向からの話。

 

 住む星も彼の息子が患う病名も割れているのであれば、後は簡単だ。

 私と彼は互いに弱みを握り合う関係性であり、彼は我々ライムズ星人の執念深さを噂であろうと知っている。

 賢い選択をするだろう。

 

 オーブンの中で黄身の中身が焼けて動かしにくくなるまで念を流して確認しつつ、半熟卵のトーストを取り出した。おお、我ながら完璧では?

 シェフ気取りで私がうやうやしく皿を置けば、見定めるように胡乱な顔をしていたターボババアが早速トーストに齧り付いた。ばっちりお気に召したようで、目を輝かせている。

 ふっ、どんなもんだい!

 

「猿夢の呪いは解けましたし、ジブンらが学校に行ったらクリオネさんは星に帰っちゃいますよね」

『はい。これより母星へ帰還し、オーダーの完了報告をします』

 

 宇宙船に通信機の1つでもあれば良かったんだけど、ライムズ星人って通信技術とかもないのよね〜。

 本来なら母星にバックアップがいるから、自分同士を繋いで会話すればいいのだ。

 私は全ての分体を呪いの感染防止に連れてきてしまったので、迅速に母星に帰ってスリープモード解禁の報告をする必要があるというわけ。

 

「もうお別れなのね…寂しいわ」

 

 しゅんと眉を下げ落ち込む愛羅だが、そう嘆く必要は無い。

 

『いいえ。私はこの星に残ります』

 

「え?」「は?」「んん?」

 

 私は人間的な仕草を模して、ヒレを動かした。

 

『モンスタートレイン駆逐に当たっての報酬が未払いです。現在地球の貨幣の手持ちがございませんので、この星で働き返済することに致しました』

「なに? 行って戻ってくるってこと?」

「まだあなたと一緒にいられるのね! 嬉しいわ!」

 

 桃がどうやって働くんだコイツ、と言いたげな顔をする。

 そんな中、オカルンが気がついたようにキラキラした眼差しで私を見た。

 

「分体を星に帰して、クリオネさんはここに残るってことですか!」

『はい。その通りです。そして今日からここでお世話になります』

 

 既に星子さんから同居してもいいと許可を貰い済みだ。

 家族が増えるよ! やったね桃ちゃん!

 

「なにそれ!? ウチ聞いてないんですけど!!」

「ターボババアもいるし、うちに海坊主がいてもいいだろうが」

「宇宙人だっての!!」

 

「クリオネさんここに住むんですか!?」

「なんであんたばっかり、ズルいわ! 私の家ならいつでも来ていいのよ」

『気持ちは有難く受け取りますが、懸念がありまして』

 

 わちゃわちゃと机の周りで騒ぐ子供たちの空いたお皿をヒレの上に重ねつつ、私は机をゲル体で拭き、皿を傾けてパンくずをゲル体に回収した。

 

『ライムズ星人はご存知の通り異星人に敵意を向けられ、駆除されやすいのです。お祖母様の結界内でしたら、私も安全に身を隠すことができます』

「それなら仕方ないわね」

 

 ライムズ星人の悪名は伊達じゃない! 擬態せず生身でふらふらしてたら、一発でどこかから狙撃されること間違いなし。

 擬態しながらスリープモードに入る、半球睡眠じみたことは可能なのだが…流石に毎晩となるとボロが出る。

 落ち着けるセーフゾーン、ゲットだぜ!

 

「なんでもこいつ叩くだけで死ぬ体らしいじゃねえか。そこらの家じゃ安心出来ないとよ」

『はい。星子様の優しさに感謝いたします』

 

「いや、ちょっと待ってください!」

 

 星子さんへ溢れんばかりの感謝の念を送っていると、オカルンが今度は慌てた様子で身を乗り出した。

 

「バックアップを母星に帰しちゃったら、ここにいるクリオネさんがジブンらの情報や妖怪の情報を調べ放題です!」

 

「うわ、筒抜けじゃねーか! 怪しいぜ、ウチら使ってなんか企んでんじゃねーのこいつ」

「そんなわけないじゃない! あなたは私たちのこと報告したりしないわよね?」

『いいえ。します』

 

「てめえ今ここでグッバイになりてえらしいな」

『暴力はいけません。私が死にます』

 

 (ヤカラ)の面持ちで拳を持ち上げる桃に私は頭部を横に振り、ヒレでどうどうと桃を宥めながら後ろに距離を取った。

 

『星子様。情報を識るだけで呪い殺すような妖怪は今なお多く存在しますか』

「おう、そんなもんいくらでもいるぜ」

 

 私は神妙に頷く。

 

『こういう事です』

「どういう事だコラァ」

 

 桃が腕を組み仁王立ちで凄んだ。

 

『私はこれより、安全保障に関する諸問題について調査研究を行い、星間防衛における危機管理のマニュアル化を図ります』

 

 ブービートラップだらけの地球から呪いが流出した時、無為無策でいれば今度こそ我々は滅ぶ。

 せめて母星に送る情報を選り分けられる私がフィルター代わりになり、星子さんの元にやって来る依頼人とか越しに妖怪や呪いを識る方がよほど安全だ。

 

『最新鋭技術の調査以前に生存は最重要課題です。滅亡しては意味がありません。前述の通りバイオテロの懸念もございますので、母星の安全確保に尽力すべく、対象となる脅威のデータ収集を行い分析します』

「ふーん」

 

『既に母星に深刻な被害が発生しておりますので、緊急事態に備えた被害の最小化を慎重に検討。研究結果を母星の分体へ報告し、研究機関で解析します』

「なるほど、わからん」

 

 腕を組んだままキリリとした顔で宣う桃に対して、オカルンは背を丸めながら私を見て眼鏡を上げ直す。

 

「クリオネさんって、もしかして偉い人だったりします?」

『学者のようなものです』

 

 バックアップを母星に帰すからには、また猿夢のような情報汚染をしないよう共有を切っておかねばいけない。

 地球人との交流においても、私が1番適任だ。

 

『要するに、私は妖怪を調査研究しますが。セルポの方々と違い、私はあなた方を守護します』

 

「え! クリオネさん、ジブンらの味方になってくれるんですか!?」

「マジか!」

「正式に私の守護天使になったということね!」

「いえ、違うと思います」

 

 みんな大恩人だし、それ以前に興味深い存在だもの。セルポと敵対した以上は彼らに技術を手中に収められると困ってしまう。

 治療や通信は替えがきくけど、異能者の技術は応用して新しい発見の礎になるかもしれないからね!

 

『近場で駆けつけられる場合のみに限りますが、サポート致します』

「近場限定かーい。まあ宇宙人しつこいし、ちゃんと味方してくれるならいいけどさー」

 

 私のいない所で虚空が開かれるとどうしようもないが、対宇宙人向けの情報提供やサポートなんかはお手の物だ。

 

「宇宙人が味方になってくれるならこんなに心強いことはないですよ!!」

「うちに居候するなら宇宙人だろうがこき使うかんな」

「一緒に戦ってくれるなんて素敵! これからもよろしくね!」

 

『はい。友好的でいましょう』

 

 私は ライムズ星人!

 今後とも よろしくね!

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