前回のあらすじ やべーぞレイプだ!!
「ツチノコが祀ってある神社ってここだよね…」
桃が目の前の光景に二の足を踏む。
神主らしき袴姿の人物が、人のいないがらがらの神社で謎の三点倒立*1をしていたらそうもなる。なんだあれは。
逆さまではだけた袴から、チラリズム所ではなくさらけ出される生足が眩しい。ひゃだ…やたらムキムキなのは何なんなの? ここの住民はみんな階段で鍛えられるの? 目に毒なんですけど。
「なにかご用ですか?」
「あ、いや。ツチノコの神社ってここですか?」
「パンフ、ください」
変人に話しかけるべきか迷う桃に、神主の方から声をかけてきたので、私は流れでパンフレットを所望した。
こんなに
「あーはいはい。お見苦しいところを」
眉の繋がった神主が「ブーチューバーになりたくて」と奇行の弁明をしつつ身なりを整える。ブーチューバーになりたくて??
「どうぞ上がってください」
「いいんスかそんなすぐ見せてもらって。貴重なものなんじゃ」
「全然。こんなんじゃ金稼げませんから。ブーチューバーになりたいなぁ」
神社内へ案内してくれるという神主が、本殿の格子戸を開けようとガタガタ揺らした。
神主というのはどうにも儲からないらしい。ツチノコを祀るなんて、それこそ幸運のご利益がありそうなのに。
世の中、世知辛いのじゃー。
「うわ、めっちゃ楽しみだねーヒロ!」
桃がウキウキで私を見下ろすので、私はうんうん頷いた。ねー楽しみだねー!
本殿ということは御神体になる何かを見せてもらえるわけで、ちょっとワクワクする。
御神体とは、神様がお祭りとかで宿るための依代だ。石とか像とか、まあ御幣*2の場合もあるが。しかし祀られているなら、さぞかし立派に違いない!
───と、思っていたのだけど。
桃がじっとりとした視線を木箱の中身へ注ぐ。
「ツチノコに…見えねぇ…」
祀られているツチノコは、どう見てもカラカラの蛇の抜け殻です。本当にありがとうございました。
私は早々に抜け殻を視るのをやめ、パンフレットを開いた。うーん、年代物のパサついた紙にモノクロ写真。歴史ありそうな神社なのに、ツチノコの御神体がこれかぁ…。
「私もそう思います。この神社に残っている文献には “天昇る竜は虹をかけ、山の怒りは村をのみ込む” とあります」
ブーチューバー志望の神主曰く。
この土地には大蛇信仰があり “火山に住む大蛇が腹を空かせると、火山が噴火する” と言い伝えられているそうな。
それ故に昔は村の子供を供物として生け贄にし、大蛇の空腹を抑えていたのだと言う。
子供を供物に、ね。
ところで。
私たちは、保護者なしに都合よく村にやってきた
私は神主を油断なく注視した。
彼から敵意の臭気はまったく感じないが、星子さんのようなスピリチュアルの扱いに長けた人間である場合、念臭は機能しなくなる。
そして、伝承と神社名の齟齬は大きい。
天昇る竜と称される大蛇と、胴が太く短いツチノコは別物である。
それでもって御神体の上の看板*3とパンフレットには “ツチノコ神社” ではなく “大蛇神 神社” と書かれているのだが。どういうことだ…?
「そのおかげで200年間1度も火山は噴火せず、温泉という恩恵を得られていると伝えられています」
飾られた蛇の抜け殻をジト目で眺める桃を他所に、私はパンフレットから顔を上げ神主へ話しかけた。
「ね。ここ、お祭り…って」
「お祭り? 流石に季節外れだから夏に来るといいんじゃないですかね」
──ふぅん?
「そのへその緒みたいなのは、大蛇が脱皮した時のものらしいです。今ではその大蛇の皮を祀ることで火山の噴火を防いでいるらしいです」
「じゃあツチノコは?」
「私の親父がツチノコって言った方が観光客が来るって」
「クソが」
だいぶしょうもない理由だった。デマじゃねーか!
道理でこのパンフレット、用紙が古いわけだよ。新しいの作ってないんかーい!
「でもそのおかげであなたみたいな方が訪れてくれます。この大蛇の伝説は
私が思考を回す横で、神主はこの寂れた神社にいる理由を語る。
「恐怖によって思考能力を奪われた人間は
「本当は三点倒立のブーチューバーになりたいんですが」
「いやその話ブーチューブですれば?」
「ハッ」
どうやらこの神主は今回の件とは無関係らしい。少なくとも人柱ブッ立てヒャッハー! な狂信者じゃない、と。しかし三点倒立で金儲けしたいイカレた人物ではある。なんでやねん。
まあ他人から評価を得たいならまずやってみるのが1番だぞ! やらねば始まらないって、のじゃロリおじさんも言ってた。
「ツチノコいなかったなぁ…」
『そうですね』
桃はツチノコ神社のデマにがっかりしたみたいだ。
ネッシーはいたし、ツチノコを期待してたならそりゃがっかりもするか。元気だしな桃、ここに妖怪と宇宙人がいるよ。
『しかし収穫はありました』
「ツチノコで?」
『猿夢も伝承から多少の由来は伺えました。伝承には必ず、それが伝えられるようになった起源があります』
私は桃と手を繋ぎ歩く。
擬態で形作った短い足をせかせかと動かし、私は桃の手を引っ張るように前へ出た。
『大蛇が存在するかは不明ですが。実際にこの村で過去、人身御供が
「え、なになに。どゆこと?」
──あの害意、間違いない。
『分断行動は危険です。戻りましょう』
□
せっかく温泉に浸かったというのに桃は今、温泉街の登り坂を必死に駆け上がっていた。
歩くのが遅いヒロを肩に担ぎ、ターボババアが鞄を揺らされ悪態を吐くのを無視して、全速力で歯を食いしばり桃は走る。道行く人が不思議そうに桃を見ていた。
この温泉街に着いた時から敵意を感じること、
ヒロからその話を聞いた桃は、それが考えすぎだとは到底思えなかった。
ジジの家は温泉街から距離は近くても、行くまでが遠い。
山の上まで階段に、坂に、膝の悪くなりそうな登りの道を息を切らし、必死にジジの家へと走る。
最初にジジの家に来た時より汗みずくになりながらも、どうにか桃はジジの家の前まで戻ってきた。
膝に手を付き、咳き込む桃の肩からずるりと降ろされたヒロが、アスファルトに足をつける。背中でターボババアがぶつくさ文句を言った。
「せっかくいい気持ちで寝れそーだったってのによお」
『家の中に敵性反応を感知』
「っはぁ、オカルンたちは!?」
『オカルンとジジは集団暴行を受け──待ちなさい、桃』
ヒロの静止が頭に響けど、桃に止まる気などなかった。
地面に落ちる汗を置き去りに玄関へ向けて突進し、その扉を開け放つ。
目に飛び込んできた光景は、異様そのもの。
“祭” と書かれた巨大な団扇を担ぐ男。血の滴るめん棒を持つ男、金槌を持った男。
さっきの
散らかったリビングの中では、嫌な笑みを浮かべた中年の女たちが菓子を盛ったローテーブルを囲み座って、我が物顔で寛いでいた。
男と女、ともに5人ずつ。狭く見える家の中に計10人の大所帯。
そして男たちの足元には。
全身を強打され床に血を飛ばし、痛めつけられたオカルンとジジが、苦痛に顔を歪め倒れ伏していた。
その光景に悲鳴を上げて腰を抜かす人間なら、彼女はここまで生きちゃいない。
桃は玄関から1番近い、めん棒を振り上げた男の首へ怒りのハイキックをブチかました。
蹴倒した際に体幹がふらつき、桃は熱い体温を整えようとぜいと大きく息を切らす。
怒りが彼女を駆り立てても、全力疾走したままここに来たせいで、万全とは言えない状態だった。
『桃、窓を』
疲労困憊の彼女を捕まえようと飛び出してきた男を素人の膝蹴りで対処し、膝の皿を痛めた矢先。
桃の頭に一瞬、ヒロの声と共に目の前とは別の光景が映った。
駆け寄って来る2人の男には目をくれず、桃は超能力で持ち上げたソファをリビングの窓に盛大に投げつけた。
ソファが窓を突き破り、派手に穴を開けて飛び出す。
「ぶっ」
「冷たっ」
『まさか強硬策に出るとは。私の判断ミスです』
桃が捕まる直前、割れた窓の外から勢いよく噴射された
窓の外、庭に佇むヒロの手にはジェットに切り替えられた散水ノズルが握られ、引きずり出されたホースが庭を横断している。
ヒロが怪しく目を光らせ、ザワめく髪が青く輝いた。
「お゙ぼ」
「げぇっ!」
飛び散るはずの水が巻き戻したかのように顔に張り付き、男たちの鼻と口を塞ぐ。
男たちは水が体内を逆流する痛みと、呼吸のできない苦しみに噎せかえり、水を吐き出しながら陸で溺れた。
見た目だけなら夏場の水遊びでも、水を操るヒロが持てば凶悪な武器に様変わりだ。
「なんだこりゃあ!」
「顔隠せ顔!」
拳銃を構えるように向けられる散水ノズル。そこから噴き出すジェット噴射の高圧水が、泡を食って顔を庇い逃げる鬼頭家の後頭部を追いかけた。
「オカルンとジジに何してやがる!! テメェら今すぐこの家から出てけ!!」
物が浮き、水が
───ダァンダァン!!
その激昂に水を差す銃声が2発、ビリビリと部屋を揺らす。
散水ノズルが壊れ吹き飛び、外にいたヒロが足を撃たれた衝撃で後ろに倒れた。排莢されたシェルが室内の床に軽快な音を立て落ちる。
パンチパーマのババアは中折式の上下二連散弾銃を放り捨てると、銃声に耳を抑えた桃に蛇のような流れる動作で接近し、重く鋭い蹴りを入れた。
「いってぇな!!」
長椅子を巻き込み蹴り飛ばされた桃が、超能力でババアの背後からTVを引き寄せぶつけようとする───が。
「こいつマジか!!」
ババアが後ろを見もせず伏せて躱し、流れるような体捌きで桃に肉迫する。
「 “ぢぇにふぁ” !」
下からの蹴り上げに桃は咄嗟にバリアを張るも、体が浮くほどの蹴りに息を詰まらせる。
「 “ろぺす” 」
蛇が鎌首をもたげるが如く、ババアは蛇の構えから昂る龍のように、その力を両の拳から迸らせた。
「 “
壁を破壊し、大穴を穿ち、桃を吹き飛ばしたババアが残心で蛇の
水責めから解放された鬼頭家が、やんややんやと “かーちゃん” を誉めそやした。
壁が崩れ、密室と化していた不気味な部屋が暴かれる。
その部屋にはビッシリと膨大な数の札が貼り付き、鬼頭家により隠されていた真実が顕になろうとしていた。
□
窓なぁぁい!!
壁の中に密室があって、札が笹みたいにびっしり貼り付けてあるとかどんなホラーだよ! 毛穴ないのに鳥肌になるわ!!
こんな異常ルームがあったのに気がつけないとか、私は雨穴だったのかもしれねえ。
いや十中八九あの夥しい数ぶら下がってるお札のせいだけど!
私は庭に転がったままぶちまけたゲルを引き寄せ回収する。
銃はまだしも桃を吹き飛ばしたババアのあの拳はダメだ、私は確実に仕留められてしまう。隙を伺わねば。
穴の空いた足と吹き飛んだ手を再生させながら、私は隠し部屋のおぞましさに内心震え上がった。
内壁にも札が挟み込まれてるのが最悪だ。厳重すぎるよ、過剰包装だろ。中に何がいるんだよ。
せめて札の効力が弱いから重ねてるだけであってほしい。ねえこれ桃に討伐できる妖怪なのかな星子さぁん!! 孫にはスパルタだったりするぅ!?
こ、怖すぎる。ホラーは得意じゃないんだって…!
それはそうと、あの札の効果が気になってしかたない。古い書体過ぎて文字が読めないのだ。
念を妨げる効果だろうか? 外から中を覗かせないためにしては、部屋の中に何も無さすぎる。この部屋は一体何を隠している…?
「何者だよあのババア」
「ただの
「いやそんなヤツいる!?」
「テメェんちにもいんだろ」
「確かに」
リーダー格ババアのすごいパンチで、今にも呪われそうな部屋の中に吹き飛ばされた桃だったが。念のバリアでピンピンしてるし、ターボババアと愉快な漫才を繰り広げている。怪我がないようで何より。
星子さんがいるんだから、その辺に強い現地のババアが生えてても納得だ。地球って怖いところね。
にしたってあのババア、躊躇なく発砲してきやがったぞ。そいつは脅しの道具じゃねえってか。
撃たれたのが私でよかったけど、体術も強いとか恐ろしい。殴られれば並の人間なら再起不能だ。
なんでコンクリの壁を粉砕できるヤツがそこらでポップするんだよ…!!
「
「人んち勝手に入り込んできて、色々メチャクチャにしといて何言ってんだ!! とっとと帰れ!!」
「おいおい、テメェ誰のおかげで安全安心に温泉入れると思ってんだ」
壊された壁を挟みその敷居の前に立つババアは、まるで聞き分けの悪いガキに吐き捨てるように
ババアは自分たち鬼頭家こそ200年間、大蛇様に供物を捧げることで火山の噴火を抑え、温泉という恩恵の元、土地を管理してきたと言う。
その話…ツチノコ神社で聴いた悪しき伝承と一致しますねぇ。因習村だこれ!
このババア様は人様とその子供を無断で人柱ブッ立て祭りヒャッハー! しまくった挙句、そんなお偉い自分たちこそ、この土地の貢献者で支配者だと言いたいわけだ。
ちょっとそのシステム穴がありすぎんよ〜。
「この場所は元々
おいここ人間ぶっ殺しゾーンじゃねーか! 最悪の事故物件だよ! こんな家に住まされてたジジがあまりにも可哀想だろ!
口減らしの子どもどころか、一家丸ごと供物にしてやがる。そりゃ時代が変わったら孤児を用意するより、丸っと殺す方が楽だよね! えっホントにぃ…?
もしかして私に聴こえ続けてる耳鳴りもどき、供物になった人たちの怨嗟の声とかじゃないよな!?
…にしては、なんか違う質な気がするんだけど。念聴をチューニングしようにも、札が邪魔で特定できん。いや、もしかして悪霊って声を聴くのも駄目だったりするか…?
「ラッキーだったぜぇ、供物は多い方がいい」
桃の立っていた地面が陥没し、壁や天井がまるでミミズ腫れのようにボコボコと隆起する。
壁挟んだお隣が神域とか、嫌な家だなオイ!
「大蛇様は大層お腹をすかせてらっしゃる」
コンクリートの床が砂へ変わり、壁のミミズ腫れが多くなっていく。
桃がもがくほどに、砂と化した地面に体が飲み込まれていた。
流砂にしては水気がない、これは…下に空間があるな? ──なるほどね。
桃が流砂に飲まれまいと超能力で離脱を試みるも、壁の前に陣取る鬼頭家に阻まれ叩き戻された。
その隙に動けるようになったオカルンがジジを揺り起こし、目配せで椅子と机を持ち上げる。桃を助けようという算段だ。
私もただこの喧騒を観察しているだけではない。私は静かに人の形を崩し、水のような状態へ姿を変えた。
そして濡れた床を流体となって滑らかに移動し、敷居の前に立つ鬼頭家たちへ音もなく接近する。
オカルンとジジが机と椅子でタックルをしかけ、半数の鬼頭家を流砂の中に押し込み突き落とした。よくやった!
残された半数が落ちた鬼頭家の面々を救わんと、彼らを下敷きにするオカルンとジジを棒で殴りつけている。
私はその足元にゲル体をたっぷりと敷き詰め、テーブルクロス引きのように一気に足の接地面をズラした。
ほんの少しのスリップで、重心を崩した中年の女たちが、頭から流砂の中へダイブする。イェイ!
「うわ、急に落ちてきたあ!」
「綾瀬さんこっち!! 今のうちに!!」
「2人ともナイス!! 助かった!!」
肩まで埋もれた桃を机に乗ったオカルンが引き上げようとする。
ああ、だが間に合いそうにないな。
私は壊れた散水ノズルから流れ続ける水を操り、庭に置き去りになった服を回収した。服の中にゲル体を通し、人知れず人間体を再構築する。
そして結界の綻びと、今にも底が抜けそうな流砂の
『我々の目的は、どうやらこの先にあるようです』
「先って、まさか」
「なにこの天の声!?」
テレパシーに驚愕するジジを余所に、私は敷居に駆け寄りひょいと壁を乗り越える。
この部屋の札も気になるけど、笹食ってる場合じゃねぇ!!
『下へ参ります』
私が部屋に飛び込むと同時に、全員が巨大な地下空間へと落下した。
いつも小説を見て頂きありがとうございます。
感想、ここすき、評価、誤字報告など、反応全てがとても励みになります。
活動報告の方も更新しておりますので、気になる方はそちらもどうぞ。
◎蒲鉾 三田の小説の書き方
⒈平日にプロットを練ります
⒉土日で書き上げます
⒊基礎が完成します
⒋推敲するも納得いかず。視点別の物を3パターン書き、より良いものに差し替えます
⒌更新が遅くなります←イマココ!
(あと土日に用事があると更新が遅れるんだ)
許してちょんまげ