私は宇宙人   作:蒲鉾三田

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前回のあらすじ やべーぞレイプだ!!


第十七話 変な家

 

「ツチノコが祀ってある神社ってここだよね…」

 

 桃が目の前の光景に二の足を踏む。

 神主らしき袴姿の人物が、観光客すらいない神社で謎の三点倒立*1をしていたらそうもなる。なんだあれは。

 重力ではだけた袴から、チラリズム所ではなくさらけ出される生足が眩しい。ひゃだ…やたらムキムキなのはなんなの? ここの住民はみんな階段で鍛えられるの? 目に毒なんですけど。

 

「なにかご用ですか?」

「あ、いや。ツチノコの神社ってここですか?」

「パンフ、ください」

 

 変人にまごつく桃へ神主の方から声をかけてきたので、私は流れでパンフレットを所望した。

 こんなに人気(ひとけ)がなくとも神社だからパンフレットは作ってると思うし。この地域のことが何か知れるかもしれない。

 

「あー、はいはい。お見苦しいところを」

 

 眉の繋がった神主が「ブーチューバーになりたくて」と、奇行の弁明をしつつ身なりを整える。ブーチューバーになりたくて??

 

「どうぞ、上がってください」

「いいんスか、そんなすぐ見せてもらって。貴重なものなんじゃ」

「全然。こんなんじゃ金稼げませんから。ブーチューバーになりたいなぁ」

 

 神社内へ案内してくれるという神主が、本殿の格子戸を開けようとガタガタ揺らした。

 神社ってのはどうにも儲からないらしい。ツチノコを祀るなんてそれこそ幸運のご利益がありそうなのに。世の中、世知辛いのじゃー。

 

「うわ、めっちゃ楽しみだねーヒロ!」

 

 桃がウキウキで私を見下ろすので、こっくり頷き同意する。ねー、楽しみだねー!

 

 本殿ということは御神体になる何かを見せてもらえるわけで、ちょっとワクワクする。

 御神体とは、神様がお祭りとかで宿るための依代だ。石とか像とか、まあ御幣*2の場合もあるが。しかし祀られているなら、さぞかし立派に違いない。

 

 と、思っていたのだけど。

 桃がじっとりとした視線を木箱の中身へ注ぐ。

 

「ツチノコに…見えねぇ…」

「私もそう思います」

 

 ケチを付けられた神主もうんうん頷く。

 祀られているツチノコは、どう見ても保存状態の悪い干からびた蛇の抜け殻です。本当にありがとうございました。

 私は早々に抜け殻を視るのをやめ、パンフレットを開いた。うーん、年代物のパサついた紙にモノクロ写真。歴史ありそうな神社なのに、ツチノコの御神体がこれかぁ…。

 

「この神社に残っている文献には “天昇る竜は虹をかけ、山の怒りは村をのみ込む” とあります」

 

 ブーチューバー志望の神主曰く。

 この土地には大蛇信仰があり、 “火山に住む大蛇が腹を空かせると火山が噴火する” と言い伝えられているそうな。

 故にその昔、村の子供を供物として生け贄にし、大蛇の空腹を抑えていたのだと言う。

 

 子供を供物に、ね。

 

 ところで。

 私たちは、保護者なしに都合よく村にやってきた()()の集まりであるわけだが。

 

 私は神主を油断なく注視した。

 彼から敵意の臭気はまったく感じないが。星子さんのようなスピリチュアルの扱いに長けた人間である場合、我々の念臭は機能しなくなる。

 

 そして伝承と神社名の齟齬は大きい。

 天昇る竜と称される大蛇と、胴が太く短いツチノコは別物だ。

 それでもって御神体の上の看板*3とパンフレットには “ツチノコ神社” ではなく “大蛇神 神社” と書かれているのだが。

 祭る神を変えた? 何のために?

 

「そのおかげで200年間1度も火山は噴火せず、温泉という恩恵を得られていると伝えられています」

 

 飾られた蛇の抜け殻をジト目で眺める桃を他所に、私はパンフレットから顔を上げ神主へ話しかけた。

 

「ね。ここ、お祭り…って」

「お祭り? 流石に季節外れだから夏に来るといいんじゃないですかね」

 

 …ふぅん?

 

「そのへその緒みたいなのは、大蛇が脱皮した時のものらしいです。今ではその大蛇の皮を祀ることで火山の噴火を防いでいるらしいです」

 

「じゃあツチノコは?」

「私の親父がツチノコって言った方が観光客が来るって」

「クソが」

 

 うっかりコケるとこだった。

 神社がパッケージ詐欺をすなーっ!!

 道理でこのパンフレット、用紙が古いわけだよ。新しいの作ってないんかーい!

 

「でもそのおかげであなたみたいな方が訪れてくれます。この大蛇の伝説は()()()()()です」

 

 神主はボロボロの蛇の抜け殻を静かに見つめ、語った。

 

「恐怖によって思考能力を奪われた人間は()()さえも信じて行ってしまう。そんな過ちを繰り返さないよう、私はここでお話をさせていただいています」

 

「本当は三点倒立のブーチューバーになりたいんですが」

「いやその話、ブーチューブですれば?」

「ハッ」

 

 どうやらこの神主は今回の件とは無関係らしい。少なくとも人柱ブッ立てヒャッハー! な狂信者じゃない、と。

 しかし三点倒立で金儲けしたいイカレた人物ではある。なんでやねん。どこ需要? 仮に感謝の三点倒立一万秒やっても誰も見ないだろ。

 まあ…やらねば始まらないって、のじゃロリ狐娘おじさんも言ってたし。蛇系巫女にバ美肉して三点倒立したらワンチャンあるんじゃね?

 

 神社を後にした桃は、がっかりした様子でぽてぽて歩いた。

 坂道のせいで丸まった背にはどこか哀愁が漂っている。

 

「ツチノコいなかったなぁ…」

『そうですね』

 

 ネッシーはいたし、ツチノコを期待してたならそりゃがっかりもするだろう。元気だしな桃、ここに宇宙人と妖怪がいるよ。

 

『しかし収穫はありました』

「ツチノコで?」

 

『猿夢も伝承から多少の由来は伺えました。伝承には必ず、それが伝えられるようになった起源があります』

 

 私は桃と手を繋ぎ歩く。

 擬態で形作った短い足をせかせか動かし、私は桃の手を引っ張るように前へ出た。

 

『大蛇が存在するかは不明ですが。実際にこの村で過去、人身御供が()された形跡があるということは』

「え、なに?」

 

 あの害意、間違いない。

 

『分断行動は危険です。戻りましょう』

 

 

 

 □

 

 

 

 お気にの耳飾りと湯上りに括ったポニーテールが激しく揺れる。

 桃は今、温泉街の登り坂を必死に駆け上がっていた。

 

 歩くのが遅いヒロを肩に担ぎ、鞄を揺らされたターボババアが悪態を吐くのを無視して、全速力で彼女は走る。

 道行く観光客が不思議そうに桃を見ていた。

 

 ヒロは神社を出るなり、桃と手を繋いで自分から歩き出した。

 最初、その様子に桃は「お、珍しいな」と思うだけで、骨のない白玉みたいな手をもむもむ手遊びしていたのだが。

 けれどもヒロの話を聞くうちに桃の表情はどんどん険しく、硬くなっていった。

 

 この温泉街に着いた時から敵意を感じること。

 こちらが監視されていたこと。

 そして自分たちが、()()()()()の条件に合うということ。

 桃の頭の中で、泣きべそをかいたオカルンとジジが十字架の丸太を背負わされる。松明を持った村人たちに火山に連行され、そして火口にワッショイされた。このままじゃ2人が人柱にされる!

 

 こうしちゃいられない。

 桃は大急ぎで引き返すことにした。風呂上がりなのもなりふり構わず、汗だくになって走った。

 

 一緒に暮らすうちに気づいたが、ヒロはぼーっとしてるようでいつも周りを観察している。ヒロが来てから忘れ物はなくなったし、無くしたと思ってたアクセも洗濯機の下にあったのを見つけてもらった。

 でも人間の姿の時は滅多に体を動かさない。いや、元のクリオネの時からそうなんだけど。手よりもずっと口を動かすのに、そのヒロがウチの手を引いてまで帰ろうとした。

 焦ってるんだ。

 

 山の上まで階段に、坂に、膝の悪くなりそうな登りの道を息を切らし、必死にジジの家へと走る。

 何にもなくて無事だったら、男同士で仲良くなった2人が不思議な顔して出迎えてくれて、風呂の入り直しじゃねーかと笑ってヒロのデコをつつき回すつもりで。

 

 なのに腹の中で、嫌な予感が渦を巻く。

 

 最初にジジの家に来た時より汗みずくになりながらも、どうにか桃はジジの家の前まで戻ってきた。

 膝に手を付き、咳き込む桃の肩からずるりと降ろされたヒロが、アスファルトに足をつける。背中でターボババアがぶつくさ文句を言った。

 

「せっかくいい気持ちで寝れそーだったってのによお」

『家の中に敵性反応を感知』

 

 真っ直ぐに家を向いたヒロが言う。

 敵、マジか。酸素の足りない頭の中が途端に警鐘を鳴らし出す。まさか、もう連れてかれた!?

 

「っはぁ、オカルンたちは!?」

 

『オカルンとジジは集団暴行を受け──待ちなさい、桃』

 

 ヒロの静止が頭に響けど、止まる気などなかった。家の中で宴会みたいな笑い声と、ドンという重たい音がする。

 大人が羽目を外した時の、自分の体の大きさと、容赦を忘れた時の音が。

 地面に落ちる汗を置き去りに玄関へ向けて突進し、その扉を開け放った。

 

 扉が荒々しく開いた音に、中にいた人間が振り返って桃を見た。

 異様な光景だった。

 

 “祭” と書かれた巨大な団扇を担ぐ男。

 血の滴るめん棒を持つ男。

 金槌を持った男。

 さっきの()()の犯罪者どもが裸に褌一丁でジジの家にいる。

 

 散らかったリビングの中では、嫌な笑みを浮かべたババアどもが菓子を盛ったローテーブルを囲み座って、我が物顔で寛いでいた。

 男と女が5人ずつ。

 狭く見える家の中に計10人の大所帯。

 

 そして男たちの足元には。

 全身を腫れさせカーペットに血を飛ばしたオカルンとジジが、乱暴に足蹴にされていた。

 その光景に恐怖で固まる人間なら彼女はここまで生きちゃいない。カッと頭に血が上り、しかし心は次にすべき事を既に考えていた。

 

 真っ直ぐ行って、ぶっ飛ばす!!

 

 桃は玄関から1番近い、めん棒を振り上げた男の首へハイキックをブチかました。

 蹴倒した際に体幹がふらつき、桃は痛む肺を落ち着かせようとぜいと大きく息をする。

 くそ、急いでバカみたいな階段を登ったせいで、体力が持たね…!

 

『桃、窓を』

「うっ」

 

 桃の頭に一瞬、声と共に目の前とは別の景色が映った。目眩みたくダブった視界に立ち眩みして、思わず足が止まる。

 げ、目を開けてっとこうなんのかよ。気持ち悪っ!

 

 動きの止まった桃に、男が2人武器を掲げ突撃してくる。

 でもやりたいことはわかった。

 

「ふん!」

 

 桃は超能力で持ち上げたソファをリビングの窓に横薙ぎにぶん投げた。

 巻き込んだ男どもが吹き飛ばされ、ソファが窓を突き破る。

 

「ぶっ」

「冷たっ」

 

 そして派手に空いた窓の穴から、一直線に水が飛び込んできた。

 もんどり打った男の顔に鋭く水がぶつかり続ける。

 

『まさか強硬策に出るとは』

 

 割れた窓の向こう。

 噴き付けられる水の(たもと)

 庭に佇むヒロの手にはジェットに切り替えられた散水ノズルが握られ、室内に向けられていた。

 

『私の判断ミスです』

 

 飛び散る水飛沫で部屋も人もビショ濡れの中。

 ヒロがカッと目を光らせた。

 ぶわりと浮いたザワめく髪が青く染まって光輝く。

 

「お゙ぼ」

「げぇっ!」

 

 飛び散った水が巻き戻したかのように顔に張り付き、男たちの鼻と口を塞いだ。

 水が体内を逆流する痛みと、呼吸のできない苦しみで男たちは噎せかえり、水を吐き出しながら陸で溺れる。

 見た目は夏場の水遊びでも、水を操るヒロがノズルを持てば凶悪な武器に様変わりだ。

 

「なんだこりゃあ!」

「顔隠せ顔!」

 

 拳銃を構えるように向けられる散水ノズル。そこから噴き出すジェット噴射の高圧水が、顔を庇い泡を食って逃げる鬼頭家の後頭部を追いかける。

 桃は呼吸を整えながら怒りを顕に吼えた。

 

「オカルンとジジに何してやがる!! テメェら今すぐ、この家から出てけ!!」

 

 

 ──ダァンダァンッ!!!

 

 

 激昂に水を差す音に、桃は咄嗟に耳を塞いだ。キィンと鼓膜が震え、割れた窓ガラスがビリビリ揺れる。

 

 粉々になった散水ノズルが宙を舞う。

 ヒロが目を見開いたまま、バタリと後ろに倒れた。

 排莢されたシェルが室内の床に軽々しい音を立て落ちる。

 

 パンチパーマのババア、鬼頭 ナキは中折式の上下二連散弾銃を放り捨てる。

 そして銃声に耳を抑えた桃に蛇のような流れる動作で接近し、重さの乗った脚で鋭い蹴りを放った。

 肉と骨を打つ鈍い音が鳴る。

 

「いってぇな!!」

 

 長椅子を巻き込んで蹴り飛ばされた桃は、超能力でババアの背後からTVを引き寄せた。思い切りぶつけたらぁ! 頭抱えて這い蹲れ!!

 

 だが。

 

「こいつマジか!!」

 

 ババアは後ろを見もせず躱す。

 そして流れるような体捌きで桃に肉迫した。

 

「 “ぢぇにふぁ” !」

 

 桃が咄嗟にバリアを張るも、体が浮くほどの蹴りに息を詰まらせる。

 

「 “ろぺす” 」

 

 蛇が鎌首をもたげるが如く。

 そして昂る龍のように、鬼頭 ナキは両の拳から力を解き放った。

 

「 “穴根打(アナコンダ)” !!」

 

 トラックが突っ込んだようだった。

 前と後ろ、体にぶつかる衝撃に挟まれた後にドサリと落ちて、自分が宙を飛んだことを知る。足がやたらに冷たい床に触れた。

 

 土埃の立つ暗闇の中で桃が目を薄らと開けば、目の前にはドデカい大穴が空いている。

 危ねぇ、超能力がなきゃウチに風穴空いてたわ。

 

 壁を2枚も貫通させ、桃を吹き飛ばした鬼頭 ナキは残心で蛇の(あぎと)の構えを取る。

 水責めから解放された鬼頭家が、やんややんやと “かーちゃん” を誉めそやした。

 

 明るい場所から暗い部屋に放り込まれた桃はじぃ、っと目を凝らす。なんか…この部屋、変じゃね?

 暗闇に慣れ、この空間に膨大な数の札がビッシリと貼り付けられているのが見えた桃は、口元を引き攣らせた。

 

 きっっっも! 何この部屋!?

 

 

 

 □

 

 

 

 壁にぶち空けられた大穴。

 そこから視える光景に私は盛大に慄いた。

 

 窓なぁぁい!! 扉もねぇぞ栗原ァア!!

 玄関横にクソデカいデッドスペースがあるのはおかしいだろ…!! しかも明らか何かを封印してる札塗れで最悪の物件だ!

 こんな異常ルームがあったのに気がつけないとか、私って節穴かもしれねえ。いや、十中八九あのバカみたいに貼られまくった札のせいだけど!

 

 私は庭に転がったまま、ぶちまけたゲルを引き寄せ回収した。手と足を撃たれたがコアさえ無事ならかすり傷だ、すぐ治る。

 だが銃はまだしも、桃ごと壁を吹き飛ばしたあの拳はダメだ。鈍足の私が下手に動くと確実に仕留められてしまう。

 

 鬼頭家の連中を水で完封しようとした時も、桃が超能力を使った時も、リーダーらしき人物に的確に対処されてしまった。私たちが正面切って倒せる相手じゃない。

 鬼頭家の “母ちゃん” とやらは荒事に場馴れしたかなりの手練れだ、隙を伺わねば。

 

 穴の空いた足と吹き飛んだ手を再生させながら、私は隠し部屋の夥しい数の札に内心震え上がった。

 内壁にも札が挟み込まれてるのがもうダメ。厳重すぎるよ、過剰包装だろ。中に何がいるんだよ。せめて札の効力が弱いから重ねてるだけであってほしい。

 1人の時にこの部屋見つけなくてよかったぁ、ホラーは得意じゃないんだって…!

 

 私はこの後どうすべきか悩んだ。

 ねえこれ桃に討伐できるのかな星子さぁん!! 孫にはスパルタだったりするぅ!?

 人間程度どうとでもなるけど、こっちの悪霊のが問題だよこれ。封印されてるから人死が出なかっただけかな! 呪いがお漏らしされてた感じ!?

 え、念話するか? 今からでも星子さんに助けを求めた方がいい? でもなぁ、来て早々人間にボコされただけなんだよなぁ。行けるか? まだ舞える??

 

 

 ──因みにだが。ジジが呼んだ霊媒師は悪霊の呪いにより、5人中3人が自殺しているのである。

 これを、知ったのは、後日だけどなぁ!!!

 

 

「何者だよあのババア」

「ただの(つえ)ぇババアだろ」

「いやそんなヤツいる!?」

「テメェんちにもいんだろ」

「確かに」

 

 今にも呪われそうな部屋の中、桃はピンシャンしてターボババアと漫才を繰り広げている。

 仕留めたはずの桃がケロッとしているのを見て、リーダーのババアは警戒を顕に構えを取った。こっちはノーマーク、チャンスだ。

 

 隙を伺いつつ、ホースから流れ続ける水にそっと念で干渉する。

 他は私が倒せてもあのババアだけは無理だ。恐らく水では速度も拘束力も足りない。何か別の手段がいるな。

 私はオカルンに水をかけて様子を視た。起きてる? 起きたね。骨とか折られてない? 大丈夫そうだ。

 

 撃たれたのが私でよかったし、殴られたのが桃でよかった。逆なら両方死んでたかもしれない。

 奴に殴られれば並の人間は再起不能になる。だからこそ桃に警戒が集中しているワケだが…まさか銃まで無効化されたとは思うまい。

 星子さんがいるんだからその辺に強い現地のババアが生えてても納得しちゃうね。なんでコンクリの壁を粉砕できるヤツがそこらでポップしてんだよ…!!

 

()()の邪魔をするってことは、どうやらテメェはこの村を()()()()()みてぇだなあ」

「はあ!? 人んち勝手に入り込んできて、色々メチャクチャにしといて何言ってんだ!! とっとと帰れ!!」

 

「おいおい、テメェ誰のおかげで安全安心に温泉入れると思ってんだ」

 

 鬼頭家のババアは壊された壁を挟み、その敷居の前に重心を落として立つ。

 そしてまるで聞き分けの悪いガキに吐き捨てるように、つらつらと()()を語った。

 

 ババア曰く。

 自分たち鬼頭家こそ200年間、大蛇に供物を捧げることで火山の噴火を抑え、温泉という恩恵の元、土地を管理してきたと言う。

 はは〜ん? その話、ツチノコ神社で聴いた悪しき伝承と一致しますねぇ…因習村だこれ!

 

 他所様を同意なく人柱ブッ立てヒャッハー! しまくった挙句、そんなお偉い自分たちこそこの土地の貢献者で支配者だと言いたいらしい。

 何が不味いって、この話をしているのに()が一つもないことが不味い。念臭は嘘を嗅ぎ分けるが…このリーダー格のババアは、ガチモンのガチだ。

 

「この場所は元々()()があった場所だ。まさに()()で人柱が立てられた」

 

 桃を睨む黒い眼差しがギラリと光る。

 

「俺ら鬼頭家はこの家に()()をまねき入れ、大蛇様に捧げてるのさ」

「まさか…それでジジの両親は…」

 

 おいここ丸ごと人間ぶっ殺しゾーンじゃねーか!! しかも殺人犯グループが売りに出してるクソッタレ物件だよ!

 朦朧としながらも意識を取り戻したジジが僅かに呼吸を浅くし、床に爪を立てた。

 口減らしの子どもどころか一家丸ごと供物にしてやがる。そりゃ時代が変わったら孤児用意するより丸っと殺す方が楽だよね! えっホントにぃ…?

 

 オカルンとコンタクトを取りつつ、私は敵が洩らす情報が佳境に入った事を察した。喋ってる内容がこちらを生かして返す気がなさすぎだ。

 もしかして私に聴こえ続けてる耳鳴りもどき、供物になった人たちの怨嗟の声とかじゃないよな!?

 …にしては、なんか違う質な気がするんだけど。念聴をチューニングしようにも札が邪魔で特定できん。いや、もしかして悪霊って声を聴くのも駄目だったりするか…?

 

「ラッキーだったぜぇ、供物は多い方がいい」

 

 音が不意に大きくなった。

 桃がバランスを崩し、足がズブリと床に埋まる。

 

 砂だ。

 コンクリートのはずの地面がキメ細かい砂になっている。彼女はその砂の中に飲み込まれようとしていた。

 壁や天井が、まるで大蛇が這ったようにボコボコと隆起する。

 

 …あー、もしかして。

 あそこにある火山が神様の住むお家とかじゃなく、えーっと。

 

 

 まさか、()()を改造して直に祭壇()建ててます?

 

 

「大蛇様は大層お腹をすかせてらっしゃる」

 

 流砂に飲まれる桃が周囲を見回し、抜け出そうと足掻いて沈んでいく。

 私は()から漏れ出る音と凄まじいまでの臭いにちょっと遠くを眺めた。あっ、そういやジジの家の前に鳥居とかありましたね。

 

「ヤバイヤバイ!! 早くここから出ないと…!!」

 

 超能力で脱出しようとした桃が、壁の前に陣取る鬼頭家に叩き戻される。

 

「この敷居はまたがせねぇよ!! テメェはこの流砂に飲み込まれて、大蛇様の()()になるんだよ!!」

 

 あちゃ〜しまった。星子さんなら鳥居の違和感に気がついてただろうか?

 実のところ、私はお寺と神社の違いもイマイチ分かってないので。私、この遠征が終わったら勉強するんだ。

 

 私は体色を消し、人の形をドプリと崩した。水浸しの庭に服が散らばる。

 誰もが壁際のやり取りに夢中で、こちらを振り向こうとすらしない。

 流体となって濡れた床を滑らかに動き、敷居の前に立つ鬼頭家たちへ音もなく接近する。ステンバーイ、ステンバーイ。

 

 そして痣と腫れだらけの腕が、力任せに物を掴んだ。

 机と椅子を掲げ背後からタックルを仕掛けたオカルンとジジが、鬼頭家の半数を自分の体ごと流砂の中まで突き飛ばし下敷きにする。

 よくやった! 特に男連中とリーダーを潰せたのは上出来だ!!

 

「どわあああ!!」

「流砂に入っちまったああ!!」

「ほおおお!!」

「大蛇様の領域にぃ!!」

「こんにゃろ!!」

 

 残された女集団が落ちた面々を救わんと、オカルンとジジを罵りながら棒で叩く。

 

 私はその足元にゲル体を滑り込ませた。

 いくら地球人が重かろうと、車だって雨の日はスリップするのである。

 テーブルクロスを引くように念を引けば、前のめりで棒を振り回していた女集団がつんのめり、頭から流砂に突き刺さった。ビューティフォー。

 

「うわ、急に落ちてきたあ!」

「綾瀬さんこっち!! 今のうちに!!」

「2人ともナイス!! 助かった!!」

 

 肩まで埋もれた桃を机に乗ったオカルンが引き上げようと手を伸ばす。

 だが──間に合いそうにないな。

 

『我々の目的は、どうやらこの先にあるようです』

 

 壊れた散水ノズルから流れ続ける水を操り、私は庭に置き去りにした服を回収した。

 服にゲル体を通し、人間体を素早く再構築する。

 

「先って、まさか」

「なに、この天の声!?」

 

 テレパシーに驚愕するジジを余所に私は敷居に滑り寄り、ひょいと壁を乗り越えた。

 

『下へ参ります』

 

 私が部屋に飛び込むと同時に、全員が巨大な地下空間へと落下した。

*1
頭と両手の三点で体を支え、足を上に向けて逆さまになるポーズ

*2
細長い串に紙を垂らしたもの

*3
神額(しんがく)。神社の名前が書かれたもの

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