私は宇宙人   作:蒲鉾三田

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今回主人公はもぐもぐしてるだけってマ?


第十九話 もぎもぎしたらもぐもぐ

 

 ワームの腹に穴を開けたら、外になんか明らかヤベー悪霊がいたんですけど。

 こんな時、どんな顔すればいいと思う??

 怖すぎて顔ない。顔は元々ないんですけどー!! ガハハ。どうして災いが畳み掛けてるんですか?(電話猫)

 

 桃とジジの無事に安心する間もなく、肌まで真っ白な悪霊を視た瞬間からゾワリとした拒否反応があった。うわ、こいつも精神汚染してくるんかい!

 私は念視の範囲を削り、異様な力を感じる悪霊の顔にノイズをかける。

 

 同時にワームの宙ぶらりんな首の皮をゲル体で必死に溶かし、落とす。何はともあれ私が今すべきことは避難の準備だ! 逃げるんだよォー!!

 私は落としたワーム肉にくっついて悪霊と物理的に距離を取った。ワーム肉が下層に突き刺さる前に、衝撃を受けぬよう私は浮遊する。

 悪霊はそんな私と轟音を気にも留めず、最も近くにいる生物───桃とジジへ視線を向けた。ごめんそいつ任せた!

 

「うげ!! キモ!!」

「そいつの目を見るんじゃねえ! そいつは “邪視” だ!! ヤツの邪眼は人を狂わせ自殺させる!!」

 

 首をねじ曲げ振り返った邪視に、ターボババアは下に落ちた私を見ていたジジへ、声を荒らげ警告した。

 脳波をやられるワームの念波は桃たちに効いたが、邪視を見てキモがるだけで済んでる桃は、霊的な精神汚染には耐性があるっぽいな。流石は異能者。

 ただ一般人のジジは恐らくアウトだ。

 

 この邪視という霊が何のために出てきたのか、分からないのが怖い。ワームと対峙し、桃とジジを背に庇っていたようにも見えたが…油断は禁物だ。

 だってオーラが禍々しすぎんだもんよ!!

 

 頭が千切れたワームは力尽きぐらりと倒れる───ことはなく。その千切れた部位から口を超速再生した。ロケット鉛筆かな?

 そして上層に突っ込んだオカルンを追い、ワームが元気に突き進んで行く。

 

「はぁ!? 口が生えたんですけど!!」

 

『ワームは再生する生き物です』

「何だそれ!! ずるいだろがい!!」

『ミミズもそうです』

「ウソ、マジで!?」

 

 ムハハ! 油断したな! ワームとはこういう生き物だ!! まあ普通のミミズは頭落とせば流石に死ぬが。

 トカゲが尻尾を落とすように、ミミズも体を自切し再生する。ワームは切り落とされた頭、ひいては脳まで再生できるというだけのこと。

 私が脱出のためにワーム肉をせっせと消化していれば、オカルンを助けに行こうと駆け出した桃とジジに対し、邪視が動いた。

 

 邪視の長い腕にジジが囲われ、止める間もなく、邪視が覆い被さるようにジジの顔を覗き込む。

 その目を直視したジジは、普段の彼とは思えぬ鬼の形相で血管を浮き上がらせ───殺意と憎悪の激情を噴出させ始めた。

 

 緊急事態発生!

 討伐対象のワームに加えて新たにブリパン一丁のエネミー参戦!

 ドス黒いオーラと精神干渉力を使いジジにまとわりついて離れません!!

 

「しっかりしろ!!」

『気を確かに』

 

 怒声を上げ喝を入れるターボババアに習い、私もジジへ感情の波を押し付け、脳の異常を押し出そうとした。

 しかし邪視が放つ凄まじいオーラに阻まれ、私の念話は届かない。くっそ、まるでホースの水で家を押そうとしてる気分だ。潜在能力が桁違い! 種族値の暴力!

 

『邪視の力により念の干渉を阻害されています』

「ジジ!! 今そんなヤツにかまってるヒマないんだから!!」

 

 桃が超能力で直接邪視を引き離しにかかれば、邪視の視線が外れ、ジジが正気を取り戻した。

 しかし邪視が凄い力で手足を絡め、ジジから離れようとしない。

 

「やめろモモ! こいつは違うんだ!! 悪いヤツじゃないんだよ!!」

「え!? そうなの!?」

 

 人を狂わせる邪視の目を見て、狂いかけた筈のジジがなぜか邪視を庇い始めた。

 

「こいつはずっと1人で戦ってたんだ!! ずっと苦しんでたんだよ!!」

「ちょ、ジジ!! どこ行くの!?」

 

 ジジが突然、邪視を背負ったまま下層に向けて全力で走り出す。だ、大丈夫か!? ジジくん言動がおかしくなってない!? まさかこの一瞬で頭をやられたんじゃ。

 

『ジジ、駄目です。STOP.後にもできます、ワームを倒してからでも。ジジ』

 

 ジジは桃の静止の声も聞かず、私の念話も邪視に妨害されて通じない。ジジは立ち止まることなく下へと突き進んでいく。

 身を守る手段もないのにワームの感知範囲内で走り回るんじゃないよ!! 確実に彼は冷静じゃない。

 

 いやこれ邪視に(さそ)われてるじゃん。(いざな)われちゃってるじゃん! ジジが連れて()かれるやつじゃんコレ!!

 人を狂わせ自殺させる怪異に善し悪しなんて無いよその先は死だぞ帰ってこーい!!

 

『桃、今すぐジジを連れ戻して下さい。今は脱出が最優先です』

「分かってる!!」

 

 ワームだけでも手一杯だったのに、邪視にジジが持っていかれたせいで桃までそっちにかかりきりだ。くそっ、戦力が分断された。

 私は急ピッチでワームの肉を、芋虫がキャベツを食べる様子を早回しするかの如く平らげていく。

 コアにエネルギーを取り込み手数を増やさなければ。私に今してやれることは、脱出の手筈を整えることぐらいだ。

 

 得られたワームの体は5mと少し。吸収した栄養で私含めて3体にはなれる筈。だが体力その他の回復量を考えると、人間を持ち上げられるかギリギリのラインだ。

 母星で研究開発された栄養凝縮のゼリーでないと、やはり余所の星で万全に増えるのは難しい。

 

 オカルンもワームを引き付けてくれてるが、決定打を叩き込める状態では無い。

 本気は既に1度使ってしまった上に、最後の1発を使うにしても、あの攻撃ではワームの再生力には敵わない。

 

 私は邪視について詳しいであろうターボババアへ念話を飛ばし、最も危惧している事を聞く。

 

『ターボグラニー、邪視の呪いは感染しますか』

「あ? 今の邪視に()()そこまで出来てたまるかよ、ボケが」

 

 …なるほど? 現状何らかの条件を満たしていない。しかし、新たに感染の力を会得する()()()はあると。

 猿夢も我らが同胞を中に取り込み、クソ長無限列車を作りやがったので然もありなん。

 

 共有が1番速いのだが仕方ない。邪視をここで倒し切れると思えない以上、情報を最低限に絞り、猿夢の時と同じだけ慎重に取り扱うべきだ。

 

 私はコアに感じる分体のシグナルへ念話の波長を絡ませ、呼び掛け(コールし)た。

 私のシグナルが1度ロストし、直後に復活してるので、向こうも既に異変は察知している。

 

『異常の報告をどうぞ』

 

Mayday(メーデー) こちらは分体。位置は目的地より地下空間。ワーム養殖地にて “邪視” を確認。ジジが誘引されこちらの干渉を受け付けません。速やかに星子様へ報告願います。Over(オーバー)

 

 求めていた異常の報告じゃなくて悪いね! 異常事態ではある!! そっち今何してる!?

 

Roger(ラジャー).星子様へ迅速な報告を行います』

 

 なんか返答と一緒に、分体が牛の牧場で星子さんと、見知らぬ親子と一緒に牛乳飲んでる “一方その頃” の光景がコアにブチ込まれたんですけど?

 

 のどかな光景を送信してくれてありがとう。何してんの?? いや星子さんが近くにいるのを伝えたかったのは分かるけど何してるのこれ???

 くそっ! こっちもジェンガスタイルの家の山と、私が捕食中の床に突き刺さってるワームを送信して分体を困惑させてやりたかった…!! ファルコン・ランチ。

 

 ふざけている場合では無い(迫真)。

 

 いや、分体作るためにやる事やってるけど。マルチタスクで思考が回るせいで爆速でいらん事まで考えちゃってるだけだけど。

 

 しかし分体のおかげでこれでも落ち着いた方なのだ。

 先ほど念を抑えられ錯乱したせいで、精神負荷が相当かかっていた。その精神異常を感知した分体が沈静化のために念話の最中、平静の感情と情報を送り込んでチューニングしてくれたわけだ。

 荒ぶる精神に冷静という名の水をぶっかけるようなものである。

 

 常に分体と繋がり、知覚した数多の情報で満たされるライムズ星人に、完全なる “無” を与えるのはやめてください死んでしまいます。

 もうパニック↑パニック↓よ。人間が無音室で発狂するように、ライムズ星人は “無” によりその思考能力も相まって秒で狂うんですね。

 私だから耐えられた…! 私じゃなかったら? 発狂して死んでます。

 

 

「こんなとこに…ずっと閉じ込められて…。守ってくれてたのかよ…ずっと、オレのこと…」

 

 アスリートのように無尽蔵の体力で走るジジは最下層の終点へ辿り着き、その封をされた扉を開け放つ。

 そして、奥に隠されていた死体をジジは見つけ出した。

 背にしがみついていた邪視はいつの間にか姿を消し、札の貼られたその部屋にジジが足を踏み入れる。

 桃が息を切らしながらよろよろと追いつき、桃の肩に掴まるターボババアは険しい顔でジジを睨んでいた。

 

 柱に磔にされているのは、大きさからして子供の焼死体だ。

 地下空間の家の内装が下層になるほど年代を遡っていたことから、恐らく大蛇信仰の生贄にされた最古の犠牲者と推測できる。

 なぜ大蛇に捧げられた筈なのに食べられていないのか、なぜ焼けた死体となっているのか。謎は多いが、封印されていた扉をジジが開けてしまった事が心配でならない。

 

 あと、ゲル体を広げてせっせとワームの体を吸収してはいるんだけど───逆さに刺さったワームの口から内容物が出まくって止まらないんですわ。

 その内容物とは、ワームが食べた砂と体液で出来たベッタベタの粘液のことである。

 

 おろし金で擦った()()()のように、ゆったり流れ落ちる粘着質のそれが、そりゃもう赤ん坊のよだれ並にダラダラと際限なく流れ落ち続けている。

 螺旋状に下へ続く床や階段をドロドロに侵食して埋めつくし、下層の出入口となる箇所を着実に詰まらせていっております。まずい、ひじょーにマズイ。

 

「やめろ!! それ以上ヤツに近づくな、同情なんかするんじゃねえ!! そいつは人間を自殺に追い込む妖怪だ!!」

「違う!! オレ達と同じだよ!! 姿は変わってもオレ達と同じなんだ!!」

「同じじゃねぇ!! テメェはなにもわかってねぇ!!」

 

「ちょっと待って!! 2人とも落ちついてよ!! 一体なんなのこれ!!」

 

『桃、今すぐ上へ戻ってください』

「待ってってば! 今やろうとしてんだって!!」

 

 私は念視を広範囲に保ちながら、中層でワームを引き付け逃げ回るオカルンと、最下層で言い合うターボババアとジジを視て焦れる。頼むから逃げられなくなる前に上に来てくれー!!

 

『──報告。星子様が邪視封印に向かいます。それまで適宜調整を』

『了解』

 

 ターボババアが全力で警告を上げているのがもう嫌な予感しかしなかったのに、分体から()()ではなく()()()()と焦りの感情を受け、嫌な予感は確信に変わった。

 きっと高い確率で、悪霊の新たな一面を垣間見ることになる。興奮してきたな。

 

 中層で家の中をのたうち進むワームがオカルンの速度に追い付けず、その巨体を上空に突き上げた。

 

 次の瞬間。

 暗い地下空間に人の目が眩むであろう稲妻が走り、この空間全てを駆け抜ける。ワーム肉を溶かす私のゲル体の上を、電気が跳ねた。

 私は生半可な環境変化ではビクともしないゲル体持ちなので無事だが、生身の人間はそうはいかない。

 オカルンが感電し倒れると、ワームは獲物の数が多い、足音でどこに向かったか把握していたであろう桃とジジの元へ進行方向を変えた。こっち来んな!

 

「ちょ、ヤバ!! めっちゃ粘着なんですけど!!」

 

 桃とジジは感電して倒れた拍子に、粘液にトリモチのように絡め取られた。

 粘液が遂に最下層にまで到達し、天然の拘束トラップになってしまっている。

 粘度が高いと液体操作が効かなくってぇ…。

 

『粘液の流出が止まりません。下層の足の踏み場が無くなります』

「うげ、そういうことかい!」

 

「どんくせぇクソどもだぜ」

「ざけんな!! あんたの幸運はどーなってんだよ!!」

「ワシの幸運は誰のものでもねぇ。もしかしたら敵の方に幸運が行くかもなぁ」

「なんだそりゃ!!」

 

「身体がシビれて動けねぇ…」

 

 ──どうしよう、詰みかもしれない。

 

 これ以上どうしてやることも出来ず、私は途方に暮れた。

 

 ワームは健在。

 脱出させようにも桃とジジは最下層。

 オカルンは中層で感電して行動不能。

 

 更には。

 

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」

 

 

「ジジ!!」

「バカが!! だから言ったろうが!! 邪視を信用しちゃならねぇってよお!!」

 

 恐らく邪視に干渉され、意識が混濁して座り込んでいたジジが発狂した。頭を抱え、喉が裂けんばかりに絶叫している。もうダメだぁ…おしまいだぁ…!

 ──いや! 逆に考えるんだ。あげちゃってもいいさ、と考えるんだ。

 

 もしかしたら邪視が戦力になってくれるの()()しれない! 生贄にされた元凶のワームを倒したいからジジの体が必要だったの()()しれないし、子供の生贄からできた悪霊なら、同じく子供の桃たちにはワンチャン優しくしてくれる…()()!!

 

 そんな淡い期待も虚しく、ワームが索敵のために放ったであろう電撃が一帯に閃光を撒き散らす。感電したジジは意識を失い、顔から粘液に突っ伏した。あーあーあー。

 

「キャアア!! 痛あ!! またビリってきたあああ!!」

 

 不意の電撃に悲鳴を上げ粘液の海に倒れた桃が、遂に獲物を追い詰めたワームが天井に穴を開けた事に気がついた。

 ワームが何層にも連なる歯のびっしり生えた口を大きく開ける。

 あの歯で咀嚼されたらもう助からない。参ったな、せめて丸呑みにされてくれ…。

 

 そんな私の諦念は、瞬時に終わりを迎えた。

 

 何故なら。

 ワームの口がひしゃげ、長い巨体が家を押し潰して瓦礫を作り吹き飛んで、まるで紐のように土壁に叩きつけられたからだ。

 それを成した物の怪の逞しい姿に、私は歓喜する。

 

 ま、まさか、本当に…!?

 

「やっと手に入れたでのお、この体あ」

 

 霊力で弾け飛んだ服。真っ白に変色した肌は、ブリーフ1枚で引き締まった肉体美を惜しげも無く曝け出している。

 第三の目を額に開眼させたジジ──いや、“邪視” が。悠然と、そこに立っていた。

 

 

「人間は皆殺しじゃあ」

 

 

 あっ、ダメみたいですね。

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