見て! 子供が踊っているよ
かわいいね
人間が生贄にされ続けたので、子供は邪視になってしまいました
鬼頭家のせいです
あ〜あ
色が抜け落ちた髪と肌。
霊力で変質したピアス。
激しい憎悪と殺意の澱んだ色を
迫り来るワームを怪力でもって捩じ伏せ、蹴り飛ばしたブリーフ姿のジジが、異様な姿で綾瀬 桃に背を向け立っていた。
「ジジ!! あんたそれ邪視の力!?」
「超能力を構えろ!! やられるぞ!!」
円城寺 仁の面影を残しながら、その肉体を奪い取り憑依した物の怪たる邪視。
人間を見境なく殺戮の渦へ叩き込まんとする悪霊は、先ずは目先の女を殺そうと、その恵まれた器を最大限に利用する。
ターボババアの警告を受け咄嗟に超能力を構えた桃は、人外の力で振るわれたその脚に蹴り飛ばされ、柱を吹き飛ばし壁に叩き付けられた。
あまりの衝撃と痛みに目を瞑り、歯を食いしばった桃。そこに呼吸の間もなく邪視からの蹴りが放たれ、足蹴にされた桃は壁に縫い止められる。
桃の背中と壁に板挟みにされたターボババアが、若輩者の邪視へキレ散らかした。
「このクソだらぁ!! カスが調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
「ジジ!! 正気に戻って!! いつものバカテンションはどうしたんだよ!!」
「誰に話しかけとるんじゃ」
邪視はその足で桃とターボババアを壁にメキメキと押し付ける。
桃はガードした腕と背の痛み、押し潰される苦痛に顔を歪めながらも必死にジジに呼びかけた。
しかし邪視に乗っ取られた肉体は、桃の呼び掛けにいつものお喋りを返すことはない。
「この
邪視が桃とターボババアをいたぶる一方。
邪視に返り討ちにされ、近付くことへの危険性を知ったワームは
地下空間に、さながら雷雲を纏う飛ぶ龍の如くブチ撒けられた雷光は、しかし邪視に展開された怨念のバリアにより阻まれた。
「すご!!」
「この怨みは決して晴れん
家の形をした怨念は
乱回転しながら壁を突き破り打ち出された呪いの球が、ワームの分厚い皮膚に容易く風穴を開ける。
それどころか地下の壁を凄まじい速度で跳弾し、家を突き抜けなおも止まらず、ワームの巨体を
肉体を一方的に損傷させられ、太刀打ち出来ないと悟ったワームは、堪らず土壁の中へその身を潜り込ませた。
「野郎ぉ、
疎ましげに悪態を吐き、邪視が呪いの塊を器用にリフティングする。
ワームを返り討ちにする程の力と、突如として取り憑かれたジジに桃は困惑を隠せない。
「マジでどーなっちゃってんの!? なんでジジがあんなことに…!!」
「散々星子が言ってただろうが、ヤツは
「あそこまで
ターボババアにより明かされるジジの稀有な才能。その意味を目の前の邪視に、ジジを奪われた事で身をもって知ることになった桃は、ジジが自分を殺すかもしれない最悪の状況に
「邪視はヤツを
「そんな…」
恐ろしく冷たいその眼は、桃の知るジジの面影など欠片も残っていなかった。
「ハラをくくれよモモ。あいつは味方じゃねぇぜ」
□
下に向かった筈のワームの巨体が吹き飛ばされれば、積み重なった家は壊れ、土壁が削れて轟音を立てる。
ワームの電撃を間近で浴び、感電して中層に取り残されたオカルンにもその光景は見えていた。
「下がなんかヤベェ。モモちゃんを助けねぇと…!!」
痺れの残る体を無理やりにでも起こしたオカルンが、体を引き摺り屋根から落ちる。
転げ落ちた先で四肢を突っ張って着地すると、彼は桃とジジを探すべく駆け出した。
桃とジジが向かった下へ。ワームが吹き飛ばされた
『此方へどうぞ』
「!」
どろりとした粘液が道を侵食し足が取られ、ペースが落ちた事を煩わしく思ったその時。キンとした頭痛に似た感覚と共に、オカルンの脳に一瞬映像が過ぎる。
彼の目には粘液で塞がれた道が視界から隠されて排除され、通れる箇所だけがダブって見えた。
窓を蹴破りベランダの柵をへこませる勢いで飛び出たオカルンは、空中でその視点の主がいるであろう下へ顔を向ける。
「ヒロちゃん、モモちゃんたちは!」
『最下層です。通過可能な道を示します、迅速に救援を』
そこにはヒロがクリオネ姿で浮遊していた。跳び降りたオカルンがすれ違いざまにヒロを掴み、背中へ押し付ければ、ひんやりとした冷たいゲル体がオカルンに吸着する。
後頭部にしがみつき身を据えたヒロが、彼の脳裏に念視で見た視界を共有した。
大きく千切れたワームの死体から出た粘液は、あらゆる場所に澱んだ川を作り、下に行くにつれダマになって道を塞ぐ。入り組んだ道は扉や階段も無秩序にねじ曲がり、形ばかりで意味を成さないものもある。
粘液のない通れる道をヒロが透視し、先んじて塞がった道にノイズをかければ、オカルンが忽然と人が消えたような生活感の残る家の中を縦横無尽に駆け抜けた。
不意に透視された視界が家の外部にまで届く。体勢を立て直したワームが、頭部に筋が浮くほど力を込めるのがオカルンにも視えた。
来る、と構えれば白光りしながらも眩むことの無い共有した視界の中、再び電撃を放たれ感電し、オカルンの足が縺れる。
それでも倒れる前に裸足の足が床を蹴りつけ、眼光鋭く前を向いた彼は足を止めない。
『現在、邪視がジジの肉体を奪い敵対化。非常に凶暴。目的は人間の殺戮です』
車の速度で流れる風圧に晒されたヒロの触角がバタバタと風になびく。
ワームの頭が下から突き抜けた豪速球により貫通し、大穴を開けた。
それだけに留まらず、壁で跳ね返った球がワームに更なる穴を開ける。
跳弾した球は家を貫通し下に戻る度に勢いを取り戻し、ワームを風穴だらけに変えていった。
体の至る所に再生する間もなく大穴を開けられ、生命の危機に陥ったワームは堪らず壁に潜り身を隠す。
その合間に螺旋のように下る穴へと辿り着いたオカルンは、最下層へ飛び降りた。
『あの扉内です』
視界の共有が解かれ、目を開き着地した瞬間。その目に映ったのは、ジジに取り憑いたという邪視が桃を殴り飛ばした姿で。
オカルンは眉間の皺を深くし、着地で盛り上がった腿がバネのように地を跳ね飛ばす。
矢のような加速で彼は、ワームにすら大穴を開けた呪弾を桃に蹴り飛ばす寸前の邪視の蹴り足を、同じく足で相殺し食い止めた。
「オカルン!!」
死の直前で命の危機を救ったオカルンに、桃は思わず目を潤ませる。
「てめえモモちゃん殴ったな。ゆるさねえぜ」
敵意を向けたオカルンが、目つきの数段悪くなった視線で邪視を睨み上げた。
しかし邪視は乱入者に虚をつかれながらも即座に憎悪で顔を歪め、軸足に更なる力を込める。
邪視の器である
衝突した足が呪弾と共に唸りを上げて解き放たれ、力負けしたオカルンが跳ね飛び床で背を勢いよく擦った。
彼の後頭部に張り付いていたヒロが攻撃の衝撃に、無言のままコアを微弱に揺らす。
「オカルン!! うわ!!」
「このノロマ! 来るのが遅ぇんだよクソだらあ!!」
オカルンは桃とターボババアを持ち上げ、壁を走って邪視の呪弾を回避する。
壁を走るオカルンと、足を振り抜いた邪視の視線が交錯した。
「貴様も人間をかばうか!! 妖怪のくせにのお!!」
「許さねぇぜ、テメェはよぉ」
互いを敵と見なし、睨み合う両者。
「だが逃げる」
しかしオカルンは邪視へ背を向け逃げ出した。
既に下層は粘液の滝が雪崩込んでしとどに濡れ、正常な足の踏み場も無くなっている。
オカルンが強く目を瞑ると同時に、ヒロが心得たように視界の共有を繋ぎ直した。
逃げた彼らへ、人体に当たればその部位が丸ごと消し飛ぶ威力の呪弾を、最下層から邪視が蹴り放つ。
呪弾は凄まじい威力と速度で四方八方跳弾し、調度品や壁をぶち壊して人を殺そうと暴れ回る。
それをオカルンは壁を透視する視界に、ターボババアの身体能力と動体視力で見切り、躱しながら粘液の床を蹴立てた。
粘液で段差の境すら分からない階段を避け、細い手摺の上を破壊しながら走り、上に行く為の道を探して入り組んだ家の廊下を駆け回る。
迷っている暇などなく、速度を落とせばたちまち跳ね回る呪弾に捕まるだろう。
視界の隅にはワームの頭頂部が刺さっていたであろう場所、粘液の終わりが見えた。
「うわ、なんか降ってね!?」
「毒液だ! このままじゃ毒で全員くたばるぞ!!」
桃が言及したそれに全員が注目する。
しんしんと雪のように音もなく降り注ぎ、この地下空間を漂う物質。それはワームが臀部から吐き出す毒だ。
地中の壁へと身を隠したワームは、この空間を脅威たる生物が死に絶える毒液で満たすつもりでいる。
『…』
オカルンの後頭部にて、ヒロが何事かコアを青く発光させた───その時。
『あ』
「あっ!?」
オカルンの片足が、床を踏み抜いた。
正確には。先ほど呪弾が開けた穴に粘液が覆いかぶさり、その隠れた穴へオカルンがピンポイントに足を乗せたのだ。
足が沈もうと急には止まれず、勢い余って床を破壊し、オカルンたちは漁網に捕まった魚のように粘液の中で団子になった。
ターボババアは粘液に塗れて暴れ、ヒロは一生懸命ババアを剥がそうと自力で引っ張っている。
「ヤベエぜ」
「何やってんだこのすっとこどっこい! クソが! ネバネバしやがる!!」
「2人とも暴れんなし! いま隙間開けるから!」
ターボババアに顔を足蹴にされつつオカルンが足をばたつかせ、桃が超能力でどうにかしようと粘液の網を押し広げる。
そして呪弾の壁を貫通する轟音に紛れた妙な異音に、桃は辺りを見回した。
「ちょ、なんか建物軋んでね!?」
怒涛の勢いで風穴を開ける呪弾のせいか、ワームがそこら中に開けた大穴のせいか、或いはそのどちらもか。
ミシミシという嫌な音を立て漆喰にはヒビが入り、梁と柱は割れ──そしてその支柱を呪弾が完膚なきまでに破壊した。
べチャリと塊になって下に落下した彼らの前でドゴンと天井が落ち、追従してあちこちから瓦礫の塊が雨あられ。
ヒロは透視した視点の中を目まぐるしく高速で認識した後、ソッとターボババアからヒレを離した。
『墓穴もシェアハウスとは新しいですね』
「このクソ饅頭!! 諦めてんじゃねえぞボケええ!!」
「ヤバいヤバいヤバいって、ぎゃあああ!」
倒壊した家は上に乗り上げた家々の土台でもある。
それが崩れればどうなるか? 火を見るよりも明らかだ。
オカルト違法建築により積み重なったタワーは、怒涛の勢いで轟音と土煙を巻き上げ───沈み込むように崩壊した。
□
もうもうと立ち込める土煙が、風のない地下を滞留し、山となった瓦礫の破片が不意にカラリと落ちて音を立てる。
そして家の瓦礫が内側から爆散した。
瓦礫の中からゆらりと立ち上がり現れたのは邪視だ。悪霊がこれしきのことで止まるわけもなく、怨念の籠った呪いの家は重量如きでは決して破れない。
追っていた人間と妖怪は瓦礫の山に埋もれ生死も不明。探し出して殺すよりも、直情的な邪視の殺意は外に移った。
200年の間囚われ続けた地下から飛び出し、全ての人間を殺し尽くさんという衝動が邪視を突き動かす。
邪視は積み上がった家の塔が崩れたことで、更に遠くなった天井を見上げ足を踏み出そうとして───。
『お待ちください、邪視の方』
頭の中に響く、煩わしい声に呼び止められた。
「なんじゃあ、どこじゃ貴様。邪魔立てするならぶち殺すぞ」
邪視の視界に映るのは瓦礫の山と、雨の如く降る毒液により収まりつつありながら、未だ立ち込める土煙。
殺気立つ邪視の脳内に、無機質な声は淡々と語りかける。
『ワームによる空気汚染。人間にこの液体は有害のようです。肉体の不調を観測』
「だからなんだと言うんじゃあ。さっさとここを出ればいいだけのこと」
土煙に紛れながらも、ワームから出た毒液は小雨のようにサァサァと振り続ける。毒が空気に溶け込んで、声が指摘する最中にも邪視の鼻から血が流れ落ちた。
『ジジの体に悪影響です』
「人間に肩入れするか貴様。今は我の器じゃあ」
邪視は瓦礫を恐ろしいまでの怪力で蹴り飛ばし、殴りつけて吹き飛ばす。声の元を探し出そうとしているのだ。
『その通り。そしてあなたはその希少な器が死んでしまっては困る。そうでしょう』
そんな邪視の脳内へ、知ったような口を利く声は相も変わらず退屈な一本調子だ。
しかしその声に確かな畏怖と焦りが混ざり込んでいることを、邪視は抜かりなく感じ取っていた。
『我々はこの毒が人間に致命的であるか判別できません。器の不調は排除すべき、そう思いませんか』
「グダグダしゃべりおって、イライラするのお。皆殺しにすればどれかは貴様じゃ、まずはこの町の──」
『私が治療しましょう』
毒液の雨を遮る家の塔が崩れたせいか、建物が崩れた勢いで毒と空気が殊更に混ざったのか。一呼吸毎に悪くなる器と、思い通りにならない事を指摘する長ったらしい話。
不機嫌に眦を吊り上げ口をひん曲げていた邪視は、その言葉に暴れるのを止め、きょとんと幼子のような顔をした。
『私は人間に清浄な酸素を供給することが可能であることも申告します』
『私はあなたにとって有用で、あなたは私を容易に殺害可能です。違いますか』
「違わんのう。なんじゃ命乞いか」
『私はあなたを脅威と認めます』
身の程をわきまえた弱者が媚びへつらって擦り寄るようなそれに気を良くし、邪視は嘲笑う。
声の主はそれを否定するでもなく、粛として肯定した。
瓦礫の隙間から湧き出る水のように溢れ出した青い光と、半透明の液体が渦を巻いて形を成す。落ちた水が逆戻りするかのようなそれを、邪視は口を半開きにして眺めた。
簡単に握り潰せそうな半透明の珍妙な生物が、愚鈍な鬼火のように邪視の前に浮かぶ。
「
矮小なそれを冷酷に見下し、警告を口にしておきながら、邪視は目の前のコレを生かしておくつもりは毛頭なかった。
並の人間に邪視が取り憑けば気が触れて体が内側から腐り、溶け落ちて死ぬ。生きたまま腹に入れば、同様にタダでは済まない。
邪視の憑依に難なく耐えるこの器が死ぬのは確かに避けたいことで、毒を吸い出せば後は用済みだ。腹の中に閉じ込めてやった暁にどれ程
簡単に潰して殺してしまう事もできたが、残虐な邪視はその選択肢を捨てた。
無垢な子どもが虫の両端を指で摘み、ゆっくりと引きちぎりながら虫が足掻く様を観察するように。器の為だとかいう殊勝な態度の、か弱い生き物を邪視は嬲って遊んでやろうという気になったのだ。
『確認です。吸入した毒素を洗浄します。オーラの影響により体内へ直接侵入し治療する必要がございます。少々苦しいですが、宜しいですね』
邪視が返答の代わりに胸元辺りに浮かぶそれを鷲掴めば、半透明の柔い体に指がめり込み崩れそうになる。
上を向き大口を開け、舌を出して頭から迎えてやれば。掴まれ身を固くした生き物が1つ断りを入れた。
『では、お邪魔します』
邪視に噛み付かれる前に、掴まれていた生き物はパシャリと自ら形を解き、流体へ姿を変え青い光と共に腹の中へと飛び込む。
軽い息苦しさと、無味の液体が喉元を通過し。
──気付けば邪視は瓦礫に頭を打ちつけていた。
邪視はぽかんと何が起きたか分からぬまま、口を開け上から降り頻る毒の雨をぼやけた視界に映す。
異常なまでの疲労感と霧がかった思考を最後に、意識を手放し一瞬で昏倒した。
土煙すら収まり、静まり返った地下空間に青い光がチラつく。
『ジジの応急処置。及び邪視一時鎮圧へのご協力、誠にありがとうございます』
邪視が倒れ伏した空間に、抑揚のない念話が響く。
『我々は嘘を発しません。何故なら、人間の感情が顔や声に含まれるように、我々は念話に
『故に、我々が虚言を吐くことはありません。発言するその
崩落した瓦礫、下層の外側。重力に反し浮かび、隠れ潜むクリオネの影が2つ。コアを煌々と輝かせたその片割れがヒレを広げる。
降りしきる毒液と蔓延する毒霧がぶわりと退き、清浄に保たれた空気の層が瞬く間に完成した。
雨のように降っていた毒液は念の操作から離され───雪のようなゆったりとした本来の動きを取り戻す。
スノードームの内と外を逆にしたような光景の中。
ジジの肺から毒素を取り除き、その毒の塊を捨てたヒロが、邪視の内側からこじ開けた口にちょんと腰掛けた。
『お
オカルンがワームに食べられ体内を落下した数m分千切れた部位が多くなり、垂れ流し粘液も割り増し。
増えた粘液により足が取られ脱出にロスタイムが生じ、邪視の攻撃による破壊も割り増し。
結果、倒壊しました。
原作で家タワーがあれだけ穴ぼこだらけなら壊れてもいいでしょう。
活動報告を更新しました。
アニメ勢の方は邪視編のネタバレがあります、ご注意下さい。