私は宇宙人   作:蒲鉾三田

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ミミズの解剖や再生、二酸化炭素中毒に火山の噴火の論文を探して細かい文字を読み込んでも、小説に使うのは大体たったの2、3行とかなんだよね。
小説を書くとか非効率の極みなんだよね。
凛はアイドルになるべきなんだよね。


第二十二話 上は大水、下は大火事

 

 太陽の光で焼け焦げ横たわるワームは、まるでよく焼きに失敗したヴルストだ。

 私は黒焦げになった巨大ワームをしげしげと遠くから観察した。内側はまだ食べられるかな? だがこの騒ぎだ。そろそろ温泉街から野次馬が来そうだし、慌てて早食いするのはちょっと。

 

 地球に長期滞在する以上、巨大生物の死体というのは貴重な栄養源なわけだが。母星の海にいる品種改良されたチューブワームと違い、大きく育ちすぎた地中のワームは硬くてゲル体が消化疲れするのがネック。

 俗に言う胃もたれである。

 

「おいコラ、やれんのかコラ。お前はやれんのかコラ」

 

「早くワシをこっから出せー!」

 

 桃がワームを足蹴にゲシゲシと死亡確認をしている一方で、私はターボババアを瓦礫の山から掘り起こそうと角材を引っ張ったのだが…ダメだこりゃ。誰か男の人呼んで〜!

 

「ギャー動いたああ!!」

 

 私が瓦礫と格闘していると、桃が悲鳴を上げた。

 口を窄めたワームが吐き出したのは、大量の人間だ。粘液に塗れて分かりにくいがあれは…げぇ! 鬼頭家の連中!

 

 くたびれたホースのように潰れたワームの前で、粘液でデロデロになった鬼頭家たちが咳き込む。

 ワームさんや、その立派な歯は何のためについてるの? 人を食うためじゃろがい!! ぶっ殺しといてよ、役目でしょ!

 

「うお、生きてんじゃん。よかったねー!!」

 

 能天気な桃の感想に、鬼頭家のババアが憎しみを込めこちらを睨みあげた。

 

「テメェらよくもやりやがったな…!!」

「あんた食ったのミミズだろ」

「ガッデム!!」

 

「よくも大蛇様をやったなってことだボケェ!!」

「食われてたのによく言うね」

 

 おーっと殺気。続々と起き上がる鬼頭家はこちらを亡き者にする構えである。密かに地面から水を手繰り寄せるも、あのフィジカル強者ババアとの応戦は無理だ。

 ワームめ、余計な置き土産をしてくれたな。

 

 この人数を相手に桃と2人で持ち堪えられるか? 救援は直に来るとはいえ、オカルンの方も限界だ。地下にいる彼は呪いの家に閉じ込められ、邪視に殴殺されかけている。ああもう上も下も! こんなのどうしろってんだ!

 星子さーん!! 早く来てくれーっ!!

 

「悪いけどあんたらにかまってる暇ねぇから。オカルン達を助けないと───ちょっ、また地震!?」

 

 桃が鬼頭家に背を向けた瞬間。山が揺れた。

 地鳴りを響かせ、轟くそれは収まるところか勢いを増していく。

 

「ヤバイ!! でかい!!」

「テメェらのせいだからな!! 全部テメェらがやっちまった!!」

「はぁ!?」

 

 大気を切り裂く周波数に私は即座に念視を遠方へと飛ばし、絶句した。

 

「ウソでしょ!?」

『Wow』

 

 山の頂きから真っ赤に光る熔岩が爆発的に噴出し、黒煙と共に天まで一気に駆け上がっている。──火山が噴火している。

 200年の時を経た大噴火は、噴出させた夕陽よりもなお赤く輝く熔岩を、ボトボトと山の斜面に落とす。熔岩はゆっくりと、だが確実に下に向かって押し寄せていた。

 

「だから言っただろうが!! オレらが供物を捧げてたおかげで、大蛇様は火山からこの土地を守ってくれてたんだよ!!」

 

 噴煙の中を火山雷が蛇のように這う。雷鳴がまるで脅すように鳴った。

 この熔岩の流動性は低いようだがこの規模の噴火だ、下の町は確実に被害を受けるだろう。すぐに逃げないとここもヤバい。

 

「だがもう終わりさ!! 大蛇様はお亡くなりになられた!! テメェらのせいでな!!」

「マジっすか…」

「 “天昇る竜は虹をかけ、山の怒りは村を飲み込む!!” この村の言い伝えの通りだ!!」

 

 目を血走らせババアの咆哮した言葉に、私は頭部を傾けた。この事象に詳しいであろう語り部を前に、ムクムクと好奇心が膨らんで止まない。

 言い伝えに対する根拠がワームの実在だとして、実に面白いことがある。

 

「どう責任取ってくれんだコラァ!!」

『1つ、疑問があるのですが』

 

 私がウキウキと念話を放つと、その場の視線が一斉に集まった。

 

『警句の “竜” を “ワーム” とみなす解釈は()()していませんか』

 

 この警句は非常に象徴的で些か回りくどい。

 そして詩的で情感的だからこそ、解釈に歪さを感じるのだ。

 

『ワームは太陽光に曝露されると死滅する特性を持ちます。故に、ワームは噴火前に物理的に虹をかけることはできません。更に、生贄を求めるワームの行動や存在を “虹” という鮮やかなものに喩えることは、象徴的に矛盾がみられます』

 

『よって、警句の “天昇る竜は虹をかけ” の竜がワームである前提は破綻します。竜はワームと異なる存在でなければならない』

 

 虹ができるのに必要なものは水と太陽光だ。

 “天昇る竜は虹をかけ、山の怒りは村を飲み込む”。まずこの言い伝えを1度、噴火の前にワームが現れ “虹をかける何かをする” と仮定しよう。だが予兆としての()()()()()()()()は先ほど見られなかった。つまり、逆説的に、言い伝えは外に出たワームの存在を虹に例えた、と解釈をすることが出来る。

 

 しかし、しかしだ。空腹で “山の怒り” を起こしたワームは生贄を求めたはず。その()()()()()姿()を、果たして “美しい虹” に例えるだろうか?

 人間的観点からして、竜がワームである解釈は不整合なのだ! これは面白いぞ!

 

「そうだ!! 大蛇伝説なんかじゃない!!」

 

 桃が弾かれたように顔を上げ叫ぶ。

 

「 “天昇る竜” は()()だ!! あの時の噴泉は火山が噴火するって予兆だったんだ!!」

 

 桃が言っている噴泉。それは温泉でターボババアに助けられた際に噴き出したもののことだ。

 なるほど! 確かにそれなら科学的にも警句の辻褄は合う。「ワームのゲロが虹なんだよ!」とか言われたらどうしようかと思った。確かに表現としては虹にもなるが。

 

「昔の人は知っていた、だからちゃんと言い伝えで残していたんだ!! どっかで解釈がねじ曲がっちまったみてぇだけどな!!」

 

『しかしワームが火山エネルギーを食べ、間接的に噴火確率を抑える調停者であった可能性はゼロではありません』

「ほらみろ! テメェらが大蛇様を殺したせいじゃねぇか!!」

「うるせ〜!! 知らね〜〜!! てめぇどっちの味方だコラ!!」

『桃ですね』

 

 まあ火山エネルギーで満足するなら、人間という高カロリーな食事は必要なかったことになるのだが。

 この仮説、証拠不足なんだよなぁ。矛盾点を説けば鬼頭家から更にワームと噴火の因果関係を聞くことができるかと思ったが…鬼頭家は盲目的に仮説に便乗してくるだけで、根拠になる情報は持ってないし。ガッカリ。

 

 神聖視するにしても生態を観察し、牛や豚などで食性を検証して消化効率を最適化させるとか、寿命を鑑みて後継を育成しておく方が良かったのでは? 普通に人間を供物にするってリスク高くない?

 私に向かって吠えながらも、桃は超能力でワームの臀部を、むん! と持ち上げた。

 そんな桃相手に、鬼頭家たちは応戦の構えを取る。

 

「やる気かい!! 責任は取ってもらうよ!!」

「ざけんな!! 責任なんか取るつもり無ぇし!! 人柱なんかくそくらえ!!」

 

「オリャアアア!!」

「テメェ!! 大蛇様の亡骸になんてことを!! 待てコラァ!!」

「ヒロ!! こいつらにうちの邪魔させないで!!」

『説得を試みます』

 

 桃がワームの死体を温泉街へ向かう急な階段の下へと投げ飛ばし、何か考えがあるのか肩越しに振り返り叫んだ。この人数相手にそんな無茶な!

 鬼頭家のババアを筆頭に、押し寄せる一団が瓦礫の散乱する道路を突っ切ってやってくる。念でどうこうする時間もなく、咄嗟に私は立ち塞がるように手を広げた。こっちに構ってないで村守ったらどうよ!?

 

『大蛇信仰の核心は村を災厄から守ることでは』

「だからテメェらを捧げんだよぉ!!」

 

 ぬわーーっ!!

 

 忍者走りをするリーダー格のババアの右足が鋭く唸りを上げ、私の腹部に重い衝撃が走る。

 私は横へと吹き飛び、ジジ宅跡地の瓦礫へ叩き込まれた。髪の擬態がドロリと崩れる。

 ライムズ星人に物理を任せるとこうなります、覚えておこう!

 

「テメェよくも大蛇様を!!」

「許さねえからなコラァ!!」

「責任取りなぁ!!」

 

 そして複数に囲まれて叩かれると逃げられないんですね!!

 筆頭のババアはおじ達を引き連れ桃を追ったが、残りのババア四人衆が角材を手に私を殴打し始めた。やめなされやめなされ、惨い殺生はやめなされ!

 

 私は丸くなって、角材の殴打と蹴りをできる限り防ぐ。

 逃げようにも今ゲル体を動かせば、庇っているコアにまで打撃が届いてしまう。ゲル体は無痛だが、コアへの攻撃は痛いどころの騒ぎじゃない。集中が切れれば擬態ができなくなって、弱点(コア)丸わかりの姿にフォルムチェンジしてしまうー!!

 

 SOSと位置情報を送りつければ、雷鳴に紛れた地響きと、直後に山からガサガサと熊でも降りてきたかのような薮の鳴る音が勢いよく近づく。は、早く早くぅ!!

 次の瞬間。ババアたちは顎にグローブのクリーンヒットを受け、吹き飛んだ。

 

「大丈夫でぃスか!」

『助かりました』

 

 白目を剥いたババアたちが地面に転がる中、水玉模様のパジャマを着た@#/&が敵を警戒しながらグローブを構え、私の前に立つ。その背が何とも頼もしい。

 空には巨大なUFOが浮かび、浮遊音を奏でながら光り輝いている。彼はあそこから飛び降りて来たのだ。よかった、増援が間に合った!!

 

「皆さんはどこでぃす!!」

『オカルンは邪視と地下に。桃は敵に追われ町へ逃走中』

 

 桃がどこに向かうか念視で追っていたが、見覚えのある温泉街の道を走っていることに気が付き意図を理解した。

 UFOに相乗りする仕事用の分体から受信した情報と照らし合わせ、即座に優先順位を定める。

 

『穴を塞ぐ瓦礫の撤去を。オカルンを救助します』

「地下の穴はどこでぃすか!」

『こちらです』

 

 指さした先の瓦礫に拳を引いた@#/&──ペニーが一撃で瓦礫の山を吹き飛ばす。瓦礫に埋もれていたターボババアが吹き飛んだ瓦礫と一緒に転がり出てきた。

 

『地上は任せます』

 

 地上に分体を残すため、髪のゲル体比率を考慮し、頭部へコアの1つを動かすと顔上部のゲル体を分断。背後のペニーの悲鳴を他所に、私は地下空間へと飛び込んだ。

 

 

 変身限界を迎え、生身の人間に戻ったオカルンと、未だ底の見えない無尽蔵の霊力で復活した邪視。

 熔岩がワームの通り道の至る所から滝のように流れ、迫り上がるマグマの水位も相まって、まるで地獄にいるかのよう。もはやこれまでかというような、そんな局面にまで彼は追い詰められていた。

 

 それでも、オカルンの目が燃えるように赤く輝く。痙攣する足を、悲鳴を上げているだろう体を無視して、彼は邪視を強く睨んだ。

 

「オ、ォォオオ!!」

 

 消えたマスクが顔を覆う。三度目の、限界を超えた無理やりの変身を彼は成そうと、血反吐の混じる雄叫びを上げる。

 

 地下空間に単独で残り、邪視と死闘を繰り広げていたオカルン。

 攻撃から逃げ回り、邪視が外に出ようとするのを妨害し。遂には呪いの家に閉じ込められ、残りの()()を使い邪視を倒した彼は頑張った、頑張ったのだ。

 お前の苦労をずっと見ていたぞ!!

 

 

『チキチータ。トラクタービーム起動。目標捕捉後、最大出力にて展開。緊急浮揚、開始』

「わかったでぃす!」

 

 UFOを操縦するチキチータへ、UFOにいる仕事用の分体が指示を飛ばす。

 幼いチキチータがボタンを押してレバーを倒せば、眩い黄色の光線が地下空間の闇を切り裂き降り注いだ。

 突如として照射された光に驚き、オカルンと邪視が目を庇う。

 

『お待たせしました』

「ヒロさん!?」

「貴様ぁ!! 邪魔ばかりしくさりおってえ!!」

 

 私は雑に擬態し直した半溶けの髪をそのままに、オカルンに腕を回す。

 瞬間、光の範囲の物や熔岩が無重力のように浮かび上がり、邪視とオカルンが体勢を崩した。

 

『上へ参ります』

「うわぁっ!!」

 

 水中から急浮上するように、引き寄せられる光線の中を私はオカルンを抱え飛ぶ。出力最大で反転した重力下なら、コア2つ分でも問題ない。

 邪視が空中に展開する呪いの家を足場に、体勢を立て直した段階で、私は地上のビーム照射外へ飛び出す。

 邪視が続けざまに飛び出し、遅れて照射される黄色い光が眩さの度合いを減らした。瓦礫や熔岩が浮力を失い、マグマの海に落ちていく。あのまま最大で照射してるとUFOに物が激突するからね!

 

 後は星子さんが地上へ降りてくるまで、邪視を足止めするだけ…!!

 

 ───ところが。

 

 邪視は何を思ったか。近くにいる我々より、遠くにいたワームをホース代わりに消火活動する桃と、何故かいるツチノコ神社の神主と、()()()()()()に目をつけた。

 先程までこちらに殺気を向けていた邪視の矛先が、突如として変わる。

 

「待て!! お前の相手はジブンだ邪視!! 綾瀬さんに手を出すなあ!!」

「オカルンさんはここにいるでぃス!!」

 

 素早い邪視に横を抜かれ、慌ててペニーが走り出す。

 邪視の向かう先に、桃の背中を見つけたオカルンが邪視に追いすがろうとして、痙攣した足のせいで立てず転んだ。私は彼を助け起こすが、それでもオカルンは邪視を止めようと声を限りに叫んでいる。

 

『チキチータ、目標が移動します』

「降りる場所を変えるでぃす!」

 

 邪視はと言えば鬼頭家を蹴倒し、殴り飛ばし、呪弾を蹴り放ってワームに穴を開けと場をかき乱し大暴れしている。

 あの蹂躙の場に私が飛び込むのは、命がいくつあっても無理だ。

 しかし上手い具合に桃、神主、ババアの即席チームが、邪視に押されながらもなんとか場を食い止めていた。今しかない!

 

「遅ぇぞこれ!! 次からエレベーターつけろや!!」

「うわああ浮いてるぅ!! 怖いい!!」

「男がウダウダ言ってんじゃねぇ!!」

 

 移動したUFOから再度トラクタービームが展開し照射される。

 出力安定のためゆっくり降ろされ、高所を怖がる人体模型の太郎の背を足場に、星子さんがバット片手に満を持してやってきた。うおー! 星子さーん!!

 

「師匠!!」

「満次郎!! 吐普加美依身多女(とおかみえみため)!!」

「ハイ!!」

「太郎は合図で突っ込め!!」

「はいい!!」

 

「行くぞ河童!!」

「でいす!!」

 

 ペニーと共に、生身の星子さんが邪視へと突っ込む。

 呪弾を引き受けたペニーが早期脱落するも、邪視の拳をバットを振るう勢いのまま小回りを効かせ躱す星子さんは、邪視の顎をかち上げた。

 

 そのまま星子さんのバットでの足払いを躱し飛び上がった邪視へ、咥えていた煙草を吐き捨てて攻撃の目測をズラさせ、邪視の頭をバットで地に叩きつける。キャー!! 星子さーん!!

 

「太郎!! 来い!!」

「おっしゃあああ!!」

 

 クラウチングスタートをきった太郎が瞬間的な加速で邪視へ迫った。

 地に叩きつけられた邪視は身体のバネを生かし、ブリッジ状態から跳ね上がり起き上がると迫り来る太郎へ拳を穿つ。

 

 バラバラに粉砕された人体模型に、なんて無謀な、と思いかけたその時。私は星子さんが太郎を呼んだ意図に気がついた。

 人体パーツが元の位置へ巻き戻すように、急速に再構成される。太郎の内側に貼られた御札、言霊を寿(ことほ)ぐ神主。一瞬の硬直をした邪視を太郎が覆い、拘束する。

 

「え!?」

 

 桃がわけも分からず声を漏らす。

 そんな桃へ太郎は親指を立て、星子さんは肩へとバットを乗せ言った。

 

 

「ほかくした。帰るぞ」

 

 

 素晴らしい。私は脅威が瞬く間に封じられたことに、星子さんへの尊敬の念を深めると共に、興奮と喝采の感情で拍手を送った。

 そして最後の大仕事として、流れる熔岩と轟々と燃え盛る山火事の後始末に注力すべく。水を操るライムズ星人である私は、消火活動へ向けて気合いを入れ直すのであった。

 後片付けまでがんばるぞい!

 

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