私は宇宙人   作:蒲鉾三田

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ありまぁす!
そう、ライムズ星人ならね。


第二十四話 今からでも入れる保険があるんですか!?

 

「あ、腕取れた」

 

 ジジの腕を覆っていた太郎のパーツが、カツンと音を立てて床に落ちた。

 落ちた腕パーツに貼られたお札は真っ黒に焦げ、まだジジを覆っているパーツからも煙が上がっている。

 

 邪視を封印してから2日目。

 予後は既に怪しかったけど、思ったより爆速で耐性つけてきたな?

 

「いよいよだな。太郎、もう外れていいぞ。ごくろうさん」

 

「あ〜しんどかった〜」

「ありがとう太郎!! 助かったよ!」

 

 お札の様子を確認した星子さんが労えば、ジジから太郎のパーツが剥がれていく。

 神様に祈祷して得た力が万能じゃないのは分かっていたが、こうも簡単に抵抗力を付けられると後が怖い。

 

 しかし、真っ黒になったお札は耐性を付けられるまでの短期間とはいえ、()()邪視を完全に拘束していた。素晴らしい技術である。神様の力ってすげー!

 

 私は落ちてきた太郎の頭をキャッチして、床にいる太郎の体に放って返してやった。ちょ、何で投げ返してくるんだ!

 

「オレの頭で遊ぶな!」

『遊んでいるのはあなたです。バカな真似はやめなさい』

「仕方ねえだろ! オレの体に頭が足りてるように見えるか!?」

『頭を抱えさせないでください』

 

 私は星子さんや満次郎から、悪霊の対策として神社のことを少しずつ教えてもらっている。でもね、気づきました。惑星ライムズに祈祷の技術を流用させるのは、多分無理!

 なぜなら…惑星ライムズから地球まで、馬鹿みたいに遠いから!!

 

 星子さんですら神越市内でしか神様の力を借りられないのに、宇宙の彼方から地球の神様パワーを頼るのはどう考えても…ねぇ?

 つまり、神頼み以外の方法を探さねばならないのである。

 

 そう! 我々は霊に対するより多くの知識を集め、科学技術と融合させることで、新たな悪霊対策の技術開発をする必要があるのだ!!

 Whoo! 考えるだけでテンション上がるーっ!!

 

「こっちだこっち! そっちじゃねぇって!」

『動かないでください』

 

 無限キャッチボールを止めて直接頭をはめようとしたが、太郎ボディが変な方向に動くものだからやってられん。

 私が太郎の頭を投げれば、受け取ろうとして太郎ボディの動きが止まる。かかったなアホが! 私のゲル体は伸縮自在だ!

 Geeettttttt dunked on(ダンクシュートでくたばりな)!!!

 

「ジジ、こっからは補助は無しだ。今まで以上に水には気をつけろ、お湯で手とか洗えよ」

「うっス!」

 

 ジジが少しだけ不安の混じる、真剣な顔付きで応えた。

 

 お札の封印がなければ、ジジと邪視が入れ替われることさえ分からないまま、邪視によって誰かが重症を負い、あるいは殺されていたかもしれない。

 未知に対し、分析できる猶予が僅かでもあることが救いになると、私は識っている。

 

 儀式や祈祷のシステムは莫大なエネルギーが必要とはいえ、こうして機能している。

 様々な悪霊の性質や、霊に対する儀式のパターンを分析し、研究すれば、新たな技術開発のきっかけが見えてくるはずだ…! オラわくわくすっぞ!!

 

 太郎を体ごと畳にダンクし、清々したところで。玄関の扉が音を立てて開いた。

 

 

「ただいまー。みんな連れてきたよー」

 

 

 学校から帰ってきた桃が、玄関で声を上げる。

 後ろにはソワソワしているオカルンと、巨大なスーツケースを引く愛羅を連れていた。おかえらっしゃーい!

 

「おじゃましまーす」

「オカル〜ン、会いたかったよ〜!!」

「元気そうですね」

 

 太郎の拘束から解放されたジジは、人好きな犬のように爆速で玄関に駆けつけた。

 動けなかった分を発散するかのようにはっちゃけてるな。ストレスも溜まってただろうに、発散のさせ方が彼は上手い。

 

「アレ!? 太郎外れてんじゃん!!」

『太郎はここです』

「うお! 太郎大丈夫!?」

 

 太郎は畳の上でご臨終です…。やたら体の操作が利かなかったのも、儀式の浄化やら人間と悪霊の封印具やらにされたせいで疲労困憊なのだろう。

 可哀想な太郎…! ひとえに彼が便利すぎたせいだが。

 

 これから愛羅とオカルンには、邪視が暴走した時のために綾瀬家に泊まり込んでもらうことになっている。

 朝の時点で太郎の封印が危うかったのと、しばらく満次郎がいないからね。

 

 満次郎は星子さんの方で囃子の当てが外れたので、ツチノコ神社の方にある伝手を使って囃子を探してくれている。

 お泊まりがどのくらいの期間になるかは囃子の都合次第だ。あー楽しみ! 今の私の浮かれ具合は、サンタを待ちかまえる子供にだって負けないぞ!

 

「あー最悪。ホントやんなっちゃう」

 

『愛羅、気合いが入っていますね』

「ヒロ! 泊まりに来たわ!!」

 

 斜に構えていた愛羅ちゃんは、私を見るなりコロリと態度を変えた。

 友達の家に泊まりに来るには随分とオシャレなツバ広ハット&サングラスにコート装備だ。ハリウッドの女優さんみた〜い! いいね!

 

 猿夢の時もここに泊まったが成り行きだったし、呪いのせいでドタバタだった。邪視がジジの中で封じ込められている分、彼女たちが楽しむ余裕もあるだろう。

 

「アイラちゅわ〜ん!! あいかわらずカワイ〜ね〜」

「ありがとー荷物運んでー」

 

『愛羅、よくお似合いですよ』

「うふ、ありがと!」

「あれれぇ〜??」

 

 ごらん、この記憶を視るだろう同胞たち。これが人間関係における好感度の違いだよ。

 

 愛羅は私の見た目が好きだが、イケメンなジジに興味は無いらしい。まあ愛羅はオカルンの気を引こうとしてるし、ジジは桃が好きだからな。

 もうね、視てるこっちが恥ずかしくなる。青いぞ少年…!

 

「どいつもこいつも、水筒持て。ジジが変身したらすぐお湯かけろ」

 

 愛羅と繋いだ手を上機嫌に揺らされつつ居間に戻り、星子さんが配る水筒を受け取った。

 太郎が外れた時点から、いつ邪視が暴れてもおかしくない。ここからが正念場だ。

 

「すぐ飯にするから机出しとけ」

 

 

 

「いただきまーす!」

 

 いつもは広い綾瀬家の食卓も、6人分の食器と、もんじゃを焼く為のホットプレートが並べばぎゅうぎゅう詰めだ。

 子供たちは狭いのも楽しいようで気にしてなさそうだが、お給料が入ったら星子さんと家具屋を見に行くのもありかもな〜。

 

 綾瀬家はもんじゃ焼きをおかずに白米を食べるスタイル。焼きそばに白米もいいぞ。炭水化物の倍プッシュだ!

 

「具のとこ狙ってよそえ水饅頭」

『この部位ですか』

「ちょ、真ん中多めに取んなし!」

「早い者勝ちだボケが」

「いっぱいあるから喧嘩すんなお前ぇら」

 

 手足の短い招き猫姿のターボババアのために、指さされた箇所のもんじゃ焼きを取り分ける。

 この小さな器のどこにそんなに入っていくのか不思議で仕方がない。霊体の入った器って消化効率が抜群なの?

 

「おいメガネ、醤油くれ」

「あ、ハイ」

 

 オカルンがターボババアが使っていた醤油さしを、星子さんへ手渡そうとしたその時。

 

 

 注ぎ口から垂れた1滴の醤油が、ジジの右手に着弾した。

 

 

 次の瞬間。

 優雅なクラシック*1でも流れそうな、あまりにも芸術的なちゃぶ台返しが、夕飯諸共、食卓についた全員を吹き飛ばす。

 ライムズ星人の高い認知機能により思考速度が加速して、その光景がスローモーションで視えた。

 

 私の反転する体を他所に、全てを捉え続ける視界がジジが邪視になったことを確認する。

 霊力で衣服が弾け飛ぶ。恵まれた肉体を惜しげも無く曝け出し、ブリーフ1枚になった邪視が暴力的な殺意を漲らせた。ひぇ!

 

Warning( 警告 )

 

「邪視を、止めろぉおお!!」

 

 焦りのまま警告の念話を即座に飛ばせば、事態を察した桃の怒号が響き渡った。

 

 隣にいたせいで真っ先に邪視に掴まれ、殴りかかられたオカルンが襖を巻き込んで倒れる。

 星子さんは壁に立てかけられたバットを取りに走り、愛羅が変身し、私は床に転がる水筒を引っ掴む。

 

 桃の超能力が邪視の手を掴む。しかし邪視は掴まれた腕を軸に、接近する愛羅の面とオカルンの腹に強力な蹴りを入れた。

 机にヒビが走り、TVが粉々に砕け、畳がへこみ抉れていく。余波でターボババアが吹き飛んだ。

 

 私は桃の後ろに隠れながら家の被害に慄いた。

 邪視の容赦ない一挙一動が綾瀬家の内装を劇的リフォームしていきやがる! なんということでしょう!!

 

「はああっ!!」

 

 愛羅が邪視を押さえようと接近し、アクロバティックに攻防する。

 オカルンも邪視を鎮圧しようと近づいて、愛羅と邪視の素早い応酬についていけず、踏み込みのテンポがズレた。

 

 オカルンが顎を邪視に蹴り飛ばされ、障子戸を突き破って廊下に吹き飛んでいく。

 

「ぐはっ!」

「お湯かけろお湯ぅ!!」

「熱っ! ──きゃあ!!」

 

 桃がぶちまけたお湯が、邪視と接近し攻防する愛羅にかかる。

 お湯の不意打ちに硬直した愛羅を邪視が殴りつけ、星子さんが愛羅に迫る邪視の足をバットで凌いだ。

 

「ちょっと! 私にかけないでちょうだい!」

「は!? そこいたら普通かかるだろがい! 前に出すぎなんだよ!」

「リーダーが前に出なきゃ意味がないでしょう!!」

 

「いいからテメェらお湯かけろや!」

 

 喧嘩なんぞやっとる場合かーッ! 猿夢の時はあんなに連携できてたのに!

 いや、あれはひと塊になって移動しつつ、複数の敵がいたから狙いがバラバラでも連携できてるように見えただけだ。敵が単体になったせいでボロが出てるのか!

 

 星子さんが邪視の蹴りをバットで受け止め、押しやられて距離を取られた。

 

『私が行きます。邪視の動きを止めてください』

「っしゃ!」

 

 私は念話を送り、邪視の死角になるよう隠れていた桃の背から飛び出した。オラオラ行くぜオラ!

 

 お湯を持つ私に、邪視の意識と拳が向いた瞬間。

 愛羅の髪と、桃の超能力が邪視の腕を捉える。

 それらを邪視が振りほどく前に、星子さんが脛にバットを入れようとして跳ばれ、躱された。

 

 しかし動きは止まった!

 

 私は空中に跳んだ邪視へ、慣性と流動を使い擬態した腕の部位を存分にしならせる。

 思い知れ! 湯呑みマッスルアターック!!!

 

 水筒のコップがぶつかりお湯がかかれば、たちまち邪視の鬼の形相が消える。

 そうして正気に戻ったジジが膝で着地して(痛そうな音がした)ポカンとした表情で私を見上げた。

 やあ! このお湯はサービスだから、まず飲んで落ち着いてほしい。

 

 戦闘の緊張から解放され、息を整える全員が沈黙する中で──ターボババアが真っ先にジジへズカズカと寄って行って、文句と唾を飛ばした。

 

「このクソダラァ! ワシの飯をどうしてくれんだボケ!」

 

「…はぁ、もう、ビックリした! せっかくの食事が台無しじゃない!」

「うぇっ、ゴメン! オレなんかやっちゃった!? てかオレ裸じゃん!? Sexy ソーリー!」

『その場から動いてはいけませんよ』

 

 ターボババアに脛を蹴られるジジが、ゴメンねポーズで酷いことになった周りを見渡す。

 

「ジブンがジジさんに醤油垂らしたっぽいです…」

「オカルン大丈夫!?」

「大丈夫です…壁とか襖とか壊しちゃってすみません」

「いいって! 暴れたの邪視だし」

「みんなゴメーン!」

 

 桃が顎を抑えるオカルンに駆け寄り、ジジが頭の上で手のひらを合わせ謝った。

 畳にひっくり返った飲水のせいで居間はジジにとってのトラップ地帯と化している。あとジジも濡れたままだ、取り除いてやらねば。

 

『ジジ、冷える前に水分を除去しましょう。露出度も下げましょうか』

「わ、ありがとヒロちゃん」

 

「常温の水でも駄目か」

 

 星子さんが畳に落ちたホットプレートの電源を落としながら、同じく畳に転がった醤油さしを見やる。

 

 醤油がたった1滴手に落ちただけでこれだ。囃子が来るまで何度邪視が出てくることやら。

 こんな狭い部屋で何度も暴れられたら綾瀬家が倒壊してしまう。

 

 私は畳の水を1箇所に固めつつ濡れたジジに触れ、水分を念で取ってやる。人前でパンイチは可哀想だし、チャチャッと隠してやろう。

 

 

 ──この時、私は失敗した。

 

 

 ジジの体に触れた擬態の手を変形させたその瞬間。

 

 私はゲル体を()()にして触れさせてしまった事と。目の前で私を見下ろす()()から逃れられない事を悟った。やっっべ。

 

 全員の気が抜けたタイミングで、私は邪視を解き放ってしまったのである。ガッデム!!

 固形のゲル体も動かしたら液体じゃん!?

 

『みな───』

 

 念話の途中で私の右半身が抉れ、腕が飛ぶ。

 運悪くコアを掠めた拳の一撃に擬態がバシャリと音を立てて解けた。いったぁい!!! 死ぬぅ!!

 

 愛羅が動揺し体を強ばらせる。星子さんが僅かに目を見開き、肩に乗せたバットを浮かせた。

 飛ばした念話に振り返る桃と、廊下の壁から起き上がる途中だったオカルンが視えた。

 邪視の足元でターボババアがギョッと目を剥く。

 

 邪視が浮遊する私に狙いを定め足を振り上げる、どうしようもない光景が視えた。

 

 やめて! 私に乱暴する気でしょ!? サッカーボールみたいに! サッカーボールみたいに!!

 出だしが見えてても回避できなきゃ意味ないんですよ!

 

 やらかしたぁ! 落ち着いた後にこれは戦犯過ぎるだろ!!

 次の私はもっと上手くやってくれるでしょう。Stay(油断) Alert!(大敵!)

 

 

 

 □

 

 

 

 バシャリとお湯がかかった感覚で、ジジはハッと目の前に焦点を合わせた。

 

 邪視に体を乗っ取られている間の記憶がないジジにとって、過程が切り取られた光景に混乱するのは当然だ。

 それでも、動揺を隠せなかったのは彼にとって初めてのことだった。

 

「ねえ嘘でしょ! しっかりして!!」

 

 途切れていた感覚を取り戻した直後、耳に飛び込む悲痛な声にジジは面食らう。

 愛羅が膝をつき、必死に呼びかけるそこには誰もいない。それがジジの心をザワつかせる。

 

「ヤバイですよ、コアが動いてません!」

「こいつマジで脆すぎだろ! 水風船かよ!」

 

 愛羅たちが取り囲む畳の上には、人が突然消えたかのように畳に落ちた服と、壁に飛び散った半透明の液が床へどろりと流れていた。

 液の上にはくすんだ青色が点々と混じっている。

 

「だから言っただろうが。邪視なんぞテメェらの手に負えるもんじゃねえ」

 

 ターボババアがそう吐き捨てた。

 

 落ちた見覚えのある衣服に、ここにいない小さな子供。

 愛羅が呼びかけ、オカルンが手のひらにかき集めようとするその液体がヒロだったものだと気づいた瞬間──ジジの背は凍りついた。

 

「ヒロちゃん…!? そんな…」

 

「おい仁、触るな! 邪視になるぞ」

 

 思わず足を踏み出しかけたジジを、星子が止める。

 無惨に踏み荒らされた残飯と、物の壊れた居間の中。ジジは中途半端に伸ばした手を力なく下ろし、ただそこに立ち竦むことしかできなかった。

 

「あいつミミズ食って増えてなかったか!? そいつらどこ行ったし!」

「とにかく、ヒロの体を1箇所に集めておきましょ! 放っておいたら消えちゃうって言ってたもの!」

 

 呆然とするジジを置いて状況は動く。足元に落ちた服とジジだけが、現状から取り残されていく。

 

「オレ、ヒロちゃんを…」

「大丈夫だって! ジジのせいじゃないから!」

 

 桃が励ますも、ジジは体が重く、動けなくなっていく錯覚に囚われる。

 

 彼の精神は強い。

 両親が自殺しかけ、入院しても。

 どうにか頼った霊媒師が自殺してしまっても。

 鬼頭家に圧をかけられ、居場所がなくても。

 悪霊のせいで魘され、眠れなくなっても。

 ジジはそこから離れて、桃たちと一緒にいられて楽しかった。

 

 けれども。自分の手で抱き上げたこともあるヒロを、自分の手で殺した事実が彼の精神を揺らがせる。

 誰とも遊べぬまま死んだ邪視のことが可哀想で。でもジジが邪視を受け入れたからこそ──死んでしまったヒロは。

 

「白鳥さん、これ使いましょう!」

「そうね! モモ、超能力でも何でも使ってとにかく集めるのよ!」

「分かってらい!」

 

 ジジの様子を気にかけながらも、桃は愛羅の指示を受け手伝いに行った。

 桃たちが慌ただしく動く中、立ちつくすジジに星子は「ジジ」と声をかける。

 

「ワシは飯を作ってくる。着替えたら食事の準備ができるよう、居間を片付けといてくれ」

 

「足元に気をつけろよ、お前ぇ今裸足だからな」

 

 気遣う言葉を添える星子へ顔を上げたジジに、星子はいつもの落ち着いた表情でタバコを咥え、火をつけた。

 

「大丈夫だ、ヒロならちゃんと帰ってくる」

 

 ジジは星子の背を見つめ、その信じがたい言葉を反芻した。…本当に?

*1
G線上のアリアとかね





<おまけページ>


「ヒロのやつ満次郎にベッタリじゃん。婆ちゃんより満次郎に懐いてんじゃね?」
「何っ!?」

 桃に何となしに振られた会話に、星子はのんべんだらりと畳に転がった体勢でショックを受ける。
 しかしすぐ冷静さを取り戻し、畳にあぐらでどっかりと座り込んだ。

「いや、懐いてはないだろ。見てろ」

「ヒロ、満次郎よりワシのが知ってんぞ」
『ご教授いただけるのですか』
「あ、(きったね)ぇ」
「ちょっと師匠、話の邪魔をしないでください!」

 チチチ、と猫の注意を引くように星子が呼べば、満次郎に向いていたヒロがくるりとこちらを向く。それに対して満次郎は星子に苦言を呈した。

「師匠が適当に教えるから私に聞きに来るんでしょう!!」
『はい、その通りです』
「じゃあ懐いてねーってことだ」

 地味にディスられながらも、星子は満次郎に混ぜっ返す。ヒロは首を傾げて満次郎を見上げた。

『懐くとは感情的な親しみのことです。満次郎はたくさん教授して下さいます。懐くとは少々異なるのでは』
「ほれみろ」
「いーや! 師匠より信頼して聞きに来ますから! ヒロさんは私を頼ってる、つまり懐いてます!」

 それを聞いたヒロは口を開けたまま固まり、しばらくして頷いた。

『…確かに』

『私は満次郎に懐いています』
「っしゃ!」
「くっ…!」

「丸め込まれてねーかこいつ」

 桃は半目になった。


『星子様のことは、素晴らしい方だと尊敬しておりますよ』
「ヒロ、饅頭食うか?」
『いただきます』
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