私は宇宙人   作:蒲鉾三田

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第三話 悪い宇宙人じゃないじゃんよ

 

 授業中、クラスメイトや教師がなんの前触れもなく目の前で消えた。

 催眠術だとか、超スピードだとか、そんなチャチなものじゃない。明らかな異常だった。

 教室や廊下の床はなぜか水浸しで暗く。窓のすぐ外は壁で塞がれ、出られない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一瞬で起こった理解を超えた現象。

 超常の力が働く、人間では起こせない非日常。

 この階に1人孤立した綾瀬(あやせ) (もも)は、この光景にデジャブを感じていた。

 

 というのもつい先日、彼女の家は謎の()()()()()に襲撃されたばかりだ。敷地が謎壁に覆われ閉じ込められたことをそりゃもうよく覚えていた。

 どうせこういうのは全部宇宙人のせいに決まってる。あのクソ共、性懲りもなさすぎだろ!

 

 そして案の定。

 桃に話しかけてきたのは、姿の見えない宇宙人だった。

 

『こんにちは。私は悪い宇宙人ではありません』

「じゃあ閉じ込めてんじゃねーよ!! しかもなんだこの水!」

 

 桃は眉を吊り上げ、水浸しの廊下を忌々しげに蹴飛ばす。

 頭に響くテレパシーは一本調子で気味が悪い。

 ウチを閉じ込めたのは絶対こいつだ。ここは少々危険だぁ? ここを危険にしてんのはテメエだろ、ふざけんな。

 既に水位は上履きを超えてくるぶしにまで来ている。このまま水が増えれば間違いなく溺れ死にだ。毒攻めの次は水攻めかよ!

 

 ──オカルンがいてくれたら。

 そう考えて、桃は思い切り顔を顰めた。

 

 ギャルな桃とオタクなオカルン。

 2人は違う道を行く、交わらない人間のはずだった。

 互い違いな2人を結ぶ共通点。この2人でしか出来ない秘密の話。

 

 それは宇宙人と幽霊が実在するという、嘘みたいなホントの話だ。

 

 すったもんだで宇宙人と悪霊に襲われ、オカルンは体の一部を盗られ。桃とオカルンはようやく()()()を1つ取り戻したところだった。

 残るはあと1つ。オカルンの大事な()を探すため、ここ最近は友達に彼ピだなんて言われるくらい一緒にいた。オカルンは彼氏じゃねえっつーの!

 

 ま、オタクで鈍臭いけど、なんだかんだ良い奴──だと、思ってたのに。

 

 今日のオカルンは変だった。

 朝一から昼も放課後も誘ったのに、レポートがあるとかしどろもどろに嘘言って。ウチといるのがなんか、メーワクみたいに断ってくる。

 この時点で怪しいと思ってたんだ。

 

 そしたらレポートしてるはずのオカルンが女とよろしくしてやがった。

 はーっ! そうですか! 女ですか! しかもよりにもよってウチを()()だと思い込む、頭の沸いたクソ女──白鳥(しらとり)愛羅(あいら)と!!

 

 偶然見てしまったのだ。

 オカルンが昼休み、中庭でクソ女を押し倒してる決定的なとこを。…思い出したらハラ立ってきた。

 あのクソ女と一緒にいたくて? 嘘までついて? ウチを遠ざけたってわけ。こっちはあいつの玉のこと心配してんのに、それよりオカルンはあんな、クソ女とイチャつきたいとか、はぁ!? そんな奴とは思わなかった。ゲンメツだゲンメツ。くそだらぁが。

 

 桃はオカルンへの苛立ちと、失望と…なんかモヤモヤする感情とで絶賛やさぐれ中だった。

 そこに畳み掛ける宇宙人襲来だ。イカレてんのか。

 

『私はあなたに危害を加えるつもりはありません。お話をしましょう』

「知るか! こちとら授業中だわい! TPO弁えねぇ宇宙人と話なんかするか!!」

 

 声だけ星人は桃のイラつきもお構いなしで、しつこく要求を繰り返す。

 

 宇宙人共は人間と価値観がズレているのか、話がどうもトンチンカンだ。

 危害を加えるつもりがないなら学校で人様に迷惑かけてんじゃねーよ!

 

『誤解をしています、まずはお話を。忠告しますがお静かに。それがあなたの為になります』

「うっせえ! アポとれアポ!! 襲ってくるならブッ倒すまでだぜ!」

 

 桃は両手を前に突き出し、丹田に力を込めた。

 彼女の体から氣が高まり溢れれば、それは巨大な見えざる手となり彼女の両端に浮かび上がる。

 セルポ星人に攫われ “超能力者” として覚醒した彼女は、念動力の手を浮かばせ臨戦態勢に入った。

 

 ()()()()()と言う事は、()()()()()()()()()()()という事だ。野郎がプッツンして攻撃してくりゃ居場所も割れるはず。

 それに、声を出し続けていれば──オカルンが助けに来てくれる、かも。

 

「そうだ! 見えないなら」

 

 桃はおもむろに目を閉じた。

 超能力者である桃の目には人や物、万物全てに(オーラ)が宿っているのが見える。彼女はその(オーラ)を壁越しでも感知できるようになったばかりだ。

 宇宙人にも(オーラ)が見えるなら、隠れてる腰抜けクソ野郎がどこにいるかも分かるはず───!

 

 

 ───バシャ バシャ バシャ バシャ

 

 

「って、騒がしいのはお前じゃねーか!!」

 

 後ろからガッツリ近づいてくる水音が聞こえ、桃は思わず振り返った。

 勢いよく振り向いた桃の視界に異形のシルエットが映る。

 

「恐竜! 謎ボイスの正体はテメェか!!」

 

 首の長い恐竜がグッと頭を持ち上げた。

 

『いいえ。違います』

 

「いや違うんかい!! 恥ずかしいだろが紛らわしい! じゃあ何だよアレは!」

『あなたを狙う敵ですね』

「テメェは何だよ!」

『あなたとお話がしたい宇宙人です』

 

 …あれ、聞けば答えるなコイツ?

 桃は律儀に答える宇宙人に面食らい、そして考えた。こんだけ何度も言ってくるんだ、この宇宙人は()()ウチと喋りたい理由(ワケ)がある…!

 

 不意に、恐竜の体に現れた()()が煌々と(オーラ)の光を漏らす。

 水面に項垂れた恐竜が口を大きく開け、水をジャバジャバ吐き始めた。あいつ、何する気だ?

 桃は恐竜を見据えながら、姿の見えない宇宙人に急ぎ交渉を仕掛けた。

 

「謎ボイス! アレはテメェの仲間か!?」

『いいえ』

 

「じゃあアイツ倒せ! そしたら喋ってやるからよ!」

『いいえ。あなたが我々に有用か確かめてからです』

「クソだらあ! 宇宙人と話したウチがバカだった!」

 

 桃は怒りのまま吠えた。

 宇宙人って奴らはどいつもこいつも! 人に物を頼む態度かそれが!! ダメだこいつ、融通が効か───。

 

「───なっ!?」

 

 高密度に圧縮された水が一直線に放たれる。

 砲身たる首が動けば、細い水流は凄まじい威力で校舎を横一文字に切断した。高圧縮された水がコンクリートを意図も容易く切り裂き吹き飛ばす。

 そして轟音と共に、全てはガラクタの山に変わった。

 

 ()()を閉じた首長竜は、その爬虫類じみた眼で辺りをギョロリと見回す。

 静かになった廊下に動くものは何もない。

 水深の浅い廊下で重い体を持て余しながら、怪物は次の標的を求めゆっくりと去っていった。

 

 

 

『お静かに、の意味をご理解頂けましたか』

「ごほっ! …うわ、校舎エグッ! あのビームやば過ぎだろ」

 

 桃の口を塞いでいた “ゼリー状の何か” が退く。途端に鼻に水が入り、慌てて浅い水中から彼女は跳ね起きた。

 桃を隠すように覆い被さっていた瓦礫が、溶けるようにパシャリと水に消えていく。

 ぐしょ濡れの袖で顔を拭い辺りを見渡せば、校内はまるで世紀末の様な有り様だった。

 

『私は悪い宇宙人ではありません』

 

 繰り返される言葉に、桃は眉を寄せる。

 姿を見せない怪しさは拭えないが、どうやらこいつの言うことに嘘はなかったらしい。

 

『お話をしてもよろしいでしょうか』

「…分かったよ、話すならさっさと話せっての。ウチはオカルン探したいし…も〜! オカルンはどこいるんだよ…!!」

 

 イマイチ信用しきれずおざなりに話を振った彼女は、オカルンの教室に行こうと足を踏み出し。

 

『とある玉の事で、我々は困っております』

「えっ、玉!?」

 

 切り出された話に、即座に食いついた。

 

 玉と来れば、オカルンの玉だ。

 妖怪、ターボババアに盗られたオカルンの()()()。片方は愛羅が拾い、もう片方は行方不明だった。

 桃は期待を膨らませる。ツイてるぜ。もしかしてだけど、それってオカルンの金玉なんじゃないの!

 

『怪異や悪霊などを祓う人物に心当たりはございませんか』

「ウチのお婆ちゃんがそうだけど。でも何で?」

『それは信頼のできる方ですか』

「聞けよ。できるよ、婆ちゃん霊媒師だし。ターボババアだってウチらでやっつけたし」

 

 しばらく謎の声が止んだ。

 綾瀬家は神社で、お婆ちゃんは本物の霊媒師だ。テレビにだって出てるし、ターボババアも封印できる。桃の自慢のお婆ちゃんだった。

 

 それにしても。

 水をザブザブ蹴り出し進むも、あるのは壊れた教室に辺り一面の水ばかり。

 ビームを受けそうになった時、急に足元の水に転ばされて沈められたけど。話しかけてくる宇宙人がどこにいるのか、てんで分からないままだ。

 

『都市伝説を倒したと』

「そーだよ、ウチら “アクさら” …って言っても分かんないか。悪霊だって倒してんだ、舐めんじゃねーぜ」

 

 こいつ、ちっとも出てこないな。

 どんな形の宇宙人なんだ? 透明だからカメレオン? それともイカとか、タコ星人? 透明な宇宙人でもパンツって履いてんのかな。

 

『では、我々に憑いた呪いは解くことが可能ですか』

 

 恐竜のいた方向とは反対の階段を目指し移動していた桃は、訝しげに眉を上げた。

 

「呪い? 宇宙人に?」

『可能ですか』

「いや、分かんないけど。婆ちゃんに見せたら何とかなるんじゃね? オカルンが呪われた時も、婆ちゃんが何とかしてくれたし」

 

『素晴らしい』

「うわ!」

 

 桃の足元の水が不意にバシャリと浮かび上がり、巻き上がって形を作る。

 それは触角を2本生やし、デフォルメされた幽霊の手のようなヒレがあって、足はない。半透明の体の中には、砂時計のようにくびれた青い物体があった。

 

「クリオネ!?」

 

 人の顔ほどあるクリオネが宙をふんわり泳ぎ、桃の前で静止する。

 

『こんにちは。ライムズ星人と申します。あなたを守護します』

「は?」

 

 

 

 □

 

 

 

 戦闘に巻き込まれぬよう戦いを観戦していたが…どうやらフィナーレは近いらしい。

 ()()()が彼らを捉えた。

 セルポ星人3人分の念力で床に叩きつけられ、地面に突っ伏した子供たちが苦痛に呻く。

 

「これは我々3人の念力を合わせることでできる “すごいゾーン” 」

「その中では変身はおろか、立ち上がることさえできないでしょう」

 

 この地球では、人は稀に変身するらしい。

 男女共に骸骨じみた仮面と風貌の変化を確認した。高倉の発言によればあの力は “呪い” なのだという。

 戦闘前に完封された高倉は、確かに脅威として警戒される力があるのだろう。

 

「しかしこれには1つ欠点がありまして」

「我々もその中には入れません。なので」

「彼にあなた方が動けなくなるまで、ボコボコにしてもらいましょう」

 

 ──が、彼を助けるメリットはない。

 ギグワーカーがゾーンに足を踏み入れる。

 

 セルポ星人に確保されたということは、我々でも制圧できる力でしかないということ。

 セルポ星人がわざわざ我々を雇いたいと言うので期待したが、我々抜きの戦力でこの結果ときた。彼らが過度に警戒したか、我々の研究欲を刺激し此方から協力を申し出るよう仕向けたか。

 

 セルポ星人の言う高倉の “科学技術を上回るすばらしい能力” とやらは、確かに好奇心をそそられる。

 だが今は研究できる未知よりも、卓越した技術者が欲しいのだ。

 

 人口密集地に虚空を開き、スピリチュアルの高い者を探すか。()()()()()()()後は我々の領分だ。高倉たちは呪いに関連した人物だったが、彼らはセルポ星人の獲物。なら他で異能者を探し、呪いの扱いに詳しい人物を────。

 

 私の関心は既に()をどうするかにシフトしていた。

 思考を巡らせる私には、雇われ(ギグワーカー)の戦闘種族が少年の頭に拳を振り下ろし続ける鈍い音も、少女の懇願の声も、遠くのブザービートでしかない。

 

 だから視逃した。

 

 校舎が揺れるほどの衝撃に、警報器として天井に張り付いていた私は慌てて意識を戻す。

 なんだ!? 何が起きた!?

 

 なぜ高倉がゾーンを抜け出している?

 どうしてあの一瞬で、宇宙でも屈指の戦闘種族、@#/&が倒れている!?

 

「バカな!! すごいゾーンを突破した!?」

「いや違う!! 我々の念力が()()かに()()()()()()()()!?」

 

 バシャリ、と水の跳ねる音がして。

 私は遅れて気がついた。

 

 

 ──あなたも能力者!?

 

 ──予定外ですが、ついでにあなたの性器(バナナ)もいただきましょうか。

 

 

 白鳥(しらとり) 愛羅(あいら)が本来、セルポ星人のターゲットではなかったことに。

 濡れぼそった茶髪が水を滴らせ、緑色をした耳飾りが煌めく。

 

「その(つら)、絶対に忘れねェ!!」

 

 そこには、両手を前に突き出し強力な念を迸らせる女子生徒が立っていた。

 

 そうか! てっきり高倉が本命だと思っていたが、さては彼女が本命だな!? セルポ星人3人分の念力を圧し返すとは、何て強い念の力!!

 セルポ連中が高倉に「やっと会えたね」だの「あなたの性器(バナナ)が欲しくて来た」だの言うせいですっかり勘違いしたわ! あいつらマジでそういうとこだぞ!!

 

 ところで。

 彼女の肩に、分体の私が()()()()()…堂々と乗っているね?

 ま、まさか、最初っから外れどころか大当たりを引いたんじゃ…!?

 

『彼女のお祖母様は霊媒師です。都市伝説の呪いを祓った実績をこの “綾瀬 桃” から聴きました』

『素晴らしい』

 

 SPOT ON(大正解)(エアホーン)

 そのお祖母様が実力者でなくともその筋の人脈はあるはずだ! 情報が…得られるぞぉ!!

 よっしゃー!! セルポ星人には悪いが彼女、綾瀬 桃こそ我々の生存の要! この子らは私たちが守っちゃうよ〜ん!

 

 桃のサポートでゾーンから開放された2人が変身し、戦況はひっくり返る。

 桃の肩を持つ分体に、セルポ星人が非難を浴びせかけた。

 

「ライムズのヒト! あなたが何故女のヒトと一緒にいるのですか!」

「我々がお誘いしたのを断ったのに!!」

「まさかあなたも彼らの能力を狙っていたのですか!」

『申し訳ありません、セルポの方々。あなた方とは友好的でありたかった』

 

 分体が念ですまなさそうな感情を送っている。獲物の横取り、マジでごめんね〜。

 でも我々もね、種の存続かかってるんで。強さ賢さ、何かしら優れた方が生存競争に勝つのだ。

 我々はか弱いのでズル賢くいきます。すまそ!

 

「知り合いかよ、おい。今さら敵に回るとかナシにだかんな!」

『はい。我々はあなた方を守護します』

「それでよし!」

 

「綾瀬 モモに使い魔が! かわいい、ズルい! 私にも寄越しなさい!」

「モモちゃん、クリオネが肩についてるぜえ」

「下僕にした!」

『こんにちは。私は悪い宇宙人ではありません』

 

 分体はコンパクトに体を凝縮させ、桃の肩に乗っている。確かに使い魔っぽい。

 人に擬態できるよう、我々はゲル体をできる限り持ってきたので本来もう少し大きいのだが。ハロー効果*1は視覚重視の地球人に絶大な効果を持つ。

 

 人サイズの宇宙人より、顔サイズの方が御しやすそうに見えるじゃろ?

 檻の虎より膝の猫、クリーチャーよりクリオネだ。可愛さは無条件に相手の信頼を得やすいのがGood Point。

 

「なにこれ、声が頭の中に…!?」

「宇宙人を従えるモモちゃん、流石だぜえ」

 

 やあ! 君たちに貸しを作る従順な宇宙人だよ!

 Nice to meet you(初めまして、よろしくね)

*1
人相や身なり、学歴など。一部の強い特徴から実力や性格を鑑みず、第一印象に引き摺られた評価を抱く心理現象。





◎ライムズtips

念臭:感情を臭いとして感知する力。敵意や殺気などの危険察知に使われる他、言葉に宿る(おも)いから話の真偽を嗅ぎ取る。
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