私は宇宙人   作:蒲鉾三田

30 / 32

ありまぁす!
そう、ライムズ星人ならね。


第二十四話 今からでも入れる保険があるんですか!?

 

 邪視を封印してから2日目。

 

「あ、腕取れた」

 

 腕を覆っていた太郎のパーツが、カツンと音を立て床に落ちた。

 落ちたパーツに貼られたお札は真っ黒に焦げ、まだジジを覆っているパーツからも煙が上がっている。

 

 予後は怪しかったが、思ったより爆速で耐性をつけてきたな?

 

「いよいよだな。太郎、もう外れていいぞ。ごくろうさん」

 

「あ〜、しんどかった〜」

「ありがとう、太郎!! 助かったよ!」

 

 お札の様子を確認した星子さんが労えば、ジジから太郎のパーツが剥がれていく。

 内側の封印札は全て黒く煤け、もう役目を果たしそうにない。

 しかし短期間とはいえ、あ(・)の(・)邪視を完全に拘束していた札だ。たった2日、されど2日。素晴らしい技術である。

 

 私はてんてんと落ちてきた太郎の頭をキャッチして、床にいる太郎の体に返してやった。

 ちょっ、何で投げ返してくるんだ!

 

「おい、オレの頭で遊ぶな!」

『遊んでいるのはあなたです。バカな真似はやめなさい』

「仕方ねえだろ! オレの体に頭が足りてるように見えるか!?」

『頭を抱えさせないでください』

 

 ドタドタと太郎の足音が響く。

 

 この2日間で、私は星子さんや満次郎から神社のことを少しずつ教えてもらっている。

 そうして早々に結論づけた。惑星ライムズに祈祷技術を流用させるのは無理です!

 

 星子さんですら神越市内でしか神様の力を借りられないのに、宇宙の彼方から地球の神様パワーを頼るのはどう考えても…ねぇ?

 我々が正規の手順を踏み、願ったところで地球までは届かない。

 

 それに祈祷というのは「こうして下さい」というプロンプト(指示書)を神様へ伝達する技術のことで、我々が欲しいのはプロセス( 過程 )の方。神業をポンとお出しされても「なるほど、わからん」なのである。

 しかし神社が積み上げてきた歴史は神頼みだけでなく、異星人が無礼を働き怒りを買うのは──何も悪霊だけじゃない。

 私はそう確信していた。

 

「こっちだこっち! そっちじゃねぇって!」

『動かないでください』

 

 無限キャッチボールを止め直接頭をはめようとしたが、太郎ボディが私を前にカバディを始める。ええい、大人しくしろ!!

 

 私が太郎の頭を投げれば、受け取ろうとして太郎ボディの動きが止まった。

 かかったなアホが! 私のゲル体は伸縮自在だ!

 頭に添えた手が伸びる。伸ばした腕が頭をそのままゴールに捩じ込んだ。

 

 Geeettttttt dunked on!!!(ダンクシュートでくたばりな!!!)

 

「ジジ、こっからは補助は無しだ。今まで以上に水には気をつけろ、お湯で手とか洗えよ」

「うっス!」

 

 私たちの勝敗が決する横で、ジジが少しだけ不安の混じる顔付きで応えた。

 

 そのタイミングで、玄関の扉が音を立てて開く。

 

「ただいまー。みんな連れてきたよー」

 

 学校から帰ってきた桃は、後ろにソワソワしているオカルンと巨大なスーツケースを引く愛羅を連れていた。

 

「おじゃましまーす」

「オカル〜ン、会いたかったよ〜!!」

「元気そうですね」

 

 太郎の拘束から解放されたジジは全身で喜びを表しながら玄関に駆けつける。

 

「アレ!? 太郎外れてんじゃん!!」

『太郎はここです』

「うお! 太郎、大丈夫!?」

 

 太郎は畳の上でご臨終です。

 私のダンク如きではダメージなんぞ微々たるものだ。体の操作もままならぬようだったし、元から限界だったんだろう。

 可哀想な太郎…! ひとえに彼が便利すぎたせいだが。

 

 で、その便利な封印が使えなくなったということは、ジジがうっかり水を浴びようものなら邪視がここで暴れるという事。

 そのため愛羅とオカルンには邪視が暴走した時のために、綾瀬家に泊まり込んでもらうことになった。

 朝の時点で太郎の封印が危うかったのと、しばらく満次郎がいないからだ。

 

 星子さん側の宛が外れた為、満次郎はツチノコ神社の方にある伝手を使って囃子を探してくれている。

 お泊まりがどのくらいの期間になるかは囃子の都合次第というワケ。

 

 神社の霊媒師よりも更に強力な除霊を扱う囃子。

 彼らが来るのが待ち遠しく、私はうきうき浮かれぽんちになっていた。

 

「あー、最悪。ホントやんなっちゃう」

 

『愛羅、気合いが入っていますね』

「ヒロ! 泊まりに来たわ!!」

 

 斜に構えていた愛羅ちゃんは、私を見るなりコロリと態度を変えた。

 つば広ハットにサングラス、ハンドバッグに高そうなコートと友人の家に泊まるにしては随分洒落た装備だが、恐らく彼女なりの戦闘服だろう。

 この招集は強制ではなく任意の為、やる気満々というわけだ。いいね!

 

「アイラちゅわ〜ん!! あいかわらずカワイ〜ね〜」

「ありがとー、荷物運んでー」

 

 猿夢の際もここに泊まったが、呪いのせいで短期決戦のドタバタだった。今度は囃子が来るまでの耐久戦になる。

 戦場にするには狭い家だが…どうなることやら。せっかく能力者が揃っている事だし、彼らの能力分析をしたいところだ。

 

 私は愛羅の脱いだコートを持った。

 

『愛羅、よくお似合いですよ』

「うふ、ありがと!」

「あれれぇ〜??」

 

 ごらん、同胞たち。これが人間関係における好感度の違いだよ。

 

 愛羅は私の見た目が好きだが、イケメンであるジジには興味が無いらしい。

 まあ愛羅はオカルンの気を引こうとしてるし、ジジは桃が好きだからな。

 そう、ジジは桃が好きなのだ。そしてオカルンも桃が好き。ラブコメの波動を感じる…! 青いぞ、少年たち…!!

 

 繋いだ手を上機嫌に揺らされつつ愛羅と居間に戻る。

 

「どいつもこいつも、水筒持て。ジジが変身したらすぐお湯かけろ」

 

 星子さんは新調した魔法瓶を振り、全員に配った。

 私は重たい水筒を持ちながら、邪視がポップした際の立ち回りを脳内シミュレートする。

 

 恨みを買っていた場合、まず初手で死にます。

 うーん! 無差別か、封印してきた星子さんにヘイトが向いていればワンチャン…?

 まあ私が死のうと分体(私)はまだいる、邪視の一件で分裂できたのはかなりの爆アドだった。私(・)としてはこの監視任務も気楽なものだ。

 

「すぐ飯にするから机出しとけ」

 

 

 

 

 

「いただきまーす!」

 

 いつもは広い綾瀬家の食卓も、6人分の食器ともんじゃを焼く為のホットプレートが並べば勿論ぎゅうぎゅう詰めだ。

 子供たちは狭いのも楽しいようで気にしてなさそうだが、お給料が入ったら星子さんと家具屋を見に行くのもありかもしれない。

 

 そんなことを考えつつ、私は小さなヘラを両手に構えた。

 綾瀬家はもんじゃ焼きをおかずに白米を食べるスタイル。焼きそばに白米もいいぞ、炭水化物の倍プッシュだ!

 

「具のとこ狙ってよそえ、水饅頭」

『この部位ですか』

「ちょ、真ん中多めに取んなし!」

「早い者勝ちだボケが」

「いっぱいあるから喧嘩すんなお前ぇら」

 

 手足の短いターボババアのために、指さされた箇所を取り分ける。

 星子さんがふと顔を上げた。

 

「おいメガネ、醤油くれ」

「あ、ハイ」

 

 オカルンが醤油を手渡そうとしたその時。

 注ぎ口から垂れた1滴の醤油が、ジジの右手に落ちた。

 

 次の瞬間、私の視界に入ったのは迫る机と空飛ぶもんじゃ焼きだった。

 思考速度が超加速し、ひっくり返る体を他所にスローモーションで知覚する。

 

 皿が浮き、茶が円を描き、宇宙飛行士のようにホットプレートが宙を舞う。

 優雅なクラシック*1でも流れそうなあまりに芸術的なちゃぶ台返しが、食卓についた全員を夕食諸共吹き飛ばしていた。

 

 爆発四散した服がたなびき、真っ白なブリーフが露になる。

 Oh! モーレツ!

 

『Warning( 警告 )』

 

「邪視を、止めろぉおお!!」

 

 念話を即座に飛ばせば、桃の怒号が響き渡った。

 

 ジジの隣にいたせいでオカルンが真っ先に姿を消し、襖が紙吹雪のように飛んだ。

 邪視は殴り抜いた格好のままギョロリと次を見定める。

 星子さんは壁に立てかけたバットを取りに走り、愛羅が変身する。私は床に転がる水筒をダイビングキャッチした。

 

 桃の超能力が邪視の手を捕らえる。

 しかし邪視は掴まれた腕を軸に、接近する愛羅の面と、変身して復帰したオカルンの腹へ強力な蹴りを入れた。

 

 机にヒビが走り、TVが粉々に砕け、畳がへこみ抉れていく。

 余波でターボババアが吹き飛んだ。

 

 私は桃の後ろに隠れ、家の被害に慄く。

 恐れていたことが! 容赦ない邪視の一挙一動が綾瀬家の内装を劇的リフォームしていきやがる。なんということでしょう!!

 

「はああっ!!」

 

 愛羅が邪視を押さえようと接近し、アクロバティックに攻防する。

 オカルンが愛羅と邪視の素早い応酬についていけず、顎を邪視に蹴り飛ばされた。

 障子に大穴が開き、廊下の床板が乱れ飛ぶ。

 

「ぐはっ!」

「お湯かけろお湯ぅ!!」

「熱っ! ──きゃあ!!」

 

 桃がぶちまけたお湯が、邪視と攻防する愛羅にかかった。

 お湯の不意打ちに硬直した愛羅を邪視が殴りつけ、愛羅に迫る邪視の足を星子さんがバットで凌ぐ。

 

「ちょっと! 私にかけないでちょうだい!」

「は!? そこいたら普通かかるだろがい! 前に出すぎなんだよ!」

「リーダーが前に出なきゃ意味がないでしょう!!」

「いいからテメェら、お湯かけろや!」

 

 喧嘩なんぞやっとる場合かーッ!

 動きがてんでばらばらだ、猿夢の時はあんなに連携できていたのに。

 

 いや、違う。私は気がついた。

 あの時はひと塊になって移動していた。だから狙いがバラバラでも連携しているように見えただけであり、敵が単体になったせいで協調性にボロが出ているのだ。

 子供たちは邪視を自(・)分(・)が(・)止めるのに夢中で互いが見えていない。

 

 私は水筒の蓋を開けた。

 仕方ない、目的を統一させよう。

 

『私が行きます。邪視の動きを止めてください』

「っしゃ!」

 

 邪視の死角になるよう隠れていた桃の背から、倒れるように私は飛び出す。

 畳に触れるほど伏せた体の内部でゲル体の比率を調整し、圧力を変えた。足をポンプのように収縮、押し出して速度をつける。

 

 お湯を持つ私に邪視の意識と拳が下を向き、その邪視の腕を愛羅の髪と桃の超能力が捕まえた。

 それらを邪視が振りほどく前に、星子さんが脛にバットを入れようとして跳ばれ、躱される。

 

 しかし動きは止まった! ナイスゥ!

 空中に跳んだ邪視へ、私は擬態腕を存分にしならせた。

 思い知れ! 湯呑みマッスルアターック!!!

 

 水筒のコップがぶつかり、お湯がかかる。

 たちまち邪視の鬼の形相は消え、飛び上がった状態のジジは膝で着地した。痛そう。

 

 手をついたジジはわけも分からず、ポカンとした表情で私を見上げる。

 やあ! このお湯はサービスだから、まず浴びて落ち着いてほしい。

 

 戦闘の緊張から解放され、息を整える全員が沈黙する中で──ターボババアが真っ先にジジへズカズカ寄って行って、文句と唾を飛ばした。

 

「このクソダラァ! ワシの飯をどうしてくれんだボケ!」

 

「…はぁ、もう、ビックリした! せっかくの食事が台無しじゃない!」

「うぇっ、ゴメン! オレなんかやっちゃった!? てかオレ、裸じゃん!? Sexy ソーリー!」

『その場から動いてはいけませんよ』

 

 ターボババアに脛を蹴られるジジが、ゴメンねポーズで酷いことになった周りを見渡す。

 

「ジブンがジジさんに醤油垂らしたっぽいです…」

「オカルン、大丈夫!?」

「大丈夫です…壁とか襖とか壊しちゃってすみません」

「いいって! 暴れたの邪視だし」

「みんなゴメーン!」

 

 桃が顎を抑えるオカルンに駆け寄り、ジジが頭の上で手のひらを合わせ謝った。

 畳にひっくり返った飲料のせいで居間はジジにとってのトラップ地帯と化している。あとジジも濡れたままだ、取り除いてやらねば。

 

『ジジ、冷える前に水分を除去しましょう。露出度も下げましょうか』

「わ、ありがとヒロちゃん」

 

「常温の水でも駄目か」

 

 星子さんが畳に落ちたホットプレートの電源を落としながら、同じく畳に転がった醤油さしを見やる。

 

 かなりシビアな解放条件だな。となると、色々私が率先して介護した方がよろしい。何度も暴れられたら綾瀬家が倒壊してしまう。

 私は畳の水を1箇所に固めつつ濡れたジジに触れ、水分を念で散らしてやった。

 人前でパンイチは哀れだし、チャチャッと隠してやろう。

 

 

 この時、私は失敗した。

 桃たちの裸を隠した時のような配慮のつもりだった。

 

 

 ジジの肌に触れた手の先で、霊力の爆発が巻き起こる。

 私はゲル体を流(・)体(・)にしてしまった事と、目の前で私を見下ろす邪(・)視(・)から逃れられない事を悟った。やっっっべ。

 

 全員の気が抜けたタイミングで、私は邪視を解き放ってしまったのである。ガッデム!!

 固形のゲル体も動かしたら液体じゃん!?

 

『みな───』

 

 念話の途中で私の右半身が抉れ、腕が飛ぶ。

 コアを掠めた拳の一撃に擬態がバシャリと音を立てて解けた。いっっったぁい!!! 死ぬぅ!!

 本能的に思考が加速し、活路を開こうと超高速で現実を直視した。

 

 愛羅が動揺し体を強ばらせる。

 星子さんが僅かに目を見開き、肩に乗せたバットを浮かせた。

 飛ばした念話に振り返る桃と、廊下の壁から起き上がる途中だったオカルンが視えた。

 邪視の足元でターボババアがギョッと目を剥く。

 

 浮遊する私に狙いを定め、邪視が足を振り上げるどうしようもない光景をスローで認知する。

 

 やめて! 私に乱暴する気でしょ!? サッカーボールみたいに! サッカーボールみたいに!!

 出だし見えても回避不能なら意味ないんですよ!

 

 やらかしたぁ! 落ち着いた後にこれは戦犯過ぎるだろ!!

 次の私はもっと上手くやってくれるでしょう。Stay(油断) Alert!(大敵!)

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 

 バシャリとお湯がかかった感覚で、ジジはハッと目の前に焦点を合わせた。

 

 邪視に体を乗っ取られている間の記憶がないジジにとって、過程が切り取られた光景に混乱するのは当然だ。

 それでも、動揺を隠せなかったのは彼にとって初めてのことだった。

 

「ねえ、嘘でしょ! しっかりして!!」

 

 途切れていた感覚を取り戻した直後、耳に飛び込む悲痛な声にジジは面食らう。

 愛羅が膝をつき、必死に呼びかけるそこには誰もいない。それがジジの心をザワつかせる。

 

「ヤバイですよ、コアが動いてません!」

「こいつ、マジで脆すぎだろ! 水風船かよ!」

 

 愛羅たちが取り囲む畳の上には、人が突然消えたかのように畳に落ちた服と、壁に飛び散った半透明の液が床へどろりと流れていた。

 液の上にはくすんだ青色が点々と混じっている。

 

「だから言っただろうが。邪視なんぞテメェらの手に負えるもんじゃねえ」

 

 ターボババアがそう吐き捨てた。

 

 落ちた見覚えのある衣服に、ここにいない小さな子供。

 愛羅が呼びかけ、オカルンが手のひらにかき集めようとするその液体がヒロだったものだと気づいた瞬間──ジジの背は凍りついた。

 

「ヒロちゃん…!? そんな…」

 

「おい仁、触るな! 邪視になるぞ」

 

 思わず足を踏み出しかけたジジを、星子が止める。

 無惨に踏み荒らされた残飯と、物の壊れた居間の中。ジジは中途半端に伸ばした手を力なく下ろし、ただそこに立ち竦むことしかできなかった。

 

「あいつ、ミミズ食って増えてなかったか!? そいつらどこ行ったし!」

「とにかく、ヒロの体を1箇所に集めておきましょ! 放っておいたら消えちゃうって言ってたもの!」

 

 呆然とするジジを置いて状況は動く。

 足元に落ちた服とジジだけが、現状から取り残されていく。

 

「オレ、ヒロちゃんを…」

「大丈夫だって! ジジのせいじゃないから!」

 

 桃が励ますもジジは体が重く、動けなくなっていく錯覚に囚われる。

 

 彼の精神は強い。

 両親が自殺しかけ、入院しても。

 どうにか頼った霊媒師が自殺してしまっても。

 鬼頭家に圧をかけられ、家にすら居場所がなくなって。

 魘され、眠れなくなっても。

 ジジはあの場所から離れられて、桃たちと一緒にいられて楽しかった。

 

 けれども。

 自分の手で抱き上げたこともあるヒロを、自らの手で殺した事実が彼の精神を揺らがせる。

 誰とも遊べぬまま死んだ邪視のことが可哀想で。

 でもジジが邪視を受け入れたからこそ──死んでしまったヒロは。

 

「白鳥さん、これ使いましょう!」

「そうね! モモ、超能力でも何でも使ってとにかく集めるのよ!」

「分かってらい!」

 

 ジジの様子を気にかけながらも、桃は愛羅の指示を受け手伝いに行った。

 桃たちが慌ただしく動く中、立ちつくすジジに星子は「ジジ」と声をかける。

 

「ワシは飯を作ってくる。着替えたら食事の準備ができるよう、居間を片付けといてくれ」

 

 柔らかい声だった。

 

「足元に気をつけろよ、お前ぇ今裸足だからな」

 

 顔を上げたジジに、星子はいつもの落ち着いた表情でタバコを咥え、火をつけた。

 

「大丈夫だ、ヒロならちゃんと帰ってくる」

 

 ジジは星子の背を見つめ、その信じがたい言葉を反芻した。

 …本当に?

*1:
G線上のアリアなど





<おまけページ>


「ヒロのやつ満次郎にベッタリじゃん。婆ちゃんより満次郎に懐いてんじゃね?」
「何っ!?」

 桃に何となしに振られた会話に、星子はのんべんだらりと畳に転がった体勢でショックを受ける。
 しかしすぐ冷静さを取り戻し、畳にあぐらでどっかりと座り込んだ。

「いや、懐いてはないだろ。見てろ」

「ヒロ、満次郎よりワシのが知ってんぞ」
『ご教授いただけるのですか』
「あ、汚(きったね)ぇ」
「ちょっと師匠、話の邪魔をしないでください!」

 チチチ、と猫の注意を引くように星子が呼べば、満次郎に向いていたヒロがくるりとこちらを向く。
 それに対して満次郎は星子に苦言を呈した。

「師匠が適当に教えるから私に聞きに来るんでしょう!!」
『はい、その通りです』
「じゃあ懐いてねーってことだ」

 地味にディスられながらも、星子は満次郎に混ぜっ返す。
 ヒロは首を傾げて満次郎を見上げた。

『懐くとは感情的な親しみのことです。満次郎はたくさん教授して下さいます。懐くとは少々異なるのでは』
「ほれみろ」
「いーや! 師匠より信頼して聞きに来ますから! ヒロさんは私を頼ってる、つまり懐いてます!」

 それを聞いたヒロは口を開けたまま固まり、しばらくして頷いた。

『…確かに』

『私は満次郎に懐いています』
「っしゃ!」
「くっ…!」

「丸め込まれてねーかこいつ」

 桃は半目になった。


『星子様のことは、素晴らしい方だと尊敬しておりますよ』
「ヒロ、饅頭食うか?」
『いただきます』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。