私は宇宙人   作:蒲鉾三田

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第二十六話 囃子が来ました

 

「邪視の野郎ー!! ボールを分裂させるとかズルすぎだろがい!!」

 

 拝啓、満次郎様。

 お囃子の都合の方、如何でしょうか? こちらでは元から広々としていた綾瀬家が、開放感たっぷりにビフォーアフターしています。なんということをしてくれたのでしょう。

 

 壁が全部ダンボールになりそうな勢いで邪視が暴れたものだから、夜なのに天に向かって桃も吠えるというもの。周りが田んぼでよかったね。

 桃が止めた呪弾が5つに弾けて飛び回り始めた時はもうダメかと。

 

 愛羅が家中に髪を張り巡らせ、威力を殺してくれたからどうにかなったけど。邪視も力をつけるだけに留まらず、こっちの戦い方を学び対策を立てて来ているのだ。

 いやー、そう攻略してくるとは! 敵ながらアッパレ!

 

『今回の敗因は、湿気を含んだダンボールです』

「あんたもう動き回らないで!! 次こそ家が無くなるわよ!!」

「ホントスイヤセン」

「まぁそう言うなって、ジジだって大変なんだ」

「オラァ! オルァ!!」

 

 眠りを邪魔され怒り狂ったターボババアが、折れた柱でジジをぶっ叩きまくっている。やめたげてよぉ!

 ジジは愛羅にも怒られ、お湯に濡れたまましょげかえっていた。その姿はまるで雨に降られた哀れな犬のよう。

 

 隣に並んで座っている私はいたたまれず、項垂れるズブ濡れのジジから念でそっとお湯を取ってやった。

 認識していればこうして念を浸透させ、除去できるが、意識外のものは流石に操れない。濡れタオルはこまめに乾燥させてたんだがな〜。

 

「家が無くなるより先に、2階が落ちてきそうですね…」

「ねぇ婆ちゃん、囃子いつ頃来んの!?」

「さあな」

 

 室内でブレーキをかけすぎて足が痙攣を起こしたオカルンは、ひっくり返った虫リターンズになっている。このままじゃバターになる前に肉離れ起こしそうだな。

 

 

 不意に、念聴がこの場に近づく足音を聴きつけ、私は即座に視界を広げて──その来客の出で立ちに困惑した。

 このクソ真夜中に田んぼのど真ん中にある神社に向かって、白塗りの悪魔みたいな連中が連れ立って歩いて来てんですけど…!? 怖い!!

 

『星子様───』

 

「ヒィヤァアアアオオオオゥ!!」

 

 ※夜です。

 あまりの声量に頭の中でテロップが流れてしまった。敵意のニオイもしないのにどうして急に叫んだのか。わけがわからないよ。

 

『…お客様です』

「客だぁ?」

 

 バチバチにキメた悪魔的なV系メイクとファッションの男たちは、無遠慮に境内へズカズカ上がり込んできた。

 

「邪魔するぜぇ〜」

 

 いかにもな()()といった顔と声色で謎のポーズを決める4人組。冷やかしなんかの悪意のニオイもなくやってるのが怖い。

 

「邪魔すんなら帰ってー」

「あいよお!!」

 

 身構えていた私は、星子さんの言葉で素直にくるりと踵を返す不審者たちに肩透かしを食らった。

 そのまま何事も無かったかのように皆がアレをスルーしてんですけど。えっ地球って、こういうのよくある感じ…?

 

 いやそんなわけなかろう。

 私はクロックスに足を突っ込み、列になって鳥居を出ていく不審者の後を追った。愛羅にデコられたクロックスのアクセサリーが、足元でピカピカしている。

 

 なんかもう皆疲れてるのだ。夜中に気合いの入った謎の白塗りV系メンズが奇声を上げて訪問してきても、まともな反応が出来ないくらい頭がパーになってるに違いない。

 普通は通報して、回覧板の不審者情報行きである。

 

「こんばんは」

「あ、こんばんは〜」

 

 道端でスマホを囲んでいたイカつい4人組は、鳥居から顔を出す私に気がつくと揃って膝を抱え、しゃがみ込んだ。

 悪魔チックな白塗りメイクとちんまりした体勢のアンバランスさで圧がすごい。

 

 しかし(見た目は子供の)私へ目線を合わせようとする仕草は、教養のある大人のそれだ。あれ、いい人たちじゃね…? ファーストコンタクトは最悪だけど。

 

「あの〜、ここって綾瀬 星子さんのご自宅で間違いないですか?」

 

 彼らの手元にある住所の書かれたメモ帳と、スマホのマップ位置はまさにここを指している。

 もしやジジのような緊急のお祓い案件? ライブ中にギターを猛烈に破壊するデスメタルの悪霊が出たとか?

 私は顎を引いて頷き、肯定した。

 

「そう。…ご用事、なに」

「ボクたち、綾瀬 星子さんにご依頼を頂いていた」

 

「 “囃子” です」

 

 あっ、今どきの囃子って、ヴィジュアル系バンドなんだ!?

 

 

 

 囃子というと、ピーヒャラドンドン、みたいな笛や太鼓の祭囃子を連想するわけだが。

 目の前に並ぶのはドラムにギターとベース、そしてマイクを持った歌い手のイカつい集団である。V系衣装はさながら奏者の正装みたいな?

 

 後で調べたら、白塗りの化粧をするお囃子もあるにはあるらしく。違いは和装と和楽器じゃないくらい…いやどうなんだこれ。

 

「それならそうと先に言えよ」

「いちをボクらのイメージもあるので、スイマセン」

 

 神主の正装に着替えた星子さんに、囃子のリーダーであるらしいボーカルは礼儀正しく腰を折った。

 護摩木を燃やし、白い布を被せた台に横たわって緊張するジジを前に、バンドとお祓いの準備は整っていく。私まで緊張してきた、楽しみすぎて。

 

 日本ってどの文化や変化も取り入れるものだから、元を辿るとごった煮になるわけだが。星子さんも知らないあたり、この囃子は特にイロモノということになる。

 本当にこれで効果があるのなら、それはもう凄いことだ。だって従来の厳かな伝統と全然違うわけで。

 

 時代の進化を目の当たりにできるって、こと!?

 

「ヤバ! 思ってたんと違うけど、なんかテンション上がるわー。あの人たち霊媒師?」

「違う、霊感すらねぇよ」

 

「だがあいつらの演奏は()()だ。幽世(かくりよ)にも音を響かせる()がある」

 

 盛り上がる桃の横で、私はソワソワと髪を手で押さえた。髪の毛のゲルは繊細なので、興奮しすぎて漏れる念でうっかりイソギンチャクになりそうだ。

 髪を長めにしたのは擬態の練習でしかないし、今度ガッツリ短くしよう。

 

 次元を越えるその()とやらの正体にそそられ、私はない心臓の鼓動の代わりに、期待でワクワクとコアを踊らせた。

                       「テメェらあ!! 気合い入れていけよオイ!!」

「「おーーー!!」」「おー」

「気合い入れていけよオイ!!」

 

「全員でかかってこいよオイ!!」

「かかってこいよオイ!!」

 

 空気が震え、護摩木を燃やす炎が揺らめくほどのコールがスピーカーを通して響き渡る。

 

 そして打って変わって嵐の前の静けさのように、静寂が場を満たした。

 ギターがその静寂を切り裂いて、曲のイントロを奏で始める。

 

 そこまでは、何の変哲もないライブのように思えた。

 流れるギターの単音が、波紋が緩やかに収束するように消える間際。

 

 

 「おはらいだあああああ!!!」

 

 

 炸裂したシャウトで空間そのものが唸りを上げ、生き物のように震え出す。

 

 ドラムの重低音が地響きのように地を這い、全身を揺さぶり。

 ベースの波はその深い音で息さえも奪う。

 ギターの高音が鳴り止まぬ雷鳴のように響き渡る。

 

 まるで音の波に飲み込まれ、思考の流れがそのリズムに無理やり引きずり込まれるかのような。津波にも似た音の奔流にボーカルの声が重なり、波と波がぶつかり合うように不協和音の調和を生む。

 ぶわりと子供たちの感情が興奮の波に乗って赤裸々に匂い立つ。

 骨や内臓を持つ人間により強く伝わるだろうこの振動は、心臓の鼓動どころか細胞をも震わせ、胸の奥で魂を共鳴させる。

 

 

 ──素晴らしい。

 

 

 私は全てを飲み込む音の渦を視ていた。

 

 

 私は感情がエネルギーとして物質化する現象を “アストラル粒子” と仮称した。

 アストラル粒子には恐らくポジティブな+の感情粒子とネガティブな-の感情粒子がある。

 

 そしてデスワームが、念波で人間の脳波に干渉し自殺させていたように、振動の波は伝播する。

 

 悪霊の憑依は恐らく、-の感情エネルギー “執着” によって行われている。

 ノリのいい音楽による高周波の振動は一種のトランス状態にまで聴衆の感情を高揚させ、場の+粒子を増幅。このエネルギー場に存在する低周波の-粒子に干渉する。

 強制的に波長を変えられた-粒子は一時的に+に変わり、憑依が緩むのだ。これが星子さんのいう邪視を()()()させるカラクリの原理だろう。

 

 

 私は知覚を満たす情報の分析を行いながら、精神干渉を受けない代わりに純粋に曲の良さに聴き入り、その演奏技術を存分に楽しんでいた。

 この技術は神の力を借りず、悪霊を弱体化させながら、エネルギー場の外部に押し出すバリアの役割も果たしている。非常に魅力的な技術だ。

 

 しっかしそうなると、ライムズ星人が音波の振動ではトランス状態に入れないのがネックになるな。

 惑星自体が絶対零度に近く、振動伝達率が低いのはどうとでもなるとして。幽世にも響く力とやらが後天的に補える技術かどうかも分からない。

 

 そも効率の善し悪しで判断するせいで、美的感覚というもの自体ない上に、芸術や音楽にトランスできるほど我々には他種への共感性が───。

 

「やめろぉ!!」

 

 場を乱すノイズが走る。

 声の主であるジジは今、めちゃくちゃに暴れる自分の体が落ちぬよう、仰向けのまま必死に台にしがみついていた。

 お囃子で無理やりジジから引き剥がされれば、ジジの霊力で守られていただけの邪視は護摩祈願で祓われて終わりだ。そりゃ抵抗する。

 

「モモ!! 超能力でジジを抑えろ!! 近づくなよ!!」

「分かってる!」

 

 バンドの音圧で炎が揺れる中、星子さんが儀式の疲労で汗を散らせながら桃に叫んだ。

 桃の超能力が暴れるジジの体を抑えつける。

 

 今のジジは、邪視という人喰いザメに体をガッツリ齧られているようなもの。邪視をどれだけ弱らせられるかで、ジジの()()()()()()()損傷度合いが変わる。

 後は消耗戦だ。ジジが勝つか、邪視が勝つか。もう私たちは、彼の戦いを見守る他ない。

 

「消さないで!!」

 

 

 ──だが、その認識は間違ったものだったらしい。

 

 

「邪視を殺さないで!!」

 

 命乞いをしている。ジジが、邪視を。

 離れ逝こうとする悪霊を、彼は必死に内へと抱え込んでいる。なんだって彼はそんなことを。

 彼は邪視に散々苦しめられてきたというのに、ジジは涙まで流し、声を限りに叫んでいた。

 

「一緒に遊ぶって約束したんだよ…!! こいつは誰かと遊びたかっただけなんだ…!!」

 

「ずっと閉じ込められて、誰かと遊ぶ日を夢見て、踊りを練習して」

 

「それなのにやっと出てこれたと思ったら、また殺されるのかよ!!」

 

 

「そんなの──かわいそうじゃんかよ!!」

 

 

 …マジで言ってる?

 私はジジの魂からの叫びに愕然とした。

 

 ジジは自分の負担もどれだけ周りに迷惑をかけているかも分かってて、馬鹿みたいにデカいリスクより、自分を心身共に辱める悪霊の命をとったのだ。

 精神力が桁違いだとは思っていたが。天才とはこれほどまで()()()()なれるのか。

 

「オレ、やれることなら何でもやります! 水も触らないようめっちゃ気をつけます! だからこいつを、邪視を殺さないでください!!」

 

 普通に考えて危険すぎる。

 私は困り果てて、体の中で所在無くゲル体をもちもちこねた。

 

 邪視を抑える施設として綾瀬家はあまりに不十分だし、人材も足りず力不足で疲弊するばかり。そも()()()()共生するつもりがない。

 ジジと邪視が一緒に遊ぶにしたって、ジジが器にされて良いように使われている時点でそれが叶うわけないし。しかも邪視はジジの中にいる限りもっと強くなるのである。いや〜…無理だろ。

 

「お願いします!!」

 

 そんなこと、ジジにだって分かっているんだろう。

 ただ彼が邪視にしてやれることがもう命乞いしかないだけで。

 

「おねがい、します…!!」

 

 泣きじゃくるジジを黙って見据えていた星子さんが、おもむろに立ち上がった。

 ああ〜もう…なんで私が困ってたかって、彼女ならきっとそうすると思ったからだ。

 

 そして彼女は予想通り、轟々と燃える護摩木へ消火器を盛大に噴きかけた。立ち込める消火器の粉にジジが噎せる。

 

「やめたやめた、お祓いは無しだ」

「え!?」

 

 急に儀式を中断され、ギョッとした桃が声を上げた。

 

「邪視もうちの家族にするわ」

「はあ!?」

「か…!?」

「え!? なに!? なんて言ったの!?」

 

 家族と来ましたか…要するに管理じゃなく、懐柔に舵を切ると。

 邪視に人を殺させないよう躾けるつもりだろうか? でも直情的な悪霊に、監視の目の届かない場所や人前で感情任せになられたら…。

 私はジジが学校のプールや予防接種なんかで邪視化する未来を想像した。う、うーん大惨事、問題は山積みだ。

 

「わざわざ来てくれたのに悪いな。帰っていいぞ」

「あ、そうですか。わかりました」

「婆ちゃんいいの!?」

「ジジがああ言ってんだ、仕方ねぇだろ」

 

 お祓いのキャンセルを素直に聞き入れ、帰り支度を始めたお囃子バンドの横で、煙草の煙を細く吐き出し星子さんは言った。

 

「ワシは好きだね、ジジのああいう心意気がよ」

 

「じゃあなに? 私達ずっとこいつの面倒見なきゃいけないの? 絶対嫌なんだけど!」

『邪視を強制的に従えるには、我々に抑止力となる力が不足しています』

 

 愛羅の言葉はストレートだ、常識的ともいえる。怪我するし、危ないからね。

 

 邪視を “家族” にするなら、まず前途として邪視が人を殺せない状態にしなくてはならない。

 だがボコって上下関係を分からせ大人しくさせるにしても、ちょっとこっちが弱すぎって言うかぁ…。こういうのは圧倒的に屈服させないといけない。お前も家族だ。

 

『しかしながら、邪視を簡単に弱体化させる方法もあります』

「そんなんあるなら先言えし!」

「ヒロさん、その方法って」

 

『まず、ジジの足の骨を折ります』

「何言ってんだてめコラァ!」

 

 人間には215本も骨があんのよ、骨の1本や2本くらいなによ! 正確には206本くらいらしいが、個人差あるし大して変わらん。これから毎日骨を折ろうぜ!

 

『人材の疲労度や対象の不注意、修繕費を加味し、脚部の骨折という手段は器となる肉体の行動を封じ邪視の速度と攻撃性を抑え、こちらが制圧しやすくなる利点が』

「よくないですよそれは!」

「んなのダメに決まってんだろ! ジジの気持ち考えろや!」

 

 すごい勢いでオカルンと桃に反対されてしまった。ダメ? めっちゃいい案だと思ったんだけど。

 

「いや、オレやるよ!」

 

 ほらぁ。

 

「ジジさん!?」

「ちょ、待てって!」

「はぁ? あんた正気?」

「骨とかすぐ治るし! オレ、頑丈だから!」

 

 周囲の命の危険に邪視の破壊被害とかと、本人の骨折を天秤にかけたらそっちの方がいいと思う。ジジくんもそうだそうだと言っています。

 

「やめとけ、邪視が動いたら加減なんかするかよ。足の外に骨飛び出んぞ」

『なるほど。では止めましょう』

 

 あ〜確かに。そうなったら救急車からの手術コースだし、強制入院になればそれこそお終いだ。星子さんの言うことに納得し、私は頷いた。

 足だけで止まらなかったら腕もちょっと折ってもらって、私が責任持ってジジを介護しようと思ったのだが。そうか、ダメか。

 

『星子様は、何か知恵がございますか』

「邪視を抑える方法か…あるにはある。ジジのセンス次第になるがな」

「本当ですかおばさん!?」

 

「ただ、身につけるまで時間はかかるだろうぜ。それまでは邪視に変身しちまうかもな」

「じゃあ!」

「私は反対よ」

 

 喜色の滲むジジの声を遮って、愛羅は言った。

 

「こいつのわがままなんかのために、私達の貴重な時間を使いたくないわ! それにヒロに手出したの、私忘れてないんだから!」

『愛羅、そのことは……』

 

 結局はそこなんだよなぁ。

 

 そう思ってしまえば二の句を継げず、私は念話を止めてしまった。

 愛羅の主張は正しい。殺意のある制御できない悪霊と暮らせば、いつか必ず犠牲が出る。私だから良かったが、取り返しのつかないことが出てからでは遅い。彼女は皆を守ろうと言っているのだ。

 私も本心は愛羅派だ。ただし星子さんの味方なので、沈黙は金!

 

 しかし、ジジもその事を気にしてないわけがなく「それはホントにゴメン!」と深く頭を下げた。

 

「でも邪視がいなかったら、両親もオレも、とっくに死んでた」

 

 その発言に、今度は愛羅が言葉に詰まり、閉口した。なるほど、そっちから攻めるわけね。

 

 ジジはこう言いたいんだろう。邪視による自殺念波の妨害がなければ円城寺家は丸ごと一家心中して、今頃ワームの腹の中。邪視がジジを狙っていたからこそ猶予ができて、星子さんに助けを求められたと言ってもいい。

 途中から参加しただけの愛羅は、事情を何も知らないからこそ第三者でいられたわけで。

 

 頭を下げたままのジジは皆が見る中、決意の籠った硬い声で続けた。

 

「邪視がオレを助けたのは、自分の入れる体が目当てだったかもしれないけど。それでも殺されて人柱にされるとこだったオレに、生きるチャンスをくれたから」

 

「だから邪視にもどうか、チャンスを下さい! お願いします…!!」

 

 

「なら、ジブンが邪視を抑えれるようになります」

 

 目をぐっと瞑り、頭を下げ続けていたジジが顔を上げる。発言するのに不慣れなオカルンが眼鏡や髪に触れ背を丸めながら、それでも真っ直ぐな瞳と声で言った。

 

「ジブンが強くなって邪視を簡単に抑えれるようになれば、別に変身しても問題ないですよね」

「そんなこと…高倉くんがわざわざしてあげること!? うかうか寝てもいられないんだよ? 命の危険だって…!!」

 

「友達なんで…」

 

 うっっわぁ…! 言われてみたいわそんなこと!! これは女の子も放っときませんわ。

 いいねオカルンくん、輝いてるね! 猿夢の時も、地下で邪視とタイマンしてくれてた時も、友達のために命かけれる強い子だ。ティーンエイジャーが抱く度量じゃなさすぎだろ!

 

「じゃあウチも強くなろー。2人の方が楽っしょ!」

「ちょっと!! 私だって強くなるわよ!! あんたをブッ飛ばすためにね!!」

「オカルン〜!! ハグさせて〜〜〜!!」

 

 子供たちが戯れる中、ふと星子さんが肩に目をやった。視れば、装束の色が僅かに違う。

 

 慌てて空を視上げれば、落ちてくる大量の雫が迫っていた。

 雨だぁ!? まずい! 邪視のヒトコロスイッチが!!

 

「テメェら!! お湯!!」

 

 この後めちゃくちゃ夜戦した。

 

 

 

「イヤアアオオウ!! 邪魔したなああ!! またなにかあったらご連絡くださいい!!」

 

「おう、おつかれさん」

『円盤を購入させて頂きますね』

「またすぐ呼ぶかもしれませんです」

 

 異能者の変身した姿も視えないのに、目の前でドッカンバトルが起こっても動じないお囃子バンドは大物である。

 

 雨ですっかりメイクの落ちたお囃子たちが帰り、私はまた崩壊した綾瀬家を眺めた。

 外でやった方が被害が少ないな、もういっそジジを外飼いした方がいいんじゃなかろうか。テント張ってキャンプにする?

 

「婆ちゃん、家が寒い」

「スーパーからまたダンボールもらってくるか」

 

 かろうじて無事な家の中には仁王立ちする愛羅に、その前でパンイチで平謝りするジジがいる。オカルンは邪視に初手ノックアウトされ絶賛気絶中だ。

 

『仕方ありません。我々がジジのため骨を折りましょう』

「てめーに骨とかねぇだろがい」

『日本式慣用句(イディオム)の面白い部分ですね』

 

 前途多難だなぁ。

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