うわっ…私の体、脆すぎ…?
私は@#/&のパンチに打ち上げられた分体、その成れの果てを視た。うーん、見事にクラッシュゼリー。
コアがばっくり逝ってるので分体もさくっと死ねたことだろう。
生半可に気絶してたら呪いで私たちも殺されるとこだった。ちゃんと殺してくれてサンキュー! 二度としないで。
本来ゲル体はそこそこの物理ダメージを受け止められるのだが…重力で縮んでるのもあってかダメージ貫通が酷い。ワンパンで死ぬとか序盤のスライムかな?
いや普通に@#/&のパンチが重すぎなんだよ!!
通常時にコンクリを粉砕させるパワーを持ちながら、水中で24倍になるとかいうバグ戦闘力。
その上で変身されて全力パンチされちゃったからにはもう…ね…。
他の惑星で見た個体より明らか弱いのに、ライムズ星人の弱々ボディじゃそれすら耐えられないよ〜!! あーん! 分体が死んだ!
まあそれは置いといて。
ネッシーはセルポになすりつけ済み、急いで死んだ分体を確保だ。
水に擬態して移動し、バラバラになったコアとゲル体を念でかき集める。
私はゲル体を開け、コアにコアを融合させた。
本来、生物の命が尽きれば脳はただの肉だが。ライムズ星人は死亡後もコアへ一時的に記憶を遺すのだ。
私は時系列の砕けた情報を分析し、最新の記憶を同期していった。
──高倉 健のニックネーム。
──高倉 健が変身し@#/&を一撃で倒した姿。
──綾瀬 桃との交渉内容。
分体が視た光景を私は眺め、聴き、高速で記憶を同調させる。
だがそれもこの校舎に来てからの最低限で止めた。
私は人間の擬態練習を積んでコアの容量がギリギリだ。そうでなくとも、私たちのキャパシティは限界に近い。
だから、ほんとに、もったいないけどもぉ…!!! この口惜しさ、バネにして呪いの元凶をブチ殺す…!!!!!
さようなら共有されない研究の日々。さようなら数々の閃きと経験よ。もぅマヂ無理スパデラoP再生しょ。
分体の母星での記憶を遺したコアを泣く泣く吸収し、分離したゲル体を纏えば私の体は一回りほど大きくなった。
よぉし…! 最低限の齟齬は埋めたが、肝心の学生3人組は無事か?
急ピッチで身支度を整え、味方の様子を伺えば。
桃とオカルンは変身した@#/&に襲われながら喧嘩しており、愛羅は水壁から出られず苦しげにもがいていた。
あー、はいはいはい…何してんの!? こりゃマズイ!
私は水に擬態し、溺れる愛羅の元へ急行する。トリアージ!
生身の2人があのパンチを受ければ変身した愛羅より酷いことになるが、私だけでは桃たちを助けられるわけもなく。うおー愛羅ちゃん! 助けるから助けてぇ!!
いくら水に溶け込む色に擬態したとはいえ、動けば違和感はどうしても出る。見つかれば死! だが迅速に!
ひえぇ、パンチの流れ弾が飛んでくるよお! 怖ぁい!!
私は荒れる水中にかき回されつつ、どうにかぐったりした愛羅の元に辿り着いた。
私は力なく漂う彼女の口を急いでこじ開け、圧縮した体を口内に突っ込む。そうして体内を満たす水を念で追い出し、水中の酸素を肺に送り込んだ。
ライムズ星人はゲル体を通せば空気中や水中、どこでも呼吸可能! 私は詳しいんだ、仕組みを弄ればゲル体を異星人用の簡易酸素ボンベ代わりにだって出来らぁっ!
肺に酸素を送ってすぐ、無事に蘇生した愛羅がぼんやりと目を開けた。おはよう! 天然のウォーターベッドは天にも昇る心地だった?
彼女はしばらくして自分がまだ水中にいる事に気が付き、慌てて口を抑える。ぶに、と指が私を押した。困惑した彼女がゲル体を摘む。
『溺れたフリをそのままどうぞ。私の居場所がバレますと、今度こそ死亡します』
「んむ!?」
『はい。生きておりますよ』
「んむむっ」
愛羅はなんだか嬉しそうに透明な私を撫でくりまわした。
あの、ちょっと、お嬢さん? どさくさに紛れて感触を楽しんでますけれども。まだ下が戦闘中だからお触りは後でね!!
『オカルンと桃を救出しましょう』
「んむ…!」
と、思ったが。
どうやら大丈夫だったらしい。
オカルンの背に乗った桃が超能力を駆使し、ジェットスキーのような勢いでこちらの階層へ突っ込んできた。わお。
桃が愛羅を掴み、急浮上する。そして私たちは酸素のある層へと飛び込んだ。
「ぶはああ!!」
「ハアハア!! スゴイ!! 天才っスか綾瀬さん!!」
「知ってる。おいバカ女!! 生きてるか!」
この子たちめちゃくちゃ機転が利くな! オカルンをバナナボートに見立て移動するとか、桃は中々に発想がクレイジーだ。ナイスボート。
これなら何とか全員生き残れるかもしれない。
「意識はあるっぽいな。なに口開けたままアホ面してんだ! なんだそのゼリー」
「もごもももご!」
「大丈夫ですか白鳥さん!」
「なに? こんな時に何食ってんのこいつ」
愛羅にタップされるので、私は形を崩し外に出た。
『皆様、よくぞご無事で』
「クリオネさん!? 生きてる!!」
「お前!? さっきあいつのパンチで爆散してたじゃねーか!!」
『はい。次こそ死亡します』
私は実は1回パンチされるだけで死ぬぞォオ! 化物パンチ+ライムズ星人のぷにぷにボディ=死だ。
…逆になんで何回もパンチ受けた愛羅がピンピンしてるの?
「再生みたいなことできるんスか!?」
「なんかコイツ、さっきよりデブってね?」
『問題ありません』
「ちょっと綾瀬 モモ! 私を助けてくれたのよ! あなたじゃなくて、わ・た・し!!」
桃が私を捕まえ、腹部(に見える部位)をぐにぐに押してくる。おいデブじゃない、体積が増えただけです。
噎せていた愛羅が私を奪い取るように抱きかかえ、桃から遠ざけた。
いや雑談してる場合じゃないんだって。
『現在、敵は合体しています』
「合体!?」
下層ではセルポ星人が@#/&とネッシーにケーブルを繋ぎ、無理やり
私は愛羅の腕から抜け出しつつ、敵の姿へ雑にミニチュア擬態する。
『セルポ星人を頭脳に、他の2体の性能を合わせた水中特化型戦闘形態です』
頭はセルポ、体は@#/&、下半身はネッシーだ。
頭脳、攻撃力、エラ呼吸に水中移動速度。互いの欠点を補う良いとこ取りってわけね。
「最悪じゃないですか! シャコ星人だけでもヤバかったのに、合体なんてされたら…!」
「なにそれ、そんなのアリ!? どうやって倒せばいいの!?」
桃が眉間に皺を寄せ、擬態した私の拳部分をじっと見つめた。
ネッシーの巨体でより範囲と威力の増したパンチは桁違いだろう。下手に近付けば私が消し飛ぶ。
『先ほど愛羅にしたように、私を使えば水中で全員への酸素供給が可能です』
「クリオネさん、すごい能力持ってますね!」
『ありがとうございます』
そうでしょそうでしょ!
オカルンは眼鏡をカチャカチャ鳴らし、私をキラキラおめめで観察した。さてはキミ、だいぶオタクくんだね?
『ただし、相手の攻撃に当たらぬよう。先ほどご覧頂けましたので、理由はもちろんお分かりですね。私が死にます』
「一発でもアウトですか」
「何とか避けるしかないっしょ」
その辺は桃ちゃんにかかってます。私は酸素供給しながらサポートするので、桃は水中移動担当でよろしく。
「とりあえずバカ女は服脱げ! 水の抵抗あると動かしにくい!!」
「え!? わ、私が脱ぐ時は結婚初夜って決めてるの!!」
「脱げ」
立ち泳ぎながら桃はバッサバッサと脱いでいく。覚悟決まってんね! いいね!
全員が肌色成分多めになったところで、水底にいたセルポがこちらへ泳ぎ出した。エラが念で光り、水を吸収している。ビーム来るぞビーム!
『敵に捕捉されています、私を口内にセットしてください。ではご武運を』
「マジか、2人とも気合い入れろ! ウチらの力、総動員するぞ!!」
「指図しないで!! 私がリーダーなんだから!! ──行くわよ!!」
オカルンの背に2人が跨り、桃が超能力を使う。
私は桃の口の中で、水中の酸素を取り込む仕様にゲル体を調整し変質させた。分割したゲル体をオカルンと愛羅が口に含む。準備万端だ。
私たちは水中に向け、ロケットスタートした。
「なんと! あなた方も合体しましたか!!」
水中に潜れば、合体し巨大化したセルポ星人が待ち構えていた。
私より人間の方が速いし防御力もあるし、人の口の中って実際安全なのでは?
合体セルポはその顔面を4つに割った。
開いた射出口が高純度の念を帯び、超圧縮水流を撃ち放つ。ひえ〜!
桃が超能力でオカルンを操り、向かってくるビームからどうにか逃げた。
『躱し続けて下さい。あの攻撃はチャージを必要とし、放出しきれば隙ができます』
3人は追いかけてくるビームに口内のゲル体を噛み締め、声にならない悲鳴を上げる。
極太の水流が勢いを弛めて止まれば、今度はエラが開き水を首へと溜め込み始めた。
「んん! んんん!」
「んっんー!」
愛羅がセルポを指さし、桃がオカルンボートでセルポに接近する。
変身した愛羅が鞭のように髪を伸ばし、セルポのネッシー化した首をキツく絞めあげた。水の吸収が止まった! でかした愛羅!
『そのまま首を捩じ切れませんか』
「んん!」
『残念です』
「ん!」
桃が何か考えがあるのか、愛羅に水面を指さしオカルンの向きを上へと変えた。
愛羅の髪が釣り糸のようにピンと張る。
「逃がしませんよ」
「んー!?」
釣りをするには相手が大きすぎたようだ。
愛羅の髪をセルポ星人が殴りつければ、髪に引っ張られた愛羅が吹き飛んだ。
『愛羅がオカルンから落ちました』
「んんん!」
首の拘束が解け、再び水のチャージが始まる。させるかバカめ!
「ゔっ。ごぼっ! 一体、なにが…!!」
『いけませんね、そんなことをしては』
水を吸収していたセルポ星人のエラが波打ち、痙攣する。
ライムズ星人を前にして水を取り込むだなんて、愚の骨頂だよねぇ! 水を飲んでる時に、予想外の量を急に流し込まれたらどうなると思う? 噎せろや!
セルポ星人は吸収した水をエラから漏らし、呻いた。
パワータイプは動き出したら止まらない、ならそもそも何もさせないのが正解だ。最低限でスマートに。時代はエコだよ、省エネよ。
今の私にはこのくらいしかできない。頼んだぞ学生諸君!
桃はこの隙に急いで愛羅を回収し、オカルンを水面へ向かわせた。
「待ちなさい! 高圧縮水流が邪魔されようと、我々は近接戦闘もできるんですよ!! いい加減あなた方をボコボコにして動けなくします! カタをつけましょう!!」
セルポ星人はパンチで仕留めることに決めたらしい。水面へ向かって追い詰めるように浮上し、グングン距離を詰めてくる。
桃ちゃんやい! さっきから上に行きたがってたが、私たちが素早く自在に移動できるのは水があるおかげだ。水面ではその幅が一気に狭まる!
『桃、水面は危険です。我々の移動が不利になります』
「ん! んーんんん!」
なんて?
桃が水面付近で横移動に切り替え、オカルンと愛羅の2人に待つよう手で合図した。
戸惑う私たちを他所に、桃は超能力を自分に使う。そしてなんと、オカルンボートの要領でセルポの元に1人突っ込んだのだ。
桃の無謀にも思える行動に、水中に置いていかれた2人が慌てる。かく言う私も巻き添いにされ、焦りを隠せない。敵の目の前に飛び込むとかマジかこの子!
『桃。勝算がおありですか』
「ん!!」
『…では、命を預けます』
…なるほど? 随分と確信を持っているらしい。強い決意が迸る香りだ。なら仕方ない、付き合おう。
猛スピードで迫る桃にセルポ星人は急停止し、彼女を仕留めるべく拳を振り上げた。
それに対し桃は両腕を振り上げ、そして──力いっぱい振り下ろす。
瞬間。
モーセのように水が割れ、セルポ星人の腕が弾け飛んだ。
『
「こ…これは…!? なにごとですかぁ!!」
「合体するべきじゃなかったな、シャコ星人とはよぉ」
桃はぺっ、と私を口から吐き出し不敵に笑う。
私は桃の肩にくっついて、弾けた腕を観察した。筋肉や靭帯が断裂している。何故だ? 胴体は最も耐久力の秀でた@#/&が融合した部位だぞ…!?
「シャコのパンチ力は水中では史上最強。だけど地上では本気のパンチは
ああ、なるほど! 彼らの故郷は水中だ、空気中でパンチを撃つ進化はしていない!
空気は軽く、水は重い。浮力で関節の負担を軽減し水の強力な抵抗があること前途でアルゴリズムは最適化されている。
「もし本気でパンチを打ってたら今のてめぇみてぇに、自分のパンチの衝撃で破裂してたハズだぜ」
そして確実に全力のパンチを打たせるため、最も警戒されている自身が飛び込んだ…と? クレバーだな!?
だがセルポ星人は、攻撃手段の1つを失っただけでは諦めない。
セルポは巨大な口をガバリと開き、桃へ噛み付いた。
咄嗟にバリアを貼った桃に、超能力の抑えが解かれ水が殺到する。
私は水に引きずり込まれる前に、桃の口に再び張り付いた。もう、カッコつけて吐き出すから!
超能力の壁が顎の力に圧迫され、ミシミシと嫌な音を立てる。
『水中へ行こうと無駄です。私がいる限り超圧縮水流は撃たせません。桃に溺死もさせません』
「なら噛み砕くまでです! いつまで超能力で私の顎を抑えていられますかね!! 女のヒトが弱るまで、何時間でも対抗しますよ!!」
桃は必死に超能力と手足で歯を押し返している。しかしセルポの言う通り、それも時間の問題だ。
『桃、ご安心を』
焦りの見える桃に、私は念話で励ます。
『彼らが活路を開きます』
念聴で聴こえていた。
オカルンと愛羅のプラン、それが実行される。
「ジブンは泳げねぇがよぉ」
愛羅の髪がセルポ星人の首を捕え、そして1本の
「
白い髪がなびく。
「
───これが、この地球の人間の力か。
超スピードの突進。
たったそれだけで、セルポ星人は爆散した。
水中に漂う残骸を視ながら私は強く期待せずにはいられなかった。
彼らのような特殊能力を持った子供がいるのなら、大人は一体どれほどの力を持つのか。
確かにこの星が怪異や侵略者に滅ぼされていないのも納得だ。
私はすっかり彼らの魅力に夢中になっていた。
呪いで凄惨に死ぬかもしれない恐怖も、先の見えない不安も。
この地球での期待と興奮に塗り替えられていく。
彼らの話を聴きたい。どんな経緯を辿ったのかを。
もっと識りたい! この高度な未知の進化を!
私は虚空が解かれていくのを感じながら──とりあえず、裸のままの子供たちをどうすべきか考えるのであった。
◎ライムズtips
触角:ライムズ星人のゲル体は視覚、聴覚、嗅覚等の多感覚知覚センサーを有し、触角が最も高密度。それ故に念を急激に増幅させた際、動くなどの誤作動を起こす。