私は宇宙人   作:蒲鉾三田

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第六話 宇宙人を家に招こう

 

「なんでスポーツウェアにしたんだよ!! しかもピチピチの! へそ出し!!」

『制服は重力と風の影響など擬態の再現難易度が高く。ゲル体も少量でしたので』

 

 虚空が解けたその後のこと。

 学校の保健室にて、私は桃からクレームを受けまくっていた。

 

「下着で放り出されるよりマシだけど…! こんなの私のイメージじゃない〜!」

 

 愛羅もメソメソしているが、説明できないのだから弁明は無理だろう。仕方ないね。

 ウェアの参照元はオリンピックです。調査隊が人体可動域を識るために視てたのだ。肌に密着してるから再現が楽で助かる。

 

 虚空が展開されたのは平日の昼過ぎだった。

 そのせいで学生3人は授業中に消えた挙句、今度はずぶ濡れ+スポーツウェアで教室や廊下にPON☆。一般生徒は大騒ぎである。

 濡れ鼠で服を無くした桃たちは保健室で予備のジャージを貰い、そして騒動から離れるべく避難してきていた。

 

 桃がオカルンの座るソファに乱暴に腰かけ、まくし立てる。

 

「ていうか、宇宙人しつこ過ぎじゃね!? 今後もあんな感じで襲われたらたまったもんじゃねぇわ!!」

『賛同します。あなた方の力は実に興味深い』

「おい宇宙人、そっちに共感してんじゃねえよ」

 

 私は傷心の愛羅に抱えられ、無限にゲル体を揉まれていた。今の私はライナスの毛布。

 オカルンが神妙な顔でメガネを持ち上げる。

 

「妖怪の力があったから撃退できましたけど。この力を持っている以上、宇宙人に狙われてしまいます」

「目の前に説得力のある宇宙人もいるしな」

『あなた方に危害を加えるつもりはありません』

 

 私は愛羅にヒレを揉まれつつ、害意のなさをアピールした。

 ほらこんなに無防備で可愛いクリオネちゃんだよ〜、悪い宇宙人じゃないよ〜。

 オカルンが不思議そうに私を見る。

 

「なんでこのクリオネさんは、ジブン達に味方してくれたんですか?」

『少々込み入った事情がございまして。桃のお祖母様の力をお借りしたいのです』

 

「なんかさー、こいつ呪われたんだとよ」

「ええ!? 宇宙人が!? …いや、そうか! まさに()()ですよ!!」

 

 オカルンは急に興奮し、立ち上がる。

 彼はレンズの縁を持ちながら話し始めた。

 

「宇宙人はものすごい科学技術を持っているにもかかわらずなぜ地球を侵略しないのかという議論があって、ジブンも疑問でした!」

 

 彼の口調に熱がこもる。

 

()()がいるからできないんですよ!!」

 

 保健室のホワイトボートに魑魅魍魎が描き殴られていく。

 

「宇宙人の科学技術を以てしても妖怪には勝てない。そこでジブン達のような特殊な人間を襲って、研究して、妖怪に勝つための技術を開発しようとしてるんですよ!! きっと!!」

 

 オカルンは力説し、そこでハッとして私を見た。

 

「呪いを受けたってことは…妖怪に会ったってことですよね」

 

 彼は警戒と緊張をじわりと滲ませる。

 妖怪に()()呪われたのか、()()()()()()で話は変わるのだ。

 

「クリオネさん。まさか、あなたも…?」

 

「え、なに? 話が壮大すぎて分かんなかった」

「把握したわ。結局私が世界の命運を握ってるってことね」

『面白い仮説でした。観察記録と共にまた聴かせて下さい』

 

「いや…じゃあもう、そういうことでいいっス」

 

 桃と愛羅の思考停止した言葉に、オカルンはスンと真顔になった。

 愛羅にされるがまま、私が顔(に見える部位)をモチモチされていたせいもあるかもしれない。緊張感なんてどこにもなかった。

 

 私が愛羅に好き放題させていれば、不意に念聴が音を拾う。むむ、こっちに人が来そう。

 話を聴くに愛羅の友人だ、確実にここが目的地だろう。

 

 保健室の先生の時は服に擬態してたのでよかったが、そろそろお暇した方がいいね。

 人が常にいたら、私が扉や窓から出られなくなってしまう。

 

『失礼。他の人間の方が来られますので、私はこれで』

 

「えっ! もう行っちゃうの?」

『はい。ご用がある際はお呼びください、近くにおります』

「あっ! 後で宇宙人の話を聞かせてください!」

「学校終わるまで大人しくしとけよ、クリオネ!」

 

『ではまた、放課後に』

 

 私は窓の鍵を開け、スイと浮遊して保健室を出た。

 

 私は校舎裏に回り、適当な石へ擬態する。

 そして宇宙船で待機するバックアップの私へと念話を飛ばした。

 

 自分同士であれば、念話の距離に凡そ際限はない。未共有状態でも同じコアの自分たちだ、どこか僅かに繋がっている感覚がある。

 つまり分体の信号が消え、先の戦闘で1人死んだことは既に伝わっているのだ。留守番中の私は気が気じゃなかろう。

 

『報告、特殊能力を持った生徒3名と交渉。放課後、都市伝説を祓える霊媒師と接触します』

 

是非、情報の共有を。念話で構いません。放課後まで時間がありますので、ことの次第を詳細に報告願います

『まずは念話の出力を減らして下さい』

 

 うわうっさ! めっちゃ興奮してら。

 念話から押し寄せる大興奮の感情に、私は内心仰け反った。

 私の分体だから気持ちは分かるけどさあ!

 

 

 

 騒がしい聴き手への報告は終わり。

 未だ興奮冷めやらぬ分体と、取り留めのない議論で時間を潰していた最中の事。

 何かあった時のため広げていた念聴が、ふと桃が私を呼ぶ波長を拾った。なんだ? まだ放課後には早過ぎるぞ。

 

 ──────!

 

 私は念の受信感度を調節し、音を鮮明に拾い上げる。

 

 ──クリオネどこだ! 早く来い!

 

 えっ、そんなに声を荒らげてどうした!?

 ただ事ではないその様子に私は焦る。まさか、別件の襲撃者か!?

 

『緊急事態発生。桃の元へ急行します』

『了解。再度の報告を待機します』

 

 念話を切りあげ、念視の範囲を広げて校舎を一望する。

 音の発信箇所を特定しクローズアップすれば、中庭の休憩スペースに桃と愛羅がいた。

 その傍には先程の@#/&が倒れている。お前生きとったんかワレ!!

 

 私は桃たちのいる場所に全速力で向か、向かっ…! おっっっそ! その辺を飛んでる蝶に追い抜かされたんですけど!?

 地球って宇宙人に優しくない。界王星*1ならぺちゃんこだ。重力トレーニングは、ロマンでしかないのかよ…!!

 

 えっちらおっちら浮遊し、桃の視界に入った途端に彼女は走ってやってきた。

 かと思えば鷲掴みにされ、愛羅の所まで持っていかれる。どうもありがとう。

 

『桃、愛羅。無事ですか』

「来るのが遅せぇし! ねえこいつの手当てとかできない!?」

「は!? ちょっと綾瀬 モモ! 敵でしょ、こんなのほっときなさいよ!!」

 

 桃に見せられたのはさっきの雇われ宇宙人である。

 ええ…? 必死に駆けつけたのに、桃ちゃんってば敵を治したいの…??

 

 地面に落ちてる@#/&は傷口から白い血液をダクダクと零し、ピクリともしない。地面には血溜まりが広がり続けていた。だが、生きている。

 この種族ほんと頑丈すぎ。オカルンはよくこれを一発で戦闘不能にしたな。

 

『愛羅の言う通りです。必要ですか』

「うっせえ! 死にそうになってんだから、やれんなら早くしろ!」

『はい。では、簡易的ですが処置をします』

 

 そこまで言うなら仕方ないなぁ。霊媒師を紹介してもらえなくなると困るし。

 手当てとかやったことないんだが…何とかしてみるか。

 

 私は溢れ続ける血の海に降り立つ。

 そして念を浸透させ、干渉した。

 白い血液が宙にぶわりと浮かび上がる。

 

 体内は生命力に溢れ干渉が困難だ。が、体外に出れば話は別。

 生命力の抜けた血液を傷に付着した土や汚れと共に除去。傷口に分割したゲル体を薄く宛てがい、密閉させて貼り付けていく。

 

『桃、彼を上向きに』

「よしきた!」

 

 桃が超能力で軽々と筋肉ダルマを持ち上げる。うーん、なんて羨ましい出力なんだ。

 

 傷は深いし、血溜まりができるほど出血も多いが。傷をぴったり塞いだのでこれで血は止まった。モイストヒーリング( 湿潤療法 )*2である。骨とか内臓は知らん、失血死だけ避ければよろしい。

 血は私の栄養にしちゃお、地面に吸わせるくらいなら治療代として貰っておくぜ。

 

「それ、どうする気なの?」

『しまいます』

 

 コア()の中にな!

 てか異星人の治療をライムズ星人に頼まないでくれ、我々は医学とは無縁なんだ。

 見なよ、このゲル体とコアだけの洗練されたボディを!

 ゲル体には痛覚無いし、再生するし、コアを破壊されたら死ぬだけだからさあ!

 生物研究に興味がある私で良かったね!!

 

 血液を球状に集め、私は上部のゲル体をパカリと開けた。

 おいそこの桃ちゃん、「キモッ」とか言わない。

 ゲル体で血を受け止め、コアでぐんぐん吸収する。

 

 最後の一滴まで飲み干せば、疲弊していたコアが少し楽になった。

 ご馳走様でした。いやぁ流石は戦闘種族、栄養源としても中々 Bene.

 私はゲル体を閉じ、桃たちへ念話を飛ばす。

 

『これでよろしかったでしょうか』

 

「よくやったクリオネ!」

「そこ、開くのね…」

『下も開きます』

「やだ! 開くとかわいくない! 見せなくていいから!」

 

 私はゲル体操作を愛羅に見せびらかした。

 ゲル体はどこも開くよ、便利でしょ!

 

「クリオネさぁ、ついでにこいつ人に見つからないとこ運んどいてくれない?」

『いいえ。体格差をご覧下さい、重すぎます』

「あんたの超能力で持ち上げられないわけ?」

『無理です』

 

 桃が軽い調子で任せようとしてくるが、か弱いライムズ星人相手にそんな無茶な。

 我々の念は液体を操作したり感覚器の代わりになるのであって、物を掴む能力じゃないの!

 にしても、ゲル体使っちゃったから念が届く範囲にいないといけないな。起き抜けにパンチされそうで怖いんですけど。

 

『桃、私は傷口を塞ぐため彼の傍にいなければなりません。しかし彼の攻撃で私は死にますので、付き添うのは少々懸念が。他の場所で手当てし直す必要があります』

「そうよね、いつ襲ってくるか分からないもの。敵なんか治療しちゃって、あんた何考えてるのよ」

「ま、なんかあったらオカルンと一緒にウチがブッ飛ばすわ」

 

「でもこいつどうしよ。起きる気配ないし、誰かに見つかったら流石にヤバいよね。…ウチの家に運ぶか」

 

 

 □

 

 

 3人とも結局学校を早退し、@#/&を桃の家まで担いで運んできたのだが。

 …ここ、鳥居しかなくないか?

 

「あ! 綾瀬さんちょっと待ってください!」

「オカルン、どした?」

 

 オカルンが桃に待ったをかけた。

 

「鳥居の結界ですよ! 宇宙人は中に入れません!」

「あっ、そっか! しかもクリオネ呪われてんだった!! うわ、お婆ちゃんいるかな。ちょっと呼んでくるわ」

 

 桃が石造りの鳥居を潜る。

 その瞬間、私の認識から桃が消えた。まるで虚空か、神隠しにでも合ったように忽然と。

 この場所には力場が展開されており、私の念はジャミングされているらしい。

 

 ていうか桃ちゃん、お家の前に立派な鳥居があるのどうなってるの。

 お寺か神社の子? 霊媒師の家って鳥居があるものか? くっそ、中が視れないのがもどかし過ぎる。今だけ眼球が欲しい!

 

「鳥居の結界って? どんな効果があるの、高倉君」

「呪いや宇宙人が結界内に入ると燃えるんですよ。ジブンもターボババアに呪われて、初めてここに来た時に燃やされました」

「高倉君も燃やされたの!? 大丈夫だった?」

「死ぬかと思いましたよ。あの御札が結界になってるんです」

 

 オカルンが鳥居に貼られた御札を指さす。

 危ねー!? そんなトラップあったんかい!

 物騒すぎる、御札にそんな迎撃機能が搭載されてるとは。…いや、そうか。妖怪が実在するならそりゃこういう形で家を守るか。

 

「婆ちゃんまだ帰ってきてないっぽい。御札剥がして、こいつらさっさと家に入れちゃお」

 

 桃が鳥居からひょいと顔を出す。

 

「ええ!? また宇宙人が来たらどうするんすか!!」

「その時はその時、誰かに見られる方がまずいっての! ほら、そいつ家に運ぶから。オカルンは布団出して」

「なんであんたが命令するのよ! 高倉君、一緒に準備しましょ」

「あ、はい」

 

 

 

 招かれた敷地内には、神社と大きな家が並んで建っていた。

 

 畳の部屋で布団を敷いたオカルンと愛羅が、筋肉ダルマな@#/&の治療に四苦八苦している。

 その間に桃がカレーを作ると言うので、私もゲル体を回収した後、手伝いに顔を出した。

 桃曰く、「シャコ星人も怪我してお腹空いてるだろうし」だそうだ。

 

『桃は優しいですね』

「目の前で野垂れ死なれたら寝覚め悪いじゃん。それになんか、悪い奴じゃない気がすんだよねー。セルポに扱き使われてたしさ」

『彼はただの雇われです。それも非合法の』

「だからって放っておいたら学校で暴れられるかもでしょ」

 

 私が木べらを抱えてお肉を炒める横で、桃がじゃがいもの皮を不格好に剥き始める。

 あ、その皮捨てるならちょうだい!

 

『ゲル体に入れて下さい。消化します』

「三角コーナー要らずかよ、便利〜。おら食え」

 

 桃からじゃがいもの皮を貰っていると、軽快な鈴の音が近づいてきた。その音の主を何気なく視て、私は仰天する。

 猫が立って歩いてる!!

 

「なんだぁ、この水饅頭はよお」

『はじめまして、お邪魔します。あなたは何ですか』

「邪魔すんなら帰れクソだらあ」

 

 普通に喋るじゃん!

 私は興味津々で喋る猫を観察した。化け猫、いや招き猫の付喪神だろうか? それともこの神社の主とか? 流石にこの猫が桃のお婆ちゃんってことはないだろう。…ないよね?

 

「婆ちゃんを頼りに来た宇宙人。呪われてるんだってさ」

「そのクソと口を利くなんざ止めとけ、サッサとこっから追い出せボケが。目が腐るぜぇ」

 

 おっ、口が悪いな??

 

「ちょっと! そんな言い方すんなし! 言っとくけど、婆ちゃん帰ってくるまでこいつここに居させるから」

『桃、感謝します』

 

 よかった、霊媒師はまだ不在らしい。

 交渉のテーブルにすら上がらせてもらえないかと思い、ちょっとヒヤッとした。

 

「おいクソ饅頭、テメェ喋んな」

「ババア!! テメェが喋んな!」

「クソだらあが、こいつを視界に入れんじゃねえぜ」

 

 招き猫は私を睨み上げ、桃に言いつけるとキッチンを後にした。

 私は去っていく不思議な招き猫を眺めながら木べらを動かす。桃が今度は人参の皮とヘタを私のゲル体に突っ込んだ。

 

「あのクソババア、言うだけ言ってどっか行きやがった。何なんだよハラ立つ」

 

 桃が人参を乱暴に切り分け、鍋に一気にぶち込む。

 私は焦げ付かないよう木べらでかき混ぜながら、桃へ念話を向けた。

 

『桃。あの方の言うことは正しいです』

「なに、どういうこと?」

 

 

『私を()てはいけませんよ』

 

 

 呪いが伝染(うつ)るからね。

*1
地球の10べぇの重力の星

*2
有名なのはキズパワーパッド

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