『こんにちは。はじめまして、桃のお
私は帰宅した風変わりな女性に対しヒレを畳み、頭(に見える部位)をぺこりと下げた。
ライムズ星人は念話で全ての意思疎通が完結する。なので、普段はジェスチャーとか全くない棒立ちスタイルなのだが。
お辞儀なんかの動作1つで、無感情に見られがちなライムズ星人でも感情が伝えられるっていうね。元日本人の知識ってありがたいわ〜。
挨拶する私を、桃がこれ見よがしに指さし言った。
「婆ちゃんホラ見て! コレが宇宙人」
「コレが宇宙人ン〜? なんか
「ンなわけあるか!」
にしても、なんか…桃のお婆ちゃん、めっちゃ若くね?
白髪で格好こそド田舎のオッサンだが、グラマラスなイケイケお姉様じゃん! ちょっと桃ちゃん? マジでこの人がお婆ちゃんなわけ??
『桃。お祖母様はとてもお若く見えます、お母様の間違いでは』
「おう、よく来たな。ゆっくりしてけ海坊主」
この反応はお祖母様ですわ(確信)。
この異様な若さは謎だが、日本だから普通に人外の血が混じっててもおかしくは無い、日本だから。
この世界の日本もサブカルチャーにどっぷりなのは調査隊の記録で把握済みだ! どこの世界線でも日本はHENTAI 国家ってわけ。
「いや、こいつ宇宙人だよ!! そこに寝てるそいつも!!」
「そいつは河童だろ」
「宇宙人だっつってんでしょ! 目の前にいるのに信じないってどーゆーこと!?」
「いやむしろ河童が宇宙人だって説がありますから!!」
血統とは別の要因も考えられるが。
私は逸れた思考を修正する。
重要なのは表層や根幹ではない。この技術者がどれほど手練で造詣が深いかである。
わちゃわちゃと皆が戯れていれば、その騒がしさからか昏々と眠っていた@#/&が身動ぎした。
即座に全員が口を閉ざし、様々な思惑で彼の動きを注視する。
「こ…ここは…」
目覚めた彼は、まず自分にかけられた布団と丁寧に巻かれた包帯を見て困惑した。
彼が起きたことでわっと喋りだした桃たちを他所に、私は万が一にも攻撃されぬよう桃たちの背を盾に彼の視界から隠れる。実はこの部屋、
愛羅がそんな警戒MAXな私に気が付き、私を腕に抱えて後ろに下がってくれた。なんて気の利くいい子なんだ!
「で、コイツどうするわけ。手当てまでしちゃって、襲ってこないなんて確証どこにもないのよ」
愛羅は私を抱きしめながら、険しい顔で@#/&を見下ろした。全く同感だ、得体の知れない宇宙人なんて拾うもんじゃありません!
バットを肩に乗せたお祖母様は、自分より大柄な異形の生物が動こうとたじろぐ様子もない。
ピリついた警戒の空気と、地球人に囲まれている事に気が付いた@#/&が布団を跳ね除け距離を取った。
「やめとけよ!! こっちには婆ちゃんいんだからな!!」
桃の牽制の声からは、確かな信頼が嗅ぎ取れる。やっぱこの場で1番強いのお祖母様なのでは? ワクワクするわ〜!
地球人の大人の実力…私、気になります!
全員が警戒し構える中。
彼が不意に下を見て硬直し、戸惑いを見せた。カレー皿が乗ったお盆に足が当たったのだ。
「ああ、それ。こいつに聞いたらあんたも食えるって言うから、とりあえずカレー作った。別に食わなくてもいいけど」
桃が愛羅に抱えられる私を顎でしゃくる。
怪我をした@#/&には足りない量だろうが、桃の気遣いが籠ったカレーライスだ。お米食べろ!
命を狙った相手に治療され、食べ物まで用意されるだとか、寝起きじゃなくても理解が追いつかないだろう。都合のいい夢みたいでしょ? 現実なんだなぁ、これが。
私がこんな稀有な人間に恩を着せられたのは、紛うことなき幸運だ。
襲撃に誘ってくれたセルポ星人に感謝しちゃお。バーイ、センキュー!
「う…うう…」
彼は俯き黙っていたが次第に小刻みに震え出し、涙をボロボロ零し始めた。よっぽど桃の心遣いに胸打たれたらしい。
まあ戦闘で重宝されるはずの種族が薄給の使い捨てで殺しやってますとか、彼の等級もお察しというもの。拾ってもらえてよかったね〜。
「こんなちゃんと治療してくれて…こんなに優しくされたのは…はじめてでいす…」
「もう二度と、あなた達を傷つけたりしないでいす」
「テメェ客だろうが!! ガリでも食ってろ!!」
「客ならもてなせ、ノドグロ出せー!!」
「テメェ、トロばっか食ってんじゃねぇぞ!!」
「でいス!!」
「ワシのウニ食ったなあ!!」
「ぶべら!!」
『弱肉強食とはこの事ですね』
大人数だから出前を取ろう、というお祖母様の提案で豪勢な夕飯となったわけだが…なぁにこれぇ。
寿司の取り合いをする乱癡気騒ぎの食卓で、私はホタテを醤油に浸しゲル体に突っ込んだ。
食べる物の面積が小さければそのまま中に取り込めるのだ。…閉じた唇に無理やり突っ込むようなものだが。
ゲル体を開けるのは愛羅に不評だし、見た目はバッカルコーン*1だし。
ゲル体の中で寿司をジュワッと溶かせば、栄養がギュンギュンコアに染み渡る。ん〜まい、特に醤油の味! この
「テメェ河童だろうが!! かっぱ巻きでも食ってろ!!」
「でぃす!!」
「ウニ残してたでしょうが!!」
「最後に食おうと思って取っといたんだよ、クソだらあ!!」
食事中に立ち歩くどころか殴り合い掴み合い、蹴り飛ばして乱闘と酷い有様だ。日本の食卓ってこんなに賑やかなものだったっけ??
いや、食べ物の恨みで戦争が起きる日本人だったな。主に山の幸チョコの派閥で。
「このブスボケハゲェ!!」
「ブスクズボケハゲェ!!」
『桃、愛羅。食事中にはしたないですよ』
「寿司は奪い合いの戦争なんだよ!!」
「マナーを守るよりこの悪魔から私の寿司を守るわ!!」
さいですか…さっきまでの優しい桃と愛羅はどこに行ったし。
桃と愛羅の取っ組み合いはキャットファイトというより猿の掴み合いである。こいつぁひでぇや。
私はあちこちで勃発する争いから距離を置き、頭と尾付きのエビを丸ごと取り込んだ。うまうま。
ライムズ星人は何でも食べる雑食だから、殻ごとペロリよ。日本人より食べるものを選ばないぞ! 惑星ライムズは極寒の氷の星だからね。
何でも食べられるが選り好みしないとは言ってない。選択肢があるならより良い方を選ぶんで。そこんとこ、ヨロシク!
@#/&に馬乗りになり、パンチを繰り出すアグレッシブお祖母様へ私はそっと念話を繋いだ。
『お祖母様。私は先ほどのカレー皿の洗浄に向かいます』
「おう、気にすんな海坊主。客なんだから座っとけ」
『いいえ。私も料理を手伝いました、片付けも致します。代わりに鍋の残りを頂いてもよろしいでしょうか』
「なら良し、いっぱい食えよ。カレー鍋も任せたぜぇ」
『はい。お任せください』
限られた寿司を奪い合うより、確実に手に入るカレーを私は狙うぞ!
私は回復したいんだ。疲れたコアに染み渡る栄養が少しでも多く欲し〜い。
私は放置されていたカレー皿をヒレに乗せ、宙に浮遊する。
そんな私を鋭い視線が追った。
食卓には、私にしか分からない刺激的な臭いがビリビリと充満している。
警戒の眼差しを向ける@#/&を念視で確認しながら、私はそそくさとキッチンへ引っ込んだのであった。
おお、こわいこわい。
□
シャコ星人の亡き妻と、息子が患う不治の病。彼自身の弱さ。働き口の見つからない治療費稼ぎ。
そんな身の上話も愛羅にはちっとも響かなかった。
愛羅にとって大切なのは誰よりも完璧で美少女な自分と、皆から尊敬を集める特別な称号。
そしてその自分が愛する “素敵なもの” だけだ。
「あんた、やたら警戒するじゃない」
彼女は仁王立ちでシャコ星人を見下ろし、臆面もなく口火を切った。
「それ気になってた! シャコとクリオネって、仲悪いわけ?」
「え、何の話ですか?」
「高倉君! こいつクリオネの子のこと、こわ〜い顔ですっごく睨むの…!」
愛羅はオカルンの傍に寄り、シャコの蛮行を言いつける。
あのシャコ。助けてもらったくせして、クリオネの子が皆のそばに居ると、警戒心バリバリなのが本当やな感じ。あの子は気を使って隠れちゃうし、守ってあげようとする優しい美少女な私と離れ離れ…。
彼女は怯え震えるクリオネの子を想像し、抱きしめて守ってあげたくなった。愛羅の妄想は加速する。
あの子は
彼女は思い込みが激しく、しかし純粋に可愛いものを心から愛していた。
柔らかくて、素直で、命を助けてくれて。ぬいぐるみみたいに可愛いクリオネ星人に愛羅が一番絆されていたのだ。
シャコ星人は居住まいを正し、声を潜めて言った。
「…悪いことは言わないです。ライムズ星人と関わるのは止めた方がいいでいス」
「ライムズ星人…? クリオネさんに何かあるんですか?」
「なによ、攻撃してきたあんたの方が余っ程危険だわ」
愛羅は眉を顰める。
こいつ、卑怯だわ。あの子がお姉様と話をしていていない隙に、この
あの子が、選ばれし私を守る守護天使だから!!
「私はもうあなた方を傷付けないと約束しました、でもライムズ星人は違います。アレはボディガードもする私たち@#/&の間じゃ、よく話に出てくる人たちでいす」
「その話って…!?」
オカルンが前のめりで食いつく。
宇宙人の業界事情! 傭兵宇宙人、その話に上がるライムズ星人とは一体…!?
「昔からライムズ星人はよく人を襲います、特に希少な技術を持つ人を狙う人たちでいス。知識欲のためなら何でもするという、悪い噂ばかりありまぁす」
シャコ星人は大きな体を小さく屈め、声を落として続けた。
「あなた方みたいに特殊な力を持つ人たちとライムズ星人が一緒にいるのは危険です。いつ襲われるか分からないでいス」
「あのクリオネさんって、人を襲う宇宙人なんですか…!?」
「友好的ではないと聞きまス、だから警戒してました」
オカルンが声を押し殺すのを聞き、愛羅はクリオネ星人が疑われ始めた事に気づいた。
いけない、高倉くんまであの子が悪者だって騙されちゃう!
「ちょっと、だったらあの時あんたと一緒に襲ってきてたでしょ! あのセルポとかいう奴に誘われても私たちに味方してくれたのよ!」
愛羅は眦を吊り上げ、シャコ星人に反論した。
私が溺れてる時、私が抱っこしてる時、私たちの呼吸をサポートしてくれた時。
友好的じゃないなら、あの子はいつだって私たちを攻撃できた。
でもしなかった!
私が、選ばれし美少女戦士だから!
愛羅が内心で完璧なフォローだと自画自賛する中、桃はクリオネ星人との会話を思い返して「うーん」と唸る。
「でも確かに、あいつ婆ちゃんに頼りたいからウチらに味方しただけだし。用が済んだら襲ってくるかも」
「その可能性はありますね…」
「高倉君まで! シャコの話を信じるの!?」
宇宙人に3度襲われた桃たちと、今回が初の襲撃だった愛羅で意見が別れた時。
『誤解です。私はそのような事は致しません』
声が割り込む。
全員がギョッとして辺りを見回した。
どこから話しかけてきているのか、頭の中に響く声は耳で出処を探しようもない。
こんな事ができるのはこの場でたった1人だけだ。
「っだあ、急に喋りかけんな! ビビるだろがい!!」
「聞いてたんでいスか!」
『
偶然戻ってきたのか、はたまた盗み聞きか。
ガラリと障子戸が開けば、無機質に浮かぶクリオネ星人がそこにいた。
顔がないせいで、何の感情も伺えないのが異様な緊張感を生む。
部屋にするりと入ってきたクリオネ星人に、シャコ星人が警戒を顕にバッと立ち上がり拳を構えた。それに釣られ、桃とオカルンも座布団から腰を浮かせる。
クリオネ星人は拳を向けられ、ピタリと宙に静止した。
「ちょっと待ちなさいよ! ねえ、あなたたちが人を襲うって話、誤解か何かなんでしょ?」
愛羅が拳の前に割り込み、庇う。
彼女は信じていた。悪い噂はただのデタラメで、何かの間違いだと。
『いいえ。それは正しい情報です』
間違いじゃなかったらしい。
「じゃあ危ねえ奴じゃねえか!! ボケコラ、本性出しやがったな!!」
「そんな…! 私たち、争いあう運命なの…!?」
桃はシュパッと立ち上がり、シャコ星人の横でファイティングポーズを取った。
愛羅が悲劇のヒロインじみた悲しげな顔と仕草で、クリオネ星人へ訴えかける。
それに対しクリオネ星人は首を横に振った。
『ですが、それは古い情報でもあります。旧世代の話です。私たちの世代は襲いません』
「あ、そうなんですか?」
「騙そうとしているだけかもしれないでいス」
真偽不明の弁明にシャコ星人が睨みつけるも、それを気にも止めていないのか。表情の分からないクリオネ星人は淡々としたリズムで話を続けた。
『ライムズ星人の知識欲が強く、目新しいものを好むのは事実。しかし、我々の世代は他所と交流をし、学びを得て知識を身に付けております』
クリオネ星人は誇るように、後ろ手に胸を張る。
『新たな発展を進め、次の技術者を
「ほおお!! 宇宙人にも世代で考え方の違いがあるんだ…!! 要するに古い世代の名残りで誤解されてるわけで……大変じゃないですか!」
『よく混同されます』
オカルンは遠い宇宙、遥か彼方の銀河系に思いを馳せ、鼻息荒く眼鏡をカチャつかせた。
オカルトオタクが理解を示すその一方。
パンピーギャル2名は小難しい話に頭が追いつかず、とりあえず目の前にいるクリオネ星人が敵じゃないことだけ何となく理解した。よく分かんないけど、なんか誤解らしいってよ。
「それっぽいこと言ってんな。大丈夫そうじゃね?」
「あなたは私たちのこと襲わないでしょ?」
『はい。勿論』
「じゃあ安心ね、警戒してんじゃないわよシャコ!!」
「何の根拠もない話を信用し過ぎでいす!!」
愛羅がクリオネ星人の頷きにニッコリ笑い、シャコ星人を指さし責める。
シャコ星人は素直に信じすぎる地球の子供たちに訴えの声を上げた。
『では、なぜ私がこの地球に来たかをお話しましょう。それで信用に足りるでしょうか』
「おいクソ饅頭」
──ターボババアが薄目を開け、クリオネ星人を威圧する。
彼女は食後に横になり、この場で真剣な話をされようと我関せずで寛いでいた。
そんなターボババアの豹変に皆が気圧される。
クリオネ星人は、ターボババアが何を言いたいか分かっているように涼しい顔で──或いは神妙に、頷いた。
『問題ありません。責任を持って、言葉は選びます』
「喋んなっつってんだよクソだらあ。口が滑ったらタダじゃ済まねえぜえ」
『はい。承知の上です』
ターボババアは脅すようにクリオネ星人に睨みを利かせ、桃に首根っこを吊るしあげられた。
「ババアは黙ってて! ウチらが聞きたいんだから!」
「そーよこの白ブタ! 黙りなさい!!」
「クソが、いい度胸だボケ。表出ろぶち殺したらぁ!!」
「話が進みませんから! ターボババアはあっち行っててください!!」
「このボケ共が。クソだぜぇ」
クリオネ星人とシャコ星人が互いに向かい合い、静かに牽制し合う中で。
ターボババアは口汚く捨てセリフを吐きながら、部屋の隅に追いやられたのであった。