私は宇宙人   作:蒲鉾三田

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第八話 説明って長くなるじゃんか

 

 太陽は地平線に浸かり、茶の間には日没の光が射し込む。

 時期に冬になるせいか、日が沈み始めると少し肌寒い。

 

 オカルンは夕暮れ時の居間を見る。

 日本の古式ゆかしい家屋にシャコとクリオネの宇宙人がいる光景は、未だにチグハグで奇妙だった。

 皆がテーブルを囲む中。その中心でぽっかり浮かぶクリオネ星人は夕焼けのオレンジに染まり、まるで古い裸電球のよう。

 

 オカルンは胸がドキドキしていた。

 彼はずっと宇宙人の話を聞きたくて仕方がなかったのだ。不謹慎かもしれないが、それでもやはり期待が止められない。

 

 殴られるだけでガラスのように簡単に砕ける生命が、虫を惹き付け殺す誘蛾灯にも似た色でぼんやりとコアを青く光らせる。

 クリオネ星人は凍った湖を連想させる波も温度もないテレパシーで、学生たちに語り始めた。

 

『私が地球にやって来たのは、我々が伝染した()()()()──呪いを解くためです』

 

 桃の飲みかけのコップから、ふわりと牛乳が浮かび上がる。

 牛乳が無重力に放り出されたように宙にまぁるく浮かべば、学生3人は「おおっ」と感嘆の声を揃えた。

 

 オカルンは前のめりで食い入るように牛乳を見つめ、その表面に違和感を覚える。

 よく見れば学生なら誰もが覚えのある形に凹凸があった。6つの大陸と海洋。これは牛乳で出来たミニチュアの地球だ!

 

 あぐらをかいていた桃は「器用なことすんじゃん」と途端に面白くなってきて、玩具をひっくり返す子供のように白い地球を覗き込んだ。

 

『地球にはライムズ星人の調査隊がいました。他の惑星の生物や文化を調査し、記録するのが当時の彼らの役目でした』

 

 地球がクリオネの形に変わり、コップから牛乳が犬や猫の形になって飛び出す。

 牛乳製のクリオネは興味津々というように犬たちに顔を寄せては触覚を揺らし、コミカルに動いた。

 その可愛らしい光景に愛羅が顔を綻ばせる。

 

『調査隊は私の──そう。この惑星の言葉では生徒や教え子、でしょうか』

 

 人形劇は踏み荒らされる前の雪のように柔らかく、氷の彫刻のように動かない操り手の力で息づいていて。

 

『その生徒たちが地球で()()されました』

「え」

 

 愛羅が小さく声を漏らした。

 牛乳がバシャリと音を立て、命のない液体に戻る。

 

 慈しみ、香りを楽しんでいた野花を唐突に蹴り飛ばされるような。それより遥かに残酷な出来事に彼女の背筋は凍った。

 

『調査の最中、とある呪いに感染したのです』

 

 桃は牛乳が途端に得体の知れないものになった気がして、コップから手を離す。

 オカルンは息を飲み、クリオネ星人を見詰めた。

 

 美しいマジックアワーに照らされていた部屋は気付けば色褪せ、音もなくやって来た暗闇に知らぬ間に侵食されている。

 風のない雪の日を連想させる淡々としたテレパシーは、しかしどこか重苦しい雰囲気を纏っていた。

 

『呪いは我々の()()を貫通し、調査隊全ての()()を同時に死亡させました。惑星ライムズに残っていた、彼らの分体も』

 

 クリオネ星人の続けた言葉は難解で、オカルンは思わず口を挟んだ。

 

「待ってください! “特性” って何ですか?」

「 “分体” っていうのもよく分かんない。セルポみたいなクローンってこと?」

 

 桃も疑問に追従し、首を傾げる。

 

『疑問をそのままにしないのは()い事です』

 

 クリオネ星人は相変わらず感情の色彩が欠落した声で──それでもどうしてか先ほどの言葉より滑らかにテレパシーを紡ぐ。

 牛乳が再びクリオネの形に浮かび上がり、真ん中から縦にぷつりと割れた。牛乳のクリオネは2匹に増える。

 

『我々は脆く死にやすい。その代わり、自身を “分裂” させる事ができます。意識を共有する事ができるため、同一人物でもあり。我々は母星に自分の複製体(バックアップ)を残して宇宙に旅立つのです』

 

 牛乳のクリオネが、同じ仕草で宙にくるくると円を描いた。

 

「分体と意識が共有できるってことは…現地でもし死んでも、母星に記憶だけ持ち帰れるってことですか!?」

Genius(素晴らしい). オカルンは賢いですね、優秀な理解力を持っています』

 

 即座に本質に辿り着いたオカルンを、クリオネ星人は手放しに褒めた。

 

『話を呪いに戻しましょう』

 

 牛乳製のクリオネたちが形を崩して流れ落ち、コップの中に収まる。

 

『この呪いは、その調査隊の分体を通して惑星ライムズにやって来ました。そして──』

 

 講義中の教師のようなシャンとした語り口が、ほんの僅かにテンポを乱す。

 

『軽率にも、我々は呪いに触れてしまった。ウイルスのように、触れてはならないものでしたが。そうと気付いた時には、もう手遅れでした。我々は無知でした。知らなかった…識ってしまった』

 

 

『呪いは条件を満たすと他者にも伝染(うつ)ります。猫の方が忠告されていたのはこの事です』

 

 

「呪いが伝染る!?」

 

 部屋の隅に追いやられていたターボババアが白目を剥き、ケッと刺々しく悪態をついた。

 全員がその話に色めき立ち、桃がハッとして声を上げる。

 

「いや、でもそっか! オカルンがターボババアに呪われた時も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか言ってたわ!」

 

 オカルンも苦い記憶を思い出す。あの時はターボババアに呪われたばかりに何度も体を奪われ、綾瀬さんと星子さんに迷惑をかけた。

 

「呪いが()()して感染する…でしたっけ。ターボババアの時も強力な呪いでしたけど、この呪いも強い妖怪の仕業なんでしょうか」

「ええっ!? この猫そんなヤバい奴だったの!?」

 

 愛羅は驚いて、寝転がったままふんぞり返るターボババアを見下ろす。

 この生意気な口を効くちんちくりんの猫畜生が!?

 

 矢継ぎ早な情報の錯綜の中。

 シャコ星人は最悪の事態に思い至った。

 

「まさか、もう伝染ってないでぃすか!?」

「え゙っ」

「嘘でしょ!?」

 

『ご安心を。現時点で呪いにかかれば(おのず)と理解します。あなた方は問題ありません』

「うわ、怖え〜」

「ちょっとシャコ、止めなさいよ!」

「ほおお…」

 

 指さすようにシャコ星人のグローブが突き付けられ、クリオネ星人は丁寧に返答しながらも横にスーッと水平移動した。嫌だったらしい。

 桃の頭に算数の動く点Pが過ぎっていく。

 

『呪いの感染により、為す術なく()()のライムズ星人が呪いに侵されていきました』

 

 クリオネ星人は仕切り直すように話を進める。

 

『この呪いには死ぬまでの条件と猶予があります。それでも、何れは限界が来る。抵抗の術を持たない我々に待つのは、苦痛に満ちた死と滅亡のみ』

 

『そんな中。私はこの呪いをコア()から取り出す技術を生み出し、同胞を呪いから解放することに成功しました』

 

 さらりと告げられた言葉にオカルンは「ええっ!?」と素っ頓狂の声を上げた。

 ()()()()()()()

 そんな技術を作れる時点でこの人、ただの一般宇宙人じゃない…!

 彼のメガネは疼く好奇心と興奮で白光りする。

 

『しかし呪いは生きている。誰かが母星から呪いを遠ざけなければならなかった。私は母星を発つ際に一縷(いちる)の望みをかけました。この呪いがあった星になら、抗う術があるのでは、と』

 

『私が教え、育んだ優秀な生徒たち。しかし好奇心が強く、危険を顧みず。呪いを宿し…無惨に殺されました』

 

 そんな彼の興奮も、テレパシーで受け取る言葉の重みに鳴りを潜める。

 

『これは教え子たちが仕出かした呪いの騒動の後始末でもあり、仇討ちでもあります』

 

 桃はクリオネ星人を見た。

 声は平坦で、寒天みたいな顔はその上で福笑いできそうなくらいののっぺらぼう。…だけど。

 こいつなりに、悔しさを必死で伝えようとしてるんだ。

 

 あぐらをかいて丸くなっていた彼女の背が、その信念に当てられ姿勢を正す。

 シャコ星人も思うところがあったのか、神妙な面持ちで拳を下ろした。

 

『この星が最後の希望です。呪いをこの身に宿す限り、母星に帰れず余命も残り僅か。私は生徒たちと同じ悲惨な末路を辿るでしょう』

 

『呪いを媒介させぬよう、母星に分体はおりません。私は命懸けでここにいます。どうか、信じて頂けませんか』

 

 今まで頭に響いていたテレパシーが途絶える。

 目の前に浮くクリオネ星人はそれっきり黙り込み、部屋が重い沈黙で満たされた。

 

 そんな中。

 桃はおもむろに立ち上がる。

 

「あんたがシャコの言う通り、悪い奴だって可能性もある」

「綾瀬さん」

 

「でも、あんたにまだなんかされたワケじゃないし。あんたが死んだ生徒のこと大事にしてたってのは、話聞いて分かった。切羽詰まってるのもね」

 

 得体の知れなかった宇宙人の話を聞いて、桃はクリオネ星人に強い眼差しを向ける。

 

「安心しろクリオネ。あんたの呪いが解けるまで、ウチと婆ちゃんが助けてやっからよ」

 

 オカルンも座布団から身を乗り出した。

 

「ジブンも…! 何か力になれるなら、助けになりたいです。セルポとの戦いで、それだけのことをクリオネさんにはしてもらいました!」

「私は最初からあなたの味方だわ。だから遠慮なく頼ってちょうだい! この美少女戦士 愛羅が助けてあげるんだから!!」

 

 オカルンと愛羅が力強く宣言し、クリオネ星人を見つめる。

 夕闇に覆われた部屋でも、嘘偽りのないその瞳たちは強い意思を宿して一等輝いていた。

 

 生気のない氷像のように佇んでいたクリオネ星人は、そこでようやくその触角を僅かに動かす。

 

『宜しいのですか』

 

 手を貸すとまで言われると思っていなかったのか、ただ信用を得られるだけでよかったのか。

 クリオネ星人は途端に人情味のない無機物から感情のある生き物に変わったように、ヒレをパタパタと動かした。

 

 オカルンはその様子を見て、ふと思う。

 もしかしたらクリオネさんも、緊張して固くなってたんだろうか。

 感情を失ったセルポと違って、クリオネさんには人間に伝わりにくくても喜怒哀楽があるのかもしれない。

 まあしかし、驚いているのか喜んでいるのか。その姿が水族館で泳ぐクリオネそのものだったので、彼に判別はつかなかったが。

 

 シャコ星人はもう何を言っても無粋だろうと分かりながらも、最後にクリオネ星人を真っ直ぐに見つめた。

 

「桃さんたちが納得しているなら、私から言うことはもう何もないでぃす。でも恩人のこの人たちに手を出したら、あなたを許さないでぃス」

『はい』

 

 クリオネ星人はそれに短く言葉を返し、桃の方を向く。

 

『皆様、心からのお礼を。感謝します』

 

 ヒレをちょんと前に折り畳んだクリオネ星人は、まるで人間のように、桃たちへ深々と頭を下げた。

 

 

 □

 

 

「あんだけ格好付けといて自分で呪いにかかるなんて、あんたバカァ!?」

()()()()()見るなとは言われても、()()見るななんて言われてねーから!! ウチは悪くねー!!」

「屁理屈だ! 見る必要なかったでしょ!!」

「はあ!? てめえの無くした金玉探してんだろうが!! ()だったら気になるだろがい!!」

 

 

 何やってんだお前ェ!!!

 

 

 時はほんのつい先ほどに遡る。

 神社の上から地球とはかけ離れた文明の宇宙船が、色んな意味で頭が痛くなる傍迷惑な爆音で飛び立ったばかりだったのだが。

 

 次の騒動は、息付く間もなく巻き起こった。

 

 遠い街の灯りで群青色に染まる、静まり返った星空の下。

 ギャーギャー言い合う桃たちを見ながら、私は途方に暮れて念話を零す。

 

『本当に、困りましたね』

「うちの孫は面倒事ばっか起こしやがるからなぁ」

 

 どす黒く()()玉を両ヒレで抱え持つ私の横で。お祖母様はタバコの煙を燻らせながら明るい夜空を遠く見上げ、ヤニと実感の籠った重たい声でそう言った。

 

 

 

 話をしよう。

 あれは@#/&にライムズ星人の噂話を入れ知恵され、頼れる地球の少年少女たちと危うく敵対する所だったその後の事だ。

 

 袋叩きを免れ、それどころか嬉しいことに異能者の助っ人を得た私は、一度自分の宇宙船の所へ呪いの詰まった玉を取りに戻った。

 桃のお祖母様に詳細をぼかして呪いのことを相談したら「現物を持ってきな。そうじゃないと判断がつかねぇ」と言われたからだ。ご(もっと)もである。

 

 乳牛を連れて自分の星に帰還する@#/&の船を道中で見届けつつ。お祖母様の所に戻ったまでは良かった。

 

 問題はその後。

 持ってきた呪いの塊である玉を桃がうっかり()()しまったのだ。

 

 鳥居を潜り戻ってきた私が、宇宙船の見送りで外に出ていたお祖母様へ玉を渡したその時。

 突如として桃が驚愕に目を見開き、()()()()()()()様に叫んで顔を庇ったのである。

 

 私はその反応に、体に流れていない血の気が一気に引いた心地になった。ない胃に穴が空くかとも思った。まあ全て気のせいなんだが。

 目の前で起きたことも気のせいだったら良かったのにね!!

 

 十中八九、桃は怪異のあんちくしょうからジャンプスケアを食らったに違いない。

 見た途端にジャンプスケアとかあのカス! ボケ! 安直ホラー! 人をバラバラフェスティバル! 絶対ぶっ殺してやる…ぶっ殺してやるからな!!!

 

 桃が視たものは幻覚で実害はないのだが、その後がまずい。

 桃が怪異に()()()()()しまった。

 

 そりゃ霊媒師を探すために手段を選ぶつもりはなかったし、解呪を渋られたら呪い伝染して「ぐへへ、こいつがどうなってもいいのか…!?」するつもりとかもあったけどさぁ! 今じゃないよね!! うお〜〜どうしよ〜〜〜。

 

『桃…視えましたか』

「あ〜、うん。見えたわ、黒い『それいじょういけない』ちょ、急にどうした!?」

 

 いっけね、咄嗟に止めたから母星語が。

 

「ほおおー! それってライムズ星人の言語ですか!?」

「シャコのとは違う音の響きなのね」

 

 ワンモアテイク。

 

『失礼。全員殺す気ですか』

「ウォイ! 物騒だな!?」

「呪いが伝染る条件って、そんなに単純なものなの?」

『はい。“認識” がトリガーになります』

 

「認識!? じゃあクリオネさんが頑なに呪いが何なのか言わなかったのは、それだけで呪いが感染するからですか!?」

 

 YES! YES! YES!

 

「何それ! 高倉君にかけられたっていう呪いの話でも思ったけど、呪いってみんなインチキじゃない!」

『知ること自体が危険な、非常に取り扱いの難しい呪いです』

「そりゃターボババアが喋んなって言うわけだ。ウチもポロッと口が滑りそうだぜ」

 

 桃が指先で口を抑えながら、真剣味にかける声で「うへぇ」とボヤいた。

 

 怪異の容貌を知っただけで伝染るかどうかは分からないが、呪いの侵入経路がまだ未知でしかない以上は未然に防ぐしか手立ては無い。

 まあ桃が呪われた時点で手遅れなんですけど!

 

『桃。残念なお知らせが。今からあなたは眠ると死にます』

「はあ!? なんだそりゃ!? ウチ普通に今日のゴタゴタで疲れてんだけど! 今からオールしろとか言われても無理だし!!」

 

 そうだよね、昼間に校舎をプールにした命懸けの大運動会をしたもんね。そりゃ疲れてるし当たり前に寝たいわな。

 だがこのままだと桃が死んでしまう。

 桃が死んだら厄介事を持ち込んだ私の心象も悪くなるし、とにかく桃が寝てしまう前に何とかするしかないけど…。

 

 私は最後の希望であるお祖母様を視た。

 オカルンが焦りに焦った声で言う。

 

「この青い玉が元凶みたいな物なんですよね!? 何とかできませんか星子さん!」

「ありゃ無理だな、随分ひでぇ量の呪いが固まってやがる。少なくとも1日やそこらで何とかなるシロモンじゃねえ」

 

 すみません、それ母星で同胞が呪いを広めちゃった結果の産物っていうか…。

 愛羅がふと私を見て、頬(に見える部位)を手でもちもち挟んだ。なんじゃい。

 もしかして愛羅ちゃん、私のことスクイーズ( ぷよぷよ玩具 )だと思ってる??

 

「あなたは寝たりしなくても平気なの?」

『2ヶ月近く休眠しておりません』

「クリオネさんそんな寝てないんですか!?  いや、もしかして寝なくても生きていける宇宙人だったり…!」

『そろそろ死にます』

「ダメなんじゃねーか!! ウチはそんな狂った真似そもそもできねえし! 婆ちゃん何とかならない!?」

 

「落ち着け。呪いの玉はどうにかできねえが、これはただの呪いの塊でしかねえ。元凶は別だ」

『はい。そしてそれは我々のすぐ側にいます』

 

 強い語気で言う桃に対し、お祖母様は全くペースを崩さない。

 桃のお祖母様は強い念を持っているのか感情を嗅ぎ取りにくく、真顔でいられると余計に何も分からなくてハラハラしてたんだが。

 だが少なくとも彼女は取り乱していないので、何か手立てがあるのだと思う。

 

「早急にカタをつけるしかねえな。うたた寝しようもんなら()()()()()()ぜ。桃、いますぐ家に入れ」

「わ、分かった。そっからどうしたらいい?」

「ジブンも手伝います!」

 

 お祖母様は咥えたタバコを揺らし、オカルンに背を向けた。

 

「テメェらガキ共はとっとと帰んな。もう夜だ、明日に響くぜ」

 

「ええ!? 待ってください!! 綾瀬さんが死ぬかもしれないのに、そんなのってないですよ!」

「お姉様! 私も手伝います! 流石にこんな状態で放り出して帰れないわ!」

 

 関わらせる気のないその背に、2人が口々に叫ぶ。

 

 戦力が多い方が個人的にはありがたいんだが…大人的には子どもの安全を守りたいんだろう。

 戦いに既に巻き込まれているならまだしも、彼らはそうじゃない。この場の決定権は状況をどうにかできるお祖母様にある。

 

 下手に首を突っ込むと不信感を抱かれるだろうし、ここは大人しくお口チャック。黙っとこ。

 

「これは強力な呪いだ、他所のガキ2人巻き込めるかよ。こうなったのは呪いを不用意に見ちまった桃の責任だからな」

「でもジブンがターボババアに呪われた時、綾瀬さんに助けられました!!」

 

「オカルン」

 

 お祖母様が突き放そうとするその言葉に、オカルンが食ってかかる。

 握った拳を腹の横で固めた立ち方は変に力が籠ってぎこちないし、明らかに大声を出し慣れていない。それでも不器用に叫んだオカルンに、桃が彼の名をぽつりと呼んだ。

 

「ジブンが嫌なんですよ! 巻き込んでくださいよ!! このまま帰って綾瀬さんが死んだら、そんなの、ずっと後悔するに決まってるじゃないですか!!」

 

「綾瀬さんの呪い、ジブンがどうにかしますから!! それまで、絶対に帰りません!!」

 

 思いの丈を全部口から吐き出すような、そんな必死さでオカルンは言い切った。

 そうして梃子でも動くものかと聞かん坊のように肩をいからせ、つま先をグッと踏ん張っている。

 @#/&の時も私の時も彼は心を砕いてくれたが、桃への感情は特に深い。

 

 そんなオカルンを見た愛羅がツンと顎を上げ、桃をジロリと睨んだ。

 

「ちょっと、綾瀬 モモ。高倉君にそんな事言ってもらったからっていい気にならないでよね。悪魔であるあなたの事はどーでもいいけど? 私は高倉君とこの子の為に、ここに残るわ!!」

 

「バカ女」

「それにリーダーはこの私。私がいなきゃ始まらないでしょ」

 

 なんて分かりやすいツンデレなんだ愛羅ちゃん。

 桃とは口を開けばいがみ合う仲だが、互いが死んで喜ぶ仲じゃない。あれは棘のある女同士のじゃれ合いなのだ。

 

 眉を下げる桃の横顔にお祖母様は目を細め、タバコの煙を(くゆ)らせた。

 

「いいダチ持ったじゃねーか、桃」

「バカ女はちげーけどな。でもま、結果的にウチの安眠を守ってくれんなら感謝しようじゃん」

 

「オカルンも…ありがと」

 

「いえ、当然のことです。綾瀬さんには何度も助けてもらいました。今度はジブンが綾瀬さんを助ける番です」

「…ほーん? 随分男らしいこと言うようになったじゃ〜ん? 筋トレの成果か〜?」

「か、からかわないでください!」

 

 オカルンは恥ずかしがり、メガネを持つフリで赤くなった顔を隠す。

 そんな彼を見つめてはにかむ桃から、なんだか甘酸っぱい香りがするんですけど〜? あらあら〜。

 

 ロマンスだ〜ぁっ!

 前世でもこんなウブなやり取り見たことないし、ライムズ星人に恋愛も結婚もないからこんなんキュンキュンしちゃ〜う。

 

 顔を隠すオカルンに、桃はどうにも嬉しくなったようでつついてからかった。

 そこへ対抗心に燃える愛羅が妨害するべく、桃に掴みかかる。平和で何気ない光景。

 

 桃たちが取っ組み合うその光景を、お祖母様は静かに見つめていた。

 私はそんな彼女だけに念話を絞り、そっと話しかける。

 

『お祖母様、申し訳ございません』

「心配すんな、あいつらも死にたがりじゃねえんだからよ。ワシもできる限りの事はやるさ」

『はい』

 

 明日の朝日が拝めるといいね。

 

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