ウマ娘 SS短編集   作:本田直之

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黄金、衝突

セイウンスカイはバ群から6バ身程差をつけて先頭を走っていた。

序盤から先頭の位置につき、大きく逃げてからのペースダウン。上手くペースを調整してスタミナを温存しつつ、競争相手のスピード感覚を狂わせる技術。レースのペースをコントロールし支配する逃げの極地。

これこそ彼女が積み上げてきた、真の天才を凌駕するための手段。彼女がトレーナーと創り上げた努力と頭脳の結晶だ。

並のウマ娘なら追い付くことの出来ない状況。だが、彼女は油断しない。気を抜かない。

何故ならーー

 

『第4コーナーを通過して最終直線に…これは!!』

 

実況の息を呑むような声が聞こえる。何があったかは言うまでもない。既に視界の隅にその姿がちらついている。

 

『エルコンドルパサー!エルコンドルパサーが来た!』

 

真紅のマントをはためかせたウマ娘、エルコンドルパサー。彼女が差を縮めてきているのだ。いや、それだけでは終わらない。

蒼、紫、緑ーーー

更に後方から見覚えのあるシルエットがやって来る。

 

『スペシャルウィーク、グラスワンダー、キングヘイロー!先頭集団を猛追!何という末脚!!』

 

そう、今日のレースは【特別】だ。『黄金世代』と呼ばれる私達が、初めて一堂に会するレースなのだから。

 

「そりゃあ…追いついてくるよね」

 

同期の実力を目の当たりにして苦笑が溢れる。私の仕掛けた策を真正面から破るなんて、どんな化け物だって話だ。以前の私なら諦めていたかもしれない。けどーーー

ターフを踏み締める足に力が入る。今日は、今日だけは、何が何でも負けられない。

 

「まだまだァ!!!」

 

残ったスタミナと足を総動員して加速する。他のウマ娘がついてこれなくなる中、4つの影は足を緩めない。その差は最早数バ身まで縮まり、リードなど無いも同然だ。

 

「あはっ」

 

自然と口角が上がる。これが恐怖か。あるいは歓喜か。私の体が、魂が、奴らを叩き潰せと叫んでいる!

 

『やはりこの5人だ!最早言葉は要らないのか!!』

 

実況の煽りと共にボルテージが最高潮に達する会場の片隅で、『皇帝』と『スーパーカー』はレースを見守っている。その視線は先頭争いをする5人の姿に注がれていた。

 

「ルドルフ、あれって…」

 

「ああ、そうそう見れるものではない。まさか…」

 

ソレを見て笑みを浮かべるルドルフ。その言葉の節々に、彼女らへの称賛と羨望が籠もっている。その理由はただ一点。

己の全身全霊を振り絞り、一着を譲るまいとする5人の目からは、鮮やかオーラと紫電が放出されていたのだから。

 

「5人同時に【領域(ゾーン)】に入るとはな」

 

「私が」「私が」「ワタシが」「私が」「私が」

 

「「「「「勝つ!!!!」」」」」

 

残り200m。決着はすぐそこに。

 

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