「……ッ!!!??」
唐突な尻尾の感触に体を震わせる。なんてことのない平日の夜。特別な日でもない。私はいつも通りにスケジュールに則って寮の部屋で就寝の準備をしていただけ。なのに―――
「フンフンフ~~~~ン♪」
隣にやってきた同室のファルコンさんが、自身の尻尾を私の尻尾に搦めてきたのである。それも、まるで位置もやっているような気安さで。きっかけは分かる。今朝のトレセン学園中で話題になっていたドラマ最終回の尻尾ハグだろう。でも、なぜ今…何故私に…?理解できない事象に頭が一瞬ながら混乱している。
「…理解できません」
当人に問い詰めるも、ファルコンさんは問題であるという意識が稀薄であった。むしろ、お互いに尻尾ケアをしている関係だから今更だとすらのたまっている。ちょっと責めるような言い方をすると、少し残念そうなファルコンさんは私を見つめ一言。
「フラッシュさんは、ファル子とするの…嫌?」
「――――――違います!!」
嫌なわけじゃ断じてない。ファルコンさんならスケジュールをずらしても良いと思う程度には好きだ。今回だって唐突にされて驚いてしまっただけで、しかるべきタイミングであれば断りはしなかった。そう伝えると、彼女は安心したようで嬉しそうな表情を浮かべてベッドの方へ歩いて行った。
「…ファルコンさんは卑怯です」
彼女には聞こえない声量でひとりごちる。会話の後のあのタイミングで友情を確かめる問いをされてしまえば、こちらとしてはそれを否定せざるを得ない。あれを無自覚にやってのけるのだから恐ろしい。ファルコンさんは以前カレンさんが恐ろしいなんて言っていたが、私からすればどっちもどっちだ。でも―――――
「私としても口実が出来たので良しとしましょう」
私とて尻尾ハグに興味が無いわけではない。今度予定を空けて堪能しようと心に誓った。
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何だかスカーレットの様子が変だ。今朝は何事もなかったが、帰ってきてからの挙動がどこかたどたどしい。かといって、あいつの性格上理由を聞いても凄まれるのがおちだろう。そう考え、暫く放っておくことにした。そのまま時間は経過し、特に変わったことも無く消灯時間になる。オレは寝巻に着替えて布団に潜り込んだ。そして眠気に促されるまま目を閉じようとした時、スカーレットのベッドの方から足音が聞こえた。トイレにでも行くのかと思っていると、衣擦れの音と共に何かが潜り込んでくる。思わずそれに背を向けるように横向きの姿勢をとってしまった。周囲には知っている匂いが漂い、見覚えのある赤みがかった栗毛が視界の端を横切った。
「…スカーレット?」
押さえた声で問うも反応が無い。そのままの時間が過ぎ、何のつもりか再度聞こうとした時だ。下半身…いや、尻尾に何かが絡みつく感触がする。手足ではない特徴的な感覚。オレの尻尾に絡みついているのがスカーレットの尻尾なのだと気が付くのに時間はかからなかった。思い出されるのは今日の学園。人気ドラマ『Loveだっち』の最終回で披露された尻尾ハグが皆の話題になっていた。もしかして、あいつまでそれに感化されたのか?
「お、おい!スカ――――――」
「黙って!」
体を起こそうとするも制止される。スカーレットは何を考えている?尻尾ハグは本来特別なパートナー相手にするものであるはずだ。それを何でオレなんかにやるんだ?頭が混乱して考えが纏まらない。そんな心境を知ってか知らずか、スカーレットが口を開いた。
「…こっち向かないで…このままいさせて…」
いつもの喧嘩みたいなピリピリした空気は無い。あいつの言葉自体もどこか優しく語りかけるような口調だ。混乱が落ち着いてきた頭で考える。スカーレットとは日々衝突するものの、それなりの交友関係を築いてきたつもりだ。お互いに悩みを打ち明けたりすることもある。心を許せる相手であるのは間違いない。では、あいつにとってのオレはどうだ?もし、あいつが表に出さないだけで好意を向けているのだとしたら?そう考えればスカーレットの言動が線で繋がるのではないか?そう考えが至ってから、こっぱずしさで顔が熱くなってきた。でも不思議と不快感は無い。いや、寧ろ心地いいとすら感じている。オレもあいつが好きということか。
「…しかたねぇな」
スカーレットの気が済むまで、尻尾ハグを続けてやろう。