ウマ娘 SS短編集   作:本田直之

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アルチヨと太もも

「アルダンさ~ん?」

 

サクラチヨノオーは同期のメジロアルダンを探していた。先程クラスの教諭からアルダンへの届け物を預かったのである。依頼を後回しにするわけにもいかず、アルダンの居そうな場所を虱潰しに当たっているが見つからない。残る候補はアルダンの担当トレーナーのトレーナー室のみだ。

 

既に多くの生徒がトレーニングに出ている時間帯。閑散とした校舎の廊下を通って、トレーナー室に辿り着く。ほんの少しの照明が上部の小窓から漏れていた。誰かが使っていることは間違いなかった。扉をノックするも反応は無い。鍵が空いていたので扉を開くも人の姿は無かった。席を外しているのかと思い立ち去ろうとするチヨノオーの耳が微かな吐息の音を捉えた。不審に思って中に侵入した所で、その発信源は明らかになった。

 

「あぁ、こんな所にいたんですか…」

 

丁度入口から見て死角に置かれたソファー。そこでアルダンは寝ていた。寝ている彼女を起こすのも忍びなく、チヨノオーは傍の机に届け物を置いた。ここで帰っても良かったのだが、アルダンがこんな所で寝ているという状況の物珍しさがチヨノオーの足を止めたのである。

 

「気持ちよさそう…」

 

アルダンは仰向けになって寝ていた。その背もたれに身体を預けるようにして、気持ちよさそうに寝ていた。その安らかな表情はいつもの深層の令嬢としてのイメージに反して酷く可愛らしかった。思わず笑みが零れるチヨノオー。暫く眺めている内に、彼女はアルダンのある部位に視線を移していた。

 

「アルダンさんの足…」

 

メジロアルダンといえば、よくガラスのように繊細な足が語られる。先天性のどうしようもないハンデを背負いながら、彼女はできる範囲での努力を積み重ねてきた。その痕跡は足を見れば分かる。シミ一つない陶磁器のような肌であるが決してだらしなくはない。アスリートに相応しく、太く引き締まった脚。それを見ている内に、チヨノオーの中で好奇心が湧いた。何故かは分からない。あるのは、彼女がアルダンの脚に触れたという事実だけだ。

 

「うわぁ…」

 

ふくらはぎや太ももを掴むと、チヨノオーの指は白肌にじわりと沈み込んでいった。かといって脂肪は殆どなく、その感触から筋繊維がしっかりと詰まっていると確かに感じ取れた。

 

「アルダンさん…」

 

チヨノオー自身、自分がいけないことをしているという自覚はあった。それは言うなればセクハラと判断されかねない行為。それでも、止めるという選択肢は浮かばなかった。程よい硬さと弾力を両立した脚を揉むこと自体が、何とも言えない中毒性を与えてくるのだ。ドキドキと早鐘を打つ心臓の鼓動を感じながら、チヨノオーはアルダンの脚を揉みしだいた。

 

 

「ん…」

 

流石に違和感を感じるのか、アルダンの口から声が漏れた。それでもチヨノオーの手が止まることはない。手の範囲は次第に拡大し、肌をなぞる指は次第に太ももの内側に伸びていった。高鳴る心音。沸騰しそうな意識。そして、指の先端が脚の付け根まで到達しようという瞬間―――

 

「―――――チヨノオーさん?」

 

聞き覚えのある声がする。チヨノオーが顔を上げると、惚けた顔のアルダンがこちらを見つめていた。僅かな沈黙の後、その状況をようやく理解する。

 

「あああああああアルダンさん!!??こ、これはその…違くて…!!」

 

ついさっきまでどこかにいっていた羞恥と罪悪感が湧いてきて、チヨノオーはしどろもどろになっていた。

 

「わ、忘れてくださいいいいいいいいいい!!!」

 

アルダンが何かをいう前に身体が動いていた。その身体能力を存分に活かしつつ、迅速に扉をあけ放ち、転びそうになりながら飛び出していくチヨノオー。その様子を眺めていたアルダンは、追うでもなくその場に佇んでいる。チヨノオーが行った諸々を認識しつつも、その顔に嫌悪感は無い。その頬は紅潮し、何だか嬉しそうなそぶりすらあった。バクバクと忙しい心臓を落ち着かせると共に、アルダンは誰もいなくなったトレーナー室でひとりごちた。

 

「もっとしていただいても良かったのに…」

 

その後、二人が気まずい関係になったのは言うまでもない。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

アルダンの脚を触ってから、チヨノオーは彼女を意図的に避けていた。それは無防備な彼女の身体を触ってしまったという罪悪感からくるものであり、どうしようもない自分への戒めであった。それに関して周りのウマ娘達も思う所があったが、手を出せずにいた。ただ一人、アルダンを除いては。

 

「あ、アルダンさん…?」

 

「やっと捕まえました」

 

現在、チヨノオーはアルダンにベッドに押し倒されていた。いくら避けてるとはいえど、寮において二人は同室だ。元から避け続けることなど不可能だった。帰ってきたチヨノオーを一瞥したアルダンは、目にも止まらぬ動きで彼女の身体を引き込み、その華奢な身体を己のベッドに倒したのであった。

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

すぐさま先程の非礼を詫びるチヨノオーだが、アルダンがその拘束を解くことはなかった。いや、それどころかチヨノオーの上にのしかかりながら何処か嗜虐的な笑みを浮かべている。心なしか震えているチヨノオーに対して、言い聞かせるように言葉を紡いた。

 

「触った事自体には怒っていませんよ?寧ろ嬉しかったくらいで。えぇ、ただ…チヨノオーさんだけ触りっぱなしというのも不公平だって思いませんか?」

 

「へ………え………?」

 

混乱して上手く飲み込めないチヨノオー。アルダンはその返答を待つこともなく、自身の手をチヨノオーの大腿部に滑りこませた。手の冷たさにビクリと跳ねる肢体。己の脚を揉まれる程、チヨノオーは自分の中にあるナニカが悦んでいるのを自覚させられ、顔を赤らめるしかなかった。それを楽しげに眺めるアルダンの構図は、完全にあの時の真逆だ。

 

「ふふ…羨ましい肌触りですね…」

 

「やぁ……いわないでくださいぃ……」

 

このささやかな仕返しが終わった頃には、チヨノオーは布団にくるまって震えていたという。

 

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