ウマ娘 SS短編集   作:本田直之

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月下の悪魔とトレーナー

今日はハロウィンだ。本来はケルトの祭りだが、日本は仮装の色合いが強い。それはトレセン学園でも同じ様で、各所で仮想した生徒の姿が見られた。私もヘリオスに促されるままに悪魔のコスチュームを着てしまった。似合ってると言われてその気になって、なりきった台詞を言ってしまったりして。皆の熱気に毒されているのだと思う。そんなテンションのままにエモエモ激盛り写真を追求していると、予期せぬ出来事が起こった。ノックの音がした後、教室の外から声が聞こえる。

 

「パーマー、話があるんだけど」

 

聞き覚えのある声がした。私のトレーナーの声。それを聞いてビクリと体が跳ねた。このタイミングは流石に想定外であった。

今の私が纏っているのは、悪魔のコスチュームだ。それもかなり攻めたデザインのものだ。エナメル質の黒の衣装。大胆に露出した腹部や胸元。人外感を出している角や羽や牙。その姿は悪魔そのもの。いや、どちらかと言うと淫魔(サキュバス)の方が近い。ヘリオスが言うように妖艶で扇情的な衣装。それこそ青年誌のグラビアに載ってそうな露出だ。その場で硬直していると、ヘリオスが不思議そうに声をかけてきた。

 

「どったのパマちん?トレぴが読んでるよ」

 

「あ、うん……行くよ」

 

ドアの方に向かう私。その足取りは何処かぎこちなく、心臓は早鐘を打っている。若干顔が熱く感じるが、もしかしなくても紅潮しているのか。

正直これはどうしようもない。私、この衣装が異性の性的欲求を掻き立てる様なデザインである自覚がある。トレーナーは頼りになる大人だか、その前に男の人だ。人並みの性欲は持っている筈。だから、もしかしたら私の格好に興奮してしまうかもしれなかった。そうなれば、今までの関係は崩れてしまうだろう。それが怖くて、竦んでしまっていた。でも、大事な要件なら無視するわけにもいかない。若干の躊躇いの後、私は意を決してドアを開いた。

 

「……おまたせトレーナー。どうしたの?」

 

「悪いな忙しい時に。今度のレースなんだがーー」

 

それまでの葛藤も虚しく、会話は何もなく終了した。私の格好に関してトレーナーは指摘することも何か反応することもなかった。私とトレーナーの関係は崩れることはなかった。懸念は全くの杞憂。それは喜ばしいこと。喜ばしいことである筈だ。なのにーーー

 

「なんだよぉ……」

 

トレーナーと別れた後、私はヘリオスの元に戻ることなく、近場の空き教室で髪の毛を掻きながら机に突っ伏した。さっきから胸の奥がモヤモヤする。トレーナーとウマ娘の関係としてはこの上なく健全だ。それのどこに不満があるというのだろう。

もしかして私は、トレーナーに性的な目で見られるのを期待していたとでも言うのだろうか。確かにウマ娘は人間の男がいなければ子孫を残せない。でも、それを認めてしまったら。私はトレーナーを異性として意識していることになってしまう。否定しようにも、これまでの私がそれを肯定してしまう。

 

「そんな……こと……」

 

収まっていた胸の高鳴りが戻ってくる。揺れ動く心が、トレーナーへの感情の発露を止めてくれない。気がついてしまった。自覚してしまった。最早認めざるを得ない。共に過ごす中で私の心は確かに変化していたことを。あろうことか私はトレーナーに恋慕を抱いたのだということを。

 

「私……は…………」

 

このことが私の人生に如何なるモノを残すのか、このときはまだ知る由もなかった。

 

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