ウマ娘 SS短編集   作:本田直之

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ダンツと宝塚記念

グランプリ宝塚記念。上半期の実力ナンバー1決定戦ともいわれるこのレースに私は挑むことになった。クラシックでマイルでも好走するが勝ちきれない。他の同期と比べると一段落ちる。そういった評価になりつつあった私にとっては数少ないチャンス。ここで勝たなきゃいつ勝つんだという気合でやってきた。トレーナーさんと二人三脚で勝つための特訓を続けた。

 

そして当日。今年の宝塚記念は、幸か不幸か実力者が少ないレースとなる。マンハッタンカフェさんは凱旋門賞に挑戦するため日本にいない。ジャングルポケットさんは脚部不安で回避。ナリタトップロードさんは休養中。目立った実績を持つエアシャカールさんもこのところ不振が続いている。出走は12人と少なめだ。そんな中での1番人気に緊張しつつ地下バ道を歩いていると、制服姿の見覚えのある顔が目に映った。

 

「よぉ、ダンツ!」

 

「ポッケさん?」

 

同期のジャングルポケットさんが笑顔で待っていた。今は治療中なのではなかったか。聞くと、リハビリなどがつまらなくて見に来たとのことだった。ライバルが走るんだ、別に構わねぇだろうと笑う彼女に、余計に負けられないという焦りが出てきてしまう。

 

「んだよ、湿気たツラしてたら勝てるモンも勝てねぇぞ?」

 

「そうなんですけど、私は…」

 

これまでレースに本気で打ち込んできたのは間違いない。でも、それでも結果は出ることはなく、ここまで来てしまった。同期のウマ娘が着々と成果を上げる中、そこから生じた不安はどうしても振り払うことが出来なかった。そんな独白にポッケさんは溜息をつき――

 

「心配すんな、お前は強えよ。」

 

ポッケさんは私に対する評価を話した。皐月賞のときも日本ダービーのときも。あの時自分やタキオンに迫ったあの脚は本物だ。そいつは一緒に走ったオレらがよく知っている。そこに至るまでの努力も。タキオンやカフェに聞いても同じ返答が返ってくるだろう。つらつらと語られる言葉に恥ずかしさを覚えつつ、気持ちが上向くのを感じる。だって、そこには確かな信頼が感じられたから。

 

「だから、勝って来いよ。そんで、オレの足が直ったら熱いレースをしようぜ」

 

「………ッ」

 

そう言って右手の拳を突き出すポッケさん。その言葉に目頭が熱くなり、私はポッケさんの拳に自分の拳を突き合わせた。それまでの緊張が嘘のようにほぐれた気がする。

 

「ありがとうございます」

 

私は今度こそレースに向き合う為、コースへの一歩を踏み出す。レースに出たからには勝つ。その確かな思いを胸に。

 

『スタートしました。まずは先行ポジションの探り合いです』

 

スタートは上々。意外にもハナを切ったのはローエングリンさん。2番手を5バ身ほど離しての逃げをうっていた。私はそれと競わずに4番手を追走する。このレースで実績が図抜けているシャカールさんをマークするためだ。いくら不調とはいえ、二冠のウマ娘は無視できなかった。そこから特に動きもなくレースは中盤に。体感で言えば1000m1分ぐらいだろうか。ローエングリンさんが大逃げした割にはスローペースだ。これだと余力を持って先頭を走れているのだろう。

 

「チッ!」

 

残り1000mに差し掛かったあたりで、シャカールさん達数人がスパートをかけ始めた。しびれを切らしたのかは分からない。ともかく、それに触発されるように全てのウマ娘が動き出し、私もその流れに続く。そして第3コーナーからコーナーに入った段階で、ローエングリンさんが思わぬ奮闘を見せる。シャカールさんに捕まるのかと思いきや、更に加速して後方を突き放したのだ。クラシック級のウマ娘がシニア級を相手にここまでやるとは、多くの人にとっては想定外だっただろう。私も同じで、ずるずると離されていく。私は一瞬の脚がキレる訳でもない。しかし…しかしだ。

 

「私だって…」

 

後方から同期のツルマルボーイさんが上がってくるのが目の端に映る。彼女は諦めていない。であれば、私も負ける訳にはいかないだろう。ポッケさんとの約束もある。しかし、私の心の多くを支配していたのは。

 

「私だって…!勝ちたい!!」

 

その一心。ターフを踏みしめる脚に力が籠る。それを前へ進む力に変えろ。回転数を上げるんだ。その思いに身体が答えてくれる。ここ最近で1番と言っていい末脚が粘るローエングリンさんを捉える。ツルマルボーイさんも迫ってくるが、抜かせない。抜かせるものか。だって、ここまで来たんだから。これ程の好機を逃すわけにはいかないのだから。例えこの身体が砕け散っても。

 

「勝つんだああああ!!!」

 

決死の加速は実を結び、ツルマルボーイさんともつれるようにゴール板になだれ込んだ。暫く走った後、脚を止めて膝に両手を突く。自分の精一杯を出し切った。これで駄目なら潔く諦めよう。そう思いながら掲示板に顔を向けると、1着を示す場所に3番が…私の番号が煌々と輝いていた。

 

『やったGⅠ!ダンツフレーム、GⅠ制覇!!』

 

「勝った…?……ッ、うああああああああああああ!!!!」

 

渾身のガッツポーズ。あぁ、涙が止まらない。吼える声が震える。今まで押し殺していた感情が、堰を切ったように溢れ出す。この日初めて、私は皆の背に手が届いた気がした。

 

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