ウマ娘 SS短編集   作:本田直之

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01世代とお風呂

トレーナーとのトレーニングを始めて間もなくのこと。最初の一歩として、怪我の可能性を抑えつつ競争能力を向上させる施策をトレーナーから提案された。すなわち、アスリートとしての体作り。本当に基礎の基礎だ。しかし、実際それを十全に実行出来ている人は多くない。私はトレーナーに相談しながら、食生活や睡眠・運動に変化を加えていった。それから半年近くの時間が過ぎたころ、成果が目に見える形で現れ始めた。

 

「これは……!」

 

計測タイムが短くなっている。運動の後の疲労感が軽減されている。こころなしか、脚への負担が小さくなっている実感があった。土台がしっかりとしていれば、より多くのモノを積み上げることが出来る。私一人ではここまで至ることはなかっただろう。トレーナーとの二人三脚のメリットについて痛感した。それから更に時が過ぎーーー

 

「ふんふーん♪」

 

私はトレーニングの汗を流す為に寮の大浴場にやってきていた。体に付着した汚れを落としてから湯船に浸かる。

 

「はあぁ~~……」

 

思わず声が漏れた。風呂は命の洗濯とはよく言ったものだ。全身が温まると同時に、全身の疲労が抜けていくような感覚がある。正直何時までもここにいたい。身体を揉みほぐしていると、浴場に見覚えのある生徒が入ってくる。

 

「ダンツじゃんか!」

 

「奇遇だねぇ」

 

同じ栗東寮で同期のアグネスタキオンさんとジャングルポケットさんである。私は自然と彼女達とレースの話をするなどしていた。会話が熱くなっていく中で、タキオンさんの目がこちらをジロジロと見ていることに気が付いた。

 

「あの〜…タキオンさん?」

 

「いやすまない。君の身体を観察していただけさ」

 

「はい?」

 

理解するのに数秒かかった。それからタキオンさんは私の身体がアスリートとしての理想に近づいているとつらつら解説していった。体脂肪率・筋肉の着き方・体幹などなどだ。筋繊維の詰まった大腿部や下腿部。くびれた腰。引き締まった腹直筋。発達した臀部。自分の身体について具体的かつ理路整然と述べていく。

 

「それからーーーー」

 

「ストップ!ストップ!!止めてください!!」

 

早口解説が全然衰えないので口を塞いで止めようとした。聞いていると恥ずかしくなってくるからだ。普段そこまで自分の身体を観察したことはない。タキオンさんの研究者気質がそうさせるのだろうか。不思議とトレーナーさんの事が頭をよぎった。トレーナーも体調管理には余念がない。もしかして、そういったことを異性であるトレーナーにも見られているのか。そこまで考えが至って、顔が急速に真っ赤になっていくのを感じた。それを察したのかニヤニヤしたポッケさんが近付いてくる。そして後ろに回り込んだ後彼女は背後から手を伸ばし。

 

「まぁ自信持てよ…デカいモンもってんだからな」

 

「ひゃうっ!!?」

 

私は勢い良く胸を鷲掴みにされてしまった。お前みたいな良物件、あのトレーナーだって断らねぇよと笑うポッケさん。いやいや私とトレーナーさんはそんな関係ではないですって。そんな言い訳を二人に主張してみたけれど、図星を突かれたんだなって感じで生温かい目で見つめられるだけだった。その後は変に意識してしまい、意を決してトレーナーさんに聞いてみることにした。

 

「あの、トレーナーさん…」

 

「どうしたんだ?」

 

「私の身体、どんな感じでしょうか…」

 

動揺しているのを悟られないように俯いて言葉を待った。一秒が何十倍にも引き伸ばされたように感じた。しばしの沈黙の後、トレーナーは口を開いて_____

 

「ああ、大分理想型に近づいたな」

 

にこやかな笑みと共に口にした。特に言い淀むよ様子も無かった。やはり杞憂だ。トレーナーさんが私のことを異性として見ているなんてことはない。でも、観察されてるのは間違いない訳で。

 

「うう……!!」

 

暫くの間は、そのことを思い出しては枕に突っ伏して脚をバタバタさせていた。

 

 

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