ウマ娘 SS短編集   作:本田直之

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ダンツと水着とトレーナー

トレセン学園は毎年7月から8月にかけて夏合宿を行っている。大きなレースの少ないこの時期に競走能力を強化する目的で開かれており、多くのウマ娘が毎年参加しており、この期間で実力を急速に伸ばした者が秋のGⅠ戦線で活躍したりすることも珍しくない。そんな合宿に私も参加していた。

 

「ダンツ!ペースを維持!」

 

「はい!」

 

綺麗な海を遠泳したり、砂浜を走ったり、施設にあるトレーニング機器を使ったり。うだるような夏の暑さの中の運動は中々に過酷で、毎日大量の汗を流しながら己の肉体をいじめ抜いていく。つらい期間だけど、私がさらなる成長をするための必要な痛みだと思って頑張ることができた。無論、ずっとトレーニング漬けな訳でもない。しっかりと学生らしい遊びの時間もある。

 

「海だ〜〜!」

 

「冷たいですね」

 

「タキオン、こっち来いよ!」

 

「遠慮しておこう」

 

合宿所近くのビーチには多くのトレセン学園生徒が訪れていた。かくいう私もテンション高めで同期の皆と海で遊んでいる。海水を掛け合ったり、砂のお城を作ったり。この時だけはトレーニングを忘れて年頃らしくはしゃぐことができるのだ。

 

「トレーナーさんもどうですか!?」

 

「俺は遠慮しとくよ」

 

一方で海パン姿のトレーナーさんはパラソルの下に寝転がってくつろいでいた。あまり子供みたいにはしゃぐ元気は無いとは本人の弁だ。私が誘ってもやんわり断られる。というか、今日のトレーナーさんはいつもよりよそよそしい。なんだか目を合わせてくれないというか。何故か考えていると、ある可能性に思い至った。

 

「もしかして、新しい水着のせい?」

 

今日の私はいつもの学園指定のスクール水着を着ていない。昔のが体の成長によって入らなくなり、夏の前に新調した水着を着ている。黒のビキニである。あまり派手ではないシンプルなデザインだが、成長する胸お尻や引き締まった筋肉で多少魅力的になったとは自負している。そこで、私はトレーナーさんに対して思いついたちょっとした疑問を解消するために動くことにした。仰向けに寝転がるトレーナーさんのそばに体育座りをし、顔を向けながら話しかける。

 

「トレーナーさん…」

 

「どうした?」

 

「あのですね…その…私の水着なんですけど」

 

目を逸らしたトレーナーさんの視線の方向に移動する。出来るだけ女性的な部分が目に映り込むようにして屈み込む。そして、なけなしの勇気を振り絞って…

 

「…似合ってます?」

 

トレーナーさんは一瞬目を見開いた後、数秒の間沈黙した。何を言うべきか迷ったのだろうか。そして、意を決して口を開いた。

 

「綺麗だよ」

 

ファッションセンスに対して肯定的な反応を得た。喜ばしいことだ。でもそれ以上に心を占めた感情は安堵だった。

 

「よかったぁ…」

 

もし否定的な反応が帰ってきたらどうしよう。トレーナーさんの性格上そんなことは無いとわかっていても。どうしても勇気がいることだった。何故なら私にとって、気になる異性からの肢体に対する論評を重要に感じられたから。いくらか楽になった私はトレーナーさんの眼前で立ちあがり、手のひらを胸の前で祈るように合わせた。

 

「…嬉しいです」

 

それは、まだ私にもチャンスがあると確認するかのような。将来の光景に期待する、淡い思いの発露だった。

 

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