その日は特に何事もない日曜日だった。いつもの如くゴミ出しをして、近くの商業施設に買い出しに出かける。あらかじめ書いておいたメモを元に食品を籠に入れていき、とっととレジを済ませて帰宅の途に就いた。今日は娘が家にいるし、トレーナー業の傍ら休暇を取ってくれた夫も休みだ。そろそろ時刻は正午を回りそうだし、二人もお腹を空かせている頃合いだろう。一家団欒の時間を少しでも長くするため、寄り道もなく家に直行しなければ。
「ただいま~~~」
「お帰り」
「お母さん、お帰りなさい」
食品の入った袋をキッチンに置き、昼食の用意に取り掛かる。夫と娘はテレビでウマ娘レースを見ているようだった。この時間ならメインのレースは始まっていない。私達親の影響を受けたのか、レースが大好きな娘。彼女が夫に見たいとせがんだのだろう。夫も心なしか仕事モードになっている。真面目なのは良いが、休日ぐらい仕事のことを忘れてのんびりしてほしい。溜息をつきながら調理を進めていると、聞き捨てならない単語が聞こえた。
『全機能確認…オールクリア、完璧な勝利です』
「―――――――」
一瞬手が止まる。聞き覚えのある声。聞き覚えのある口調。なんだろう、猛烈に嫌な予感がする。私はキッチンを離れ居間に向かった。翌々テレビの画面を見てみると、画質がひと昔前のものだ。つまりこれは今放送されているものではなく――――。全身から噴き出す変な汗。そんな私に関係無く、映像が切り替わる。映し出されたのはメカニカルなデザインの勝負服を着たウマ娘。言うまでもなく、現役時代の私の姿であった。
「あ、あああなたこれは一体…」
「お母さんの現役時代を見たいって■■■■が言い出してな…」
思わず手で顔を覆った。いや、いつか来るとは思っていた。レース結果自体には不満はない。ただ当時の自分が行っていたサイボーグエミュ…あれは駄目だ。物凄く恥ずかしい。当時は何を思ってあんな風に振舞っていたのか。嫌でも記憶が掘り起こされ、顔が羞恥で真っ赤に染まる。かといって、娘の邪魔をするのも――――
『マスター、若干の胸部の締め付けを感じます。分析中―――これがドキドキ―――』
「―――――――――ッ!!!!」
羞恥のあまり体をプルプルと震わせていると、画面から目を離した娘と目が合った。やめて。その生暖かい目で見るのやめて!既に精神的に瀕死の私に対し、娘はとどめの一言を放った。
「お母さん…その…個性的だね…」
「み、見ないでぇ…」
その後暫くの間このことが頭に浮かぶようになり、ベッドの上をゴロゴロ転がるようになったのはまた別の話。