先ずは大赦で御挨拶
ベイーン!
小さなバイクが明石海峡大橋を渡っている。小さく見えても154㏄、高速道路だって走れるバイクだ。
勿論、走れるからと言って、安全に高速走行ができるとは限らない。
この手の小排気量バイクは80㎞を目安に巡行することが多い。100㎞出せても色々と負担がかかるからだ、バイクにもライダーにも。
ここ明石大橋は通常の最高速度が80㎞、最低速度が50㎞に設定されている。
どちらかと言えば、ノンビリ走る事の方が好きなキノとしては問題なくツーリングを楽しんでいる。
「そろそろ四国に入るよ。大赦ってどんな所だろうね?」
『場所については知らないけど、人については凄い話を聞くよ? 全裸土下座靴舐めって聞くだけでもヤバイよね』
それは伝説に成ろうとしている話だ。ガイア連合の配下になる為、一切の躊躇いも見せずに、全裸になり土下座して、靴まで舐めたと言う話……真偽は定かでは無いし、否定する噂もある。が肯定する噂も多い。
特に、あの女なら絶対やる!*1 って近くに住む魔女が力説していたと聞く。
他にも探求ネキにインターセプトされた*2と言う噂があれば、それでも強行した!*3 と言う噂もある。
色々噂が錯綜していて本当の所は当事者にしかわからない。
キノとしては覚悟がガンギマリのヤバイ女傑が居るのは間違いないと思う。
其処まで追い詰められていたのか……そんな同情心と、迷わず尊厳を捨てるってどうなの? と言うドン引きな気持ちが同時に沸き起こる。
「当事者でもないボクが口出しする事じゃ無いんだろうけど、イヤな世界に成ったものだね」
ソレもコレもメシア教が悪い! キノの思いは自身の嫌悪と偏見の結果ではあるが概ね事実でもあった。
全てが自分の都合の良いように、そんな調和を無視した彼らのやり方をキノは嫌っている。ガイアに好んでいる人間など誰も居ないが。
キノは下道に降りると、大赦のある香川県をのんびりと走る。
暫らく走り、明石大橋を望める位置でバイクを止め、一休み。勿論、車やバイクの邪魔にならない場所を選んでいる。
「さて、陸上では問題無かったけど、海上の架橋ではどうなんだろうね?」
遠目で霊視をする。
「今の所は安定している……よね?」
術式に才能が無く、目が良くても霊的云々を判断できるだけの経験も無い。キノに分かるのは現在がどうなって居るかだけ。
将来、どうなるか? 悪影響はないと思うが断定は出来ない。頼れる先生に相談して行っている事ではあるが、初めての試みではあるし慎重になるに越した事は無い。
初めての試みとは言っても、此処まで大規模に力押しで、しかも橋に行うのが初めてってだけで、術式そのものは古来から行われている、安心安全、信頼と実績の地鎮の儀式でしかないのだが。
エミールには【オート禹歩】と名付けられたスキルが付与されており現在も発動中だ。
陰陽道の技術に【禹歩】と言うものが有る。魔を祓い地を鎮め福を招くことを狙いとした歩法で、エミールのエンジン音とタイヤが自動的に【禹歩】の効果を走った道に施す術になる。
チベット仏教のマニ車と同じ原理で、人間の【禹歩】よりも、早く大量に術式を施せる。
これでエミールが通った道が霊道となり、清められ結界として働く。効果は強力とは言えない。
それでも雑霊を近づけない位の力はあるし、永続はしないが何度も通れば効果は重複し強固にもなる。
各地の支部や派出所とシェルター間を霊道で繋ぐ。
どうせキノは走るのだ、保険、気休めになるなら上等だろう。
これがキノが自分の趣味とガイア連合への貢献を両立するために考えた方法だ。
消費するMPも【チャクラウォーク】を覚えさせた結果、戦闘行為でも行わない限り問題とならない。
昨年は東北を経由して北海道を周ってみた。
確認したが未だに霊道として最低限の働きはしていると聞いている。
強度より持続性を重視してみたが、それで正解なのかは分からない。
「ガイア自慢の術者でも終末の時期が分からないから、持続性を選んだけど……」
「どうなんだろうね? エミール」
『正解なんて誰にも分からないさ。答えが出るまで誰にもね』
それはそうだ、だからキノも足掻いているのだ、気休めでもやらないよりは良いだろう。
自己満足でも、それが仲間の役に立つかも知れないなら、それで良いのだ。
「どうせ、ついでだ。ちょっとでも足しになるなら良いや、マイナスになるって事は無いだろうしね」
ヘルメットを被ると走り出す。
「早めに着きそうだし、銀時ニキの職場へ寄ってからホテルに行こうか? お土産、渡してしまおう」
そろそろ、お昼だし、挨拶を済ませたら、香川自慢のうどんでも堪能しよう。
銀時ニキはスイーツに五月蠅いと聞くが、山梨自慢のイチゴとサクランボだし文句はあるまい。
ないよね? キノとしては信じるしかない。
「探求ネキを初めとする農業部の魔改造果物と比較されると辛いかもだけど」
さて、どんな反応をするんだろうね?
初めての顔合わせのちょっとした楽しみだった。
「普通の果物には普通なりの良さがあるさ」
少なくともキノは普通の果物が持つ素朴な甘さが好きだった。ガイア連合に所属してから普通の基準が上がった気はするが。
「少なくとも、高級フルーツを普通呼ばわりする事はなかったかもね」
キノは苦笑する。異界に潜れば大きな金額を稼げる。それに合わせてキノの舌も贅沢を覚えた様だ。ガイア連合所属の料理人の腕が良すぎる所為もあるが。
そんな取り止めの無い事を考えながら、キノは初顔合わせの友人の元へ急いだ。
リアルで会うのは初めてでもネットでは知り合い。前世では良くある話、この世界この時代では理解できない人も多い。
前世ではそれが当たり前に認知されるまで文明が継続したが、この世界ではどうなるのか?
誰にも分からないから、誰もが不安で足掻いて……くれないかなぁ? と尻つぼみにキノは思う。
キノが知るだけでも、口では不安を言いながら怠惰に過ごす人間も多い。そんな人間でも転生者ならショタおじにとっては保護すべき仲間になる。
「ショタおじの気持ちも解らないでもないけどさ……」
あからさまにリソースを削っている人間もいる。それが人間だとも思うが……
「ボクみたいな一般人に分かる心境じゃないか」
とりあえず理解を諦める。キノ自身がショタおじに救われた人間だ、とやかく言える立場では無いだろう。
自分に出来る事をしていれば良いや、キノはそう開き直る事にした。
一見役立たずが思わぬ働きをする事も有るのだ、簡単に切り捨てるより、見捨てない指導者の方がありがたい。
「他人の生き死にを勝手に決めて良い訳がないしね」
独善でそれをヤッタらメシア教の人間と同じになる、それは嫌だとキノは思う。
直接、被害を受けたなら殴ればイイんだ! キノは霊視ニキに、そう教わった。
黒札同士のケンカならショタおじも五月蠅く言わない。アレに根気よく付き合わなきゃいけない、ちひろネキを初めとする事務の人間には同情する所である。またお土産を持って行こう、機会があれば労わるとキノは決めている。
「のんびりした良いとこかもね」
海沿いの小さな道を走りながらキノは初めて見る光景を楽しんで居た。
ジュネスと言う名の派出所
「初めましてか? なんも無いとこだけど、好きにしてけば?」
鼻をほじりながらの軽い挨拶。
らしいなぁ~と思いながらキノは土産を渡す。素直に感情を表現する銀時ニキの様な人間は嫌いではない。
ネットで聞いていた通りの性格らしいとキノは判断する。
「とりあえず、お土産です。ナマモノなんでお早めにどうぞ」
「気ぃ使わせたか? 悪いな。中身なに?」
「山梨のイチゴとサクランボ。旬だし高級ブランドなんで甘いと思いますよ? 探求ネキのトリコ食材とは比べないでくださいね?」
「おう、ありがとな」
お互いに苦笑を含んだやり取り。印象は悪くなさそうだ。
「んで、何しに来たんだ」
「ただのツーリングですね。ちょっとした実験込みの」
四国には既に霊道がある。
お遍路さんが巡る、四国八十八ヶ所霊場だ。
此処を巡る事で、さらに霊道を強化できないか? と言うのが今回のキノの目的となる。
キノは自分がやろうとしている事を説明する。上手くいけば終末後も道路をつかった連絡も出来るかも知れない……高望みが過ぎるだろうか?
エミールが言う通り結果は誰にも分からない。なら後悔しないように出来る事はしておこう、後悔しなきゃそれで良い。無駄になったら仕方ない、役に立つならそれでいい。キノはツーリングのついでにチョットだけ役に立つかも知れない置き土産をするだけだ。
「ふ~ん、勝手にやれば良いと思うけどねぇ」
「後で揉めても困るし、余計なお世話って事もあるかと思って」
「じゃあ、そう言ったら?」
「普通にツーリングして帰るだけです」
銀時ニキは横に立つ、女性に目配せをする。アレが即全裸土下座靴舐めの女傑か*4……普通に美人なのに。
やっぱりメシアが悪いな! 実際、日本を此処まで追い詰めたのはヤツラだろうし冤罪ではあるまい。冤罪でもキノは気にしないだろうが。
「そうですね、上手くいけば儲けものですし、失敗してもデメリットは有りません。許可で良いのでは?」
「じゃあ、そう言う事で」
「はい、わかりました」
キノが退室した後の事
「やれやれ、噂には聞いていたが、おっかないねぇ」
「コワイ? 普通の温厚な方に見えましたが」
秘書役をしていた”浅間 智”が疑問を呈する。
「だからだよ、あれで銃を握ればガイア連合でも上位の戦闘能力者なんだぜ?」
「……っ!?」
「私は普通の人間ですって顔をしてるが、その気になりゃ簡単に四国を滅ぼせる人間なんだ」
「そんな……」
「そんな存在が珍しくない……いや、珍しいがソレなりには居るのがガイアなんだよ」
俺なんて中堅さ。銀時はそう自嘲するが、そんなことは無い。彼は十分に上澄みだ、そんな彼ですら霞ませる能力者がそれなりに居る。それがガイア連合と言う組織だった。
「キノネキの怖さはコレだ。そんな力を持って要るのに誰にも気付かれず、警戒されずに懐深くに潜り込める」
コワイだろ? 銀時の言葉に智は頷くしかない。
「油断してれば悪魔だって暗殺するだろうよ」
見た目はボーイッシュで華奢な少女なのに……智は思わず戦慄し震えていた。
勇者部との邂逅
「こんにちは!」
快活な挨拶が退室したキノにかけられた。
「はい、こんにちは」
振り向き挨拶を返す。そこには三人の笑顔の少女達が居た。
「師匠に御用でしたか?」
なるほど、彼女が”結城 友奈”か、銀時ニキが弟子にしたと聞くがどんな修行を付けているのだろう?
興味はあるがぶしつけに聞く事ではないと諦めて、キノは答える。
「ガイア連合のキノと言います。打ち合せは終わったから銀時ニキにお話しがあるなら、大丈夫だよ?」
「あっ、大丈夫です。お仕事の邪魔はダメですから。見慣れない人が居たから声をかけただけで……」
ふむ、恋する女の子と言う奴か、銀さんに会っていた女の素性が気になったのだと予想する。
「ふふっ、大丈夫です、あくまで霊能関係の打ち合わせだからね。頑張って?」
最後の方は囁くように小声で話しかける。あからさまに慌てているのが微笑ましい、キノは微笑んでいた。
友奈ちゃんの驚愕の表情に当たりかな? そうキノは納得したのだが……
「えっと、女性だったんですか?」
そっちかぁ、キノはスレンダーで男装をしている所為もあり、性別を間違えられる事も多い。チョットがっかりする。
バイクに乗る以上パンツルックは必然だし、面倒事を避けるにも男装は有用だ。一番の理由は原作再現と力を入れた”ファン一同”を名乗る俺らが贈ってくれた、この装備が一番高性能だからなのだが。
ぐぐぅ~
「あはは、お昼マダなんだ。ごめんね」
キノのお腹が鳴り、笑って謝る。
「じゃあ、ご一緒しませんか? 美味しいうどん屋さん知ってます!」
「へぇ、オススメって訳だ。じゃあお願いしようかな、年長さんとして奢らせてもらうよ?」
「ふぇ? 同じくらいだと……」
「小さいのは自覚してるし良いよ。これでも今年で18才になるんだ」
「「「えっ……」」」
「うん、知ってた……」
自覚はある、自覚はあるが、一旦は男に間違われ、年齢で中学生に此処まで驚かれる程に自分の容姿は幼いのか? ちょっぴり悲しくなったキノである。
ワタワタして謝る少女達と共に移動。気にしなくて良いのにな、自覚はあるし仕方ないとも思う。そうは言っても気になるか……
うん、ここは別のインパクトで誤魔化そう! 大食いモードがONになる。
紹介されたうどん屋さんで、美味しいウドンを食べる。食べっぷりに驚かれるも気にしない。
「美味しいから仕方が無い」
断言すると、マタお代わり。驚き呆れつつも自慢の名物を美味しそうに食べて貰えて少女達は笑顔になる。
その場で別れて、ホテルに入りゆっくりくつろいで、一日目が終わる。
「ここは平和みたいだね」
窓の外を見て、街の明かりに見惚れる。
「違うか、銀時ニキ達が平和にしたんだ……」
めんどくさいとボヤキながらもボロボロの地方に手を差し伸べた彼ら、ウカツな行動が首を絞めた面もあるが、そこは流そう。
あの明るい少女達が、自己犠牲を強制され絶望を抱えながら滅びに抗っていたのだ。
あの程度の悪魔に? そう思えるのは転生者として優れた素質を持って生まれたからでしかない。
素質が無くても、死ぬと解っていても、戦う少女。そして若き乙女を死地に送らざるを得ない大人たち。
「どっちも苦しかったんだろうね」
キノには想像しか出来ないし、深入りするつもりもない。
「此処は銀時ニキが助けた。それで終わり……にしておくべきかな?」
キノがする事はもう無い。地方に腰を落ち着ける気のない旅人には弁えるべき分と言うものがある。
キノが一方的に決めた事だが、この一線を超えるとマズイ事に成る気がするのだ。
「さて、少しは助けになると良いけど」
明日からは四国八十八か所霊場 第一番の 霊山寺 から出発する予定だ。
「メンドクサイのに眼を付けられないと良いなぁ……」
神仏と言いつつ人に助けを縋るだけってどうなんだ?
「助けろ、助けろと煩いのは勘弁だな」
お遍路さんに紛れてしまおう。
気配を消し、人込みに紛れる事には自信がある。
そう簡単にはバレないだろうさ……この時キノはそう思っていた。
思い返すとコレがフラグだったのかも知れない。
お遍路さんに交じって行く……ハズだった
翌日、朝早くからお遍路さんを横目にバイクで走る。徒歩で動く信仰心が深い人も居るが、車やバイクで巡る人も居るのでキノが悪目立ちする程ではない。
霊山寺、極楽寺、金泉寺と順番に巡って行く。
巡礼が目的ではないのだが、回れ右も変に目立つかも知れない。軽く参拝してから、次の霊場へ移動する。
「桜もそろそろ終わりだね~」
景色を愛でながらのノンビリした移動。何処にでも居る観光客に溶け込む行動。
そうして移動する事、約二時間。第十番 切幡寺からの移動中、吉野川を越えた辺りでキノは違和感を感じた。
「オカシイ……MAGが吸い寄せられている?」
吉野川に流れるMAGが少ない? 上流でMAGを吸収し集めているナニかがある?
「無視は出来ないか……」
キノは予定のコースを外れて、吉野川沿いの道を昇って行った。
「でも、吉野川か……嫌な所での異常だな」
吉野川は支流や香川用水も含めると四国全土に跨る水源だ。ココでの影響は四国全土に及ぶ事に成る。
「急いだほうが良いかもね」
何時もは安全重視のキノがアクセルを吹かし、エミールが小型バイクではあり得ない速度で走り出す。
オカルトバイクならではの常識を無視した速度で一人と一台は風になった。
川が分岐する度に止まり、MAGの流れを確認する。そして辿り着いたのが、四国でも名高い観光地。
しかし、今の様に重機で道路が整備され、安全が確保される以前は事故が多発する危険な山道の事を指していたらしい。
そして、安全に整備されている
「追い詰めている方が現地の組織だろうと思うけど、一枚岩では無いのかな? そして、追い詰められている方は余所者っぽい?」
電車で一時間以上かかる所をキノは40分で辿り着いた。
其処に結界があったので、潜り込んで偵察をしていたのだが……
追い詰めて置いて、確保もせずに仲間割れをしている現地組織の人員。逃げ場は無いがフリーな状態の追い詰められた男。
男の眼付は怪しく、正気を疑う状態なのに……
「仲間割れは後でも出来るんだから、男を無力化するのが先だろうに……」
キノは呆れるも、現地組織間の揉め事に口出しをする権利はないし、キノが勝手に男を無力化するのも組織間の外交上問題になりそうだ。
「さて、どうしよう?」
キノは迷うべきでは無かった。外交問題ならガイアの力で解決出来たのだから……結果論だが。
結果として起こった事はどうしようもない。追い詰められた男が包みを解き、腐食した、おそらく青銅製の元剣で喉を突き、自分のMAGを吸わせながら吉野川に落ちた。この現実は変わらない。
「しまった草薙の剣が!」
この現地の人間の言葉が無ければもう少し傍観していたかも知れない。
だが聞き捨てならない言葉を聞いた。
「草薙の剣? どういう事だ。なんで三種の神器が出て来る!?」
キノは姿を現し、手近な人間を問いただす。
「貴様どこから?」
「良いから、質問に答えろ!」
周囲の人間もキノに気付いて騒ぎ出すが、それどころじゃない。
「お前らも騒いでないで動けっ! 急がないとマズ……間に合わなかったか」
吉野川が異界化していた。今は
「異界を処理しないとマズイな、結界を張ったのは誰? 結界強度は強められる? それから、事情を説明してもらいたい。ああ、ボクはガイア連合の者だ」
キノは己の立場を明かして、指示を始める。こいつら騒ぐだけで役に立ってない、口出ししたくないが、最悪の場合では四国全土で安全な水が無くなる、ほっとく訳には行かないだろう。銀時ニキが困るじゃないか。
「馬鹿じゃないのか?」
キノの正直な感想だ。聞かれない様に小声で呟く程度の配慮はしている。
散々、黒札? 本物か!? 等と騒いだ挙句に”自分は悪くない”そう言われたとしか思えなかった。
アレは瀬戸内で発見された、安徳天皇と共に海に沈んだ”草薙の剣”と信じられていた呪物らしい、勢力争いに敗れた愛媛県の術者がダークサマナーと化し持ち出したモノとの事。
そして、陰謀を企み、彼らに見つかってこうなった。これが彼らの言い分である。
キノが見ていただけでも、事後の取り分で揉めていたのだし、色々と足の引っ張り合いをしていたのは想像が付く。
「相手の言い分も聞きたい所だけどね」
多分、一方的に悪者にされる謂れはないんだろうな。自分を正当化する人間は多い、特に相手が反論出来ない時は……キノはそう考える。
とは言え、異界を放置する訳にも行かない。行き当たりバッタリで異界に挑むのは嫌だが、こいつらじゃ攻略出来ないだろう。それだけの威圧は感じるし、こいつらでは実力も心構えも半端なのだ。役に立たないと断言できる。
「仕方ない、放置も出来ないし、この異界はボクが攻略する」
喜色を現す、役立たずども。
「その結果は全てボクのものだ。良い事も悪い事も全てボクの責任で処理する。文句は無いね?」
キノが何時もは抑えているプレッシャーを出しながら契約させる。書類にサインをさせて、トランクに収納しておく。
最低でもこうしないと、勝手にやっただの、得られたドロップ品の所有権だのと五月蠅く騒ぐ馬鹿もいる。
この辺の処理をしておくだけでも事務の負担は減るハズだ……そもそも仕事を増やすなって意見もありそうだが、その場合、四国がどうなるか分からない。キノには選択肢がなかったのだから諦めて貰おう。
「銀時ニキ? こういう事なんでチョット異界に潜って来るから」
ある程度の詳細はメールで送って、フォローを頼み、キノは単身異界に潜った。
なんでお前が出て来るんだ?
異界に侵入したキノが見たのは牙から毒を垂らし威嚇してくる、8つの頭と8本の尾を持った巨大な怪物だった。
「ヤマタノオロチ? なんでお前が出て来るんだ?」
いや、待てよ、キノには思い当たる事がある。草薙の剣はコイツの尻尾から出た剣、安徳天皇はコイツの生まれ変わりって説がある、そして……
「吉野川、ヤマタノオロチ説か!?」
スサノオのヤマタノオロチ退治の話の舞台は、出雲の国ではなく阿波の国であり、ヤマタノオロチの正体は島根県斐伊川では無く徳島県吉野川である。そんな説があるのだ。
出雲国風土記にはヤマタノオロチの他、古事記の伝説が記載されていないのだ。古事記と出雲国風土記に類似性が認められないらしい。
徳島には畿内との地名の類似性があり、方言にも類似性があるらしい。
それから、高天原を追い出されたスサノオがオオゲツヒメに合いオオゲツヒメを殺してしまうが、オオゲツヒメは阿波の神様なのだ。だから出雲の国にいるのはオカシイ。
国生みの神話で淡路島の次に生まれたのは四国なのに、四国を舞台にした神話がないのは他所に奪われたからでは? なんて意見があるようだ。
コレは学者さんが真面目に研究している内容であり、酒場の酔っ払いの戯言ではない。
信じて研究している人間が居る以上は、コイツが存在する助けになる。
「理屈はどうあれ、コイツと戦わなきゃいけないんだけどさ……」
どちらも準備不足。キノはアイテムが足りるか不安で、ヤマタノオロチも侵入者を自分自身で迎え撃たなければならない。イキナリ最終決戦、怪獣大戦争だ。
「アイツら無視して正解だった。足手まといにしかならないだろうし」
無理にでも見届けようとする意見もあったが、キノが護ってくれないと知ると全員尻込みしたのだ。
それでもと渋る連中を無視して、コレ以上遅れて被害が出たらお前らの責任だ。そう言い切って黙りこむ間に乗り込んできた。
「最初からフル装備で来れたのは幸いかな?」
ゲートパワーの上昇もあり、悪魔との遭遇機会も上がったとあって、結界内での銃装備が許可されたのは助かった。相手のテリトリーに入らないと、戦闘準備が出来ないのは危険すぎる。
今回の場合みたいに、いきなりボス戦って事もあるのだから。
ショタおじの感覚では武器は何時でも万全に使用できるものなのだろう。事前に銃の動作チェックを行いたいガンマンとの意識の差がもたらした齟齬だった。
「様子見も危ないか? エミール、ハイアナライズお願い。リク出て来てフォローして、回復優先でね」
キノ達の毒耐性を貫く程じゃ無いが、この毒を異界の外に出す訳にはいかない。吉野川が死の川になる。
「表に出て暴れる気マンマンか? 生贄の最期の願いにでも反応してるのかな?」
キノが分かる事は少ないし出来る事はもっと少ない。こいつを殺す、それだけだ。
「さて、恨みはないけど滅ぼさせてもらうよ」
強大な悪魔かも知れないがキノにとっては害獣に過ぎない。悪魔対超人の死闘が始まる。
『キノ、コイツのレベルは68、火炎と氷結は無効で電撃が弱点。神話の弱点である毒*5と睡眠には耐性があるみたい。神話そのままじゃないよ、気をつけて』
キノが頷くとヤマタノオロチが攻撃してきた。
「手あたり次第の大暴れだね」
エミールに乗りながらキノが嘯く。
「キノは余裕そうだけど、コッチは結構、必死なんだけどね?」
ヤマタノオロチは邪魔なキノを潰そうと躍起になっていた。【カタストロフ】や【火龍撃】と言った物理スキルで攻撃してくる。
厄介なのが、ヒュドラの概念でも取り込んだのか、頭が一つでも生き残っていると再生するのだ。
ヒュドラ退治でヘラクレスは傷口を焼く事で再生を防いだ。しかし、コイツは火炎無効である。
カノンで弱点の電撃属性を付与した【豪雷撃】を撃つ。ジオダインに相当する電撃が銃弾と共に頭を一本確実に殺す。弱点属性の電撃にヤマタノオロチは耐えられない。
しかし、直ぐに再生が始まる。カノンでは殺しきれない。
そして、その間にも毒を吐き出す、まき散らす。キノはヤマタノオロチを倒して異界を消す前に、異界内の毒を消すミッションをクリアしないといけない。
「チョイ格上相手のハンデ戦。ボク、なんで地方でこんな戦いしてるんだろう?」
敵のレベルは本部の方が上、地方は雑魚相手にお金を稼ぐ場所。修羅勢にとってはこれが普通だったハズなのに……
「報酬も期待できないって言うかボランティア確定だし……」
軽口を叩きながら、カノンで銃撃、頭を潰すも再生。八つも頭があるのは厄介だ。
八つの頭がコチラを向く。
「エミール、来るよ」
「はいはい、耐えられる攻撃だと良いなぁ」
スクラップには成りたくない、と何時もの軽口。
キノは微笑みを浮かべると、合図を待った。
【ファイアブレス】が八本。ヤマタノオロチとしては、必殺の攻撃だったハズ。しかし、この二人には効かなかった。
「ボクが何度ショタおじに焼かれたと思ってるんだ? お前程度の炎が効く訳ないだろ!」
ヤマタノオロチの火炎程度ではキノとエミールの【火炎無効】を貫く事は敵わない。
そして反撃の時間が来た。
リクが準備完了の合図をくれた。環境回復を優先していたリクから毒の浄化が終わったと報告があったのだ。
【日輪の光】で毒消しは出来たが、チャクラポットを幾つ使った事やら、今回は赤字だ。
また毒を撒かれては敵わない、キノは一撃で殺すと決めた。
「好き勝手に攻撃してくれたけど、次はボクの番! それで終わりだ!」
キノの霊質は銃撃特化型だ、銃以外の事には適性が無い。逆に言えば銃に関する事なら大体できる。
レベルが60半ばに届く今なら権能化もしている。
その一つが【全弾発射】キノのオリジナルスキルである。
銃を撃っている間だけ【龍の眼光】にも対抗できるフザケタ技だ。撃ちたい弾丸を撃ち終わるまでは時間が止まる技と言っても良い。流石にマガジンチェンジ等の別動作が挟まると途切れるが。
この技を金の杯で使用する、金の杯の装弾数は7+1発。今回、金の杯を温存しカノンで戦っていたのはこの為だった。
【銃プレロマ】【銃ギガプレロマ】等のパッシブスキルが銃弾に力を与え、【豪雷撃】を付与した弾丸八発が八つの頭を同時に襲う。
ヤマタノオロチは考える間も無く、全ての頭を同時に潰されあっけなく滅びた。
予定は未定
キノが自分達の毒消しを浄化の札で行っているうちに異界の崩壊が始まった。
巻き込まれない様にと外に出て、リクからドロップ品を受けとる。
「まさかとは思ったけどコレかぁ」
キノの手の中には、燦然と輝く”草薙の剣”勿論、異界産のコピーだがその神威は本物。
「ソレを持ち帰るつもりですか? それは四国の……」
全てを言わせず、威圧して黙らせる。
「全てはボクの責任、その代わり結果もボクの物。そういう契約だったハズ」
ガイア連合を敵にまわすつもりか? 言外に問うと、大人しく黙った。
「このままって訳にも行かないし、コレはガイアで封印する。文句はないね?」
威圧はしたまま。素直に頷く現地の人間。
「じゃあ、ボクは帰る」
剣を収納しエミールに乗ると、キノは大赦へ移動を始めた。
「大赦にも面倒かけるかなぁ? でも、四国の水源の危機だったし、ボクは全力を尽くしたよねぇ?」
なんて思いながら。
「ボクには使えないし、剣を使う修羅勢には微妙な性能かも? かと言って、新入りに渡すにはネームバリューが邪魔……やっぱり赤字のボランティアだったなぁ」
キノが愚痴るが仕方ない。要らないアイテムだが、置いていけば火種になる。
恨まれるだけでメリットが無い貧乏くじ。
しかし、是もめぐり合わせと言うもの、銀時ニキ達のピンチを救ったと自己満足するしかない。
「暫くは来ない方が良いよね? 八十八ヶ所巡り……終末までに間に合うかなぁ」
予定していた、霊場巡りは強制的に中止。
キノにとって、これが一番の不満点だった。
拙作では、緋咲虚徹様等の作品の設定を使用させて頂いております。
結果、伝説の全裸土下座靴舐めがインターセプトされてしまっているので噂、風評被害と言う形で残させました。ネタとして消えるのは勿体ないと思ってしまったのです。
今まで、キノが好き勝手にバカスカ銃を連続射撃出来た訳の説明回です
序でにキノが旅をする趣味以外の理由の説明回でもあります。
これで大丈夫かな? 破綻した説明になっていないと良いんですが……
今年の投稿はコレで最後になります。皆さん良いお年を!