本当の理解者
はてさて、兄が言うには私が驚くゲストが居るそうだが……今更、誰を紹介するんだろうね?
いきなり婚約者等と言い出すならば、私は別邸にでも引き籠るが。
「ココ、お久しぶりです」
一瞬誰だか理解できなかった。
「キノ?」
「そうですよ」
髪を切ったんだな……綺麗な髪だったのに。
「サプライズゲストと言うのはキノの事か」
「サプライズと言えばサプライズなんでしょうか?」
そもそも死亡を偽装していた人間に会わせるのをサプライズで済ませて良いものか?
「私はキノが死んだなんて信じていなかったからな。だがキタロウさんは……」
「祖父は私を逃がす為に死を選びました」
「やはりそうか……そんな気はしていた。信じたくは無かったが私のカンは良く当たるんだ」
霊能者を自称するヤツは胡散臭いから、あまり言わなかったが私のカンは当たる方だ。100%当たる訳じゃ無し、指標にする程では無かったがね。
「いままで何所で何をしていたんだい?」
「ガイア連合で対悪魔訓練と実戦」
私は息を呑む。流石に驚いた、華奢で大人しいキノが戦うだなんて……否、自分の大切な人を理不尽に奪われれば人は変わる。私自身が証明した事だったな。
「敵はメシア教か?」
「私にとっては……上層部は分断して対処するつもりの様です」
分断? もう少し詳しく聞こう。
「メシア教徒と言っても、悪質な悪魔崇拝者”本人は天使を崇めているつもりでしょうが”から一般の何も知らない教徒まで、幅広いです。自称天使の言う事なら疑問も持たずに従う過激派とそれ以外の穏健派に別けて対処するつもりらしいですね」
「ガイア連合でも対処しきれない程に数が多いということか……当然かも知れない」
カソリックを抜いて、キリスト教最大派閥となったなんて話もある。個人的には信じたくないが本当だろう。
「それで、キノはこれからどうするのかな?」
「兄さまにクリスマスパーティに誘われたので、参加してから日本に帰ります」
帰る前に仲間の為に銃を仕入れたいらしい。ホントに仲間の為だけかな?
「コレクションを増やしたい気もチョッピリ……」
ふふーふ、正直でよろしい。
「では何が欲しいのかリストにしてくれたまえ。私が揃えてあげよう」
「ではパイソンは必須で、後はS&WのM19とM29と……」
黙ってノートを渡す。黙々と書き記すキノ。
「ふふーふ♪ 相変わらず銃が好きなんだな」
「ココの銃嫌いは変ったと聞きました」
「悪魔は天使の姿を借りて現れる。身を護る為の必要悪だと思い知った……」
ここカルフォルニア州のサンフランシスコは良い街だ。故郷を悪く思いたい訳では無いし当然だ。
だが、カルフォルニア州は人種の坩堝と言われる程に移民が多く、不法移民に寛容になりつつある気がする。
私としては法を守れと言いたいが、犯罪者予備軍、または犯罪者そのものな胡乱な人間もいる。
子供だった私が知らなかっただけで世界には汚いモノが沢山あった。
ましてや、人間を食物にする悪魔なんてバケモノもいる。姿は天使を模しているのが更に醜悪に感じる。
「アレを認識すれば意識は変わらざるを得ないさ……」
キノは黙って頷いてくれた。
そうだな、同じ経験をした従妹だ、言葉にしないでも理解してもらえる。
私は初めて本当の理解者を得たのだな……
お墓参り
「此処が父の墓地だ」
俺、キャスパー・ヘクマティアルは妹とキノと共に父の墓へ来ている。
普通の共同墓地。父は変な見栄を持たず、無意味な装飾を好まなかった。
シンプルな墓、特別な墓碑も無い。
ただ、生前の遺言で火葬にしてある。
以前は分からなかったがメシア教の現状を知ると納得できる。
ヤツラは死者の尊厳を守る気が無い。
俺としても父の遺体がヤツラに好き勝手に弄られるのはごめんだ。
「お久しぶりです、おじ様……キノです。こんな形での再会になるとは思ってもいませんでした」
キノが父の墓に花束を奉げてくれる。両手を合わせて祈るのは日本式か、無意識の所作が出たのかな?
祈る気持ちに変わりはない。無粋な事は言わないさ。
「ごめん父様。中々踏ん切りがつかなくてね、キノと一緒と聞いて漸く来る勇気が持てたよ」
妹のココが十字を切ってから祈る。メシア教を認める気は無いが我々はやはりキリスト教徒なのだ。
父と子と聖霊と、キリスト教で重要な三位一体を示す言葉だ。
これに出て来もしない天使がトップでのさばる……ヤツラは何を考えているんだ?
どう考えても異端だろう!
メシアの存在を信じるのは良い。その再来を願うのも理解は出来る。
だが人間が天使の言いなりになるのは如何なんだ?
しかも天使が人間の自由意思を奪うなんて、あってはならない!
天使を騙るなら聖書くらい読め!
ああ、読める訳が無いのか、貴様らは悪魔だものな!
聖書の言葉に触れれば滅びるのか!
俺も祈っておこう。此処に来るたびに激情に駆られる。
やはり此処が俺の原点だ、家族を奪われた現実の証明だ。
俺には力が無い、だが其れは今だけだ! キノが道筋をくれた。
どうすれば良いのかも分からなかった頃に比べれば格段の進歩じゃないか!
キノが居る間に悪魔が出るスポットを見つけてある。
信頼できるデビルバスターも見つけた。
キノが鑑定してくれたから実力に問題は無い。
人格は俺が見極めた、後は素質のある部下を覚醒させて力をつける。
武器はある、狩場もある、後は時間が問題だが……ヤツラも無策ではあるまい注意が必要か?
「ボス! 敵襲だ」
言ってる先にっ! 神聖な墓地で襲撃だと! ヤツラは本当に神を信じているのか!?
逆鱗に触れる
「襲撃だって!?」
私は狼狽えた。やはり私は不幸を呼ぶ人間なのか? キノを巻き込むつもりは無かったのに……
死ぬなら一人で死にたいものだ、ヤツラに誘拐され好き勝手されるのも嫌だしな。
私、ココ・ヘクマティアルは個人が武器を持つ事に忌避感を持っていた。
護衛も好きでは無かった。
護衛を護衛と思わず監視の様に感じていた。
10代の小娘の潔癖症……何も起こらなければ、それで済んだのだろうが。
私が悪戯感覚で護衛と離れた所為で父は死んだ。
兄は私を責めなかった。
「あんなバケモノが現実に居る等、信じられないさ。俺だって父さんやお前の言葉じゃなきゃ信じない」
だから、お前は悪くない。言外に兄はそう言ってくれていた。
そうは言っても、簡単に納得できるものではないのさ……
私は家族に死をもたらす死神じゃないのか?
だって、ほら、外に出た途端に……あんなに沢山の悪魔が私と家族を殺しに来た。
そんなネガティブな考えを吹き飛ばす強烈なプレッシャーが隣から沸き起こる。
「キノ?」
「貴方達に死者を悼む心は無いのですか? 遺族の気持ちを考えられないのですか? ああ、そうか貴方達は天使擬きの家畜でしたね。意志なんて上等なモノは持たないのですね」
静かな、しかし強烈な怒り。それがキノに見て取れる。
「黙れ! メシア教の敵め! 大義の前には些細な事だ! 我々には天使様がついているのだ、我々が正義だ!」
それが何故、正義の証明になるのだろう? そもそも、その天使は本物なのか?
キノはメシア教の信者が10人ほどがM14ライフルを構えて天使を連れているのに気にも留めていない。
「リク、二人を守って」
キノが一言呟くと目の前に大きな犬が居た。
「ココには見えるのか? 俺には見えない、なにやら優しい気配が守ってくれているのは感じるんだが」
兄には見えていない? これは霊的な存在なのか?
「私の仲魔です、ココには見えているんですね? それなら覚醒しているって事ですよ」
説明しながら私をチラリと見た。続けて父の墓を見て、こう言った。
「おじ様、少々墓前を騒がせます。スグ終わらせますので御容赦を……」
次の瞬間にはキノは敵中に飛び込んでいた。
早すぎて見えない。
あっと言う間に銃を奪い悪魔を撃ち殺し、人間は手足を折って全員を倒していた。
「殺したのか?」
「いえ、悪魔は滅ぼしましたが、メシア教徒には手加減しています。少なくとも口は聞けるでしょう」
私には見えなかった、見たハズなのに動きを認識出来なかったと言うのが正確か?
それだけキノが強いのだろうが、どれほどの鍛錬を積めばあのような動きが出来る様になるのか?
キノの実力はどれ程なのか? 兄の護衛にも聞いてみたが、護衛達にも測れないらしい。
「私の実力なら、すぐに見せますよ。手加減抜きの実力を……」
キノが敵の本拠を聞き出しながら私に言って来た。マダ本気じゃないのか……そして、キノは本気で今回襲って来たメシア共の本拠地を潰すつもりだ。
東洋ではドラゴンの逆鱗に触れると言うんだっけ? ヤツラは本気でキノを怒らせた。
逆襲開始
普通の教会に見える……でも、それは外見だけだ。
よく見ないでも、怨嗟と絶望がしみ込んでいるのが見て取れる。
こんな所にココや兄さまを連れて行くのは嫌なんだけど、あの襲撃で怒ったのはボクだけじゃない。
キャスパー兄さまも怒ってるしココも怒ってた。なんなら護衛のお三方も激おこである。
仕方ない切り替えよう。従兄妹の二人は護衛とリクに守ってもらう。
護衛の三人はガイア銃で武装してるし、最低限のレベルもある。
ボクが頑張れば良いんだ。
幸いボクが無理だと思ったら引いてくれる約束だし、ボクが居ない所で突っこまれるよりは良い筈だ。
「エミール」
敵の本拠地前でエミールを召喚する。正直に言おうデモンストレーションを兼ねてる。
ある程度、力を見せて信頼されてないと、ボクの判断を信用してもらえないかも知れないからね。
数少ないボクの親族なんだ、知ったばかりだけど。
でも従兄妹を失う気は無い、でもアメリカの地に思い入れがある訳じゃないし、イザと云う時は日本に逃げて来て欲しい。
兄さまは無理かもね? 男の子には意地があるし、アメリカ人的にも逃げるのは恥かも知れない。
ココだけでも逃がしたいけど、どうだろう?
「私の相棒です。エミール」
「どうもねぇ~。キノ、英語なのは解かるけど違和感凄いよ?」
軽い挨拶、でもバイクが喋るってだけでもインパクトはあったみたい。
「エミールどうですか?」
索敵をお願いする、反応はどうかな?
「多分エンジェルかなレベル10以下がウジャウジャ、反応は奥まで続いているから中は異界じゃないかな?」
「そうですか……聞いた通り中は悪魔の巣になっています。それでも着いて来ますか?」
「「当然だ」」
「クライアントに従うよ」
兄妹は即答し、護衛はチェキータさんが代表して答える。どうせならレベリングもしちゃうか?
「兄さま、護衛の皆様以外の分のガイア銃はどうしました?」
「置いてきている。失敗したか?」
ソレはソレで正しい判断だ、なら……
予備用にしているガンケースを召喚。
中身はボクのコレクション。
二人にはリボルバーの方が良いかな? マガジンが限られてる以上、二人にはバカスカ撃って欲しくないし。
さよならボクのSAA ピースメーカー……アーティラリーとシビリアン。
こっそり苦労して輸入したのに……チョット惜しいけど二人の方が大事。
古い銃だし大切にされていたから付喪神になりかかっている……二人の力になってあげてね?
これならボクの予備弾を渡せるから威力も不足はないはず。ようやく愛好部製の弾丸にも付与できるようになったのに、暫くお預けだな……ボクは通常弾で戦えるけど、二人はそうじゃ無い。威力はあるに越した事ないし、愛好部製の退魔弾は全部二人にあげよう。
連射性は落ちるけど、無理に戦う必要は無いし隙があったら撃つくらいで良いんだ。
お願いだから無理はしないで欲しい。
「兄さまにはコレも渡しておきます」
探求ネキが開発した霊視ゴーグルだ、とりあえず一つ購入して来た。
MAGバッテリーが着いていてMAGを込めて一日は非覚醒者でも悪魔を見れる。
才能が無いと靄が動いてるくらいにしか見えないらしいけどキャスパー兄さまはリクを感知していたから見えるはずだ。
上手くいけば覚醒出来るかも知れない。
説明している間にキャスパー兄さまの眼光が鋭くなった。
ひょっとすると大量に注文されるかも? 配下の覚醒者を増やす気マンマンだし。
「それから護衛のお三方には、こちらを貸与いたしますね」
物理・銃撃耐性のジャケットは護衛分用意していたから前倒しで渡そう。
一応、貸与って事にして働きが良かったら正式に……勝手にボクが褒賞を出すのもマズイのか?
兄さまに渡して、兄さまから渡してもらおう。名目は褒賞でも装備強化でも良いんだし……貸しって事にすればスカウトも頑張ってくれるよね?
後は、二人の従兄妹の防御を強化したいけど……丁度良い装備が無い。今度、兄さまには耐性付きのスーツでも贈ろう。
あとは精神無効の護符を人数分かな? 神社のお守り型だから、あげても良いけど普段使いするかなぁ?
準備が足りない……でも急襲する意味は有る筈なんだ。
あんな暴走を許すなんて、トップは統率が取れてないって事だ。
なら今が攻め時だと思う、エミールの探知だと戦力は揃ってるんだから。
突入
男装したキノが先頭に立つ。腰にはガンベルト。バイクは外に置いていくらしい、当たり前か。
「私が先行します。入口周辺に居るのは比較的弱いです、ですので私が通りすがりに弱らせます。皆さんは止めに専念してください」
簡単に言うが、そう上手く行くのだろうか? バイク君の話では数だけは多いそうだが……
俺は使い慣れないゴーグルの位置を直す。悪魔を視認できる様になるゴーグルだそうだ。
これには霊力を貯めるバッテリーが着いていて、このまま一日使い続けても大丈夫らしい。
オカルト技術でガイアに勝てる所は無いだろうな。
一番の経験者はキノだろう。墓地での蹂躙を見ても判る。
ならキノの判断に従おう。足手まといを承知でついて来たのだ、俺の意地の為に……
キノがドアを蹴破る。
途端に周囲に響く讃美歌。
異界と呼ばれる、隔離されたバケモノの為の世界。
天使を名乗るバケモノ共が楽しそうに宙を舞い、椅子に座った人間は微動だにせず讃美歌を歌い続ける。
人間の目には意志の光が無く、ただ歌い続ける。悪魔の為に……
「これが教会だと!?」
天使が人間の意思を奪い搾取してるだけじゃないか!
俺が目の前の光景に憤る間にキノが駆け抜けた。遅れて聞こえる銃声、羽を撃たれ墜ちて来る天使擬き。
キノが振り返り、もう一度戻る、天使擬きの所でキノの手足が霞んで見えた。気が付くと天使擬きは全員蹴り殴られ手足を折られて入口周辺に纏めて転がされていた。
「私が近くに居ると、皆さんへ流れるハズのMAGが私に流れます。私は奥を警戒しますから、その間にこいつらを処分してください」
そう言って、地下に続いているらしい階段を下りて行くキノ……
讃美歌はマダ続いている。近くの女性を見ると目の焦点が合っていない。
「やはり洗脳状態か……」
「ボス、のんびりしてる暇は有りませんよ。手分けして撃ち滅ぼしちまいましょう」
「そうだな、考えるのは後でも出来るか」
手近な天使擬きを撃つ。
十分に弱っていたのだろう、俺が貰ったSAA アーティラリーでも殺せた。
キノがくれた弾丸の力もあるだろう。
ガイア連合で標準的な退魔弾だそうだ。
大切にすれば銃が応えてくれると言うがどういう事だ? 後で説明してもらおう。
次の瞬間、俺の体に力が漲る。
ゴーグルを外してみる。
世界が変わって見える、今ならどんなヤツも倒せそうだ! っと……危ない危ない、これが覚醒に伴う全能感か。
前もって注意されていてもこのザマか……
「いや、ボスは凄いよ。普通はそのままヤラカスからね」
「そうだな、直ぐに自制して見せた。流石だよ」
部下に褒められる。そんなものなのか?
「兄さん、気分は良くないがサッサと終わらせよう。抵抗できない存在を撃つのは嫌いだが、バケモノ相手に遠慮がいるものか!」
ココの言葉も最もだ、サッサと終わらせてキノを追おう。
ふと横を見ると、優しい目をした白い犬が俺たちを守る位置に座っていた。
醜悪なる神の家
地下に続く階段を私達は下りて行く。
此処から先が二層目と呼ばれる、より強い悪魔の領域になっているそうだ。
キノを先頭に兄の護衛エドガーとアランだったかな? が続き、兄を挟んでチェキータ。
私はその後で、そしてキノがリクと呼んでいた霊犬が続く。
イヤな臭いが漂っている。
先頭を行くキノが踊り場で足を止めた。
私達に留まる様にハンドサイン、飛び出して直ぐに銃声が響き……我々の足元に天使擬きが転がされて来る。
「いやはや、キノ嬢ちゃんのツエー事。奴らが弱いと勘違いしそうだ」
護衛の軽口。相手は本来なら死を覚悟する大物らしい。
自称アークエンジェルやプリンシパリティ。一匹でも都市一つの被害を覚悟しなきゃならないバケモノ……
なのにキノに取っては路傍の石も同然らしい。
「邪魔!」
この一言で撃ち落とされ、手足を砕かれて転がされてくる。
我々で止めを刺す間に先行して偵察する。
正直に思った事を言おう。
私の小さくて可憐な従姉は、もう何処にもいない……少女の姿をしているが、人間を外れてしまっている。
覚醒者には段階があって、異能者 達人 超人と存在のレベルが上がって行くそうだ。
キノは超人の段階にある。
それも高位の超人らしい。
私が昨日、人形の様に着替えさせて遊んだ従姉はマーベルコミックのヒーローとだって戦える……現実とは思えない。
否、キノは苦笑しながらも付き合ってくれたのだ。
どれほど強くても、心は私の可愛い従姉のままだ。
豪華な扉が見えて来た、この雑魚狩りも終わりらしい。
ガイア連合でもパワーレベリングは推奨されないそうだ。
チョット考えれば分かる事だ。
どれだけ大きくても狩りの経験を持たない動物園のトラと野生のトラ、どちらの脅威が上だ?
勿論野生のトラの方だ。
「護衛の皆さんの意見を聞いて体を慣らしてから、戦闘訓練を受けると良いですよ」
簡単に言ってくれる。しかし、私自身が自分の力を持て余しているのが分かる。
キノは正しい。
「ソロソロ最奥です。気を引き締めて下さい、嫌な光景を見るでしょうし」
扉を開けて進んで見た光景は地獄だった。これが天使のやる事か! これが神の家で起こって良い事なモノか!
巨大な硝子シリンダーの中に浮かぶ人間の脳みそ。左右にずらりと、数えたくない程にある。
奥には血の付いたままの手術台。被害者の怨嗟が見える気がするくらいに禍々しい。
兄も私も吐き気を堪えるのでやっと……
護衛達も軽口が無くなり、気分が悪そうだ。
「ようこそ! 歓迎しよう、共に神を讃える仲間となるが良い」
燃える車輪を背にした天使擬き”ソロネ”が私を見つめていた。
神の戦士
「戯言は終わりで良いですか?」
ボクの後ろには守るべき人達がいる。
こいつに手を出させるつもりはないが、ソロネが一体で対峙するかな?
天使擬きって群れてる印象が強いんだけど……
「戯言とは言ってくれるな。しかし抵抗は無駄だ、痛い思いをしたくないだろう?」
やはりゾロゾロ手下が出て来た。でも人間が一人混じってる?
「我々の成果だ……選別された優秀な兵士。神の戦士とでも言おうか? 貴様らが超人と呼ぶレベルに達しているぞ」
天使パワーが一体、天使アークエンジェルが三体、そしてヤツが言う所の神の戦士。
「貴様如きが神の名を騙るな!」
キャスパー兄さまが激高している。敬虔なクリスチャンだから当然かも知れない。
「No.47命令だ、敵集団を無力化しろ」
偉そうにソロネが命令してる
気に入らない、すっごく気に入らない! だってアノ少年は嫌がっている。
諦めていないんだ、抗っているんだ!
「キノ! あの少年は敵じゃない。少なくとも心は!」
へえ、ココには分かったのか……なら任せて見ようかな? ボクは迷わずカノンで攻撃する。
「キノ!」
但し少年の銃だけを【氷結撃】*1でだ。
少年は凍り付いた銃を取り落とす。
「ガンディザームとでも言えば良いのでしょうか? 後はお任せしますよココ」
ココが頷くのが分かった。ならボクのヤル事は。
「エミール!」
「ひっさしぶりのダイナミックエントリィ~!」
エミールが転移してからの体当たりでパワーに攻撃する。
ダメージは少ないけどヤツらが戸惑っている、こいつら素人だな……自分より弱い人間を蹂躙する事しか知らないんだろう。
「人間は鍛えると此処まで至る。覚えておきなさい」
吐き捨てると同時に金の杯で天使共を【呪殺撃】*2で攻撃、呪いの弾丸だ貴様らには効くだろう? 遠慮なく滅べよっ!
「「「今だ、撃てっ!」」」
護衛さん達のナイスな連携、傷ついたアークエンジェルに止めを刺す。
一瞬遅れて兄さまも撃っていた、これが止めとなりパワーが滅ぶ。
後は、上で偉そうにしているソロネだけ。
「なんと無様な、同胞の天使とはいえ情けない。しかしNo.47には攻撃していないな、殺せないのか? ではNo.47、予備の武器があるだろう? 殺せ!」
少年はナイフを抜き構える。しかし、その動きはユックリで涙を流している。
やはり、支配され切っている訳じゃない。抵抗しているんだ。
「リク、光を」
リクに頼んで少年に【日輪の光】を使って貰う。
言い方はヤツへの当てこすり、状態異常なら回復するはず。
少年兵はココに任せる。リク、補佐してあげてね?
「何をしたっ!」
「驚いている暇があるのですか?」
ボクは【神足通】でソロネの前に移動し蹴りつける。
皆と距離を取らないとね……
貴様はボクをトコトン怒らせた。
ボクのフィールドへ招待してやる、後悔しながら滅んでいけ!
「何だ、この場所は?」
まるでロビンフッドの舞台。深い森林が広がり、視界は悪く薄暗い。
「此処は私の決闘場。キリングフィールド……貴方は此処で滅ぶのです」
「なっ!」
ようやくボクと言う脅威に気付いたらしいが、遅すぎる……実力差も分からない癖に、なんでコイツラ何時も偉そうにできるんだ? もっとも、レベル自体はそれなりに高いしアメリカ渡航の為に特訓して無きゃ苦労したかもね。
ショタおじには分かってたのかな? ボクがアメリカに来たらコイツに会うって……
本気の一発。動揺するコイツを殺すには、それだけで十分だった。
人間の証明
嫌だ、もう嫌なんだ! 何故、殺さなきゃいけない? 普通に暮らしていた人だった、一緒にご飯を食べた仲間だった。
なのに殺し合わされた。
死んだ人間には価値が無かったと決めつけられた。
僕には人間としての名前があったハズだ。
もう思い出せない……優しい両親がいた気がする、記憶の彼方だ……僕はキリングマシーンにされた、人間なのに。
そうだ、僕は人間なんだ! 天使の玩具じゃない! 僕には自分の意思が有るんだ、人を殺すのは嫌だ!
必死の抵抗、でも僕の自由になるのは心だけで体はヤツに従おうとする。
無表情な儘、ナイフを取り出し女性に向ける。
長い髪のプラチナブロンド、綺麗な女性なのに僕の体は、僕の意思を無視して殺そうとする。
諦めた方が楽なのかも知れない。
でも、心まで屈したら僕は人間じゃ無くなる。
本当にキリングマシーンに為ってしまう。それは嫌だ、僕は人間なんだ!
涙が流れる。
心が嫌がっている証拠だ、でも体は意志を無視して動いて……
不意に優しい光に包まれた。
ナイフを振りかざす体が止まる? 僕の意思で体が動く?
戸惑っていると柔らかい何かに包まれていた。
「もう終わった……君は自由なんだよ」
女性に抱きしめられている? ナイフを離す……自分の意思で動ける。
自由に動ける……僕は自由だ!
「うわぁ……」
泣きながら女性に抱き着く。
女性も僕を抱きしめながら泣いていた。
「私はココと言う、君の名前は?」
女性に聞かれるも答えが無い。名前を憶えていないんだ。
「覚えて……ない」
「そうか……なら名前が必要だね」
そうなるのかな? ナンバー呼びは嫌いだけど、ナンバーに込められた意味は捨てたくない気もする……
「No.47。この呼び方は嫌いだけど、完全に捨てるのも嫌だな」
「何故かな?」
「良く覚えてないけど、友達が居たんだ。少なくとも46人はいた筈なんだ」
暫らく二人で黙り込んでいた……
「ならヨナでは如何ですか?」
急に声を掛けられた。あの強い女の子だ……あのバケモノはこの娘に倒されたんだろう。
無条件に自分の方が強いと思えるのは馬鹿だと思う。
「ヨナ? どういう意味?」
「日本語だと
「そうなのか? しかしヨナか……聖書とも繋がりがある言葉だね?」
ココと名乗ったお姉さんがポツリと言った。
「それが良いな。僕の名前はそれだ……」
こうして僕はNo.47を止めてヨナに成った。
一時の別れ
「それでは、また」
キノが握手をして空港のゲートへと歩み去る。
あれから後処理をして、一緒にクリスマスを祝った。
兄は忙しそうだがヤル気に満ちている。
後処理はキノの手も借りて脳だけにされて居た人達も助けられそうだ。
機密で私には教えられないそうだが詳しい事は知らなくて良い。
助かった人が居る、それだけで救われる気がするから。
ヨナには勉強をしてもらう。
戦闘能力は十二分だが一般常識が足りない。
私と一緒に日本語の勉強もして貰わないといけないしな。
アレ? キノの戦力強化の為のアメリカ渡航だったはず……
キャスパー兄さまの戦力が大幅に増強されそうですね? 不思議だな~
気付いた方もいらっしゃると思いますがキャラ名は「ヨルムンガンド」から頂いています
もっとも名前が同じなだけの別人です
2/3【呪殺撃】に付ける注釈を間違って【氷結撃】に付けていたので修正しました