【カオ転三次】世界が終わるまでのバイク旅   作:山親父

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今回は難産でした、辻褄合わせに時間がかかる……
行き当たりばったりで好き勝手書いて来た弊害だな!
自業自得だ頑張ろう


半終末前後の喧騒

 五月半ばの相模原

 

「これからどうしよう?」

 

 キノは悩んでいた。

 過激派として区別される事になったらしいメシア教の馬鹿ども。こいつ等がヤラカシテくれたお陰で世界は滅茶苦茶。

 日本は比較的安穏としているが、物流が滞り市民生活で不満が出だした。

 不満で済んでいるだけ政府は良くやっているとも言える。

 キノが知る限り、この先、悪くはなっても良くなる事は無い。

 キノは裏の市長の様な立場にある。進んで選んだ立場だ、文句は言えないし言うつもりも無い。

 悪魔から一般市民を護る為の設備や結界、それでも出て来た悪魔を退治する為の人員と装備を手配しなければならない。

 

 幸い神奈川県の水源の半分以上を握っているキノの派出所にケンカを売って来る所は存在しない。現在の所ではあるが……

 

「切羽詰まれば、どうなるか分かんないしね」

 キノの霊的な支配領域は大幅に拡大して相模原市のほぼ全てを采配する身になってしまった。

 影響力という意味なら愛川町と清川村、厚木市北部にまで及ぶ、彼らをどう守るかも頭が痛い所だ。

 キノとしては緑区派出所を別格として、中央区、南区をソレゾレ独立したシェルターとして運用する事を考えている。

 愛川町や清川村、厚木市等も切りの良い範囲でシェルター化すればイザという時には分離出来るだろう。

 冷たいかも知れないがキノに必要なのは緑区だけだ、他はオマケと言うか、現地の人を助けたら懐かれて助ける羽目になったと言うか……自立できる様に援助はする所存である。多分無理なんだろうけど(溜息

 

 地元の名家が自浄作用を発揮して若手中心の組織として合流してくれたから、何とか人材は足りている。

 自転車操業極まりないが、どこもかしこも人材不足だ、生き残りたいならやるしかない。

 名家の仕事は異界攻略や悪魔退治だけではない、退魔が出来ない引退した人材も現地の市政や警察との折衝では大いに活躍してくれている。

 

 キノとしては把握出来てない残りの部分が問題になる。そこには在日米軍の基地があるからだ。

 

「在日米軍の米陸軍キャンプ座間と米軍相模総合補給廠を分断出来るとも言えるんだけど……」

 逆に言うと、在日米軍がその気に成ったらキノの派出所が明確に邪魔になると言う事でもある。

 万が一にでも在日米軍が敵対したら……キノの立場では万が一を想定しておかなくてはいけない。

「分断して統治せよだっけ?」

 敵の数を制限できる工夫がコレしか思いつかなかった。

 万が一の時は反乱したシェルターを切り離せば敵の数を限定できると思うのだ、どれだけ犠牲が出るか分からないので進んでやりたいとは思わないけど。

 

「関東平野に入ると、相模川位しか防御に利用できる地形は無い……最悪の時は後退戦術を取るしか無いのかな?」

 キノに頼り切りでは困る。相模川流域を守護する名家を中心に対応策を考えさせておかないといけない。

 手助けはする、自助努力を忘れたなら見捨てるだけだ……その時に為ってみないと本当に見捨てられるかは不明だけれど。

 どれだけ力を付けてもキノは神様じゃ無いし、神様にはなれない。現に自分の従兄ですら救えないのだ。

 

 一応、交易品として銃と弾薬の量産体制は整えたし、最低限の自給自足は出来るハズだ。

 他にも産業用ロボットを終末対応にアップデートさせれば色々出来るのではと考えている。

 実際イデニキ達が利用して結果を出しているから実績もある。

 御陰でキノの屋敷の異界は銃弾のオートメーション工場と化した。

 材料として探求ネキ謹製の不思議植物の実と金属さえ投入すれば完成まで全自動。

 正実シスターズが量産してくれるのでキノが弾薬には困る事は無さそうだ。

 一応、義妹達や正実シスターズも使用する9㎜パラと7.62㎜NATO弾の製造を優先しているが、その他の弾薬はキノしか使わない、ロジスティック的には馬鹿のヤル事である。

 

 相模原市には優秀な技術を持った中小企業が多い。

 特にパソコンやスマホといった製品の製造に関わる企業が目立つ。

 山梨には半導体製造を始めとするガイア系ハイテク企業が多く、その下請けとして相模原市の中小企業は組み込まれている。

 

 イワナガヒメの加護を受けられる人間は少ない。つまりパソコンもスマホも何時かは壊れる消耗品なのだ。

 ならば、バッテリーを初めとする部品を作っている中小企業は、ガイアの協力企業として生き残れる可能性が高い。

 キノとしては終末後も相模原市が生き残る可能性が高い事を示し、山梨のガイア系企業に切り捨てられる心配を減らせば良いのだ。

 終末後の状況次第では只の箱になってしまうのだが……

 

「終末後にもファミチキを!」

 これがガイア連合の目的だったハズ。つまり終末後でも現在の生活を維持するのが目的だ。

 なら、ネットを初めとしたパソコンやスマホの需要は無くならないし、ネット環境も必死に護るのでは?

 維持したくても出来ない、状況しだいではこうなる可能性もあるのだが。

「この辺は運任せ、ボクがどうこう出来る問題じゃない」 

 

 しかし、そうすると自動車関係や電子部品を製造している中小企業をどうやって生き残らせるかが問題となる。

 どちらも現代人の生活に欠かせない代物ながら、終末後に需要があるのかは……

「家電なんかに使える電子部品は需要があるよね、問題は自動車かなぁ?」

 終末に対応できるようになるなら電子部品には需要がある。もっとも今の終末対応策だと高額に過ぎる。

 もっとコストパフォーマンスに優れた方法が見つかる事を願うしかない。

 中小企業の宿命、大手企業と一蓮托生。もっとも、この場合は利点でもあるのかも知れない。

 大手のガイアグループを裏切る事は無い、出来ないと言う証明である。

 そもそも、終末後では電子部品は動かないって可能性もあるのだが……

 

 自動車に関してはガソリンの安定供給にも問題があるし、そもそも一般人が気軽にドライブって環境じゃなくなる可能性が高い。

「今の結界の範囲なら自転車で足りるのかな? 折角の技術、何かに活かしたいけど……」

 イデニキに何か考えがあるみたいだが、問題解決に時間がかかるらしい。

 それに、活かすにも材料が無ければ製造業は成り立たない。 

 

「やっぱり材料が問題になるな。今後輸入は当てにならないし、やっぱり伊勢原の大山阿夫利神社の御祭神の協力が必要かな? サマナーが全然足りないよ~」

 大山祇神の力を借りられるなら鉱山の一つや二つ作れる筈だ、高レベルサマナーが必要だけど。

 人材、とにかく人材が必要なのだ……キノ自身は特化型を極めているので、手伝いが無ければどうにもならない。

 

 食料に関しては農業用異界で農業部の人間の指導の元、現地の覚醒者が生産しているので今後の増産に期待だ。

「この辺は低レベルでも覚醒者が多い名家達が居てくれて助かる」

 何故コレだけヤル気も人格も優れた若手が居て、評判が悪かったのか? 多分、長老がよっぽどダメだったのだろう。

「ボク程度の人間をコレだけ献身的に支えてくれる人材がいるのに腐らせてたのかな?」

 間違いではないのだが、キノ自身と周りの評価にギャップがある事に気付いていない。

 このまま気付かない方が幸せかも知れない。多分、知ったら羞恥で死ぬ。 

 

 幸い主食の米に関しては魚沼を当てに出来る。

 代わりの交易品が銃だけなのは将来的にマズイ気もする。やはり交易品の新規開発が急務だろう。

 もっとも米を運ぶのも山梨を経由しなければならない。

 意図的に構築した訳ではないが、相模原は山梨を裏切ることが出来ない様になっている。

 

 前世ではア〇オ橋本が出来た場所にジュネスも誘致出来たし、結界は順調に広がっている。

 保護出来る範囲が増えたと言う事は、護り養わなければならない人口が増えたと言う事でもある。

「このままじゃ限界点かな?」

 出来れば多くを助けたい、部下達の思いも理解出来るが無理して手を広げれば共倒れもあり得る。

 

 バランスが難しい問題だ。在日アメリカ軍とその家族や彼らを頼って来た人間も油断できない。

 ショタおじや霊視ニキが受け入れた以上は従うが油断する気は無い。

「善意や正義でヤラカスのがメシアだ。多分穏健派も変わらないよ」

 キノ自身は神道に帰依する人間だが、一神教カソリックには身内も居るし偏見は無い。

 少なくともそうあろうと努力はしている。

 

 だがメシアはダメだ、過激派は論外だが穏健派も如何かと疑っている。

 彼らは良い事、正しい事ならヤルのが当然と言う思考をしている。個人的な判断でソレを遣る。

 彼ら自身の責任と能力の範囲で行うのであれば、個人の自由だ。

 だが正しい事なのだから手伝って当然、助けて貰えて当然と考える。

 そして他人に集るのだ……自分は正しいのだから。そこに自制心は無い。反省も無い。

 反省が無いから繰り返す。自分は正しいと正当化するから。

 偏見かも知れない、偏見であって欲しい……けれど、多分間違ってはいない気がする。

 

「穏健派だから、こっちからは手出し出来ないって言うしな~」

 不満が無いと言えばウソになる。穏健派と言われても信用できない。信用するだけの実績も無い。

 しかも、穏健派なるメシア教徒は在日米軍を頼ってか基地周辺に集まり増えだしているのだ。

 ガイア連合上層部が認めた事だからと我慢はしている。許可を受けた上での行動だ、文句は付けられない。

 せめて、相模原市の東端に纏められるように調整はしているが、人間は移動する生き物だし、影響を受けて考えを変えるのも人間だ。無信教だった日本人がメシア教に影響されて……

 あまり考えたくないが有り得る事として警戒がいる。

「でもストレスだよね? ガマン仕切れるかな?」

 キノがコレなんだからメシアの犠牲者達がどう思うか、改めて言うまでもないだろう。

 特に義妹二人は心配だ……

 

 一応、朗報かも知れないのが横浜との行き来に文句が言えなくなったのでサンフランシスコとの通商に妨害が入らない事か? 少なくても表立って妨害する事は出来ない。

 やってる事は密貿易だし、海の荒れようを考えると何時まで続けられるかは不明だが。

 

「取り合えず兄さまへの支援物資は出せるだけ出した。やれる事は全部ヤッタ、よね?」

 キノに出来る事はもうない。

 

 

 サンフランシスコの状況

 

 ココを宥めるのには時間がかかった。

 情報が錯綜しているのに、無理に動くと逆効果な可能性が高いのだから、先ずは情報収集が先。

 部下の人達とキノが一緒になって説得して、やっと冷静になった。

 

 ココにアメリカへの連絡は任せて、キノも自分なりに情報収集をしている。

 正規の手段より掲示板の方が早くて正確だったのは意外だ、所詮は掲示板なのだが……

 デマがゼロでは無いにせよ、出来るだけ正確な情報を流そうとするバイアスでも働いたのかも知れない。

 裏取はしないとダメだが、結構役に立つ情報が集まる。

 

 結論としては、どうもマサチューセッツ州でNがヤラカシタらしい。

 住民のSAN値が心配なイアイア言ってる危ない場所と化したと聞く。

 西海岸は今の所は平気らしいが、避難先に選ばれる可能性が高い。

 誰に? メシアの過激な馬鹿垂れ共にだ。

 

「つまり、キャスパー兄さまの敵陣営が厚くなるって事か? 今の内に打てる手は打ったけど足りるかな?」

 

 キノに出来る支援……マズは物資だ。武器と防具を相当数置いて来た。

 特に武器は実銃愛好部式ガイア銃”SIG SAUER P226コピー”を110丁を渡せたのは大きい。

 これは所詮違法コピーのガイア銃より”自分が好きな銃”を付喪神にしてキノにスキルを付与して貰った方か強いし嬉しいとのロマンが勝った為にキャンセルしやがった部員用の銃、60丁が丸々浮いたからだ。

 

 わざわざアンケートまで取らせて大量生産させた癖にとも思うが今回は助かった。

 これが無ければ違約金を取っていた所だ。

 自衛隊の9㎜拳銃こと”SIG SAUER P220”から変更したのは装弾数が増えているからだ。

 P220は9発、P226はダブルカラムマガジンで15発、キノ個人としては.45口径を選択できるP220の方が好きだし.45口径なら尚良しなのだが、多数決で負けた。

 予備を含めて多めに製造したら、ほぼ全員にキャンセルされたのだが。

 

 元々サンフランシスコ用に生産してた分を合わせたら要求数の100丁を超えた。

 仕方ないから超えた分はキノのサービスになる。

 代金は金のインゴットで先払いしてくれたし、多少サービスしても良いだろう。

 キノの自腹になるけど、従兄に一丁でも多くのガイア銃が渡ればそれだけ助かる確率が上がると信じたい。

 正直に言えば部員に対してキノはチョット怒っている。

 気持ちは分かるし引き取り手も居たから、今回は特別に不問にするが次にヤッタラタダじゃおかない。

 

 メシア教過激派を相手にするなら特に怖いのが洗脳だ、背に腹は代えられない。

 カッコ悪いなんて贅沢は許されない。

 だから支援物資にドルフィンヘルムとその類型が相当数、具体的には100個以上混じったのは仕方が無い。

 技術部のヤツラ面白がって作り過ぎたんじゃないのかな? 練習に丁度良いとか相応に理由は有ると思いたいけど……

「幸いキャスパー兄さまの部下用にはガイア連合から一そろい防具を購入してるから、ドルフィンヘルムは義勇兵用かな?」

 命かプライドか選ぶのは彼ら自身だ。キノは善意で防具を寄付しただけなのだから。

 

 アイテムも傷薬やチャクラドロップならそれなりに運んだ。

 状態異常を治療するアイテムも出来るだけは置いて来た。

 

 これで足りれば良いのだが、無理なら追加の支援をするか、損切りするかの決断を迫られるだろう。

 キノとしては従兄を切り捨てる様な真似はしたくない。しかし、無理な支援で共倒れは避けなくてはいけない。

 

「お願いだから、無理しないで。時には引く事も勇気なんだからね」

 

 キノには祈る事しか出来ない。やれる事はやったのだから……

 

 朗報が一つある、いきなり決まった輸送の為に今回日本へ来たヘクマティアル商会所属の貨物船は老朽船で付喪神と化していた。

 半終末前に横浜に到着した彼らをアメリカへ返す前にキノは少し小細工をしている。

 船長をスパルタ*1で覚醒させてレベルも上げて、【ステルス】をぶち込んだ付喪神の主人にしてあるのだ。【物理耐性】も付けたし下手な新型船より頑丈かも知れない。

 新しくても普通の船では生き残れない……船が増やせないと言う事だ。

 そして付喪神であっても運が悪ければ沈む。この船は運が良い。

 船長とそれに付き合った船員たちが訓練中にICBMが降って来た訳だ。

 自慢の最新船より老朽船の方が頼りになるのは流石、半終末と言うべきか?

 

「常識が仕事を辞め出してやがる」

 キノはそう吐き捨てた。

 

 帰りの航路では保存食やミネラルウォーターを中心とした支援物資を満載させて、ガイア連合のオカルト船と共に帰らせたので、無事にアメリカまで帰れると思う。

 狩人ニキやその仲間も分散して乗ってるし、封魔の鈴も相当数もっていってるらしいしね。 

 

 

 これ以上の人員は無理だ、ココはアメリカに戻りたがっているが、従兄に止められている。

 最悪の想定ではココが血を繋ぐ事を期待しているのだろう。つまり従兄は覚悟を決めてるって事だ……

 男の子には意地がある。

 

 不幸中の幸いが幾つかある。

 人員も機材も揃っているからサンフランシスコで銃器の製造が可能だ、スプリングフィールド・アーモリーの人員を引き抜けたのと、銃器製造の為の工作機械を余分に購入していた事でM14ヘクマティアル式退魔ライフル*2を量産できる。

 銃弾も自力生産が可能らしい。

 材料に多少不安があるが、カソリックのエクソシストの協力で火薬の材料を採取できる異界が作れたのかも知れない。

 流石にキノにも秘密だから詳細は不明だ。

 キノが提供した術式も役に立ってる様で、水と食料があれば自立できるだろう。

 

 その水と食料、そして安全が保障できるか? これが問題になるだろう。

 

 

 考えていて分かった事が幾つかある。

 アメリカからの支援は期待できない事。

 このままでは遠からず行き詰まる事。

 人材が必要だが、育てるにも原石が必要で、手元の人材では向かない事。

 

「戦闘員は頼りになる人が結構いるんだけどね」

 義妹二人にヨナ君、ウルトラマン達がレベル30オーバー。正実シスターズやココ分隊がレベル15オーバー、そして現地の人間の上澄みにレベル10を超える人間が出て来ている。何れ、この中からはレベル20オーバーも出て来るかも知れない。

 正実シスターズに関してはキノのシキガミに近い立ち位置なので、強化する事も無理ではない。

 今、強化する意味は無いのでカンストしたら考えれば良いか……問題の先送りだが、時間が無い。

 サマナー向きの人材がシスターズに居れば、何をおいても強化して高レベルサマナーを確保しただろうが、残念ながら適性が無かった。

 悪魔、絶許な集団なので仕方が無いと諦めている。

 

「やっぱりサマナーが必要だよ……」

 イデニキとヤプールニキは既にそれぞれ異界を任せているし、ヤツラは自身を金札に偽装してキノを看板に好き勝手している。

 あれで常識と良識を弁えているから文句も付けられない。

 普通に成果も上げている。産業用ロボットを使用した自動弾薬製造工場は普通に便利だ。

 終末対応型だから、材料さえあれば弾薬が尽きる心配が無い。

 その材料もオカルト木材が多いので地消地産出来る……違和感が凄いが出来てるんだから仕方が無い。

 金属もヤプールニキの異界で足りる。

 

「旅をするなら西が吉」

 くそみそニキの言葉がどうしても気になる。

 確かに、あの後に西へ行って大事件を未然に防げたのかも知れない。

「でも、アレ吉なのか? 凶を防いだだけじゃないのかな?」

 気になるのはソコだ、くそみそニキなら「西へ行かなきゃ凶になる」細かな言葉遣いは変わるかも知れないが、ニュアンスとしてはコンナ言い方になるんじゃないか? キノにはそう思える。

 

「そもそも旅って程の距離でも無かったし……」

 一部のバイク乗りの間ではキノみたいな人間を”距離ガバ”と呼ぶ。キノの距離感覚は壊れていた。

 

 

 五月の末の事

 

 だから西を気にしていた。

 それに気付けたのは運だ。キノの運が良かったのか、船長達クルーの運が良かったのか?

 どちらにせよ、キノが気付いた御陰で、その貨物船は沈む運命を免れた。

 

「それにしてもインド洋の真ん中であのレベルの悪魔が出るのか……」

 流石は半終末、GPも随分と上がったらしい、異界の外でレベル30近い悪魔が出没し始めている。

 シーサーペント、中世では船の天敵と恐れられた存在だが、より船体が大きくなった現代でも大差は無く恐ろしい存在だ。

 見えない捕食者を恐れない人間は居ないと思うが。

 

「たかがデカいウミヘビじゃないか、出直してこい」

 キノがオーボエ*3で撃ち抜きつつ吐き捨てた。

 

 そんな化け物でもキノに取っては銃弾一発で片が付く相手でしかない、しかし一般人と今回の危機で覚醒したばかりのレベル1の人間しかいない状況では絶望的だった筈だ。

 おかげで見た目に強力だと分かりやすいオーボエの徹甲弾を使う羽目になった。

 分かりやすく強力そうな銃は彼らの精神安定に寄与したので無駄では無いが、補給を考えると勿体なかったとも思う。

 

「Thank you so much, (ありがとうございました。)You've been very helpful.(とても助かりました) 」

 珍しく日本人らしい船長が話しかけて来た。部下はフィリピンの人間が多そうだ。

「日本語で良いよ。お礼は受け取っておくね」

 船長はチョット驚いてこう聞いて来た。

「どうやってこの船に?」

「超常の現象だし、テレポートだと思えば良いよ」

 言外に厳密には違うと含みを持たせたつもりだが伝わっただろうか?

「超能力ですか? 眉唾と笑い飛ばしたいんですが……アレを見た後だと笑えませんね」

「脅かす様だけど、これからドンドン酷くなる。まだ序の口だよ」

「相撲の言葉ですね? 日本人ですか?」

 その質問には答えない。

  

「この船の積み荷は?」

「機材と人員……それから難民ですかね?」

 難民? 面倒事かも……

「ああ、日本政府は承知してますよ。なんでもガイアグループの肝いりだとか」

「へえ……」

 つまり、外国の術者やその身内かな? 各地の神話の信者を保護する計画を聞いた気がする。

「機材と人員はヘクマティアル商会の依頼ですね」

 っ……やっぱり助けて良かったらしい。

「お互い、運が良かったみたいだね」

「どういう意味です?」

「ボクはヘクマティアル商会の注文主の関係者だよ」

「ほう、偶然ですな」

「無事に日本に辿り着く自信はあるかな?」

 船長は無言で首を横に振った。

 

 まだ事務所は開いてるよね? 日本とインドの時差は三時間三十分。この位置だともう少し時差は少ないかな? 日本では五時を過ぎているが人員不足でヒイヒイ言ってるちひろネキならマダいるだろう。

 

「ちょっと時間を貰うよ。マタ来るから」

 そう言い残し、日本へ【神足通】で移動。山梨支部の事務所で即応出来る護衛を依頼する。

「いきなり来て無茶言いますね? キノネキなら理由はあるのでしょうが」

 

 ちひろネキに状況を説明する。避難民を乗せた船がシーサーペントに襲われた事、マタ襲われる可能性がある事、自分の資材や必要な技術者も搭乗しているので沈められたくはない事。

「マッカで即金。必要なら下層や深層の素材を出しても良いし、付喪神を強化しても良い」

 キノに出せる最高の条件で即急に護衛を用意する。

「即応できる人員は居るかな? 参考までにシーサーペントはレベル30に届かない位だったよ」

「募集をかけますが、時間が時間です。希望者がいるかは……」

 

「いるさっ! 此処に一チームな!」

 コブラごっこしながら出て来たのは実銃愛好部のメンバーだった。

「報酬は俺らの付喪神になった銃へのスキル付与。これで日本迄の護衛は引き受けたぜ」

「急な話なのに良いの?」

「水臭いぜ顧問。避難民はガイアにとっても重要で、顧問の荷物も銃関係だろ? なら俺らも無関係じゃない」

「そそ、顧問への借りを返しつつ報酬も貰えるんだ、これはお得なのでは?」

「だな、装備更新したばかりで金欠だし、スキル組み込み代金どうしようか迷ってたもんな」

 三人とパートナーなシキガミ。下層試験にチャレンジ中らしく、装備の強化は助かるとか……

「消耗したアイテムの補充は大丈夫?」

「おう、技術部に納品した帰りだからな。ついでに補充しておいた」

 スグに行けるとグットサイン。

 せめてキャンプ用のバックからレトルトガイアカレーをダース単位で渡そうとキノは決めた。

 

「ありがとね、希望のスキルは先払いで付与させてもらう。少しでも失敗の可能性は無くしたいからね」

 キノは好意に甘える事にする。

 幸い彼らの希望するスキルカードは手元にあった。【技 教 の 館】のログボの御陰だ。

 フリスビーニキには感謝しないといけない。

 あとはエミールと連携して貨物船に彼らを送り届けるだけだ。

 これで船の心配はいらない。

 

 

 H&Kの技術の危機だと思った。気が付いたら飛び出していた。そう被疑者は証言しており……

 

「旅は西が吉……」

 

 護衛の配置が終わり、富士山の頂上でキノは無意識に呟いていた。少しでも遠くを直接見たい……さらに上空へ登れば視線も通るだろう。

 

 船長達からの話を思い出す。ヨーロッパは大混乱らしい。一足先に終末化、北斗の拳+悪魔の集団と考えれば大体合ってる? その悪魔は天使の振りをしているのだが……

 

「スエズ運河に悪魔が出て後続が来れない……」

 

 なんでも、後続船にはH&Kの技術者と機材が乗っているらしい。

 そこまで思い出したキノは富士山上空から【千里眼】で西の果て、スエズを注視してみた。

 

「運河が復旧しているけど、紅海でラハブが待ち構えているのか!? しかも天使を従えている!? 反則じゃないか!」

 海魔ラハブはアッカド神話ではティアマトが生み出した11匹の怪物たちの1匹だったり、ユダヤに伝わる伝承では神の命令に逆らった堕天使だったり、エジプトの守護者だったりと正体不明の怪物である。

 今回のラハブは全身が緑色の水で構成された海龍の姿をしている。

 

 気が付いたらキノはフル装備で飛び出していた【神速通】を使用して現場に飛び込み、船に噛り付こうとしたラハブの頭を思いっきり蹴りつける。

 

「貴重なサブマシンガン製造技術者だぞ! オマエ如きにはやらせないよ!」

 

 ガンマニアの欲望全開でキノはラハブと何故か部下に為っている天使共との死闘を開始した。

*1:
NotショタおじVer.

*2:
実銃愛好部式の下位互換

*3:
キノがペイロードに付けた愛称




キノが当初の予定よりも山梨の東を守る守護者になってますね?
市民生活は守れるのか? メシア教徒が増えるので監視も必要だ! なにより人材が足りない!
 
キノに真面目な政治家は無理なんでしょうね、当たり前の様に飛び出しました……
まあ、部下達もキノに政治を期待してる訳じゃないんで問題無いと思いますが
キャラが勝手に動き出す、何時もの事だけど収拾をどうやってつけようか?

追記
日λ........様 フリスビーニキと【技 教 の 館】使わせて頂きました
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