バランスが難しい、出来るだけご都合主義も避けたい……ご都合主義と言われても仕方ないけど。
これが私の限界だ、認めよう。そして信じよう読者さんを、きっと私以上の想像力で描写不足を補ってくれるさ(他力本願
メシア教についての描写はキノの偏見が混じっている……筈です。
雲の中で【後編】
真っ白だった……嫌なモノを白い雲が覆い隠していてくれた。
だが、直ぐまた見る事になるだろう……これは一時の事。
気紛れな風が一吹きすればマタ目に入る光景。
「運が無かったんだろうね」
「だね」
「彼らは如何すれば助かったのかな?」
「運があればじゃない?」
「ボクが一時間早く来たら助けられたのかな?」
「さあね」
エミールの答えは素っ気ない。
エミールにとっては小さな主人で友人でもある少女が第一。他の人間の優先順位はとても低い、このような通り縋りで見ず知らずの人間がどうなろうと如何でも良い。
ただ、優しい少女が心を痛めている事は分かった。だから、あえて突き放す。
「もう結果は出ているんだ、今更キノが気にしても仕方が無い。違う?」
「そう……だね」
風が優しい雲を吹き飛ばし、凄惨な光景が目に映る……キノには少女を庇って一緒に亡くなっている老人から眼を離す事が出来なかった。
海魔ラハブ……本当に?
ラハブとの戦闘ではキノは戸惑いを覚えた。
ヤツは海底に異界を持ち、其処から端末として分身を送り出している様だ。
面倒なのが天使を従えている事だった。
船を護りながら、簡単にとは言え連携する敵を滅ぼすのは時間が掛かる。
「なんで海魔にペ天使が従うんだよ!?」
おそらく、メシアの馬鹿垂れ共のヤラカシで変な事になってるんだろう。
「ペ天使共には自由意思が無い? でも洗脳状態でもなさそうだね」
ちょっと勿体ないと思うがペ天使にメパトラストーンを使って確かめてみた。
やつらはラハブに盲目的に従うのが自然な状態なのだ。
結局、ラハブはペ天使が全滅すると分身を切り離して、異界毎移動したらしい。
紅海からは離れていないだろうが、追撃するより船を護る方が大切だと判断してキノは護衛の手配に奔走した。
避難民の事もある、仕方が無い。
一旦隠れたラハブを見つけるのは困難だった。
ラハブを滅ぼす事は出来なかった、アレはイレギュラーなラハブだ、簡単には滅ぼせない。
おそらく、ギミックを解除しないといけないのだろう。
それに暫らくは出て来そうも無い。
おそらく回復後に船を襲撃する為に出没するのでは無いか?
ラハブの担当はキノで決まりらしい。
最初に戦った所為で因縁が出来ていると言われれば、それはそうなるか……と納得した。
ともかく実銃愛好部は前回救った船に居たFNハースタルに併せてH&Kの技術を手に入れた事になる。
どこに配置するべきだろう?
S&Wとコルトは相模原、AKとスプリングフィールド・アーモリーが魚沼、これらで研修した愛好部でも銃製造に興味を持つ人間が本部で注文生産をしているのが現状だ。
「相模原市の中央区、ジュネスの地下に秘密工場を増築しようか?」
H&Kなら不足気味のサブマシンガン(MP5が良いだろうか)の量産とG3ライフルの量産がメインになるのだろう。
FNハースタルの技師たちの工場も同時に作ってP90サブマシンガンやFN FALライフルを量産してもらえれば、終末後の銃器不足の対策になるだろう。
此処にライフルの工場を作れば、護る為に黒札が来てくれるかもだし。
H&Kの拳銃にも良い銃はあるし、ファンも居るだろうが数が出るかは不明だ。
実際、アンケートでも上位に名前が昇る事は無かった気がする。
その分熱狂的なファンは居るかも知れないが、そういうファンはオリジナルを欲しがるものだ。
「その内ドイツに行って、銃を集めてやる」
キノは内心決めていたのだ、受け身でいても人材は集まらない。
避難民や取り残された人間にも使える人材がいるはずだ。
「恩を売れば、スカウト出来る可能性も上がる筈だよ」
実際、キノが救った避難民の中にはキノのスカウトを受けて、神奈川に移住を決めてくれた人間も居る。
サマナーじゃなくても良い。
とにかく真面目な霊能者が増えれば助かる事が多い。
トラブルも増えそうだが、メシア穏健派がいるんだし誤差だと割り切る。
ともかく、不在の時間が増えそうだし追加のシキガミを注文しよう。
相棒はエミールだけで良いけど、管理職を変わってくれる二体目が必要だ。
カッコつけてる余裕は無いや。
報酬の前払い分で優先してもらえるなら素直にお願いしようかな。
女性型で……部長がヘンリエッタをシキガミにしてたな。じゃあリコで良いかな?
二度目の戦いで分かった事
「なるほどね……」
ショタおじの占術と助言に従って、ラハブの霊力の流れを見極めながら戦って見た。
正直、ペ天使共の数が多くても面倒なだけで倒せない敵ではない。
今回は船に超凄腕の護衛*1がいたから楽だった。
銃を使っていたし後でスカウトしてみよう。
分身を幾ら倒しても復活する事、異界の本体らしき存在が女性の姿をとっている事、復活の為の力が北から流れて来た事……
これらの事実から、ラハブを完全に滅ぼすには北に在る何かを処置する必要があるのだろう。
『海魔であって海魔にあらず』
『娼婦であって娼婦にあらず』
『其を滅ぼす鍵』
『天使の名を冠する魔導書』
以上がショタおじの占術の結果だ。
「大体わかった……アレ、二重の存在なんだ」
多分、海魔としてのラハブと旧約聖書のヨシュア記に出て来る娼婦としてのラハブが重なっている。
正確には娼婦役を割り振られた、罪も無き女性達だろうが。
マタイによる福音書にもラハブと言う名の”立川のデップ”の先祖が出て来るのも関係するのかも知れない。
そして、ラハブと天使の書と言えば”天使ラジエルの書”だろう……ただし原典そのものでは無く歪んでいると思われる。
グリモワール、魔導書と呼ぶのがその証明となるだろう。
詳しくは未だ分からないが……
ラハブに従っているのはラジエルの書によって召喚されたラハブの部下としての天使なのだろう。
その召喚にも生贄として人間が使用されている可能性が高い。
「人間の命の価値も下がったもんだ」
キノが嘆くがどうしようもない。
ヨーロッパは一足先に終末へ、霊力と言うチョット特殊だが力が全てな時代になってしまった……
重なった存在に成っているのはペ天使共のヤラカシと日本人の創作意欲が複雑骨折したとでも表現すべき状態だろう。
正直頭が痛い……スペルが違うのだがカタカナ表記では同じ、故に自由に創作に励んだ日本人には海魔ラハブに女性的なフォルムを与えたクリエイターがそれなり以上に居る。
ソレを楽しんでいた黒札も相当数居るだろうし、ペ天使共の無茶苦茶に俺らの認識が運悪く干渉してああなった可能性が高い。
「くそったれ、ごちゃまぜにも程があるだろ!」
アレの復活に使用される材料は女性だ。
キノには無意味に人間を殺す趣味は無いし、犠牲を好む訳でも無い。
故に、最善はアレが出て来る度に弱らせ、撤退させて時間を稼ぎ、天使ラジエルの書を処理する事だ。
それが可能ならだが……
ラハブは分身が死ぬまで暴れさせる。
結局、犠牲は出る。
なら巻きこまれる被害者は少ない方が良い。
キノが実現可能な次善は犠牲者が出る前に素早く分身を殺す事……嫌な仕事だ。
こうしてキノは紅海を監視しつつ、ラジエルの書を探索する事になった。
力の流れを辿って
キノはイタリアに上陸していた。
エミールに乗って地上を走る、紅海と力の流れを同時に監視しながら移動するにはコレが一番良い。
どうもラハブに送られている力の流れは直線ではなく、何処かを中継している様で、キノでは正確な発信源を特定できない。
キノは銃特化型の霊能者だ、感覚は鋭いが長時間の監視には向いていない。
それを補う為にエミールがいる。
エミールが周辺を監視し霊的な異常は無いか? 力の流れに変化は無いか? トラップは仕込まれていないか? 紅海にラハブが出現していないか? 等々を万が一にも見逃さない様にしている。
だから、地道に地上を走ってジックリと確認しながら移動しているのだ。
暫らくは普通に走っていられた。
これから季節は夏へ向かう筈なのに少々肌寒い、この分だとイタリアワインもダメかも知れない。
この震えは肌寒さの性では無いが。
考えてみればローマが比較的無事だったので油断していた。
カソリックの総本山”バチカン市国”を有する、ローマの霊的な護りが薄い訳が無い。
逆に言えば、その他の都市の護りは薄いのだ。
「フィレンツェがボロボロだ……」
前世で見た漫画の舞台となった、フィレンツェ。
中でも興味を惹かれていたウフィツィ美術館。
その内、この目で見たいと思っていたのに現実に見れたのは瓦礫の山と化した廃墟だった……
サンタ・マリア・ノヴェッラ……フィレンツェのターミナル駅は籠城戦に使われたのだろう。
線路は爆破され、遺体が折り重なっていた。
直ぐ傍の同名の教会には傷一つない、中に逃げ込もうとした人間を拒否したかのように、入口は死体の山だ。
ここから侵攻したのかも知れない。
ヴェッキオ宮殿やピッティ宮殿も同様で戦闘の跡が残る。
見える範囲に生きている人間は居ない。
そんな中、古く美麗な教会だけが無事なのが却って異様に見えた。
もっとも中の人間が無事とは限らないが、自分達に同調しない人間は敵と見做す。
過激派にはそんな奴らが珍しく無いのだから。
「神の愛を口にしながらヤツラは何故、こんなことが出来るんだろう?」
皮肉なものだ、天使を名乗る存在が、男を殺し、女を犯し、子供を奴隷にする為に、歴史ある都市を破壊し死を振りまいた。
破壊し殺した、その口で神の愛を語るのだ……ペ天使共の本音が透けて見える様だ。
ヤツラは神の愛を受けとるのは天使だけだと思っている。
人間に神の愛は必要ない、自分達が独占すべきものなのだと考えているのだろう。
ペ天使にとって、人間とは自分達が神の愛を受け取る為に存在する家畜なのだ……
悪魔にも人間にも見つからない様にコソコソ移動する。
シェルターに避難して生き残っているだろう人間を救うにも物資が要る、船による大量輸送が必要だ。
その為にはスエズの安全な航行が必要不可欠。
ラハブを倒せば安心と言う訳じゃ無いが、ラハブを排除しなければ、そもそもスエズが通れない。
「出来るだけ急ぎたい所だけど……」
ラジエルの書の力を送るのに用意された中継地。
其処を潰さなくては大本が何所なのか予測も出来ない。
エミールと共に探索する、半終末前にのんびりとツーリングが出来たならどれ程良かっただろう……
かつては美しかったであろう光景も今では無残なモノだ。
「ツーリングしてて、こんなに楽しくないのは初めてだよ」
イタリアは一神教カソリックのお膝下だ、地脈もLawに傾いていたのだろうと思う。
だからこそICBMが落とされた結果、ペ天使が沢山出て来たのでは無いか?
カソリックの敬虔な教徒の中には喜んだ人も多かったのだろう。
神が自分達を救う為に遣わせた、御使いだと信じた人も大勢いた筈だ。
しかし、彼らの思いは裏切られた。
来たのは天使の振りをした悪魔だったから……
欧州文化首都に選ばれたフィレンツェが……イタリアでも有名な大都市が見るも無残な姿に変えられていた。
人口の少ない中小の都市は言わずもがな。
ローマからフィレンツェに至るまでに滅ぼされた街を幾つ見ただろうか?
キノはエミールと共に嫌というほど見せつけられてきた。
ペ天使と、それに従う己を正義と断じたメシア教徒と言う名の愚かな人間の残虐性を……
この光景は忘れない。忘れてはいけない。
キノが憧れたウフィツィ美術館と同様にバルジェロ美術館でも虐殺があった様だ。
その中に逃げ込もうとしたのであろう民間人。
女性や子供も中には居た。
その民間人を護る為に戦ったのだろう。
軍人や警官の死体を幾つも見た、その度にキノは足を止めて冥福を祈り、銃器を回収して来た。
そして美術館の中に逃げ込んだ人間を殺す為にペ天使は美術館毎、殺したのだ。
人間にも、人間が産み出した美術にも価値を認める事なく纏めて潰したのだ。
ドゥオーモ、街を代表する教会。
フィレンツェでは”サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂”になる。
此処でも周囲には死体の山。
神の家には似つかわしくないからと、捨てられたのだと思う。
自分達で殺して置いて。
キノの手には拾ったばかりの銃がある。
ベレッタ社製のアサルトライフル、AR70/90、キノのコレクションには存在しない銃ではある。
しかし……
「これほど嬉しくない宝探しも初めてだ……」
ペ天使に抵抗するレジスタンスを見つけたら渡してしまおう。
この銃は、此処で拾った銃達はイタリアの住民を護る為に使われるべきだ。
キノは折角だからとフィレンツェを散策したことを後悔している。
こんなモノを見なければ前世で憧れた街の儘だっただろうに……
キノにとってフィレンツェはメシア教過激派の暴虐の象徴になってしまった。
幸い、北上する途中で修道院に立てこもっているレジスタンスと接触出来た。
襲撃していたペ天使とメシア教過激派は拾ったアサルトライフルで撃ち殺した。
元の持ち主の手向けになったなら良いんだけど。
拾った武器と愛好部式退魔弾をありったけ、多少だが保存食や水も置いて来た。
焼石に水だな、やっぱり大量輸送が必要か……
大きな道を優先して北上したがボローニャまで来た時に、ほぼ西に中継地があるのが分かった。
ボローニャを散策する気は無い。
フィレンツェで懲りた、どうせ嫌な光景ばかりに決まっている。
だって死臭がするから……
「一神教で大きな意味がある場所……カノッサかな?」
場所に見当がついたなら【千里眼】が使える。
「当たりだね」
カノッサの屈辱で有名だろう、この場所はドイツに居た神聖ローマ帝国皇帝とローマ教皇の確執が起こした事件で後に教会の分裂や十字軍運動に繋がった、一神教的には大事件だ。
この場所が中継地に選ばれたのにも理由がある筈……そう考えると?
「ラジエルの書があるのはドイツかな?」
カノッサの屈辱はイタリアの権威がドイツを屈服させた事件とも言い換えられる。
少なくとも、ペ天使はそう認識したのだろう。
ここカノッサを中継する事で霊的な力を増幅しているらしい。
理屈としてはドイツの力をドイツを上回るイタリアの権威で強化増幅するって事か?
多少無理があっても本人が納得すれば働いてしまうのがオカルトパワーである。
「んじゃ、行こうか」
キノとエミールは真っ直ぐカノッサへ向かう。
姿と音を消して見つからない様に、直線距離で空を駆ける。
カノッサまで大した時間はかからなかった。
城壁の上のスナイパー
違和感に従い上空を撃つ。
俺の銃はSAKO TRG 7.62×51mm NATO弾を使用するスナイパーライフルだ。
「……躱されたか」
ボソリと呟く。
「いきなり何をしている! 弾丸だって余裕は無いんだぞ!」
隣で五月蠅い馬鹿を見やる。
名目は観測手だが実態は俺の監視だ。
「人質が居るのを忘れるな!」
これが聖職者を名乗るのだから笑わせる。
妹が捕らわれているカフェを見やる、接近してきた誰かさん? そう言う訳だからよろしく頼むよ。
「わかってる、だから警戒している。違うか?」
「空に敵がいたとでも言うのか!?」
「いてもオカシクは無い。敵は悪魔なんだろう? なら空も警戒範囲だ」
「ちっ、無駄弾を撃ちおって、次にやったら妹が無事で済むと思うなよ」
下卑た笑い、メシア教ってのは欲望を抑える事も出来ないクズでも神父を名乗れるらしい。
「ホント頼むぜ……」
微かに唇を動かしただけ、なのに……
『任せて』
頭の中に言葉が届いた。
人質解放作戦って程、大変じゃないや
「さて、人質はカフェの中か」
キノはカノッサ城に近いカフェの様子を窺っている。
「いきなり撃たれるとは思わなかったなぁ」
『油断してたんじゃない?』
「かもね」
エミールのテレパシーに小声で返す。
「敵の人数は多くない……ペ天使も居ないかな?」
耳を澄ませて、建物の中で動く存在を確認。
動くのは二名、足音から判断すると素人。
無駄口も多い。
俺も行きたかっただの、今頃はお愉しみかだの。
「つまり、本隊は略奪の為に遠征中。コイツらは中継の為の人員で味噌っかすって訳だ」
なら素早く片付けてしまおう。
「行くよ、リク」
敵が二人なら銃を使わず無力化出来る、城壁の自称聖職者には知られない方が良いだろう。
無音で忍び込み、馬鹿話で笑い転げる敵の後ろに回り込む。
そのまま口を手で押さえて首を捻る。
ゴキリ
骨の折れる嫌な音。
もう一人はリクが首を噛み折っていた。
「しーーっ」
静かにしてって意味の、人差し指を立てて口の前にもっていくジェスチャーは分かり易くて世界共通。
其処に居たのは縛られた小さな女の娘。
ボクより小さい、チョットだけだけど。
黒髪のロングヘアーで眼鏡を掛けていて知的で大人しそうに見える。
「人質は貴女だけ?」
ロープを解きながら質問するとコクコク頷く。
「大きな声は出さないで」
猿轡を外す。ぷはぁと息を吐く音。
「ボクはメシア教過激派と戦っている人間だ」
簡単に説明。
「城壁にいるスナイパーは君のお兄さんで良い?」
またコクコク頷く。
「疲れたでしょ? 喉も乾いているだろうし、お水で良いかな?」
ペットボトルのミネラルウォーター、英語表記だし、読めるよね?
チョット疑いつつも喉の渇きには耐えられなかったのだろう。
ゴクゴクとあっと言う間に飲み干した。
「さて、お兄さんに君の無事をどう伝えようか?」
反撃の時
「うん?」
カフェの明かりが点滅している。
「よそ見をするなよ、チャント見張れ」
自分は居眠りしていた癖に、人間は休まないと効率が落ちるんだよ。
もっとも、この監視だってコイツの自己満足だけどな。
今日は凄腕のお客さんが来たが……コイツは気付かなかったし関係無いか。
長めの点灯、一瞬途切れて、長めの点灯、また一瞬途切れて、長めの点灯。
暫らくは暗い儘。
長めの点灯、一瞬途切れて、一瞬点灯、また一瞬途切れて、長めの点灯。
暫らくは暗い儘。
また同じ間隔で点灯を繰り返す。
モールスか!
妹と遊んでやった時に一通り教えた事があった。
--- つまりO -・- そしてK OKか、OKなんだな!
無言でナイフを抜き、隣の男の口を押えて首を斬る。
死んだのを確認して頭を上げると、其処に小柄な人影が居た。
「やあ、お待たせ。妹さんの救出完了だ」
その背で妹が目を回していた。
「感謝する。メシアの敵で良いのかな?」
「だね、ボクはガイア連合の者って言えば分かる?」
「日本人か? 助かった、目的のモノは下だ」
メシア教に対抗する日本の組織なら目的はアレだろう。
あの痛ましい被害者と変な装置に決まってる。
時折、南に霊力を送っていたから、何かに力を与えていたんだろうとは思うが細かい事は知らない。
ヤツラの本隊はドイツを蹂躙した後フランスへ行ったとか聞いたが、この死んだクズの言葉だ何所まで信用できるやら。
「ともかく案内しよう。妹はどうしたら良い?」
「妹さんに聞くべきだね。置いて行っても安全は保障されないし、同行するのも危険だ。なら……」
自分で判断するべきか、厳しいな。
だが正論か。これからは生きるも死ぬも自分の判断の結果であるべきか……まだ子供なのにな。
「クラエス、お前は如何したい?」
「お兄ちゃん達と一緒に行く。一人で残るより安全だと思う」
「どうして、そう思う?」
「お兄ちゃんもキノさんも強いもん、悪魔が来ても返り討ちだよ!」
この少年、で良いのか? 違和感を感じる気もするんだが。
取り合えず彼として扱うか。
彼の名はキノと言うんだな? そもそも俺も名乗っていないな。
そりゃあ名前を知らなくて当然か。
「俺はエンリコ、エンリコ・ラバロだ」
「ボクはキノ、ガイア連合の異能者だ」
此処まで連携して戦ってようやく自己紹介か、キノも無駄口は少ない方なのかな?
「じゃあ、行こうか」
俺は妹を庇いながら移動する。
かつては博物館だった城内に……哀れな犠牲者が捕らわれた城内にだ。
ラフムと言う名の新人類
さて、皆はラフムと言う名前を知っているだろうか?
Fate/Grand Orderに登場した、皆のトラウマと言えば思い出す人も居るかも知れない。
此処で豆知識だラハブとラフムは同一視される事があるらしいよ。
FGOに登場したのは人類の悪性のみを抽出し、無理矢理練り固めて形にしたようなものだってさ。
目の前のコレは人類の暗黒面にして天使の悪意を併せ持つハイブリッドな存在らしいよ?
最悪だなコンチクショウ!
このシリンダーを管理していた人間の言葉だ、何処まで信用できるかは知らない。
ボクの解釈でしかないし。
博物館に入った後、薬液付けにされた女性がいた。
側には空のシリンダーがイッパイ。
不思議な事にボクがラハブを倒した回数だけ空きがあるんだ。
脳缶よりはマシだと思うだろ?
ところがどっこい、知り合いだったらしい兄妹が助け出そうと薬液を輩出した途端にラフムに大変身だ。
しかも、悪意を見せず楽しいってだけで此方を殺そうとする。
原点に忠実だね! クソが! おのれ菌糸類! 今世に居るかもわからないクリエイターに悪態を吐く。
メシアの研究員は最初の犠牲者にしてラフムに変身した第一号だ、御陰で不意を付かれた妹ちゃんがやられそうになってお兄さんが貫かれた。
逆だったんだ、海魔ラハブが復活の為の力を与えられて居たんじゃない。
海魔ラハブが復活する為に、捧げられた生贄を変質させて喰らっていたんだ!
卵が先か? 鶏が先か? ボクには分からないけど、結果が此処にある。
海魔ラハブに捧げられた生贄はバケモノに変質して戻らない。
攻撃されると感染するのか、自身もラフムに変わるらしいよ? 最低だな!
切っ掛けは、ペ天使様が変質しまくってる天使ラジエルの書を使用して、自分たちに都合の良い人間を作ろうとした事らしい。
何時もやってる脳缶と洗脳で我慢しとけよ!
結果はこれだ、海魔ラハブに利用されてラハブの眷属たるラフムになっちゃった。
しかも、天使が目論んだ新人類って要素はシッカリ取り込んだ訳だ。
勿論二体纏めて撃ち殺したよ。
躊躇う理由はないしね。
捉えられていた犠牲者の女性が変身したラハムに対しては迷いが無かった訳じゃ無いけど。
「
ラフム語で楽しそうに襲ってくる相手に人間の意思は無かったんだ……
残念だけどね。
「お兄ちゃん!」
妹ちゃんが泣いている。自分を庇って兄が瀕死、このままじゃバケモノに変わってしまう。
そりゃあシンドイよ、なんとかしなきゃなるまいよ……
「キノ……俺を殺せ」
「お兄ちゃん!?」
「頼む、人間の儘……死なせてくれ」
すがりつく妹を突き飛ばしてエンリコが願う。
仕方が無いよね……
「エミール!」
外に置いて来たエミールを呼ぶ。
「はいよ」
エミールは直ぐに来た。
「魂を保護しろ」
「了解、これから殺す人ので良いんだね?」
「そうだよ、まだ人の内に……」
金の杯で撃ち抜く。エンリコさんをだ……
「お兄ちゃん!!」
仕方が無いじゃないか……魂まで変質したら助けられない。
仕方が無いんだよ……
尊い犠牲?
「俺は生きてるのか?」
「気が付いたようだね」
「此処は?」
「日本の病院さ、ガイア連合の息が掛かったね」
「妹はどうなった?」
「仲間が無事、保護したよ」
妹は無事らしい、俺は死んだはずだが? あの時、心臓を撃ちぬかれた感触は思い出せる。
夢って事はないだろう?
「体はどうかね?」
そういえば上手く動かせない。
看護師が体を支えて上半身を起こしてくれる。
随分大きい人だな? 俺は180cmはあったのに、女性なのに俺より大きいのか?
バンっと大きな音を立てて病室の扉が開く。
「お兄ちゃんは大丈夫!?」
妹が飛び込んで来た。
「俺は平気だ……」
そういえば声がオカシイ気もする。喉をやられたのか? いや、キノは心臓を撃ち抜いた。
噂のガイアの技術で再生したとしても声は関係ない筈……
「キノ君からの伝言がある、再生しても良いかい?」
「頼む」
『これを聞いてるって事は上手く行ったって事だね、その医者の腕は最高だから疑う余地はないけどね』
「万が一は有るのだけどね」
褒められた医者が愚痴をこぼす。
『君はあのままじゃ魂までバケモノに変えられる所だった。だから人間の内に一旦殺したんだ』
「私、イッパイ泣いたんだよ? キノさんが何とかするって約束してくれたけど」
そうなのか、バケモノの攻撃を上手く躱せれば良かったんだが……いや、ウカツに開けたのが悪いな。
メシアの連中がモラルも良識も無い連中だって言うのは知ってたのに、軽率に過ぎた。
『魂が無事なら体はナントカなる。昔の儘って訳にはいかないけどね』
それで声が変なのか?
『ボクとしては強く生きてとしか言えない。それしか体は無かったんだ』
うん? なんで申し訳なさそうに言ってるんだ? キノは命の恩人だろう?
『ボクはこのままメシア教過激派を追う。あんな被害者を増やしちゃいけない。だからゴメン、人生の一大転機に主犯のボクは立ち会う事が出来ない』
それはそうだ。あんなバケモノにされる人間は少ない方が良いに決まっている。
『細かい事は妹さん、クラエスちゃんに聞いて欲しい。身支度の事もクラエスちゃんを頼れば良いと思う』
うん? どういう意味だ? 成人男性が一人で身支度出来ない筈が無いだろうに?
「お兄ちゃん。ううん、リコちゃん心を強く持ってね?」
何だ、その呼び名は兄に対して敬意を……鏡を見せられて俺は固まった。
「カワイイよリコちゃん♪」
妹が持つ鏡に写るのは金髪碧眼ショートカットのボーイッシュな少女だった。
「なんだと~!」
「それはキノ君が注文していたシキガミのボディでね。シキガミは注文待ちで男性体の予備は無いんだ」
聞けば貴重なモノを俺に使って助けてくれたらしい……恨むのは筋違いだがどうすれば良いんだ?
「取り合えずリハビリを頑張るんだね、後の事はキノ君に任せれば良い」
「大丈夫だよ、リコちゃん。私も才能があるんだって! キノさんの所で勉強して、実力がついたら雇ってくれるんだって。リコちゃんも強くなれる見たいだし二人で頑張ろうね!」
妹の言葉が耳に入らない。
これからどうなるんだろうな、俺は?
その頃のキノ
「そろそろ目が覚める頃かな?」
『かもね』
「仕方ないけどさ、クラエスちゃんを泣かせたままってのも目覚めが悪いし」
『納得したなら諦めなよ』
「そうなんだけどね……」
キノは深い深いため息を吐いた。
「はぁ~~、ボクの秘書さんはお預けかぁ、もう書類仕事したくないのに……」
『隠形に気付いた直感も射撃の腕前も十分だし、頼りになる実力者だと思うよ?』
「戦闘員より秘書さんが欲しかったんだってば!」
『だから諦めなよ……』
シキガミバイクであるエミールが呆れるくらいにキノは愚痴を零していた。
ミラノに着き、メシア教過激派が残した傷跡を見せつけられるまでずっと……
雲の中で【前編】
イタリアのミラノから北上して何日たっただろうか?
キノはスイスに入りそのまま縦断してドイツに入るつもりでいた。
既に国境は意味をなしていない。
国境を護る人間も、通る為に許可を求める人間も存在しない。
エミールに乗り、グネグネと峠道を走る。
標高が高く、周囲に人は居ない。
メシア教過激派がヤラカシタ例の件以降、観光できる人間は居なくなり車も列車すらも消えた。
ゲシェネンを通りぎたのは昨日の事、悪魔の橋と呼ばれた観光名所も今はかろうじて通れるだけの危険な場所でしかなかった。
「爆風でヤラレタのか天使の仕業か……どちらにしても、人間の力を認める気が無いんだろうね」
この峻厳な地に道路や鉄道を通す為に人類がどれだけの犠牲と努力を払ったのか……想像するだけでも頭が下がる。
キノはそう思うが、天使擬き、ペ天使、穢教鳥様々な呼び方をされる嫌われ者の自称天使には、価値が分からないのだろう……奴らには想像力も創造力も存在しないから無理もない。
どちらかが少しでもあれば、こんな事はしないし出来ない。
ゲシェネンは広大な山々の間に造られた小さな町だった、半終末前までは此処でも人々が幸せに暮らしていた筈なのだ。
今では人の姿は見えない……スイスは核戦争をも想定していた永世中立国だ、シェルターに避難して生き残っている人間も多いと思いたいが、キノには知る術が無いし意味も無い。
キノはタダ旅人として通り過ぎるだけなのだから……
「もう少し走ればヴァッセンかな? 人が居ない所でガソリンを給油しようか?」
流通の問題で、キノがガソリンを所有する事がバレたら面倒事になる。
人々が逃げる為の足に車を使用しガス欠で立ち往生は良くある話だった。
半終末から一か月以上経ち、車での移動を諦めた人間は多いがキノのエミールを見つけたら奪おうとする人間も出るだろう。
それでも、キノが旅をするならエミールに乗るのは絶対なのだが。
キノがトランクからジュリカンを取り出してエミールのタンクに給油する。
わざわざ、キノがエミールに乗って移動するのはラハブの事以外でも理由がある。
【エストマ】や【ステルス】それに【消音の結界】これらのスキルのおかけで目立たず移動出来る事。
【危険察知】の御陰で敵のみならず、道の状態悪化やトラップ等も回避できる事。
お宝回収も理由の一つだ、キノの【宝探し】に反応した物品をリクが確認し、必要なら回収する。
これの御陰でキノはイタリアで所有者無しの放置された銃を相当数回収していた。
当然ながら【神足通】で移動しながら出来る事では無い。
そして、最後の理由が人材探し。
この状態のキノとエミールを見つけられる人間なら才能に疑いは無い。
この状態で走る事でキノは有望な人材を発見しスカウト出来ないかと思っている。
勿論”ラジエルの書”の処置が一番だが、余禄がついて来ないかな? そう願うのは悪い事だろうか?
悪い事かも……
ガソリンの給油が終わり、一息つき周りを見回す。
エミールはシキガミだからMAGだけでも走れない事は無いが、やはりパワーが違う。
エミールとしても無駄なMPは消費したくないしバイクとしてはガソリンで走りたいらしい。
そして、ソレを見つけてしまった。
「悪魔に襲われたんだ……」
峠道を少々外れた場所で遺体が折り重なっていた。
近くに壊れたバスがある。逃げて来たのか? それともゲシェネンから逃げ出したのか?
焼け焦げた遺体がある。切り刻まれた遺体がある。貫かれた遺体は未だ血を流していた……
見たくないと思う、でもキノの優れた視力は細部までハッキリと見通してしまう。【千里眼】を使用しなくてもだ。
そして、見た。老人の陰にある、小さな手……赤いスカートが見える……
目を背けたくなった時、白い雲が流れて来て全てを覆い隠した。
ラハブの無理やり感が酷い気もするが、良いとしよう。
これ以上は無理だった……作者の限界ですな。
ラバロ兄妹
兄は金髪碧眼の偉丈夫でイタリア陸軍所属のスナイパーだった。
休暇中にICBM、家族を守ろうとしたが助けられたのは妹だけ。
今後はラバロ姉妹になる。
兄のエンリコは今後はリコと名乗りキノの少女型シキガミに。
妹は霊能の才能有り、ダイスの神様が限界レベル32と仰った。
それぞれ外見はGUNSLINGER GIRLのリコとクラエス。
ちなみに今後はクラエスが姉を名乗り出す模様。