狙撃の為に廃墟に潜む
「この辺りなら、狙撃ポイントがある筈だね」
サンフランシスコの中華街、北米では最も古い中華街として有名な所。
今では嘗ての繁栄は何所へやら? 人が居ない寂れた廃墟だ。
仕方が無い。従兄が協力を申し出たのに、その手を振り払ったのは彼らだ。
その結果がゴーストタウン……悪魔に襲われて全滅したのは自業自得なのかも知れない。
従兄が調べた限りでは、結界を作る為の資金を横領して本国に逃げ帰った術者が居たらしい。
資金不足で手抜きした結果が全滅……救いがない話だね。
でも、此処が悪魔の根拠地として利用されているとなれば、サンフランシスコを仕切る従兄にとっては面白い話ではない。
しかも投入できた人数は少ないが、ボクの従兄であるキャスパー兄さま自慢の精鋭が攻め切れなかったとなると形振り構わず自分の最高のコネを使うのも無理は無い。
それがボクだって言うのは自分でも違和感を感じなくも無いんだけどさ。
まあ、無理をせず護りの為に自重した結果、攻め切れなかっただけだし、負けてはいないと思うんだけどね。
他人と言うのは勝手なモノで〝自分ならもっと上手くやれる〟なんて調子に乗りキャスパー兄さまを追い落とそうとする馬鹿が現れ出したらしい。
ホント馬鹿、兄さま以外でガイア連合に伝手のある人間は居ないし、ボクだって兄さま以外には支援しない。
兄さまと身内の部下を北神奈川で引き取ってサヨナラなのに……
「それにしても、アメリカで此処までのオカルトライフルを作るとは」
ボクにこのライフルを託した人は腕の良いガンスミスだった。
基本は〝FN SCAR-H〟だ、ストックやらハンドガードは霊木からの削り出しで作って組み合わせている。
7.62x51mm NATO弾を使用するアサルトライフル。多分精度はソコソコ、ボクじゃ無きゃ狙撃に使用しようとは思わないだろう。
だから奇襲になる。
五行の内、木、火、金が銃だけで揃っている。更に銃弾に血を込めて水行を加え、土行たる人間が撃つことで五行相生を生み出し銃弾を強化する仕組みだ。
一応、ボク自身で動作確認もして、問題無く射撃出来る事は確認済み。
実際には一発も撃ってないけどね。
「悪くない……むしろ良い銃なんだけど」
とんでもなく危ういバランスで成り立っている銃だ。
正直に言えば長く使用したい銃じゃないし出来るとも思えない。
だから一撃で決めるべく狙撃ポイントの選定に勤しんでいる訳だ。
「君の願いは叶えるからね」
ボクは手中の銃に声を掛けた。
始まりは救援要請
「キノ、悪いが助けてくれ」
そんな連絡が来たのは夏の盛りだった。
ボクの従兄、キャスパーからのメールには細かく説明してあった。
従兄の住むサンフランシスコも半終末の影響からは逃れられず、従兄とカソリック教会が中心となった反メシアの教会によって護られていた結界の外は滅茶苦茶らしい。
周囲で悪魔が湧いた場所を平定し結界に組み込んで地道にサンフランシスコを纏め終えたのは、つい先日の事。
周囲にはメシア教による結界もあって、サンフランシスコは孤立している状態だ……
正直、従兄は良くやっている。
頑張りすぎと言っても良い。
ボクの想定だと従兄が意地を見せた後、従兄とその仲間を助けにサンフランシスコまで行って撤退を促すつもりだった。
五分に勢力争いをしてて、反メシア教な人員が逃げ込んでいる現状だと下手に撤退もさせられない。
見積もりが甘いと言われれば返す言葉が無いや。
でも従兄自らが敵の大将格である〝ドミニオン〟を返り討ちに出来る程に成長するとは思わなかった。
ココを改めて確認したらレベル限界が36だった*1。そういや従兄妹達をきちんとアナライズしてなかったかも?
つまりキャスパー兄さまもココと同レベルの異能者だったのかも知れない?
どっちにしろ従兄は現地の英雄になっちゃったのだ。
面子的にも実力的にも逃げ出す訳にはいかないのだね。
部下達もレベル15を超える人材が揃ってるし、隊長格はレベル25を超えてる。
流石にレベル40越えは護衛の三人くらいだけどね。
でも数は力だ! しかも彼らはボクが仲介して提供したガイア銃とガイア銃を参考に開発したM14ヘクマティアル式退魔ライフル等で武装している。
弾丸だって簡易とは言え、ちゃんとした退魔弾だからね。
弾幕ってのは脅威なんだ! しかも連携のとれた部隊単位の弾幕なら格上だって滅ぼせる。権能が無ければの話だけどね。
従兄の配下は民間軍事会社の社員だし真面目に訓練も積んでる、その辺の州兵なんぞより練度は高いんだ。
そんな人間が600名以上も存在する、大隊規模に拡張したらしい……キャスパー兄さま頑張り過ぎだよ。
んで、彼らに対悪魔戦の訓練を受けた元アメリカ軍の兵士や州兵が護ってるのが、サンフランシスコって訳だ。
少しずつだけど覚醒者も増えているらしい。
でもサウス・サンフランシスコ以南はメシア教過激派の勢力圏だから、精鋭は南の護りからは外せない。
しかもメシア教のシェルターは大雑把だからか、あちこちに穴があり其処から悪魔が湧く。
メシア教だけを警戒していれば良い訳じゃないらしい。
メシア製シェルターには強度不足やヒューマンエラーで全滅した所もあって、情報を集めている状態。
従兄の所感だけど、メシア教のシェルターは三割はダメだったんじゃないかってさ。
メシア教の連中からすれば想定外なんだろう。完全に抑えていたつもりの西海岸に大都市丸ごと一つが敵対勢力として独立し、東海岸や中央に自分達以外の大悪魔が君臨している。
多分それが原因で、西海岸にすら敵性の悪魔が自然湧きする状況なんだから。
そんな中、従兄の忠告を聞かずに自衛に拘り壊滅したサンフランシスコ北部にある中華街から悪魔が発生して結界を攻撃する様になってきた。
手が足りないし嫌な予感がするからボクに頼りたいって訳だ。
折角アメリカに行くなら手土産を渡そう
「と、言う訳でボクはアメリカに行く事になったんだけどさ。ココにはホエールキングに物資を満載して運んで欲しい」
ボクだけだとココが爆発しそうだしね。
購入したホエールキング一隻の運用をココに任せてみようと思う。
「良いのかな? 有難いね。物資の内訳は?」
「そうだね、食料とアクアストーンを主に備蓄を出そう。ついでにモビルワーカーも持ってこうか? 対空砲代わりに使える筈だし」
北神奈川支部独力で出せる支援で武器に出来るのはアレだけだしコスパも悪くない。
田舎ニキの所で改良案もイッパイ出してくれたし、農機にもなる。農機なのに戦闘でも使えるが正確か……
ガイア銃〝SIG SAUER P226〟サンフランシスコからの注文分は当然として、ボクが追加で発注した分も纏めて持って行こう。
これはボクがエミールで運ぶ、増えた人員用のガイア銃が欲しい見たいだし。
食料だけは早めに自給自足できる様になって欲しい。
色々足りない物が出るのは仕方ないけど、水と食料だけは自力で用意出来ないと支援が滞るだけで簡単に詰む。
必死で食料生産はしてると思うけど、現在の所は不足気味。
想定以上に避難民が増えたらしいので仕方が無いけど、コレは他山の石だな。
北神奈川支部でも同様のケースを想定しないといけない。
備蓄は増やすとして、食料生産の為の異界も増やさなきゃダメだ。
幸いな事に、現地民にも悪魔召喚プログラムを使用したサマナーが増えてるし、低位の異界なら任せられる人材が居る。
人材が足りてる訳じゃ無いけど、手も足も出なかった頃に比べれば気楽でいられる。
育てるだけの余裕もあるし、才能ある人材も海外からの避難民の御陰で増えてるしね。
子供の頃から交流も始まっているし、その内カップルでも出来るかもね。
それで名家の霊能が強化されれば嬉しいかな? 干渉する気は無いから成り行き任せだ。
ケセラセラ、なるようになるさ♪
一神教系にはそれぞれコミュニティを作って貰ってる。
流石にカソリックとプロテスタントを一纏めにするのはね……対メシア教では協調できるのは確認済みだし、メシア教穏健派が多い領域の近くに配置しようとしている。
彼らならメシア教のやり口は承知している筈だ。
移住に制限は殆ど無いから初期配置に過ぎないけどね。
移住者会議みたいな感じで一定の交流はして貰うし、今の所は問題無いみたい。
話が逸れたな、支援物資の話だった。
バイオエタノール製造装置の設計図も送ろうかな? それなり以上の技術者が居る様だし、北神奈川支部のオカルト式装置を参考にサンフランシスコに適応した形で再構築するだろう。
必要になると思うが押し売りはダメだね、兄さまが希望するなら一定期間のパテントを条件に譲ろう。
モビルワーカーも現地生産するならパテントは貰わないと、ボク個人の技術じゃないからね。
技術者への報奨は必要だ。多少はボクの方でも補填しようかな?
オカルト式太陽光発電は向こうでも普及しているそうだ、パテントもヤプールニキに入っているし良い事だね。
サンフランシスコは交易で栄えた街だし、資源が豊富って訳じゃないから。
もっとも、ゴールドラッシュで爆発的に発展した街でも有るし、向こうからの交易品は金がメインだ。
ガイア連合でも必要な物資だし、電子部品でも重要な金属だからね。
多分異界で採れる様にしてるんだと思う。ドロップ品なのか採掘なのかは不明だけど、他人のお財布を探るもんじゃない、ガイア連合とは末永く取引して欲しいね。
幸いターミナルを初めとして色々購入してくれるお得意様になってるらしいし、仲介した甲斐はあったのかな?
セツニキ先生が言うに金は幾らあっても良いらしい……隠れて悪さしてるな? それを告げた時の顔は悪戯爺の其れだった。
まあ、セツニキ先生がガイア連合に不利益を出すはずも無し、ボクが気にする必要は無いか。
そんな訳で、後続の物資はココに任せてボクが先行したんだ。
城塞都市サンフランシスコ
「何時の間に、此処までの防御を?」
半終末時の混乱で人口は激減。主に不法移民やマフィア何かが支配するエリアが壊滅。
さらにメシア教を追い出した後、安定させるのに苦労しているって聞いていたんだけどな。
有名なゴールデンゲートブリッジとサンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジは自由に閉鎖出来る様に改造されてるし、南にはサン・ブルーノ・マウンテン・ステート &郡立公園を利用した防衛設備と防壁がある。
それなりに堅そうだし、其処に精兵が籠ってるなら脅威の一言だ。
「俺だって無策で挑んだ訳じゃないからな」
キャスパー兄さまのドヤ顔はレアだ。写真に撮りたいな。
「どこぞの馬鹿どもが東部でトンデモナイ悪魔を召喚しただろう?」
「〝ふんぐるい〟な奴でしょ? 知ってる」
「我が故郷サンフランシスコは度々例の神話に登場する土地なんだ……徹底的に護りは固めたとも」
「カソリックの術者だけで足りるとも思えないけど?」
「だからガイア連合の術者にも頼ったぞ。コードネーム狩人ニキのお墨付きだ、一先ずは大丈夫だと思いたいね」
勿論アップデートはするがな、と言うのが兄さまの言い分。
まあ、狩人ニキが保証したなら大丈夫かな? 本人はメンタルバケモノだけど、他人の命が掛かってる状況では真面目だと思うし。
ボクでもチョット引く位にトンデモナイ人だけど……
「彼が連れて来た術者が凄腕でな、短時間で建築してくれたよ」
誰だろう? 建築系が得意な仲魔でも居るんだろうけど……
「名前は名乗らなかったな、こちらも聞かなかった」
ああ、名乗らない以上は理由があると踏んだのか。確かにメシア教に眼を付けられても可笑しくない行動だ、戦闘は得意じゃ無いのかも知れない。
なら詮索無用と判断するのは正しいのかも。
「あの人に借りを作ったんだ? 後々大変かもね」
「どういう意味だ?」
「あの人ガイア連合でも上位の強者だし善人だと思う、だから助けた人をドンドン運んでくるかもね」
何と言うか、善意の暴走列車? 助ける為なら手段を選ばない印象がある。
「なるほどな、備蓄には留意しよう。ここに連れて来なくても支援物資を要求する位はありそうだ」
うん、備えるに越した事は無いよ。
ボクだと理解しきれないけど、カソリック以外の術式で護られているのは分かった。
これならペ天使相手でも問題なく耐えられる筈だ、補強とメンテが前提だけども。
「限度はあるけど、並みのペ天使相手なら平気だろうね」
「キノの保証も付いたか、なら暫くは安心かな? 油断は出来んがね」
ボク程度の保証で安心されても困るな、術者としてはヘッポコなんだから。
本題はチャイナタウン
「見て貰った通り、南の護りは整った。攻めて来るのはゾンビばかりだし、天使擬きが攻めて来るのは稀だ。誤算は北なんだ」
キャスパー兄さまの苦々し気な顔。
説明を聞くに、北のチャイナタウンが全滅したらしい。
北でも橋からゾンビその他の雑魚が攻めて来るのは変わらないけど、サンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジを防衛中に突然、後方でキョンシーが湧いたらしい。
不思議に思って調べたら従兄の協力を断って独自対策をした筈のチャイナタウンが全滅し、悪魔の巣になっていたと……
術者に裏切られたらしく、チャイナクオリティな手抜き工事が結界でも行われていたと言う事が分かった。
「知っていたつもりだったがな、チャイナの自己中心私的な拝金主義の事は……流石に共同体を裏切ってまで自分の利益のみを求めるバカばかりとは思いたくないが」
キャスパー兄さまの苦り切った顔。
残念ながら、中国人の定義する共同体の範囲は家族までかも知れないけどね。
中国人に騙された人が聞かされた言葉『騙される方が悪い』コレって彼らには常識なのかな?
前世でのチャイナリスクの印象もあるだろうから口にはしない。
正直に言えば今世では中国に関わる事が無かったから、よく分からないがホントの所。
でも、チャイナタウンの人間は判断を誤ったのは間違いない。
どんな人種であっても悪人は居る。
しかも、術式に堪能な裏の人間、つまりダークサマナーだろう?
同じ中国人でも裏稼業の悪人より、利害の一致するアメリカ人の方が信用できると思うんだけどな。
「幸い撃退は出来たし、ブリッジも護れた。今後を考えると掃除しておきたくて精鋭小隊を派遣したんだがな」
「勝てなかったんだね?」
「弾切れ前に撤退させた」
判断に誤りは無いと思うけど? 無理する場面じゃ無い。
「正しい判断だと思う」
ボクと言う援軍の当てがあるのに精兵を消耗するのは無意味だ。
「ソレを批判する人間もいるがね」
ふむ? どういうスタンスでの批判かで評価が変わるな。
「手ぬるいとさ、自分ならもっと上手くやれる。市民の安全を考えろだと」
肩をすくめる。
「なるほど、馬鹿だね」
大体、兄さまの私兵だって市民の一人だ、職業軍人じゃない。
軍人だって一市民だし。
アメリカと言う国家が事実上壊滅した以上、職業軍人にも民間人を守る義務があるのかは怪しいね。
給料も貰ってないだろうし。
兄さまの私兵にはクライアントである兄さまを護る義務はあるが、市民を護る義務は無いんだ。
兄さまは給料を払ってるからね、主にガイアポイントでだけどw
DDSネットで買い物も出来るし、マッカ以外でアメリカ人が使える通貨になっちゃったみたいだね。
「なんならボクが発言しようか? 此処にボクが支援するのは兄さまが居るからだって」
兄さまが居ないなら此処に拘る理由は無いんだ。
兄さまを切り捨てるならボクと言うガイア連合との伝手を捨てる事を意味する。
一度理解させておいた方が良いんじゃないかな?
「それは追々だな、今はチャイナタウンだ。あそこの土地を活用したい、サンフランシスコには遊ばせる土地なんて無い」
「わかった、どうすれば良い?」
「あそこには不死身のバケモノが居るらしい。キョンシーの親玉なんだろうな」
ふーん、尸解仙でも居るのかな?
「中に入ろうとすると道に迷うそうだ、コンパスが狂うとの報告もある」
偵察って成果は出してるじゃ無いか、やっぱり兄さまを批判した奴は馬鹿だ。
もし、他の馬鹿どもを宥める為に矢面に立ったって言うなら評価は変わる。
政治的な茶番が出来る人材なら貴重だけど、ボクが口出しする事じゃ無いな。
「じゃあ、滅ぼして来るね」
死にたくないなら足掻くのは人間も悪魔も一緒
「へぇ……石兵八陣ね」
チャイナタウン全体を覆う様に組まれた仙陣。
日本だと三国志演技で諸葛孔明が使った仙陣と言えば分かる人も居るだろう。
正しい道順を知らずに入ると出られなくなり、最後は水に沈んでしまうんだっけ?
メガテン世界だからな、最後が水とは限らないけど致死性の罠があるのは間違いないな。
迷う前に撤退した指揮官は有能だ、兄さまに報告しておこう。
多分、帰り道を見失わない様に工夫して行動した筈だ。
「そして仙陣内部で遭遇戦、敵は死なず弾切れ前にスモークを使って撤退……」
やっぱり有能な指揮官だと思うけどな。
それは兎も角、この陣を敵が備えたと判断するのは早計かも知れない。
何方かと言うとチャイナタウンから出られない様に設置されてる気がする。
それに、キョンシーが出て来る前は無かった筈だって報告もある。
つまりキョンシー達を閉じ込める為に半終末後に設置された可能性がある訳だ。
隠蔽されてただけって可能性もあるけどね。
さて、術に置いては適性が無さすぎるボクだが格下の陣で惑わされるような存在じゃない。
どういう意図で設置された陣なんだろう?
「突破すれば分る事か……」
ボクは脳筋だぞ? 細かい事は考えたくないし、繊細な作業は出来ないのだ!
馬鹿正直に石兵八陣に付き合うのも面倒だけど、何かを封印してる可能性も出て来たからね……面倒だけど、気の流れを辿って抜けたよ。
結果、目の前にガンショップがあるとは思わなかったけど。
ガンショップは結界で護られている。
強固な結界だ、でも害意が無いなら素通りできる。
〝ケンド鉄砲店〟
それが店の名前だった。
店の前に群がっていたキョンシー共を撃ち滅ぼす。
雑魚でも群れると面倒だね、数が多いと弾薬代も嵩むし。
銃撃戦の音が聞こえていたんだろう。
ドアを開けた途端に声を掛けられた。
「何者だ!」
誰何の声。
手にはショットガン。
店の周囲が荒れていたしキョンシーに襲われたことがあるのだろう。
どうしようか? ボクが名前を名乗った所で知らないだろうし、ガイア連合の名前も知らないかも……
「そうだね、キャスパー・ヘクマティアルの依頼で来た。名前はキノだよ」
これなら知ってるだろ、兄さまはサンフランシスコの顔役の一人だし。
「救助が来たのか!?」
「喜んでいる所を悪いけど、ボクは偵察だ。本格的な救助はマダだと思う」
「そうか……キノと言ったな、食料を分けてくれないか? 妻と娘が居るんだ」
子供が飢えるのは可哀そうだけど……
「他に生き残りは居る? ボクにも都合がある、共倒れはごめんだ」
無条件で助けて貰えると思い込まれても困るし釘は差したい。
「そうだな、他に生き残りは居ないと思う。少なくても俺は知らない」
「此処の生き残りは君達家族だけかい?」
「そうだ、もう二日も食べさせてないんだ。頼むよ、娘の分だけでも良い!」
「飲み水はあるのかな?」
「そろそろ尽きる……」
ふむ、ウソは無いか。
「OK、カロリーバーとミネラルウォーターだ」
取り合えず、6食出す。
「有難う、有難う……」
大事そうに受け取り、後退りして隣の部屋へと運んでいる。
まだ警戒は解いていないか……
「質問には答える、何でも聞いてくれ」
「一応聞いておこうか、何故閉じ込められたのか、理由は分るかい?」
首を激しく横に振る。
「分からない、あんた偵察って言ったな? なんでこんな事になったんだ? なんで俺たちがこんな目に遭う!? なあ!」
「それを調べるのがボクの仕事だ」
「すまない、君が悪い訳じゃないのにな」
自宅にいて、こんな不運に巻き込まれたんだ、感情的になるのは仕方が無い。
「気にしないで良い、だが理由も無しに君たちを閉じ込める訳が無いんだ。何でも良い。気付いた事が有れば教えて欲しい」
「そう言われても……」
仕方が無い、虱潰しに探すしかないかな?
「ロバート、アレじゃないかしら?」
「お前は出て来るな!」
「エマが寝たわ、久振りに食事が出来て安心したからでしょう。この人は恩人よ」
大した事はしてないんだけどな。あの程度で恩人とか言われても困る。
「この人にカスタムライフルを頼んだ人が居るんです。なにやら霊木の加工が出来る職人が居ないとかで」
霊木? 霊的な銃なのか?
「見せてもらっても?」
「仕方が無いか……守秘義務違反なんだが」
それこそ仕方が無いと思って欲しいな、非常事態なんだから。
「コイツだ」
取り出してきたのは、まぎれもなく強い霊力を纏っている霊銃だった。
「出来る限りの事はしたが、客の要望に応えられたかは分からん。取りに来なかったからな」
こんな事に成っては取りに来れなかったのかも知れないが。小声で呟くのが聞こえた。
「なるほどね……」
キョンシーが隙を伺っていた理由……この銃を恐れた? その可能性が高い。
彼はガンスミスとして一流だろう。
この霊木を加工出来たんだし覚醒者なんだと思う。
でも戦闘力は低そうだし、彼ら家族を恐れる理由は無い筈だ。
なら恐れたのは、この銃が前回偵察に来た部隊の人間に渡る事かな?
「コレ、預かっても良いかな? 今回の黒幕が恐れたのはコレかも知れない」
「この事態の解決の役に立つなら……」
ロバートさんだっけ? 奥さんがそう呼んでいた。
彼が手渡そうとして……
「ソレを量産されては困るのだよ」
突如、響いた声。
油断したっ! 見張られてたんだ!
「ちっ!」
ボクは素早く銃を手に取ると、敵の術に身を任せた。
「リク、ガンスミス一家を護れ」
リクを呼び出して護衛にする。
下手くそな転移だ、何処に行くにしても折角掴んだ敵の尻尾だ。
なら、何時でも逃げれるんだし、あえて罠に引っかかるのも手だ。
ガンスミス一家への術は妨害させて貰ったしね。
武士と任侠の共通点。舐められたら殺す!
「あの家族には逃げられたか……まあ、サンプルは小娘の手に有るしガンスミス独力では作れまい」
やっぱり恐れたのは、この銃か。コレなら格上の悪魔にも効くだろうし、相性次第では致命傷も与えられる。
正確に言うなら、怖いのはガンスミスとサンプルが揃ってキャスパー兄さまに量産される事か……
つまり武器が適正なら兄さまの部隊で対処できる程度の相手って訳だ。
「師父に閉じ込められたが、時間をかければ問題ない。その銃が無ければ時間を稼ぐのも容易だ」
報いは受けさせたしな、と小声で呟いた。
この銃はボクに言わせれば二流だ。
銃としての基本性能ならM14ヘクマティアル式退魔ライフルと同等だ。
ただ五行を意識して作られているからキョンシー相手なら特効が付くだろうな。
敵が尸解仙なら、やはり特効が付くだろう。その分だけ脅威になるな。
つまりヘクマティアル式にコイツの設計思想を取り入れられるのを恐れたんだな?
この銃自体を評価するなら残念だけど製作者の技量が足りない、無理をしてる所為で耐久度が犠牲になっている。
恐れたのは設計思想がキャスパー兄さまに渡る事だろうな……
でもな、ボクの付喪神は超一流だぞ? 使い手のボクだってギリギリ超一流なんだぞ!?*2
つまりボクは舐められてるんだな!?
ボクなら簡単に倒せるとでも思ってるんだな!?
「幸いサンプルを手にしたのは小娘だ、殺して奪ってしまおう」
決定だ、ボクは舐められてる。
なら殺すしかないよな!
「死ね」
カノンでクイックドロウ、お前の隠形程度は分るんだよ馬鹿めが。
「なっ」
死んだけど分身だったか……死者を依り代にした術。やっぱり尸解仙が怪しいな。
逃げたか……だが見えているぞ。
「馬鹿なっ、だが魂さえ無事なら」
本体に戻ったな、魂の馴染み方が違う。
死人が本体なら、やはり尸解仙だ。未だ未熟者だな。
なら魂毎滅ぼすだけなんだけど……
「そっか、アレを滅ぼす為に作られたんだもんね」
左手のライフルが自分を使えと主張している。
主の仇を討たせろってね。
「君は知ってるんだ……君の本来の持ち主はアレに殺されたんだね?」
本来の持ち主がロバートさんに依頼した人物と同じとは限らない。
例えば友人の形見を使って仇を討とうとした可能性もある。
多分だけど銃の主人と依頼者は別人……これだけの知識と術式を使用できる人間だ、陣を引いたのも依頼者だと思う。
なら来なかったのは……殺されたからだな。
推測だけど、ヤツを逃がさない様に陣を引いて、銃を受け取ったらガンスミスの一家は逃がすつもりだったのだろう。
キャスパー兄さまの所へ一緒に逃げるつもりだったのかも知れないね? この銃は二人の仇討ちを願うのか。
「良いよ、君を使って奴を滅ぼそう」
ボクは壊れかけの銃とその付喪神の願いを叶える事にした。
中華街なんて言っても広さは知れてるんだ
ヤツが潜んでいる場所は分かっている。
射線が通り、ヤツが見つけられない場所の選定も終わった。
ここに辿り着くまでに宿命通*3で観たけどさ、己が尸解仙如きに昇仙する為にチャイナタウンの住民を生贄にしたな?
資金を持ち逃げされて困窮する同胞の信頼を裏切ったな?
因果は巡るぞ?
プローンつまり伏射で狙う。
殺気を見せず、気配を殺し、姿も見せない。
貴様が舐めたのはガイア連合上位のスナイパーだ、何が起こったのか理解する間もなく地獄に送ってやる。
比喩じゃないぞ、この銃に施された術式は撃ち滅ぼした魂を東岳大帝、泰山府君とも呼ばれる存在の元へ送る術だ。
正確にはこの銃のスコープで補足され撃ち滅ぼされた存在は東岳大帝の元へ送られるんだ。
行先は地獄さ、分霊の所か本霊の所かは知らないけどね。
右目でスコープを覗き込む、左目は開けたまま。
ボクの効き目、ドミナント・アイは右だからね、狙撃の時は右目を使う事が多い。
訓練の結果、左目でも容易に照準出来るから、左手でも狙撃は出来るけどね。
それにしても、油断が過ぎるね? 隙だらけだよ? ボクを撒く事が出来たと確信したんだ?
一度は殺されたのに未だボクを舐めてるのか……
なら、報いを受けるんだね。
このライフルに復讐されろ!
ボクはライフルの引き金を絞る。
スコープの中でターゲットが滅びる。同時にボクの手中にあるライフルも限界を迎えた。
銃身が焼け付き、歪んでいる。付喪神も滅んだ、全ての力を仇に向けて撃ち放ったんだろう。
元の主人に殉じたのかも知れない。
「お疲れ様」
ほんの短い間の愛銃を労ってから相棒を呼ぶ。
「エミール」
『あいよ』
「帰ろうか」
ボクはチャイナタウンを後にする。
この場所に用は無い。
キョンシーは居るが、封鎖出来てる以上は、この地の浄化と再開発はキャスパー兄さまの仕事だ。
リクと合流して、ガンスミス一家を護衛しながらボクは滅びたチャイナタウンを後にした。