何時もの悪夢
zzzzzz………………
「っ! ハァハァハァ……ふっ~う、はぁ~」
私は闇の中、飛び起きた。
ドッ、ドッ、ドッと激しく心臓が脈打つ。顔には大粒の汗、体もグッショリと濡れている。
夢を見ていたのか……嫌な夢だ、夢の中で位、現実逃避をさせてくれても良いだろうに。
しかし、当然か……目の前で、妹を殺されたんだ。
私は殺した奴らの事も、護れなかった私自身の事も許してはいないのだろう。
否、許されてはいけない。
日が昇る前、私の朝は何時も暗い中息苦しい程の後悔から始まる。
北神奈川支部の田舎、清川村で魔女達のコミュニティを作っていた仲間達は私に礼を言う。
「おかげで助かった。大部分が逃げ切れたのは貴女の御陰だ」と、全然嬉しくない。
最悪を考えるべきだと主張した。若い娘だけでも先に後方、日本へ逃がすべきだと。
『故郷を捨てるには覚悟が居る。まだ時間はあろうさ』
長の答えに苛立った。
呑気な事を、奴らは我らを火炙りにしても可笑しくないキチガイ共なのに、殺す以上に酷い事をされるのに!
とは言え、根拠が不足だった。なにせ前世でプレイしたゲームが根拠だ。
だが、調べる限り〝メガテン世界のメシア教〟だ。やっている、奴らは絶対に一神教にあるまじき冒涜的な事をやっている! 私には確信出来るのに、仲間を説得できない。
せめて準備を整えたいと思っても、父の猟銃と弾丸を多めに用意出来ただけ。
小娘の小遣いじゃこれが限界。
せめて、妹だけでも先に逃がしたかったけど、母親が反対する。
確かに10才程度の女の子に一人旅をさせたくないのはわかるが……
そんなジリジリと焦燥感に苛まれる日々が続く。
せめて、少しでも時間が欲しい。
決定的な証拠をつかむか、子供達だけでも安心して疎開出来る場所があれば……
当時の私が個人的に悩んでいたのはガイア連合なる組織を信用すべきか否か。
これもメガテンでヒャッハーしてた組織じゃないのか? いや交渉役はマトモだった? でもガイアだぞ?
内情を知った今では馬鹿らしくなる。
ホント、馬鹿……あの時、一も二も無く賛成してれば妹は生きていただろうに……
白々と夜が明ける、朝日が昇り切るまで私はベッドの上で声を押し殺して泣いていた。
何時もキノちゃんはカワイイなぁ
「やあ、おはよう。義妹よ!」
北神奈川支部でキノちゃんに会った。側に居るリコちゃんがしかめっ面をしているがソレもカワイイ。
この娘達なら私と同等か私以上に強い。
私が判断ミスをしても不幸に巻き込まれても、この二人なら無傷で切り抜けるだろう。
そんな信頼があるから、私の様な判断ミスを繰り返す無様な女でも安心して付き合える。
多少ウザがられるくらいのポジションなら、私が死んでも後には引かないだろう?
ちょっと楽しいしな。
キノちゃんの頭をナデナデ。
隣のリコちゃんの頬がぷくっと膨れる。
反応が良いからツイ揶揄ってしまう。
キノちゃんがカワイイのも本当だぞ?
同い年だし、小柄な娘をちゃん付けで可愛がっても可笑しくはない。
どことなく妹に似てるのも本当だ。
キノちゃんの様な武は持たない、でも心の強さと優しさは似ていると思う。
聞けば1/4はドイツ人、どことなく親近感を持つのも理由はあったんだと思った。
前世でも見たアニメキャラそっくりなのも理由かも。
他人の事は言えないが……
私もストライク・ウィッチィーズと言うアニメで観た顔だ。
妹の名前もクリスだった。
どうせならミーナとかエーリカも居て欲しかった。
黒札として彼女達が居れば……意味の無い仮定か。
既に結果は出ている。
私は無様に負け、捉えられ、妹の仇も討てなかった無能だ。
異界に潜る
「さて確認だ、私は一芸突破で許可を貰ったんだが。フォトネキも許可は取れたんだよな?」
「許可ですか?」
うん? ああ、キノちゃんが既にクリアしているし、リコちゃんはシキガミだから知らないんだな?
「私達黒札が新たに下の階層に挑むには盟主の出した試験をクリアしなければならないのです」
フォトネキが補足してくれた。
「そう言う事だ」
ガリズルはフォトネキとセット。正確にはフォトネキの護衛で道具扱いかな? ショタおじは黒札には優しいが現地人や悪魔には冷淡だからな。
「リコちゃんだけなら許可は必要無い。キノちゃんがクリアして先に進んでいるからな。ただし事故があって君がロストしてもキノちゃんの自己責任になる」
これで良いんだよな? 前世で使っていた言語だが、偶に難しい言葉を使われると理解が怪しくなることが……
元々がお馬鹿だった可能性もある? いやいや、20年も使って無ければ忘れても仕方ない。
「問題ありません、伊達に正規のサマナーでは無いのですよ」
ああ、フォトネキは貴重な本式サマナーだったな。
「一応確認です、リコさんも問題はありませんよね?」
「はい、マスターのキノさんから下層でも戦闘力は問題無いと保障されています。トラップは別としてですが……」
ああ、キノちゃん自身も脳筋を自称する特化型だからね。
頭を使う系は苦手で判断出来なかったのか……
「だからこそのパーティだ、助け合っていこう」
うん、だから頭脳系は任せたぞフォトネキ!
「どうせ、罠や交渉は私が処理するんでしょう?」
わかっているじゃ無いか。その通りだ! 胸を張って頷く。
リコちゃんも申し訳なさそうにしているな……スマンが脳筋に頭脳戦は期待しないでくれ。
「じゃあ、行こうか」
準備をしっかりして下層に挑もう。
押し寄せる悪魔を打ち倒すのはどうにでもなる。
問題は謎解きやトラップだ。
「スマンが頭脳では私は役に立たない。近寄らせはしないから謎解きはフォトネキに任せる」
「反対側は私が護ります、落ち着いて解いてください」
リコちゃんも脳筋だものな? 主従は似るらしいし。
キノちゃんも謎解きはリク君に任せる事が多いらしいな。
『ボクの頭脳はワンコに劣る? そうだけど? でも、家のリク君より賢い人間は少数派だと思うよ』
キノちゃんのお言葉だ。人間、向き不向きと言うものがある。分限を知るのは大切だよな?
「だからって! もー!!」
ブツブツ言いながらも頑張る君が好きだよ。
申し訳ないが頭脳では私は役に立たない。敵を近寄らせはしないが。
寄らば撃つ。寄らなくても隙あらば撃つ。両側でパンパン五月蠅いのは勘弁して欲しいね。
何やら、順番に操作している様だ。
「環境が激変します、対策はしていますね?」
ストライカーユニットは何時でも召喚装備できるし、環境対策の装備も問題無い。
アイテムも何時でも取り出せる。
「問題無いぞ」
「同じくです」
「では、行きますよ」
手元が動いて、環境が変わる。
「ステージ変更ギミックか」
海の上ね。
私は飛行しているし、リコちゃんは浮いている。
「フォトネキ、君が一番不安定なのだが……」
ガリズルに抱かれて飛行中。
問題は無いが、ガリズルの戦闘力が削がれていないか?
「すぐに浮き足玉を使います」
まあ、自分で対処できない時の為にシキガミが居るんだしな。
フォトネキに反射神経を期待するのも間違いだし。
「さて、どのような悪魔が湧くのやら」
出て来たのは、クラーケンレベル52か。
「キモイ」
その一言で撃ち殺すのか……リコちゃんって、やっぱりキノちゃんに似て来たんじゃないか?
次々に変わる環境、悪魔が湧き、すぐさま殺す。時折、罠orギミック。
このメンバーは優秀だ。
リコちゃんも脳筋と言いながらもトラップには対処しているし。
目と感が良いんだな。軍人としての経験も糧になっているのか?
魔法的な罠であっても一番に気付くのはリコちゃんだ。
気付けても対処できるとは限らない所がパーティを組んだ理由だな。
コンセントレーション。
魔法を使えないキノちゃんが便利だと言うだけあって、集中力が必要な階層では必須の技能だ。
集中力が途切れた途端に敵か罠が来る。
ゲームじゃないんだ。
疲れたからセーブして休憩って訳には行かない。
早く強くなりたいとは思うが、焦ると死ぬ。
リコちゃんは良く一人で此処まで来れたな?
「軍でスナイパーをしてましたので、単独行動には慣れてますから」
そうは言っても、人間相手の軍と悪魔相手では違うだろうに。
「対人戦闘と同じでは無いだろう?」
「同じですよ、敵は敵。排除するだけです」
ふむ、チョット詳しく聞きたい。
「人間同士なら分かり合えるのではないか?」
「それが出来る相手なら初めから戦闘にはなりません」
それもそうか。だが簡単に割り切れるものなのか?
「簡単ではありませんよ。だから軍はマンターゲットで訓練するんです、それでも狙って人間を撃てる軍人は少数ですよ」
聞いた事があるな。軍人でも無意識で銃弾を外す、人間は撃てない。
だから弾薬代が嵩むのだったか……
「形が人間でも、生物学的には人間でも、人間の心を持たない存在がいる。お互い良く知っているでしょう?」
メシア教の奴らか……
「私は彼らを知ってから悪魔と人間を区別しなくなりました。何方であっても敵意を向けて来るなら撃てます」
ああ、私とは違う形だがリコちゃんも何処かが壊れてしまったのかも知れない。
「イヤ、正しく適応したのかな……」
正直、私にはわからない。
狂ってしまったのは世界なのかも知れないな。
悪魔がトラウマを刺激するのは当然だろう?
「違……そんなつもりじゃ。イヤだ! 仲間が死ぬのは嫌だ!!」
何かがオカシイ。でも、目の前にはフォトネキが倒れていて……私が銃を向けていて。
ガリズルの敵意が私に? リコちゃんが銃口をこちらに向けて……ああ、リコちゃんに撃たれるなら良いか。
妹を護れなかった私に誰かを護れるはずが無かったんだ……
敵対したんだリコちゃんなら殺してくれるんだろう?
じゃあ、無様な私を亡ぼしてくれ。
出来るだけ苦しむ様にして欲しいが無理かな? キノちゃんと同じでリコちゃんが無駄玉を使う訳が無いもんな?
きっと、一撃で死ぬんだろう。
急所を狙い撃つのがデフォルトだ、弾幕に頼る私とは大違いだな。
なんで、ヘッドショットやウィークショットがデフォルトなんだろう? 主従揃ってオカシイよな。
これから死ぬって言うのに笑えて来た。
脇腹と太ももに痛み……銃弾に抉られたのか?
そんなハズがあるか!
馬鹿にするなよ!!
騙される所だった。
リコちゃんがこんな近距離で頭を外す訳ないだろ!
あの娘が、敵対したとは言え、無駄に相手を苦しませる訳が無いだろ!
何者だ貴様!
答えなくても良い。どうせ敵だ! 悪魔でしかない! だから死ね。
視界が急にクリアになる。
敵は〝エイシェト〟か、ユダヤの夢魔だな。
他人のトラウマを抉りやがって!
「キャハ、キャハハハハ♪」
ああ、癇に触る笑い声だ。
そんなに嬉しいか? 無様な女が滑稽なのか? そうだろうな、私も自分が滑稽だよ!?
「だからって貴様ごときに舐められるのは我慢ならんがな!!」
アナライズの結果はレベル60ね、格上だし物理には耐性があるのか……だが衝撃に弱いのではなぁ!
「死ねよ!」
拳に【ザンダイン】を纏わせてぶん殴る。
普通に魔法を放てば良いのではないか? そうも思ったが、コイツは手ずから殺さなければ気がスマン!
「おらおらおら」
手足に【ザンダイン】を纏わせながら殴る蹴るの暴行。
力任せの蛮行だな、キノちゃんみたいに最低限でも格闘を学ぼうか? 修羅勢に相談すれば誰か指導してくれそうだ。
今回は怒りを発散出来れば良い。
「スイマセン、転移の罠の指摘が遅れました」
リコちゃんが合流したのは、悪魔をボコり殺した直後だった。
暫くしてフォトネキも合流、治癒魔法で癒してくれる。
「無理は禁物ですね、そろそろ撤退しましょう」
そうだな、無様な私が死ぬのは仕方が無いが、仲間を巻きこむのはダメだな。
「自分を卑下するのはダメです」
リコちゃん?
「貴女に何があったのか、ハッキリとは知りません。でも見ていればわかる事もあります」
そうか、バレてたか。
「貴女が苦しんでいる事は知っていました。出来れば自分から相談して欲しかったのですが」
フォトネキ……
大した事じゃない。トラウマを抱えてるだけさ
あれから異界からリコちゃんのアガシオンの【トラエスト】で脱出してお茶を飲んで寛ぎながら話す。
「いや、トラウマが大したことは無いとは言えませんよ?」
「でもイッパイ居るだろう? メシア教の連中はソレだけヤラカシテるんだし、ガイア連合の黒札にも被害者はいる。私もその一人ってだけだぞ?」
「それはそうです。でもトラウマを放置する理由にはなりませんよ」
「そうは言ってもな」
治療? 必要があるのか? 私なんて死んだ方が……
「それはダメです。貴女はマスターに助けられた、その命を軽く扱わないでください」
むっ?
「マスターは貴女を見捨てる事も出来ました。でも危険を犯し、傷を負う事を選んで助けました。そのマスターの気持ちを裏切るのですか?」
それは……
「なにより、トゥルーデネキが死んだらショタおじが悲しむよ? ボクもだけどね」
キノちゃん!?
何時の間にか現れたキノちゃんがリコちゃんの頭を撫でている。
よくやったと褒められたワンコみたいだ、ブンブン振られる尻尾が見える気がする。
「様子がおかしかったので連絡しておきました」
リコちゃん……
「素直にカウンセリングを受けようね? ボクも御世話になってるけど腕が良いカウンセラーが居るんだ。性癖は無視するとして」
うん?
「性癖が問題なのか?」
「スケベ部のボス。エロの体現者、存在そのものがスケベ、色々言われるけどカウンセラーとしては一流のミナミィネキ」
頼りになるよ……性的に食べられる危険もゼロじゃないけど。
ぼそりと呟かれた後半が気になるのだが? トンデモなく不穏なセリフだと思うんだが!
「魔女なんだし、その方面の術もあるんじゃ無かったっけ?」
「有るか無いかで言えば有る。が、其れは私が使える事を意味する訳じゃない!」
「あら、ではトゥルーデネキは清い体なんですね?」
フォトネキ! 止めてくれないか、その言葉は私に効く!
「そうなんだ、良いんじゃないかな? 急ぐ事でも無いよね」
キノちゃん、仲間を見つけた目で見ないで!
「好きな人に捧げれば良いではないですか。主は姦淫を御認めにはなりませんよ?」
ガリズルも黙れ! 好き合ってるから姦淫じゃないって理屈なんだろうが、フォトネキとヤル事ヤッテルのは知ってるんだぞ! のろけられたからな! バカヤロウ!!
色々と騒いだが……ミナミィネキのカウンセリングを予約されてしまったのだった。
「それはそれとして、状態異常系の対策が不十分だよ。深層の素材をあげるから無効系の装備を注文しに行くよ」
問答無用でキノちゃんに奢られてしまった……それでも私は義姉プレイを止めないぞ!
カウンセラーにも性癖は治せない
「うーん、確かに腕は良いんだな」
悪夢を見る頻度が減っている。
ただ出入りする時に人目が気になる。
男漁りに来たのか? という目がカウンセリングの入り口に入ると〝あっ…(察し)〟と言う目に変わり、私を労わる目つきに変わるのだ。
どちらにしても、良い気分にはなれないのだけど……
ミナミィネキは『人間の三大欲求ですよ? 恥ずかしがらずに堂々と満たせば良いんです!』こういうスタンスらしい。
わからないでも無い考え方なんだが……前世日本人女性が貞淑に憧れるのは問題だとでも? 処女信仰みたいなものは馬鹿らしいと思うが、これと決めた男性と添い遂げる事を願うのはオカシイ訳じゃ無いよな?
ミナミィネキは性に奔放すぎる。
「良いじゃないですか、本人同士が納得しているなら外野がアレコレ言うのは無粋と言うもの」
それはそうだ。
「カワイイものはカワイイ。愛でたいものは愛でたい。それの何処が可笑しいのですか?」
そうだな。可笑しくはない。自然な感情だものな。
「妹さんの面影を見てしまう……これも人間なら当然の事、相手に申し訳ないという感情が持てるなら自覚している、つまり妹さんと同一視している訳でも、代用にしている訳でもありません」
そうか……そうかも知れない。
「素直になって良いんですよ。無理に抑制する方が不自然です」
そう…なんだな?
「貴女の素直な気持ちは何ですか?」
私の素直な気持ち……
「キノちゃんカワイイ、ヤッター!」
「アレ? こうなりますか??」
ミナミィネキが困惑する程には筋金入りだったトゥルーデネキなのである。
トゥルーデネキにスポットを当ててみる
その陰で着々と進むリコちゃんの雌堕ちw
マカーブル氏の疑問は拙作ではこういう事にしました