キノの居ない北神奈川支部
「結局、お嬢の言う通りか……」
俺、九島喜太郎が思い返すのはキノお嬢の言葉だ。
『盟主から通達があった。カウントダウンが始まるよ』
いよいよか、そう思った。
『当日ボクは居ない。盟主の代わりに修羅勢総出で大規模異界の対処をするからね。だから小父さん……任せたからね』
お嬢の信頼は有難いが、不安が無かったとは言えん。
『でも、これで良かったと思うんだ。自分の居場所は自分で勝ち取らないとね♪』
ほう? 反則級の戦力である、お嬢は不要だと?
『ボクに頼り切りだと自立心って養われないよ? 大丈夫、皆なら護れるよ』
責任重大だな。思わず苦笑した事を覚えている。
『気負い過ぎないでよ? 大丈夫、此処を護りたいのは小父さんだけじゃない。それだけ福利厚生には力を入れて来たんだしね。出身を問わず、此処を第二の故郷と定めた人がイッパイ居るんだよ』
第二の故郷か……
『肌の色が違っても、信じる神様が違っても、ボクが主導して定めたルールを守る限り差別されないし出来ない』
メシア教もなのは不満だが仕方ないんだろうな……
思わず呟いた言葉にお嬢が反応した。
『正直に言えばボクも不満だ、でも例外を作ると其処から破綻していくからね。ルールを破ったなら遠慮しない、最期までとことんヤル! それで我慢してよ』
人間には、集団行動を行う生き物には規律が必要か……そうだな。
『北神奈川支部ってのは雑多な集団だ、日本人、アメリカ人、ヨーロッパや中東の人間だっている。完全に同調するのは無理だから最初から期待してない。緩やかに連携出来れば良いんだ、逆にそれが強みになるかも知れないよ?』
それらが、纏まっていたのはお嬢が居たからなんだが……
『だからこそ、かな? ボクは運営的にはお飾りだけど*1、切り札ではあった。でも、これからも苦難は続くんだ、ボクを何時までも頼れるとは限らないんだ。最大の危機で纏まれないなら、必ず瓦解する……逆に此処で纏まれたなら、今後はお互い信頼できる仲間になる。メシア教を除けばだけどね』
お嬢は悪い顔をしていたな。ナルホド、メシア教の役割はヘイトの向け先か。
確かにな、今回の終末突入と言う大事件を雑多な集団が纏まる切っ掛けにして、細かな不満はメシア教に受け持ってもらうのか。
『切り札の飛行島はリコに任せるし、フォトネキやトゥルーデネキも頼りになる。ハーク乗り達も練度は十分。正面戦闘では心配してないんだ。搦め手が問題だけど、そこはイデニキやヤプールニキを頼りにして……良いんだろうか?』
おいおい、お嬢。ソコは断言してくれ。
苦笑しか出来ない。
「まあ、搦め手となると臨機応変に対処するしかないからな。俺の全力で対処しよう」
なに、行き当たりばったりの度胸勝負は慣れているさ。
そしてお嬢は幹部を集め、俺に全権委任する事を宣言してから山梨へと向かった。
ミホの選択
「なるほどね……選択肢をくれたのか」
思わずポツリと呟いた。
「ミホ殿? どうしたでありますか?」
「なんか深刻そーな顔してたよ?」
親友二人が声を掛けてくれる。
そうだな、話して置かないと不義理だね。
「先ずDDSを確認してくれる?」
私達程度でハンターランクが高いのはオカシイ気もするけど、デモニカ込みだからかな?*2
東京脱出を促すカウントダウンが始まっている。
そして、キノからの注意喚起。
「キノからメール。なんか元母親が不穏分子を道連れに死ぬ気みたいだって」
知らないなら其れでも良かったんだけど……お姉ちゃんは気にするだろうな。
そして無茶するお姉ちゃんとソレに付き合う恵梨香か……有り得る話だ。
だから、助ける手段を私に託すと……
「他所の家庭に手出しをスル気は無いし、終末時は大規模異界の対処でキノは北神奈川支部を留守にするんだって」
「それは大変だー」
「どうするでありますか?」
さて、どうしよう? 元母……一応元父も健在だったな、空気過ぎて忘れてた。
助けても良いし、死んでも仕方ないと思ってる。
でも、お姉ちゃんは見殺しにしたくないかな?
仕方ないな……
多分、キノはわかってるんだ。
なんだかんだ言っても私はお姉ちゃんと和解出来たし、両親だって何時かは許したいんだろうと思う。
でも、マダ許せない。
だけど死んでしまえば、仲直りする機会は永遠に無くなる……
『別に西隅夫妻がどうなろうとボクには関係無い。でもミホが悲しむ可能性が少しでもあるなら見過ごせない』
キノは優しいね……でも厳しい。
どうするかの選択肢はくれる、助力もしてくれる。でも与えてはくれない。
欲しいものがあるなら自力で勝ち取るべきだってキノは言ってる。
その通りだ。
子供じゃないんだ、欲しいなら自分で努力しないといけない。
「でも友人が助力しちゃいけない訳じゃないよね~」
「で、ありますな。我々の家族を助けて貰っておいて友人の両親の危機は知らないって言うのは人の道に外れます」
親友とその家族を助ける為のシェルター避難枠。
キノの口利きの御陰だし、そこまで大げさに感謝しなくても……
「手伝ってくれるの?」
返事は二人のサムズアップ。
私は友人に恵まれている。
家族には大外れが居たけど差し引きプラスだ。
私はキノから送られてきた呪符を手に立ち上がった。
「じゃあ行こうか」
先ずは相模原市へ行くべきかな?
マホの焦燥
「そうか……覚悟を決めているのか」
私を訪ねて、西隅流の門弟が来た。
それも1人2人では無い。纏めて14名もだ……
来たのは私と年の近い若手ばかり。
一人なら単身者用に、弟妹等の非保護者がいる者は家族用のシェルターに入居できた様だ。
東京の結界が限界を迎えるらしく、それに伴い八王子でも霊的安定が崩れ始めた。
彼らは、そのことで覚醒を果たした人間達だ。
真面目に剣術の鍛錬をしていた人間ばかり……剣の理から外れた修行にも霊的な意味があったのだと今ならわかる。
「宗家は今まで通りの生活が出来ると思い込みたい老人達と共に……」
若手の代表の言葉を聞くに、母は死ぬ気なんだろうな……
『これが今生の別れと思いなさい。貴女は相模原で頑張る事、時期が来たら若手を送ります』
母が八王子に残ると聞いた時の言葉だ。
あの時から覚悟を決めていたのは知っていた筈だ。
『貴女は西隅に縛られる事なく自立してくれれば良いわ。幸せになりなさい』
あれほど柔らかく澄み切った笑顔を見たのは初めてだった。
「なのに、私は両親を諦められない……未練なのかな?」
妹の友人、北神奈川支部の支部長のキノさんの援助で戦える様にはなった。
あくまでもキノさんから頂いたデモニカの御陰だ、自分の実力では無い……本来の実力はとても低い。
事務の方がアナライズしていたが、門弟達の限界レベルは5か6。
そして私の限界レベルは2。門弟の方が霊的な実力は高い事になる。
ミホが言っていたな。
『悪魔相手に剣技を誇ってどうするの? その剣で敵を倒せるかどうかが問題で、いくら美しく剣を振るえても悪魔に刃が届かないなら意味が無いよ』
厳然たる事実。
『剣は手段なんだよ? 悪魔を倒せるなら剣だろうが銃だろうが好きに使えば良い。でもお姉ちゃんの素の実力は高いとは言えないんだ』
私に剣に拘るだけの実力は無い……霊刀が有ればスライム程度は倒せるだろうが、必ず勝てるとは言い切れない。
霊能の世界は残酷だ……どれ程に技術が高くても霊格が劣るなら悪魔としては底辺のスライムにすら苦戦する。
霊能が無ければ、どんな剣豪でも悪魔を認識する事も出来ずに殺される。
そんな世界で帝都の西を護る筈の我が家は落ちぶれていた。
落ちぶれている事に気付いてすらいなかった……
今考えると恥ずかしいなんてもんじゃないな。
結局、悪魔を倒す為にはデモニカを頼るしか無かった。
『運が良かっただけだ』
そんな陰口もあるらしい。
仕方が無い、事実だ。
妹が支部長のキノさんの親友だから、妹であるミホの身内である私が優遇されただけ。
一応キノさん自身が『覚醒したばかりなのに妹を案じて命を懸ける事が出来る気概を認めたんだ』そう、庇ってくれたけど、贔屓と言われれば返す言葉は無い。
『マホさんはチャンスをつかんだだけ、気にする必要は無いよ。ボクにすら運よく才能に恵まれただけだって言う人間だからさ』
僻み根性が強い人間は何処にでも居るって事か。
そう言えば何時の間にか見なくなったが何所に行ったんだろう?*3
私が気にする事でも無いか。
今後どうするのかが問題だな。
彼らが北神奈川支部で居場所を見つけるまでは助力が必要だろう、母もソレを期待して彼らを寄こした筈だ。
努力次第で溶け込めるだろうとは思う。
北神奈川支部は常に人材不足だ、覚醒者なら仕事は幾らでもある。
変なプライドは持っていない若手達だしな。
しかし、私はそれで満足できるのか? 両親を見捨てて、若手と共に北神奈川支部で安全に暮らす?*4
ホントにそれで良いのだろうか……
迷っている時間は無い。
決心するなら、行動するならチャンスは今しか無い。
良く考えなくては……私達を受け入れてくれた北神奈川支部やキノさんに迷惑は掛けられない。
でも、やはり私は両親を助けたい、諦めたくないんだ……
何か方法は無いのか? 私に良いアイデア等は無く虚しく時間だけが過ぎていく。
恵梨香の本領発揮
八王子の仲間達が合流して来た。
総勢14名、剣の腕は確かだし鍛えればソレナリに悪魔とも戦える人間ばかりだ。
デモニカ無しの素の実力でも私より下だけれど、彼ら以下の能力しか無くても工夫と努力、そしてアイテムを駆使して悪魔と戦う名家の人間は大勢いる。
キノは部下への投資を怠らない。
以前の名家では長老に使い捨てにされていた様な人間にも優れた初期装備を与えるし、安全マージンを考えて異界の攻略を行わせる。
助力は惜しまない、でも頼り切りにはさせない。
キノは唐突にそして理不尽に保護者を殺された過去を持つからね。
突然自分が死んだり消える事も有り得ると考えている様だ。
異界では色々起こるから。
異界内部では時間の流れが違うなんて事もある。
私だって浦島太郎みたいに〝異界に閉じ込められて、脱出したら何年も過ぎていた〟なんて事になっても不思議じゃないのよね。
一応、北神奈川支部内の異界は全て調査済みで厄介な異界は残ってない筈だけど……
新規で異界が発生する可能性もあるし、油断はダメよね?
私とマホ先輩のコンビはデモニカの御陰で北神奈川支部でも上位の戦力になっている。
デモニカが無いなら? 戦力としては私で中堅、マホ先輩は残念ながら低い方になるかしら。
身に着けた剣技は確かなんだから、キノがくれた霊刀が有ればガキ位なら倒せると思うけど……
問題なのは剣に迷いが生じる事。
現在はデモニカによる砲撃*5ではあるが本質は変わらない。
悪魔とは迷いながら戦い勝てる相手ではない。
少なくとも、デモニカを育て切った人間が悪魔相手に油断は禁物、迷いは死を招くと断言している。
私達より戦歴が長い鬼太郎親子が揃って断言するのだ。
疑う余地などない。
マホ先輩とはひょんな事で恋のライバルと化したが、先輩の死で決着と言うのは頂けない。
それに、この調子だとキノの言う〝終末〟は直ぐ其処まで迫っていて日本の法律など意味を成さなくなる可能性が高いのだ。
ならば妻は一人と言う常識も消えるだろう。
先輩となら好きな男を分け合い、竿姉妹となるのもアリだ。
「なら、背を押すべきでしょうね」
どう行動しても後悔はするものだ。
しかし、行動出来ずにする後悔よりは、行動の結果で後悔する方がマシだと思うのよね。
「先輩? 先ずは動きましょう! 輝太郎さんの所なら此処よりも情報が有る筈、どうするかで悩むのは後でも出来ます!」
猪突猛進なんて言われる事もあるが、気にしない。
死中に活あり!
動かず死ぬより前のめり、武家の末裔、剣士を名乗るなら行動しない事こそが恥なのよ!
輝太郎の漢気
「八王子の様子はどうだ?」
「若、避難民は少ないですな。未だ半信半疑、様子を見ようってのが大勢でさぁ」
そうか、尻に火が着かねぇと動かねぇ奴も多いわな……
東京在住のデビルバスターですら動きが鈍い、何も知らん一般人はなおさらか。
溜息が出るぜ、時間が立てば立つほど脱出は難しくなる。
北神奈川支部のブレイン二人の見解だ。
それは一日で実感出来た。
「確かに八王子にも悪魔が湧きだした。しかも朝より強い悪魔が出始めているぜ」
報告書に眼を通す。
今朝はスライムやガキ程度だったのに、夕方にはオンモラキやコダマなんかが確認できた。
最終的にはデモニカでも勝てるかわからん悪魔が出て来ても不思議はねぇな。
そんな鉄火場になりそうなんだが、本気で行くのかい?
「考え直す気は……無さそうだな」
マホさんも恵梨香さんも覚悟を決めた目をしてやがる。
「はい、母は今生の別れは済ませたつもりでしょうが……初めから諦めたくは無いんです」
「ですね、宗家の責任を果たそうと思ってらっしゃるのでしょうが、西隅がこうなったのは先代の責任が大きいと思います」
まあなぁ……祖母世代のヤラカシのツケを清算する。子供に負債は負わせない……
理屈はわかるが、納得できるかは別の話だ。
「だがよ、行ったところで助ける手段はあるのかい? 闇雲に動いて泥沼に嵌まる事もあるぜ?」
「ありません、私に出来る事など無いのかも知れません。でも……」
「様子見に意味はありません。無理なら無理で仕方がない。けれど……」
「「挑みすらしなければ後悔する」」
決意は固いか……
「おう、トビー! おめえ偵察は得意だよな? お嬢さん方の助っ人を頼まぁ」
「俺っすか? 承知っす!」
「って訳だ、コイツは眼も勘も良い。先導させるから、行ってきな」
二人して、深々と頭を下げる。
水臭いねぇ…俺なんかに惚れてくれた女達の為だぜ? 漢の意地くらい張らせてくれよ。
ホントは俺自ら、ついて行ってやりてぇ。
立場を放り出して、護ってやりてぇ。
だが、それを喜ぶ様な女達じゃねぇからな。
キノさんに支部の護りを任されたんだ、俺らの後ろには北神奈川支部の中枢が、護るべき子供達がいる。
役目を放り出すのは論外だ。
だがよ、持ち場を護る、惚れた女達も護る。何方もやるのが漢だ! 親父ならヤル!
だから俺にも出来る!
それくらい出来なきゃウルトラマンの名前が泣くぜ。
「いいか、何時でも頼れ! 自分達だけでやろうなんてすんな! 必ず俺が護ってやるから」
そして八王子
「そう、皆は無事着いたのね……」
マホの所に、当家の悪癖に染まっていない若手を送り出せた。
後顧の憂いは無い。
マホは若手を纏めて相模原で暮らすだろう。
ミホは既に、茨城県の大洗で独立している。
後は、未だに己は無事だと、悪魔などいないと信じる……否、信じ込みたい老害と滅びるだけね。
体が震える……死は怖い。しかも、普通に死ねるなら幸せらしい。
死後も魂を悪魔に嬲られる……此処、東京八王子に居る限り、かなりの確率でそうなるらしい。
当家の生贄にされたとも言えるキノさんの祖父。
恨んでも可笑しくないのに、キノさんは情報をくれる。
『よく考えると良いよ。西隅の家に貴女の魂を賭ける……違うな、捨てる価値があるのかどうか?』
ボクにはあるとは思えないけど……
ポツリと呟いた言葉が印象的だったわ。
言いたい事はわかる気がするけれど、西隅の負債は私達夫婦の代で断ち切る。
娘達には一切残さない。
夫と決めた事だ。
「と言っても、イザとなれば体は正直ね」
震える体を自分で抱きしめる。
普段、強い母を演じていても、死を前に虚勢も張れない。
我が母、娘達からは祖母に当たる、あの愚昧から娘を護れない程度の強さに価値は無かったのだろうけれど。
「君はチャント母親をしていたさ、少なくとも存在感ゼロの父親よりは真面にね」
朗らかに笑っている夫。
入り婿だからと蔑ろにされて来たが芯は強い人だ。
「多分、二人とも赤点よ?」
夫の御陰かしら? 私も笑う事が出来た。
入り婿だから、西隅は女の家だからと遠慮してただけで、夫は強い人だ。
この人と寄り添い共に滅びるのなら幸せなのだ。
一人無様に死んだ母よりも遥かに上等では無いか!
この母親失格の馬鹿女には勿体ない位だ。
後は死を待つだけだと思っていたのに……娘達に会わせてくれるなんて。
運命とやらは気まぐれにも程があるわね。
あれ? サクッと書くつもりだったのに、カウントダウンが?
途中で時間が飛ぶさ
多分……
アビャゲイル氏のスレに書き込もうとしたら規制に巻き込まれてた(苦笑