【カオ転三次】世界が終わるまでのバイク旅   作:山親父

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ケセラセラ、先の事など、わからない
作者のセリフじゃ無いが、実際こんな感じです


終末は来たれり-東京壊滅まで後6日-

 娘達との再会

 

「何故来たのですか! 馬鹿どもに見つかる前に戻りなさい」

 日付けが変わる頃、こっそり訪ねて来たマホを小声で叱責する。母としては嬉しい。

 けれど、折角死地から逃したのだ、生きて幸せになって欲しい。

 西隅の家等は、どうでも良い、もう終わった家なのだ。

 娘が生きる理由になるなら利用する。

 私達夫婦にとって、家の価値などソレだけだ。

 

「両親を助けに来てはいけないのですか?」

 

「無理です……あの老害共が大人しいのは私達が居るからです」

 私達夫婦の押さえが無くなれば、何をするか……最悪、民衆を扇動して相模原に攻め込む事だって有り得る。

 少なくとも相模原に避難しようとしている都民に犠牲者が出るだろう。

 選民意識に取りつかれた彼らが避難民を襲い財産や食料を奪う……簡単に想像できる。

 

 これが帝都守護の一端を担い、帝の信認を受けた事もある一族の成れの果てだ。

 先祖に詫びなければならないわね。

 でも、滅びる一族にマホが付き合う必要は無いのよ。

 

「逃げなさい、見つかる前に」

 最期に会いに来てくれた事は嬉しい。

 でも、責任者として私は逃げる事は出来ないのよ……わかってマホ。

 

「私は諦めません。ギリギリまで策が無いか考えます。母さんも諦めないで」

 また来ます。一言言い残して娘は消えた。見事な隠形だ……私達夫婦では足手まといになるでしょうね。

 

 正直に言えば嬉しさがある。娘に見限られていても不思議はないのに、無理を押して助けに来てくれた。

 しかし、どう考えても無理だ。

 

 私達夫婦が消えれば老害は暴走する。

 歯止めは必要だ。

 私達如きじゃ居ても居なくても大差は無いのかも知れないけれど。

 

「素直に逃げてくれれば良いのだけど……」

 あの娘は頑固だから、ギリギリまで粘るだろう。

 

「手遅れになる前に自害した方が良いのかも知れません」

 私達が死ねばマホが無理をする必要は無くなる。

 タイミングを見計らって……

 

「それは止めた方が良いよ」

 ポツリと呟くような声、この声は!?

 

「ミホ!?」

 慌てて口を押える。

 驚いたとは言え、大声を出しては不味いのに。

 

「漸く、素の顔を見せてくれたのかな? 何時も仏頂面で厳しい顔しか見せなかったものね」

 苦笑する次女の顔。

 もう見る事が敵わないと諦めていた娘の顔。

 

 ポタポタと雫が落ちる。

 私は泣いているのか? この娘の前で泣く資格などは無いのに……

 

「そっか、貴方も母親だったのか……私の前では母親の顔より西隅宗家の顔しか見せなかったけど」

 年を重ねれば見える事もある……かぁ。

 

 そんな事を呟いている。誰かに諭されたのかしら? 随分大人の考えな気がするわね。

 

「ミホも帰りなさい。あの潔さとは無縁の連中は貴女を巻き込んで悪あがきをするに決まってます」

 貴女達が引き継がなくても良いの、悪い因縁は私達夫婦が地獄に連れて行くから。

 

「そうは行かない。貴女達夫婦には生きてもらう。死んだら喧嘩も出来ないんだよ?」

 

 静に、しかし力強く言い切る娘。

 何と言う迫力だ、こんな娘を、これほどに覇気と圧を持つ娘を迫害していたのか!

 

 その気になれば、一門全員ですら返り討ちに出来るのではないのか?

 今朝、いえ日付が変わって昨日の朝の話か……世界が変わって見えると夫は言った。

 これがミホの見ていた世界なのかも知れないと、今なら夫の言葉がわかる。

 

 娘の、いえミホさんが纏う霊圧の強さ……格が違う。

 

「ふーん、悪運は強いのかな? タイミングはギリギリだけど覚醒が間に合ったんだね」

 

「覚醒?」

 

「貴女も、そして後ろの元父も覚醒者、つまり霊能力者になったって事」

 

 後ろ? アナタ!

 

「やれやれ、隠形には自信があったんだけどな」

 頭を掻きながら夫が出て来る。

 

「これからは霊圧を抑える訓練も必要だよ。私も練度は低いんだけど」

 感情が抑えきれないのか、未熟だな。そう小声で呟いている。

 

 ミホが説明してくれる。

 

 周囲の事は気にしなくても良いらしい。

 頼りになる仲間が結界を張ってくれているとか。

 

 覚醒したばかりの人間に感知される様では失格なのね。

 覚醒者は総じて、一般人を凌駕する身体能力を持つ。

 手加減しないと、物も他人も壊してしまうのですか。

 石を拾い、握ってみる。

 

 パキリ

 

 音を立てて、石が割れる。 

 

「それが私の感じていた世界。全く同じだとは言わないけれど」

 

 そうなのね……ミホ、貴女は周りを壊さない様に手加減して生活していたのね。

 

 そうとも知らず、私達は覇気の無い娘と蔑んで……相手は格上だったのに。

 ミホが慎重に手加減していたから生きて居られただけなのに……

 私程度の力でも、簡単に未覚醒の一般人は殺せる。

 それが実感できた。

 木刀で打ち合えば、木刀ごと相手を叩き壊す事になる。

 それを知らず、本気で打っていないと叱責していた。

 努力しても無理なら仕方が無い。だが娘は本気で挑んでないと、上から目線で怒っていた。

 

 何と言う物知らずか!

 

 しかも西隅は霊能の大家の末なのに……

 恥ずかしい、心底恥ずかしい。

 

 ミホの顔が見れない。

 

「ふふ、その顔が見れただけでも来た甲斐はあったかも」

 笑いを含んだ声。

 

 こんなに明るく笑えるようになったのね。

 娘は良い方向に進めている。

 信頼できる友人、仲間を得て、キノさんとの友誼も取り戻して。

 

 やはり私達は娘の幸せの邪魔なのでは?

 

「ネガティブマインドは止めようね? 大丈夫、手段はあるから」

 私達は詰んでると思うのだけれど?

 

「西隅は、少なくとも八王子西隅家は終わる。でも、それは母さん達の死を意味しない」

 

 私の顔を正面から見つめるミホ。

 

「死なせないよ。母さんも父さんもね」

 

 また来る。そう言ってミホも消えた。

 消える前に私達にお守りを手渡して。

「特別製のお守り、身に着けて置いて」

 詳しい事は私達も知らない方が良いらしい。

「知らない事は答えられないし読心も出来ないからね」

 退魔の世界は厳しい様だ……下手にバレると拷問も有り得るって事なのかしら?*1

 

「娘達を信じて見ようか、シホ? ダメでも命を賭ければ娘達は逃がせるさ」

 死ぬなら最期くらいは父親のカッコいい所を見せたいからね。

 こんな時でも夫は朗らかだ。ふざけた様に言動は軽いが覚悟を決めているのは知っている。

 おそらく、追い詰められたなら進んで捨て石になるだろう。

 だけど、娘達に会う前にはあった諦観が消えた? 足掻いて見る気になった様だけれど?*2

 

「それに、可能なら一目でも良いから孫を見たいよ」

 生きる目標としては悪くないわね。

「一目で満足できる? 何度も見たくなるし、その手で抱きたくなるわよ」

 夫に笑いかける。

 そうね、孫を見る為にも、足掻いて見ましょう。

 

 

 深夜の作戦会議

 

「ここなら安心っす」

 

 鳶夫(とびお)が案内したのは、八王子にある九島組のセーフハウス。

 協力者が所有するアパートの一室。

 周囲の部屋にも仲間しか住んでおらず、現在は全員が早々に避難していた。

 彼女らは、ゲスト用の部屋を借りている形だ。

 

「先ずは久しぶりだね。お姉ちゃんに恵梨香」

 ミホの挨拶に合わせて佐緒里(さおり)(ゆかり)が頭を下げる。

 

「んと、全員を知ってるのはあたしだけかな? 先ず九島組の高所(たかしょ)鳶夫(とびお)君、実力は確かで頼りになるよ。キノさんから〝アガシオン〟を与えられてる、未来の九島組幹部だね」

 紹介された鳶夫(とびお)が頭を下げる。

「んで、右から四号ちゃん、四駆ちゃん、ティーガーちゃんにパンターちゃん。以上!」

「待て、であります! 何ですか、その紹介」

 笑いを含んだ佐緒里(さおり)の紹介に(ゆかり)がツッコむ。

「いえ、皆さんの事は知ってますんで問題無いっすよ。オストヴィントちゃんの事も含めて」

 鳶夫(とびお)が笑う。

 

「まっ、これからの事を話し合って欲しいっす。俺は脱出の準備を優先しますんで、西隅夫妻救出は皆さんの仕事っすから」

 鳶夫(とびお)は、そう言って、外の警戒を優先する。

 

「じゃあ、初めよっか」

 ミホが呪符を取り出した。

「これはキノがくれた姿写しの呪符。身代わりって言った方が理解しやすいかな?」

 それなりの霊能者なら使える代わりに応用性は低い。受け答えも出来ないし、碌に動く事も出来ない。

 しかし触らないなら実力者でも簡単には見破れない優秀な幻影だ。見破ろうと思えばジックリ霊視をする必要がある。

 

「キノは〝どうせ宗家が邪魔になれば監禁される、その時に使えば良いよ〟って言ってた」

 下手に複雑な手段よりも単純な方がバレ難い。

 監禁された夫婦が心傷つき項垂れていても違和感はないだろうし。

 

「ミホ、身代わりが用意出来るのはわかった。けれど、奴らの目をどうやって誤魔化すんだ?」

 マホの疑問。

 

「朗報が一つ、両親共に覚醒してる」

「何っ!」「嘘っ!」

 マホと恵梨香が驚いていた。

 

「なんだかんだ言っても、退魔の家だったって事かな? 限界レベルは不明で覚醒したばかりだからレベル1。でも相手は非覚醒者、その気になれば蹴散らして通る事も出来るかもね」

 失敗しても力尽くで押し通る事が出来る。これは安心材料ではある。

 敵方にも、覚醒する人間が居るかも知れないが、覚醒したばかりの退魔素人に後れを取るようでは悪魔とは戦えない。

 マホとて生身でも後れを取るつもりは無い。装備も込み、デモニカまで含めて考えるなら負ける方が難しい。油断はしないが。

 

「強硬手段は避けた方が良い。有象無象は如何でも良いが、悪魔の眼を引くのは良くない」

 

「ですな、可能なら脱出した後に騒いでもらって悪魔への囮として利用したい所です」

 (ゆかり)の意見は軍オタらしい目線で敵を利用するものだ。

 

「それはそう、だから強行突破は最終手段。隠形もそれなり以上みたいだし期待は出来るよ」

 無論、其処まで都合よくは運ばないだろうが。

 色々と工夫は必要だ、陽動なんかが常套手段だろう。

 

「脱出するのは、この6人と御両親で確定なの? 下手すると増えないかな?」

 佐緒里(さおり)が疑問を呈する。

 

「俺にもわかんないっすね。DDSで避難は呼びかけてるっすけど……」

 それなりに強力な悪魔が出没し始めている。実力に自信が無い者は尻込みしているようだ。

 状況は悪化する一方で、八王子だとガイア連合の施設もない。

 生き残りたければ、可能な限り早めに戦力を集めて避難するべきなのだが。

 

「誰もが最適解を出せる訳じゃないし、ビビっているうちにゲームセットってなりそーだねー」

 佐緒里(さおり)の言う通りではある。だが目端の利く者が一緒に脱出したいと合流する可能性はある。

 

「まあ、その辺の対処は九島組でするっすから、皆さんは御両親の事だけを考えれば良いっすよ」

 

「先ず戦力の確認、お姉ちゃんと恵梨香のデモニカって、限界までレベル上げてる?」

 

「ええ、先輩も私も先日30まで上がったわ。上がったってだけだけど」

 練度はマダマダ、使いこなしているとは言い難い。

 

「それは仕方ありませんな、我々とて一年掛けても使いこなせてるとは言い難いですし」

「だねー」

 

「でも十分だよ、抵抗力って意味では同等だもん」

 抵抗力、攻撃に対する耐性は霊格の高さが物を言う。例えば【火炎無効】や【火炎反射】を持っていても、霊格が違い過ぎると焼き殺される。キノ達修羅勢がショタおじに挑む度に思い知らされる事実だ。

 

 霊格に大きな違いが無ければ【耐性】の有無は大きな差を産む。

 先の例えなら【火炎無効】や【火炎反射】持ちに火炎でダメージを与えるなら【貫通】等のスキルが無ければならないだろう。

 

「それなら自分達を巻き込んだ戦法も使える」

 精神異常系のアイテムは良く効くんじゃないかな?

 考え込みながら無意識に呟くミホにマホと恵梨香は戦慄する。

 肉を切らせて骨を断つと言う言葉がある。実践できる人間は少ないが。

 しかし、ミホ達は大怪我と引き換えに敵を倒せるなら安いと考えている。

 〝治せるんだから、死ななきゃ安い〟

 これが前提なのだ。 

 

 ミホの考えは普通だ……修羅勢の普通だが。

 レベルは兎も角、覚悟と戦術は教官ニキが認める傑物達。

 それがアンコウチームだ。

 高レベル修羅勢になると〝死んでも復活出来るなら安い〟にランクアップする。

 

「何と言うか……凄いな」

 マホとしては、他に言葉が出なかった。

「退魔とは、それほどに厳しいものだったのか……私は未だ甘いな」

 間違いではないのだが……ミホ達ですら、この世界では甘い方かも知れない。*3

 

 姉をドン引きさせつつ、会議は進む。

 

「ではコレを鳶夫(とびお)殿にお渡しします。鳶夫(とびお)殿と御両親の分です、防御の足しになりますし、チョットした仕掛けもありますので」

 (ゆかり)鳶夫(とびお)に念珠を三組渡していた。

「詳しい性能は後で説明しますね」

 それだけ言うと、作戦会議に戻る。

 

 まあ、補助防具である事を理解していれば、細かな性能は使用者が知っていれば良いかな?

 

 そう思ったミホは気にせず作戦会議を続ける。

 大まかに計画を立て、別途必要な物資があるなら、入手の段取りも必要になる。

 幸い、手元の物資で事足りそうだ。

 

 暫らく後、ある程度の方針が纏まり仮眠する事になった。

 

 

 決行は今夜

 

 朝日が昇るも、行動はしない。

「未だ出現する悪魔が弱い」

 とは言っても、既にレベル10前後の悪魔も出現し始めているのだが。

「明るいうちに動けばバレる。夜には警戒も増すだろうけど……」

「非覚醒者が警戒した所で限度がありますからな~」

「そうだねー」

 ミホ達はノンビリと寛いでいた。

 

「随分、リラックスしてるわね? 緊張しないのかしら?」

 恵梨香の疑問にミホが答える。

「緊張し過ぎても良くないしね」

 要はメリハリ。力を抜く時は抜く、それが大事。

「剣でも同じでしょ? ガチガチに力んだって切れないし当てれない」

「理屈はわかるけれど……」

 それが簡単に出来るなら苦労は無い。恵梨香の言い分はそんな所だろう。

「場慣れするしか無いかもだねー」

「我々とて最初から出来ていた訳ではありませんしなぁ……」

 ミホの言葉にチームメイト二人が追随する。

 

「私達ってマダマダなのね……」

 恵梨香は反省するが、彼女らは十分に頑張っている。

 短期間でデモニカを育て切ったのだ。

 鍛える為の狩場があるとは云え、並みの努力で出来る事ではない。

 アンコウチームはベテランの凄腕と言われる領域に居るのだ。

 キノや教官と云う、規格外を直接に知っているから慢心など出来やしないが。

 

「今は体を休める事。布石は打った、後はあの人達の運だね」

 不安なら祈ってみる? 何に祈るのかは知らないけど。

 等とミホは笑う。

 大抵の神は祈った所で応えてはくれないだろう。

 特に自称全知全能の神はダメだ。

 神道の神様にならとりなしできる可能性もある?

 ミホ達は〝コノハナサクヤヒメ〟の巫女でもあるのだし。

 

「そうね、無難に御先祖に助力をお願いするわ」

 多分、力が足りないなりに助力してくれるだろう、存在していていればだけれど。

 

 取り得ず、コーヒーでも飲もう。インスタントしかないが気分転換にはなる。

 ジリジリと待ち焦がれながらマホと恵梨香は夜に備えた。

 

 

 臨機応変? 行き当たりバッタリ? 上手く行くならどっちでも良いよね

 

『先ずは陽動、コレはアンコウチームがやる。此処からは相手の出方次第だけど……』

 ミホの予想では、騒ぎに気付けば両親を隔離する可能性は高い。

 そうなれば呪符を使える。

 違うなら? マホ達自身の判断で動けば良い。動かざるを得ないとも言う。

 救出するチームの指揮を執るのはマホなのだから。

 

「責任重大だな」

 マホが呪符を治めたポケットを押さえつつ独り言ちる。

「気負い過ぎてもダメですよ、先輩。イザとなれば蹴散らして助ければ良いんです」

 恵梨香は開き直った。

 そもそも敵対している分家や門弟連中に遠慮がいるものか! 悪魔の事が無ければ堂々と打ちのめして連れ出している。

 

「ふふふ、恵梨香は頼もしいな」

 マホも同じく開き直れた。

 マホもレベル2とは言え覚醒者。

 しかも、キノ直々に霊刀〝千子正重写し〟を与えられている。

 初代は村正の弟子で楠木正成公の玄孫。

 マホと縁がある〝村正〟の弟子で、南朝護持のために名刀を作ろうとしたと伝わる名工だ。

 先祖の志を継ぎ、日本を護る一助とならん。そう願うマホに相応しいとキノが作刀して貰った品だった。 

 素のマホにとっては格が高すぎる刀ではあるが、レベル限界が低く、既にレベルが上がらない以上、振り回されないギリギリの範囲で装備を強化するしかない。

 デモニカが常に使えるとは限らないのだ、万が一に備えて損は無い。

 キノが心配性なだけかも知れないけど。

 

 恵梨香には〝郷義弘写し〟を与えた。無銘だが伝郷の刀、つまり郷の作だと伝わる刀の写し。

 江戸時代初期の刀剣鑑定家〝本阿弥光悦〟が極めをつけた……多分、郷の作品だと思うよ? って刀の写しである。 

 写しはコピーやレプリカと思えば大体合っている? 本物に似せて作ったというだけで、真剣には違いが無いのだが。

 〝郷と化け物は見たことが無い〟と言う諺がある。化け物たる悪魔が居るんだから、郷が有っても良いよね? そんなキノの洒落でセレクトされた刀だ。

 

 これらは日本刀ガチ勢な黒札達が作刀したもので、使い潰された末古刀を材料にしている。

 以前ミホが折った〝村正〟や折れたが先祖が捨てられなかった刀や槍。錆び切って研ぎ直ししても無駄な刀や、研ぎ減りして実戦に耐えられなくなった刀を集めて、アーチャーニキを始めとした作刀ガチ勢に打ち直して貰ったものだ。

 後はキノの好みで〝同田貫正国写し〟を一振り頼んだ。

『ボクには使えないし、小父さんに渡そう……』

 そんな訳で地味にウルトラマンセブンが強化されている。

 

 集まった古鉄は刀にするなら8振り分。

 余った分はボーナスとなる、アーチャーニキを初めとする、作刀権を勝ち取った3名はホクホクだった。

 長年退魔に使われ使い潰した武器だ。名家の伝手には壊れたとはいえ、染みついた霊的影響を処置して打ち直せる鍛冶師は居ない。供養したくても、それが可能な術者も居ない。

 処分方法が無く困って死蔵されていた品。これらが実用品と交換出来たのだから提供した名家は喜んだ。

 

 アーチャーニキ達は良質の鉄が入手出来て嬉しい。

 キノは部下の強化が出来て嬉しい。

 材料を提供した名家達は量産品とは言えガイア製の武器と交換して貰えて嬉しい。

 まさに三方良しである。キノのお財布は薄くなったが……

 

 キノは今回、相模原に集まった門弟用に〝怨嗟刀〟を沖縄支部から予め購入してあり、接近戦に慣れた戦力として期待していた。

 防具も、霊的なプロテクターが一式用意されている。

 彼らも時間は少ないが、少しでもレベルを上げる為に異界に潜っている筈だ。

 引率は低レベルだがベテランの霊能名家の人間達が引き受けてくれた。

 

 北神奈川支部で受け入れてもらって直ぐの好待遇。

 戻ったら、これが当たり前とは思わない様に引き締めないといけない。

 その為にも、生きて帰る。

 マホはそう決意した。

 

「そうか、もう帰る場所は相模原に為っていたのか……」

 無意識に帰ると思った場所は相模原だった。

 僅か数か月、それだけで、故郷である筈の八王子に〝来た〟としか思えなくなっている。

 

「此処は故郷では無い。敵地だ」

 自然とそう思えた。ならば油断は無い。

 

「西隅マホ、両親救出の為、推参する!」

 恵梨香共々、勢い余ってカチコミにならない様にしなければ……意気軒高、両親救出を妨害する者は叩きのめす。*4

 マホはそんな覚悟を決めていた。

 

 

 突入! 但しコッソリ

 

 正門から聞こえた爆発音を合図に、裏門から侵入する。

 既にデモニカは装備してある。戦闘が前提の侵入だ、ミホなら兎も角、マホはデモニカが無ければ戦力足りえない。

 

「これが西隅の現状か……」

 マホは期待していたのだ、残っているのは西隅でも指折りのベテラン。

 剣技自慢で強さを誇る高弟の集団。

 きっと、待ち受けているに違いない。全員が騙される筈はない。用心の為にも強者が護っている筈である。

 そう信じ、警戒していた。

 それなのに……

 

「全員が陽動に引っかかるのか……」

「楽ですけど、正直ガッカリです」

 恵梨香も残念そうな顔をしている。

 

「悪魔相手は論外だとしても、普通の犯罪者相手でも騙されそうなんだが?」

 通いの門弟には警察官もいるのに、警察官に教える側である、住み込みの門弟や分家衆も全員が騙されている。

「馬鹿の集まり……先輩、恥ずかし過ぎて逃げたいです……」

 恵梨香が辛うじて言葉を絞り出した。

「そうだな」

 マホも呆れていたが、気を取り直す。先ずは両親を助ける事を優先しなければ。

 

「両親は何所だろう?」

 

「こっちっすね」

 鳶夫(とびお)は斥候に適性を持ち、アガシオンも同じく偵察に適したスキル構成をしている。

 西隅の先祖が施した霊的な防御が施されていても、護るのが素人、しかも油断している自信過剰の馬鹿ばかり。

 そして間取りが予めわかっている状態なら、簡単に宗家夫婦の監禁場所を突き止められる。

 

「マホですか、待っていました。私達は如何すれば良いですか?」

 両親は土蔵で正座していた。

 心静かに、娘を信じて待っていた。待っていてくれた。

 

 ならば娘として信頼に応えよう。

 

 呪符を使うと、それぞれの幻影が隣に産まれる。

 

「これで時間は稼げるでしょう、それから……」

 気配を消す助けになる呪符も使用する。

「隠形補助の呪符です。これで30分は並の人間に気付かれる事はありません」

 本当はもっと強い呪符もあるのだが、素人では使いこなせないし、両親の感覚すら惑わすだろう。

 本人達も剣術家として鍛錬を積み、隠形も修めている。

 素直に自分達の実力を発揮した上で補助する程度が一番だと判断したのだ。

 

「ついでに身に着けて下さいっす」

 鳶夫(とびお)が両親に念珠を渡した。鳶夫(とびお)も既に装備している。

 翡翠製で霊的な防具でもあるらしい。 

 

「少しでも防御は高めないと」

 鳶夫(とびお)は微笑みつつ言う。

「俺が先導します、気配を消して着いてきて下さいね」

 

「さあ逃げましょうか」

 私は両親に笑いかける。上手く笑えていただろうか? 正直、自信は無い。

 上手な笑みも、両親を必ず助け出せる確信も……でもミホが大丈夫だと言ったのだ。

 ダメな姉だけれど、妹の言葉は信じ抜く、あの時にそう決めた。

 だから大丈夫! ミホが信じる私を信じよう。

 

 私は出来る!

 

「オカシイ……いくら何でも手薄過ぎる」

「ですね、先輩。陽動にかかったとしても、誰とも遭遇しないなんて変です」

 

「ちょっと良いかい?」

 父が自己主張するのは珍しいな、マホはそう思ったが、頷いて続きを促した。

「シホを排除した馬鹿どもだけどね、メシア教に西隅を売り渡した可能性がある」

「なんですって!?」

 流石にマホも驚いて声を上げる。

 父が言うには、メシアの教会で見た顔が何人も屋敷に入り込んでいたらしい。

「僕には力が無かったからね、偵察って程じゃないけど、良く観察はしてたんだ」

 ヤツラの矛先が此方を向くなら機先を制したくてね。無駄だったなぁ……

 そう呟く声には力が無い。

 父としては西隅の一族としての最期の一線は越えない。越えて欲しくなかったという所か……

 

 父は父なりに家族を護る為に努力をしていたのだと知った。

 目立たない、存在感がない。

 それを逆手に取って、必死に情報収集をしていたのか。

「マホ、貴女を相模原に送る様に私を説得したのはお父さんなのよ。長老共にバレない様にキノさんの情報を集めて、彼女が信頼できると薦めてくれたのはお父さんなの」

 母の言葉に頷く。

 縁の下の力持ち。父は周囲に蔑まされても、腐ることなく母を支え続けて来たのだ。

「流石に門弟全員を洗脳出来るハズは無い、時間が無かったからね。でもシホを排除しようとしたトップは……」

 単に同調しただけの可能性もある。

 西隅宗家としては洗脳されていて欲しいくらいだ。

 心ならずも油断を突かれて洗脳されたなら、不覚ではあっても裏切りではない。

 

 

「ならば、この状況は罠なのでしょうね」

 間違いない、奴らが裏に居るなら、脱出出来たと思った所で襲撃を掛けて来るだろう。

 あの穢教鳥共は悪趣味な事に人間の絶望が大好きなのだから。

 

 西隅の家からは無事に脱出出来た。

 問題は此処から……

 

「やはり出たか! 穢教鳥!!」 

 

 月明かりに照らされて、天使を名乗る悪魔が不気味に笑っていた。

*1
初手拷問は当たり前、殺して魂を尋問する可能性もあります

*2
優れた観察眼によりミホに良い人が出来たと察したようです。なお相手がキノとは気付いていない模様

*3
ガイア連合登場以前は死んでも悪魔を滅ぼせるなら安いだった模様

*4
それをカチコミと言うのでは?




思ったより、話が膨らむかも? なんとか圧縮したいんですが……
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