8/4 注釈を追加
ミホの陽動作戦
「まあ、変に凝った所で意味は無いよね」
ミホは普通に襲撃を装う事に……否、普通に襲撃だったな。
「表門に銃撃しようか?」
挑発にはなるだろう。
ドダダダダダダダ!×3
小気味よい音を立てて、G36アサルトライフル三丁が火を噴く。
フルオート射撃、景気良く30発を撃ち尽くしマガジンチェンジ。
「「「者共出会えっ! 敵襲じゃあ!!」」」
大慌てで門を開け、迎え撃とうとする剣士達。
開く前の門にミホが【アギラオストーン】をポーイ。
BOOM! ベキベキッ!
爆発音、続いて門が壊れる音。
そして爆炎の中から飛び出して来る、全身プロテクター。
「イッセイシャゲキ!」
「「「ハッ」」」
ミホは知らないが〝F.E.A.R.2 PROJECT ORIGIN〟と言うゲームに登場するレプリカ兵そっくりの外見をしていた。
手にするは56式自動歩槍、中国はノリンコ製のAKコピーによる反撃。
あれ? 思ってたのと違うのが混ざってる?
ミホが困惑する。
「「「Die, Father***ker!!」」」
全員が同じ声、同じ体格。ヘルメットで隠れてはいるが、同じ顔をしている。クローンなのだから当然だが。
こんな悪趣味な存在を利用するのは?
「ヤバっ! メシア教が入り込んでる!?」
ミホが【マハラギ】で先頭集団を倒すも、次々に現れる
クローン兵士なんて悪趣味な存在を利用するのならメシア教過激派なのだろう。
キノの影響下にある北神奈川支部と違い、八王子市に過激派が居ても不思議はない。
流石に持ち込めた装備には限度があったらしい。
アサルトライフルは弾切れの様だ。
ホルスターから安っぽいリボルバー拳銃を取り出してパンパン撃って来る。
「.22口径弾のサタデーナイトスペシャル……レーム RG-14でありますな」
強力な弾丸は使用できない亜鉛合金製で強度不足のフレーム、装填にはシリンダーを固定するピンを外さなければならない構造、精度も悪く前に飛べば良いレベルのいい加減さ。
ロナルド・レーガン暗殺未遂に使用される等、多くの犯罪で使われた安物。
人間を殺せる、玩具以下の犯罪の道具。*1
サタデーナイトスペシャルと綽名される銃。
土曜の夜、遊ぶ金欲しさのチンピラ共が犯罪で使い捨てた銃。それを使用する、これまた使い捨てのクローン。
キノが何よりも嫌う、銃と命を同時に冒涜する光景が其処に在った。
「ちっ!」
帝都を、日本を護る事を役目とし、誇りにも思っていた筈の一族なのに、売国奴にまでなり下がったのか。
ミホは有り得ると覚悟していた筈の事態に僅かながら動揺している自分に気付いた。
「知ってた筈なんだけどな……」
それでも、信じたかった。武士の末裔が、西隅の剣士が尊厳を売り渡すとは思いたくなかった。
奴らは裏切った! 裏切っちゃいけないモノを裏切り、捨て去った! ならば遠慮はいらない。
侍の矜持を持たない、鬼畜として扱おう!
「皆、覚悟は良い? 私は出来てる!」
こいつ等は人間じゃない、多分だけど西隅の剣士も……
「ミホ殿……」
アナライズしていた
「全員がクローンと改造人間です」
沈痛な表情。
何を求めたのかは理解できない。欲望を満たしたかったのかも知れないし、死にたくない一心だったのかも知れない。
だが結果は、人間を止めて道具に落ちぶれた。
同情には値しない。ただ呆れ、悲しいだけだ。
「助ける手段は無い。そんな義理も無い。だから滅ぼそう、悪魔の手先を粛々と、淡々と……ヤツラに心を痛める価値は無い」
言葉通りに割り切れるなら苦労はしない。
だが、奴らは悪魔に墜ちたのだ。
滅ぼさなくてはならない。
誰かが滅ぼし尽くさなくてはならない。
なら、それは居合わせた私達の仕事だ。
退魔に関わり、退魔で生きて来た以上、逃げる事は許されない義務だ。
【デビルスリープ】や【デビルポイズン】を使用して速やかに鎮圧する。
そして、寝ている敵には止めを刺す必要がある。
元、とは言え人間に銃弾を撃ち込む。
それはとても苦く、嫌な経験だった。
笑う自称天使
「くくっ、マリア候補がこんなにも……良い夜ですね」
天使を名乗るに相応しくない下卑た笑い。
仕方が無い、〝エンジェル〟とは名ばかりの只の悪魔だ。
本来、美しく、神々しい筈の羽も薄汚く見える。
本性が出ているのだろう、半端に白い分余計に汚く見える。
これならカラスの黒い羽根の方がよほどに美しい。
「少々年増のマリア候補ですか。貴女が一番抵抗が弱そうだ」
シホを狙って魔法を使う。【プリンパ】だ、シホを混乱させて連携を乱し、その隙に洗脳でもする気なのだろう。
無意味なのだが。
この〝エンジェル〟(レベル11)より格上*2で装備も充実した三人には無駄だし、残りの二人にはミホから渡された〝精神無効のお守り〟がある。
そして奇襲とは察知されていないから意味がある。
予想され、調子に乗って恐怖を与えようと余計なおしゃべりや無駄な行為をした悪魔がどうなるか?
答えは一発の銃弾だった。
BANG!
「ヘッドショット命中!」
コルト・ニューサービス .45口径ロングコルト弾を使用する、超人気モデル。その生産数150,000丁以上。
彼の物は最初期の1898年に作られ、大切に受け継がれてきた銃だ。
サンフランシスコ、かの地で鉄砲店を営んでいたガンスミスからお礼にと託された銃。
コレクションとして死蔵するのは違う。そう考えたキノが
しかも、撃ったのは穢教鳥の弱点を突く〝ムド弾〟である。
穢教鳥がいる事が判っている。ならば弱点を突ける弾丸を込めて置くのが当然だろう。
「ふふん、キノお嬢さんに頭を下げて教えを乞うたのは伊達では無いんすよ」
滅びる穢教鳥を横目に
それを補う為に、キノに銃を貰い、射撃を学んだ。それこそ死に物狂いで貪欲に学んだ。
彼が油断し、自分に気付いても居ない敵を撃ちそこなう事はあり得ない。
そして、製造から100年を超える銃がどうなるのか?
付喪神となる!
キノが【銃ギガプレロマ】と【物理貫通】「銃貫通】を付与した、この銃は
「とは言ってもお代わりが来ますか。まあそうっすよね!」
次々に現れる穢教鳥。
今度は〝エンジェル〟のみならず〝アークエンジェル〟まで混じっている。
「皆さん、戦いはこれからっすよ!」
乱戦が始まる。
予定外の戦い、これをどう凌ぐか? マホの力量が試されるだろう。
愛する娘に護られて
「せめて刀が有れば……」
母親として娘を護りたいのに手段が無い。否、現実を見つめなくてはいけない。
私如きが刀を持った所で、何の役にも立てないだろう。
「いえ、邪魔になるだけ……大人しく隠れているのが最大の援護でしょうね」
マホ達はデモニカなる礼装を身に纏い、右手に霊剣、左手に砲を持ち戦っている。
親である自分達はマホ達や若い青年に庇われている。
武を誇り、剣の西隅と嘯いていた我が身の無力さを噛み締める。
だが、意地を張ってはダメだ。
ただでさえ足手纏いなのに、無理に戦おうとすれば邪魔になる。
せめて障害にならない様に立ち回らなくては……
位置取りに気を付け、時に警告する。
その位しか出来ない。
武に置いて、自分が役に立たないレベルの戦いが目の前で行われている。
娘とその友人が命を賭けて、私達夫婦を助けようとしているのに、無力な自分。
隣の夫も歯噛みしている。
「悔しいねシホ。無力ってのは本当に悔しいね……」
夫の言葉に同意する。
我々は不詳の子孫だ。先祖もさぞかし落胆した事だろう。
マホや恵梨香さんの動きを見て気付いた事がある。
剣技として見るなら意味不明の修行にも理由があった。
普通の剣術なら、刀は斬れて当たり前として、如何に敵を斬るかを考えるもの。
西隅流には〝剣気を込める〟と言う技の修行がある。
目の前でマホが実践していた。
そうか、あれは普通の剣では斬れない悪魔を斬る、その為に刀に霊力を込める為のモノだったのか!*3
マホが手にするのは霊刀らしいが、一時的にでも威力が増すのだ。余力があるならやる方が良い。
マホは戦士として大きく成長していた。
私達夫婦を護りながら、ゆっくりでも確実に進む。
無理はせず、固く護る。敵は多く、隙は見せられない。
だが敵も無限ではない、そしてマホ達に意識が集中すれば……
ほら、ミホ達が敵の背後から急襲した。
姉妹での見事な連携。金床と鎚、挟み撃ちにする単純な作戦だが、阿吽の呼吸で隙を突く。
戦術だけなら兎も角、自分では霊能者としてどれだけ鍛えても、あの領域には至れないだろう。*4
自分の限界を調べた訳では無いが、何となくわかる。
自分ではデモニカを使う娘達は勿論、青年の領域にすら届かない。
「だからって逃避してはダメよね」
娘達が体を張って戦っている。自分達を護る為に命を賭けている。
無力感に苛まれても、この光景を忘れてはならない。
マホもミホも西隅流を使いこなしている。
純粋な剣士では無い、左手の砲で魔法を撃ち放つのだから。
だが、それがどうした? 片手で剣を振るえる膂力があるのだ。なら左手を剣以外に活かす事に問題があるとでも?
姉妹共に西隅流の本質を見失ってはいないと感じる。
逆にアレこそが本来の形だったのかも知れない。
今となっては誰にもわからない事。
だって霊力が前提の流派なのに霊力に目覚めた剣士は二世代に渡って現れなかったのだから。
鍛錬の形だけは残ったが、その意味を知るものは失われてしまった。
父はどれほど悔しかっただろう? おそらく父は、鍛錬の意味を知ってはいた、でも体現は出来ずに亡くなった。
父の死後、当家を仕切った暗愚がミホと言う、先祖が待望したであろう覚醒者が産まれたのに排除してしまったのだ。
本来ならミホには西隅の宝として、中興の祖となれる才能があったのに……
今となっては、どうでも良い話。
ミホに、あの優しい娘に変な重しを受け継がせずに済んだ。その事だけは喜びましょう。
ミホに苦痛を与えた事は許されてはいけない。でも〝人生万事塞翁が馬〟ミホの幸せの為には西隅の家は邪魔なのです。
ミホの為には沈みゆく船である西隅から放逐され自由になって良かったのでしょう。
やって来たミホ達の動きが証明している。
デモニカを身に纏い、覇気を纏って穢教鳥を威圧している。デモニカを装備した時のセリフは……武士の情けです、忘れてあげましょうね。
それよりもだ、あの娘があんなに生き生きと躍動している。
穢教鳥の集団を消し飛ばして合流して来た。
姉妹が並んで進軍を開始する。
ミホは右手に直剣を左手には砲を持ち、友人を指揮しながら的確に穢教鳥を葬っている。
前衛の友人達への信頼が見える。彼女らは剣士では無い様だが、戦士としては一流なのだろう。*5
戦友二人もミホを信頼しているのがわかる。
ミホに背中を任せ、素早く指示に従って優れた連携で立ち回る。その姿には躊躇も隙も無い。
デモニカを装備した姿はマホ達に似ている、感じる圧もマホ達と同等。
でもマホ達とは風格が違う。
立ち回りが違う。
ミホが自信に満ちて、僚友二人に指示を出し、二人も間髪入れずに従っている。
ミホ達は大洗ではエース格の戦力だと聞いた。実際にこの目で見れば疑いようが無い。
ミホは、私の知らない所で格段の成長を遂げたのだ。
私はミホの成長を邪魔していたのか?
否、邪魔どころでは無い。
私は敵だった。少なくともミホの味方では無かった。
私に命がけで護る価値等無いのに……
「ダメだよシホ。母親としての君の価値を決めるのは君自身じゃない。あの娘達だ」
夫の言葉は有難いのだけれど、私は母親失格なのでは無いかと思えてならない。
ミホのみならず、マホにとってすら厳しいだけの母では無かったか?
思えばあの娘達が甘えた事はあったか?
母と言うより師として接していたのでは?
今更、遅いわね。ミホが苦しんでいた当時に思い至るべきだったのだ。
後悔ばかりが募る。
そんな事を考えながらも娘達からは眼を離さない。
あの娘達の邪魔だけはしたく無い。
そんな時、キラリと光る物を見つけた。
スコープ? 狙撃! 狙いは……ミホ!!
気付いた時には飛び出していた。
「ミホ! 危ない!!」
射線を遮る。
間に合った、こんなダメな母親でも娘を殺させはしない!
「お母さん!?」
ミホの悲鳴が聞こえた。そうか……私などを母と呼んでくれたのか。
満足感を感じながら、意識が薄くなる……
「ミホは無事? ゴメンね、至らない母で……」
先に逝きます。アナタ、ごめんなさい。
か細い声で夫に謝りながら意識が途絶える。
パラパラと音を立てて切れた念珠の玉が地に零れ落ちた。
仲直りしてない!
「お母さん!?」
目の前で母が撃たれた。
嫌いだった筈だ。
マダ許したくは無かったんだ!
なのに、死ぬのか? 喧嘩したまま、私を、娘を庇って満足だと言うのか!?
喧嘩したままなのに? 仲直りしてないのに?
違う、望んで死んだ訳じゃ無い。
だってお父さんに謝ってた。
思わず私を庇った、反射的に体が動いた。
何故? 私を愛していたから!
「油断した? 穢教鳥とメシアンのクローンを囮に西隅の剣士が銃を?」
意識の外だった……ううん、無意識に剣士が銃を使うハズが無いって、思い込んでた。
馬鹿だ私は! 使える物は何でも使って勝利する。当然の事じゃ無いか! 自分が実践している事を敵がやらない筈が無いのに……
結果がコレだ。助けに来た人に庇われて、ヘマをした自分が生き残ってる。
「シホ!? 許さん!!」
父の怒りの声、敵の次弾は明後日の方向へ飛んでった。
あれは石礫か? 覚醒者のパワーで投げた石は人を殺すに十分だな。
そう思いつつも私は母を撃った敵に【至高の魔弾】を打ち込む。
オーバーキルだろうが知った事じゃない!
お母さんの敵だ、ぶち殺してやる!!
「冷静になりなさい!!」
「心配いりません。お母さん、シホさんは死んでいないのであります」
「でも心臓を撃たれて!?」
「正確には〝死んだが復活した〟が正しいのですが、生きているのでありますよ。ですな、ミホ殿のお父さん?」
「ああ、傷が治って呼吸もしてる。気絶はしているけど」
父の言葉に母を良く見る。胸が上下している、さっきあった傷も無い。
服は血まみれだから、私の見間違いではない。
母は私を庇って撃たれた。
でも生きてる!
素直に良かったと思えた。
いやはや、備えあれば憂いなしとは良く言ったものですなぁ
キノさんの過保護が功を奏しましたなぁ。
流石に大げさではと思ったのですが、バッチリ役に立ってしまいました。
我々はマダマダ未熟なのですなぁ……
狙撃を見逃すとは、しかも護衛対象に庇わせてしまうとは……教官に怒られますな。
しかし、取り返しはつきます。
あの時渡した念珠の機能が役に立ちました。
覚醒したからこそ万全に使えた機能です。
しかしですな、使用者のレベルに合わせて強度を自動調節する【サマリカーム】を込め、使用者の死亡をキーに自動で発動する念珠。発動したらお終い。一度切りの使い捨て防具、それを三組……いくら掛かったのやら?*6
未覚醒でも使えるそうですが、副作用が出る可能性もありますので、この後を考えると覚醒してくれていて助かりました。
未覚醒だったなら今頃は絶対安静なんて可能性もありましたしね。
まあ、アレです。
ミホ殿はキノさんの身内、親友で恋人。過保護でも仕方ありませんか……
アンコウチームは全員キノさん繋がりの姉妹になりましたし、わたしや
キノさんは身内にはトコトン甘いですから。
「キノさんの念珠の効果です。いやはや、備え有れば憂いなしとは良く言ったものですなぁ」
一度、安心させ冷静になって貰いましょう。そして警告もしなくては。
「しかし、一度切りの保険です。次は無いのですから油断は禁物です」
とは言え、敵も品切れらしいですな。
邪魔が入らぬうちに逃げ出しましょうか?
シホさんは旦那さんが大切に抱きかかえております。
お姫様抱っこ。はて? こういう時はお米様抱っこの方が良かった気も? 気にしないで置きましょう。別に問題無さそうですし。
しかし、それなりに背の高いシホさんを抱きかかえて、体感がブレない。
ミホ殿の御父上はかなり鍛えてますな。
この状況で足手纏いにならないのは助かります。元々戦力には数えていませんし。
さて、名誉挽回、これ以上の不覚は許されませんぞ!
メシア教過激派の検問
「ふふふ、我らメシア教の力に成れる事を喜ぶが良い」
南浅川町、国道二十号で相模原を経由して山梨県へとつながる小さな街。
メシア教過激派は此処に検問を設けて、避難民を捕らえていた。
此処から西へ向かえば北神奈川支部の担当地域、キノの本拠地相模原市緑区だ。
メシア教過激派とは言え、ガイア連合と正面から争うつもりは無い。
東京に残る彼らはの話だが。
何故かガイア連合は東京への進出は最低限に抑えている。八王子への影響力はゼロだ。
「ならば八王子で力を蓄えるのが正解でしょう。その為にも
メシア教の司祭として、人々を導くのが私の仕事ですからね。
我々が与える救いを享受すれば良いのです。
悪魔を恐れる事が無い暮らしを提供しましょう。
何、代償は自由意思が無くなるだけです。家畜が余計な事を考える必要はアリマセンのでね。
邪悪に笑う。こんな男が聖職者を名乗るのがメシア教過激派だ。
勝手に検問を設置し、問答無用で避難民を拉致しようと動き出したのだ。
女性や子供は優先して保護と称する誘拐を行う。
こいつ等の所為で渋滞が酷くなっているし、車を捨てて逃げようとしても暴行を受けて捕まる。
「女性は天使様に差し出さねばなりませんが男児は我らが好きにして良いとは……頭が柔軟な天使様で助かります」
このクズは自らの欲望を隠しもしない。
ソドムが焼かれたのは何故か? 聖書を読んでいれば、それが禁忌だと子供でもわかる話なのに……
可愛らしい男の子がまた一人捕まった。
母親と引き離され、泣きわめくのを頬を張って無理やり黙らせる。
「連れていけ!」
レプリカ兵に命令して、待機所とは名ばかりの奴隷保管所に連れて行こうとして。
一人の男の怒りを買った。
「そうはいかねぇなぁ!!」
何時の間にか青年が現れた。イカツイ青年だ。
武器も持たず、防具になりそうな物も革ジャンだけ。しかし纏う覇気には天使すら怯ませるモノがある。
「おう、敵は引き受けた、お前らは捕らえられた人達を開放しな」
勿論、助ける前に検査はしとけよ?
後方から現れた部下であろう男達に、そう指示を出してから、男は恐れる事なく近寄って来る。
「何だ! なんなんだ、お前は!!」
恐ろしい、霊圧も並以上だが、それ以上の恐怖を感じる。
銃器で武装した兵士が一個小隊、癒しの奇跡を使える自分と〝アークエンジェル〟、普通は恐れる筈だ。
慎重に対峙すべき戦力なのだ。
ガイア連合の黒札なら兎も角、一般の霊能者なら二の足を踏む脅威なのに……
「俺か? 俺は……」
プレッシャーに我慢できなかったレプリカ兵が射撃を始めるが躱される。
そして男の周囲に巻きあがる炎。
「ウルトラマンタロウだ!」
炎が収まった時に其処に居たのは、二本角のウルトラマン。TAROSUITを着た輝太郎だった。
「俺は家族を引き裂くヤカラが大嫌いなんだ!」
両手で【アギ】を撃ちまくり、レプリカ兵を打ち倒す。
「滅びなさい」
天使〝アークエンジェル〟様の攻撃魔法【アギラオ】すら効いていない!?*7
「ぬるいぜ、炎ってのはこう使うんだ!」
同じく【アギラオ】で〝アークエンジェル〟様を攻撃……馬鹿な! 額に穴が開いただと!?
耐性も無く、収束させて貫通力を上げた魔法に耐える事は出来なかったらしい。
「どうした? かかって来いよ」
ウルトラマンタロウが司祭を挑発する。
「いっ嫌だ!」
聖職者を名乗る根性無しの罰当たりは背を向けて逃げ出そうとした。
使い捨ての兵士や穢教鳥を楯に、背後で偉ぶるだけの男だ。
後方支援が任務だからと【ディア】しか使えない癖に努力もせず、色欲を貪っていた男だ。
正面切って戦う度胸は無い。
そして、振り返った背後からも絶望が迫っていた。
脱出
「ヒャッハー! 突撃でありまーす!!」
メシア教過激派の司祭を跳ね飛ばして走り去る特別製のアーマード・ハイエース。
仮にフライング・アーマード・ハイエースとでも呼ぼうか?
その数5両が渋滞する車の上を浮遊しながら走ってきた。
過激派司祭を跳ね飛ばす為に一時的に高度を落としたのだが。
天井には魔砲少女が乗って、メシアンを砲撃している。
「逃げる敵はメシアンだ! 逃げない敵は訓練されたメシアンだ! あははー、県境は地獄だぜー!」
一応、擁護すると、検問を恐れて近寄れなかった妊婦さんを優先して保護しているので、メシアンが近寄れないように威嚇しているのだけれど。
「おいおい、お嬢さん達。はしゃぎ過ぎて落ちない様に頼むぜ」
声を掛けるのは、ドライバーを務める九島組のベテラン。
レベルは10以下だが、越えて来た修羅場の数が違う。
装備も並、アイテムも僅か、大怪我をすれば簡単に死ぬ。そんな環境を己の技量と度胸で乗り越えて来た男達だ。
「キノお嬢の御陰で随分と楽になった。お嬢の頼みなら仕方ねぇよなぁ!」
二両目のドライバーも続いて声を上げた。
正直、西隅には思う所がある。
だがメシアンに比べれば、大した事は無い。
怨敵を前にしているのだ。以前嫌がらせを受けた程度の相手なんざ無視できる。
「それによ、今じゃ一緒にメシアンを殴る仲間だもんよ!」
三両目のドライバーが叫ぶ。
それに応えるかのように、マホが【マハラギ】を撃ち放つ。
「将来は若の嫁さんだぜ? 仲間に決まってんだろ!」
四両目のドライバーも楽しげだ。
上に乗る恵梨香も苦笑はしても否定はしない。彼女はマホと二人で輝太郎に嫁入りする気マンマンなので我が意を得たりと言う所だ。
「熱いの? じゃあ冷やしてあげるわ」
恵梨香はそう言うと【マハブフ】を放つ。
既に烏合の衆と化したメシア教過激派が壊滅し、車列が通り過ぎる。
ウルトラマンタロウの横を通り過ぎる際には思い思いに挨拶していく。
手を振ったり、ピースをしたり、お辞儀に投げキス、最後にミホが声を掛けた。
「後はお願いします!」
そう言って破壊した検問のゲートを通り過ぎて行く。
「おう、任せろ!」
ミホ達を追いかけて来る、穢教鳥〝プリンシパリティ〟と〝アークエンジェル〟。
輝太郎の背後から撃ち込まれた【至高の魔弾】が〝アークエンジェル〟を撃ち滅ぼす。
「やるねぇ」
背後を見ずに称賛する。
ミホは遠ざかる不安定な車の上から狙撃して見せたのだ。
「んじゃ俺もヤルかね」
上空の敵に両手を向ける。
上下に両手を重ねて、左右其々の手で魔法を発動させ撃ち放つ。
「滅びな!」
【アギラオ】と【フレイラ】を同時に発動させて合成する複合魔法。
二重に属性を持つ、この攻撃は格上にも通用する威力を誇る。
この〝プリンシパリティ〟は弱くはない。
TAROSUITを纏った、輝太郎と同格? 否、僅かにだが格上だ。
だが結果は〝プリンシパリティ〟の消滅に終わる。
「まっ、ドッチの耐性も無いんじゃこうなるわな」
変に耐えられても困るが。
これはタロウの必殺技なのだから。
「さあ、お前ら。仕事にかかるぞ」
輝太郎の戦いはこれからだ。
捉えられていた人達に温かい食事を与え、怪我人を治療して、安全に後方へ運ばなければならない。
この検問所を再利用しよう。
これからも増えるだろう八王子からの避難民を追い返すつもりは無いが、放置すれば問題が起きる可能性がある。
気付かぬ内に、悪魔に憑りつかれていたとか、デジタルデビルサマナーが悪魔を出しっぱなしだったとか。
彼らを検査したり、問題が起きぬ様、警告したりしなければならない。
別に素通りしたければしても良い。
車は通さないし、徒歩でなら。
そして、それで死んでも自己責任だと承知の上でなら。
問題を抱えた人間は処置する必要がある。
悪魔関係はガイア連合の薬やカレーで処置できるとは思うが、専門家の判断次第だ。
診察用や治療用のテントも必要だろう。
物資は十分に持って来たつもりだが、追加が必要かも知れない。
輝太郎に出来るのは安全地帯を確保する所までだ。*8
車に荷物を満載して逃げて来た避難民には悪いが、車ごと廃棄だろうな……
食料や医療品を運ぶ車の邪魔はさせられない。
手荷物一つに制限して、通常型のアーマード・ハイエースで避難させるか?
数は不安だが、やるしかない。
車を捨てさせる以上、移動手段を提供しなきゃなるまい。
「普通の車は終末後じゃゴミだしな。持って来た財産も日本円は紙切れになるだろうし……」
既にフライング・アーマード・ハイエースにはピストン輸送を頼んでいるし、暫くは寝る間も惜しんで働く事になりそうだ。
病人や怪我人を優先して後送し、戻る時には食料や医療品を運んでくる事になる。
通常型も同様だ、こちらは健常者を運ぶのだが。
「後は任せたぜ、先生方」
「承知した」
イデニキの助手。科特隊の研究員が代表して返事をする。
彼の後ろには医療用の大型車両、中には医者も待機している。
この道はキノが何度も通った道、強度の高い結界が構築されている。
終末後の使用は無理だろうが……
「ギリギリまで粘るが限界はある」
早く逃げて来い。
輝太郎は心の中で呼びかけた。
悪魔の強さは日に日に増していく。
明日か? 明後日か? その頃になるとデモニカでも手に負えない悪魔が出現し始めるだろう。
平和ボケと言われる日本人には難しいだろうが、自分の命は自分で護らなくてはいけない。
そんな時代が迫っていた。
テンプレ? はい、そうですが?
変に凝り過ぎると暴走して文章が増えるんだもの……(言い訳
山親父には特定の銃器メーカを侮辱する意図はありません
うっかりしただけです、謹んでお詫び申し上げます