オイオイ、悪あがきにも程があるだろ!?
「こちらグライ・ウイング隊、敵〝エンジェル〟が厚木市に向かっているのを目視した」
俺達の警戒態勢の只中に突っ込んで来る? いくら穢教鳥でも考え無し過ぎないか?
嫌な予感がする。偵察専用アガシオンを召喚し【ハイ・アナライズ】で観測させる。
同時に支給された、センサーユニットも起動。
「おい、ホントか!?」
結果は耳目を疑うもの。だがダブルチェックの結果だ、間違いない。
まさか放射性物質を持ち出すなんて……しかも、霊的にも汚染されたダーティ・ボム*1? 正気とは思えない。
正気じゃ無いのか、メシアンだもんな。既にICBMも撃ちこんでんだ、今更の話か。
だからって、本気でやるとは思わないだろ!!
「本部へ緊急連絡! 敵〝エンジェル〟はダーティ・ボムを所持している! 繰り返す、敵〝エンジェル〟はダーティ・ボムを所持! 対処は緊急かつ慎重を要する! オーバー」
気付けて良かった。グライ・ウイング隊が哨戒飛行をして無かったら、厚木市が死の街になっていたかも知れない。
監視を続ける事、数分、そろそろ厚木市中枢の上空だが……
あれは、ハークか? 何だ、あの武器は?
Kaboom!
大爆発。〝エンジェル〟はダーティ・ボム諸共消滅したらしい。
ハークに手を振り、感謝を表す。ハークも手を上げ答えてくれた。
あれはハークの切り札だったそうだ。まあ出し惜しみ出来る状況じゃないよな。
判断は正しいと思う、一応俺の報告書にもその旨を記入しておこう。あのハーク乗りが責められるような事は無いだろうが一応な。
それにしても、こいつは周知しておかないとマズイな。
本部には連絡したが、個人的にもスレに書き込んで置くか? 人に依っては広報よりスレの書き込みの方が早く知るなんてヤツも居るんだし。
俺も他人の事は言えないが。
書き込みは、意外に役にたったそうだ。
色んな所でダーティ・ボムと穢教鳥の撃墜報告が上がっていた。
良いんだけどね? 正式な報告よりスレの方が早いってのは流石に問題じゃ無いか? みんな真面目にヤレよ!
俺はスレより先に本部へ報告したぞ!
ダーティ・ボム? ウソだろ!
「三郎太! 壁役を頼む! 晃四郎は俺と一緒に射撃で牽制! 大悟、魔法で止めだ!」*2
英一の指揮で仲間が動く。なるほど此処一月レベル上げで特訓してただけあって動きに迷いがない。
これは負けていられないな。デモニカ使いとしては先輩なんだ、意地を見せなきゃ!
敵、穢教鳥がアッと言う間に数を減らす。さっきまでの苦戦がウソみたいだ。
「残りはこいつだけ!」
生き残るだけあって、手強い敵だ。レベル40越えの穢教鳥〝パワー〟。
今も英一の【マッスルパンチ】を【牙折り】でいなして見せた。
「ちっ、暫くフォローに回る」
英一が下がろうとする。攻撃力が落ちてるからな。
だが、こっちは五人だ。レベルに差があっても勝てる。勝って見せる!
「逃がさん」
【怪力乱神】に依る追撃!? 狙いは英一か!
とっさに【かばう】。
ギリギリと音を立てるつばぜり合い。力じゃ押し負ける!? なら!
「流石に北斗と同じとはいかないけどなぁ!」
剣を受けている右手とは別に左手にもウルトラスラッシュを生み出して、剣を持つ右腕を斬りおとしてやる。
合成は無理でも、両手で使うくらいは出来るんだよっ!
後輩に負けてられないからな!
「グワァ」
悲鳴を上げ、距離を取ろうとする
でも、右のウルトラスラッシュはマダ健在なんだぜ!?
「これでどうだっ!」
体はギリギリ躱せても、羽根には当たった。
右手を失いバランスを崩してたんだ、衝撃で転ぶ。
「ナイスサポート!」
すかさず英一が叫び、友人達全員がジャンプしていた。
空中で勢いを付けてから*3、起き上がった
続いて三郎太が【雷龍撃】で、晃四郎が【風龍撃】、大悟が【氷龍撃】で同じくキック。
「「「「ライダーキック!」」」」
威力は凄いが、アレ敵に余程の隙が無いと当てられないよな?
「まあな、でもカッコいいだろ?」
わかる! いや待て。
「言いたい事はわかるよ。今回は威力優先だっただけだ」
なんでも、練度不足で、ある程度の距離と勢いがないと使えないらしい。
「何にせよ、無事に終わったのか?」
三郎太が周囲を見渡し警戒している。
「どうやら終わりみたいだぜ?」
そう言いつつ晃四郎も残心を解かない。
「油断は禁物」
大悟も同様に警戒を続ける。ネット上での情報収集もしている様だ、相変わらず器用だな。
「とうとうレベル40以上が出て来たんだ、油断なんて出来るもんか」
俺としても警戒を緩める気には成らない。
経験上、こういう時にはもう一波乱あるんだ。
「あそこに生き残りだ」
三郎太が指さす場所には死に体の生き残りメシアン。
「くくっ、パワー様が破れた以上は我々の負けだな……」
メシア教の過激派だよな? 右腕が折れてるし、武器もない。脅威には成らないはずなのに嫌な予感が消えない。
「だから、全員に消えて貰おう!」
メシア版のCOMP? 召喚したのは〝アークエンジェル〟、今更? 待て、
「報告があった、死なば諸共でメシアン共がダーティ・ボムを持ち出したらしい!」
大悟の警告。
「浄化してやる! 異教徒は死ねぇ!!」
目が逝ってる。狂信者がっ!
「マズイ、爆弾の中身は核物質だ! しかも霊的に汚染されてる!」
大悟が慌てる。何時も冷静なこいつが焦りを現す? マジでやべぇ!
どうする? どうすれば良い? この場で飛行できるのは俺だけ……アレを遠くまで運べば、俺が体で抑え込めば飛散する量を減らせるか? 無駄かも知れない……
でも、僅かにでもこいつ等が助かる可能性が上がるなら!
「ダメだよ、進次郎君」
それはマスクの無い〝プロトスーツ〟を着た、井出さんだった。
私は命を二つ持って来た。あくまで比喩だが
「さて、もうちょっと無理をするよ」
俺の周囲がモノクロに変わる。
「進次郎君に分かり易く説明するなら、我々の周りだけ時間の進み方が遅くなっているのさ。私の、正確には私と矢生君共同での権能だね」
権能? 高レベルの黒札が使うって聞いたけど……
急に現れたのも権能を使ったからだとか? 少し離れた所にグライ・ウイングが着地している。アレで二人揃って傍まで来て、権能を使ったのか……
「実は私と矢生君も黒札なんだ。研究仲間には内緒にしてくれたまえよ?」
ウインク。
「最も私のレベルは40を超えたばかりだし、権能も限定的だ。私と矢生君が同意した上で、私達が製作した品とその使用者にしか力が及ばないのさ」
井出さんと矢生先生は魂の双子、本質は知恵と科学で、時間は月関係のオマケなんだとか? 正直良くわからない。*4
「細かい事は気にする必要は無いよ。大切なのは私が命を二つ持って来たということさ。比喩だがね」
どういう意味なんだ?
「つまり、こういう事さ!」
井出さんが二つの宝玉を掲げるとそれは浮き上がり、俺と井出さんを照らし出す。
「スーツが……」
傷つきボロボロだったスーツが直って行く!?*5
井出さんの〝プロトスーツ〟も俺のスーツを思わせる形に変わった。*6
そうか! デモニカ二体を進化再生させるって意味で、命が二つか!
でも俺のスーツとは少しだけ違う? カラータイマーとも呼ばれるメインコアの他にサテライトコアと言う補助装置を積んでいるのが大きな違いだ。
「私の〝ZOFFYSUIT〟は厳密に言えばデモニカじゃない。〝プロトスーツ〟をベースにしているがコアが変更されている」
「えっ……」
「〝ZOFFYSUIT〟は私に与えられたシキガミなんだ。デモニカ型シキガミって所かな? こうでもしないと私じゃ戦闘に耐えらないしね」*7
「なんでそこまでして戦場に!?」
黒札のシキガミならどんな美人でも選り取り見取り、俺も友人達と馬鹿話のネタにしてた。
もしシキガミを貰えたならってさ、男だけの性癖暴露大会と化したけど。
井出さんだって男だ、エロ本だって読むし、霊能者専用の風俗にも行くって聞いた。*8
「そんなの決まっているだろう? 進次郎君、君を助ける為だよ」
当たり前の事を聞かれたとばかりに、あっさりと答えられる。
「君は親友の忘れ形見なんだよ? 君のお母さんとも友人だった」
そんな私が君を見捨てるハズが無いだろう?
井出さんが柔らかく笑うのが見えた気がする。マスクで隠れているのに……
「私はそんな薄情者ではないよ。言動は少々エキセントリックかも知れないがね」
少々と言う部分には異論があるかな。
「さて、そろそろ終わりだね。君のULTRAMANSUITはタイプBⅡへ進化した」
タイプBⅡ? Cじゃ無くて?
「ソコは私の個人的な拘りさ、気にしないで欲しい。外見は変わってないからって所かな」
思わず苦笑する。井出さんの謎の拘りかよ。
「そうだ、進化って?」
「大幅に強化された訳じゃないんだ。デモニカの限界は越えられないからね。でも……」
「でも?」
「今回の事態では大いに役立つ。君の必殺技が二重属性になったんだ」
二重属性……俺のザンは衝撃系。衝撃系であり、他の属性でもあるって事だよな?
「もう一つの属性って?」
「万能属性【メギド】だよ、進次郎君」
万能属性……反射が出来ない代わりに弱点が突けない、なんで役に立つんだ?
「不思議そうだね? だが時間切れだ、実地で試すと良い。私も手伝うから」
世界が色づく。
「おい、進次郎ヤバイぞ! ってスーツが直ってる!?」
焦った英一の声。
「もう一人のウルトラマン? 誰だ!?」
三郎太も焦っているな。
「あの、味方ですよね?」
「勿論だとも」
「井出さん!?」
晃四郎は焦りのあまり井出さんとコントじみた遣り取りをしていた。
「慌てるな、進次郎にバフを掛けるんだ、様子を見るに手があるようだぞ」
冷静な大悟の声。
ダメで元々だ、やってやる!
リミッターカット、カラータイマーがピコピコ鳴り出す。装甲が赤く染まり力が漲る。
友人二人が【タルカジャ】と【スクカジャ】を俺に掛けてくれた。
「いっけぇ!」
両腕をクロスさせて、魔法を放つ。何時もと違う? 衝撃の中にエネルギー波?
「消えてしまえ!」
隣で井出さんも魔法を放つ。
二つの光が合わさって……爆発!
Dokkan!
「放射線反応は無いよな?」
恐る恐るって感じで三郎太が声を上げた。
あれはダーティ・ボムの爆発じゃない……あれは俺達の魔法の爆発だった。
俺の魔法とは思えない威力。
「アレは……」
「【ザンバリオン】にプラスして、一時的にだが【メギドラオン】に届いたよ……」
井出さん!? 片膝をついて、息を切らせている。
「大丈夫ですか!?」
「ははっ、チョット無理をし過ぎたね。後悔は無いが」
今にも倒れそうだ。
そうだ、権能って負担がかかるんだった!? 更に全力での魔法、疲れて当然じゃないか!
「そんな顔はしないで欲しいね。大丈夫、疲れただけさ……少し休養が必要かな?」
それでも気丈に立ち上がり、優しく俺を労わる。
「ともかく、純粋なエネルギー攻撃で核物質は消滅。この場の危機は去った訳だ」
そしてメシアンに言い放つ。
「無駄な足掻きに終わったね? 君達が残せたものなぞ、何も無い」
冷たい声。
俺や友人達に向ける優しい声とは違う、無価値なモノに向ける声色だった。
私達が奪わせる訳ないでしょー?
「聞いたぁ? メシアン共がダーティ・ボムを持ち出したって」
私は軒野
お返しって訳じゃ無いけど、お義姉ちゃんには初めてを上げちゃったんだぁ♪
「ええ、此処にも来るでしょうか?」
この娘は軒野
始めての記念にお義姉ちゃんから貰った指輪。身を護るスキルが二つとテレパシー能力。お義姉ちゃんや竿姉妹達とテレパシーでお話しできる。
これがとっても便利。以前より連携がスムーズだ、以心伝心で動けるからね。
アニメで見た〝ニュータイプ〟ってこんな感じなのかも……
私達は中央区の護りとして、狙撃の為に潜伏中だ。
私達二人はキノお義姉ちゃんに助けられ、高校にも大学にも行かせて貰った。
残念ながら大学は終末の所為で卒業できそうもない。
お義姉ちゃんは『探求ネキの学園で学ぶ事も考えたら?』って、言ってくれた。
チョット悩んでいる。
学び続けたい気持ち、お義姉ちゃんの手助けをしたい気持ち、両方とも同じくらいなんだよねぇ。
「来るんじゃないかなぁ? だってアイツラ潔さとは無縁じゃなぁい?」
記憶には無いが、かつて暮らしていただろうアメリカ的な価値観なら素直に勝者を讃える〝good loser〟良き敗者であれって文化があった。
例えばスポーツなら、負けたら勝者を祝福するし、勝ったら敗者の健闘を称える。まあ、アメリカ人同士なら行われていた美風だね。
人種差別とかが絡むと、働かない理想だけどさ。どんな戦いでも負けるのが大嫌いなのがアメリカ人だしねー。
今回は人種差別に他宗教排斥、それから無謀な野心と
だって、北神奈川支部の都市を幾つか死の街に変えたとして、ヤツラの目的に寄与するだろうか?
「人が死に、住めない土地を増やして穢教鳥の言う〝天の国〟への助けになるんでしょうか?」
勿論、敵対する人間は死ぬ。でも巻き込まれて死ぬ、一般市民の方が比べ物にならない位に多い。
土地も資源も人材も、風向きにもよるけど、ダムの水や森だって死ぬだろう。
手に入るモノはゼロ、リソースを注ぎ込んだ分、損をする。
だから無駄。
私なら、次のチャンスに備えて潜伏するかなぁ?
力を蓄えたまま、テロでもした方が北神奈川支部の力を削げるし。
そういう計算もしないし出来ないのが穢教鳥だと言われれば、その通りとしか言えないけどね。
そんな訳で待機。
僅か数分でソイツ等は来た。
「我慢を知りませんね」
こんなのが人間より偉いんだぞ! って、人を支配し家畜にするのがメシア教だ。
正気の人間なら信仰しないと思いたいんだけどな……
騙される人間も多い。ううん、溺れる者は藁にもすがるってヤツなのかも?
一応、工夫もしているつもり何だろうね?
〝エンジェル〟の群れの中に〝アークエンジェル〟、どいつも爆弾らしきものを抱えているけど、多分大半はダミー。
違ったら? 纏めて潰せば問題ないよー。
そもそも、私達がいて、穢教鳥なんかに奪わせる訳が無いでしょー?
「まあ、良いや。どうせ
「ですね」
〝強化型ライサンダーZ〟を構える。
探求ネキ様が設計した狙撃銃。〝豊和M1500〟をベースにしたこの銃は、とっても素直で使い易いんだけど、能力値が高めで銃を使い慣れた私達には物足りなかった。
だから口径を大きくして貰ったんだー。
量産型が一般的な7.62㎜弾仕様なのに対して、この子は.338WinMag弾*9仕様。
しかも今回は強装弾*10にしてあるし、更に強力な魔法を付与してある。
私が【マハラギバリオン】弾で、
「すーはー、すーはー」
何度か深呼吸。呼吸を整えたら息を止め、以心伝心で狙撃。命中。
Booooom!!
爆発音。そしてゴーって音が続く。
〝メドローア〟それが今回使った魔法の名前。
正確には二つの魔法弾の効力を反応させた結果なんだけどねー。
敵集団とダーティ・ボムを空気ごと消滅させたから、真空状態の場所に空気が流れ込む時に音を立てたんだね。
「チョット危険すぎますね」
それはそう。
「まあ、弾薬もお高いし、切り札としても過剰かなぁ?」
そもそも、油断してない敵には正確に当てられないと思うしねー。
「普通に実力を付けましょう。先ずは限界まで鍛えないと」
「だよねー」
うん、私達って準黒札って呼ばれる程度には強いからねぇ。
「じゃあ残敵の掃討を手伝おーかぁ?」
敵は組織だった抵抗は出来ていない。サクッと片付けてしまおう。
そのつもりだったのに雑魚がビビって逃げ散らかした所為で時間がかかった。
終わった時には日付が変わっているんだもん。
「ねえ、
「暫くは無理そうですね……」
だよねぇー……
頑張ったんだし、早く終わらせてお義姉ちゃんに褒めてもらいたいね。
その時は二人で一緒しよーか?
現実逃避でピンクい妄想するくらいは良いじゃない~!
新加入派出所は大忙し
「おい、避難民の受け入れ準備はどうなってる?」
「家族単位で受け入れてるが、予約者以上に増加中だ」
やっぱりか。元々川崎市は東京都のベットタウンでもあるしな。
「同僚の家族とかを連れて避難してくる人間も多いのか、仕方が無いとは思うがな」
人情を捨てたら終わり……それも正しい。
だが物理的な限界は有る。
「予約者優先は変えない」
当然だ、サービスの為に代価を払っていた人間と急遽押しかけた人間を同列に扱えるものか。
予約者は権利を購入している。彼らの資金があったから物資の備蓄を増やせた。
押しかけた避難民が居なければ足りるハズだったんだ。
それをなんだ? 同じ人間だ? 差別するな? ふざけるなよ!
ガイア連合は公共サービスを行っている訳じゃない。
営利団体のサービスなんだ。
勿論、人道上の処置として受け入れはするが、過剰なサービスはしないし、させない。
文句があるなら出ていけ!
嫌なら他のシェルターや国の避難所へ行けば良いんだ。
それで助かるとは限らないがな。
「物資は足りるのか? 幸い水道が生きてるから今の所は飲料水の問題はないと思うが」
勿論、ペットボトルやポリタンクでの備蓄もしているけどな。
「食料はギリギリだな、これからも避難民は増加するだろうし、北神奈川支部の司令部に援助をお願いした。幸い早急に送ってくれると返事があったよ」
司令部も何で相模原市、しかも緑区なんだろうな? いや、わかってる、只の愚痴だ。
キノ支部長が北神奈川支部を立ち上げたのは山梨県を護る為だ。
緑区以外の相模原市も、其の他の都市も、横浜市や此の川崎市も全てオマケに過ぎない。
助けを求められたから、出来る範囲で手を広げただけ……
十分な力を蓄えるまでは、横浜市も川崎市も後回しだったくらいだ。
「見捨てられなかっただけマシなんだろうしな」
人間は慣れるものだ。だから俺達は自制しなきゃならん。
これは当たり前じゃない。
キノ支部長の慈悲で救われただけだ。
それは避難民にも言える。
増長させてはダメだ。
助けて貰えて当たり前と思わせてはいけない。
バランスが難しいな。
サービスに対価を払っていた顧客と飛び込みの避難民。待遇に差があって当然だと理解させなくてはならない。
不満なら出て行って貰うし、残るなら共同体の一員として働いて貰う、これは絶対だ!
俺達は万能のヒーローじゃないし、市民を助ける義務もない。
自分達が救われて当然なんて甘えた考えは許さない。
川崎市派出所の所長には政治力が重要……キノ支部長は何処まで見通していたんだ?*11
「全く、偉くなんてなるもんじゃないな……とんだ貧乏クジだ」
思わず愚痴がこぼれる。人間を選別して生き死にを決める立場か……胃が痛いな。
「だから避難民にはわからせるしかない。自分達は慈悲に縋る立場なんだと、じゃないと切り捨てる人間が増える」
補佐してくれる同僚がありがたい。
「水と飯、コイツに目途が付いたのは救いだな。後は衣服や生活必需品、医療品もか」
生活用品の輸送も初めてはいるが、何処にどれだけ必要なのかの目途が立たない。物資は限られているんだ、無駄に配置する訳にはいかない。
必要な物を必要な場所に必要なだけ送れば良い? 避難民には簡単に言うヤツが居るがな、それには正確なデータが不可欠なんだよ! 今が非常時だって実感がないのか? 無いんだろうな……
「どうする? 警備の人間に銃でも持たせて威嚇するか? ダメか、安易に切って良い札じゃないな」
副所長にした同僚が自問自答する。
そうだな、暴動のきっかけになりかねない。
だが、このまま増長させるとマズイんだ、なにか手は無いか? なにか一手、避難民がビビって非常事態なんだと心底実感できる、穏便な手段が欲しい……
「所長! 司令部から追加の物資です! だけど……」
「朗報じゃないか。なにか困るような事があるのか?」
「空に巨大なクジラが三体も浮いてるんです! 通信によると北神奈川支部所属の武装空輸船〝ホエールキング〟だそうですが……」
慌てて外に出て、空を見上げる。そこには雲と見まがうサイズの巨大なクジラ。一体は白く、残りは青い。
避難民が驚愕している。
そうだろうな、俺でも引っくり返るかと思ったんだ、何も知らない避難民の驚愕はどれ程だ?
だが好都合だ。自分達の常識に無い異常な存在を直接見聞きしたんだ。
『やあ、川崎市派出所の所長さんだね? 私はココ・ヘクマティアル。この輸送船団の代表だ。早速だが物資を降ろしたい、何処に降ろせば良いかな?』
態と外部スピーカで連絡して来たな? 避難民が集まり出してる。そして呆然とする。人間、あまりにも驚きすぎると思考が働かなくなるものらしい。
だが丁度良い、避難民にも非常事態だと良くわかっただろう。
「非常事態です、手の空いている方は手伝って下さい。少しでも早く避難できる体制を整えないとなりません!」
慌てて動き出し、率先して支援物資の積み下ろしを手伝い始めた人間は使える。
逆にサボるヤツは切り捨て候補だ。
此処は民間企業の施設なんだ。ルールに従えないなら追い出される。
そのことは周知させよう。我々にはお荷物を養う余裕などないのだから……
ゾフィスーツの登場と活躍シーン以外はサボりたかった……
友人四人衆&藍翠「サボるな、書け!」
作者「はい……」
脳内でこんな感じのやり取りが……