ツーリングクラブ? もうちょっと時間が掛かりそうです……
あれから8年
「てーと君、僕等で先行するよ」
僕はハンドルを握る幼馴染に声を掛ける。
ガイア連合製の、この車は戦闘用では無いけど、足回りが強化されててタフだ。十分戦闘にも耐える。
10台のトラック達が整然と進む。
それぞれに戦える人間は乗ってるけど、敵襲が有った場合、最初に動けるのは僕等だ。
一応、戦闘用に多脚戦車が3両とデモニカの継ぎ接ぎノーブが2体あるけど、一番身軽で機動力が高いのは僕等だからね。
もっとも、次期商隊長と次期副商隊長が揃って、最前線で戦うのも問題と言えば問題なんだけど……
でも戦車とデモニカは無料では直らないのだ。装甲一つ張り替えるだけで、結構な修理費がね?
「皐月、キャンプ地点には問題無しだ。周辺の警戒に移る」
デジタルデビルサマナーで妖獣バグスと契約している、てーと君のレベルが30。こないだ死線を超えて限界レベルを上げやがったのだ。ちなみに僕がレベル33。
超人の位まで鍛え上げた僕等に追随できる戦力がいなくても仕方ない。
皆、頑張ってるんだけど、次がベテランのてーと君のお父さんでレベル17、戦闘出来る人員はレベル10~15が10人程度。
破格の戦力だと思うけど、これでも危険なのが旅である。
非戦闘員も多いしね。
商売をするなら会計や商品管理が出来る人材は必要不可欠。長距離移動をするなら、商隊のメンバーの健康管理をする人間だって必要だ。大体兼任してるんだけど、戦いしか出来ない僕は商売では足手まといかも?
その分、戦闘では頑張るし張り切るんだけど、お父さんが健在だった頃からの人員はハラハラしてるみたい。
でもねぇ? 一番戦闘力が高くて、他の役割は上手くやれない僕が貢献するなら、戦闘方向に進むのは仕方ないと思わない? おとなしくヒーラーしてろ? (∩゚д゚)アーアーキコエナーイ。
「OK、僕にも危険は感じ取れない。周辺警戒に移行しよう」
M1ガーランドを手に、何時でも狙撃できるようにする。僕ってば、銃が無いと役立たずに成り下がるからね。
残弾数を考えるとポンポン撃ちまくる訳にもいかないんだ。
幸い、僕のM1ガーランドには、銃弾を生成するスキルがある。その分、弾薬費が節約できるのは助かる。予備弾は用意しているけどね。
「そろそろ相模原だ、ここまで来れば悪魔も湧かないとは思うが……」
「うん、油断は禁物だ。悪魔が出なくても、人間に襲われる可能性もゼロじゃないしね」
この辺は治安が良いけど、食うに困った暴徒は何処にでも湧く。
極稀にシェルターでヤラカシテ逃げ出した犯罪者なんてのと鉢合わせる事もある。
そんな時、こっちが警戒してる、殺されても不思議じゃないって敵に思わせれば、危険が減る。悪魔相手だと無意味だけど、人間が相手なら戦闘機会を減らせる……かも知れない。
僕が銃を見せびらかす様に移動する理由だ。
「周辺にも異常は無さそうだな?」
「だね、流石は相模原だ。道路も含めて治安は万全だよ」
これなら予定通り明日には相模原に入れる。
「ねえ、てーと君。余裕が出来たら、何時もの所に寄りたい」
相模原銃器博物館。僕の運命が好転した場所。二度と会えない師匠との思い出の場所。
旅から旅への暮らしを続ける僕等の原点。
伝わらないとしても、原状報告をする場所。僕の始まりの場所だ。
「良いぞ、配達を済ませてからな」
頼まれていた塩や海産物を卸さなきゃね。生は無理でも干物は人気だ。
ターミナルを使えばお刺身だって食べられるんだろうけど、一般庶民には無理がある。干物を食べられる層だって、お金持ちの部類。海産物は贅沢品だ。
冷凍庫付きや時間停止倉庫付きのトラックも売ってはいるけど、僕等中堅キャラバンだと手が出ない。
護りきれる自信も無いし、無理は禁物だ。
「わかった、ここでの仕入れは小父さんに任せて良いよね?」
「頼り切りもマズイんだが……」
うん、わかってはいるんだ。でもコノ街でだけは、我儘を言わせて欲しい。
銃器博物館
「前回からは大体半年ぶりかな?」*1
僕のキャラバンは関東近郊を旅する。北は福島、西は静岡まで、細かくシェルターを巡りながら物資を仕入れ、売る。
主に大規模支部で物資を買い付け、周辺のシェルターに売る事を繰り返してる。
零細シェルターでも思わぬ商品が買えたりするし、小回りが利く僕等ならではの商売かも知れない。
大手が手を付けない隙間産業で生きるのが僕等だ。
何時もの旅、変わらぬ商売を思い起こしながら、ゆっくりと進む。
「展示品が増えたのかな?」
前には無かった銃が展示されてる? 気のせいかな?
「イヤ、絶対増えてる!」
リボルバーのコーナー〝コルトM1851〟の横に日本製のコピーが展示してある。水戸藩で作られた奴だ。
以前はこんなの無かった。
てーと君と連れ立って歩く内に、目的の場所に着いた。
「師匠、久しぶり……」
何も無い壁に向かって小声で呟いているって、まるで不審者だな。
思わず苦笑いが出る。
それなりにレベルは上がったけど、マダマダ未熟に思える。
あの日、見せてくれた師匠の銃撃と比べるとね……
「僕も超人の端くれに至りました。貴女は褒めてくれますか? それとも叱咤してくれるのかな?」
どっちもありそうだ。
現実では数分の師弟関係。僕にとっては数年に及ぶ、あの修行の日々。
あの経験が無ければ、僕は夢を諦め怠惰に日々を過ごしていた気がする。
師匠との出会いが無ければ、僕は遠からず心折れていただろうから……
感慨深い。思わず思い出に浸る……だから反応が遅れた。言い訳だ、師匠に怒られるかな?
「にょわっ!? なにこれトラップー??」
僕はてーと君と一緒に、足元に出来た穴に落ちた。
ご招待(強制)
「やあ、初めましてで良いのかな? 君が影の弟子だね?」
師匠……じゃ無いな。存在感が段違いだ、この人が本体なのか?
「さて? 強めの分身かも知れないよ?」
軽く笑いながらの言葉……でも、ウソだな! 師匠に聞いてる、銃仙キノにはそんな器用な事は出来ない!!
「はい、正解」
苦笑しながら答えてくれた。やっぱり、この人が本体、銃仙キノ。
「師匠は?」
まさかとは思うけど、消したりはしてないよね?
「無事だよ? 今の所はね……」
にんまりと笑ってる。今の所は? なんか含みのある言い方だ……
「チョット油断してたね? 強制的に招待したボクの言葉じゃ無いけどさ」
目的は何だろう?
「大した事じゃないよ。弟子……影の弟子だから孫弟子で良いか。孫弟子の実力を見て置こうと思ってさ」
腰のリボルバーに手を掛ける。
「仕事の成果は確認しないとね」
師匠の成果? 僕の事か!
「そうだね、君の実力次第で影の待遇が変わる」
待遇が変わる? もし僕が不出来だと判断されたら師匠はどうなるんだ?
もしかして? 否、不吉な想像は止めよう。僕の実力を認めされば良いんだ。そうだ、絶対に認めさせる!
「ハンデはあげよう。ボクは右手しか使わない」
アレが銃仙キノの最初期からの付喪神〝カノン〟か! 恐ろしい程の強大な気配。気後れしそうだ。
「先手も譲って上げよう。纏めて、かかっておいで♪」
僕、舐められてる? 良し、一撃喰らわせよう! 殺す気で行く! 無理だろうけど……
「てーと君、前衛お願い!」
M1ガーランド、僕等の力を見せつけるよ!
「良く分からんが、皐月を護れば良いんだな? 任せろ!」
模擬戦
「強い」
初めから、わかっていた事だけれど。
僕等も超人の端くれではある。普通に旅する分には僕等以上の存在に遭遇する事は少ない。
シェルター間を旅するキャラバンって基本的には街道を通るんだしね。
それでも、稀に高位の悪魔と戦う事もあった。最大でもレベル50程度だけどさ。
特産品を作ってるシェルターが悪魔に襲われて救助をね? 商品保護の為だし、報酬も貰った。
それなりに修羅場は潜ったつもりだったけど……
「うわっ」
僕の前でシールドを構えていた、てーと君が吹っ飛ばされる。今の弾丸【ザン】を纏ってた?
「応用だよ、衝撃波で切断するばかりが【ザン】じゃないさ。敵を押し出し、体勢を崩す事だって出来る」
なるほど……
てーと君が体勢を立て直す時間を射撃で稼ぐ。連射しても捕らえられないかぁ……
「まっ、そうだよね!」
僕の師匠より経験を積んだ本体のキノ様だもん。僕程度が正攻法で当てれる筈も無い。
てーと君とのコンビプレイが必要だ。
「スイッチ」
僕の掛け声と共に、攻守を切り替える。僕が後ろ、てーと君が前に出る。
てーと君の影で小細工開始。
「カウント3!」
てーと君の突進、剣を捨てて身軽になってのシールドバッシュ。やっぱり普通に躱される。
その間にM1ガーランドを手放して置く。
「2!」
即座にクイックドロウ。ピースメーカーを打ち放つも、撃った弾丸が撃墜される!? このビックリ人間め! でも弾丸が纏っていた【ガル】*2が解き放たれ、突風がキノ様の行動を鈍らせる。早速マネさせて貰ったよ!
「1!」
このチャンスを生かさなきゃ勝ち目は無い。ピースメーカーを放り投げ、【縮地】を使う。
キノ様に向かって【浮遊】で加速を始めていたM1ガーランドに追いつき、グリップを握って銃剣突撃!
余裕の笑み? カノンが火を噴いて?
「ガンパリィ」
銃弾でパリィすんな! 銃剣に当てられてM1ガーランドの向きを無理やり変えられた!!
「0!」
でも、マダだ! 勢いよく回転するM1ガーランド、ならそのまま向きを変えて勢いを殺さずに……銃床で殴る!!
「ダメか……」
命中と同時にスウェーして威力を殺された。有効打とは言えないし、攻撃も途絶えた。
僕の攻撃はね?
bang!
「ナイスパス」
ピースメーカーを受け取った、てーと君の射撃。タイミングはバッチリだったけど【縮地】で躱される。やっぱダメかぁ……
「うん、合格♪」
はい?
「ボクに足を使わせたからね。【縮地】を使ったんだ、右手しか使ってないって言い張る気は無いよ」
キノ様の苦笑。
『どうだい? ボクの弟子は凄いだろう!』
師匠! 何時の間に?
『がんばったね、皐月。見違えたよ』
ああ、ホンモノの師匠だ……僕は涙ぐんだ。
ザ・早とちり
『なんで泣いてんの?』
心底不思議そうな師匠。
「だって僕が不出来だと師匠が……」
待遇が変わるって、最悪消されるかもって……
『ちょっと本体?』
「そんな事は言ってないよ♪」
あれ?
「影へのご褒美を如何するかを皐月ちゃんの腕前で決めようとしたけどね♪」
待遇が変わるって、現状維持かご褒美をあげるかの二択だった? 勘違いで早とちり??
「そもそも皐月ちゃんも知ってる通り、ボクには分身なんて造れない。影を消したら此処の管理は如何するのさ?」
そう言えば……
「師匠の探求ネキに手伝って貰って、やっと造ったんだよ? あの手間を繰り返す? ナイナイ」
キノ様が思いっきり苦笑している。
どうもキノ様の師匠を巻き込んで、素材とお金を注ぎ込んで造り出したのが僕の師匠らしい。
二度はヤリタクナイそうだ。
師匠が消される心配は無いって事?
「皐月ぃ……」
てーと君、呆れた目で見ないでぇ……
『皐月の早とちりは分かったけど、本体も誤解をさせたよね?』
「本気で来てくれるなら丁度良いからね」
キノ様ズが笑いながら喋っている。
最初のトラップで床に穴開けてくれませんか? 僕ソコに入るので!
「まあ皐月ちゃんは暫く放置しよっか? 先ずは影、君の事だ」
『何だい?』
「何時までも影って呼ばれるのも嫌だろう? 君個人を慕う弟子も出来たんだし」
『まあ、そうだね。一期一会のつもりだったけど、また皐月に会えたんだ。次の機会があるかもだし……』
「だから君に名前をあげよう。これからはオンブラを名乗ると良い」
オンブラ? どーゆー意味?
『フランス語で影か……了解、今後はオンブラって名乗るとするよ』
単純な命名だった……
「今後は博物館内では自由にして良いよ」
つまり、ここに来れば何時でも師匠に会えるのかな?
『良いの?』
「君の判断に任せる」
『了解、基本は今まで通り。知り合いが来たら面会させてもらう事にするよ』
普段から外に居ると頼られ過ぎる危険もあるからかな?
『そうだね』
「折角自立したんだ、ボク等に頼り切るのはダメだよ」
それはそう。自分の足で立てない人間は淘汰されるんだ。終末以前は違ったらしいけど、今の世界は自主自立が出来ない人間が生き残れる程、甘くない。
それはそれとして
『ボクの事は良いんだ。問題は皐月、君だ!』
うん、僕? 何か問題あった?
『アリアリだよ。何時まで
ふぇっ!?
『知ってるんだよ? 前回来た時にプロポーズされてたじゃん。なんで答えてないのさ? 次に来たら結婚の報告くれるかな? オメデタの報告かもって楽しみにしてたのに……』
しみじみと呆れたように言葉を続ける。
『まさか進展無しだなんて……
うぇ!? 恐々とてーと君を見る。苦笑してる? 僕なんかの為に無理してくれるのは嬉しいんだけど、そんな事しなくてもって言うか……そのね?
「良い機会だ。改めて言うぞ? 俺と結婚してくれ」
僕の足元に跪いて、手には指輪……
「えっ!? え~~!?」
パニック!
『漢気を見せたね~。ほら答えは?』
いやいや師匠!?
「皐月ちゃんも奥手だねぇ~? 他人の事は言えないけどさ」
キノ様?
『ほらほら、早く答える!』
えーと……
「ダメなのか?」
ダメだなんて……ええい、ままよ。
「……よろしくお願い致します」
僕なんで、こんな羞恥プレイをさせられてるんだ?
追記
キャラバンに戻ったら、皆に冷やかされた。
宴会とか止めてよー! お母さんもお義母さんも涙ぐまないでぇ!?
ヤキモキさせたんだから、甘んじて祝われろ? だからって酒盛りは止めてよー! てーと君酔い潰さないでぇ~!!
疲れた……もう、一生分叫んだ気がする。
結局、宴会の度に弄られる鉄板ネタにされてしまった。チキショーメー!!
経過時間&てーと君のレベルはダイスで決めましたw