この文言は忘れちゃダメだねw
始まりは荒野のシーン
その映像は、荒野から始まった。
無骨な三本足の機械。単純な箱型のボディの左右には機関銃を装備し対空射撃を行っている。
場面は変わる。田畑で建築現場で、装備を変更した同じ機械が、懸命に作業をしていた。
〝モビルワーカー〟
終末後の生活を護る、縁の下の力持ち。
今でこそ、見慣れた機械だが、開発当初には否定的な意見も多かった。
「現状のトラクターや重機に不満なんて存在しない」
終末を信じ切れない人間は当然そう思った。
〝井出 光弘〟の写真が写る。
「終末が来て、これらの機械が動かなくなってからでは遅い。そして時間も資材も足りていない」
ガイア連合北神奈川支部のキノ支部長に見出された技術者。
銃仙キノの初期からのブレーンを務めていた彼は終末後の事を考えていた。
「現在の車は少数の例外を除いて全滅するだろう。代替手段が必要だ」
だが時間が足りない、用意出来る数は少ないだろう、ならば可能な限り多目的に使えなくてはならない。
トラクターにも重機にも、イザと言う時には戦闘にすら使える万能重機。
荒野を疾走するモビルワーカーが写し出される。
『これは現在でも愛される生活の守護者を開発した人々の物語である』
オープニング主題歌が流れた。
〝終末への恐怖〟〝一派出所主導の計画〟〝限られた時間〟〝僅か数人での開発〟〝中小企業主体に成らざるを得ない状況〟〝一個人に頼り切りの予算〟
キーワードが画面上に次々と映し出され、最後に番組名〝プ□ジェクト×〟が浮かび上がった。
これが終末後、各地のシェルターのインフラと安全を支えた名機です
モビルワーカーがスタジオに入って来た。
『実物は意外と小さいんですね?』
写真で見ると、迫力もあり大きく感じるが、実物は小さ目だ。
戦闘車両としてなら小型軽量と言える。
その分、戦闘力も低いのだが。
女性アナウンサーが感心したような声を上げると、モビルワーカーを運転していた男性司会者がエンジンを止めて下りてきた。
ハッチを開け、のそのそと這い出て来る。
『これが終末後、各地のシェルターのインフラと安全を支えた名機モビルワーカーです』
2003年製の最初期型。各種テストの為に科学特殊装備研究隊で保管されていた機体だ。
『プ□ジェクト×-Challengers-、今回は人間の暮らしを護った万能重機の開発と、終末の苦難に挑んだ人々の物語です』
画面はスタジオから再び再現映像に移り、モビルワーカーの開発秘話が語られる。
西暦2001年、当時は相模原市緑区と呼ばれた場所に、強固な霊的護りを施されたシェルターが建設された。
翌年には相模原市全体を護るシェルター群へと成長する。
相模原派出所である。
大きく分けると緑区、中央区、南区の三か所で構成される山梨県の東の護りだ。
この派出所を率いるのは、ようやく20才になる若い女性。
後に銃仙キノと呼ばれる事になる、ガイア連合の黒札だった。
「この地を護らないと山梨県まで素通りだ」
山梨県はガイア連合が最初に支部を置いた重要な土地だった。
確かに……当時一研究員だった井出は納得した。
銃仙キノに協力する事となった井出には研究機関が任された。
〝科学特殊装備研究隊〟
通称〝科特隊〟である。
「君の技術力は信用する、好きに動いて良い」*1
キノ支部長の信頼が重かった。
部下は5名、この小さなチームから全ては始まった。
「我々は先ず何をするべきだろうか?」
井出は部下達に問いかけた。
終末への恐怖。
物理法則すら変わり、既存の機械が動かなくなる未来。
最悪は全ての仕事を人力で行なう事になる。
機械があっても重労働なのが農業や林業、そして建築と言った仕事だ。
「農機や重機の代替手段が必要だ」
井出はそう考えた。
しかし、終末までの時間は少ないと予想される。
来年か? 再来年か? それとも、もう一年あるのか?
井出達は急がなくてはならなかった。
技術的な冒険は出来ない
「新技術に挑戦するのは無理だ」
井出は悩んだ。
技術的な冒険は出来ない。
ならば如何する?
手本を真似るしかない。
多脚戦車。
ガイア連合が開発し、対悪魔戦闘用にと自衛隊に提供した機体だった。
「コイツを簡略化する」
単純なダウングレードではダメだ。
もっと低コストに、もっと製造しやすく、更には操縦も簡単にする。
そうすれば相模原の中小企業でも作れるだろう。
言葉にすれば簡単な事でも実行は困難を極めた。
地方の製造業の未来も考慮しなければならない。
一民間団体のガイア連合、その地方派出所の仕事では無い。だが……
「やらなければ、製造業が死ぬ」
井出の決意は固かった。
このような怪しい製品に大企業は手出しをしない。
当然だ、何処も余裕は無いのだ、例え小規模でも我々が行うしかない。
これが井出とキノ支部長の共通認識だった。
この機体で地方の製造業を延命する。
終末後にも相模原市の中小企業が持つ技術力を残す。
それが井出の狙いだった。
スタジオに視点が戻り、司会者と女性アナウンサーの会話が始まる。
『こうしてモビルワーカーの設計開発が始まった訳でございます』
『地方の一派出所が中心の計画だったんですね? どうしてでしょう?』
『当時の大企業、主にガイアグループになるんですが、これら大企業は多脚戦車やデモニカの生産。食料備蓄に結界の準備等、やる事が多過ぎて手が回らなかったんですね』
『なるほど、画期的なアイディアを形にするのがベンチャー企業ですからね』
『では続きをどうぞ』
開発は難航した。
基幹部品となるコアの選定が進まない。
多脚戦車の製造に影響が出るのは避けなければならなかった。
〝ツチグモ〟〝ウシオニ〟これ等の悪魔は選定から外れた。
「4脚のモノは使えない」
安定性を考えて、2脚ロボットは避けた。ロボットを作るなら経験を積んでからだ。
井出は3脚の悪魔を使おうと考えた。
試作一号。
〝
三本足で四角い顔の山の神、コイツなら……
「ダメだ、泥に沈む……」
重機としては使えてもトラクターの代替には出来ない。
「いっそ、トラクターは別に用意しては?」
部下からはこんな意見も出た。
またスタジオに視点が戻され、当時の状況について説明がされる。
『と言う事で、始まったモビルワーカーの開発。それは決して平坦な道のりではありませんでした」
『当時の状況はどうだったんでしょう? 私としてはマダ平和な時代と言うイメージだったんですが』
女性アナウンサーが質問する。
『一般市民は平和を享受していました。しかしガイア連合を初めとする霊能組織は別です。彼らは来たる終末に備えてギリギリの努力をしていました」
『そうなんですね……』
『時間も予算も限られる中、出来うる限りに備えても終末ではアレだけの被害が出た訳です』
『祖母から話は聞いています。大変な時代だったんですね』
『彼らがどれだけの労力を注いでいたのか? 続きを見てみましょう』
予算の事は心配するな
試作には資金が必要だ。
部下達の意見もわかる。重機としては完成しているコイツで開発予算を回収するべきなのか?
井出は悩んだ。
「妥協して良いのか? 重機とトラクターを別々に用意したとして、終末後のシェルターで維持管理が出来るのか?」
答えはスポンサーが出した。
銃仙キノ。ガイア連合の修羅勢にして派出所のボス。
「予算の事は心配するな。余計な事は考えず仕事に集中しろ」*2
そう言って彼女は退魔の仕事に精を出した。
報酬は良いが命がけの仕事。
彼女はその稼ぎの大半を注ぎ込んだ。
井出は感謝するしか無かった。
申し訳ないと言う思いもあったが、仕事で返せと支部長は言うだろう。
井出は開発メンバーを集め、会議を始めた。
試作二号機
「重機を作り、トラクターを別に作る。今は良い、だが将来はどうなる?」
予測された終末後の環境。この過酷な環境でも維持管理が出来なければならない。
多種多様な作業用機械を維持出来る、そんな余裕がある場所は少ない。
例え弱小シェルターでも保有し運用出来る。そんな機体が必要だった。
諦める訳には行かない、開発メンバーと協議を重ねる日々が続く。
井出は考えた。考えに考え続けた。
ある日、ふと思い立った。
「いっそ鳥系の悪魔を使えばどうだろう?」
鳥と重労働は結びつかない。だから考えもしなかった。
だが、しかし。
「太陽に棲む三足烏なら泥に沈む事はなく、植物を育てる権能もある」
盲点だった。
それから悪魔の選定が始った。
〝ヤタガラス〟はダメだ。天照大御神の使い、日本人には恐れ多いだろう。
中国の同種ならば?
コアは〝
試作二号。
外見は試作一号と変わらない。
だが、より安価に作れるよう工夫が加えられていた。
『上手く行ってくれ』
井出達は祈るような気持ちで見守っていた。
試作二号が田んぼに入る。
モビルワーカーは沈まなかった。
「「「「「やったぞ!!」」」」」
部下達の歓声。井出は静かに頷いた。
180馬力、十分な出力だった。
それから各種オプションのテストが始まった。
重機としてのテストは万全、だが農機としては?
「流石にノウハウが無さすぎる」
農業は素人。農機に関しても大した知識は無い。
井出は試作機をヤ〇マーとヰ〇キに送ってオプションを設計して貰おうと考えた。
ガイア連合の経営陣に連絡をする。
後は企業同士のビジネスだ。
モビルワーカー本体は完成し、設計の仕事は終わった。
「後はプロに任せよう」
井出は久しぶりに晩酌を楽しんだ。
直ぐに次の仕事が待っている。
つかの間の休息だった。
もう一度、スタジオに画面が戻る。
『こうしてモビルワーカー本体が完成した訳です』
『苦労したんですね~』
『ここでお客様を紹介します。〝井出 光弘〟氏と大変親しかった、初代ULTRAMAN〝隼田 進次郎〟さんです。隼田さん、本日はよろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
三人が挨拶をした後、女性アナウンサーが年を取り初老になった隼田に質問を投げかける。
『隼田さん。井出さんって、どんな人だったんですか?』
『そうですね、亡き父の親友で父親代わりの人でした。私にとってはユニークで優しいおじさんでしたよ』
笑みを浮かべながら答える。
『ただ意志が強くて、物事を最後までやり遂げる。尊敬できる技術者でしたね』
『車両が出来上がれば終わりと言う訳ではありませんでした。井出には更なる困難が待ち受けます。ご覧ください』
燃料が必要だ
車両は完成した。初期不良を修正し、バージョンアップは必要だろうが、今は良い。
次の問題だ。
重機を動かすには燃料が要る。
そして終末後に石油が入手出来るとは限らない。
少なくとも、現在の様に潤沢に使用できるとは思えなかった。
「機械があっても、動かせなければ意味が無い」
大量の燃料が必要だ。
井出には考えがあった。
「燃料用のオカルト植物を作れないだろうか?」
バイオエタノール、トウモロコシ等の植物から作られる燃料だ。
自動車用燃料には通常ガソリンと混ぜて使用される。これを100%バイオエタノールだけで賄えるなら……
〝BBコーン〟生身では覚醒者にしか収穫出来ない美味な巨大トウモロコシ。
重機を使用すれば、非覚醒者でも収穫出来る。
十分なカロリーを持つ〝BBコーン〟を、燃料用の新種に品種改良出来ないか?
農業の素人による試行錯誤が始まった。
専用の異界で栽培する事、数か月。
時間加速空間を利用している為に、現実では僅かな時間しか経っていない。
しかし、上手く行かない。
時間ばかりが過ぎていく。
「BBコーンをそのまま使用するしか無いのか? 高効率化は無理なのか?」
流石の井出も専門外の事に挫けそうだった。
「試しにボクにもやらせてよ」*3
キノ支部長だった。
彼女は製造や育成に適性を持たない。
だからこそ突然変異が起こる可能性がある。
ダメ元での博打。
無駄な足掻きでもやらないよりは良い、そんな気持ちだった。
殆どが失敗作。
しかし、一本だけ目的のモノが見つかった。
味はとてつもなく悪い。だが燃料に加工するには最適だった。
二人は賭けに勝った。
一本でも目的のモノが産まれれば、後は増やすだけだ。
井出は燃料用バイオエタノールと、その製造工場の建設に踏み切った。
予算は任せろとキノ支部長は胸を張った。
また一つ、終末への備えが完成した瞬間だった。
ここでスタジオに視点が戻り、物語の総括を行う。
『こうしてモビルワーカーは現場に投入された訳でございます。隼田さんとしてはモビルワーカーにどんな印象をお持ちでしょうか?』
『そうですね、私としては現場作業員の命綱でしょうか?』
『そうなんですか?』
『我々、戦闘員から見ればモビルワーカーは作業用で戦闘用では無いんです。でも建築現場や農場でイキナリ悪魔に襲われるケースもゼロでは無い』
『なるほど、緊急時に現場の人間が頼れる存在だったと』
『何度か覚えがありますよ。ボロボロになりながらも、必死に仲間を護るモビルワーカー。後は任せろと勇んだものです』
『それでは、もう一度エンジンを掛けてみましょう』
スタッフが乗り込んでおり、野太い排気音を響かせるモビルワーカー。
『どうですか隼田さん』
『今でも思い出せます。決して強いとは言えないコイツはそれでも必死に皆を護っていたんです』
エンディングテーマの前奏が始まる。
旅人を後ろから来た車の前照灯が照らし、通り過ぎて小さくなり、尾灯に代わっていく。
そんな様子を物悲しく歌ったものだ。
完成から僅か数年後、世界は終末へと突入した。
モビルワーカーは食料生産に、シェルター建築に、そして時には対悪魔戦闘にと場所を選ばず活躍し続ける。
この機械は確かに人類と文明を助ける力になった。
モビルワーカーは今でも我々の暮らしを護っている。
そんなナレーションが入る。
そうして番組は終わりへと向かう。
エンディングテーマに合わせて、開発に関わったメンバーのその後が字幕で紹介され、最後にエンドロールが入って終了した。
・
・
「ちょっとイデニキが美化され過ぎじゃない?」
番組を見終わったキノが呟く。
ツッコミ所満載だが、我慢して最後まで見る。時折、我慢し切れずツッコミを入れたが。
「それになんだよ、この番組は先年発見された〝井出 光弘〟氏の手記と関係者への取材を元に制作されました?」
つまり、イデニキに都合が良い情報で作られたんじゃないの?
ボクに不都合を押し付けた所はカットしてさぁ!?
キノが考えている間にイデニキは逃げ出している。
「逃げるな、イデニキ! ボクの正当な怒りから逃げるな~!!」
表舞台から距離を置き、半ば隠居状態の二人は現役当時さながらの追いかけっこを始めた。
おふざけが過ぎたかもしれない……
後悔は無いですけどw
多分、半世紀後とかの番組
放送時点でのイデニキの状況は不明、行方をくらませているか、死亡を装っている可能性もある