負けず嫌いな女勇者   作:星海月

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第1話

 

 かつて魔王討伐に単身挑んだ勇者、オルテガ。しかし彼が旅立ってから数年後、彼の故郷アリアハンに届いたのは、オルテガは魔王との戦いで消息不明となった、という連絡のみであった。

 

 それからさらに数年後、この国から一人の少女が魔王討伐のために旅立つことになった。

 

 少女の名はアニス。世間ではすでに故人とされているオルテガの一人娘であり、彼の遺志を継ぐ唯一の後継者でもある。

 

 そんな彼女が旅を共にする仲間を集めようと、ルイーダの酒場を訪れたときのことだった。

 

(どうしても納得いかないわ!)

 

 彼女が心の中で叫んでいるのには、理由があった。今彼女の目の前に立っているのは、自分より年上の女性二人。共に魔王を倒してくれそうな信頼できる仲間を期待していたのだが、目の前にいる二人はどう見ても頼もしい存在とは言い難かった。

 

 一人は猫の耳と尻尾を身に着け、バニースーツを着ている女性。だが、つややかな黒髪と黒曜石のような瞳は服装に似合わず知的な印象を受ける。もう一人は動きやすい格好をしているが、黒いバンダナにドクロのピアスをしているという、なんともワイルドな格好をした女性だ。どこをどう見ても、この二人が自分と共に魔王を倒してくれるとは思えなかった。

 

 アニスは、剣術においては相当の自信を持っていた。この国で一番だとはっきり言えるほどこれまで相当な努力をしてきたし、周りもそんな彼女を褒め称えた。だから当然、自分とともに戦う仲間も、それなりに手練れの実力者が用意されていると思っていた。

 

 けれど現実は――。

 

(どっからどう見ても、夜のお仕事する人と、通行人にカツアゲとかするような人にしか見えないじゃない!! ルイーダさんも、何だってこんな二人を紹介したのよ!? あたしは勇者で、しかもオルテガの娘なのよ!?)

 

「この子が今度からあなたたちの仲間になる、勇者のアニスよ。さあ、あなたたちも自己紹介して」

 

 そんなアニスの心の内など露知らず、カウンターにいるルイーダは二人に自己紹介を促した。

 

「はじめまして、アニスさん。わたくしは遊び人のクラレットと申します。至らぬ点も多々あるかもしれませんが、今後ともどうぞよろしくお願い致します」

 

 猫耳バニースーツ姿の見た目とは裏腹に、慇懃に挨拶をするクラレット。その礼儀正しさに、アニスは一瞬面食らってしまった。

 

「よう、あんたが噂の女勇者様かい? あたいはロベリア。魔物使いだ。よろしくな」

 

 対して初対面のアニスに随分と気さくに話しかけたのは、ヤンキー……もとい魔物使いのロベリアである。彼女は見た目通りの性格なようで、たじろぐアニスが無言で会釈すると、屈託のない笑みを見せた。

 

(うーん、あんまり強そうには見えないけれど、そんなに悪い人たちじゃないのかしら?)

 

 そういうものだと割り切って考えたら、案外この2人と組むのも悪くないのかもしれない。小難しいことを考えるのが苦手なアニスはそう判断すると、社交辞令とも取れるような笑顔を見せて二人の前に手を差し出した。

 

「二人とも、よろしくね」

 

 これが、勇者アニスの冒険の始まりであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「う……、嘘でしょ?」

 

 アニスは二人のステータスを知って驚愕していた。

 

(あたしよりこの二人の方が、全体的にステータスが高いなんて……!!)

 

 素早さや賢さはまだしも、体力や力には2人にはけして劣らない自信があった。だが現実は、アニスの自尊心を容易く折ってしまうほど残酷であった。

 

 ルイーダの酒場で仲間になってはや数日。アリアハンから次の町レーベに向かう道中、他愛のない話をしていた三人だったが、話の流れで自分のステータスの話題に辿り着いた。そこでアニスは衝撃の事実を知って愕然とした。

 

「なぜか力の種を食べ続けていたら、頭がスッキリと冴え渡ったような感覚になったんです。周りからは『切れ者』なんじゃないかって、陰でコソコソ言われてるんですが」

 

「いやそれ悪口じゃないからね?」

 

 いや、逆に遊び人に頭が切れる者だと言うこと自体、皮肉なのかもしれない。

 

「へえ、あたいもあんたとおんなじように力の種ばっか食ってたけど、そんなふうに言われたことはなかったぜ? けど、『抜け目のない女』とは言われてたかな」

 

「……」

 

 正直この二人がどう呼ばれていたかなんてどうでもいい。問題は、そんな偏った食べ方で、どうして自分よりも優れたステータスになったのかということだ。

 

 その上そんなことをアニスの前で平然と言っているものだから、余計にアニスにとっては癇に障るのだった。

 

(悔しい!! 見てろよ!! すぐにでもあんたたちを追い越してやるんだから!!)

 

 どう考えても悪役が言い放つセリフにしか聞こえないが、間違いなくこれはアニスの心の声である。彼女はまるで血の涙でも流しているかのように仲間二人を睨みつけながら、そう心に誓った。

 

 自分では気づいていないようだが、彼女は『負けず嫌い』な性格でもあったのである。

 

 その時だった。茂みの中から数体の魔物が現れた。

 

「スライム4匹におおがらす2匹……。大した数じゃないわね」

 

 気を取り直したアニスはすらりと剣を抜くと、目の前の魔物を睨みつけて標的を定めた。狙うは一番近くにいるおおがらすだ。

 

「はっ!!」

 

 駆け抜けざまに一刀両断。一撃で倒した、と思いきや、どうやら致命傷には至らず、ジタバタともがいている。

 

(ちっ、王様が50ゴールドしかくれないから、こんなしょぼい武器しか買えなかったのよ。魔王を倒してもらうよう頼むなら、もっと軍資金をよこせっての!)

 

 などと心の中で愚痴を叫んでも仕方がなかった。アニスはうんざりしながらも、次の一撃で決めようと再び剣を構えようとした。

 

 バシッ!!

 

「え!?」

 

 一瞬何が起こったのかわからなかった。アニスが仕留め損ねた魔物が、ロベリアの放った棍棒の一撃で倒されたという事実を理解したのは、アニスが次の攻撃のために一歩踏み出した後だった。

 

「なんだいあんた。勇者だっていう割には、大した事ないじゃないか」

 

 そう言ってロベリアは、すぐ近くにいるもう一体のおおがらすの脳天を振り向きざまに攻撃した。会心の一撃を与えたのか、そのままおおがらすは動かなくなり、ゴールドとなって消えた。

 

「あ……、あ……」

 

「ふうん、おおがらすだなんて大層な名前ついてるけど、戦ってみたらどうってことないね」

 

 そしてアニスに目を向けると、先ほど魔物が落としたゴールドを拾って彼女の前に差し出した。

 

「あんた、その武器じゃ満足に戦えないだろ? ほら、あたいが倒した分のゴールドをあんたにやるよ」

 

 その行為は、ロベリアにとっては単純に善意であったかもしれない。だが、アニスにとっては皮肉で言ったようにしか聞こえなかった。

 

 そして、アニスとロベリアが戦っている一方で、同じく魔物と対峙している者が一人――。

 

「痛っ!!」

 

 ぷるぷるしたままのスライムのそばでは、自ら放った石礫が自分の足に当たり、血を流している遊び人の姿があった。

 

「ああ、もう動けない……。せっかくお手玉をして遊んでいたのに、どうしてわたくしの投げた石は明後日の方向へ飛んでいくのでしょう……」

 

 一応魔物と戦おうとしていたクラレットは、お嬢様座りをしながらさめざめと泣いていた。その様子を横目で見ていたアニスは、必死で文句を言いたい衝動を抑えた。

 

(ダメッ、我慢するのよアニス! あたしだって魔物を一撃で倒す事が出来なかったんだから、やたらに彼女を責めるのはお門違いよ! ……でも)

 

 ぐっ、と拳を握りしめ、怒りをあらわにする。

 

(それにしたって、役に立たなすぎじゃない!? ロベリアも戦闘は問題ないけど、なんとなく人を小馬鹿にしているような言い方するし! それともあたしの心が狭いだけなの!?)

 

 幼い頃から父親と比べられてきたせいで、コンプレックスの塊だったアニスが負けず嫌いになったのはある意味必然とも言える。しかしあまりにも遠い存在のため半分諦めていた部分もあった。自分なりに努力はしているが、偉大な父を超えることはできない。そうやってある部分においては線引きをしていた彼女だが、自分と同じ立場、あるいは能力が下の人間に舐められたり、振り回されたことのないこの状況は、彼女にかつてないほどのストレスを与えた。

 

(こうなったら、絶対あの二人よりも強くなってやる!! 努力する才能だけは、誰にも負けないんだからね!!)

 

 前言撤回。どうやら彼女にとってのストレスは、自身を高めるための試練となるようだ。

 

 

 

 




作者のプレイ状況をもとにして話を進めています。名前以外はだいたいノンフィクションです。

ちなみにゲーム内での勇者の名前はオムライス。(さすがに小説にするにはあまりにも不憫すぎた)
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