負けず嫌いな女勇者   作:星海月

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第11話

 

 ホビットのノルドの力を借り、無事にバーンの抜け道を通り抜けたアニスたち。ポルトガ王に頼まれた黒胡椒を手に入れるため、一行は黒胡椒の産地であるバハラタへと向かっていた。

 

「なんか、パッとしない町ねえ……」

 

 町に着いて早々、アニスは素直な感想を漏らした。他国からわざわざ買い付けに来るほど価値のある黒胡椒の産地となれば、ある程度栄えていると想像していた一行だったが、実際は閑散とした町であった。

 

「何言ってるんですか、アニスさん! 侘び寂びが感じられていいじゃないですか!」

 

「感じられるのかい? この街並みで?」

 

 クラレットがしみじみと答えると、即座にロベリアが口を挟んた。

 

 すると突然、一人の青年がアニスたちの前を横切って走っていった。何事かと思わず青年の後ろ姿を見送る。

 

「どうしたんだ? あんなに急いで」

 

「さあね。あたしたちには関係ないわ。それより早く黒胡椒を売っている店を探さないと……」

 

 さらにその後ろから、一人の老人が追いかけてきた。

 

「落ち着くんじゃ、グプタ!!」

 

「愛しのタニア……! 待っててくれ、すぐ助けに行くから!!」

 

 老人が止めるのも聞かず、グプタはさらに速度を速めようとする。さすがに素通りすることも出来ず、嫌々ながらアニスは二人に声を掛けた。

 

「えっと……、なんか事情がありそうだけど、何かあったの?」

 

 呼び止める声に、流石に二人の足が止まる。振り向いた彼らには、焦りの表情が広がっていた。

 

「おお、見知らぬ旅の方。騒がせてしまって申し訳ない。よければわしらの話を聞いてはくださらないか?」

 

 アニスの脳内に浮かぶ文字はすでに『いいえ』の三文字しか無かったが、先に尋ねてしまった以上断るわけにもいかない。アニスはにっこりと、

 

「ええ、あたしこう見えて腕は立つ方なの。困ってることがあるのなら話くらい聞いてあげるわ」

 

 そうさわやかに答えた。その横ではロベリアが、

 

(どうせアニスのことだから、話『だけ』聞いて去るつもりなんだろうな)

 

 とか思っていた。

 

「なんと! それは心強い!! 実は、わしのかわいい孫娘であるタニアが、悪党どもにさらわれてしまったんじゃ!」

 

「なんですって!?」

 

「さ、攫われた……!?」

 

 アニスは傍目から見ても大げさに驚いた。ロベリアは気まずそうに顔を背け、クラレットはまるで自分のことのように愕然とした。

 

「タニアはそこにいるグプタと将来を誓いあった仲でな。ゆくゆくはわしの店を継いでもらおうと思っていたのじゃが、このままでは店どころかわしの大事な孫娘も失ってしまうのだ。頼む! あなたがたの腕を見込んで、どうかタニアを助けに……」

 

「待ってください! 見ず知らずの人たちに助けを乞うわけには行きません! 僕が行きます!!」

 

「グプタ!! 何を言って……」

 

 老人の制止も聞かず、グプタと呼ばれた青年は、そのまま町の外に向かって走っていってしまった。

 

「おお……。グプタまで攫われてしまったら、わしは……、わしは……」

 

 泣き崩れる老人を、アニスは複雑な表情で眺めていた。そして少しずつ老人の視界から外れようとジリジリと後ろに下がりつつあるアニスを、ロベリアが腕を掴んで引き止める。

 

「アニス? 大事な話の最中に、どこへ行くつもりだい?」

 

「あ、あはは……。えっとぉ……、ちょっと日差しが強いから日陰に行こうかな〜っと……」

 

「頼む!! どうか二人を救ってくだされ!! 礼はいくらでもはずむ!!」

 

 アニスに泣きつこうとする老人の言葉に、ぴくりとアニスの眉が跳ね上がる。

 

「お礼?」

 

「うむ。わしの店は代々黒胡椒を売っている。もし二人を助けたら、好きなだけ黒胡椒をあげよう!」

 

「わかったわ!! そういうことならあたしに任せて!!」

 

「……」

 

 恐ろしいくらいの変わり身の早さに、ロベリアはこれ以上何も言わないことにしたのだった。

 

 

 

 町の人達の話によると、町の東にある橋の向こうの洞窟に、人さらいと呼ばれる集団が住み着いているという。その噂を聞いたアニスたちは早速、人さらいたちがいる洞窟へと向かうことにした。

 

「人さらいだなんて物騒な話ですね……。わたくし、怖いです」

 

 朽ちかけた橋を渡りながら、クラレットが呟く。珍しく彼女が怯えているのを見て、ロベリアは心配そうに声をかけた。

 

「どうしたんだい、クラレット。あんたがそんな感情的になるなんて、らしくないじゃないか」

 

「だって、もし攫われたらオリに入れられて、ムチで叩かれたり、玉乗りの練習をさせられたり、ピエロの格好をさせられたりするんでしょう!? 考えただけで恐ろしいです……」

 

「絶対に違うとは言い切れない微妙な情報だね、それは……」

 

 なんとなく消化不良な気持ちで答えるロベリア。そんな二人の前を歩くアニスの足がピタリと止まる。

 

「着いたわ。ここが人さらいのアジトね」

 

 目の前には行き止まりの岩壁があり、人一人余裕で通れるほどの穴があいている。おそらくこれが人さらいの住む洞窟なのだろう。

 

 まずアニスが先頭に立ち、怖がるクラレット、殿にロベリアが続く。洞窟の中は案外明るく、人が通れるためなのか比較的整備されていた。

 

「何これ、洞窟の中に町でも作る気なのかしら」

 

 町というのは過言とも言えるが、実際洞窟とは思えないほど広く、しかもいくつもの部屋が並んであり、区画整理までされていた。いったい何のためにこんなことをしたのか、アニスたちにはさっぱり理解できなかったし、理解しようとも思わなかった。

 

 そしてある程度奥まで進んだところで、今までの何倍もの広さの部屋に行き着いた。部屋の中央にはテーブルがあり、その周囲には金品やお金にならなそうなものなど、とにかく雑多なもので溢れていた。

 

「なんかこの光景、どっかで見たことあるんだけど……」

 

「奇遇だね。あたいも今同じことを思ってたよ」

 

 思い当たるフシがあるのか、アニスとロベリアが顔を顰める。さらに奥に進むと、今度は細い通路につながっていた。

 

「アニスさん! あの奥から話し声が聞こえます!!」

 

「ほんと!? あたしには聞こえないけど」

 

「わたくしの猫耳がそう言ってるんです。信じてください」

 

「うん……、うん? わ、わかった」

 

 返答に困るアニスだったが、すぐに気を取り直し、クラレットの言葉を信じつつ先へ進むことにした。

 

「……で……、そう……」

 

 果たして、クラレットの言う通りだった。通路の奥は丁字路になっており、道が左右に分かれている。さらに奥の方から、話し声が聞こえてきたのだ。

 

「ん? この声は……」

 

 声のする方へ走り出すアニス。薄暗い通路を小走りで駆けると、そこは簡易的な牢屋になっていた。そしてその牢屋の向こう側には――。

 

「グプタ!!」

 

「あっ、あなたがたは……」

 

 そこには老人の予想通り捕まってしまったグプタがいた。

 

「突き当りの壁に、この牢屋を開けるレバーがあるはずなんだ。頼む、そのレバーで扉を開けてくれ!」

 

「わかったわ!」

 

 言いたいことはいろいろあるが、取り敢えずアニスはグプタを助けることにした。グプタのいる牢屋のすぐ脇の壁に、いかにもな形をしたレバーがあった。アニスはすぐにそのレバーを上げた。

 

 ガコン!!

 

 物々しい音とともに、牢屋の扉が自動的に開いた。すると早速グプタが牢屋から飛び出してきた。

 

「ありがとうございます!! そのレバーで、タニアのいる牢屋の扉も開かれたはず!!」

 

 そう言うなり、グプタは脇目も振らず反対側の通路へと走っていった。アニスたちもすぐさま彼の後を追った。

 

 奥へ進むと、そこにはすでに牢屋から出てきていた若い女性が立っていた。彼女はグプタの姿を見たとたん、涙を流しながらグプタの胸に飛び込んだ。

 

「グプタ!!」

 

「おお、タニア!! やっと会えたね!!」

 

 しばしの抱擁。それは周囲の状況など気にならなくなるほどの甘いひとときでもあった。

 

「えーっと、お取り込み中のところいいかしら?」

 

 二人の間にアニスが割り込むと、ようやく二人は我に返った。

 

「グプタ、この方たちは……?」

 

「町で君を助けてくれるように、タニアのおじいさんが頼んだ旅人たちさ。まさか本当に助けに来てくれるとは思わなかったよ」

 

――あたしもまさか本当にあなたが捕まってるとは思わなかったわよ、とは流石に言わず、空気を読むアニス。するとタニアはアニスたちを見るなり頭を下げた。

 

「ありがとうございます、旅人さん。あなたたちのおかげで、助かりました」

 

「さあ、町に戻ろう、タニア!!」

 

「ええ!!」

 

 待ちきれないのか、グプタはタニアの手を取ると、足早にここから去っていった。

 

「ちょ、ちょっと待ちなよ!! この騒ぎだ、今外に出たら……」

 

 ロベリアの制止も聞かず、二人の姿が遠ざかっていく。するとほどなく――。

 

「きゃああああっっ!!」

 

 響き渡るのは、タニアの悲鳴。危機を感じた三人は、急いで二人の元へと走る。

 

「お、お前が親玉か……?」

 

「ふっふっふ。オレ様が来たからには、逃がしゃあしねえぜ!!」

 

「僕はどうなってもいい!! だけどタニアだけは……!!」

 

 二人の前に立ちはだかる、大柄な男性の姿。薄暗い部屋に映し出されたのは、筋骨隆々の体躯。そして頭は――。

 

「いやあああああっっ!! 変態っ!!」

 

 ニ度目の絶叫。しかしそれはタニアではなく、人さらいの親玉を見たあとに勇者本人が出した声だった。

 

「ん? なんだ、こんな奴らをさらってきた覚えは……」

 

 一方相手の方も、アニスの顔を見てはたと気づく。濃いピンク色の覆面を被ったその男は、しばし言葉を失った。そしてようやく言葉を発する。

 

「お、お前らは、あの時の!!」

 

 男はその筋骨隆々の体躯で、大げさにリアクションを取った。なぜ一目見て男だと判断できたのか、それは覆面の下は何も衣服を着ておらず、パンツ一丁だったからだ。

「ちょっと! さもあたしらと知り合いみたいな言い方しないでよ!! そんな変態男が知り合いにいてたまるもんですか!」

 

「いや関わっただろ! シャンパーニの塔で!! あんたにボコボコにされたカンダタだ!!」

 

「へ?」

 

 そう、人さらい集団のボスとは、かつてアニスが戦ったカンダタだったのだ。

 

 

 




自分の小説を見返して、初めてカンダタの覆面の色が違っていたことに気づきました。

うちの勇者たちは金欲が強い子ばかりのようです。
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