負けず嫌いな女勇者   作:星海月

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第13話

 

「それで、そのグプタさんに、黒胡椒を分けてもらえるようにお願いしたんですか?」

 

 人さらいのアジトからバハラタへと帰還し、一夜明けた朝。アニスとロベリアは、無事に復活したクラレットにその後の経緯を説明した。

 

「そう。その黒胡椒が手に入れば、ポルトガの王様から船がもらえるからね。朝ごはんを食べ終わったら早速グプタさんの店に行くわよ!」

 

 三人は手短に朝食を済ませると、すぐにグプタの店に向かった。ところが――。

 

「黒胡椒が、品切れ!?」

 

 喜び勇んで店にやってきたアニスは、グプタの衝撃的な発言に、その場にへなへなと崩れ落ちた。

 

「ええ、すみません……。ですがご安心下さい! いつもうちと取引をしている行商人が、ここから先にあるダーマ神殿にいるはずです。彼に僕のことを伝えれば、きっと譲ってくれるでしょう」

 

「……ほんとに? まさか後でお金払えとか言うんじゃないでしょうね」

 

「とんでもない!! 皆さんは僕とタニアを助けてくださった恩人なのですから! なんなら契約書でも作りましょうか?」

 

 ゲーム的に考えればそんなものは必要ないはずなのだが、損することを何よりも嫌うアニスは、グプタの提案に即OKした。すると早速グプタは書類を書き始めた。

 

「これを行商人に見せれば、黒胡椒を譲ってもらえるはずです。街を出てすぐの橋を渡って北の山々に向かって進んでいけば、ダーマ神殿があります。どうかお気をつけて」

 

 アニスはグプタから書類を受け取ると、すぐに懐にしまい込んだ。

 

「ありがと。あなたたちも、お幸せにね」

 

 そう言い残すと、アニスたちはグプタの店をあとにした。

 

 そして店を離れてしばらくしたあと、アニスは歩きながら一人愚痴をこぼしていた。

 

「てーかさ、なんであたしたちがわざわざ黒胡椒を取りに行かなきゃなんないの?」

 

――始まった……。

 

 アニスの愚痴に付き合うのも、もう何度目だろうか。ロベリアは声には出さないが、内心辟易していた。

 

「百歩譲って売り切れなのはわかるわよ。でもだからって、なんであたしたちがダーマ神殿とやらまで行かなきゃならないわけ?」

 

「まあ、店を離れられない事情でもあるんだろ。それよりダーマ神殿って、転職することができるって場所だろ? 誰か転職したい奴はいないのかい?」

 

 アニスの話を逸らすにはここだと察したロベリアは、間髪入れず二人に尋ねた。

 

「残念だけど、勇者であるあたしに転職なんて無意味よ! 勇者として生を受けた時点で完全に勝ち組だからね!」

 

「それじゃあ、クラレットはどうだい? あんた遊び人だから、戦闘で生き延びるにはもうちょっとマシな職業に……」

 

 振り向くと、クラレットの姿はどこにもない。また道端で変なことでもしてるのではないかと、必死に二人は辺りを見回す。

 

「あっ、いた!!」

 

 クラレットは近くの店の前で、町の男たち二人に絡まれていた。仲間内では変人扱いされているが、見た目だけなら通りすがりの男性が振り向く程の美人である。さらにスタイルのいい彼女がバニースーツを着ているのだから、世の男性にとってはもはや誘ってくださいと言っているようなものである。

 

「もう! 世話が焼けるわね」

 

「はあ……、戦いだけじゃなくて、何かと危なっかしいねえ、あの子は」

 

 そのうち男の一人がクラレットの腕を強引につかんできた。今までの町でも、何度か同じような光景に遭遇したが、その度にアニスやロベリアが間に入り、男たちを追い返していた。

 

 そして今回もアニスが間に割って入り、男たちに軽めのお灸を据えようと歩みを速めた、その時だった。

 

「嫌がってるじゃないですか。離してあげて下さい」

 

 男の腕をつかんだのは、見知らぬ若い男だった。長い金髪で背は高く、腰に剣をぶら下げてはいるが、男の体つきを見る限り、どちらかと言えば護身用に取り敢えず身につけているような印象を受ける。顔はまずまずのハンサムで、クラレットを助けようとしたアニスが思わず足を止めるほど、その姿は様になっていた。

 

「なんだいきなりてめえは!? 邪魔すんじゃねえよ!!」

 

 気分を害したのか、ガラの悪い男は金髪男の手を振り払うと、金髪男に掴みかかった。一方の金髪男は、平然としながら男の手を掴む。

 

「か弱い女性を助けるのが男の務めです。もし諦めないのならば――」

 

 すっ、と金髪男は目を細める。一体どんな立ち回りをするのだろうかと、アニスとロベリアは期待のまなざしで彼らの動向を見守る。すると――。

 

 チャリン、チャリン。

 

 金髪男は懐から金貨を数枚取り出すと、無造作に地面にばらまいた。さらに一言――。

 

「そのお金をあげますから、彼女を離してください」

 

 ずるっ。

 

 アニスとロベリアは、思わずその場にずっこけた。

 

「なんだよてめえ!! カッコつけやがって、結局金で解決してんじゃねえか!!」

 

 馬鹿にされたと思ったのか、ガラの悪い男は地面に落ちているお金を蹴り飛ばす。

 

「ああっ、もったいない!!」

 

 そこへ、散らばったお金を夢中で拾い始めるクラレット。その光景に、アニスとロベリアは頭を抱えた。

 

「あーもう! 恥ずかしいからやめなさい、クラレット!!」

 

 ずかずかと男たちの間に割って入るアニス。そしてガラの悪い男の方に向き直ると、背中に背負っている剣の柄を掴みながら睨みつけた。

 

「あたしの仲間になんか用? ことと次第によっちゃあ、この剣を抜かなければならなくなるけど」

 

 その殺気立った表情に、男の顔が瞬時に青ざめる。後ろの取り巻きらしき男も、背筋をピンと伸ばして後退る。

 

「な、なんだよお前ら……。ちくしょう、覚えてろよ!!」

 

 半ばお約束なセリフを吐くと、男たちは一目散に逃げていった。その後ろ姿を哀れむように眺めつつ、アニスは今なお四つん這いになって金貨をかき集めているクラレットの首根っこを掴んだ。

 

「こら、クラレット! そのお金はこの人にちゃんと返しなさい!!」

 

「ああっ、格闘場1ゲーム分くらいはあったのに!!」

 

「堂々とネコババするんじゃないよ!! ったく……」

 

 呆れたようにため息をつくロベリア。と、ふと背後から視線を感じ、後ろを振り返る。

 

「はうぁっ!!」

 

 いつの間に近くにいたのか、すぐ目の前に金髪男が立っていた。まともに目が合ってしまったロベリアは、大げさなくらいのけぞった。

 

「ええと、彼女のお仲間の方ですか?」

 

「えう……、あう……」

 

 いつもアニスたちといるときのような堂々とした振る舞いではなく、餌を求める魚のように口をパクパクさせながら、顔を真っ赤にしてうめき声を上げているロベリア。そんな彼女の様子にたまりかねたのか、クラレットの首根っこをつかんだままのアニスが代わりにお礼を言った。

 

「さっきはあたしの仲間を助けてくださって、ありがとうございます。あたしはアニス。こっちがクラレットで、そこの茹でダコみたいなのがロベリアです」

 

 そう言ってアニスはクラレットからお金を奪い取り、金髪の男に渡した。お金を受け取った男はそれを懐に入れ、柔和な笑みで返す。

 

「僕はアッシュと言います。とんでもない、あなたのおかげで、大ごとにならずに済みました。むしろ助けられたのは僕の方です。困っている人を放っておけない性分なもので、つい力もないのに口を出してしまいました」

 

 目を引く外見の割に、なんと謙虚な人なのだ。先程お金をばら撒いたのも、彼は非力なりに穏便に事を済ませようと思ったのだろう。彼に少し好感を持ったアニスは、改めてお礼を言った。

 

「あたしは勇者なの。何か困っていることがあったら遠慮なく言って? クラレットを助けてくれたお礼よ」

 

 アニスが勇者だと知ったアッシュは、一瞬目を見開いた。そしてしばし考え込み、何かを思いついたようにアニスの方を見た。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えてもいいかな? 実は僕、こう見えて戦士なんだけど、もともと体力も力もなくて、向いてないと思ってるんだ。それでこれから転職しようと思ってるんだけど、僕をこの先にあるダーマ神殿まで連れて行ってくれないか?」

 

「ダーマ神殿!?」

 

 ちょうどアニスたちが向かおうとしている場所である。アニスはすぐに決断した。

 

「ちょうどいいわ、そこに向かおうとしてたのよ。一緒に行きましょう」

 

「本当かい? ありがとう、恩に着るよ!」

 

 アッシュは嬉しそうにアニスの手を取った。

 

「短い間だけど、よろしく!」

 

「よ、よろしく!」

 

 普段年頃の男性と接する機会がないからか、ぎこちない笑みを浮かべながらアニスは応えた。その横では、クラレットが恨めしそうにアッシュ(の懐にあるお金)を眺めている。そして少し離れた場所では、未だ硬直したまま動かないロベリアの姿があった。




アッシュのイベントはもちろんゲームにはありません。
黒胡椒を取りに行くためだけにダーマに行くのもどうかと思い、オリジナル要素を入れてみました。
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