負けず嫌いな女勇者   作:星海月

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第15話

 

 依然としてダーマ神殿に滞在しているアニスたちは、クラレットがどうしても賢者になりたいと言うので、本当に賢者に転職できるかどうか、ここの神官に尋ねることにした。

 

 神殿の中央にある大広間。その奥の教壇に立つ一人の神官こそが、人々に職を与える大神官であった。そんな恐れ多い人物に、アニスは恐れることなく声を掛ける。

 

「あの、すみません。ちょっとこの子を転職させたいんですけど、賢者って誰でもなれます?」

 

「け、賢者ですか!? それはまたハードルの高い……。いや、まてよ? 賢者になるのはその方なんですよね?」

 

 そう言ってクラレットの方を見る大神官。アニスとクラレットは揃って頷く。

 

「見たところあなたは遊び人のようですね。それでしたら一度遊び人を極めてから賢者になった方がいいかもしれません」

 

「へ? なんで?」

 

「遊び人を極めれば、『魔力解放』と言う特技を得ることができます。その特技を引き継いで賢者になれば、きっと普通の賢者以上の力を発揮できるでしょう」

 

『魔力解放』という言葉に、アニスの心が揺れた。

 

「何そのかっこいい響き……。クラレットに似合わない……。っていや、そうじゃなくて、遊び人を極めるって、例えばどのくらいレベルを上げたらいいわけ?」

 

「確か『魔力解放』を習得できるのは、レベル45です。遊び人をレベル45まで上げたら、賢者になったほうがいいでしょう」

 

「あ、遊び人をレベル45まで上げる!? 何よそのふざけた数字は!?」

 

 ただでさえ能力が低くて戦闘不能になるどころか、戦闘の足を引っ張りまくっているのだ。そんな遊び人をレベル45まで上げる――。途方もなく無謀な挑戦のように思えたアニスは、目の前が真っ暗になった。

 

「えーと、ちなみにクラレットは今、レベルいくつなんだい?」

 

 思考停止状態になったアニスの代わりに、ロベリアがクラレットの肩に手を置き、問いかける。

 

「はい、今18になったばっかりです」

 

「へぇー……、そうなんだぁ……」

 

 危うくロベリアも意識を失いかけたが、かろうじて踏みとどまった。

 

「まあ、かなり厳しいとは思いますが、その特技を習得すればかなり心強いですよ。ですが、決めるのはあくまで転職者自身ですからね。もし諦めるようなら、レベル20以上になってからまたここに来てください」

 

「はいっ!!」

『はい……』

 

 元気よく答えるクラレットに、力なく頷くアニスとロベリア。対照的な三人は、大神官の助言を素直に聞き入れると、神殿をあとにしたのだった。

 

 

 

「というわけだけど、これからどうする? あたいたちはクラレットには早く戦力になってもらいたいって気持ちのほうが強いんだけど、選ぶのはクラレットだからね」

 

「そうそう、クラレットの人生だからね! まあ、正直遊び人をレベル45まで上げるなんて無茶もいいところだけど!」

 

 ダーマ神殿を出たあと、早速アニスとロベリアは、婉曲的にクラレットにすぐに転職することを勧めていた。

 

 しかし――。

 

「お二人共、お気遣いありがとうございます! ですがわたくしは決めたんです。お二人から全幅の信頼を寄せられたいと。なので頑張って遊び人を極めたいと思います!」

 

 あちゃあ〜、そうなるかぁ〜。

 

 アニスとロベリア、二人の心の声が綺麗にハモった。そして同時に気を取り直す。

 

「あー、そう? そんなに無理しなくてもいいのよ? なんなら僧侶の服だってクラレットに似合いそうだし……」

 

「わたくし、一度決めたことは貫き通す性格なのです」

 

 アニスの言葉にも、クラレットは揺るがない決意を顕にしている。そこへロベリアが真面目な顔つきで口を挟む。

 

「クラレット。正直あんたの遊びに付き合えるにも限界ってもんがあるんだ。このままだとパーティーが全滅する可能性だってある。それでも押し通すってのかい?」

 

 きっぱり言い切ったロベリアの発言に、アニスは心の中で感動していた。その威勢の良さを、同年代の男性の前でも見せればいいのに、と思いながら。そしてアニスはクラレットの反応を窺い見る。果たして彼女の反応は――。

 

「大丈夫です! わたくしの遊びは必ずお二人の役に立つはずです! なのでお二人とも、わたくしの勇姿をしかと見届けていてください!」

 

 こちらもきっぱりと宣言され、そのあまりにも曇りのない眼に毒気を抜かれたロベリアは、とうとう折れた。さすがにレベル45まで上げれば、多少は役に立つのではないかとも思ったからだ。

 

――しかし、その見通しが甘かったということを、二人は嫌というほど思い知らされることになる。

 

「まあいいわ。とにかく今は、手に入れた黒胡椒をポルトガ王に届けるわよ! 今からルーラ唱えるから、準備はいい?」

 

「ああ」

 

「はい!」

 

 ロベリアとクラレットが頷くやいなや、アニスは移動呪文を唱えると、瞬く間にポルトガへと到着した。

 

 そして足早に城へ向かうアニスの後ろ姿を追いながら、ロベリアが疑問を投げかける。

 

「なあ、アニス。なんでそんなに急いでるんだい?」

 

 するとアニスは何言ってるんだと言わんばかりにロベリアを背中越しに見た。

 

「はあ? 何言ってんのよ。この黒胡椒を王様に見せて、あたしを見くびったことを後悔させてやるのよ! そしてあたしに恐れおののいた王様の表情を心の底で笑ってやるんだから!」

 

「……それ、不敬罪に問われないかい?」

 

 冷静にツッコミを入れるロベリアの耳に貸すこともなく、アニスはさらに歩みを速めた。

 

「なんだか今日のアニスさん、いつもより生き生きしてますね」

 

「それ、本人の前で言うんじゃないよ」

 

 クラレットがポツリと放った一言に、ロベリアはすかさず釘を差した。

 

 城に着いて早々、アニスたちは王への謁見を許された。兵士たちも、アニスたちの顔は覚えていたようだった。

 

 謁見の間に通されると、ポルトガ王は三人を一目見るなり、期待に満ちた顔で尋ねた。

 

「おお、そなたは確か、黒胡椒を求めて旅に出た者じゃったな。して、どうであったか? やはり駄目だったであろう?」

 

――はあ? 駄目と分かっておきながらあたしたちに黒胡椒を取りに行かせたってわけ?

 

 片眉を上げたアニスは今浮かんだ言葉を必死に飲み込みながら、王様の言葉に冷静に返答した。

 

「恐れながら陛下。黒胡椒は無事に入手し、今私の手の中にあります。どうぞ、お受け取りください」

 

 アニスは自分の鞄の中から、行商人から手に入れた黒胡椒を王様の目の前に捧げた。

 

「な、なんと!? これはまさしく本物の黒胡椒!! よくやった!!」

 

 王様は満面の笑みを浮かべながらアニスを労った。

 

「さぞや危険な旅であっただろう! よくぞ成し遂げた。その勇気こそ、真の勇気ある者であろう。そなたらには約束通り、船を与えるとしよう」

 

「ありがとうございます!」

 

 王様の態度がガラッと変わった瞬間、アニスは満面の笑みで深々とお辞儀をした。第三者が事情を知っていれば、何で現金な奴だろうと思っていたことだろう。しかしそんな世間の目など、アニスにとっては些末なことであった。

 

 それよりも、ついにアニスたちは念願の船を手に入れることができたのだ。今まで苦労した甲斐があったさらに王様はアニスたちを労うため、彼女たちが持ってきた黒胡椒を使って数多くの料理を振る舞ってくれた。黒胡椒を使った料理はどれも絶品で、三人は王様の前であるにも関わらず、遠慮という言葉を忘れたかのように夢中で食べていた。

 

 

 

「あー、おいしかったわ! この国の王様が黒胡椒好きなのも納得だわ!」

 

「確かにあの味は癖になるね。もっとたくさんの国に広めてもいいくらいだ」

 

「わたくしはもう少しお砂糖を効かせたほうが好みですが、あのままでも十分堪能できましたわ」

 

 翌日。三人は昨夜の豪勢な食事のことを思い出しながら、とても満足げな顔で城をあとにした。その時ふと、アニスの脳裏に今朝の出来事がよぎった。

 

「そう言えばさ、今朝変な夢を見たんだけど」

 

「夢?」

 

 それは城の客室で寝ていたときのことだった。夢の中で、アニスは一人見知らぬ場所に立っていた。そのとき、どこからともなく女性の声が聞こえてきたのだ。

 

「なんか急にあたしの前に光が現れてさ。これからの旅は大変よ〜とか、気をつけてね〜とか一方的にしゃべり倒した挙句、次は『オーブ』ってやつを探せって言い出したのよね」

 

「『オーブ』? なんだいそりゃ」

 

「知らないわよ。その後もなんかいろいろこれしなさいとか言ってたけど、顔も見せない人の言うことなんか聞いてらんないから適当にスルーしちゃったわ。ま、どうせ夢なんだけど」

 

 その夢が今後の旅に大きな影響を与えるとは露知らず、会話を終えたアニスたちはポルトガ王に紹介された船着場へと向かっていた。

 

 船着場には一隻の船が停泊していた。ポルトガ王から賜ったその船はあまりにも豪華で、アニスたちが乗るには身に余るほどだった。しかし彼女たちは露ほども恐縮することなく、むしろ我先にと一番乗りを競っていたほどだった。

 

「すごいわ……!! これからあたしたちは、この船で旅をするのね!」

 

 ひとしきり感動したところで、さっそくアニスたちは船を走らせることにした。

 

 その船の行き先はと言うと――。

 

「あっ、ロベリア!! あそこに怪しげな岩場があるわ!! 早く『野生の勘』を使って!!」

 

「あいよ!」

 

「ロベリア!! この町にはぐれモンスターはいるの?」

 

「待ってな、今気配を探ってるから……、あ! かすかに魔物の気配がするね!」

 

「ロベリアさん! この先の洞窟の近くに魔物がいます!」

 

「よく見つけたよ、クラレット!! 早速接触してみよう!」

 

 船を入手してから、アニスたちは専らはぐれモンスターを探し出すことに専念していた。

 

 気づけば仲間にした魔物の数は30を超え、魔物使いのロベリアの特技が新たに増えた。

 

「よーし! この調子でガンガン魔物を仲間にするわよ!!」

 

――そうアニスが決意した、ある日の夜。

 

『――アニス。起きなさい、私の可愛いアニス……』

 

「はへ?」

 

 見覚えのない景色の中で目覚めたアニスは、キョロキョロと辺りを見渡した。これはいつぞやに見た、謎の女性の声に話しかけられた夢と似た状況だ。

 

『以前あなたには、私から使命を与えたはず……。それなのになぜいまだにオーブの一つも見つけてないのですか?』

 

「……へ? オーブ? なんだっけ、それ?」

 

 きょとんとするアニスに対し、暫し無言になる謎の女性。やがて、姿なき女性は静かに怒りのオーラを発しながら言葉を返した。

 

『いいから、さっさと私の言うことを聞いてオーブを探しなさい!! まずは最後の鍵を見つけること!! いいですね!!』

 

「は、はい……!?」

 

 それだけ言うと、謎の女性の気配は霧のように消え去った。一人取り残されたアニスは、なぜ顔も見せない女性に怒られるのかわからないまま、頭の上にハテナマークを浮かべることしかできなかったのだった。

 

 

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