「最後の鍵? なんだいそりゃ」
謎の女性とのやりとりをした夢を見たアニスは、翌朝早速ロベリアとクラレットに内容を打ち明けた。
「なんかわかんないけど、オーブとやらを手に入れるにはまず最後の鍵ってのが必要らしいの。で、まずはこことここに行く予定なんだけど……」
アニスは広げた世界地図のある場所を一つづつ指で示した。夢の最後に、しびれを切らした謎の女性が、最後の鍵に関係のある場所を教えてくれたのだ。
「まあ! そこはわたくしの故郷です! なんて懐かしいんでしょう!」
「え、ここってクラレットの故郷なの?」
「なんだ。じゃあ最後の鍵とやらの手がかりとか知ってるんじゃないのかい?」
ロベリアの疑問に、クラレットは首を横に振る。
「いいえ。そんな鍵のことなんて、まったく知りません。ですが……」
『ですが?』
「ぜひお二人には、わたくしの故郷を見ていただきたいのです! わたくしの国はとても歴史が深く、とても美しい国なのです!」
普段は何を考えているか分からないクラレットが、こんなに目を輝かせて力説するのを見たのは二人とも初めてだった。
「へえ、クラレットがそんなに言うんなら、ねえ?」
「まあ、もともとその国に行かなきゃならないんなら、断る理由はないさね」
というわけで、さっそく一行はクラレットの故郷へと向かうことになった。
ところが――。
「ここは由緒正しいエジンベアのお城である。田舎者は帰れ!!」
「はああ!? あたしのどこが田舎者だって言うのよ!!」
クラレットの故郷であるエジンベアの城に着いた途端、アニスたちは城の入り口にいた衛兵に開口一番こう言われたのだ。
「アニス、ストップ!! これ以上騒いだら国際問題になりかねないよ!」
今にも暴れだしそうなアニスを、後ろからロベリアが羽交い締めにして制する。その後ろではクラレットが、事態を把握できずに眉をひそめている。
「アニスさん。もしかして田舎者だったんですか?」
「知るかああああ!! 大体何よ田舎者って!! なんで田舎者ってだけで門前払いされなきゃならないのよ!! いや、ていうか別に田舎者って認めてるわけじゃないからね!?」
「わかってるから! ひとまず一旦引き返そう!」
ロベリアは騒ぎ立てるアニスを強引に引きずりながら、元来た道を戻ることにした。すると、旅人らしき吟遊詩人の男性がこちらに向かって歩いてくるではないか。
「そこの旅のお方、驚かれたでしょう。この国は我々外から来る人間になかなか厳しいようです」
「あばばばば!? えっと、はい! あー、えーと…………」
突然イケメンでイケボな吟遊詩人に話しかけられ、ロベリアはろくな返事もできず、しどろもどろしている。そんなヘタレなロベリアの腕をするりと抜けたアニスは、ロベリアの代わりに尋ねた。
「ひょっとして、あなたも追い返されたの?」
「はい。私もポルトガで華やかなるエジンベアの噂を聞き、歌を作りたいとやってきたのですが……」
男性は突然、持っていた竪琴を掻き鳴らし始めた。
「ラ〜♪ ほんの一時でも〜♪ 我が身を消し去ることが出来たなら〜♪ ア〜♪ ラララ〜……」
『????』
いきなり歌い出した吟遊詩人に、三人はぽかんとしながらそれを眺めている。
「おっと、すみません。以前、自分の姿を消せる『消え去り草』と言う珍しい草が、勇気の試される地に売られていると耳にしましてね。ふとそれを思い出し、今の気持ちに乗せて歌にしてしまいました」
「は、はあ……」
吟遊詩人なんだから、突然歌い出すこともあり得ないことではない。そう無理やり解釈したアニスは、曖昧に頷いた。
「はてさて一体どこの町だったか……。その町の歌を作っておくべきでした」
歌い終わった吟遊詩人は、何やらブツブツと呟きながら、一人の世界に入ってしまった。芸術家が一人でブツブツ呟くことはあり得ないことではないと無理やり解釈し(以下略)。
「確かに姿を消すことができたら、衛兵に知られず中に入ることができるかも知れないね。けど、『勇気の試される地』……。何のことだかさっぱりだ」
いつの間にかヘタレから復活したロベリアが、顎に手を当てながら考え込む。
「なら、せっかく船を手に入れたんだから、片っ端から探していくしかないわね!」
アニスの一声により、今後の方針が決まった。
「えーとそれじゃあ、わたくしの故郷に戻るのは……」
「そうねえ、その『消え去り草』ってのがないとお城には入れないから、あと半年は先かもしれないわね」
「そっ、そんなあ!!」
ショックのあまりしなしなと崩れ落ちるクラレット。そんな彼女の肩を叩きながら、ロベリアが声を掛ける。
「だったら消え去り草を探している間に、クラレットのレベルも上げようじゃないか。早く賢者になりたいんだろ?」
「は、はい!!」
ハッと気づいたクラレットは勢いよく顔を上げると、希望に満ちた目を二人に向けた。賢者になるには、長い道のりになるのだが。
「さて、そうと決まったらさっそく船に戻るわよ!」
そんなわけで、アニスたちは『勇気の試される地』と呼ばれる町を探すため、一度エジンベアを離れることにしたのだった。
「アニスさん!! 町を探すんじゃないんですか!? エジンベアを出てから、ずっと誰もいない森とか岩場とかばっかり寄り道してるじゃないですか!」
船内に、クラレットの不満の声が響く。エジンベアを出てから一月余り、アニスたちは依然として『勇気の試される地』と呼ばれる町を探し出すことができないでいた。
それどころか、町を探すことなどそっちのけで、『秘密の場所』と呼ばれる小さな森や岩場ばかりに足を運ぶアニスたちに、クラレットはしびれを切らしていた。
「落ち着いて、クラレット。そりゃあエジンベアに行くのも大事だけど、仲間とはぐれたモンスターを保護するのも大事な使命のひとつなのよ」
「そんなの初めて聞きましたよ!」
そんなニ人の間に、ロベリアが割って入る。
「まあまあ二人とも。ここはお互いの意見を尊重し合おうじゃあないか。魔物を保護したい。クラレットの故郷にも早く行きたい。なら『勇気の試される地』とやらで、はぐれた魔物を保護しようじゃないか」
「う……」
「そうですね!! それがいいです!! そうしましょう!!」
微妙な表情を浮かべるアニスに対して、クラレットはその提案が気に入ったのか、目を爛々とさせている。正直『勇気の試される地』など、勇者であるアニスにとって無関係とは言い難いような場所に自ら進んで行こうとは思わなかったのだが、二人の――特にクラレットの熱量に圧され、アニスはしぶしぶ了承した。
「あーもう、わかったわよ。行けばいいんでしょ? 行けば。そこではぐれモンスターの保護と消え去り草を入手したら、とっととエジンベアに行くわよ!」
その言葉に、ロベリアとクラレットは仲良くハイタッチをした。いつの間にあの二人は意気投合したのだろう。
そしてアニスはため息をつきながら思った。あたしもたいがいお人好しね――と。
消え去りそうのことを教えてくれた人がイケボだったので、せっかくなので登場させていただきました。
2025.11.23 修正しました。