負けず嫌いな女勇者   作:星海月

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第19話

 

 アニスたちがその後辿り着いたのは城の地下だった。部屋の中央には迷路のような空間があり、その中に大きな三つの岩が点在している。迷路の奥にはちょうど岩が三つ収まるほどの広さの模様の違う床があり、構造的にその床に岩を乗せるような仕掛けになっている。

 

 その仕掛けの奥には扉があるが、取っ手などは一切ついていなかった。

 

「ええと、あの岩を奥の床まで動かせばいいのよね?」

 

「王様の話だと、そうみたいだけど」

 

 国王曰く、渇きの壺は城の地下にあるとのこと。しかしその壺を手に入れるには、ある仕掛けを解かなくてはならない。それは昔の王族が知恵を出し合って作り上げたもので、仕掛けを解くことができれば渇きの壺は頂いても構わないという。

 

 と言うことで早速渇きの壺を手に入れるため、アニスたちは地下へと向かったわけである。

 

 とはいえ目の前の見慣れない光景にアニスは戸惑っていた。何しろそこにある岩はとんでもなく大きいのだ。彼女たちの背丈ほどもある。

 

「ていうか……、こんな大きな岩なんか、動かせるわけなくない?」

 

 岩の前まで近づき、肩をすくめるアニス。

 

「謎解きに必要な知力だけでなく、岩を動かす筋力や体力も求められるってわけだね。こりゃあ腕が鳴るね」

 

「なんであんたはそんなにノリノリなのよ……」

 

 なぜか生き生きとした顔で岩を見上げるロベリアに、アニスは呆れたように呟く。 

 

「あら? これは何でしょうか?」

 

 そのときクラレットが何かに気づき、岩のそばにしゃがみ込んだ。

 

「? なんだいこの鉄でできた溝みたいなやつは」

 

 実は岩の下にはレールが敷かれており、岩の方にも細工がしてあって、力を入れなくても押せば 勝手に動いてくれるのだ。

 

「ちょっと押すだけで動くのね。なら力は関係ないじゃない」

 

「……」

 

 アニスの一言に、ロベリアは何とも言えない表情になった。

 

 しかし、肝心の謎解きはというと、これが意外にアニスの頭を悩ませた。

 

 岩を動かす際、上から見下ろせばまだ全体を把握できるのだが、実際に岩と同じ目線に立って考えるとなると、格段に難しい。しかも間違った方向に岩を押してしまうと、そこかしこにある穴に落ちてしまうので、そうなるとまた最初からやり直しをしなければならない(どういう仕組みで最初に戻るのかは気にしてはいけない)。

 

「ちょっとクラレット!! あんたこの国の王女なんだから、この仕掛けの謎くらい知らないはずないでしょ!!」

 

「いえ、わたくしこういうカビ臭いところは苦手なので、こんな仕掛けがあること自体初めて知りましたわ」

 

「清々しいくらい使えないね。しかしどうする? もう30回くらいはやり直した気がするよ」

 

「うーん……」

 

 言われてアニスは腕を組む。そしてしばらく考え込んだあと、アニスは何か閃いたのか、はっと顔を上げた。

 

「よし!! クラレット、全てあなたに任せるわ!! これも人生経験の一つよ!!」

 

「えっ!?」

 

『人生経験』と聞いて、最初は戸惑っていたクラレットだったが、すぐに覚悟を決めたように目を見開いた。

 

「わかりました、アニスさん!! わたくし、立派にお勤めを果たしてきます!!」

 

「うむ! その意気や良し!!」

 

 クラレットに丸投げしたアニスは、かつてない爽やかな顔でクラレットを送り出した。

 

「ホントいい性格してるね、あんた……」

 

 ロベリアが呆れたように呟くが、アニスには聞こえていなかった。

 

 一方、一人丸投げされたクラレットは、何の迷いもなく手前にあった岩の一つを押してみた。そして突き当たりの壁まで岩を押し、今度は別の岩を動かす。

 

「ええと、ここはこうして、あそこの岩は……」

 

 なにやらぶつぶつと呟きながらも次々と岩を動かすクラレット。そうして傍目からは適当に動かしてるようにしか見えない動きをしながら、十数分後。あれよあれよと言う間に岩は次々と奥の床へと押し込まれていった。

 

 アニスとロベリアが口を挟む暇もなく、あっという間に三つの岩が横並びに奥の床に嵌まると、三つの岩を支えている床が少し沈み、奥にある扉が音を立てて勝手に開いた。

 

「あっ、扉が開きましたよ、アニスさん!!」

 

 クラレットは達成感に満ちた顔をしながらアニスを呼んだ。そして当のアニスはというと、今にも魔物を倒さんばかりの殺気を辺りに撒き散らしていた。

 

「……なんか無性に腹が立ってきたんだけど」

 

「気持ちは分かるけど落ち着きな。いくらあんたがない知恵絞って頑張って岩を動かしまくったあげくクリアできなかったものを、あのクラレットがいとも簡単に解いちまったことに対して腹が立ったとしても、そこでいちいち殺気を振りまいてたらキリがないよ」

 

「あんたにも殺気を振りまいてあげようか?」

 

 などとアニスが要らぬ殺気を撒き散らしている間に、クラレットはアニスたちのところへ戻ってきた。

 

「どうしたんです? 二人とも。それよりさっき扉が……」

 

「クラレット。まさかあんた、実は仕掛けの謎を知ってたんじゃないでしょうね?」

 

「え!?」

 

 ギロリと睨むアニスに、クラレットは負けじと言い返す。

 

「そんなわけないじゃないですか! ていうかこの程度の仕掛け、パッと全体を見ればわかるじゃないですか!」

 

「うぐっ……。じゃあなんであたしがやってたとき、教えてくれなかったのよ!」

 

「あんなに何回もやり直すなんて、きっと岩を動かすのが楽しいからわざと間違えてるんじゃないかと思って、あえて口に出さなかったんですよ」

 

「なによそのこじつけみたいな理由は!」

 

 すると、二人を見かねたのかロベリアが間に割って入る。

 

「まあまあ、そろそろクラレットの『きれもの』設定を出さないと、ツッコまれるかも知れないだろ?」

 

「誰にツッコまれるっていうのよ!! そもそもロベリア、あんたの『抜け目がない』設定もなかなか怪しいんだからね!?」

 

「どういう意味だい!?」

 

 二人が火花を散らし始めたので、クラレットは慌てて話題をそらす。

 

「そんなことより二人とも! きっとさっき開いた扉の向こうに、渇きの壺があるのかも知れませんよ!?」

 

「はっ、そうだったわ!!」

 

 三人は急いで扉の奥へと向かった。案の定、扉の奥の小部屋の真ん中に、いかにも取ってくださいと言わんばかりに宝箱が一つ、置いてあった。

 

 アニスが開けると、そこに入っていたのは古びた壺だった。その下にはなぜか、紙切れのようなものも入っていた。

 

「間違いなくこれが渇きの壺ね。でも、この紙は何かしら?」

 

 紙切れを取り出すと、そこには文字が書いてあった。

 

「どうやら手紙のようだね。随分と年季が入った紙だけど、誰が何のために入れたんだ?」

 

 そしてロベリアは、クラレットに「この手紙に見覚えはないかい?」と尋ねたが、クラレットは首を横に振った。

 

「わかりません。というか、この城……いえ、我が国民でこれほど汚い字を書く人はおそらくいないと思います。我が国では幼いころから字の読み書きなど、しっかりとした教育を受けている国民がほとんどですから」

 

 手紙に書かれた文字は、三歳児が書いた方がマシかと思うくらい、とんでもなく下手な字だった。それでもアニスは何とか解読しようと試みる。

 

「ええと、なになに……。『かわきのつぼを手にした者へ。このつぼはスーのむらに伝わるかけがえのない宝。その真のやくめがうしなわれないよう、古いことばをのこす。東と西の大きな大地がふれあおうとするみさきから、北のいわばを目ざすべし。そのいわばの中央で、このかわきのつぼを使うべし。ねがわくば、このつぼが心正しき者にわたることをねがって。エド』

 

「三歳児の割には、ずいぶんと難しい言葉を使うねえ」

 

 ロベリアが感心したように頷く。

 

「ちょっと! あたしの解読能力も褒めてほしいんだけど?」

 

「すごいですよ、アニスさん!! エジンベアの人間には到底読めませんもの!」

 

「はあ!? 田舎者には読めるって言うわけ?」

 

「まあまあ、あんたこのごろイライラしてるよ? 落ち着きなって」

 

「これが落ち着いていられるかっての!! あんだけ散々田舎者って言われて、キレないほうがおかしいわよ!!」

 

 今にも暴れそうなアニスを、ロベリアは必死で宥める。

 

「とにかく、渇きの壺は手に入ったんだ。その手紙に書いてある場所で使えば、もしかしたら何かが起こるかもしれないだろ?」

 

「……それもそうね」

 

 ようやく冷静になったアニスは、彼女の手の中にある壺をじっと見つめた。

 

「この壺と最後の鍵……。どう考えても結びつくとは思えないけどね……」

 

 とはいえ、夢の中の女性が嘘をついているようには思えない。これは完全にアニスのカンではあるが。

 

「ま、いいわ。とりあえず、その何とかの岩場とやらに行ってみましょう」

 

 次の目的地を定めたアニスたちは、ようやくエジンベアを後にした。

 

 そして余談ではあるが、それ以降アニスは、『田舎者』という単語に妙に過敏になってしまったという――。

 

 




特に掘り下げることもなく、クラレットの過去編終わりです(笑)

ゲームではエドの手紙は漢字が多く使われてましたが、こちらはちょっと崩して書いてあります。
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