「そなたがこれまでに集めた小さなメダルの数は、全部で5枚じゃな。では褒美に『ガーターベルト』を授けよう」
そう言って小さなメダルを収集しているメダルおじさんは、アニスたちにガーターベルトをくれた。
メダルおじさんは、アニスの故郷でもあるアリアハンのとある井戸の底に居を構え、メダル集めをしている変わり者の男性だ。ちょっとしたきっかけで彼と知り合い、旅の途中で見つけた小さなメダルを持ってきては、彼に渡している。その代わりにメダルの枚数に応じたアイテムをくれるので、いつの間にかここには足繁く通うようになっていた。
「ありがとう、おじさん!! ところで、どうして独り身のおじさんがガーターベルトなんか……?」
「アニスさん。世の中には触れていいことと悪いことがありますよ」
「そうそう、こういうのは黙って受け取るのがスジってもんだ」
二人に咎められ、アニスは気にはしつつもこれ以上口出しするのをやめた。世の中には知らなくていいことも多々あるのだ。
そんなことより今は、せっかくくれたこのガーターベルトを誰が装備するかということだ。
クラレットは先ず間違いなく必要ない。バニースーツの下から既に履いているからだ。
となると、残るはアニスかロベリアかのどちらかだ。
「あー、そしたらそれ、誰が装備するんだ?」
ちらりとアニスの方を見るロベリア。アニスの方も、ロベリアの様子が気になるのか、お互い目が合う。
(確かこれって、装備したら性格が『セクシーギャル』になるのよね? 二人とも出てるところは出てるし、スタイルもいいし、それに比べてあたしなんか……)
アニスは自分の胸を見下ろし、大きく息を吐いた。勇者として育てられたとは言え、たまには女性らしく生きていたいと思うことはこれまでに何度もあった。セクシーギャルになることは、彼女の小さな夢でもあったのだ。
ただ、それを表立って言うのには抵抗があった。「セクシーギャルになりたいから、このガーターベルトはあたしが装備する!」などと言えば、二人になんて思われるだろう。こんなガサツな女がセクシーギャルだなんて、冗談にもほどがあるとか言われたらどうしよう。
「う……、じゃ、じゃあ、ロベリアがこれを……」
「え? あんたが履くんじゃないの?」
「へ?」
意外な言葉に、拍子抜けした声を上げるアニス。
「だってそれもらったとき、あんたすごく履きたそうな顔してたよ? 自分から言ってくれるんだと思ってさっきみたいな聞き方したけど、違うの?」
「ちっ、違くないけど……」
ロベリアの問いに、しどろもどろになるアニス。
「じゃあそれはあんたが装備しな。あたしは別に必要ないからさ」
そう言ってロベリアは大きく胸を張る。向こうから勧めてくれるなんて、願ったりだ。
「そ、そんなに言うならなってみようかしら、セクシーギャルに。別に今のままでもいいんだけどね?」
なんとなく言い訳がましいセリフだが、アニスには自分の言動を客観的に見られるほどの余裕がなかった。本当はセクシーギャルになりたくて仕方ないはずなのに、プライドが邪魔してついひねくれた言葉になってしまう。それを聞いてる2人もあまり勘ぐらない性格だからか、大して気にもとめていないようだ。
その後一度宿に戻り、アニスはさっそくガーターベルトを装備した。
アニスは性格が『セクシーギャル』に変化した。
(やったわ!! ついにあたしもセクシーギャルになったのよ!!)
とは言えセクシーギャルになったからといって、何かが変化したわけではない。毎日が魔物との戦闘で、アニスに言い寄ってくる男性どころか仲間以外の人間にさえ会うことはないからである。今も旅の扉があるという『いざないの洞窟』にいるが、薄暗くて魔物の気配が漂う洞窟は、セクシーギャルが訪れるにはあまりにも縁遠い場所であった。
その代わり、今までよりもレベルアップ時のステータスが高くなっている感覚を覚えた。性格がセクシーギャルになったことで、能力に変化が起こったのだろうか。この調子なら、そのうちあの2人を追い越すかもしれない。
そんなことを想像しながらにんまりと笑みを浮かべていると、洞窟の奥から数匹の魔物が現れた。
「あれは……、アルミラージ!」
アルミラージはステータスはけして高くないが、相手を眠らせるラリホーの呪文を唱えるのが特徴だ。集団でラリホーを唱えられれば、物理攻撃をメインに戦うアニスたちが苦戦を強いられることは必至である。
「みんなっ、魔物よ!! 早く戦闘態勢に入って!」
アニスの掛け声とともに、他の二人も戦闘態勢に入る……と思いきや、一歩前に出たクラレットが澄ました顔でふぁさっ、と髪の毛をかきあげた。
「????」
彼女の行動が理解できず、頭の上に疑問符を浮かべるアニス。そしてクラレットはそのまま踵を返すと、
「どうですか? わたくしの髪、ちゃんと整ってますか?」
「え……、あ……、うん」
どうやら乱れた髪の毛を整えるために行った動作らしい。
すると案の定、隙だらけのクラレットに向かって、アルミラージが襲ってきた。
『ラリホー!』
物理攻撃かと思いきや、敵はラリホーの呪文を唱えてきた!
「危ない!!」
なんと、クラレットの前に出たロベリアがアルミラージの呪文を喰らい、その場に倒れてしまった。
「ロベリア!!」
ぐー、ぐー。
ロベリアが眠ってしまった今、ここにいるのはアニスと戦力にならないクラレット2人のみ。このままでは全滅する、そうアニスが危機感を覚えたときだった。
「もうっ!! なんでいきなりロベリアさんが寝てるんですかぁっ!!」
突如叫ぶクラレット。そして何処かから取り出してきたハリセンを振りかざすと、すやすやと寝息を立てているロベリアの脳天めがけて思い切り振り下ろした。
バシ――――――ン!!
「なっ……!?」
アニスは唖然とした。いきなり寝ている人の頭を張り倒したことにももちろん驚いたが、ハリセンの一撃を受けたロベリアの目が覚めたことにも驚いた。
「痛ったいな! なんてことしやがんだ!!」
起き上がりざま、クラレットに怒鳴り散らすロベリア。だが、クラレットのおかげでロベリアは目を覚ますことができたのだ。
「すっ、すみません……、てっきりツッコミ待ちなのかと」
「意味がわかんないわ!!」
ぺこぺこと謝るクラレットに、逆にロベリアがツッコミを入れる。いやそれより、どういう状況? アニスはこの一連の流れを全く理解できずにいた。
「とりあえず、あの魔物を倒すよ!」
振り向きざまに、ロベリアの棍棒がアルミラージの顔面にヒットした。あっけにとられていたアニスも我に返ったのか、ロベリアの攻撃のすぐ後に追い打ちをかけるように剣を打ち込む。
数発攻撃を与えたところで、アルミラージは事切れた。
ロベリアも構えていた武器を収め、円周率を数えているクラレットの肩をポンと叩いた。
「あんたのおかげで目が覚めたよ、ありがとな」
「? お役に立てたのなら何よりです」
「……」
役立たずだと思っていたクラレットにも、こんな特技があっただなんて――。
クラレットも少しは戦力になると考えたアニスであったが、次の魔物との戦闘では敵の呪文でもないのに勝手にクラレットが眠ってしまい、危うく全滅しかけた。そのことを踏まえたうえで、アニスはこれ以上仲間の戦力について考えるのは止めようと心に決めたのだった。
くちぶえしか吹けなかった遊び人がツッコミと言う便利な特技を覚えたときに、全然役立たずじゃねえ!と思って考えた話です。実際ゲームでハリセンを持っているかは分かりません。