「金のかんむりを盗賊に奪われてしまったのだ。どうか取り戻してはくれぬか?」
旅の扉を経てロマリアに着いたアニス一行。城に着くやいなや王の間へと通され、挨拶もそこそこに先ほどのセリフを放ったのはロマリア王である。
アニスは正直乗り気ではなかった。なんで会ったばかりの旅人にそんなことを依頼するんだと言う気持ちと、このメンバーで盗賊退治なんて無理に決まってると言う気持ちが大半を占めていたからだ。
とりあえず王との謁見を済ませ、城を出る。そしてそのままアニスは町を出ようとした。
「なあ、アニス。本当に盗賊退治なんかやるのかい?」
ロベリアがアニスに問う。背中越しに振り向くアニスの顔は曇っていた。
「冗談じゃないわよ。こちとら魔王を倒す旅の途中で忙しいっての。そんなんやるんだったらとっとと先に進むわよ」
ロマリア王が聞いたら激怒しそうなセリフであるが、本人は至って真面目に答えている。その言葉に、ロベリアは苦笑しながら頷いた。
「リーダーはあんたなんだから、あんたに従うよ。そんで、次はどこに行くんだい?」
「えーと確か、北の方にカザーブって言う村があって……」
ブツブツ言いながら世界地図を広げながら指でなぞるアニス。その様子を眺めていたロベリアが、ふと何かに気づいた。
「そういえば、クラレットはどこだい?」
キョロキョロとあたりを見渡すが、猫耳バニー姿の遊び人は見当たらない。ここは大通りで、武器屋や道具屋が並んでおり、人もそこそこ賑わっている。もしかしたらどこかではぐれてしまったのだろうか。
「まったくもう! あたしより年上のはずなのに世話が焼ける!!」
呆れながらも、クラレットを探し始めるアニス。けれど大通りのどこを見回しても、あの目立つバニー姿は目に入らなかった。
「ひょっとして、どこか店の中にでも入ったんじゃないかい?」
ロベリアの言葉に一理あると踏んだアニスは、近くにある道具屋へと足を運んだ。
店内に入ると、王都だからか随分と豪奢で広く感じた。客も多く、行き交う人々で賑わっている。
「随分混んでるわね、この店」
店内を眺めながらアニスがつぶやく。後ろをついてくるロベリアもまた、興味津々で周囲を見ている。
「あ、なんだろ、あそこ……」
ロベリアが何かに気づき、立ち止まって指を差す。その声に振り向いたアニスは、ロベリアの視線の先にある階段に目を留めた。
「下り階段? この店地下もあるのかしら」
地下にも部屋がある店なんて珍しい。そう思いながら2人は階段を下りた。すると、地下に下りるにつれ、徐々に人々の喧騒が聞こえてきた。やたらと響く人の声、時折聞こえる打撃音。これではまるでどこかの闘技場に向かっているような――。
「!?」
果たして、予想は当たっていた。階段を降りた先には店の地下とは思えないほど広い空間になっていた。奥の部屋は観客席に囲まれた舞台のようになっていて、その中央には複数の魔物が戦っていた。
「な、なにあれ!?」
「あれはバトルロードって言って、モンスター同士を戦わせて競う娯楽の一つさ。魔物の中にも人間に対して敵意を示さない個体がいてね、そういう子を育てて強くして、他の魔物と戦わせるんだ」
「へええ、魔物って、人間と戦うだけじゃないのね」
ロベリアの説明に、アニスが素直に感心する。
「ねえ、そういえばあなた、魔物使いよね? ひょっとしてそういう子を育てるのも本業なの?」
「そういう人もいるよ。そもそも魔物使いは魔物と心を通わせることが得意だからね。あたいも昔は色んな魔物を育てて強くしたもんさ」
得意げに話すロベリアを、アニスは尊敬の眼差しで見ていた。そして、ふとあることを思いつく。
「ねえ、それじゃああたしも魔物を育てること
ってできるかしら?」
しかし、アニスの提案にロベリアは首を横に振る。
「いや、アニスは素人だから、魔物を育てる専門の人に頼んだほうがいいよ。ほら、あそこのテーブルに座ってるじいさんがいるだろ? あの人に頼むといい」
ロベリアが指さした方向には、奥のテーブルに座っている一人の老人の姿があった。アニスは早速その老人の元へと向かった。
「あの、すみません。ちょっといいですか?」
老人は突然話しかけられても動じることなく、むしろこの状況に慣れているのかすぐにアニスに向き直った。
「君も、魔物を育てたいのかね? 名前は?」
「あ、あたしはアニスっていいます。あの、あたしも魔物を育てたいと思って……」
「ならばまずは魔物と心を通わせるのじゃ。見たところ旅の戦士のようじゃが、人間と仲良くなりたい魔物はこの世界に数多くいる。各地を回り、心を通わせることのできる魔物に出会ったら、わしの元へと連れて行くのじゃ」
「わかったわ! 魔物と仲良くなったらあなたのところに連れていけばいいのね!」
すぐに理解したアニスは、その後老人……モンスターじいさんと約束を交わすと、店を出ていこうとした。
「よしっ、早速魔物と心を通わせるわよ!」
「ちょっとアニス、クラレットは?」
はたと気づきあたりを見回すが、猫耳バニーの姿はいなかった。
「もしかしたら観客席のほうかもしれないね。行ってみよう」
ロベリアの言う通り、クラレットは観客席の一番前の席に座っていた。片手に出場モンスターの配当表、片手にポップコーンを手にしながら、熱く魔物に声援を送っていた。それは普段見せる冷静な彼女の姿とは正反対で、意外な一面を見せられたような気がした。
「クラレット! こんなところでのんびり観戦なんかしてないで、さっさと魔物と心を通わせに行くわよ!」
「え!? アニスさん!? 急に何の話です!? あっ、一番人気のモンスターがぁ!! あの子に全額賭けてたのに!!」
最後にサラッと怖いセリフを吐いたような気がしたが、アニスは無視してクラレットの首根っこを掴むと、ずるずると引きずりながら観客席をあとにした。
そしてバトルロードの会場から出ると、すぐさまアニスたちは街を出た。
「一応言っとくけどアニス、ロマリア王の話って……」
「ん? なんか言った?」
「……いや、なんでもないよ」
ロベリアは察した。今この勇者に何を言っても無駄だと。こちらとしても魔物と仲良くなりたがってる勇者を止めるのは、魔物使いとして気が引ける。なのでロベリアは何も言わず、勇者についていくことを決めた。
「やったわ!! これで10匹目よ!」
その後、アニスは持ち前の強引さと負けず嫌いで(今はセクシーギャルだが)、次々と魔物を仲間にしていった。そしていつの間にかロマリア大陸を縦断しており、気がつけばエルフの隠れ里まで来ていたのだった。
もちろんそこでもアニスは魔物を仲間にした。周囲のエルフたちからは白い目で見られたり、あからさまに嫌悪感を剥き出しにされたりしたが、魔物使いの才能の片鱗を見せたアニスの前では些末なことだった。
その勢いでアニスはエルフの里の近くの洞窟まで行き、魔物を探しているうちにエルフの里の宝である夢見るルビーも手に入れた。
なんだかよくわからないのでエルフの里まで戻ってエルフの女王に渡したら、目覚めの粉というアイテムを引き換えにもらった。
女王がそれを使ってノアニールの村の呪いを解くことができると教えてくれたので使ったら、棒立ちで寝ていた村人が一斉に目覚めた。
「ありがとう! この村の呪いを解いてくれて!!」
なんだかわからないが、一つの村を救ったらしい。アニスは笑顔で適当に返した。
「いや、大分端折り過ぎじゃないかい!?」
この一連の流れを黙って見ていたロベリアが、とうとう声を上げた。
「なんだかよくわからないですが、さすが勇者ですね、アニスさん」
「まあね。あたしにもなんだかよくわからないけど、達成感はあるわ」
「いや、どういうノリでついて行けばいいのさ、これ!!」
クラレットとアニスの会話を聞きながら、ロベリアは激昂したのだった。
モンスターじいさんの話とか、よく覚えてないので適当です。